Brauerの置換補題についての考察
津 島 行 男 1 数学において,内容自体は誠に簡単であるにもかかわらず極めて幅広い応用 力を持つ命題がいくつかある。最近の状況にそくした一例を上げるならばひと 昔には有限群論(あるいはその表現論)の専門書でなければ殆んど解説されるこ とのなかった置換群の作用による軌道の個数の計算式(後出の定理3)が最今 の情報数学とその関連諸部門の急速な発展と普及にともなって,組合せ論に関 する(専:門書はもとより)入門書にまで見受けられるようにな:ってきた。これは 写像の同値類の個数に関するP61yaの定理の証明に深く関わっているからで ある。 本題に入り専門的となるが,ここで問題にするBrauerの置換補題とよば れる命題もその内容の簡明さに比してはるか大きな貢献を有限群の表現論にお いてなしてきたものである。まずその命題をのべてみる。 定理1(Brauer)有限群⑤がn個の元より成る2っの集合X={1,2,……, n},y={x, y,……, z}の上に置換群として作用しているものとする(⑤の 元の作用は右から書く)。さらに体し上のn次正則行列,A=(ai,y)があって (*i ) atetye=ai!y がすべてのσ∈…⑤,i∈X, y∈Yについて成り立っているとする。このとき 次の2つが云える。 (i)⑤の各元σに対し,σで固定されるXとYの元の個数は一致する。 ([1}XとYの⑤一軌道の個数は一致する。Brauerの目的はこの結果をAが与えられた有限ge Gの一日分解行列の場 合に応用して,GのP一共役指標の類の個数についての情報を得ることであ った(〔1〕The・rems 11,12,および永尾・津島〔4〕V章定理4.・18参照)。一方ポピ ュラーな応用例としてはAをGの既約指標表にとっていくつかの古典的結果 についての簡単な別証を得ることができる(〔4〕皿章系2.20および問題皿一8参 照)。これをもう少しくわしく説明するためいくつかの記号を導入する。Gを 位数gの有限群とし,Fを体とする。 Fの標数一Char Fと表わす一が0の 場合はζを1の原始g一乗根とし,Char F=p>0の場合はgのρL部分を 勉としてζを1の原始h一乗根とする。L=F(ζ)はFのガロア拡大であり, ⑤=Gal(L/F)をそのガロア群とする。以下Char F・・p>0の場合はgを’h に読み代え,Gの元はp一正則元だけをとることにする。各σ∈③に対し整数 mが決まってζσ=ζ肌となるが勿はmod gで一意的である。よってGの元 κに対しxσ・==・xmとおくことによって⑤はG(あるいe* GのP一正則元の集 合Gp’)の上に作用し,これはまたGの共役類の集合C工(G)(あるいはp一 正則類の集合C1(Gp’)上への作用を導くd.Fとしの中間体Kに対してIrrk (G)をGの既約K一指標全体の集合とする。㊤は自然にIrrL(G)上に作用 する;geItrL(G),σ∈⑤に対し(gσ)(x)==、g(Xa’i), x∈G。特に(gσ)(xσ) =9(x)である。すなわち定理1において③=Gal(L/、F), X=IrrL(0), Y =Cl(G)(CHar F=Pの場合}* Cl(Gp’))とおき, AとしてGの既約L一指 譜表をとると条件(*)が成り立つことになる。特に佃より次のことがいえる。 KをFとしの中間体とすると ・ (1.1)IrrK(G)の個数はCl(G)のGal(L/K)一軌道の個数に等しい (Char F =pの場合にはCI(G)をCl(Gp’)におき代える)。 もちろん証明にはIrrκ(G)の個数がIrrL(G)のGal(L/K)一軌道の個数: に等しいという結果が必要である(〔4〕全章定理1,30)。ただし(1.1)は Burnside〔2〕において実質的には証明されていることであるが,この点につ
Brauerの置換補題についての考察 35 いては後にもう一度ふれることとする。次tl:(1)の応用を考えるためFを標数 pの素体とするとしは有限体となり,⑤はσ:L :L(aトー→bp)で生成された 巡回群となる。K=OF(pn)とおくと次が成り立つ。 (1.2)Kで実現可能な既約L一指標の個数はCa”・・CとなるGのp一正 忠類Cの個数と一致する。 上の結果においては正回数であることは必須である(Schur指数が常に1)。 標数0の場合への応用例としては次のBurnsideの定理が直ちに得られること である。 (1.3)Gを奇数位数の群とする。このとき常に実数値をとるようなσの複 素既約指標は単位指標に限る。 もちろんもっと一般的にGの実既約指標の個数はGの実共役類の個数に等 しいことが知れる。 II 定理1は体しの標数に無関係に成り立つ結果であるが,実はBrauerは標 数が0の場合にのみ証明し,正標数の場合も証明の修正は必要であるが正しい 旨を欄外に記すに止めた。これは彼にとって応用上は複素数体の場合で十分で あった事にもよる。その後正標数の場合がたとえ非公式のものであったにもせ よ,どの程度議論の対象とされたか知らないが1982年に至って初めてKov6cs 〔3〕によって明確な証明が響けとなった。ただしそれは彼がC.Curtisに宛 てた手紙をロンドン数学会がそのBulletinに公開するという形式であった。 彼はBrauerめ原証明をそのまま採用することは出来ないと断わった上で組 合せ論的な考察とSmithの名のついた有名な行列式((i,ノ)成分がゴとノ の最大公約数であるようなit次行列式の値はφ(1)g(2)……g(n)で与えられ る。ここでgはオイラー関数である)を用いて正丁数の場合の証明を行なった
のである。 さて本論説の目的は定理1(特に正標数の場合)を加群論的な立場から取り扱 うことである。背景として使われている事実はやや程度の高いものであるが, 今や常識となっている理論からの帰結であり,1941年以降の数学の発展の上に 立った証明と考えてもよい。 定理1の記号の下でLXをXで張られたL上のベクトル空間とし, L⑤を⑤ のし上の群環とする。自然な作用でLXは右L⑤一加群と考えられる。 LXか らしYへの線型写像が%次行列A=(ai,y)で表現されているとき,これがし⑤ 一準同型となるための必要十分な条件は(*)が成り立つことである。これを補 題の形で記しておく。
補題2LX=tLYすなわちLXとしγが五⑤一同型となるための必要十分
な条件は(*)をみたすn次正則行列A==(αi,y)が存在することである。 これよりChar L= Oの場合には定理1(1)は同型な山群は同じ指標を持つこ とを述べているに他ならないし,従って(11>もBrauerの論法と同じく次の古 典的事実より直ちにわかる。 定理3 有限群③が有限集合Xの上に置換群として作用しているものとす る。③の元σの固定点の個数をμ(σ),X上の⑤一軌道の個数をmとすると 次が成り立つ。 m「謡・(・) 次にChar L= P>0とする。定理1を示すにはQを有理数体とするとき (**) .乙XtL}7ならばQX tQY を示せば十分である。Zを有理整数環, Z*とQ*をそれぞれρ一進整数環, p一進体とし,F・=Z/(p)とおく。よく知られているようにLX tLYよりBrauerの置換補題についての考察 37 FX Ct FYが得られる(Noether・の定理,〔4〕皿章定理3.1)。一方完備局所ec Z* 上の置換加群においてはZ*③一寸群としての直既約分解とF⑤一加群として の直既約分解とはmod pを通して1対1に対応するから(〔4〕N章定理8,9) 結局Z*XCt Z*Yが成り立つ。従ってQ*X CtQ*yとなり,再たびNoether の定理を用いてQX=QYを得る(実はもっと強く,ZのPtc k’ける局所化Zpに 対しZpXatZpYが云える。これにはMarandaの定理(〔4〕問題N−21)を使えば よい。) III 第1節で述べたことであるが(1.1)は実質的にBurnside〔2〕によって 知られているといってよい。事実K=Qの場合(1.1)の意味する所はGの 既約②一指標の個数が0の互いに共役でない巡回部分群の個数に等しいとい うことであり,これは同書§235の定理Mである。実は彼にとってもAを指標 表にとると定理1の条件(*)が成り立つことは理解されていたとみてよいが, そこからAの行と列に対する(ガ・ア群の)2っの作用が一Brauerが洞察した 様に一複素表現として同値であるという具合には進展していない。しかしなが ら彼の§§234−235の議論を現代風に翻訳すると定理1(ll)が直i接証明されてしま うのである。すな:わち定理1の記号の下でV・LYとし, V,を③のすべての 元で不変なy’の元全体のつくる部分空間とする。云うまでもなくV1の次元は Yの⑤一軌道の個数と一致する。各i∈Xに対しei=Σα瀦とおき, E= vey {el,……, en}とするとAは正則であるからEはVの基底となる。さらに条 件(*)よりeiσ=et.となる(σ∈⑤。すなわち⑤はEの置換を引き起す。こ の基底をもとにV,の次元を考えると,それはXの⑤一軌道の個数に一致する から結局團が証明された。 文 献 (1] R. Brauer: On the connection between the ordinary and the modular cha− racters o!’groups oノ伽ゴ’θorder, Annals of Math.,42(1941),926−935. 〔2〕W.Burnside:Theory o/g70螂。∫伽ガ’θorder,2nd ed., Cambridge Univ.
Press,1911(邦訳:有限群論伊藤昇・吉岡昭子共訳,共立出版㈱,1970) [3] L Kovics: The, Permutatiun lemma of Richard Brauer, Bull. Londqn t
Math. Soc., 14 (1982)’, 127−128.