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日本内科学会雑誌第105巻第4号

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Academic year: 2021

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はじめに

 低血糖性昏睡とは,低血糖の状態がさらに悪 化することによって起きる症状であり,すぐに 対処しないと,意識障害から痙攣,昏睡状態へ と陥ってしまう.低血糖による障害は血糖値改 善後しばらくして意識が改善する可逆的なもの が大部分であり,救急外来に搬送される低血糖 症の多くがこれに該当する.しかし,血糖値改 善後も意識障害が遷延し,深刻な後遺症を残す 症例も稀にみられる.このため,低血糖を起こ しやすい状況を把握して予防するように指導す ること,および軽症の時点で早期診断・早期対 応を行うことが必要である.本稿では低血糖時 における病態生理を概観し,低血糖の診断・治 療について概説する.

1.‌‌我が国の救急搬送患者における‌

重症低血糖の頻度

 重症低血糖は一般的に「血糖値が50 mg/dl以 下で意識障害をきたし,受診・治療に第三者の 援助を必要とする低血糖」と定義される.我が 国の救急外来における重症低血糖の頻度とその 特徴についていくつか報告されている.1.5年間 に旭川赤十字病院へ意識障害で救急搬送された 6,726名のうち,重症低血糖患者は57名(0.8%) であった.60%以上は 70 歳以上の高齢者であ り,スルホニル尿素薬の処方が多く,腎障害 (CKD stage 3~5)の患者が大部分を占めている 現状であった1).また,2006 年 1 月~2012 年 3 月に国立国際医療研究センターに救急搬送され た患者59,602名のうち,重症低血糖患者は530 名(0.9%)を占め,糖尿病患者は367名,非糖 尿病患者は 163 名であった.重症低血糖を来た した非糖尿病患者群の基礎疾患は多様で,主に

低血糖性昏睡

要 旨 島津 章  重症低血糖による意識障害は,救急搬送患者の約1%に認められ,イン スリンや経口糖尿病薬治療中の糖尿病患者に多いが,重症疾患を伴う非糖 尿病患者にもみられる.低血糖を頻回に起こす患者では,自律神経の機能 的障害によりインスリン拮抗ホルモン反応の低下と無自覚低血糖が引き 起こされて低血糖の悪循環となる.糖尿病患者では低血糖に対する予防と 対策を講じて慎重に血糖コントロールすることが重要である. 〔日内会誌 105:683~689,2016〕 Key‌words 重症低血糖,意識障害,糖尿病,薬剤性低血糖症 国立病院機構京都医療センター臨床研究センター Endocrine and Metabolic Emergencies;Points of Initial Management. Topics:VII. Hypoglycemic coma. Akira Shimatsu:National Hospital Organization Kyoto Medical Center, Clinical Research Institute, Japan. Ⅶ. 低血糖性昏睡

トピックス

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低栄養,アルコール中毒,胃切後や感染症など であり,90 日後の死亡率は 20%と予後不良で あった2)

2.血糖の維持機構と低血糖の病態生理

 血糖値は,健常人ではブドウ糖の供給とブド ウ糖の利用のバランスが調節されて 1 日中狭い 範囲内に保たれている.血糖の調節にはインス リンと,グルカゴン,アドレナリン,カテコー ルアミン,副腎皮質ステロイド,成長ホルモン などのインスリン拮抗ホルモンが重要な働きを している.中枢神経系はエネルギー源をグル コースのみに依存しているため,血糖値は常に 70~80 mg/dlを下回らないように維持されて いる.  血糖が低下すると,インスリン分泌は低下 し,ブドウ糖利用が抑えられる.また,インス リン拮抗ホルモンの働きによりグリコーゲン分 解あるいは糖新生が亢進し,ブドウ糖の供給が 増大する.したがって,血糖値が正常範囲を超 えて低下する低血糖が起こる機序には,インス リン過剰分泌によるブドウ糖利用促進とインス リン拮抗ホルモン作用の低下や肝臓や腎臓の機 能障害によるブドウ糖供給低下が考えられる.  血糖低下に伴い,段階的に生体反応が起こる (図).血糖が 80 mg/dl付近まで低下すると,イ ンスリン分泌が抑制される.70 mg/dl付近まで 低下すると,グルカゴン,アドレナリンが分泌 される.60 mg/dl以下まで低下すると,成長ホ ルモン,コルチゾールの分泌が起こる.50 mg/ dl以下まで低下すると,低血糖症状が現れる. 40 mg/dl以下まで低下すると,傾眠,30 mg/dl 以下まで低下すると痙攣,脳障害,10 mg/dl以 下まで低下すると死に至る.  低血糖に対する生体防御機構3)として,膵島 内での①インスリン分泌の低下,②グルカゴン 分泌の増加,さらには交感神経―副腎系による③ 副腎髄質ホルモンであるアドレナリンの分泌増 加,④交感神経反応による自律神経症状が起こ り,炭水化物摂取行動を取る,などである.低 血糖に対するグルカゴンの分泌反応は,1 型糖 尿病では早くから,2 型糖尿病でも長期的には 失われる.その場合,低血糖に対する生体防御 機構は,主としてアドレナリン分泌に依存する ことになる.血糖コントロールが不良である糖 尿病患者や自律神経障害を伴う糖尿病患者では アドレナリン分泌の閾値が変化し,低血糖症状 発症の閾値が変化することが知られている.

3.低血糖の症状

 低血糖症状は大きく2つに分類され,1)低血 糖時に分泌されるカテコラミンなどによる自律 神経系の症状(交感神経症状)と,2)グルコー ス欠乏による中枢神経機能低下に起因する症状 (中枢神経症状)がある(表 1).通常,中枢神 経系の機能低下による症状が現れる前に,交感 神経刺激作用による症状が認められるために, 前駆症状(または警告症状)とも呼ばれる. 1)交感神経症状  自覚症状:不安,神経質,心悸亢進 図 血糖の低下と生体反応の関係 血糖値mg/dl 生体反応 110 100 90 80 インスリン分泌の抑制 70 グルカゴン・アドレナリン分泌 60 成長ホルモン・コルチゾール分泌 50 低血糖症状 40 傾眠 30 痙攣・脳障害 20 10 脳死

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 他覚症状:顔面蒼白,冷や汗,低体温,振戦, 頻脈,高血圧,瞳孔拡大  これらの症状には個人差があり,また,血糖 値の落差によると考えられる場合もあり,血糖 値が 70 mg/dlでも症状を訴えることもある. 2)中枢神経症状  血糖値が50 mg/dl以下になると中枢神経系の グルコースの欠乏症状および精神症状が出現 し,大脳機能低下が進行する.  自覚症状:頭痛,かすみ目,一過性複視,異 常知覚,空腹感,嘔気,倦怠感,眠気  他覚所見:意識障害,錯乱,奇異行動,発語 困難,興奮,譫妄,嘔吐,傾眠,失語,失調, 眼振,麻痺,痙攣,昏睡,浅呼吸,徐脈  中枢神経症状は低血糖により脳機能に障害が 起きていることを意味するため,早急の対応が 必要である.高齢者で血糖が徐々に低下する場 合は交感神経症状が現れにくく,中枢神経症状 や精神症状が主として現れ,認知症と間違われ ることがある.

4.無自覚低血糖と自律神経障害

 血糖が穏やかに低下する場合,低血糖を繰り 返している場合,乳幼児・高齢者では,自覚症状 が起こらずに,いきなり中枢神経系の機能低下 を中心とした他覚症状が出現することが多い. このような低血糖は無自覚低血糖と呼ばれる.  低血糖を頻回に起こすと,インスリン拮抗ホ ルモン反応の低下と無自覚低血糖が引き起こさ れ,自律神経における低血糖に対する防御機構 が減弱してくる現象がみられる.これはhypo-glycemia-associated autonomic failure(HAAF)と 呼ばれ,頻回の低血糖後に低血糖に対する防御 機能が低下し,徐々に低血糖を自覚しなくな り,さらなる低血糖が生じ得るという,低血糖 の悪循環が起きてしまう.この原因として,① 糖尿病患者のβ細胞機能不全によるインスリン 分泌抑制の障害とインスリンによるグルカゴン 分泌増加の障害,②低血糖に対する交感神経―副 腎系反応の障害が考えられている4)

5.低血糖の診断

 意識障害で患者が搬送されてきた場合には緊 急の処置が必要であり,低血糖性昏睡が疑われ る場合には通常直ちにブドウ糖の投与が行われ る.それでも可能であればブドウ糖投与前に採 血を行い,血糖値を確認すべきである.  健常人の血糖値は空腹時でも70 mg/dlより低 下することはほとんどない.通常,60~70 mg/ dl未満になると交感神経症状が出現し,30 mg/ dl未満になると中枢神経症状が出現する.急激 に血糖値が下降しているときは,70 mg/dl以上 の血糖値でも低血糖症状が出現することがあ る.また,無自覚性低血糖では60~70 mg/dl未 満でも交感神経症状が出現しない.したがっ て,症状があろうとなかろうと,少なくとも血 糖値が70 mg/dl未満である場合は低血糖と診断 して対応すべきである5)  低血糖の重要な所見としてはWhippleの 3 徴, 表1 低血糖の症状 交感神経症状 中枢神経症状 自覚症状 不安,神経質,心悸亢進 頭痛,かすみ目,一過性複視,異常知覚,空腹感,嘔気,倦怠感,眠気 他覚所見 顔面蒼白,冷や汗,低体温,振戦,頻脈,高血圧,瞳孔拡大 意識障害,錯乱,奇異行動,発語困難,興奮,譫妄,嘔吐,傾眠,失語,失調, 眼振,麻痺,痙攣,昏睡,浅呼吸,徐脈

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①空腹時の低血糖発作,②低血糖の証明,③ブド ウ糖投与による症状の改善がある.これらは空 腹時低血糖症に一般的に認められる所見であ る.低血糖昏睡になった原因を考えるうえで血 液中のインスリン,Cペプチド,コルチゾール,ス ルホニル尿素,エタノールなどを測定しておく.  また,低血糖性昏睡が数時間以上続いていた 場合やブドウ糖投与によって血糖が上昇した後 も意識が回復しない場合には,脳浮腫やその他 の脳神経疾患の合併を考え,CTなどで検討する 必要がある.

6.原因の検索

 低血糖性昏睡患者の多くは,インスリンや経 口糖尿病治療薬(特にスルホニル尿素薬か速効 型インスリン分泌促進薬)の治療が行われてい る糖尿病患者であり,薬物投与の中止や投与量 の減量により低血糖が消失または軽減したな ら,薬物投与量の過剰が原因であったと考えて よい. 1)薬剤性低血糖 (1)インスリンによる低血糖  インスリン治療を行っているほとんどの症例 は低血糖を経験している.特にインスリンの血 中濃度がピークとなる時間帯,各食前の空腹 時,深夜から早朝,運動をしている最中あるい はその後,入浴後などに起こりやすい.内因性 インスリン分泌能が枯渇しているか著しく欠乏 している症例,血糖自己測定などによる自己管 理が十分にできていない症例,厳格な血糖コン トロールを達成している症例などに低血糖の頻 度は高い.しかし,軽症低血糖の範囲内,つま り低血糖を自覚し正しく対処できるならばほと んど危険はない.また,重症低血糖は可能な限 り起こらないようにすべきである. (2) 経口糖尿病治療薬(GLP-1 受容体作動薬を 含む)による低血糖  経口糖尿病治療薬による低血糖はインスリン 治療に比べれば頻度が少ないものの,常に危険 性があることを念頭に置きながら診療を行う必 要がある.スルホニル尿素薬が低血糖を起こし やすい.また,速効型インスリン分泌促進薬に よる低血糖も稀ではない.ビグアナイド薬,α― グルコシダーゼ阻害薬,チアゾリジン薬,DPP-4 阻害薬,GLP-1 受容体作動薬,SGLT-2 阻害薬は 単独投与では低血糖は起こりにくいが,他剤と の併用投与の場合は注意を要する. (3)その他の薬物による低血糖6)  糖尿病治療薬を除き,重大な副作用として低 血糖が添付文書に記載されている主な薬剤は, 抗不整脈薬,ニューキノロン系抗菌薬,アンジ オテンシンII受容体拮抗薬(angiotensin II recep-tor blocker:ARB),非定形抗精神病薬,スルファ メトキサゾール・トリメトプリム配合錠(ST合 剤),リトドリン塩酸塩,セレギリン塩酸塩など がある.高齢者や腎機能低下症例などで,低血 糖が生じやすい.  シベンゾリンコハク酸塩などの一部の抗不整 脈薬はスルホニル尿素薬と同様に,膵β細胞ATP 感受性K+チャネルを閉鎖し,インスリン分泌 を促進して低血糖を引き起こす.レボフロキサ シンなどのニューキノロン系の抗菌薬は,膵β 細胞ATP感受性K+チャネルを閉鎖し,インスリ ン分泌を促進して低血糖を引き起こす.また, 末梢組織でのインスリン感受性亢進作用も低血 糖の要因と考えられている.  その他の薬物の投与が原因で起きる低血糖の 頻度は少なく,「患者側の危険因子(表 2)」が 存在することがほとんどである.低血糖が起き た場合に疑わしい薬物の投与を中止して,低血 糖が改善したならば,中止した薬物が原因の低 血糖である可能性が高い.

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2)その他の疾患3) (1)インスリノーマ  空腹時低血糖があるにもかかわらず,血中イ ンスリンやC-ペプチド濃度が高い.低血糖の程 度が軽い場合は,絶食試験により空腹時低血糖 を誘発させる.慢性的な低血糖によって過食傾 向があり,肥満であることが多い.画像検査や 選択的カルシウム動脈内注入静脈サンプリング 法などにより局在診断を行う. (2)詐病性低血糖  治療とは無関係なインスリン注射や経口糖尿 病治療薬の服薬によるもので,医療従事者や糖 尿病患者の家族などにみられる.インスリン注 射によるものでは血中インスリン濃度が高いに もかかわらず,C-ペプチド濃度が低い. (3)インスリン自己免疫症候群  インスリン注射の既往がないにもかかわら ず,インスリンに対する自己抗体が産生され, 低血糖症を引き起こす.血中インスリン値が非 常に高く,インスリンとの親和性が低い抗体が 大量に存在する.SH基をもつ薬物(チアマゾー ルなど)や健康食品のαリポ酸との関連が報告 されている. (4)膵外性腫瘍  肝癌,間葉系腫瘍(線維肉腫,横紋筋肉腫な ど),消化器癌などの巨大腫瘍が原因で起こる. 腫瘍からのIGF-II,ブドウ糖消費の増大,肝障害 による糖新生・放出の低下などが低血糖を引き 起こす. (5)インスリン拮抗ホルモン低下  インスリン拮抗ホルモンの機能不全によって 低血糖症が起こる.血中インスリン濃度は低値 である.下垂体前葉機能低下症,ACTH(adreno-corticotropic hormone)単独欠損症,副腎皮質 機能低下症,グルカゴン欠乏症などが原因で生 じる.

7.低血糖の治療

5) 1)低血糖に対する緊急対応  低血糖が起きた場合は直ちに対応する必要が ある.意識が保持され,経口摂取が可能な場合 にはブドウ糖 10~20 gを経口摂取させればよ いが,低血糖昏睡を起こし経口摂取不可能な場 合には非経口的治療が必要である.  医療機関に搬入されたときはまず 50%のブ ドウ糖液20~40 ml(小児では10 ml)を静注す る.その後,5%ブドウ糖液を点滴し,血糖値 を100~200 mg/dlに保つ.特にスルホニル尿素 薬を内服している場合には低血糖が遷延するこ とがあり,ブドウ糖液の静注で血糖が上昇した からといって安心せず,数時間後に再発するこ とがあるため,入院させて十分な管理を行う必 要がある.  すぐに病院などに搬送できない場合や静脈路 の確保が困難な場合で,特に 1 型糖尿病患者で は同居者によるグルカゴン 1 mgの筋注あるい は皮下注が有効である.ただし,グルカゴンは 主に肝臓でグリコーゲンの分解によって糖を産 表2 低血糖における患者側の危険因子 ①インスリン注射や低血糖についての知識不足 ②インスリン注射量の誤り ③血管内へのインスリン注射 ④インスリン抗体 ⑤インスリン分泌が枯渇(1型糖尿病など) ⑥食欲低下・嘔吐・下痢などのシックデイ ⑦食事の遅れや非摂食 ⑧食事・運動療法を開始して間もない ⑨中等度以上の強度の運動後 ⑩アルコール多量摂取 ⑪中等度以上の肝機能障害 ⑫中等度以上の腎機能障害 ⑬慢性膵炎など膵外分泌疾患 ⑭自律神経障害 ⑮胃切除術後 ⑯高齢者

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生するため,アルコール多飲患者の低血糖や肝 硬変など極度の肝機能の低下時,食思不振時, 4 時間を超える昏睡など低血糖遷延時には,肝 グリコーゲンが枯渇している可能性が高く,十 分な効果が期待できない.  また,昏睡に陥って数時間経過した場合は脳 浮腫を来たしている可能性があり,その場合は グリセオールやマニトールを投与し,浮腫の軽 減を図る必要がある. 2)原因薬物の中止と減量  経口糖尿病治療薬が原因で起こる低血糖は遷 延する可能性があるので,低血糖から完全に回 復し,以前のような血糖レベルに達するまでは 中止する.インスリン治療は 1 型糖尿病をはじ めとして中止してはならない場合が多く,減量 によって対処する.血糖値を頻回に測定して, 至適量を再設定する.その他の薬物による低血 糖の場合は中止するのが原則である. 3)再発予防  インスリン注射や経口糖尿病治療薬(特にス ルホニル尿素薬や速効型インスリン分泌促進 薬)の投与を開始する場合は,低血糖が起きる 可能性があることと,低血糖の誘因となる生活 習慣の乱れ(食事量の不足や食事時刻の遅れ, 運動過多,アルコールの大量飲用など)を避け るように指導することが重要である.突発的な 併発疾患で食事を摂れないときの対処方法につ いては,予め主治医の指示を確認しておく必要 性を指導する(シックデイルール).  インスリン治療を行っている場合は,常にブ ドウ糖,砂糖,アメ・チョコレートなどの糖質 を携帯させるべきである.また,原則として血 糖自己測定を行わせる.血糖自己測定を行うこ とにより低血糖の確認ができることはもちろん のこと,食事・運動などの日常の生活リズムと 血糖値の関係を理解することができるようにな る.インスリン注射の調節だけでなく,分食や 補食などの工夫も重要である.そして,良好な 血糖コントロールを維持しつつ,低血糖の頻度 を減らすことができるようになる.特に低血糖 の危険性の高い患者には,患者本人だけでな く,家族や周辺の人にも低血糖が起きた場合の 対処法をあらかじめ指導しておく必要がある. 無自覚低血糖は低血糖を頻回に起こしている患 者でみられることが多いので,低血糖昏睡を経 験した患者は最低でもその後 2~3 週間は低血 糖を起こさないようにコントロールする必要が ある.  経口糖尿病治療薬を投与している場合も,ブ ドウ糖,砂糖,アメ,チョコレートなどの糖質 (α―グルコシダーゼ阻害薬服用の場合には必ず ブドウ糖)を常に携帯するよう勧める.

8.低血糖性昏睡の病態と画像診断

 低血糖性昏睡の病態はいまだ解明されていな いが,急性期はエネルギー欠損によるポンプ機 能低下や興奮性アミノ酸の過剰放出に伴う細胞 性浮腫,細胞死が生じ,亜急性期にはグルタミ ン酸受容体を介して細胞死が誘導されると推定 されている7).これらの障害は神経細胞―グリア 細胞間や軸索,シナプスを介して伝播するが, グリア細胞は興奮性アミノ酸により膨張するこ とから,保護的に作用すると考えられている.  低血糖性昏睡のMRI所見は多様で,大脳皮質 や海馬,基底核,脳梁膨大部,内包後脚,大脳 深部白質などの様々な部位の異常信号が報告さ れている8).一般に大脳皮質や広範囲の白質に 異常信号がみられた際には予後が悪いと考えら れている.

9.低血糖の予後

 ブドウ糖投与後,冷汗,頻脈などの交感神経 刺激症状はよく改善するが,中枢神経症状はブ ドウ糖投与による回復が遅く,経過をみなけれ

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ばならないことがある.糖尿病患者では血管障 害の合併を持つことが多く,低血糖発作に伴う 眼底出血,心筋梗塞,脳梗塞などの併発に十分 注意が必要である.また,統計上スルホニル尿 素薬による低血糖は重大事故になりやすく,死 亡することもある.飲酒を起因とする低血糖昏 睡も死亡,脳障害を残すものなどあり,患者教 育が重要である.  低血糖性昏睡が 5 時間以上経過すると植物人 間または死亡を来たし,90分以上経過した症例 ではブドウ糖投与にあわせ,脳浮腫に対する対 策が有用であるとされている.

おわりに

 内分泌代謝疾患の救急対応としての低血糖性 昏睡について主に糖尿病患者における管理を概 説した.糖尿病以外の基礎疾患や敗血症などの 重症疾患に伴う低血糖性昏睡,糖尿病患者の心 血管病9)や死亡率,認知障害10)に対する低血糖 の関与など,まだ解明すべき点が多く残されて いる.現在,日本糖尿病学会の「糖尿病治療に 関連した重症低血糖の調査研究委員会」では, 実臨床下における低血糖の実態を,治療内容を はじめとする患者背景との関連性について調査 分析しており,その結果が大いに期待される. 著者のCOI(conflicts of interest)開示:本論文発表内容 に関連して特に申告なし 文 献 1) Haneda M, Morikawa A : Which hypoglycaemic agents to use in type 2 diabetic subjects with CKD and how?  Nephrol Dial Transplant 24 : 338―341, 2009.

2) Tsujimoto T, et al : Prediction of 90-day mortality in patients without diabetes by severe hypoglycemia : blood  glucose level as a novel marker of severity of underlying disease. Acta Diabetol 52 : 307―314, 2015.

3) Cryer  PE,  et  al : Evaluation  and  management  of  adult  hypoglycemic  disorders : an  Endocrine  Society  Clinical  Practice Guideline. J Clin Endocrinol Metab 94 : 709―728, 2009.

4) Cryer PE : Mechanisms of hypoglycemia-associated autonomic failure in diabetes. N Engl J Med 369 : 362―372,  2013.

5) Seaquist ER, et al : Hypoglycemia and diabetes : a report of a workgroup of the American Diabetes Association  and  the  Endocrine  Society.  J  Clin  Endocrinol  Metab  98 : 1845―1859,  2013/Diabetes  Care  36 : 1384―1395,  2013.

6) Murad  MH,  et  al : Clinical  review : Drug-induced  hypoglycemia : a  systematic  review.  J  Clin  Endocrinol  Metab  94 : 741―745, 2009.

7) Suh SW, et al : Hypoglycemia, brain energetics, and hypoglycemic neuronal death. Glia 55 : 1280―1286, 2007. 8) Witsch J, et al : Hypoglycemic encephalopathy : a case series and literature review on outcome determination. J 

Neurol 259 : 2172―2181, 2012.

9) Frier BM : Hypoglycaemia in diabetes mellitus : epidemiology and clinical implications. Nat Rev Endocrinol 10 :  711―722, 2014.

10) McCrimmon RJ : Update in the CNS response to hypoglycemia. J Clin Endocrinol Metab 97 : 1―8, 2012.  

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4) American Diabetes Association : Diabetes Care 43(Suppl. 1):

10) Takaya Y, et al : Impact of cardiac rehabilitation on renal function in patients with and without chronic kidney disease after acute myocardial infarction. Circ J 78 :

 第1節 灸  第1項 膣  重  第2項 赤血球歎  第3項 血色素量  第4項色素指激  第5項 白血球数  第6項 血液比重  第7項血液粘稠度

[r]

38) Comi G, et al : European/Canadian multicenter, double-blind, randomized, placebo-controlled study of the effects of glatiramer acetate on magnetic resonance imaging-measured

mentofintercostalmuscle,andl5%inthepatientswiththeinvolvementofribormore(parietal

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