Title
「地方分権としての一国二制度」(一)−沖縄を国際自
由都市・フリーポートに−
Author(s)
平良, 朝男
Citation
沖大経済論叢 = OKIDAI KEIZAI RONSO, 20(1): 71-143
Issue Date
1998-03-20
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/6822
「地方分権としての一国二制度」(一)
-沖縄を国際自由都市・フリーポートに-
消費者主権の向上のために 日本の経済社会構造改革のために 国民・県民の生活はこうなる 沖縄大学法経学部教授平良朝男
目次 節節節節 1234 -早第第第第 序 大変革の時期 大変革の秘策 沖縄の命題 一国二制度的な経済主権を持つ「国際自由都市(フリーポート)」 と「沖縄コミッション」 第一章世界の現状と課題 第1節今日の世界の経済社会状況 第2節高所得追求型経済発展の限界 (1)日本の経済社会の仕組みの欠陥 (2)デフレ経済学試論 第3節アジア地域の経済発展と問題点 -71-第二章日本の果たすべき役割 第1節新しい日本外交のスタンス(外交理念)の構築 第2節ODA(政府開発援助)の現状 (1)1997年度の予算 (2)援助のランク(グランド・エレメント) (3)曰本の援助に対する批判 第三章沖縄県の果たすべき役割と経済社会開発の方向 一国際交流、国際貢献、国際ビジネス、国際観光・保養のキーストーンの 形成をめざして- 第1節国際交流、国際貢献、国際ビジネス、国際観光・保養のキーストー ンの形成 第2節地元産業の現状と課題 第3節一国二制度的な経済主権を持つ「国際自由都市(フリーポート)」 (1)FTZの形態 (2)大義・戦略・ねらい (3)克服すべき課題 (4)FTZの中身と管理運営主体 (5)インフラの整備 (6)経済活動 (7)物価と消費者と地元企業・産業界 (8)県内企業・産業界の反応・対応 (9)国際機関・機構 (10)教育 (11)治安 (12)基地 第4節「沖縄コミッション」の掌握範囲 第5節経済活動の自由化と庶民生活への影響 (以下次回掲載) -72-
第四章具体的提案 第1節沖縄の教育改革一バイリンガル県をめざして- (1)英語の公用語化 (2)「沖縄国際学園構想」 第2節アジアユニバシアードセンター(AUC)の設置 一各国の地方自治体・団体との交流促進をめざして- (1)「留学生10万人受け入れ計画」 (2)アジアユニバシアードセンター(AUC)の設置 (3)その他の機構 (4)アジアユニパシアードセンター(AUC)の規模と機能 第3節土地問題と新しい土地利用計画一土地神話の崩壊をめざして- (1)施策の提言(1)-沖縄全島買い取り (2)基地の功罪 (3)施策の提言(2)-米軍基地の北部への集約 第4節物流コンプレックスの形成と「国際入札センター」の併設 一曰本の高物価構造社会の崩壊をめざして- (1)ハブ港湾の建設と「便宜置籍船の母港化」宣言 (2)流通改革も消費者主権で 第5節「アジア安保機構」と「アジア開発機構」の設置 一紛争抑止と「平和の配当」をめざして- 第6節「国際人材銀行」の設置 一人材・ノウハウの交流・触発を求めて- 第7節国際観光・保養地の形成 一低価格・長期保養・長期滞在型観光地をめざして- (1)長寿の島づくり (2)民族文化芸能の振興 一島蝋文化芸能の保存とその振興を求めて- (1)発想・生活・価値観の多様性 (2)プロモーターとしての沖縄 -73-
第8節ニュービジネス・ベンチャービジネスの興隆 一アジア太平洋におけるビジネスのキーストーンの形成をめざして- (1) (2) (3) 第9節 沖縄の情報産業の戦略 マルチメディア社会 マルチメディア巨大市場の出現 200万人都市の形成 一他民族同居型都市形成をめざして- 資料編 -74-
序章
第1節大変革の時期
今、日本の経済社会は大変革を迫られている。対外的には、戦後50年にわた って曰本の繁栄を支えてきた経済社会の枠組みが、グローバリゼーションが進 展している国際社会に通用しなくなっており、効率が悪く国際競争に耐えられ なくなってきている。また国内的には、バブル経済崩壊後の日本経済状況を改 めて眺めてみると、520兆円(1)にのぼる財政赤字、産業の空洞化、金融市場の 低迷と混乱、教育問題、人口の高齢化、政治機能の不全等と明るい材料は全く なく閉塞感が漂っている。加えて高物価構造社会をつくりあげてしまったため、 国民は世界でも最高の所得を得ながら“ゆとり”がなく、所得に見合う豊かさ を享受できないでいる。 現在の日本は経済社会システムが構造疲労を起こしており、思い切った刷新 をしない限り活力ある社会の再生は望めない状態である。 このような社会状況を抜本的に刷新して行くのは日本の誇る優秀な官僚達で あると錯覚しがちであるが、優秀でない割に猫の目のように変わる政権であり、 政治家達でなければならない。ここで気落ちしそうになるが、民主主義の原点 に立ち返って考えてみると、立法=行政=司法である。50年間で築き上げてき た強大な官僚組織と短期間で誕生し消滅する政権とではそのせめぎ合いの結果 は常に政治く官僚となるが、その結果が今曰を造りあげたのである。このよう な経過を認識し、反省するならば、既存の経済社会システムを造りなをすまで は政治〉行政の状態でなければならない。社会システムが機能しなくなったり 公平・公正さを欠く社会状況が生じた場合、これを刷新して行くのは政治の使 命だからである。 このようなことから今一番大事なことは、為政者の今日までの日本経済社会 システムのもたらした功罪に対する洞察であり、新しい時代に向けた高い指導 理念であり、政治的指導力と決断力であり、改革の主役としての国民の意識改 革である。 -75-具体的には、これまでの社会経済活動の枠組みを、曰本固有の経済活動慣行 からグローバルスタンダードへ、生産者主権から消費者主権へとシフトしてい かなくてはならない。 特にこの消費者主権について言うならば、これからの時代は消費者としての 国民・庶民が主役であり、つねに改革への圧力を政治を通して行使していくこ となしに生活の改善はあり得ないことを国民も自覚すべきである。世相も男社 会から女社会へシフトしているが、戦後50年経ってやっと消費者としての主役 ・家庭の主婦・女性が主権を取りつつある。今後は女性の消費者としての主権 意識が社会変革の原動力として働くはずである。また、新しい変革は若者の挑 戦の時代でもある。年寄りが支配し、硬直した時代よりもリスクもあるがチャ ンスもある時代の方が若者の努力と創造力が報われるからである。 しかし、一部には現状を是認し変化を好まない者も多い。これから訪れる変 革によって、これまで培われてきた日本独特の文化やアイデンティティーが変 質するかもしれないというのが大方の主張であるが、変化はまた新たなアイデ ンティティーの創造へとつながって行くはずである。このことを我々は戦前戦 後を通して見てきた。結果が戦前のままがよかった、という人は少ない。 “改革の敵は通念である',この信念が今の為政者、曰本国民そして地方自治 体、就中大きな変革を期待されている沖縄県民にとっては最も必要であろう。 曰本は明治維新、そして第二次世界大戦での敗戦という二つの衝撃波によっ て国家体制・社会体制の改革を迫られ、近代化・民主化を成し遂げることがで きた。俗に言う、外圧による変革である。そして今日の繁栄を築くことが出来 た。 自ら引き起こした今次大戦では、先進国の領土拡張競争の後追いをし、敗戦 で生産設備・生活環境を壊滅的に破壊されたが、農地改革、財閥解体、教育改 革、税制改革等と、期せずして前近代的・非効率な社会体制を根底から改革す ることができた。結果として社会の民主化を実現でき、効率的な経済社会活動 の枠組みを造り上げる事ができた。 また、日米安保と抱き合わせで出来た新憲法は、日本が曰米安保の傘の下で 軍事費という無駄なコストを最小限に押さえ、経済活動に専念できる環境をつ -76-
くってくれた。 このことによって国民は敗戦の痛手を精神・物的両面で被ったが、新しい枠
組みの下で個人の自由意志と能力に応じて縦横に活曜できる社会環境を造りあ
げることができた。基本的人権が保障され、自由で平等かつ公平・公正な社会 でこそ個人の自由意志が縦横し、能力が発揮ざれ経済・文化は繁栄するものである。そういう社会状況が実現したのである。そのため国民の活力は大いに高
まり、経済社会活動面での効率は格段に上がった。そして、不戦を誓ってひた すら経済活動に専念した。その結果、各分野での国際競争力は高まり、今日の 経済大国を築き上げるまでになったのである。 このように敗戦以来、日本社会はこれらの社会改革。民主化によって順調に発展してきたが、今度は、これらの枠組みをペースにしての発展の限界に来て
いるように思われる。人間も組織も国家も生誕50年を迎えると体力的、組織的
疲労を起こすのは自然の現象であるが、日本の国家体制・機構も丁度そんな時
期を迎えている。近代国家の盛衰の消長を見ると、その寿命は50~80年のタームを持っている
ように思われる。18世紀の初頭、イギリスが産業革命を機に隆盛を極めた。次
いで、第二次世界大戦を境にアメリカが覇権を取り、世界の秩序づくりを主導
した。しかし、このアメリカは自ら世界の警察の役割を買って出て、その軍事
費の負担等で相対的に経済力が低下してきている。 一方、日本はその傘の下で平和憲法を盾に取り、経済活動に専念して、アメリカの経済力の相対的低下を尻目に経済大国Iこのし上がり、戦後50年目の'90
年代は頂点を極めた。しかし、今、その陰りが見えてきている。このように見てくると、曰本の繁栄の寿命も此処までか?という悲観論的
な捉え方もあろう。しかし、この間の日本経済の活力・生命力を観察すると、
これらのブレーキの元凶が幾つか見えてくる。その最たるものが、土地神話を作り上げている土地問題であろう。一生、真
面目に働いても家一軒も造れない、という反面、土地を所有している者が一生
働かずして貴族の生活をしている、と云う公平を欠く社会状況になってきてい
る.また、一坪の土地が1億円もするという奇怪な現象を産み出したが、これ
-77-は当然の事ながら“バブルの崩壊”を招いた。 国民共有の社会資本を整備する場合においても、土地取得が莫大な資金と長 い年月を要し、ひいては経済活動のコストを上げ国民生活の質的向上を著しく 阻んでいる。 また、国際化が進展し、地域経済圏の形成が進んでいる今日、ハブ空港(2) ・港湾の整備や利用サービス面でも諸外国と較べても破格に高く敬遠されてき ている。このようなことから日本は国際化あるいは地域経済圏でのインフラづ くり、サービスの場面で、国際競争力を失ってきている。 現在の金融界の大混乱も、市場では株価の低迷をその主要な原因にしたがる
が、根は外国ではあまり見られない日本独特の土地問題の失策から派生してい
る事を看過してはいけない。 さらに、当初国内産業を保護育成するために設けた諸規制が、今や国内の物価を上げ、国内産業の近代化の足伽になっているし、中央一極主義が都市の過
密と地方の過疎を産みだしている。教育分野を見ると、国際化のトレンドの中で不可欠なコミュニケートの手段
としての英語教育は非効率的で、日本から外に出るにせよ、外国から日本に来
るにせよ言語障壁は今なお高い。かつて、日本の教育のレベルは高く、その教育システムはキャッチアップの
過程では極めて効率的で、日本の経済社会繁栄の基礎の一つでもあった。しか
し、経済面でも技術面でもトップクラスになってくると、今度はクリエイテイ
プな国民の資質の向上が課題になってきており、従来の教育システムの見直し
が迫られている。その中でも、市民サービスを預かる行政は比較的うまくいっているように思
えるが、これとても最小のコストで最大のサービスを提供しているかどうか、
という基準に照らして見るといかがなものか?「小さな政府」論は一種の自
浄活動だといえるが--一方、政治面では自民党が戦後の混乱を沈静化し、国民の民意をほぼ掌握し
曰本の経済社会発展を推進してきた。俗に言う政治の安定が日本の経済社会発
展の一因であったことは疑う余地はない。しかし、長期にわたる政権で政財官
-78-の癒着、派閥、金権、利権、不透明、不公平等の錆が付着し、寿命を縮めて来 ているのも事実である。 そして、今や汗をかき、真面目に働く者が正当に報われず、既得権者や特定 の集団が利益を守るために民主主義のツールである“多数決原理”という錦の 御旗(建て前論)を振り、公正さを欠く社会現象が容認されている。 そもそも、政治は「最大多数の最大幸福」を指向し、その実現に向けて努力 するのがその使命である。従って、社会制度や機構が時代の流れと共に機能し なくなったり、社会のゆがみや歪みが国民生活に悪影響を及ぼす時点で、その 軌道を修正ないしは抜本的な制度改革を行なう、という不断の社会改革が行わ れなくてはならないはずである。しかるに、このようなことが国民の目に見え る形で行われていない。そのために今、政治不信が噴出してきている。 イギリスやフランスが戦勝国でありながら敗戦国の日本やドイツに経済面で 溝を空けられているのは、戦勝国だっただけに社会改革を怠ったからである。 国民の人権、自由、平等、公平を保証する社会体制という観点から見た場合、 敗戦国の日本やドイツが今や勝っており、その分経済活動、社会効率等の面で 戦勝国のイギリスやフランスに勝っていることは明白である。従って、その分 諸活動の面で優位性が積み重ねられてくるのは当然の帰結といえる。 このように、人権、自由、平等、公正をはばむ社会制度や体制を改革して行 くことを怠ると、戦勝国といえども社会経済活動の効率を低下させ、国際競争 に後れをとり、ひいては衰退を余儀なくされて行くものであることを銘記しな ければならない。 従って、このまま現状を容認し放置しておくならば、日本社会の活力やモラ ルは低下し、ひいては国力の低下を招きかねない状況である。 翻って世界状況を見ると、冷戦崩壊後、人類の共通の課題である「地球環境 の保全」、「食料問題」、「貧困」等と新たな課題がクローズアップしてきた が、かつての超大国は相対的に経済力、指導力が低下し多極化が進んでいる。 そのため、「21世紀に向けての世界の新しい秩序づくり」を経済大国日本に対 しても期待する機運が高まって来ており、特に一昨年の11月に大阪で行われた APECの会議においては、アジア・太平洋地域の経済圏形成に対して、日本 -79-
がイニシャチブを取って主導する事が強く求められた。(3) 従来、曰本のODAは「開発途上国の経済・社会発展、福祉の向上を図るこ とを目的としており、この事を平和国家日本の最も重要な外交手段、国際貢献 の柱としている」(4)としているが、海外援助が戦後賠償で始まった経緯から、 外交理念がなく常に控えめで消極的に“応分の対応”をしてきた。そのため、 今や曰本はアメリカを凌駕して援助大国になり援助を続けているにもかかわら ず、これまでの評価は芳しくない。 以上のような観点から、成熟し硬直しつつある日本の社会を、今日の国際化、 情報化、高齢化社会に適応できるように抜本的に改革し、日本社会および国民 の活力を再生させ、国際貢献が出来る基礎づくりを進めなければならない。 しかし、このような社会制度や機構を変えるには、これまでの発想の延長線 上での施策や微調整では限界がある。今再び、明治維新や敗戦のような、外部 からのカタストラフィックな事変が必要かもしれない。前述の二つのカタスト ロフィー(明治維新および敗戦)は外部からの圧力によってもたらされたもの であるが、これを自らの手で民主的に、市場原理に基づいて押し進めることが 出来るかどうかに曰本の将来が係っており、国民の合意が得られるドラスチッ クな提言、施策の展開が急がれる所である。
第2節大変革の秘策
1993年8月の俗に言う55年体制の終焉と細川非自民政権誕生以来の政治混舌L からやっと抜け出し、久々に安定政権をつくった橋本政権はその対応として政 治改革、行財政改革、金融改革、福祉・医療改革、教育改革そして規制緩和、 地方分権の推進と大きな6つの改革を公約した(5)しかし、これまでの経験か ら強大な官僚機構の前になし崩しに葬り去られるであろう、と経験則を述べる 懐疑派も多かった。ところが、各改革分野でこれまでにない大鉈を振るって改 革を推進しているが抵抗は少ないわけではないが6~7割程度は実現されてい る。今や国家官僚も曰本はこのままではいけない、改革をしなければ国際社会 の進展について行けないということを認識しているからである。これはこれま -80-での日本の歴代の総理にも見られない大英断であり、日本の経済社会の枠組み をある程度変えて行くことは間違いない。 しかし、私は曰本社会が今はまっている閉塞感の本質的な病根はこれらの対 象療法では切除されないだろうと思っている。 それは一つには曰本社会が今変革を迫られ、本気で変革しなければならない 本質はこれまでの生産者主権から消費者主権へのシフトである、という根元的 な問題意識に依拠していないからである。日本国民は先進国の中でも最高の所 得を得ながら高物価構造社会のために所得に見合う豊かさを享受できないでい るということは前にも述べた。私の見たところでは曰本の半分程度の国民所得 のシンガポールの国民の方が経済的には日本人よりも遇かに豊かな生活を享受 しているように見える。これまでのような日本の高物価社会構造、その基盤に なっている土地問題、またそれを加速している曰本独特の閉鎖的流通機構、国 際性、創造性、倫理性を欠く教育問題の解決こそが消費者主権の回復の一義的 課題でなければならない。このために規制緩和が進められており、消費者品目 の価格破壊に見られるように一定の効果をあげては来ているが、肝心の曰本独 特の流通機構、土地問題に手を着けずに進められて来ているところに本質を見 失っているという問題点がある。 二つ目は、これまでの-国繁栄主義から共存。共生への先導的役割の自覚の 欠如である。国際社会での指導理念を持っていない日本にとっては最も苦手な 分野だが、今後は試行錯誤を重ねながらもやってゆかなければならない立場に 立たされている。 このような時代を画するような命題に対応し社会改革を断行するには、現在 の日本の政治的力量を勘案すると100名の橋本総理がいなくては実現はできな いであろう。では、絶望かというと、そうではない。以下、-人の橋本総理と 一人の梶山静六(前官房長官)、そしてこの二人の執念を支える内閣閣僚がい れば可能な提案を行ってみたい。 結論から先に言うと、沖縄を一国二制度的な経済主権を持つ「国際自由都市 (フリーポート)」にし、沖縄を先行して改造する事である。 沖縄は人口規模でみると、ほぼ曰本の百分の一で、離島県であること、アジ -81-
ア太平洋経済圏のほぼ中央に位置していること等から日本改造のレプリカとし
て格好のサイズと場所にある。このことについて地元では太平洋戦争末期以来
の沖縄に対する処遇を起想して、何もモルモットになる必要はない、という者
もいる。しかし、日本は変わらなくてはならないのであり、沖縄の変革が成功
しなければ曰本も沈没する。その意味で国策として政府もあらゆる手を尽くし
て是非とも沖縄で成功を収めなければならない、いわば運命共同体である。
第3節沖縄の命題
では、沖縄はどのように変わろうとしているのか?どう変えるべきか?今沖縄が平和、共生、自立を理念として「国際都市形成構想」を掲げ、自ら
が変わろうとしている。そして本土側も閣僚、政界、各省庁、国民あげて支援
をする雰囲気になっている。しかし、この支援する雰囲気の中には二つの思いが含まれている。-少女の
暴行事件(6)に端を発し、基地の偏在がもたらす諸々の重圧に対する県民への
同情と曰本の構造改革のパイロットゾーンとしての期待とである。当然比重は
後者でなければならない。沖縄側も基地の偏在、高失業率、全国平均の7割の県民所得の改善を口実と
する了見の狭い発想をしているが、これまで述べたことを勘案し、沖縄のロケ
ーションの良さを高度に活用するには、沖縄を曰本、沖縄そしてアジア太平洋
の経済社会発展のために“共用の場”とするのがよい。そうすることによって
自ずとこの地域に必要な国際機関が集積する。例えば、APEC会議は特定の
本部を持たず各国持ち回りで開催しているが、沖縄に本部を置けば会議の開催
は各国持ち回りにせよ年間を通して本部事務が沖縄で展開されることになる。
(しかし、シンガポールに先取りされている)大田知事もこれほど国内の関心を集め、近隣諸国の注目と期待を集めると、
地域エゴに固執することなくシンガポールのリー・クアンユー元首相やマレー
シアのマハティール首相のように理想を高く掲げアジアの将来のあるべき姿を
標傍し、一定の役割を買って出る姿勢が欲しい。
-82-沖縄の「国際都市形成構想」は地元の事情を反映して基地の偏在、高失業率、 本土平均の7割程度の県民所得等の改善、そして自立を支える産業基盤の確立 が課題である。従って、この様な現状を打破し、将来発展の戦略として基地返 還を求め、その跡地に産業集積を図り自立の基盤を造成してゆこうというもの である。 私は基地もある意味では社会資源として必要だと思っている。「アクション プログラム」(7)で2015年までに沖縄にある基地を完全に撤去するという想定 になっているが、これは沖縄側の願望で、ある程度の整理縮小はありうるが、 北朝鮮、南沙諸島、尖閣列島、台湾問題等に加えて人権問題、民主化問題等が ある限り10年先は不透明で、予定通りに行く保証はない。そうであるならば、 基地の存在を社会資源として逆利用し、後で述べる「アジア安保機構」や「ア ジア開発機構」を創る担保として利用する等の発想の方が現実的でもあり建設 的である。また、経済的観点からしても、1,600億円(8)の金を外部から県内に 呼び込む企業の集積は言っているほど容易ではないはずである。麗沢大学のド ナルド・モース教授もこのことを強調しておられる。(,) 今沖縄の地元で議論の的になっているフリートレードゾーンに話を戻すと、 去る6月12曰に東京で開催された県の「産業・経済の振興と規制緩和等委員会」 (委員長:田中直毅)で県側は地域限定型のフリートレードゾーン(FTZ) を提案したが、本土側委員から(県の素案)はスケールが小さすぎる、これで はあまり効果がない、として全県FTZが提案され、最終報告で西暦2001年を 目途に ①沖縄全県の輸入関税やIQ枠の撤廃、輸入手続きの簡素化をめざし、我が 国初めての「全県フリートレードゾーン」の実現 ②沖縄への投資企業の投資減税 を二本の柱とする提案がなされている。この提案をめぐって地元産業界・財界 は賛否両論に割れており、県側もその取りまとめに苦慮している。 これまでの展開を要約すると、先に県及び地元経済界が提案したものはこれ までの振興開発のトレンド(特別補助等の優遇措置付き)に沿った地元企業の 育成・保護を前提とした地域限定型のFTZであったのに対し、規制緩和等検 -83-
討委員会が提案したものは、国際化・情報化が進展している今日的環境を考慮
し、時代を先取りし、補助金支援型ではなく、制度支援型によって沖縄の自立
を促す「全島FTZ型」である、といえる。それだけに地元産業界・経済界で
はこれまでと違った企業活動環境に対する不安が高じているようである。
しかし、WTO('0)の勧告やAPEC('1)の取り決め、政府の財政事情から、
好むと好まざるかかわらず国際化・自由化は進展し、公共事業は抑制されてい
くことになる。従って、これまでのような財政依存型の経済体質を維持してい
くわけにはいかない。そもそも元々のねらいがこの財政依存型経済体質からの
脱却を図り、自立の基盤を……というものであったはずである。
このような観点からするならば、全島FTZの内容は制度改革による新たな産
業活動条件の提供であり、委員長がコメントしているように意欲のある企業に
とっては新たな挑戦の舞台の提供であり、評価されるべきものである。
第4節一国二制度的な経済主権を持つ「国際自由都市(フリ
ーポート)」と「沖縄コミッション」
しかし、現下の時代的環境、社会的環境を見た場合、沖縄の地政学上の有利
性をさらに高度に活用しようとするならば、沖縄県が選択することのできるオ
プションはこれだけではない。前述したように世界がグローバル化し、協調・
共生の時代に入り、曰本に対する国際社会就中アジア地域の期待に応えて指導
性を発揮して行くためには、我が国の構造的閉塞感を打開し、活力を再生して
ゆかなければならない。そのためには沖縄県もこのことを認識し、地の利を活
かしてこれに対時し、応分の犠牲を払いながらも一定の役割を果たして行く姿
勢が請われている。ここのとかろがなければ国民の支持(財源)は得られない。
これがまた新全総('2)が勧める地方分権の本旨でもある。
-国繁栄主義、地域エゴに陥らず沖縄を日本の再生、アジア太平洋地域の経
済発展、社会活動の“共用の場”として活用する方途を模索すべきである。
この様な観点から、前述の「全島フリートレードゾーン(FTZ)」を香港
やシンガポールに類した一国二制度的な経済主権を持つ「国際自由都市(全県
-84-フリーポート)」まで押し進める事が是非とも必要である。早晩そこまで踏み 込まなくては沖縄も自立の基盤はつくり得ない。 つまり、沖縄県は地方分権を先取りし、政治的には日本国民として日本国憲 法を頂き、政治活動、社会保障、防衛等の問題は国政に委ねるが、経済諸活動 面では真の自立の原則である自己決定・自己責任という形態まで権限を譲渡し てもらう。 イメージとしては地方分権を尊重し、首長として知事を頂き、知事の下に経 済制度の立法・管理・運営するボード(例えば「沖縄コミッション」)を設け、 その構成メンバーは日本、地元沖縄そしてAPEC諸国の陣容で構成し、曰本、 沖縄のみならずアジア太平洋地域に利するような経済制度をつくり、沖縄とい う場をアジア太平洋地域の協調・共存・発展のために高度活用する。参考にす べき国々としては香港、シンガポールそしてスイスやベルギーも念頭に入れて おくべきだろう。これはアジア太平洋に必要な国際機関の集積も積極的に進め なければならないからである。このように後発の利益を積極的に追求すべきで ある。 県の「国際都市形成構想」の理念やコンセプトは我が国の直面している閉塞 感への対応、国際社会、就中アジア地域社会の認識、これらを踏まえた本県の 地政学上からの高度活用という観点から積極性に欠け、了見が狭い。 重大な時局、情勢判断の岐路に立ち、政策を展開していく場合、オピニオン リーダー達の主張や提言にも二色ある。曰本はたまたま順調に経済発展を遂げ てきた。従って、日本の社会が今曰のように硬直していても従来の枠組みを変 えず、従来の思考・手法の延長線上でうまくいく方法を模索する、というのが その一つである。県の「国際都市形成構想」の発想やコンセプト、進め方もこ の範嶢に入る。国際都市を指向する都道府県は多い。従来の発想やコンセプト、 政策展開ならば南の玄関としても福岡や長崎、鹿児島、熊本等の九州勢が意欲 もあり国際交流の実績も多くポテンシャルも高い。 時代的背景、社会的環境の変化を見た場合、世界のパラダイムは確実に変わ って来ているのである。誰の目から見ても従来の発想・思考・手法では今曰の ようにグローバル化していく国際社会の中では限界があるのは明白である。我 -85-
々日本人はこれまでの制度を普遍不動のものとして考えがちだが、この枠組み
が今曰の国際化の流れの中で通用しなくなってきてうるのであり、早急に変え
てゆかなくては国際社会に受け入れられないし、国際競争についてゆけない状 況にある事を認識すべきである。また、従来のような高所得追求型の発想には反省がなければならない。高所
得追求型の経済発展は、もう天井を打っている。世界最高の所得を得ながら、 国民の生活にゆとりがない日本と、日本の半分程度のシンガポールが狭い国土を有効に利用し、豊かな自然環境を育んで曰本国民よりも経済面でも轡ゆとり”
を持ち豊かな生活を享受している例を見れば、高所得追求型の曰本の社会制度
や生活観に欠陥があることは容易に察知できるはずである。
さらに、これまでのODA('3)の実績や反省からも、これまでの認識に立っ
た毅然とした曰本外交理念の確立も欠かせない。この場合沖縄は「交流、平和、
人権、共生、環境」の5項目を標梼し、推進する場としてふさわしい。このこ
とがまた、日本への尊敬を高め、それを進める沖縄への信頼を高める事にもな る。今日のように社会が国際化し、多様化、多角化、流動化、融合化していく課
程では、従来のような硬直したモノカルチャー(単一)な思考や社会構造より
も、柔軟で強靱なマルティカルチャー(多重)な思考や社会構造が求められて
いるのであり、このような社会をつくるにはこれまでの通念を乗り越える発想
とコンセプトが不可欠である。私がこれから展開する「国際自由都市(フリー
ポート)」がそれであり、沖縄の持てるポテンシャル(可能性)を高度に活用
する最良の方法である。“改革の敵は通念である”ことを銘記し、新しい時代にふさわしい社会シス
テムづくりに果敢に挑戦すべき時である。 国際経験を豊富にもち、外側からも日本を眺めてきたレイモンド・オオタニ 氏、大前研一氏、竹村健一氏、田中直毅氏等の著名なオピニオンリーダーの主張や提言、台湾の李総統や経済視察団の注文からもそのことは伺えよう。('4)
沖縄が「国際自由都市(フリーポート)」になることが曰本にとって有利に
なる事のもう一つ利点は、国際政治、外交の場面である。
-86-アジアにおける将来の政治バランスを考えた場合、日本と中国、場合によっ て韓国が加わった二ヵ国ないし三か国の共同歩調で秩序を維持していくことに なるが、大方の場合は曰中のせめぎ合いになる場面が多くなるはずである。こ の場合、終身政権の座にある中国首脳の国際政治・外交の技量力量は老巧で、 半年サイクルと言われる曰本の総理・内閣の国際政治外交の力量とでは歴然と した差があり、ことごとく敗色を味あわされてきている。 日本は公式には北京政府を承認しているため、台湾政府の方を持つような発 言に対しては北京政府は過敏に反応し即座に釈明を求めてくる。そのたびに曰 本の政治家や高官は謝罪を繰り返し失脚を余儀なくされているのはその好例で ある。 加えて去年の7月に香港が返還され、中国は一国二制度を持つことになった が、これは中国の国際政治・外交にとっては大きなオプションを手にしたこと になる。つまり、制度上の暖昧な問題が生じた場合は、あれは香港の判断であ る、と言えるからである。 この様なことから日本も沖縄を一国二制度的な経済主権を持つ「国際自由都 市(フリーポート)」にする事は同等なカードを持つことで、国際政治・外交 上使いでのあるものである。また、現実的にも沖縄は経済交流面では台湾との 貿易は不可欠で全方位外交を展開してゆかなければならない。さらに具体的に は台湾企業や資本の受け皿にならなければならないのである。このことに対し て北京政府がクレームを付けてきたにせよ、前述のAPECのメンバーが加わ った「沖縄コミッション」の裁量であり、政治問題ではなく経済活動の自由化 の問題であり、日本政府の掌握の範囲ではなくなる。同様な理屈でノービザ、 オープンスカイ、外航の問題等も「沖縄コミッション」の裁量に任せた方が処 理しやすい。 -87-
【注釈】 (1)1997年2月8日琉球新報 大蔵省は国と地方を合わせた長期債務残高が1997年末に476兆円となり、旧国鉄債務な ど「隠れ借金」45兆円を合わせると合計で521兆円に達するとの試算を明らかにした。 '97年に比べると33兆円の増加で、政府経済見通しによる'97年度の国内総生産(GDP) 515兆8千億円を越える規模となる。 長期債務残高の内訳をみると、国の債務は国際発行残高が254兆円。これに特別会計な どの借入金等を加えると344兆円となる。地方の債務は147兆円。国と地方で重複してい る分15兆円を除くと、国、地方を合わせた長期債務残高は476兆円になる。 一方、一般会計の歳入不足分を補うための特別会計からの借り入れ、将来返済を迫ら れる「隠れ借金」は、1日国鉄の長期債務28兆円等で、合計で45兆円となる。 経済協力開発機構(OECD)によると、先進各国のGDPに対する債務残高の割合は、 ドイツ67%、米国64%、英国62%、日本は「隠れ借金」を除いても92%と、最高水準の イタリア(120%)に近づいている。 (2)「地域振興と航空政策」戸崎肇1997年7月芦書房の「国の発展戦略としての空港整備 競争」の項で戸崎氏は次のように述べている。 「空港整備の問題は、現在の世界的な経済競争の中でも重要な位置を占めている。自 国に国際的なハブ空港を持つことは、国際輸送ネットワークのあり方を主体的に構築し うる交渉力をもつことになり、経済政策上優位な位置を占めることができる。また、将 来的にも常に創造性に富んだ、産業発展上望ましい状態を維持しうる。逆に、この競争 に乗り遅れてしまえば現代における世界の「辺境」に陥る危険性をはらんでいるので ある。 こうした認識から、現在、世界各地域で、国際ハブ機能の獲得をめぐる激しい競争が、 国家戦略として進められている。中でも、アジアにおける空港間競争は激しさを増す一 方であり、日本はすでに脱落の様相を呈しつつあるといっても過言ではない」 157~158頁 (3)大阪宣言(APEC経済首脳の経済宣言)1995年11月に大阪で開かれたAPEC非公式 首脳会議で採択された宣言。’94年のインドネシア会議での「ポゴール宣言」が自由化の 達成年度など目標についての決意表明であったとすれば、大阪宣言は「これらのビジョ -88-
ンや目標を現実のものにする行動段階に入った」として行動に移す決意を表明している のが特徴。 *日本は域内での指導性を請われたのに対し、APEC中央基金へ1,000億円拠出で任 務を回避した。 「ポゴール宣言」正式には「APEC経済首脳の共通の決意の宣言」域内の貿易・投 資の自由化、WTOへの参加と協力、貿易・投資円滑化プログラムの促進、人材育成や 中小企業の振興など、APECの長期的な振興が示された。最も重要なのは、貿易投資 の自由化について、その目標を先進国については2010年まで、途上国については2020年 までとする「二段階方式」が明示されていること。 (4)「外交青書」1995、外務省(第一部)78頁 (5)1997年1月20日「琉球新報」夕刊「変革と創造」への6改革、行政、財政、社会保障、 経済、金融、教育、「政治的指導力で断行」 第140通常国会が20日に召集され、橋本龍太郎首相は衆議院本会で施政方針演説を行っ た。首相は現在の日本の社会経済の仕組みが「活力ある発展を妨げている」と指摘、 「変革と創造」の実現に向け①行政②財政構造③社会保障構造④経済構造⑤金融システ ム⑥教育一の6つの改革を「一体的に断行する」と強調。「痛みを恐れて改革の歩みを 緩めたり、先延ばしたりすることは許されない」とし、政治のリーダーシップでやり抜 く決意を表明した。 (6)少女暴行事件-1995年9月4日(土)本島北部で買い物帰りの女子小学生が米兵3人に待 ち伏せされ乱暴される事件が発生。1995年9月9日「沖縄タイムス」 (7)1995年11月7日「琉球新報」夕刊。県は米軍基地返還の「アクションプログラム(実行 計画)」として、向こう20年かけて段階的に基地を全面撤去させ、その跡地利用として国 際都市を形成してゆく構想を明らかにした。それによると、第三次振興開発計画が終了 する2001年までに普天間航空基地を中心とする中南部の基地を撤去、国際都市形成の跡 地利用事業を導入。2015年までに嘉手納基地を含むすべての返還跡地利用計画を描き、 実行に移してゆくという壮大なプラン。 1996年12月2日「沖縄タイムス」夕刊、「アクションプログラムとSACO合意」の見 出しで11施設が返還・縮小される記事を発表。「20年後に。基地ゼロ”を目指す県の基 地返還アクションプログラムで、第一期(2001年まで)の10施設中7施設の返還が合意され -89-
た。SACOは第二期分の5施設も先取りし、計11施設(約5,500へクタール)の返還を合 意。しかしほとんどが移設条件付きで、返還実現はなお未知数な点が多いことと、返還 後の跡利用に必要とされる政府の財政支援をどう引き出すかなど、動き始めた基地縮小 の前途は難問が山積する」と述べている。 「SACO」とは、正式名称は「沖縄における施設及び地域に関する特別行動委員会」 (SpecialActionCommiteeOkinawa)在沖米軍基地の整理・縮小問題を協議するため、 95年11月、1年間期限付きで日米安全保障協議委員会(2プラス2)の下に設置された。日本 側は外務省、防衛庁の局長、米側は国務省、国防省の次官補が正式なメンバー。この下 に審議官、次官補代理による作業部会があり、非公式協議を含め1年間で20数回の協議を 開いた。 (8)「県民所得統計」平成9年1月、沖縄県統計協会編、109頁 (9)1996年12月13日、「沖大・緊急連続講演会」-経済特区、基地跡地利用、国際都市構 想に向けて_の第四回「アジア太平洋地域の安定のための日・米協力関係」のテーマで 公演、基地関連収入約1,600億円をゼロにした出発よりは、これを固定ないしは漸減収入 とした方が現実的という観点を主張。アメリカは日本より進んでいる分野をかなり待っ ており、これらの分野の活用も考えるべき。例えば、医学分野等。また、気候風土、産 業が似ているハワイと連携することにより多くのメリットが得られる等を主張。 (10)世界貿易機構(WTO・WorldTradeOrganization)1995年1月よりGATT体制から WTO体制へ引き継がれた。1994年4月のマラケッシュ(モロッコ)における閣僚会議(124 カ国政府)でWTO協定が署名され、1995年1月WTOが新しい世界の貿易秩序の構築を 目指して発足した。サービス貿易や知的所有権問題などもカバーする。 GATT(GeneralAgreementonTariffandTrade)1947年ジュネーブの会議で調印さ れた「関税及び貿易に関する一括協定」。1930年代の世界的な恐慌の苦しい経験を繰り 返さないための国連の下部機構で、プレイトンウッズ体制(IMFと世界銀行)を補完す る国際貿易機構として発足した。自由・無差別を原則とし、国境措置としては関税、課 徴金のみを認め、輸入数量制限(IQ)などその他の制限は禁止した。「現代用語の基礎 知識」1997年自由国民社252~253頁 (11)アジア太平洋経済協力会議(APEC・Asia-PacificEconomicCooperatio、Confer ence)1989年1月にホーク豪首相が提唱したアジア太平洋地域初の域内各国間の経済協力 -90-
のための政府間公式協議体。当初の加盟国は日本、アメリカ、カナダ、オーストラリア、 ニュージーランド、韓国、それにASEAN6カ国の啓2カ国。その後、中国、台湾、メ キシコ、チリ、パプアニューギニアが加わり、現在加盟国は18カ国、新規加盟は'96年11 月まで凍結されている。NAFTA結成やEU統合等に対応しながら、「開かれた地域 協力」を掲げ、人材育成、投資促進、統計整備等の分野で協力を進めるとした。’94年11 月のインドネシア・ポゴールの首脳会議では自由化の目標が設定され、’95年11月の大阪 会議では、自由化に向けた具体的行動指針と大阪宣言が採択された。 (12)1996年12月11日「沖縄タイムス」社説の要約「2010年を目標年次とする次期全国総 合開発計画(次期全総)の中間報告の中に、沖縄県は、中京から紀伊半島、四国九州中南 部を経て沖縄に至る「太平洋新国土軸」(仮称)に位置づけられている。 全総は国が交通基盤や産業配置、地域振興策など国造りの指針を示す最も基本的な計 画で、国土の均衡ある発展の実現を目標とする。1962年以来四次にわたるが、これまで の産業立地や高速道路などの開発中心、首都圏などへの一極集中型、国主導開発などか らの方向変換が迫られている。 次期全総が、市民参加による「参加と連携」をキーワードにし、「多軸型国土」づく りの提案、多自然居住地域、地域連携軸、広域国際交流圏、情報活力空間などの形成や 創造を基本的な課題と戦略に揚げているのは過去の反省に立った表れである。 沖縄地域はアジア・太平洋地域を相互に結び、南北の架け橋となる独創的な交流の推 進をうたっている。そのために空港、港湾、道路、情報通信などを整備するが、本島中 南部に中枢拠点都市をつくり、那覇への人口集中の是正を図る。産業面では自由貿易地 域の拡充、健康、医療、環境に関する研究開発など新たな産業造出と育成を図ることで 雇用の確保を狙う。 国際的な観光・リゾート地、亜熱帯の特色を生かした学術・研究施設、さらに高次の とし機能や高等教育機関などを整え、職。住。遊。学が接近した国際都市の形成も盛り 込まれた。 同報告は米軍の施設・区域について、土地利用上、大きな足かせとなっている状況を 認識、できるだけ早期に整理・縮小し、その跡地の利用を計画的に進めることに言及し ているが、当然ながら不可欠の条件である」さらに、「来年夏の閣議決定までに、単一 ブロック圏の設定やハブ空港・港湾化の盛り込みなど、その実現へ県を挙げて強力に働 -91-
きかける課題が残されている」こともつき加えられている。 (13)ODA(OfficialDevelopmentAsistance)政府開発援助、国家が何らかの譲許的(贈 与)要素をもった資金を発展途上国に供与するとき、これをODAと称する。日本の開発 援助はもともと、50年代には戦争賠償、60年代には借款、70年代には民間投資支援など の形で、日本の輸出拡大と結びついてきた歴史があり、ODA(DevelopmentAsistance Commitee:OECD内の開発援助グループ)中の贈与の比率(DAC平均77%に対し44%) も、GE(DAC91%に対し77%)もDACで最低の部類に属し、日本の援助は日本の利 益に結びついている、ととらえられがちである。「現代用語辞典」1997,297頁 (14ルイモンド・オオタニ氏(世界FTZ協会代表理事)、 1996年3月3日「琉球新報」依頼原稿「沖縄をフリーポートに」、 23日「沖縄タイムス」講演「世界FTZの潮流と沖縄のポジショニン グ」 「世界一の国際都市可能・フリーポート実現が前提」 1997年6月12日「琉球新報」講演要旨「自治領で観光産業発展・犯罪の水際防止 が必要」 1997年6月13.14日「琉球新報」依頼原稿「フリーポートを沖縄へ」 「規制の全廃が重要・独立でなく自治領の道を」 「県民の手で構想を.-国二制度を含む抜本策必要」 1997年8月7.8日「琉球新報」依頼原稿「全県FTZへの疑問」 「抜本的改革に程遠い.自治領・FPがベスト」 「日本の改革沖縄から.怖いボタンの掛け違い」 椎名素夫(参院議員) 1996年11月23日「琉球新報」講演「自由貿易地域と沖縄振興策について」 「一国二制度大いに結構」 1997年8月17日「沖縄タイムス」インタビュー「全県フリーゾーン」 「法人税の軽減盛るべき・官僚が反発できない計画を」 竹村健一氏(評論家) 1997年2月11日「琉球新報」講演「これからの日本」 「沖縄を香港のように・日本で一番有利な地域」 -92-
きゅう永漢氏(作家) 1997年3月31日「琉球新報」「沖縄に経済特区の特権を.輸出入すべて無税に」 李統輝(台湾国民党総統) 1996年12月10日「琉球新報」李総統一稲嶺県経営協会会談 「沖縄に10億ドル投資・一年以内に目途づけ。課題は厳しい規制 の緩和」 1997年10月21日「琉球新報」記者会見「第九回アジアオープンフォーラム」 (台北)にて 「沖縄投資に具体例示す.ホテル建設、家電製品の加工場・空路 開設、ビザなしが前提」 劃泰英(台湾経済視察団団長) 1997年4月15日「琉球新報」インタビュー 「沖縄もフリーポート目指すべき-緩和するならすぐにも投資」 大前研一氏(経営コンサルタント) 1997年6月19日「沖縄タイムス」インタビュー「是非を問う.全県FTZ構想一 県の姿勢、産業界の反発は疑問」 氏は「私は5年まえ、沖縄の自立経済に向けた『ゆいま-るビジョン』を提唱した。 運輸・通信・金融の三産業の自由と、外交の自立を勝ち取れという内容。自由とは、 政府の規制を受けず、県議会できめてゆく。台湾などと独自の外交権も獲得すべき。 実現すれば沖縄は東シナ海のハブになれる。 一定の自由が保証された上で、沖縄が21世紀に向けたビジョンを自分で発言すれば、 ロケーションからいって世界の企業が関心を示さないわけがない。」と述べている。 -93-
第一章世界の現状と課題
沖縄がアジア太平洋という国際社会で一定の役割を担いつつ経済発展を指向 する場合、現在の世界、曰本、アジア社会の動向やその中での位置づけや役割 の認識は不可欠である。このような観点から世界認識、問題点や課題について 考えてみる。第1節今曰の世界の社会経済の現状
東西を二分した不毛なイデオロギーの対立と核開発競争をベースにした軍事
バランス競争の帰結としての冷戦構造は崩壊した。そして新たに、地球環境の保全、平和の維持、人権、人口・食料問題等の課題に対応しながら、人類の平
和と繁栄を実現するという「新たな秩序づくり」が渇望されている。
第二次世界大戦後、戦勝国。五ヵ国の中でもアメリカは圧倒的な経済力を持
っていた。しかし、そればかりでなく、ルーズベルト大統領は民主主義・人道
主義という高い指導理念を掲げつつ、第二次世界大戦のもたらした惨禍を反省
し、人類の平和とその維持。発展を実現するための枠組みとして国連をつくり、
IMFをつくった。これらの機関や機構は、その後の世界の民主化と人権の意
識を高揚しながら世界平和、経済発展に多大な貢献をした。こういった意味で
は、第二次世界大戦後の世界の秩序づくりに果たしたアメリカの役割は極めて
大きく、高く評価されるべきである。しかし、その後世界はイデオロギーの違いからアメリカとソ連を旗手とする
2極分化が起こり、軍事バランス論を戦略とする核開発競争へと特化していく。
それと並行して、両翼の下で各陣営の強化を目指す覇権争いは、国連をも舞台
に展開された。第二次世界大戦後、民族を単位とする弱小の国家が雨後の竹の子のように発
生した(国連を設立した時点では51カ国だったが、現在は180ヵ国を越えてい
る)が、これは国連で-票の票決権を持つ事から、大国特にソ連がその独立を
バックアップして作り上げたものが多い。そのため、これらの国々は独立国と
-94-は名ばかりで自国の国民の人権や生活水準の向上はおろか、ほとんどが内紛状 態で、代理戦争を招いたり、大国の武器輸出市場化、難民化、貧困化等と悪循 環を招き、ひいては環境の悪化へも繋がって、新たな問題を醸してきた。 この間、アメリカは体制の違うソ連との軍事バランスで常に優位を保つため に国家予算のかなりの部分を軍事につぎ込み、宇宙開発、ベトナム戦争等と国 力を消耗してきた。 一方、敗戦国の日本やドイツは不戦を誓って無駄な軍事費を必要最小限に押 さえて、自国の経済発展に専念することができたため、皮肉にも戦勝国は相対 的に国力を低下させ、敗戦国は戦勝国を凌駕する経済的発展を達成することが 出来た。 そして、冷戦構造が崩壊した今日、ソ連邦は解体し、経済的救済の対象にな ったばかりではなく、核開発競争の後始末という大きな問題を残した。一方、 冷戦の勝者であるアメリカは財政赤字、貿易赤字、景気停滞・社会の疲弊とい うトリレンマに悩まされており、国民、人類に約束した「平和の配当」はおぼ つかない。 このように、第二次世界大戦後の各国間の盛衰・変遷は、又しても軍事費が いかに無駄で、国力まで低下させるモノであるかを我々人類に教唆しているの である。 それどころではない。このような最先端科学の発達を前提とする軍事力競争 と地球資源の浪費を前提とする豊かさの追求は、「かけがえのない小さな地球」 で、穏やかに展開されている生態系の進化を遥かに上廻っている。そのために 地球環境の破壊を招き始めている。実はこれこそが国を越えての緊急かつ最大 の課題となっており、人類の共生を規定している。 現在、先進諸国は長期にわたり経済の停滞期に入っており、特に雇用の面で 困難に直面しているが、これは基本的には需要が停滞しているためであり、新 たな市場の拡大がない限りこのような構造不況を克服することは困難である。 このように考えると、人類共通の最大の課題である地球環境の保全、平和の 配当、人権、自由、平等、公平等の民主化は一国の活性化の基礎をなすばかり でなく、国を越えたより広いリージョナルな経済圏の活性化の基礎をなすもの -95-
でもある。日本の構造不況も先進国の抱えている構造不況も、より広げられた リージョナルな地域の経済発展と民主化を進め、市場を拡大し、新たな需要を 創り出さない限り、日本を始め先進諸国が今“はまっている”構造不況から脱 出することは困難である。 ここに、日本がイニシャチブを取り、発展途上国の経済発展を助け、民主化 を進め、市場を拡大し、需要を造出し、停滞している先進諸国の構造不況を打 開していくことが国益に繋がる、という根拠がある。そして、この事が先進国 に限らず、発展途上国が曰本に期待する根拠にもなっている。 以上の事を比噛的に言うならば、今や人類は、地球船に乗り合わせた兄弟・ 姉妹であり、特定の国が破格に豊かな生活をし、すぐ側の国が赤貧に喘いでい るという状態はもう許されない。遅れている国を助け、富を平準化し、共存を 図り、共通の課題である環境の保全を協力しながら図ってゆかなければならな い運命にある。 これまでは圧倒的に経済力と力(軍事力)のある兄貴分に当たるアメリカが、 武力がすべてを規定する(“力は正義なり”という時代)という歴史の展開の 過程で、武力という手荒な手段で世界の平和(秩序)を取り戻し、その秩序を 維持し兄弟・姉妹の面倒(経済的援助)も見てきた。しかし、その負担がたた
って兄貴分の経済力も低下し、姉妹(日本、ドイツ)から借金する始末で指導
力も低下し、目に見えて高齢化してきている。相対的にこれまでの日本、ドイ ツは兄貴の庇護の下で何不自由なく育ち、かなりの経済力をつけ、今やG5或 いはG7の中でも一方的に膨大な外貨(貯金)を貯めるまでに豊かになった。 いわば、日本社会の嫁入り前のOL(ブランドもののショッピング、海外旅行 を楽しみ、平和憲法を盾に、金は出すからトラブルはごめん、兄さんお金をあ げるから何とかして)みたいなものである。 しかし、空気や水が汚れ始め、兄弟・姉妹の生命にも影響しかねない事態になり、頼みの大黒柱であった兄貴も多くは望めなくなった今、期待のもてる姉
妹(日本やドイツ)に他の兄弟・姉妹達から期待と懇願の熱い視線が浴びせら れているのである。ここで今はむしろ女性らしく優しくて(武力に頼らず)、聡明で(理性的)、
-96-話し合い(交流による相互理解・コミュニケーション)による、新しい理念に 基ずく秩序づくりが適切・妥当で、それこそが渇望されているといえるのでは ないか! (参考)
国連は第二次大戦の悲劇を反省し、人類の平和維持と発展を願って設立され
たが、50年の歳月は国連を肥大化させ、時代の流れの中で生ずる新たな問題へ の対応能力を失ないつつあるのが現状である。国連は1945年51ヵ国が参加してつくられたが、50年たった今は戦後雨後の竹の子のように独立した国々も加わ
って180ヵ国を越える大所帯になり肥大化している。また、職員の半分しか働いていないと云われるほど肥大化・硬直化し、分担
金の未払いが36億ドル(アメリカ13億ドル、ロシア5億ドル等)に達し財政は
硬直している。さらに、ソマリアやポスニア等での平和維持活動や第三世界の
社会開発などでは成功と失敗が相半ばするなど力の低下は否めない。地球環境、
食料問題、貧困と爆発的な人口増といった新たな課題への対応も不十分である。
今年は50周年を迎えこのような現状を憂い、各国首脳は国連の改善、機構の再
構築等をアピールしている。一方、サミット(先進国首脳会議)がフランスのジスカールデスタン大統領
の提案で1975年から毎年持ち回りで開かれ、経済問題のみならずそのときどき
の政治・社会問題を討議し、協調体制をとり各国の利害を調整しながら市場経
済の維持発展に努めている。経済面では'93年のウルグアイ・ラウンド交渉妥結を受け、’95年1月に世界
貿易機構(WTO)が発足した。第2節高所得追求型経済発展の限界
(1)日本の経済社会の仕組みの欠陥日本は今、デフレの経済学を構築しなければならない時期にきている。従来
-97-の高所得追求型の経済発展指向には反省がなければならない。次の図を見て頂 きたい。 (図1-2-1) (図1-2
ElL
日本は先進7カ国の中でも最高の所得を得ており、沖縄もこれらの国々よりも高い所得を得ている。 NOOO 30000 P2000o回
10,0 0 スノスイタリブランカナァ:ヨシン弓台詞 wツイギリアメリ己筥5足麺 惑: タイ’六冊?ミヤンインドペトナ マサ-7$I,ごi,*ブル$之ロ中国カン鎖 沖縄は日本の平均所得の7割盤だが、アゾアの中でI鯛い所得を得ている。 科:11t界醗図会('9596)より作成 日本は先進国の中でも最高の所得を得ており(スイスは日本より高いが人口 が少ないので除外する)、47都道府県の中で最も低い沖縄も7割とはいえ他の 先進国よりも高い位置にある。アジア諸国と較べるとダントツに高い位置にあ る。しかし、日本国民は高物価構造社会のために所得に見合う豊かさを享受し きれないでいる。私の見たところ、先にも述べたがシンガポールは日本のおよそ半分の所得だが、経済活動上の規制がなく貿易の自由化が進んでいる分だけ
物価が安く、国民の生活は日本国民よりも“ゆとり”をもって豊かさを享受し ているように見える。 これには社会の仕組みもかなり影響している。一般的に諸外国では曰本のよ うに土地を細切れに区切って個人が所有し、資産価値を高めるという習慣がな -98- @ @資 国名 ドル スイス 36,140 イタリア 19.620 ドイツ 23.560 フランス 22`380 イギリス 970 6 二■■0 1 カナダ 20,670 アメリカ 24.750 日本 0 匂0 3 沖縄 25,095 シンガホール 19,310 香倦 17,860 台Mi 10,826 樹国 7,670 マレーシア 3,180 タイ 2,M0 7I)フミ`ン 830 イント`ネシア 730 *ブルネイ 8,800 *I上朝鮮 1,000 ミャンマー 680 中医 430 イン ド 290 カンボジア 200 ベトナム 170い。例えば、先進国の優等生で曰本とほぼ似たドイツでは、家を造る場合、土 地は大地主から日本では想像も出来ない程の安い値段で借りて上部構造だけを 造るためドイツのサラリーマンは日本のサラリーマンの半分で一戸建てを持つ ことが出来る。日本社会では人生の終局の目標は土地付きの一戸建て住宅を持 つことが大方の目標であるが、そのためには東京(2時間圏)では大雑把に言 って、土地代で2,500万円、建物で2,500万円、計5,000万円かかる。従って、 建築コストが同じだとしたら、ドイツのサラリーマンは日本のサラリーマンよ りも2,500万円の余緑が持てる訳である。2,500万円の余腺があるドイツのサラ
リーマンと、そうでない日本のサラリーマンの生活の“ゆとり”の差を想像し
てみるがいい。 さらに、シンガポールの例を引き合いに出して言うと、土地は国有とはいえ 国土が狭く(1)(沖縄本島の約半分)人口密度が高いため、20~30階建ての分 譲アパートの高層化を進め、国民の住宅問題を解決し(2)土地の有効利用を図 り、コミュニティ単位で必要な機能や施設も整えられている。曰本のように1 ~2階の個人住宅が延々と広がって土地の使用効率を悪くしているのとは対照 的に、国土の狭さを感じさせないどころか、緑豊かな自然環境の中の落ち着い た街並みや住宅街を形成している。この分譲価格が大雑把に言って、2DKで 300万円、3DKで400万円、4DKで500万円であり、家族の規模に応じて購 入できる。日本と較べて質はやや落ちるが、スペースは逆に曰本の場合よりた っぷり取られており十分である。これなどは曰本の十分の一である。所得が日本の約半分でも、先ほどの貿易の自由化による物価の安さと抱き合わせると、
いかにシンガポールの国民が“ゆとり”のある生活をしているかが伺えよう。しかし、シンガポールにも不自由さはある。いくら金があっても車は自由に
買えない。国士が狭いため、廃車とのバランスで年間の輸入車の台数が制限さ
れている。先ず抽選で購入権を取得する。この購入権は非公式に売買も可能で
ある。そして、購入の際は税金が100~150%課税される。輸入車は課税前でカ
ローラで約200万円、ベンツで約300万円のため最終価格は購入権の売買を含め
ると400~500万円で分譲アパート価格相当である。組み合わせによってカローラもベンツの最終価格はあまり変わらないので、相対的にヨーロッパ系の自家
-99-用車が多い。 この様に社会の仕組みの工夫で、国民生活をいかようにでも改善していくこ とが出来るのであり、為政者はこの様な実状を諸外国の先進事例から学び取る べきである。 またこの際見逃してはならないのは、曰本は高所得を追求する過程で生活の 質的高度化をも享受してきたが、実質的な質の高度化にはつながらないバブル の部分をも許容してきた。これは平均国民所得が-人当たり36,000ドルの日本 の国民生活と500ドルに満たない中国の国民生活を比較してみれば分かる。こ の数字で見る限り、日本の国民は中国の国民よりも72倍の豊かさを享受してい ることになる。この数字はあまりにもかけ離れているので、もう少し実感のも てる数字で比較してみよう。私の近くにいる福建省福州市出身の留学生の例で あるが、彼は沖縄に来る前は大学を出て高校の数学の教師をしていた。その時 の彼の給料は日本円に換算して7,000円である。まあ、中国でも上の方であろ う。日本の学卒の初任給が15~6万円であるから、大雑把に言って、日本人は 中国人の20倍の所得を得ていることになるが、果たして20倍の豊かさを享受し ているだろうか? 中国人は食文化を大事にし、誇りを持っているから食生活の面では我々が知 る限りでもそれほどの遜色はないし、むしろ日本では高い金を出してしか得ら れない健康食を楽しんでいる。冷蔵庫やテレビ等の耐久消費財も細かい機能は ないが程々に揃っており、住環境もやや質は落ちるかもしれないが、それほど かけ離れたものではない。上海や北京等の都市部では土地代に資金を使わない 分だけゆったりとした都市空間を取り込んでいて、日本の主要都市に見るせせ つこましさはない。日本人が中国人に勝って持っている物といえば、車とクー ラー程度、そしてサービス面では行政サービスと高価で高度な医療程度である。 これで20倍の豊かさと言えるのだろうか? このように曰本国民生活にはびこっているバブルの部分の除去をしない限り
実質的な豊かさは実現出来ない。この除去は国際交流、国際貿易や規制緩和を
通してグローバルスタンダードへシフトしていく過程でしか除去されないであ ろう。 -100-(2)デフレ経済学試論