五井蘭洲﹃萬葉集詰﹄上
五
井蘭洲﹃萬葉集詰﹄上︵翻刻︶
北 谷 幸 冊
︻ 解 説︼ ﹃ 萬葉集詰﹄は、江戸時代中期の儒学者五井蘭洲の著になる、萬葉集の難解な語句の注釈書である。 著者蘭洲は、一六九七年︵元禄一〇︶に大阪で生まれている。父親五井持軒︵一六四一∼↓七一=︶は、伊藤仁斎・貝 原 益 軒 らと親交のあった儒学者であった。蘭洲は名を純禎といい、例庵・梅鳩とも号した。懐徳堂の助教授︵後に教 一 授︶として儒学.和学を講じ、﹃源語提要﹄.﹃古今通﹄.﹃新題和歌﹄・﹃勢語通:文章廻瀾﹄等多数の著書がある。 ↓ 一 七 六 二 年 ︵宝 暦一二︶三月十七日、六十六歳で没している。 ﹃ 萬葉集詰﹄の成立は、一七五二年︵宝暦二︶、蘭洲五十六歳の時であった。﹃国書総目録﹄︵岩波書店︶が六巻三冊本 の 所 在 を伝えるほか、四冊四巻本︵﹃国書解題﹄︶・五冊本︵﹁萬葉集研究書目解題﹂︹佐佐木信綱﹃萬葉集選繹﹄付録︺︶・三冊 本︵佐佐木﹃萬葉集事典﹄︶ともあって、朋数・巻数に相違がみられる。伝本稀で、前記﹃国書総目録﹄によれば、東京 国立博物館と無窮会神習文庫所蔵の二本があるばかりである。 本稿が底本とした写本は、故吉永登博士旧蔵の三朋本で、更に旧蔵者を示す﹁香雲亭蔵﹂の印記がある。それぞれ 縦約二一糎・横約一四糎、和装袋綴で、丁数及び分類は、次の通りである。第一朋萬葉集詰上 全五七丁
凡 例 天文時候一 地理宮室二 鬼神人倫支豊三 第二冊 萬葉集詰 中 全四四丁
草 木 穀 菜四 鳥獣轟魚五 服食器財六 第三冊 萬葉集詰 下 全六二丁
態 藝事為七 虚詞助群八 翻 刻にあたって、今回は上巻を採りあげ、順次中巻・下巻を対象とする。便宜上句読点を付し、漢字は一部新字体 に 改 めた。全頁凡そ十一行に統一されているが、二段組とした紙面の都合上数行にわたった箇所がある。頁数は、﹁丁﹂ で 表 記 す ることとした。 なお、﹃萬葉集詰﹄について、拙稿に﹁﹃萬葉集詰﹄についてーその方法論考察1﹂三千里山文学論集﹄第29号・昭和58 年 12月︶がある。 一 59
吉永本﹃萬葉集詰﹄︵三冊︶は、現在園田学園女子大学図書館吉永文庫に所蔵されている。今回の翻刻に際して再見 一 の機会を得たことを付記し、感謝申しあげます。 五井蘭洲﹃萬葉集詰﹄上
五井蘭洲﹃萬葉集詰﹄上 詩、文章のあるはこの集の主とすることにあらされは
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翻刻︼ 必しもよむにたらす。詩は格法のあれは夫に随はれし 故 さのみあしからす。文章にいたりていつれもつたな 萬葉集詰 一 二 三 し。末にいたりては在・有の二字をとりちかへたるほ ︵ 内扉題︶ とのことなり。入道殿讃書給ふとあるは鯨りにつたな 凡 例 けれは、後人の加筆ともいふへし。 万 葉集の寄、撰者のきくま﹀に記されける故、皆く かんなといへるはからな也。からなは漢字の事也。字 よき寄といふにはあらす。拙きもありぬへし。文字に の音をとりて吾国の言にあてはめたるを正議とす。あ 隠語のことくに用ひたることはにいたりてはとり用る きかせのことし。字の訓をとりて吾国の言に引あはせ にあらす。其昔いまのことくにかなといふものきはま るは 60 らぬときは書記すこと皆漢文を用ゆ。よりて人に文字 ︵一ウ︶ ﹁ しらせんとて、其ころつ﹀といふに喚鶏、あきかせに 変体なり。 金 風 なとをあて用ひて、もろこしの急就篇のこ﹀うに 後世の寄より見れは、てにはのちかひたる寄あまたな かきなせり。其中にいたりてわけのしりかたき有。こ り。ちかひたるにあらす。元来いにしへに今のことき れ も其ころの人はさたまりたること故、よみもし、義 のてにはといふ事のなきゆへなり。其中には拙て上下 もとれりと見ゆ。わさくとつくり出て書るにあらす。 呼応のもとれるもありぬへし。旋頭寄の讃法は、五七 ︵ ↓オ︶ 七五七七なり。長歌にいたりて一首中に長短の句法あ 後 世かな遣ひといふ事昔はなし。よりて万葉集には り。例をおして見るへし。 た、くちにいふことくかけり。 いま、此躰をつくるとても諸国の寄のことはの珍らし
き、又助字なとは用ひましきことなり。 ︵三オ︶ ︵ ニ オ︶ 波 はやみはま風 早き濱かせなり。 マヱ 五 井蘭州先生纂述 はたれ 李花のちるを雪と見て、はたれの残りたる
目次
か と詠り。はたれとはかりにても雪になるなり。天 文 時 候一 地理宮室.一 鬼神人倫支膿.、一 仁 にはよくあらし にはもしつけし、にはきよみとも
草木穀菜四 鳥獣轟魚五 服食器財六 つx︿。には﹀海上の天気なり。をしなへては
態藝事爲七 虚詞助群八 百七十枚 いはれす。 ︵ニ
ウ︶ 保ほのめかし朝霧のおほろなるをいへり。
天 文 時候 ほろ 天雲をほろにふみあたしなる神とあり。見安 以 いまち月 あかしとつ︾けたり。十八夜の月なり。 云ほろくとふみわたしと云心也。愚案、雷神 61い や ひ に けに いよく日にまさりてなり。 の雲をふみちらす心なり。ほろははら也。神代 一 い かほかせ いかほはかみつけの国也。いかほより 紀に淡雪のことくけはらxかしと有心ならん。 吹風をいふ。 あたしもあらすなり。極ておそるへき様をいふ いまのをに 年の緒又をつ﹀の説あり。愚案には今 なり。 の世になり。をつxは現なり。 ︵三ウ︶ いあかす 居て夜のあくるなり。 止 とけしも 霜のとけたるなり。 いゆきはxかり いは発語なり。は﹀かりてゆかぬ ときしけめやも 時をわかぬ心なり。いつといふ事 なり。山高きゆへ雲のか﹀らぬをかくよめり。 なく也。 いなのめ しの﹀めなり。あかつきをいへり。 と 時の略なり。恋しなぬとにと有。又一説とは内 五井蘭洲﹃萬葉集詰﹄上
五 井蘭洲﹃萬葉集詰﹄上 なりと。しなぬ内になり。 をとつ日もきのふもけふも 一昨日昨日今日也。 とよはた雲 わたつみの豊旗雲と有。海上に旗のこ をつx 今のをつxと有。今みる現在の体なり。
とくなるくもなり。
加 か せ をときしみ吹へき時の風なり。 とのくもる夜 たなくもるなり。たなは上をいふ。 か︾みなす 望月をいふことはなり。なすは如くな としのは 毎年也。宗舐云、年の初とみるときもあ り。 りと。 かせをいたみ 疾の字也。はやきといふ心。 としきはる 世とつxけたり。 ︵四ウ︶ とよとし 豊年なり。 かせをたに ごふるとも、まつともつx<。皆人のときしみ 時となき也。又時しくとも有。不断の事 便風なり。 一 也。 かせませり 雪はふりつxとも、風交りとも。 62
︵四 オ︶ かせはふる 浪とつx<。風にてひるかへすなり。 一 ときしくそ ときしくに。平常也。いつもと云心也。 かせまもり 海上にて風をまち合すなり。 ともしつま 七夕の織女をいふ。あふ事のともしけ かけろふ かけろふの只人目見しと有。遊糸はちら れ は也。 くみゆる故也。人をちらりと見しに用。 知 ちよとことは 千とせをも常にかはらぬなり。 かはたれ時 暁也。彼は誰そとわかぬときなり。 奴 ぬ
は玉の月 かへるまの帰る時の間といふなり。
遠 をととしのさきつとし 契説をちとしのこ﹀うな 與 よこもり 夜をこめてのこ﹀ろ。 り。竹取にもさをと﹀しと云。 ようへの雨 久方のようへとつ﹀く。ようへは昨夜 をち 明日といふかことし。 也。よはこもるらん 夜をこめてのこ﹀うなり。 と。季云虚木綿と書はうつゆふとよみて内木綿
よこきる雲 青山のよこきるとつx<。 とす。又し、そ通す。やはりしらゆふともいへ ︵五オ︶ り。
よこかせ 横風なり。 そくえのきはみ 雨雲のぞくえとつx<。見安云雲
よなかのかた 夜半なり。 のはたて也。季云きはみは極りなり。雲の底天
よのほとろ 夜中也。ろは助字。東方の方言。 地の有かきりと也。愚案天雲なり。そくえは傍
よならへて 連夜なり。 のこxろ也。天の四方にある雲のはてなり。雨 よるはすから 通宵也。よもすからなり。 雲にはあらす。
よくたちて夜のふくる也。半夜より後は降ると云 津 つきよみ 光とつ﹀<。只月をいふ。月は日のうち 一
へ し。 にもみゆれとも、先は夜みる月の心か。昔の神 63
よあかし舟は漕ゆかなと了く・夜明しの事也・ 人に月讃尊あり・ 一
たなきりあひ 雪のふるけしきなり。 月に日にけに 毎月毎日なり。 たまのを長き春日 月ひさに 月日のおほきなり。たまきはる日物の限りある事也。日も一日くと ︵六オ︶
かきるゆへにつ﹀けたり。又いく世へにけんと つゆはら 露の多き所なり。も有。 つかのま かるかやのつかのまとつxく。是は束ね 曽 そらみつやまと たる間の短きなり。又、小鹿の角のつかのまと ︵五ウ︶ も。小鹿の角はみちかく手に握るほとのなかさ そらゆふ 見安云遊練の事也。かくるといふ縁語也 なれはなり。 五井蘭洲﹁萬葉集詰﹄上
五井蘭洲﹃萬葉集詰﹄上 奈 なつかけ 夏の比の日陰をいふ。 うらさふる心 こ﹀ろの淋しき也。 なつまけて さきたるはねすとつ﹀︿。夏を待受て うらく うら﹀かなり。春日遅なり。 也。 のし たつのしと有。虹也。今も東国の人或は なつのさかり 盛夏なり。 ︵七オ︶ なくる日 和暖の日なり。 虹をのしといふ。 うつせみ 世の枕詞也。しかるを直に世のことに用。 雲かくれ なき行鳥とつ﹀<。雁の雲にかくれみえ 現 在をいふなり。又かりの身とも、をしき此世 ぬなり。大和路は雲かくれたりとも有。雲にて ともつ﹀けたり。又うつせみしかみにたへねは みえぬなり。尚態藝部に委しく記す。 とも有。 くらやみ 暗夜なり。 ︵ 六
ウ︶ 久雲ほこりて雲のはひこるなり。
64 うち日さす 都とつ﹀く。宮殿は高き故内へ日のさ 雲のなみ 雲を浪に見たてたるなり。 一 す也。 末 まきかくし あられたはしりまきかくしと有。 うちきらし きらしはくもるなり。 まなかひ 永き日なり。まは真なり。 うの花くたし 春されはうの花くたしとつxく。卯 計 けさのあさけ 朝のかさね詞なり。 の 花 をくさらす雨なり。卯花は三月にも咲へし。 けさのころく けは今日なり。けふの略といへり。 うの花をくたすなかめともあり。是は五月雨也。 ︵七ウ︶ 八 雲 御 抄には春三月頃の雨の名とす。 今日の心といふなり。 うは玉のひましらみ うは玉とのみにて夜の事な 不 ふゆこなり春さりくれは 季云冬木の姿なからはる り。うは玉のねてのゆふへとも。 来れはなり。契云冬木の実して春になり芽いつるなり。愚案冬木成と書、成は戌の誤り也。戌 あら玉の年ふる はまもるなり。もりと讃只冬ごもりなり。 あけくれ 暁のまたくらきなり。 ふりなつむ 露霜とつ﹀<。ふりと㌔まりつもる也。 ︵八ウ︶ 己 このくれ 木の下やみといふに同し。 あさなき 朝の天気のしつかなるなり。 こさめ 小雨なり。 あまさはり 雨にさへられて人の往来のなきなり。 このころ 比日と書り。日のつxきならふ也。比の あまつxみ 雨にこもり居るなり。 字をころとよむにあらす。 あからひく 日もくれとつ﹀く。 安 あたら世新に宜しき世なり。新天子即位の年の所 あら玉の月月のあらたまる也。又満月を玉に見な ︵八オ︶ していふか。 に かくいへり。 あさに日に 毎朝毎日也。 65 あすか風 大和の飛鳥より吹風也。 あさつく日 たx朝日也。つくは助字也。夕附日も 一 あさつく夜 同し。朝附夜は朝まて月のあるなり。 あをくも 青雲なり。 あきつけは 秋来れは也。 あかねさす てれる月夜とも、ひるともつx︿。日 あちさはふ 夜とも昼ともつ﹀く。 色 也。 ︵九オ︶ あさくもり朝に日の曇なり。 雨はり雨の晴也。季云、た・空のはる・なり。 あさにけに 朝毎也。季云朝夕なり。 あまxあけて 長雨のはれたる也。 あさxれは あら玉の年 あさなさな あさなくの略なり。 あか月やみ 夕月夜とつxく。ゆふ月夜はかならす 五井蘭洲﹁萬葉集詰一上
五井蘭洲﹁萬葉集詰﹂上 あかつきやみなり。 しは踏渡也。契云古今集に天原ふみとxうかし あし引の山風 ︵一〇オ︶ あさ東風 なる神といふ類也。又天雲の鯨所にみしなと有。 あまのしら雲 天にたな引白雲也。 季云よそといはん枕詞にて雲といふ也。 あめの火 天火なり。 あは雪 しはすにはあは雪ふると。 あたらしき年の初 あま﹀あけて 見安云雨の晴たる間といへり。 あまそxり そxりは通り也。立山の高くて天にと あましるし 銀河をいふ。天にありて定れるしるし をり といふごxろ也。 ︵九ウ︶ あまつゆしも 久方のあまつゆ霜と有。 つ ㌔くこ﹀ろ。 あけされは はなのさえたに夕されは藤のしけみと 66 あゆのかせ 東風なり。越中の方言。 有。夜あくれはなり。 一 あさxらす 毎朝なり。 左 さよなか 夜半なり。さは発語。 あさかれす 同右。 さよふけぬとに さは発語也。とには契云時に也。 あま﹀もおかす 雨の一日もやまぬなり。 ︵一〇ウ︶ あもり つく天のかく山と有。天降と書。季云そ﹀ 又東国の方言に内と云をいと﹀云。しからはい りあへるといふことし。仙云あまくたりつくと を略して夜のふけぬとにと云か。只内にのこ﹀ 云 詞 也 と。しからは高き山ゆへ天もくたりて山 ろ也。 に つ xくといふごxうならん。 さxらへ男 月の異名也。 あま雲のほろにふみあらし ほろは原也。ふみあら さ﹀ら野
起 きれる 春日のきれると有。霞也。又、きりあふ朝 ︵=ウ︶ 霞と有。但此霞は秋の寄に用たり。 是尊の和訓は唐の成文あるよりはしめてつくり きその夜 君そきその夜と有。仙云きのふの夜と云。 たる訓なり。みつは古はみことなる事也。祥瑞 きのこのくれ 木の下やみに同し。 にみつとはいはす。 きえ行とし あら玉の消行年と有。契云古事記にあ みぬ日さまねみ あふ日の久しくなき也。あはぬ日 ら玉の月は消行と有。月日のすくるを霜雪の消 の久しきなり。 るにくらへていへるなり。 しくれ 久方の天の時雨又長月の時雨又しくれのあ ︵ =オ︶ めともつ﹀く。
由夕されは 霜くもり霜ふりて空くもる也。
夕つくひ た﹀ゆふ日なり。 しの﹀め朝のいまたくらきなり。 67
夕つくよ よひ月夜なり。 しはす 十二月なり。 一 夕こり霜とつ﹀く。夕に霜のこりたる也。 ひのたてひのぬき 日本紀にみえたり。たては東西 雪しもの 只雪也。しものは助字也。 ぬきは ゆふさらす 毎夕なり。 ︵一ニオ︶ 雪のなかれ 雪のふるをいふ。 南北なり。ゆなく 夜なくなり。又ゆくくなり。 ひさかた
みそら行 天を行雲なと也。 ひんかしの 五文字に用ゆ。東なり。 み か月の まゆねかきと有。新月を眉にたとふ。 ひかた 吹らしと有。未申の風をいふと也。八雲の み つ 昔よりなかりしみつと有。祥瑞をいふなり。 説なり。一説たつみとも。 五井蘭洲﹃萬葉集詰﹄上五井蘭洲﹃萬葉集詰﹄上 ひなへ 比日と書。日ならへてとも。毎日なり。 いはやと 石室の門なり。 ひさかたの月 いさよふ浪 た﹀よふなり。 ︵ 一 ニウ︶ いしはし 川中に石をならへてふみわたるを云。よ 地理宮室 りてまちかきとつ﹀けたり。必しも石にてつく 以 いなみくにはら 播磨印南也。郡をくにとも云。 れる橋のみにあらす。 いその国より 不知の国と書。契云、只しらぬ国よ いうつく山 朝に日にいうつく山と有。紅葉のある りとよむへし。仙云磯のくになり。大和磯上郡 やまなり。季云朝日にか﹀やくといへり。 也。これをくにともいふ。 ︵一三ウ︶ いくり 石のことなり。 いかとく門々なり。いは発語也。 い つきの宮 わたらひのいつきの宮とも。 いとかはなみ ちいさき浪なり。 68 いはかきふち 岩のぞひえて垣のことくなるにかく いをしろを田 五百代御田なり。しろは二畝にあた 一 れたる渕なり。かけろふの岩垣渕、又たまきは る。 る岩かきふちとも有。きはるは限るなり。垣に いるふち いるは柄の字。 縁ある語か。又岩かき沼ともあり。 いつる湯 温泉也。あしからのといのか渕にいつる ︵ 二ニオ︶ ゆと有。 い つ へ の か た いつれの方なり。 いはき 石城と書。墓なり。 いなか なにはいなかといはれけめと有。 いたふきの黒木のやね いはとたて 岩戸立也。季云、石廣をたつる也。 いもかり 婦人の家なり。 いはひへ ものいみの家也。斎忌戸とも有。 いそまくら 石枕なり。
いた﹀のはし 板はかり渡したる橋也。をはり田に はまひ 濱邊なり。 詠。 はたけ まきしはたけと有。陸田也。 い にしゑ うつら鳴人のいにしゑと有。こxは人の はつお花いほりにふき ︵ 一 四オ︶ にはたつみ にはかにたまる泉也。 すまぬ家をいふ。人のいにさりし家といふ心か。 仁 にほへる山 朝日影匂へる山と有。 い てたちし 清き渚とつ﹀<。山川の形勢なり。 には 橘の下てるにはと有。橘の実の赤くて照る庭 いそもと 海の磯の岩の根もと也。いそもとゆすり 也。 たつなみとあり。 にゐむろ 新室也。 いもらかり 妹等がもとなり。 にゐはり いまつくる道とつx<。あらたに掘ると 一 い つくしき国 たふとむ所なり。こと玉のさきはふ いふ心。 69
国といふも神霊の国なり。 ︵一五オ︶ 一 いはとかしは 吉野川いはとかしはとつ﹀く。 ほた 秋の田のほたと有。穂のたれる田なり。 いはかまへつくれる墳 石にてつきあけたる墓な ほろ 原をいふ。 り。これを石城ともいふ。 ほしの林 いたま 風ふきとつ﹀く。板の間より吹かせ也。 反 へのかた ほとりの方也。いつへの方とも有。いつ ︵ 一 四ウ︶ は何時也。又へつかたとも、へつへとも、あふ 波 はにふ すみ吉の岸のはにふと有。黄土也。又はね みの海へたとも、へとはかりも用ゆ。いつれも ともいふ。ふは助字なり。 ほとりの心也。 はまもせ 濱の表背也。庭もせの類也。 登 とよあしはらみつほの国 五井蘭洲﹃萬葉集詰﹄上
五井蘭洲﹃萬葉集詰﹄上 とこつみかと 美の部に出す。 白く見ゆるなり。 とをのみかと とをは遠也。みかとは公館也。宰府をか とつ宮ところ 常にしてかはらぬ宮なり。 くよめりとみゆ。契云、伊勢物語にわか帝六十鯨国 とこよのくに 季云、八雲に是より北の世界な といへるみかとは吾朝といふ心なり。公館も朝とい り、とこよは只仙家をもいふへしといへり。 ふ へ し。 わきも子はとこよの国に住けらし昔みしよりわ ︵一五ウ︶ かえましけり 又 ひなの都といふも是也。新羅をもかくよめる所有。 とのと 屋外なり。こ・は池主か家持を貴ひて屋外 これは日本府あるゆへなり。大君のとをのみかとと につかへしこ﹀うなり。 も。 千 ちりひち かすにもあらぬ吾とつ﹀く。ひちは土な とよくに 豊前也。愚案に豊国は九州の惣名ならん。神 り。 70
代のとよくむぬの尊は豊国主尊也。其ときは九州の 乎 をしくに しめの﹀にと有。をす国とも。公領の国 一 君 に てましくけるなり。 なり。 とこいは たきのとこいはつねなると有。 おほみかと 朝廷なり。みかとは御門なり。 とかけ 山のとかけと有。常の陰なる所也。 おき 海にても河にてもとをき所をいふ。吉野の川 とこなめ 川のとこなめと有。水底の垢泥也。仙云、常 のをきとあり。 になめらかなるいはほなり。 ︵一六ウ︶ とまて 田のかり盧に苫にてかこふたる也と契云。 をあらき 又おほあらきとも。大和也。荒廃するこx とをしろし 川とを白しと有。河の遠く大にして水色 うに云なせり。愚案におはるいきと云略語也。 ︵一六オ︶ 人の死ぬることなり。
お してるやなには 難波の枕詞也。おしてるなには おきつかひへつかひ とも。おすは臨の字を用ゆ。なにはの都は高き おほとの 大殿なり。 より西海を臨んて照らすなり。 ︵一七ウ︶ お ほなは 大海なり。 おきまけて 沖かけて也。おきまえてとも有。懸て お ほ み や さす竹の大宮と有。さすはさ﹀竹也。 なり。 お む か ひ 峯のむかひなり。 おきつき 墓也。息のつきたる人をうつむ故といふ。 お ちたきちたる 瀬を早みおちたきちたると有。た 又おきは幽遼の義。づは助字。きは城にて玄堂 きちたるはたきりたるなり。 なといふ心か。契沖はおくつきといふて解なし。 ︵一七オ︶ 又奥城と書り。凡きとは石をもてきつきたるを お かさきのおみたるみち いふか。墓をいはきともおあらきともいふ。き 71 おほつち 大地のことなり。 の字皆同通なり。又、人の死するをいはかくれ 一 お しへ するかの海おしへとつ﹀<。 ますといへり。おあらきは人の終ておるところ お てもこのも あしからのおてもこのもと有。あな なり。終る息との両説を存すへし。 たもこなたもなり。をちの面こ﹀の面といふ也。 和 わたなか 渡の中間なり。 お もxこのも あなたこなた也。東国の方言也。 わたつみのおきつ お か ひ 岡辺なり。 ︵一八オ︶ お してる宮 なにはの海おしてる宮と有。此句によ わたりの山 れ は古人のおしてる説は非なり。臨照の説ます わきへ 吾家なり。 く謹とすへし。 わかり 吾ところなり。 五井蘭洲﹁萬葉集詰﹂上
五井蘭洲﹁萬葉集詰﹂上 わしり出のつxみ 家よりわしり出ると直にある堤 かはと 河門也。川の入口なり。 也。 かはのつかさ 川上なとを云。山のつかさ野つかさ わたらひのいつきの宮 季云度会は伊勢内外宮のお とも有。 はします郡の名。 かはなみ 川のつ﹀けるなり。 加 か けとも影の面なり。日本紀山陽日影面南なり。 かりところ也。妹所をいもかりとよめり。 か けとものおほきみかと。 ︵一九オ︶ か しこきやま 岩た﹀みかしこき山と有。さかしき かりはか 秋の田の吾かりはかのと有。契云、稲を 山也。かしこきは恐るへきこ﹀うなり。 苅場といふ事かと。 かくれの山 沖津藻のかくれの山と有。藻は沼にか かひや 鹿を追ふ番小屋也。火をたきけふりを立る くるx 也。又山田守男のおくかひとも。 72
二 八ウ︶ かきつ田 かみなひの清きみたやのかきつたと有。 一
日
ゆ へ なり。但名所ならんか。又かくれすむへき かた 潟也。斥也。かたにあさりしと有。 山なり。 かきつの谷 垣内の谷なり。ちかき谷をいふ。 か りみや 行宮なり。 かきほなす 人言又人のよこ言ともつx<。垣は両 かくれぬ かくれてみえぬ沼なり。 家を隔るなり。両人の間をへたつる言なり。 か はよと 水のよとむ所なり。 かたきみかと 出入のかたき禁門なり。 か はとをしろし山しみかをし 山川のうるはしきな かはすみ 厨のこと也と契云。 り。尚とを白しの所にも出。 ︵一九ウ︶ か み の み か と かみは上也。君也。君の朝をいふ。 かきこし 垣越なり。かきをへたて﹀なり。よし野﹀くに 地壌の字を皆くにとよめり。今いふ むけ山と詠り。逢坂山にも詠り。山上をたうけ 国にはあらすたx土地といふご﹀ろ。 といふもたむけといふごxうかといへり。たむ
与よみち夜道を行なり。いはねふみ夜みちゆかしと
け山といふ一名にはあらす。 有。又、四達の道をいへるも有。 たゆたふ浪 たxよふ浪なり。 よみ とをつみちよみのさかひと有。冥途也。よみ たるみ 岩そ﹀くたるみと有。石にふれてなかれ下 とはかりもいふ。よみは闇にてやみ也。 る水也。契云、津の国豊島郡にありと。 よきみち よけるみち也。人の来往する時にわきへ ︵二〇ウ︶ さくる道なり。 たふせ 田盧也。田をもるふせ屋也。 よすかの山 身をかくすへき山なり。 たい 田い也。水のある田なり。しつくの田ゐとつ﹀ しかの山いたくなきりそあらおらかよすかの山 く。地名なり。あかこまのはらはふ田ゐとも。 73 とみつx忍はん 深泥ゆへこまもはらはふと也。かならす井には 一 ︵二〇オ︶ あらす。 荒雄か死して其妻の悲しひ詠る寄なれはこ﹀の た﹀ち 直にゆくみちなり。 よすかはかたみの心によみたり。しかれとも死 たかみくら 天子黄握の坐なり。 したる人の身をかくしよする所といふ心はおな た﹀か いもかた﹀かと有。季云寝床をいへり。 し。 たみたるみち まかりたる道也。此字多未足道と有。 太 たにくx 谷水也。契沖は伝せす。又明に弁せす。 季云俊頼抄にをxみあしちとよみておほく足は たむけの山 契云、旅行の初て山をこゆるに山神に ごふ道といへりと也。しかれとも仙云まかり道 たむけの祭りをす。山にもかきらす。奈良のた なりといへり。かたよからん人の声のなまるを 五井蘭洲﹃萬葉集詰﹄上五 井蘭洲﹁萬葉集詰﹂上 たむといふもおなし。平声 を黄に染たる貴人の家なり。 ︵二一オ︶ そき 山のぞき野のぞきともつx<。仙云そきは間 に い ふ へきを去声にいへは声はまかりくねるな 也。山野の間なり。 り。 つ つちさへさけて 六月のつちさへさけてと有。 たくつの﹀しらき 契云たくふすましらきとも有。 つゆはら 露のおほきなり。 たくは白きなり。新羅をいはんとての枕詞也。 つくるみち にゐはりの今つくる道とつ﹀<。 愚案に、たくつの﹀とは、つは助字、のは布、 つかさ 山のつかさ野のつかさともつ﹀<。季云、 白き布といふ事か。季云、しらきのまくら詞也。 つかさはきはといふ心とも又つ﹀きともいふ心 白き角なりと。 なり。 た なはし 橋柱なきあやしき橋也。ひとつたなはし つま屋 枕つくつま屋とつ︾<。まくらにをきつま 74
とも有。 ある屋也。又枕つくは枕つらなる也。夫婦いね 一 曽 そとも 日本紀山陰日背面と。北なり。 たる体なり。ゆへに
そまかたの林林の茂くして杣山のこときをいへ ︵二ニオ︶
り。 つまやと云。仙云枕なれたる也。妻といはんた そとものくに 畿外のくになり。 めといへり。又わきも子とさねしつま屋と有。 そかひ 山のぞかひ。背面と書。契云うしろむきに 見安云妾を置所也と。季云妻のありし時ねしと みゆるなりと又さきたけのぞかひともつ﹀く。 ころ也。今按するにつまとははしをいふか。正 ︵二↓ウ︶ 寝にはあらてへやといふことし。仙説はつまを そめやかた 染屋形なり。黄染のやかたとも有。家 置たる家也。まくらつくつま屋の内にとくらゆひすへてそ吾 むまや 赤駒のむま屋。 か ふ 真白ふの鷹 宇 うかはたて 鵜をはなつ所をまうくる也。 これによれは妻を置へき所に鷹をかふへきにあ うちのみやこ 行宮也。こは助字也。古は上下通用 らす。仙説杜撰也。いつれにもへ屋といふを叶 す。 へ りとす。 うちはし かりに渡せる橋也。 なにはいなか ︵二三オ︶ 昔こそなにはいなかといはれけめ今は都とそな うみつ路海路也。つは助字。 はりにけり うちまうさき 契云、うちはのくまとよむへし。大 なはしろ水の中よと 苗代は水をなかさぬによりて 和高市也。 中は うらくはし 浦のうるはしき景也。 75
︵ 二 ニ ウ︶ うつしほ うちよする潮也。季云、うつ巻潮也と、 一 よとむなり。 此説可なり。鳴門の寄なり。 なかのへ 宮中の外内をへたつる所也。 うの花山 卯花のさける山なり。 なこり なにはかた塩干のなこりとつxく。あとに うすらひ さほ川に氷りわたれるうすらひと有。 の こりてうつ浪なり。 うちの限り たまきはるうちの限りと有。 武 むかふす国 天雲のむかふす国と有。雲のたる・心 うちさらし 濱邊をうちさらしとも、すみのえの岸 に て遠国を云。 のまつかねうちさらしともあり。浪のよりうつ むかつを 向岡と書り。 なり。 むろう ひのもとのむろふのけも、と有。 うなひ 海邊なり。 五井蘭洲﹃萬葉集詰﹄上
五井蘭洲﹁萬葉集詰﹂上 ︵二一ニウ︶ くらたに 暗谷なり。 うらみ 磯のうらみと有。うらみはうらわと同し。 くぬち 国内也。青丹よしくぬちとつx<。くぬち うつ田 季云、うつはほむる詞也。良田也。 は奈良の内の小名ならん。又越の海くぬちこと
乃のほりせ上の瀬なり。 くとあり。季云、国土といふ事といへり。
野 行 山ゆき 足引の野行山行と有。野とつ﹀きたり。 くゆる 川岸なとの崩るx也。これをこ﹀ろのくゆ 野つかさ つは助字也。野の上也。野の高平なるを るにかけたり。 いふか。季云、つかさはつ﹀くこ﹀ろ也と。 ︵二四ウ︶ 久 くたり瀬 しもつせといふへし。下の瀬也。 くにのまほら 国のもなか也。此寄の心はいつくへ くにの都恭仁と書。聖武帝のみやこ也。山城相良 行ても王土也。王土にすむからはわかま・に俗 郡 也。 を離る﹀事なるましき也。又、国のまほらは山 76くにの鎮 其国の大山を国中のおさへしつめ鎮守と をしもさはにを﹀みと有。季云、まほらは見安 一 す。ホ雅にもとつきていへり。 云国の守り也。山は国の守りなれはなりといふ。 くにのおくか 也 やすみし﹀ し﹀は知り治むる也。又、しるともい ︵二四オ︶ へり。 雲のなみ 雲を浪にみたてたる也。 やまさゐいます くにのはたて さきたる桜と有。見安云、国のはて やちまた 八達の街也。たち花の陰ふむ道のやちま まてといふ也と、又季云国のひろきなり。 たとあり。 ︿﹀里の宮 たかきたのく﹀里の宮。日本紀泳宮と やそくま 道のやそくまと有。曲折おほきみちなり。 かく景行帝の行宮也。 やまとしま あかしのとよりやまと嶋みゆとあり。
これは やまきえなりて 山のへたてさるなり。 ︵ 二 五オ︶ やそ代 世のおほき也。八世也。 河 内津国をもかねて云。又やまと路の嶋のうら やつを 八峯也。峯のおほきなり。 わ ともあり。津国の海邊を広くさす。 やまひこのあひとよむ やそうち河 ものxふのやそうち川と有。もの﹀ふ やまさくら戸 は武士なり。姓氏おほし故に八十氏と云。又も やま川もよりてつかふる 山川鬼神も天子によりつ の xふのやそといはすして直にうちとつxくる かへる也。 は必氏ある故なり。 やまからし 吉野の宮は山からし。 やそみなと おほき湊なり。近江にていふ。 やをかゆくはま 遠路をいふは百日行濱と書。 一 やいつへ やとをし 浪の声きくとつ﹀く。なこしといふかこ 77 やまもせ 山の面背也。表裏の心也。 とし。 一 や す の わたり 又やすの川とも。銀河の別名。 ︵二六オ︶ や まのつかさ 山の第一よろしき所をほむること やそくに おほき国くを云。やそくにはなにはに は。 つとひと有。 や ら 仙云とろの事也と。長流云海底の泥也と。契 やと 屋戸と書。家の戸をさすなゆめと也。有には 云 あら あらす。 ︵ 二 五 ウ︶ ま まなご 八百日行邊のまなこと有。砂也。 と同し。海の事かといふ。 まけみそ 儲溝也。水をため置みそなり。 や まかい 山あひなり。 まとこし 窓をへたて﹀也。 五井蘭洲﹃萬葉集詰﹄上
五井蘭洲﹁萬葉集詰一上 まきいほ まるくつくる家なり。 <。是は浪風をさけん為に入江をほりて舟を入 まはにの さにつかはとあり。真赤土と書。しかれ るx所なり。 ともた﹀よきつちなり。さにといへるは赤きな こ﹀しき山 岩かねのこ﹀しき山と有。こりしくと り。 いふ心。 まいてまく 詣てまく也。廟にまいりたきなり。 ︵二七オ︶ ま﹀ 石橋のまxに生たるかほ花と有。石橋はかな こちくの国のさかひ らすはしならす。あさき川原に石をとひくに こもりつ かくれたる所をいふ。仙云、かくれ水な 置てあゆみ行也。 り。 ︵二六ウ︶ こしの中越中也。 其間くにさける花也。これゆへ仙説かほ花を こしへ 越部也。三越の地をさす。 78
か きつはた也といへり。 こなかと 小金門と書。門にはかなものある故也。 一 まさか 采要云、寝所也。在所と同しと也。 季云、こかねとなり。金にてくさりたる戸なり。 計 けた 橋桁也。橋のこほれなはけたよりゆかんと有。 え えはやし 江邊の林なり。 不 ふ せ や
まろやといふにおなし。 安あきつしまやまと
ふ せ いほ ふせ屋に同し。ふせいほのまきいほの内 あをかきやま 四面青山の垣のことき也。又、た﹀ と有。 なはる青垣山とも有。かさなるこ﹀うなり。 ふ るかきつ 古き垣内也。 ありねよしつしま 諸説分明ならす。愚案ありねと ふ せ 屋 もえ いふ 己 こもり江 みつのさき浪をかしこみこもり江とつ﹀ ︵二七ウ︶麹の根ありて有用の物なるへし・封馬にある あるみあらき海な鵬
故 なり。青土よしの類なるへし。見安云、峯の あさみや 朝に君の宮に出参するなり。ゆふ宮とも。 面 白き也と。 あら野 噴埜と書。かけろふのもゆるあら野とも。 あめの海 天を海に見たてたるなり。 あとひなみ立 青き浪たつなり。 あられふるとをつ江 とは音也。あられふるおとx あらやま 深山なり。 つ ﹀︿。 あさ野 雄子とつ﹀く。朝野也。 あをはの山 水鳥の青羽、又青葉とも用ゆ。一云、 あし引のこのま 足引を直に山とせり。 名所にありと。 あらかき あみめの鹿き垣なり。 ありそへ 海邊なり。 ︵二八ウ︶ あさゐて 水せきあくる為の堤也。あさは朝也。 あし火たくやのす﹀たれと 79 あらたまのきえ 又、あら玉のすことも。遠江にあ あまはし 契云、二尊の立たまへる橋の事といへり。 一 ら玉郡あり。きえは地名也。こ、に寸戸とある 誤れり。これは羅公遠か故事を用ひて月宮にの をすこと讃は誤りなり。寸をきとよみ、戸をへ ほる天の階なり。 とよむは常のこと也。東寄にも此地名出たり。 あしかきのくまと 芦垣の曲外也。 岐倍と書り。きえ人ともよめり、とこれ全 あらきの小田 墾田也。あらきはひらき也。新にご ︵ 二 八オ︶ しらへたる田なり。 契沖の確論なり。 あらやま 荒僻の山なり。 あけ 契云、畠田也。高き所の田也。 あさ戸 朝戸なり。あさとまりと有。朝に戸をひら あさ さx浪こすあさとつ﹀く。水あさき瀬也。 くなり。 五井蘭洲﹁萬葉集詰﹂上五井蘭洲﹃萬葉集詰﹂上 左 さかと 坂門也。 ︵二九ウ︶ さ﹀ら 季云、此集月をさ﹀らへをのこと云。又あ してふくをいふと也。 めにある さくらと 山桜戸と有。八雲に桜の木の戸と有。又 ︵ 二 九オ︶ 桜の木陰の家なり。
目
さxらの小野にちかやかりと有。天上の所の名 さかみ 峯のを峯。 也。下界のわさに准して天にも川野等をいふと 起 きしのつかさ 季云、岸のつxきなり。 あり。 き 城也。塞也。障也。冠まもるをさへのきと有。 さ﹀れ さほ川のさ﹀れふみわたりと有。契云、さx 愚案にきとは元来石をかさねたる也。冠をふせれ は石の事也と、愚案小波也。浪にてもふむと くところは必石をかさねて高うし敵の攻のほら 一 い へり。 ぬやうにする也。つくしの名もつく石なるへし。 80
さ﹀れ浪 凡石を重ねたるはいつ方にても城といふへし。 一 さしなひし 国国の並へるなり。 人の居城に限らす。 さくぬ かきつはたさく沼とあり。 由 ゆつはのむら 契云、ゆついはむらとよむへし。岩 さき田 辟田と有。しかれは新田也。又さきた川と の多き も。 ︵三〇オ︶ さなす板戸 さすなり。 をいふ。ゆつはいをつの轄語なり。五百箇岩群 さか屋 酒家なり。 なり。 さかふき 逆葺と書。尾花さかふきと有。やねふく ゆう川 晩の川なり。 に 穂
を下に ゆうはふる浪晩にさはく浪なり。
ゆきしま 雪のつもれる嶋なり。 もいふ。定れる地名ならす。 ゆきあひの坂 季云紀伊の名所なれとこ﹀はた﹀い みちのそらち 途中をいう。 つくにても行逢たる坂といへり。 みこしちのたむけ 契云、今のきのめ峠ならん。大 見 み つ
ほなす季云、水上の泡の玉のことくなるとい
山をこゆる へり。 ︵==オ︶ みけつくに 御食の国也。天子供御のくになり。 時神にたむけてして無惹をいのるなり。たうけ み しふ 衣手のみしふつくまてと有。みさひをいふ。 と云は只たむけならん。 みさごゐる 水砂也。鳥にはあらすと季説に八雲を みそのふ 御苑なり。 引り。 みをひき 水の深き所を道引なり。 みなあはさかまき 水泡さかまくなり。 みむろ 春日野にいつくみむうと有。遣唐使の海上 81︵三〇ウ︶ 無事をいのりて、春日山にて天地の神をまつる 一 みちのしり 凡国の名に後の字あるを云。こ﹀は備 神室をたつるなり。 後也。季云、常陸とす。 みつはな 水の出はなといふかことし。 みちのなかて 今いふなはてなり。 みつかき 久しきとも又をとめらか袖ふる山のみつ みをつくし こxろをつくすと受たり。 かきとも。水垣と書り。しかれとも瑞の字なり。 み つほのくに あしはらのみつほのくに。 みさけん山 見つ﹀遠さかる山也。 み ね の
たをり峯のまはりたるなり。 三=ウ︶
み や けのはら うつくつのみやけのはらと有。日本 みやはしらふとしきます 又ふとしきしとも。又、 紀には屯倉をみやけと讃。国々にあり。皇家を 神のまにふとしきますとも。いつれも天子の皇 五井蘭洲﹁萬葉集詰﹂上五 井蘭洲﹁萬葉集話﹂上 居也。鬼神に限らす天子をさしても神といふな みかほし山 かしこき山のともたちのみかほし山と り。 つ﹀<。 み やま 御猟の山也。 みゆ 温泉なり。 み つやま うねひ山也。ほむること葉也。 みちのなかて 一すちに長き道なり。今はなはてと みちのくまわ 曲隈也。 いふ。 みもろ神の神杉と有。又みもろ山菅を詠り。又み みしふ 水上にさひのことくうきたるなり。 もろをたて﹀と有。神室也。社廣をたつる也。 みちのと﹀み みちは潮のみちたる也。とxみは 又 み わ 山をも云。 と﹀まるなり。 み か と とこつみこと﹀有。かはらぬ宮殿といふ ︵三ニウ︶ こ﹀うなり。こ﹀は日並皇子の離宮をいへり。 潮のた﹀へなり。潮のとxいともいへり。 82 しかれはみかとの詞は古は天子にかきらす。 みこし路 越前中後の壌地なり。 一 ︵三 ニオ︶ 之 しめ野 猟のためにしめ置る野なり。 みわ山神山と書。和州三輪山にかきらす。又みも 潮もかなひて 潮時のよきなり。 うつくみわ山。 潮さゐ 潮のさしあふ所といへり。又浪の潮さゐと み つ つ たふいそ 水のつたひ来る磯なり。 も有。愚案には潮の先か、今いふことはなり。 み や ち 官道なり。おほやけの道なり。 潮のさし来るはしめなり。 み つ ほのくに しつのいは屋 すくな彦名のいますとあり。 み ぬ め 水沼也。こxをとしまともよむ。津国也。 しらき 新羅也。たくつの﹀しらきと有。枕ことは 又 碕 とも詠り。 也。
しほひのなこり 潮のひてあとのひきし所にのこり 小国なり。 たる也。 したひ 下樋なり。池の下樋とつx<。樋をうつみ しのひ田 私田也。是は令にある口分田也。民のも て池の下をとをすなり。 ちまへの田なり。 日 ひのみかと 日を天子に比して其都を云。みかとは ︵三三オ︶ 御門のこ﹀うなり。 したひやま 津国なり。したひとはかりは陰溝也。 ひのもと 日本也。此こと葉こ﹀に初るひのもとの し﹀くしろよみ よみは黄泉なり。 やまとのくにともあり。 しは野 しはくと云に受たり。芝の生する野か。 ひこりて 氷るなり。 たxしは名所か。 ひな 鄙なり。天垂るひな、又ひなのあら野とも詠 し﹀田 鹿のあらす田なり。 り。 83 しま山 てれる橘と有。蓬莱をいふか。 ひとへ山 所の名。長流云、只一重ある山と。 一 しけちはしけ道 草木の茂き道也。は山しけ山のた ︵三四オ︶ くひのこと葉なり。 ひたつち 乾土なり。 しきたへの家 又床ともつ﹀<。家の枕こと葉也。 ひさかたのみやこ 帝都の長久を祝していふ。 しほけたつ あらいそとつ﹀く。潮気の起るなり。 ひやま 檜山也。丹生の檜山と有。 しき屋 醜屋也。いやしき家なり。 ひなさかる国 邊鄙の国なり。 ︵三三ウ︶ ひたす河 契云、川の海へ入る所かと云、又漂川と しからみちらし 鹿の萩をふみちらしなり。 かきてひたす川とよめり。しからは雨のたまり しきますくに すへろきのしきます国と有。治める 水の川水のことくなれるか。 五井蘭洲﹁萬葉集詰﹄上
五井蘭洲﹁萬葉集詰﹄上 ひ の もとのむろふ ひのもと・いへるは口決也と季 ︵三五オ︶ 云。 せきのおすくろ 春山のせきのおすくろにわか菜つ ひとを 一の峯の尾さきなり。 む、この諸説いつれも分明ならす。 ひなともしるく 越中の寄也。いなかと分明にしら 寸 すそみ すそ邊也。高圓の宮のすそみと有。 る﹀となり。 すみよしの里 住吉ならす。只すみ心よき里といふ ひなのみやこ 諸国の官府也。こxは越中国府にて によめり。 の 寄也。 ︵三五ウ︶ ︵三 四ウ︶ 鬼神人倫支髄 ひ の つまて 川子云、つまとかと。 以 いにしへのをうな 年ふりたる女也。をうなとはか も もxしき 大宮ともつ﹀<。 りにても老姐のこと也。をんなとは別也。 84
もxくきね 三野とつ﹀︿。百舳峯也。 いなたき きすめる玉とつ﹀く。契云、いたxきな 一 もりへ 橘のもりへの家と有。もりへは大和の地名。 り。 たち花を守ると受たり。又、もりへすへとも。 いも 家にあるいもと有。妻をいふ。又、実の妹を もとをり 大殿のこのもとをりの雪なふみそねとあ も云り。 り。季云、もとをりはめくりといへり。 いなひ妻 うらみとつxく。吾をいとふつま也。 もとへ 山のふもと也。すえへと封していへり。 いゑひと 吾家内の人也。先は妻をさす。 世 せ か へ 川の瀬をかゆる也。季云、せきたる也。せ いゑのこ家の子なり。 きあへたる也。切語なり。たきつこxろをせき いきのを たまのをといふに同し。人のいのちを云。 とめたるなり。この説よし。 こxは心の事なり。いきのをにおもへるわれを
とつ﹀<。是はいのちにかけての云なり。 いのちさち 長壽也。 いはけみ 幼身なり。 いはひつき 軽の社のいはひつきと有。槻の木を神 ︵三六オ︶ 体とする故なり。 いそのかみふるのみこと 契云、石上は物部氏にて いやひこの神 越後にいます神なり。 饒 速 日命の後なり。故に尊ひてみことxいふと いかきもこえぬへし 神のいかきもこえぬへしと なり。 有。 いめたて﹀ いめ人なり。猟に獣の通ふ所に立てと 波 はやひと さつまとつx<。もと隅薩より隼人を貢 らしむるなり。いめひとのふしみの田ゐとも。 す。歌舞をなすもの也。又武勇の人をさつとい いはひご にしきの中につ﹀めるいはひことつ﹀ ふ故に隼人のさつと受る也。又名におふ夜声と く。いはひいつくこ㌔ろ也。斎児と書。 もつ㌔<。是は大嘗会の時隼人司が犬吠をして 85 いきつかし あないきつかしと有。苦しき心なり。 開門の鳴声を発することをいふなり。 一 いうたへのこ あからひくいうたへのことつ﹀<。 ︵三七オ︶ 紅 顔 をいふ。あかねさす君といふこ﹀ろ也。 は﹀とじ 母也。とじは女の通称。 いもらかり 妹等許と書。 はつかりの使 長月のはつかりの使と有。蘇武が故 いもなね つくりきせけん白たへのひもと有。妹が 事によりて使をいふ。 手なり。 はなひ まゆ根かきはなひとつxく。嘘と書。はな ︵三六ウ︶ ひる也。 いまし 汝也。今の人いましを誤りてすなはちと混 はしきこ うるはしき人也。又美女をもさす。 す。 丹 にほへるきみ うるはしき君也。にほへるは必ず香 五井蘭洲﹃萬葉集詰一上
五井蘭洲﹁萬葉集詰﹄上 複 に 限 らず、色のよきをもいふなり。 ︵三八オ︶ にゐさきもり 西国へ異賊を今年ふせきに行なり。 ともしつま 七夕織女を云。あふ事のともしけれは 防 人 と書。皆東国の人の行ことなり。又今かは 也。 るにゐさきもりともつxく。 とこxろ 利心也。こxろのたけくすxみ早きなり。 にほのをもわ 丹穂なり。紅花なり。紅顔をいふな とみ 獣人の職のことし。獣の足あとをみとむるあ り。 とみとも。 ︵ 三 七ウ︶ ときもり うちなすつxみとつxく。十二時のつx にゐたまくら わか草の新たまくらと有。 みをつかさとる人なり。 に ごよか 顔色のわかやかにうるはしき也。 とねりこ 舎人也。ことりへとも。只とねり也。 と とをつま 遠方にある妻なり。 とよきみ 大君と云かことし。 86
とも もの﹀ふのやそとものをと有。季云、伴の男 とをむまよひき 沖つ浪とをむまよひきと有。浪の 一 は臣下のこ︾ろ也。しかれとも又やそとものを とをよることき眉をひきとほむるなり。 は鵜川立けりと有。臣下たるもの﹀鵜川にたつ とみひと 富人なり。 へ きや。只多き男子をいふなるへし。八雲抄云 ︵三八ウ︶ やそとものをは朝につかふる男也とあるも伝し 智 ちはや人 うちとつ﹀<。宇治の枕詞也。路早き人 かたし。しかれは二様あるなり。伴と徒と也。 といふ事と諸説あり。季云、別に正説あり。人 お ほくやなの鵜川に立なり。又うかひかともと 是をしらすといへり。或人云、隼人と同し。 も有。鵜をかふともからにて只徒の字也。 奴 ぬすひと ほれる穴とつ﹀く。盗なり。 とりをしも 禽門に出。 ぬし 大人とも君とも卿とも書て、ぬし又はうしと
よむ。又のしとも云。こ︾は大伴の池主か吾頭 り。 役の家持を貴んてぬしといへり。 おもひつま 此寄は女より男をさしてかく詠り。 ぬは玉のいも 契云大己貴命の寄に、ぬは玉のしろ ︵三九ウ︶ きみけしと有。しかれは物のうるはしきを褒る をみのこら 苧績の児等なり。幼き児女等なり。 詞 也。こxもいもをほめたり。愚案に、ぬは、 をち 老翁なり。 うはは、ほむる詞也。玉をほめてぬは玉と云。 をのかしx をのれとちと云。又をのれかてにと云 黒 きまくらことはに虜せす。 こ﹀ろわかてに恋死せんとなり。 ︵ 三 九オ︶ おもふとち おもふ友とち也。思共と書。