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廃 棄 物 処 理 問 題 と 条 例

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(1)論. 説. ノみ. ゆ. 参考文献. 総括. 第三節. 第第 資料. 即. 平成六年三月一八日判決を契機としてー. 廃棄物処理をめぐる条例のあり方とその限界. 観点から. 条例制定権の限界 ー公害規制・環境管理の. 条例制定権の本質・根拠. ﹁地方自治の本旨﹂. 条例制定権の本質・根拠. 即耳口. 即. 艮口. 廣. 瀬. 美. 佳. 二五. 廃棄物処理をめぐる条例のあり方とその限. 八日判決. 告処分無効確認請求事件﹂平成六年三月一. 判例 〜福岡地裁﹁焼却炉設置計画廃止勧. 総説. ー福岡地裁﹁焼却炉設置計画廃止勧告処分無効確認請求事件﹂. 廃棄物処理問題と条例. 第二章. 総説. 公害 規 制 に お け る 条 例. I二一章 ゆ. 三II. 廃棄物処理問題と条例. 界. 第序 第第一論 第.

(2) 早法七〇巻二号︵一九九四︶. 論. ︵1︶. 二六. 人の積極的な取り組みが必要であるとした上で︵第三条二項︶︑特に事業者については︑製品が製造・使用・廃棄さ. 年東京都条例第九二号︶では︑行政・事業者・都民三者の責任を明記し︵第一条および第四条乃至第七条︶︑全ての. て転換しようとのねらいをもつ環境基本条例︵案︶の大綱をまとめて発表し︑七月二〇日に公布・施行されたが︑同 ︵4︶ 様の条例は既に大阪府︑熊本県︑川崎市︑神戸市などで制定されている︒ちなみに︑このたびの都の条例︵平成六. 策が主だった都の環境行政を︑従来の規制にとどまらず︑地球環境や資源循環の視点を盛り込むなど時代に合わせ. を﹁環境﹂という視点から見直すべく︑全国の市町村長や市民団体のリーダー達が互いの経験と情報を交流するた ︵3︶ めに集まって開かれている﹁環境自治体会議﹂も今年で三回目になるし︑この五月には東京都が︑これまで公害対. あるといってよいものもあるように思われる︒実際︑いくつかの具体例をみてみると︑自治体行政のあらゆる分野. も︑それぞれの地域社会において︑あるいは芽を出し︑あるいは花を咲かせてきており︑中には既に実を結びつつ. ではともかくとして︑その流れは今現在に至るまで脈々と受け継がれてきているのであり︑わずかずつではあって. ︵2︶. などの言葉が生まれたりもした︒そして︑このような運動は︑一時の華々しさこそなくなったものの︑国家レベル. 達した感があり︑﹁地球規模で考え︵地球を想い︶︑地域で行動する﹂というスローガンが流行ったり﹁環境自治体﹂. に関する国連会議﹂いわゆる地球サミットが開かれた頃には︑政府をも含めて︑環境問題解決への熱気はピークに. みが盛んになってきているように見受けられる︒特に︑一九九二年六月︑リオデジャネイロにおいて﹁環境と開発. 近年︑地方分権を推進しようとする動きともあいまってか︑住民および地方公共団体による環境問題への取り組. 序.

(3) れる際の環境への影響を減らすよう必要な措置を講じるとともに︑どんな影響があるか等に関する情報を提供する. べく努めなければならないとする︵第六条︶など︑これまで以上に積極的な姿勢がみられるものとなっている︒さ ︵5︶ らに今後は︑より具体的な施策の方針を示す環境基本計画の策定に都が着手することになっている︵第九条︶︒また︑. 練馬区では︑﹁環境問題を公害だけで語れる時代ではなくなった﹂という意見の高まりを背景に︑一九七二年に公害 ︵6︶. 被害の声を区民から吸い上げるため設置されていた﹁公害問題懇談会﹂に代えて︑区民や区内の事業者を主体とし. て環境間題に総合的に取り組む組織を発足させることとし︑この九月一九日には第一回目の﹁練馬・環境保全推進. 会議﹂を開いているし︑品川区においては︑様々な環境情報をデータベース化し区民に提供するシステムサービス ︵7︶. が既に本格的に始動しているが︑これは︑二年前︑公害課が機構改革で環境課に衣替えしたのをきっかけに︑開発. されたものである︒さらには︑前述の地球サミットにおける﹁アジェンダ21﹂でその役割を担うべき主要グループ ︵8︶. の一つとして地方自治体が挙げられていることを受けて︑広島県︑神奈川県︑千葉県などでローカル・アジェンダ. が出来上がっている︒ここにとりあげたのは︑数ある地方公共団体およびその住民が行なっている諸活動のうちの︑. ほんの一部に過ぎないが︑それでも︑地方行政における環境問題への取り組みが国政レベルにおけるそれよりもは. るかに積極的である様子がうかがえるのである︒しかも︑このような傾向は今に始まったことではない︒環境行政. については︑そもそもその始めから︑すなわち︑高度成長期において四大公害事件に代表される極めて深刻な公害. 現象・環境破壊の急速な増大を経験した一九六〇年代になって漸く国が本格的に乗り出してきた頃から︑地方公共. 一二七. 実験的自治体. が形成. 団体は常に国をリードしてきたのである︒なぜなら︑公害や環境の破壊は地域の特性と密接不可分であり︑その地. 域の問題として対策が求められてくることから︑事実上︑必要に迫られる形で環境対策の 廃棄物処理問題と条例.

(4) 早法七〇巻二号︵一九九四︶. 二一八. され︑先行することとなるのであり︑国レベルでの対応は︑結果的に︑それが全国的規模の問題へと拡大した段階. で行なわれるため︑どうしてもナショナル・ミニマムとしてのそれとなりがちであるからである︒特に騒音︑悪臭. などのいわゆる﹁感覚公害﹂といわれるものについては︑きわめて地域性が強いところから︑条例による規制が先. 行する形をとってきたし︑また︑後述するように︑まず地方公共団体が︑いわゆる﹁上乗せ条例﹂や﹁横出し条例﹂. によって国の規制を一段と強化することにより︑当該地域の公害防止を達成しようとした結果︑条例と法律との関. 係が問題となったのであって︑その後︑国の側でも大気汚染防止法など立法における解決を図るに至っている︒そ ︵9︶ して︑このような姿が︑我が国におけるこれまでの環境行政の歴史であったといわれているのである︒. しかし︑国家レベルでの対応が遅れ︑自治体レベルでの取り組みが先行したことは︑同時に︑様々な問題をも生. じさせている︒例えば︑一九九二年に前年改正されていた廃棄物処理法が施行されたのを契機として厚生省が実施. した﹁廃棄物減量等実態調査﹂によると︑可燃・不燃ゴミについては全国の自治体の約九割が分別収集をしている ︵10︶. が︑資源ゴミの分別収集状況は思わしくなく︑約四割にとどまっているなど︑自治体によって対応の姿勢にかなり. の格差があることが明らかとなっている︒また︑特別区である東京二三区の自治権拡充をめざす都区制度改革の一. 環として行なわれる予定の︑都から区への清掃事業の移管をめぐっては︑処分場等の受け入れ態勢が各区によって ︵U︶ まちまちなこともあって︑組合が反対を表明するなど︑難航が予想されている︒これらは︑それぞれの地方公共団. 横のつながり. 受皿の不備. を欠いてしまい︑足並みが乱れる結果と. 体が環境間題に独自に取り組んできた︵あるいは︑独自に取り組まざるを得なかった︶ことが︑各地域の特性に適応し. た対策を可能にした反面︑各地方公共団体同士の間では. なったことを如実に表わす事例としてみることができると思われる︒さらに︑廃棄物処理については︑.

(5) とそれに伴う最終処分地を求めての広域行政の問題が指摘されている︒すなわち︑一九八○年代以降︑特に都市部. においては︑産業構造や人々のライフ・スタイルの変化︑急速な人口および経済社会活動の集中などに起因する大. 量生産・大量消費・大量廃棄に拍車がかかって︑いわゆる都市・生活型の公害の比重が高まり︑一層深刻の度合い. を増してきている︒特に︑経済規模の拡大による事業場や家庭などから出される不要物の排出量の増大が︑環境へ. の負荷を高め︑これを悪化させつつあるのであり︑都市の膨張に伴ってそれらを処理するための施設の必要性も高. まっているのであるが︑一方で︑その確保は用地難等によってますます困難となってきているため︑廃棄物の処理. はもはや一地方公共団体の手には負えない問題となってしまい︑広域移動が増加しているのが現実である︒そして︑ ︵12︶. その場合︑処分場を設置する場所としては︑えてして地方の︑それも過疎の地域が選ばれ易い︑ということになり. がちである︒また︑逆に︑財政上困難であったり最先端技術の導入が遅れがちであったりということもあってか︑ ︵13︶. 地方によっては︑むしろ大都市圏以上に︑一人当たりの廃棄物の排出量と比べた場合の処理施設の設置状況面での. 後進性が目立つところもあり︑この点についても地域格差の大きいことを物語っている︒思うに︑ごみ問題に象徴. されるような廃棄物の処理をめぐっては︑確かに﹁自分の所で出た物は全て自分の所で処理する﹂のが筋であり理. 想でもあろうが︑特に大都市部においては︑キャパシティーその他の点からいって︑現時点ではおよそ不可能に近. いという現実が厳然として存在するということもまた︑否定し得ない︒しかし︑だからといって︑都市部が大量の︑. しかも中には有害な物も決して少なくない廃棄物を出すだけ出しておいて︑その処理は地方へ任せてしまおうとい. う現在の環境行政のあり方は︑やはり褒められたものではあるまい︒特に︑地方において未だに破壊されず残って. 一二九. いる自然環境を保全していくことは︑既に破壊されてしまった自然環境の回復と並んで︑あるいはそれ以上に︑緊 廃棄物処理問題と条例.

(6) 早法七〇巻二号︵一九九四︶. 二二〇. 急に取り組まねばならない課題の一つであり︑その重要性は︑当該地域における人口の多少や産業の有無によって. 左右されるような性格のものではないし︑また︑左右されるようなことがあってはならない︑と考える︒とはいう. ものの︑廃棄物を処理するための施設はどこかにはつくらざるを得ないものである︒いくら再資源化によって廃棄. 物の量を減らしたり︑あるいは有害な物については無害化するといってみても︑限界はあるのであって︑どこかが. 引き受けなければ︑処理されないままの廃棄物がたまっていき︑やがては不法投棄等の問題を引き起こすだけで根. 本的な解決にはならない︒自然環境・生活環境を保全・再生しながら廃棄物処理をめぐる様々な問題を如何に解決. していくか︑このことは最早︑個々の地方公共団体が単独で対処できる次元を越えてしまっているといえよう︒. ところで︑今回︑廃棄物処理を中心に国および地方公共団体による環境行政について論じようと考えた直接の動. 医療における環境問題. へのアプローチー医療廃棄物処理を手がかりとしてー﹂早研七〇号三七九頁参. 機は︑筆者が︑最近︑これまで専門としてきた医療問題との関連において医療廃棄物に関する問題を取り上げたこ とがあり︵拙稿﹁ ︵M︶. 照︶︑たまたま︑それから間もなくの今年三月一八日に福岡地裁で出された﹁焼却炉設置計画廃止勧告処分無効確認. 請求事件﹂判決についての記事を目にしたことである︒当該判決は︑後にみるように︑廃棄物処理法上︑一般廃棄. 物および産業廃棄物の処理施設の設置等に対する規制については︑いずれも国の機関委任事務として規定されてい. るとしながらも︑そのことの故に地方公共団体には当該規制についての条例制定権なしとして切り捨ててしまうこ. とをせず︑さらに一歩踏み込んで︑国の法律である廃棄物処理法と本件条例との関係にまで言及し︑当該条例の適. 用により本法の目的と効果を阻害することになるかどうかについても検討を加えている点で︑近時︑国による中央. 集権を打破し地方分権を確立しようとする動きがあることを併せ考えても︑注目に値するものと思われる︒そして︑.

(7) この点に関する裁判所の論述の中には︑廃棄物処理をめぐる住民︑地方公共団体および国の関係が今後どうあるべ. きかについての一定の方向性が垣間見られるように思われるのである︒そこで︑従来︑個人的にも︑環境問題その. もの︑当該問題をめぐる住民運動のあり方や︑それらに対する行政側︵国および地方公共団体︶の対応の仕方などに. ついて︑ニュース報道等に接するたびに考えさせられてきたことでもあり︑一度自分なりに整理してみる必要を痛. 感したこともあって︑前記判決でも問題となった﹁廃棄物処理﹂を題材に本稿を執筆することとした次第である︒. 本稿では︑廃棄物処理に対する国および地方公共団体の関係がどうあるべきかについて論じる前提として︑まず︑. 第一章において︑過去に公害規制をめぐって条例が果たしてきた役割や︑地方公共団体のもつ条例制定権について︑. 特にその限界についての考え方が︑国との関係において︑従来どのようなものであったのか︑そして︑今後どのよ. うな方向に向かおうとしているのか︑あるいは向かうべきなのか︑といったことについて概観した上で︑第二章に. おいて︑廃棄物の処理を適正に行なうため︑ひいては︑我々を取り巻く生活環境・自然環境をより良い状態に保つ. 地方分権の生理と病理﹂法時六六. ためにも︑国および地方公共団体による環境行政はそれぞれ如何にあるべきか︑ということについて論じることと したい︒. 注︵1︶ ﹁特集 地方自治の基礎概念 *﹃地方分権﹄を考える﹂法教一六五号七頁以下︑﹁特集. 大熊政一目. 現代国家における自治体行政﹂. コ一コ. 第六回日ソ法学シンポジウム︵一九九〇年四月四日〜四月=二日︶﹂法時六三巻五号五. 右崎正博日安本典夫H竹森正孝. 釈権﹂﹃ジュリ増刊総合特集 地方自治の可能性﹄︵以下︑原田①︶一九四頁・二〇一頁︑同コ. 巻一二号二八頁以下︑五十嵐敬喜﹁真鶴町﹃美の条例﹄と﹃地方分権﹄﹂法時六六巻六号二頁以下︑原田尚彦﹁地方自治体の法令解. 岩田研二郎﹁現代国家における集権と分権. 原田H兼子仁編著﹃自治体行政の法と制度﹄︵以下︑原田②︶三頁・二〇頁︑渡辺洋三. 廃棄物処理間 題 と 条 例.

(8) 早法七〇巻二号︵﹃九九四︶. 二一三. O頁以下など︒また︑先頃︑東京都の﹁地方分権研究会﹂︵座長・磯部力都立大教授︶が﹁地方分権推進についての提言﹂をまとめ. たことや︵朝日新聞一九九四年五月二百付朝刊︶︑政府が地方分権関連法案について提出時期を明示したこと︵読売新聞一九九四. 年九月一日付夕刊︶︑行政改革推進本部・地方分権部会が意見報告書を︵読売新聞一九九四年十一月七日付朝刊並びに読売新聞およ. そ. び日本経済新聞︻九九四年十︸月一八日付夕刊︶︑第二四次地方制度調査会が答申を︵読売新聞および日本経済新聞一九九四年十一. 月二三日付朝刊︶︑それぞれとりまとめ︑首相に提出したことなどが︑たびたび報じられている︒なお︑武村正義﹁中央鴨地方. 木村仁粋斎藤誠踊成田頼明﹁︹座談会︺市町村合併. セ三三巻四号一頁︑同﹁地方分権・再論﹂同三三巻九号一頁︑宮澤弘﹁地方分権推進の条件﹂同三三巻八号一頁︑および︑地方分. して東京は6人の処方箋①政治の都は新天地に﹂読売新聞一九九四年六月六日付朝刊︑鎌田要人﹁地方分権論について﹂自 権を果たしていくための市町村合併による体制再編成論についての︑川島正英. 但し︑﹁地球サミットを踏まえ︑また地球サミットの合意を我が国が世界に先駆けて実践したものとして﹂︵環境庁企画調整局. の課題と論点﹂ジュリ一〇四七号八頁木村発言参照︒. 企画調整課編著﹃環境基本法の解説﹄はしがき参照︶︑環境基本法︵平成五年法律第九一号︶が一九九三年こ月一こ日に成立︑同. ︵2︶. 一九日に公布・施行されている︒もっとも︑この環境基本法については︑単に理念を述べてあるだけのものに過ぎない︑などとい. った批判も多い︵法案段階で発表されたものではあるが︑清水文雄﹁﹃理念﹄あって﹃具体的方策﹄は見えず﹂エコノミスト一九九. ﹃環境自治体﹄ってなんだろう﹂朝日新聞一九九四年五月二七日付朝刊︑竹内謙﹁論点. ﹃環境自治体﹄3つの視点﹂. 三年五月一八日号一入頁以下︑同﹁環境基本法案はどのように生まれたか﹂世界五七八号一五六頁以下︑淡路剛久﹁環境基本法政 ﹁社説. 府案の検討﹂環境と公害二三巻﹃号五四頁以下など︶︒ ︵3︶. 条例⑦. 環境基本条例﹂時法一四四六. なかでも川崎市の条例は︑総合的環境行政制度の創設を目指した﹁全庁型横断条例﹂として︑その先進性が評価されている︵宮. 読売新聞一九九四年六月二日付朝刊 ︵4︶. 1環境基本法制定を契機として﹂法時六五巻三号八頁︑前掲朝日. 崎良夫﹁環境行政組織の問題点﹂ジュリ一〇一五号一〇五頁︑高相強志﹁自治のひろば 号六八頁以下︑山村恒年﹁環境行政法の理論と現代的課題・1 朝日新聞および読売新聞一九九四年五月一九日付朝刊など. 新聞社説︶︒. ︵5︶. ︵6︶ 読売新聞一九九四年六月九日付朝刊.

(9) ︵7︶. 読売新聞一九九四年六月一〇日付朝刊. ー地. 前掲朝日新聞社説︑外務省国際連合局経済課地球環境室n環境庁地球環境部企画課編﹃国連環境開発会議資料集﹄五七頁以下︒. なお︑山村﹁地球環境時代の自治体環境政策﹂ジュリ一〇一五号二一九頁以下︑猿田勝美﹁公害・環境をめぐる課題と対策. ︵8︶. 方自治体の取組﹂同二一六頁以下︑前掲﹃環境基本法の解説﹄三〇八頁以下参照︒. 憲法1﹄二二九頁以下︑八太昭道﹁リサイクルの第二の波を予見. 現代都市と自治﹄︵以下︑原田④︶六〇頁︑猿田・前掲論文二︻三頁以. ー公害対策から環境管理へ﹂ジュリ一〇一五号︵以下︑原田③︶三九頁以下︑同﹁地. ︵9︶ 横田光雄﹃環境問題と地方公共団体﹄一四頁以下︑磯野弥生﹁自治体の環境政策に何が求められるか﹂ひろば四七巻三号二 頁︑原田﹁公害・環境政策法制の推移と現状. 公害規制における上乗ゆ条例﹂﹃別冊法セミ. 方自治の現代的意義と条例の機能﹂﹃ジュリ増刊総合特集 下︑妹尾克敏﹁95. 厚生省﹃廃棄物減量等実態調査結果﹄︑読売新聞一九九四年五月一七日付朝刊および同一八日付朝刊︑朝日新聞一九九四年六月. するー東京都目黒区の取組みー﹂ジュリ九四九号四九頁以下. 原田③四一頁以下︑郡司巧﹁廃棄物対策の現状と課題﹂ジュリ一〇一五号二〇五頁以下︑中央公害対策審議会目自然環境保全. 朝日新聞一九九四年五月二四日付夕刊︑朝日新聞および読売新聞同二五日付朝刊. 九日付朝刊. ︵10︶. ︵11︶. 審議会﹁環境基本法制のあり方について︵答申︶﹂同三〇頁以下︑小畑嘉雄ほ志賀薫信重永哲彦他﹁︽座談会︾︑産業廃棄物の現状. ︵12︶. 高月紘. 寄本勝美﹁︹鼎談︺. ごみ問題を考える﹂同二六頁以下︑阿部泰隆. について﹂公害研究一九巻四号二五頁︑高橋正徳﹁廃棄物はだれが処理するのか﹂法セ四六七号四五頁以下︑大野正人﹁最終処分. ﹁廃棄物処理法の改正と残された法的課題︵六︶﹂自研七〇巻一号一五頁以下︑環境庁編﹃平成五年版 環境白書 各論﹄︸七こ頁︑. 地と広域行政﹂ジュリ九四四号三六頁以下︑後藤典弘. 一三三. 北村喜宣﹁最終処分場立地をめぐる住民の不安﹂いんだすと九巻一号四六頁以下︑鳥井陽一﹁産業廃棄物の処理に係る特定施設の. 朝日新聞一九九四年三月一八日付夕刊. 鴇/脳﹄七〇頁以下参照. 整備の促進に関 す る 法 律 ﹂ 法 資 一 三 五 号 九 頁 以 下 な ど ︵14︶. ︵13︶ 地球・人間環境フォーラム﹃環境要覧. 廃棄物処理問題と条例.

(10) 総. 説. ︵15︶. 公害規制における条例. 早法七〇巻二号︵一九九四︶. 第一章. 第一節. 二二四. 我が国の公害の歴史は︑古くは明治二〇年頃から問題となった足尾銅山鉱毒事件にまで遡る︒この頃︑我が国は. 長い鎖国を解き︑近代国家への道を歩み始め︑欧米列強に伍していくため︑殖産工業を国の大方針としていたので. あり︑特に都市を離れた地域では︑農業や漁業と新興の近代的工業との衝突という形で問題が顕在化した︒また︑. 一方︑都市においても︑日露戦争以後︑造船︑機械工業︑製鉄業などの原動力として石炭の使用が増大していった. ため︑煤煙に覆われる都市を各地で出現させることとなったが︑当時︑煤煙問題に対する社会の意識は薄く︑企業. はもちろん地域住民でさえ︑林立する煙突から排出される黒煙を街の繁栄の象徴とみる意識が支配的であった︒さ. らに︑その後も︑第二次世界大戦を挟んで︑戦時体制下ではもちろんのこと︑戦争により荒廃した国土の復興の過. 程においても︑まず生きていくための生産力の拡大が至上命題とされたため︑環境への本格的な配慮がなされるま でには︑なお多くの時問が必要とされることとなったのである︒. 戦後の復興期における経済の急速な立ち直りに伴い︑一九五〇年代までには︑公害問題が大工業地帯を中心とし. て各地で既に顕在化しつつあった︒この頃になると︑︵前述の足尾銅山鉱毒事件が現代に至るまで公害の歴史の原点とさ. れているところからも明らかなように︑︶もともと公害は︑それらが直接的な人体への悪影響を及ぼしたり地域環境を.

(11) 著しく破壊する危険性を有していること︑さらには︑地域住民に特有の不利益をもたらすという地域性をもった現. ︵16︶. 象であることの認識が生まれてくるのであり︑国が未だ対策を講ずるに至らない時期に必要に迫られた各地方公共. 団体が︑国の法令に先駆けて︑公害防止対策のための条例による規制を加えるようになってくる︒一方︑この間︑. 国による公害対策としては︑大気汚染や水質汚濁について︑﹁ばい煙の排出の規制等に関する法律︵昭和三七年法律第. 一四六号︶﹂や﹁公共用水域の水質保全に関する法律︵昭和三一二年法律第一八一号︶﹂などにより︑個々の発生源を規制. する個別規制による対処がなされてはいたが︑これらの措置の実施によっても公害問題は解決されず︑汚染物質に. よってはむしろ汚染状況の悪化をみるなど︑その対策は国民の期待に応えるには程遠い状態であった︒そして︑さ. らに︑一九六〇年代の高度経済成長期に入ると︑我が国は四大公害事件に代表される極めて深刻な公害現象の急速. な増大を経験することになる︒しかもそれらは︑大気汚染︑水質汚濁︑地盤沈下︑騒音︑悪臭︑開発等の自然環境. への波及︵景観破壊など︶といった︑我々住民の生活のあらゆる領域を取り巻く形で顕在化したのである︒その結果︑. 特に公害防止対策は︑多様な手法を統一した理念に基づいて組み合わせた総合的な取り組みでなければならないこ. と︑応急的・臨時的対策から一歩進んだ予防計画的な取り組みでなければならないことが痛感されるようになり︑. 環境汚染・自然破壊防止の決め手となる法的手段を求める社会的要求や︑公害の対象範囲︑公害発生源者の責任︑. 国および地方公共団体の責務の明確化など︑施策推進の前提となる基本原則を明らかにすべきであるとの声が高ま. ってくる︒ここに至って︑漸く国も環境対策に本格的に乗り出してくることになり︑一九六七年に公害対策基本法. ︵昭和四二年法律第;三号︶が︑一九七二年には自然環境保全法︵昭和四七年法律第八五号Vが制定されて︑全国的な. 一三五. 公害規制の拡大強化︑地域での一層の取り組み︑対策技術の開発︑被害者救済制度の確立︑企業の公害防止のため 廃棄物処理問題と条例.

(12) 早法七〇巻二号︵一九九四︶ 7︶. ニニ六. ︵1 の投資などの進展にとって︑大きな政治的・社会的転機となった︒しかし︑公害対策基本法は︑﹁公害憲法﹂ともい. われるその基本法としての性格上︑公害法全般に対する総則的意味合いが強く︑個別的な事例解決の指針となるよ. うな具体的な︑あるいは実効性のある規制基準を伴うものではなかった上に︑当初︑いわゆる﹁調和条項﹂︵旧第一. 条二項︶に象徴されるように︑基本法の制定によって公害問題の重要性をクローズ・アップさせ︑その責任を明確化. し︑産業振興策などと対比して公害対策を優先させようとする立場と︑公害規制の強化による経済的負担の増大や. ︵18︶. 経済活動への制約を恐れる企業側との︑利害の対立やその妥協の一つの帰結として生まれたものだったこともあ ︵19︶. って︑かえって国民に期待を抱かせ公害反対の世論を鎮静化しながら︑殆どの大企業にとっては後に定められた基. 準によって汚染の現状を追認されることにつながったとの指摘も無視できない︒では︑この時期︑地方公共団体レ. ベルでの環境行政はというと︑公害対策基本法制定までに既に一八の都府県において公害防止条例の制定をみ︑都. 道府県の公害担当専門部局は二〇の地方において設置されており︑一九七二年までには全ての都道府県において公. 害防止条例が制定され︑担当組織も整備されている︒しかも︑地方公共団体は︑国の公害規制を一段と強化するこ. とによって当該地域の公害防止を達成しようとしてきたため︑﹁上乗せ条例﹂や﹁横出し条例﹂が登場することにな. り︑これらが条例と法律との関係に関する議論の中核に位置づけられ︑従来の国の法律先占論の再検討を促すこと. になって︑やがて︑一四にも上る公害関連立法を相次いで制定し公害対策基本法等から﹁調和条項﹂を削除した一. 九七〇年のいわゆる﹁公害国会﹂と相前後して︑一部ではあるが立法的解決をみることとなった︵大気汚染防止法︹昭. ︵20︶. 和四三年法律第九七号︺第四条.一項および第三二条︑水質汚濁防止法︹昭和四五年法律第二二八号︺第三条三項および第二九. 条など︶︒また︑その他にも︑地方公共団体は︑あるいは地元企業などと公害防止協定を締結し︑住民の公害防止に.

(13) 対する要請の変化や公害防止技術の進歩に即応して個別企業の実態に即した公害対策を行なうことで法令の規制を. 補完することによって︑あるいは地域の実情をよく理解している第三者として︑国や私企業の行なう事業について ︵21︶. 生じた公害をめぐる間題解決のためのパイプ役となることによって︑公害行政において国に先んじた役割を果たし てきたのである︒. こうして︑一九七〇年代以降︑社会問題化した公害現象に対処するために地方公共団体は自らの自治立法権を従. 来以上に積極的に行使し始め︑条例制定権の範囲を広く認めようとする理論の展開もみられるようになって︑現在 ︵22V. では︑国と地方の事務配分もいずれか一方に排他的に属するとされるのではなく︑両者の協働関係が強調されると. ころとなっている︒しかし︑地方公共団体の施策に関しては︑あくまで︑﹁国の施策に準ずる﹂ものであること︑﹁法. 令に違反しない限りにおいて﹂なされるべきことが︑かつては公害対策基本法第五条および第八条並びに自然環境. 保全法第九条によって規定されていたし︑現在では︑自然環境保全法の一部と公害対策基本法を吸収してつくられ. た環境基本法︵平成五年法律第九一号︶第七条および第三六条が︑地方公共団体の責務および施策について︑やはり. ﹁国の施策に準じた施策﹂と規定している︒もっとも︑﹁上乗せ条例﹂や﹁横出し条例﹂については︑それらによる. 規制を必要とする地域的必要性や具体的合理性をはじめ︑比例原則や比較衡量︑関係する領域の技術上の進歩の程. 度︑法定の罰則との関係等を勘案しながら個別具体的に判断せざるを得ないことから︑少なくとも公害規制に関し. ては合憲とみなされているといってよく︑実際︑環境基本法においても︑﹁上乗せ条例﹂﹁横出し条例﹂の制定につ. いては︑それらが︑国の基本的な施策の枠組みを策定・実施する場合において︑それのみによっては地域の環境の. 二二七. 保全を図る上で十分でないときに︑住民の健康の保護や生活環境・自然環境の保全を全うする上で重要な役割を果 廃棄物処理問題と条例.

(14) 早法七〇巻二号︵一九九四︶. 一三八. たしてきたことを認めた上で︑第七条および第三六条の﹁国の施策に準じた施策﹂として整理されるものであり︑ ︵23︶. 両条の規定を踏まえて︑各地方公共団体により今後とも必要に応じて実施されていくものと考えられている︒しか. し︑地方公共団体の行なう﹁国の施策に準じた施策﹂とは︑環境の保全に関して国が講じている施策と概ね同様な. いし類似の施策であって︑地方公共団体がその区域の自然的社会的条件に応じて行なう施策のことであり︑国が地. 方公共団体や地方公共団体の機関に実施を委任している事務は国の事務そのものであるから︑当該条文でいう﹁国. の施策に準じた施策﹂ではないとした上で︑地方公共団体は国が同様の施策を講じていない場合に﹁その他のその ︵24︶. 地方公共団体の区域の自然的社会的条件に応じた︵環境保全のために必要な︶施策﹂︵第七条および第三六条参照︶を行. なうことになるとしている︒また︑いかなる﹁上乗せ条例﹂﹁横出し条例﹂を制定することが可能かについては︑法. 令に違反しない限りにおいて制定できる旨︑憲法第九四条および地方自治法第一四条一項に規定されており︑最高. 裁﹁徳島市公安条例事件﹂判決︵最大判昭和五〇年九月一〇日︑刑集二九巻八号四八九頁︶で︑国の法令と条例の趣旨︑. ︵25︶. 目的︑内容および効果を比較し︑両者の間に矛盾抵触があるかどうかによってこれを決しなければならないとされ. ていることは︑環境基本法の規定によってその取り扱いが変わるものではない︑としている︒以上のことに鑑みる. ならば︑国の側としては︑地方公共団体の条例が違法無効となるのは︑国の法令の先占領域がその規制内容と対立. する条例の規制内容を許さない積極的抵触の場合に限られ︑それ以外の消極的抵触が違法ではないからといって︑. このことから直ちに国の法令よりも厳しい基準を設けて条例によって規制を加えることが一般的に是認されるわけ. ではない︑という従来通りの立場を踏襲しているものと解される︒しかし︑このような国側の見解に対しては︑他. 方で︑例えば︑発生源が複雑多岐にわたる汚染であり︑これに対処するためには直接的な排出規制と同時に各種の.

(15) 部分的利用制限を段階的に積み重ねることが必要であるところの都市・生活型公害のクローズ・アップとともに︑. 今後︑地方公共団体の責任はさらに増すことが予想されるのであって︑このような現実との関係での︑もっと踏み. 込んだ今日的な認識が示される必要がある︑ということができるものと思われる︒そこで︑本稿では︑さらに︑廃. 棄物の処理をめぐって国の法律である廃棄物処理法︵昭和四五年法律第一三七号︶と条例との関係がどうあるべきかを. 考察する前提として︑そもそも憲法第九四条の保障する条例制定権の本質・根拠とは何か︑そして︑国の法令と地. 方公共団体の条例との間の矛盾や抵触に関して法律先占理論はどのように緩和され克服されてきたか︑といった諸 問題について論じることとしたい︒. 環境﹄五四頁以下︑大阪弁. 日本国憲法12. 護士会環境権研究会編著﹃環境権﹄四二頁以下︑野村好弘﹃公害法の基礎知識﹄一一九頁以下︑牛山積﹃現代の公害法︿第二版﹀﹄九. ︵妬︶ 前掲﹃環境基本法の解説﹄三頁以下︑横田・前掲書一頁以下︑環境行政研究会﹃現代行政全集⑲. 公害﹄三頁以下など. 山口和男編﹃実務法律大系第. 頁以下︑原田②四頁以下︑妹尾・前掲論文二二九頁以下︑室井力﹁公害対策における法律と条例﹂同編﹃文献選集 6巻. 地方自治﹄一一六頁以下︑小川邦夫﹁1 公害規制﹂中川善之助H兼子一監修/鈴木潔H藤田耕三. ︵16︶ 産業の復興に伴って生じてきた公害問題に対処するため︑市民の要望に基づいて︑一九四九年に制定された東京都による工場. が︑一九五五年には福岡県が︑それぞれ公害防止条例を制定している︒また︑東京都ではその後︑一九五四年に工場騒音以外の一. 公害防止条例を皮切りに︑朝鮮動乱による特需景気に伴う経済の復興を背景に一九五一年には神奈川県が︑一九五四年には大阪府. 一三九. 公害対策基本法の意義﹂. 般騒音を規制する騒音防止に関する条例が︑さらに一九五五年には工場煤煙以外の煤煙防止を目的とするばい煙防止条例が制定さ. 原田③四〇頁︑石野耕也﹁環境政策の近年の動向と課題﹂ジュリ一〇一五号一七〇頁︑西原道雄﹁8. れている︒. ︵葺︶. 西原H木村保男編﹃公害法の基礎︹実用編︺﹄二二頁. 廃棄物処理問題と条例.

(16) 18. 早法七〇巻二号︵一九九四︶. 公害の一要因としての法﹂西原H木村・前掲書一三頁以下︑同﹁7. 西原・前掲論文二二頁以下. 一四二一頁以下︑妹尾・前掲論文二二九頁︑宮崎・前掲論文一〇三頁以下. 一四〇. 日本国憲法. 公害法の体系﹂同前掲書二〇頁. 環境行政研究会・前掲書七五頁︑横田・前掲書一四頁以下︑樋口陽一H佐藤幸治持中村睦男H浦部法穂﹃注釈. 横田・前掲書一五頁. 下. 国と地方の協働関係について︑環境基本法は第四〇条で︑﹁国及び地方公共団体は︑環境の保全に関する施策を講ずるにつき︑. 前掲﹃環境基本法の解説﹄三〇四頁. 前掲﹃環境基本法の解説﹄一五六頁. 前掲﹃環境基本法の解説﹄一〇二頁二五六頁・三〇三頁以下. 相協力するものとする︒﹂と︑明文をもって規定している︵前掲﹃環境基本法の解説﹄三二五頁以下参照︶︒ ︵23︶. ︵24︶. ︵25︶. 第二節 条例制定権の本質・根拠. ﹁地方自治の本旨﹂. 条にいうところの﹁地方自治の本旨﹂を︑特に国家権力との関係において︑どのように捉えるか︑という問題が横. を確認規定と捉えるか︑あるいは創設規定と捉えるかによって見解が分かれているが︑その背景には︑憲法第九二. 限りにおいて⁝条例を制定することができる︒﹂としている︒条例制定権の本質・根拠については︑この両規定. ことができる︒﹂と規定し︑これを受ける形で地方自治法第一四条一項が﹁普通地方公共団体は︑法令に違反しない. 地方公共団体の条例制定権については︑憲法第九四条が﹁地方公共団体は︑⁝法律の範囲内で条例を制定する. 1. 』. 19 20 21. 西原﹁4. __巻一一一. 22.

(17) たわっているものと思われる︒そこで︑まず︑﹁地方自治の本旨﹂とは何か︑ということについて考えてみることと したい︒. そもそも︑地方自治制度の意義が認識されたのは近代にまで遡る︒すなわち︑近代主権国家は︑それまでの封建. 体制と違って︑主権の単一・不可分性の理論の下に︑中央政府を通じて統一的な支配を行なおうとするところに特. 徴をもつ︒近代国家誕生時における理性万能の風潮は︑ともすると︑社会における多様性や各種部分社会の存在に. 国家からの自由. 個人の解放 の理. 対する否定的な態度へと帰結した︒しかし︑中央政府が全てを支配することは決して能率的ではないし︑また事実 上不可能である︒理性万能主義も︑行き過ぎれば︑近代市民革命が意図した. 想を︑かえって封殺でることになりかねない︒このようなことが次第に自覚されるにつれて︑地方自治制度確立の. ための様々な努力が払われるようになる︒そして︑当時の消極国家観︵夜警国家観︶ともあいまって︑地方自治制度. 民主主義の学校. としての役割. は︑地方の固有の文化を保存し住民の自発的・創造的エネルギーを蓄積・発揮せしめるものとして︑あるいは︑中 央政府の権力を抑制してその濫用から少数者や個人を守るものとして︑あるいは︑. を果たすものとして︑積極的に評価されることとなったのである︒ところが︑やがて︑近代市民社会およびその拠. って立つ基盤であるところの近代資本主義経済の弊害が顕在化し︑その是正を図るため積極国家への傾斜がみられ. るようになるにつれて︑国家は次第に国民生活の細部にまで配慮することが求められるようになり︑ここに再び︑. ︸元的・中央集権的統治への傾向が強まることとなる︒しかし︑全体主義の経験は︑権力の過度の集中の危険性を. 認識させるところとなり︑第二次世界大戦後︑地方自治制度は︑権力の抑制・均衡のシステムの重要な要素として. ︼四︸. 再評価され︑また︑議会制の問題状況とも関連して︑議会制を補完する役割を果たすことを強く期待されるに至っ 廃棄物処理間題と条例.

(18) 早法七〇巻二号︵一九九四︶. 一四二. たのである︒このように︑地方自治制度が権力の抑制機能および 民主主義の学校 としての機能という立憲民主. 制を維持していく上で不可欠な機能を果たすという認識は︑第二次世界大戦前後の政治社会の展開過程の中で経験. 的に体得されていくことになるのであるが︑同時に︑積極国家のさらなる進展は︑行政の範囲をますます拡大させ. るとともに︑きめ細かさを要求するに至り︑これは中央政府のみによっては十分になし得るものではなく︑もしそ. のようにしようとすれば︑徒に強力かつ彪大な官僚機構と国民の生活監視という事態を生み出し︑そのこと自体︑. 国民の自由にとって一大脅威となる︑ということが実感されるようになったのである︒そして︑このような脅威を. 回避しつつ︑国民の様々な要求にきめ細かく対応していくには︑それぞれの地域の住民の自発的参加と自律的決定. の下で政治・行政を進めていくことが必要になるが︑現代都市における人口の密集と極端な分業体制の展開は︑そ. こに住む人々の︑また︑そこで営まれる生産活動の自律性︵自立性︶をほぼ完全に失わせてしまったのであり︑都市. 生活から生ずる広汎かつ多様な要求は︑もはや市民自らの手で私的に解決することは殆ど不可能となっており︑そ ︵26︶. の結果︑全国的都市化現象の中にあって︑住民に手近な存在としての地方公共団体は︑その守備範囲と責任を飛躍. 的に増大せざるを得ない地位におかれているのである︒こうして︑地方自治の理念に特別の価値を認め︑地方自治. の制度を国家構成の基本として維持・発展させようとする国では︑地方自治が客観的情勢の変化や政治的・社会的. な力関係によって容易に崩壊する脆弱な制度であることを考慮して︑これを憲法の中に位置づけ︑あるいは︑これ ︵27︶. に明確な憲法上の保障を与えることによって︑国の政策や便宜による一方的な廃止や重大な侵害から擁護する努力. をすることになるのであり︑我が国においても︑戦後︑①地方自治団体の自主性ないし自律性の強化︵団体自治の強. 化︶︑②地方自治団体における住民参与部門の増大︵住民自治の実現︶︑③地方行政事務執行の公正確保を根本方針と.

(19) ︵28︶ する地方自治制度に対する改革が日本国憲法の制定と並行して進められたのである︒そして︑日本国憲法では︑特. に第八章を﹁地方自治﹂と題して四ヵ条の規定が配され︑そのうち︑第九二条が︑﹁地方自治の本旨﹂という︑旧憲 ︵29︶. 法時代には存在しなかった︑地方公共団体の組織・運営等に係わる憲法上の基本原則となる観念を憲法中に明示し. たのであり︑さらに︑日本国憲法の目指す地方自治制度を実現するには︑地方公共団体・地方行政の民主化と自律 ︵30︶ 性のより一層の強化および地方分権の徹底を図る必要があったことから︑地方自治法が制定され︑日本国憲法と同 ︵31︶ じ日に施行される運びとなったのである︒. では︑このような歴吏的背景をもち︑また︑このような立法過程を経て︑日本国憲法中に規定された﹁地方自治. の本旨﹂とはどのように理解すべきものなのであろうか︒従来︑この問題をめぐっては︑伝来説︑固有権説︑承認 ︵3 2︶ 説︵保障否認説︶︑制度的保障説など︑多岐にわたる活発な議論がなされており︑特に一九七〇年代には︑一九六九年. に制定された東京都公害防止条例に端を発する各地方公共団体の公害規制条例︵第一章第一節参照︶が︑﹁上乗せ条例﹂. や﹁横出し条例﹂である場合がしばしばみられ︑こうして各地に誕生したいわゆる﹁革新自治体﹂が国に対して対. 決姿勢を打ち出し始めたことが契機となって︑全般的に地方自治の重要性や価値が再認識され︑法律と条例との関. 係においても地方公共団体の自主立法権を強調する必要性があったことから︑﹁地方自治の本旨﹂ないし地方自治権 ︵33︶. を基本的人権や国民主権という憲法原理によって再構成しようと試みる新固有権説︵自然権的固有権説︶が 復活. する傾向がみられたりもしたが︑現在では︑地方自治の保障は地方公共団体の自然権的・固有権的基本権を保障し. たものではなく︑地方自治という歴史的・伝統的・理念的な公法上の制度を保障したものであり︑﹁地方自治の本旨﹂. 一四三. とは︑法律的規範概念としては︑国の法律をもってしても侵すことのできない地方自治制度の本質的内容ないし核 廃棄物処理問題と条例.

(20) ︵34︶. 早法七〇巻二号︵一九九四︶ ︵35︶. 一四四. 心的部分を意味するとする制度的保障説が通説となってきている︒そして︑この制度的保障説に立てば︑日本国憲. 法は︑地方自治をもって単に統治上の便宜の観点から設けたのではなく︑前述のように立憲民主制の維持という視. 点に立って︑その統治構造の不可欠の一部として地方自治制度を捉えているとみるべきであり︑国家による主権の. 独占︵いわゆる国家の主権︶と︑国家においてその主権をどのように構成し秩序づけるか︵いわゆる国家における主権︶. とは別個の問題であって︑国民は憲法制定権力の担い手として︑憲法を通じて︑統治権力を中央と地方とに分割し︑ ︵36︶. 立憲民主主義の観点からそれぞれに相応しい権力を分配したのであって︑それぞれの領域にあって国と地方公共団. 体とは対等な関係にあると解し得るとした上で︑他方︑﹁地方自治の本旨﹂という観念には二つの側面があるのであ. り︑そのうち︑侵してはならない核心という側面は︑国の法律の違憲判定の基準を提供するだけの規範力を備えた. 法的基準であるが︑もう一つの︑いわば地方自治の理想像としての側面は︑国の立法や行政的関与の指導理念とは. 7︶. なり得ても︑国の法律を違憲とするような規範力は有しないのであって︑地方自治のあるべき望ましい理想像が﹁地 ︵3 方自治の本旨﹂であり︑これに合致しない法律は違憲であるというのは理念論と解釈論の混同である︑と解すべき. こととなる︒そして︑このような﹁地方自治の本旨﹂に対する理解の仕方は︑条例制定権の本質・根拠とは何かと. いうこと︑さらには︑条例制定権の限界についての考え方に︑如実に現われてくることになると思われるのである︒. H 条例制定権の本質・根拠. 先に述べたように︵第一章第二節−参照︶︑条例制定権の本質・根拠をめぐっては︑主として二つの説が対立して ︵38︶. いる︒すなわち︑条例制定倦の根拠は︑地方公共団体の自治権を定めた憲法第九二条に求められるのであり︑憲法. 第九四条や地方自治法第一四条一項は︑条例制定権を確認して︑その法形式を明瞭にし︑その規定事項の範囲を他.

(21) の法形式との関係において確定するところに意味があるとする確認規定説と︑地方公共団体の条例制定権の根拠を. 憲法第九四条に求め︑日本国憲法の下では︑国会が実質的な意味での法規を制定する﹁国の唯一の立法機関﹂︵第四. 一条︶であるから︑地方公共団体が法規たる性質を有する条例を制定するには︑憲法に特にその例外を認める規定が. なくてはならないとの理由により︑憲法第九四条は︑地方公共団体が﹁地方自治の本旨﹂に基づいて当然に有する. ︵39︶. 権能を確認する趣旨ではなく︑むしろ︑創設的に条例制定権を付与する趣旨とみるべきであるとする創設規定説で ︵40︶. ある︒そして︑創設規定説では︑地方自治法第一四条一項は憲法第九四条を受けて名称︑形式︑規定事項の範囲等. を明らかにしているに過ぎない︑ということになる︒思うに︑既にみた地方自治制度の沿革に鑑みるならば︑すな. わち︑憲法制定権力の担い手としての国民が統治権力を中央と地方とに分割し︑それぞれに相応しい権力配分をし. たということ︑および︑国政レベルでの代表民主制を補完することによる立憲民主制の維持こそが地方自治の存在. 意義と考えられてきたことに鑑みるならば︑また︑後述するような︑特に環境行政における国と地方公共団体との. 関係のあるべき姿と思われるところに鑑みるならば︑﹁地方自治の本旨﹂について制度的保障説に立った上で︑当該 ︵41︶. 論点に関しては創設的規定説に立つのが妥当であろうと考えられる︒もっとも︑確認規定説も創設規定説も︑条例. を自主立法として捉える点︑すなわち︑条例は憲法により包括的に授権された地方公共団体の自主立法権に基づく. ものであって国の法律に準ずる性格を有し︑従って︑条例が自主法たる性質を有する限り︑その制定権は直接憲法. に根拠をおくものであるから︑一般的に地方自治を著しく困難にするような形での条例の所管・効力を法律で定め. ることは許されず︑﹁法律の範囲内において﹂ということをどのように解するかはともかくとして︑地方公共団体が︑. 一四五. 国の行政機関における命令制定の場合とは異なり︑自治事務として広く条例の所管とされた事務に関し︑法律の授 廃棄物処理問題と条例.

(22) 早法七〇巻二号︵一九九四︶. ︵42︶. 一四六. 権を待たずに適宜自主的に住民の権利義務に関する法規たる定めであるところの条例を制定できると考える点では. 共通しており︑その意味では︑条例という地方公共団体の自主法について基本的にその存在と独自性とが認知され︑ ︵43︶ 条例制定権自体の存在理由も確認されてきた今日︑一見︑あまり実のある区別・議論ではないようにも思われる︒. しかし︑地方公共団体の条例制定権を︑自然権的固有権の一環として憲法第九二条から導き出され同第九四条およ. び地方自治法第一四条一項によって確認的に規定されたものと解するか︑あるいは︑国政レベルの代表民主制を補. 完するために憲法第四一条の例外として同第九四条により創設的に規定されたものと解するかは︑国の法令との関. 係で条例制定権の限界を求めていく際の重要な分水嶺となるであろうことは︑まず間違いあるまい︒そこで︑本章. 第三節では︑地方公共団体の条例制定権の限界について︑従来︑法律先占理論がどのように見直され緩和されてき. たか︑また︑今後︑国の法令との関係ではどうあるべきなのか︑といったことを︑本節において述べてきた﹁地方. 自治の本旨﹂をどう捉えるか︑そして条例制定権の本質・根拠とは何かということに関する考え方をできる限り反. 地方自治の本旨﹂ジュリ増刊﹃憲法の争点 ︵新版︶﹄︵以下︑成田①︶二四四頁など. 佐藤・前掲書二四二頁以下︑伊藤正己﹃憲法︹新版︺﹄ 五八三頁以下︑小林孝輔編﹃憲法﹄三八二頁以下︑小林直樹﹃︹新版︺. 樋口他・前掲書一八七七頁など. 佐藤﹃憲法︹新版︺﹄二四三頁以下︑成田①二四四頁︑ 杉原泰雄﹁地方自治の本旨﹂法教一六五号一三頁以下など. 樋口他・前掲書=二七六頁以下など. 成田﹁踊. 原田④五八頁. 映させながら︑公害規制・環境管理に関する問題意識を織り込みつつ︑論じることとしたい︒. 26 27 28 29 30 31.

(23) 憲法講義 下﹄四二五頁以下・四四六頁以下︑原田④五八頁以下など︒なお︑宮本憲一﹁環境政策と国家の責任﹂全国公害弁護団 連絡会議編著﹃公害と国の責任﹄三頁以下参照︒. 時岡弘編著﹃条解. 日本国憲法. 改訂版﹄五六七頁以下︑杉原泰雄﹃憲法11. 統治の機構﹄四五七頁以下︑成田①二四. 佐藤・前掲書二四五頁以下︑樋口他・前掲書二二七九頁以下︑小林直樹・前掲書四二六頁以下︑伊藤・前掲書五入入頁以下︑. 有倉遼吉. 2︶. ︵3. 下など︒なお︑﹁地方自治の本旨﹂をめぐっては︑その後も︑公権力の概念を市民主権︑地方自治を市民自治に置き換えて︑地方自. 四頁以下︑原田④一八頁以下︑妹尾・前掲論文二二九頁︑河合義和﹁自治権﹂法教一六五号一一頁以下︑杉原・前掲論文一三頁以. 樋口他・前掲書一三八一頁︑成田①二四四頁︑村上順﹁2章. 自治体立法の意義と法的課題﹂原田11兼子・前掲書四七頁以下. 治の憲法的保障の意義を見出だそうとする考え方が生まれるなど︑学説上︑まだまだ錯綜した様相を呈しているようである︒ など. ︵33︶. 憲法1﹄三八八頁以下など. 佐藤・前掲書二四六頁︑樋口他・前掲書一三八四頁︑小林直樹・前掲書四二九頁︑妹尾・前掲論文二二九頁︑成田﹁地方自治. 4︶成田①二四四頁など. ︵3. ︵35︶. の保障﹂室井・前掲書︵以下︑成田②︶二五頁など. なお︑この他にも︑条例制定権の根拠として憲法第九二条と第九四条とを並列的に挙げる見解や︑条例を自主立法ではなく委. 成田①二四五頁. ︵36︶ 佐藤・前掲書二四六頁以下・二五三頁︑佐藤編著﹃大学講義双書 ︵37︶. 任立法であると解する見解などがある︵樋口他・前掲書一四一五頁以下︶︒. 8︶. ︵3. 9︶ 樋口他・前掲書一四一四頁以下︑有倉n時岡・前掲書五七五頁以下︑成田﹁法律と条例﹂室井・前掲書一〇〇頁以下︑妹尾・. 最高裁﹁新潟県公安条例事件﹂判決︵最大判昭和二九年一一月二四日︑刑集八巻一一号一八六六頁︶も︑条例は﹁地方自治の. 妹尾・前掲論文二二九頁. 前掲論文二二九頁など. ︵3. ︵40︶. 一四七. 条例と法律﹂﹃別冊法セミ・憲法1﹄二三二頁な. 本旨に基き︹憲法九二条︺︑直接憲法九四条により法律の範囲内において制定する権能を認められた自主立法﹂であると述べており︑. ︵41︶. 創設規定説に立つものと解されている︵妹尾・前掲論文二二九頁など︶︒ ︵42︶ 佐藤・前掲書二五八頁以下︑樋口他・前掲書一四一四頁以下︑中島茂樹﹁9 6. 廃棄物処理問題と条例.

(24) 早法七〇巻二号︵一九九四︶. 第三節 条例制定権の限界 ー公害規制・環境管理の観点から. 妹尾・前掲論文一一三〇頁参照. のである︒. 自己を主張できない. 一四八. 制定権の限界との関係で﹁法律の範囲内で﹂﹁法令に違反しない限りにおいて﹂の意味如何ということが問題となる. 例えば︑地方自治法第二条三項一号に掲げられている﹁住民及び滞在者の安全︑健康及び福祉を保持する﹂事務に ︵46︶ ついて︑国が全国的な見地から各種法律を制定して公害規制をなしてきたことはその一例である︒その結果︑条例. 方公共団体の利益などに配慮しながら︑その事項について統一的に定める法律を制定することがあり得るのであり︑. て︑自治事務に属する事項についてはおよそ法律で定め得ないということではなく︑国は︑国全体の利益や他の地. 方公共団体は︑自治事務として広く条例の所管とされた事務に関しては︑法律の授権を待たずに適宜自主的に住民 ︵45︶ の権利義務に関する法規としての性格を有する条例を制定できるのではあるが︵第一章第二節H参照︶︑だからといっ. るから︑一般的に地方自治を著しく困難にするような形での条例の所管・効力を法律で定めることは許されず︑地. すなわち︑確かに︑条例が自主法たる性質を有する限り︑その制定権はいずれにしても直接憲法に根ざすものであ. の所管が競合することを前提にして︑条例は法律に反してまで. ︸四条一項は︑条例は﹁法令に違反しない限りにおいて﹂制定され得るとしている︒これらの要件は︑法律と条例 ︵4 4︶ ということを示すものである︒. 既にみたように︑憲法第九四条は︑地方公共団体の条例制定権を﹁法律の範囲内で﹂認めており︑地方自治法第. _. ど. 43.

(25) この点につき︑古典的には︑条例の効力が法律に劣ること︑および︑条例の規定事項が法律に違反し得ないこと. をいう︑とする説もあったが︑その後︑国の法律が明示的または黙示的に先占している領域については︑法律の明. 示的な委任がない限り条例を制定できない︑すなわち︑法律に明文の定めのある場合はもちろんのこと︑直接明文. の規定はなくとも関連する条文や法律全体の趣旨からその事項については如何なる規制もしないで放置すべきもの. とされていると解される場合には︑それらは法律の先占領域として︑条例で法律と異なる規定をおいたり︑条例で. 規定すること自体許されない︑と解する法律先占論が登場してきた︒この法律先占論においては︑当初︑かなり厳 ︵47︶. 格な解釈がとられていたのであり︑わずかに︑法律と異なった目的であれば同一の対象について条例で規制を行な. うことも可能とされていた以外には︑法律の先占領域の観念を広く認め︑条例の規律内容が国の法律の規律内容と. 正面から矛盾抵触する積極的抵触の場合のみならず︑国の法律が規律の対象としている基準以下のものに条例が介. 入したり︑国の指定する地域以外の地域について条例で国の法律と同様の趣旨から同様の規制をしたり︑法律より ︵48︶. 厳しい規制をしたりすることは︑法律との関係では消極的ではあっても抵触することに変わりはなく︑このような 規制は全て違法であるとする見解が有力であった︒. しかし︑やがて公害規制の問題を契機として︑このような厳格な法律先占論には反省と批判が向けられるように. なる︒特に︑一九六〇年代︑公害問題が深刻化した時期には︑国の法律も︑かつて公害規制について地方公共団体 ︵49︶. の事務として処理されてきたものを国の事務としたり︑法定の規制基準を従来より緩和したりして対応しようとは ︵50︶. したものの︑いかんせん︑各地域における行政需要の変化や増大の速度に追いつくことはできず︑陳腐化してしま. ﹄四九. わざるを得なかったのであり︑一九六九年に制定された東京都公害防止条例に始まる各地方公共団体の公害規制条 廃棄物処理問題と条例.

(26) 早法七〇巻二号︵一九九四︶. 一五〇. 例が︑国の法律で定める規制基準よりも厳しい基準を定めたり︵﹁上乗せ条例﹂︶︑あるいは︑法令の規制対象以外の事. 項について規制を行なったり︵﹁横出し条例﹂︶する場合がしばしばみられるようになる︵第一章第一節参照︶︒はじめ. のうちは︑こうした条例もやはり法律に違反するとされていたが︑たとえ法律に違反しても住民の健康を守るため. であるならば憲法上可能なのではないかとの主張がなされるようになり︑さらには︑先にみた﹁公害国会﹂におい ヤ. ヤ. ヤ. て立法上の解決が与えられたこともあって︑従来の理論自体の再検討が迫られることとなる︒ここに至って︑法律. による先占領域を承認しつつも︑その範囲を当該法律が条例による規制を明らかに認めていないと解される場合に. 限定し︑法律違反というのは法律との抵触が明白な場合のみに限られるべきであるとする︑いわゆる﹁明白性の理. 論﹂が拾頭してきたのである︒この﹁明白性の理論﹂は︑公害規制条例以前から法律先占論の修正として主張され. ていたものであるが︑①当該事項を規律する法律がなく︑法律上完全な空白状態にあるとき︑②法律が規制してい. る事項と同一事項について当該法律とは異なった目的で規制するとき︑および③法律が規制している目的と同一の. 目的をもって︑法律の規制範囲外においている事項を規制するときには︑条例は法律に抵触せず︑逆に︑④法律が. 一定の基準を設けて規制している際︑それと同一目的で同一事項につき法律よりも高次の基準を付加するとき︑⑤. 法律が一定の規制をしている事項につきそれと同一目的でそれよりも強い態様の規制をするとき︑および⑥法律の. 特別の委任がある場合にその委任の限度を超えるとき︑条例は法律に違反することになる︑とする︒すなわち︑こ. の見解に立つならば︑条例制定権の限界は法律との積極的抵触の場合に限定して捉えられることとなり︑それ以外. の消極的抵触についての違法性は主張されなくなるが︑だからといって︑国の法律よりも厳しい基準を設けて条例. によって規制を加えることが一般的に是認されることを意味するわけではなく︑特に︑法律の明文の規定によって.

(27) 認められていない場合における条例の﹁上乗せ﹂﹁横出し﹂の可否は︑地域社会における具体的必要性と規制の合理. 1︶. 性︑利益の比較衡量と比例原則︑技術進歩の程度︑国の法律に定める罰則との関係等を総合的に配慮して個々具体 ︵5 的に判定すべきであって︑全く無条件・無限界に許容されると単純に解すべきではない︑ということになる︒そし. て︑このように考える背景には︑条例制定権を創設した憲法第九四条の下では︑その法律が積極的に﹁地方自治の. 本旨﹂を侵害するものであってはならないことは当然であり︑この﹁地方自治の本旨﹂という観念が国の法律の違. 憲判定の基準を提供するだけの規範力を備えた法的基準としての一面を有していることも確かではあるが︑それが. 全てではなく︑国政等の指導理念に過ぎない側面をも有しているのであるから︑地方公共団体の固有の自治事務領. 域について制定された条例が︑当該領域に係わる全ての法律を破る力まで認められているとは到底考えられないし︑. また︑条例は国家法ではなく自主法ではあるが︑その制定権が代表民主制を補完するために憲法第四一条に対する. 特別な例外として認められたものであることに鑑みるならば︑国法体系から全く独立した排他的・閉鎖的な地方法. 体系の存在を広く認める趣旨と解することもできないという︑﹁地方自治の本旨﹂に関する制度的保障説に立ったも ︵52︶. 市民権. を得た﹁明白性の理論﹂は︑その後も︑学説が混乱する中︑. のの見方︑あるいは︑条例制定権の本質・根拠についての創設規定説的な価値観が色濃く反映されているといえよ う︵第一章第二節1︑11参照︶︒. 公害問題が顕在化したことをきっかけに. しばらく通説的地位を維持してきたが︑これに対して︑多かれ少なかれ法律の先占を承認するということは国が地 ︵53︶. 方の事務を法律をもってしさえすれば任意にこれを国の事務に吸い上げることができるという発想に立脚するもの. 一五一. である等の批判が加えられるようになる︒そして︑一九七〇年代以降︑地方自治の再評価という一般的な政治動向 廃棄物処理問題と条例.

(28) 早法七〇巻二号︵一九九四︶. 一五二. の中で︑また︑地方公共団体が︑高まる地域住民の要求に対応するため︑規制力の弱い時代遅れの法律よりも厳し. い内容をもつ条例を制定することが多くなってきた一般的風潮の中で︑憲法第九二条の﹁地方自治の本旨﹂および. 生存権的基本権と経済的基本権との衡量から︑﹁法律の範囲内﹂を再検討し︑法律と直接抵触する場合以外はできる. だけ地域佳・自主性を尊重すべきであるとして︑全国一律の基準を設け均一的に法律で規制する場合あるいは法律. が規制の最大限まで規定していると解される場合には条例による一層の規制は許されないが︑法律が最小限のナシ. ョナル・ミニマムの規制を定めている場合には︑地域の特殊事情等を考慮して必要と認めるときに地方公共団体は ︵M︶ 条例によって独自に﹁上乗せ規制﹂や﹁横出し規制﹂を追加することも常に許される︑と解する説が現われ︑有力. 視されてきたのである︒そして︑この見解が前提とするのが︑地方公共団体の有する自治権は自然権的固有権であ. り︑憲法第九四条はその一構成要素たる自治立法権すなわち条例制定権の存在を確認したに過ぎないとする︑﹁地方. 5︶. 自治の本旨﹂に関する新固有権説︵自然権的固有権説︶の考え方であり︑条例制定権の本質・根拠に対する確認規定 ︵5 説的理解であることは︑いうをまたないであろう︵第一章第二節1︑H参照︶︒. 思うに︑﹁明白性の理論﹂も︑﹁上乗せ条例﹂や﹁横出し条例﹂の合法性自体を全面的に否定するものでは決して. ない︒当該理論は︑国の法令が変化する地域の行政需要に対応するにはあまりに時代遅れであったり陳腐化したり. していること︑条例制定権の限界に関する地方自治法の規定に不備があること︑条例制定権の限界について権威あ. る判定を下す機構やこれを求める手続制度が整備されていないことなどが︑第一線の地方公共団体において特に法. 律との関係での条例制定権の限界をめぐる大混乱を生じさせているということを認めた上で︑条例の本質を自然権. 的に解さず国家ないし国の立法府の授権に基づくと解したとしても︑合理的な解釈によって条例の制定範囲を拡大.

(29) することは理論的に十分に可能であるとするものである︒そして︑当該理論はむしろ︑条例制定権のあり方を考え. るにあたっては︑国法体系全体の統一性︑地方議会の立法能力︑条例の実効性等も考慮に入れなければならないと. の観点から︑近時の一般的傾向として︑国の法律による規制よりも厳しい規制をしさえすれば︑そのことが﹁地方. 自治の本旨﹂に即した正しい条例制定権のあり方であるとする考え方が拡大し︑国の法律より厳しければ厳しいほ. どよいというような安易な考え方が流布していることに疑問を抱いて︑固有の条例制定権を認めることが地方自治 ︵56︶. の擁護につながり︑条例の本質を国家の授権に求める考え方が官僚的中央集権主義につながるというような短絡的. 思考方法を諌める方向で主張されているのである︒以上のことに鑑みるならば︑そして︑そもそも事の始めから現. 在に至るまで国側の対応の不十分さが常に指摘され糾弾され続けており︑国の立法が各地方公共団体による条例の. 制定に遅れをとったために公害・環境問題に対する取り組みが各地域・各地方公共団体によって大きく異なる結果. となったこと︵序論参照︶に鑑みるならば︑公害規制の領域において︑地方公共団体が従来より極めて重要な︑しか. 民主主義の学校. として. も国に先んじた役割を担い果たしてきたこと︑そしてこれからもその責任はさらに増すであろうこと︑また︑地方 自治制度というものが地方文化の保存や中央政府の権力濫用の防止において︑あるいは. 果たす機能などを十二分に考慮したとしても︑﹁地方自治の本旨﹂や条例制定権の本質・根拠をめぐる法理論上のみ. ならず︑実際問題としても︑条例に法律に代わる地位を認めるかのような近時の有力説には︑やはり︑にわかには. 賛成し難い︒﹁明白性の理論﹂に立っても︑既に述べたように︑地域やそこに存在する住民の安全・健康・環境の保. 護などの問題に対処する際に︑様々な要素を視野に取り込んだ上で多角的かつ柔軟に対応していくことは可能であ. 一五三. るし︑むしろその方が望ましいともいえるのであって︑そのような柔軟な対応をしていく中で︑国と地方公共団体 廃棄物処理問題と条例.

(30) 早法七〇巻二号︵一九九四︶. 一五四. それぞれの果たすべき役割との関連における条例のあり方についても︑自ずとそのあるべき姿がみえてくるのでは. ないだろうか︒特に︑今日︑環境問題は︑後述するように︑それが発生した一定の地域の中や住民の間だけの問題 ︵57︶. では済まされず︑土壌︑空気︑水などを媒体として他の地域へも影響を及ぼし︑また︑場合によっては何世代にも. わたる問題となり得るという意味で︑空間的および時間的広がりをもつものであり︑その時々の個々の地方公共団. 体の条例による個別的な対応だけでは解決できないものなのであるから︑今こそ︑国が総合的見地からその果たす. べき役割を自覚して動くべきなのであって︑国の法律と地方公共団体の条例との関係も︑かかる視点から捉え直す. 佐藤・前掲書二六一一頁. べきであると考える︒. 44. 佐藤・前掲 書 二 六 二 頁. 成田﹁窟. 条例・規則﹄. 地方自治﹄二〇二. 日本国憲法﹄三七五頁以下︑高部正男﹃自治法行政講座4. 法律と条例﹂ジュリ増刊﹃憲法の争点︵新版︶﹄︵以下︑成田③︶二五〇頁以下など. 横田・前掲書一四頁以下︑成田③一一五一頁. 妹尾・前掲論文二三〇頁. 本稿執筆の直接の動機となった︵序論参照︶︑﹁焼却炉設置計画廃止勧告処分無効確認請求事件﹂︵福岡地判平成六年三月一八日︶. ︵49︶. ︵1 5︶. ︵50︶. 頁以下︑. 七四頁以下︑ 原田④五九頁以下・六一頁︑高田敏﹁条例論﹂雄川一郎U塩野宏匪園部逸夫﹃現代行政法大系8. 前掲書四七七頁以下︑佐藤編著﹃要説コンメンタール. 佐藤・前掲書二六三頁︑佐藤編著・前掲書三九六頁︑小林孝輔・前掲書三九四頁以下︑小林直樹・前掲書四七七頁以下︑杉原・. 狂犬病予防法と畜犬︵飼犬︶取締条例との関係である︒. 佐藤・前掲書二六三頁︑佐藤編著・前掲書三九六頁︒なお︑このような場合にあたる例として︑従来︑よく挙げられてきたの. 45 46 48. 47. 佐藤・前掲書二五八頁以下︑樋口他・前掲書一四一四頁以下︑中島・前掲論文二三二頁など. )が___).

参照

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〔追記〕  校正の段階で、山﨑俊恵「刑事訴訟法判例研究」

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