はじめに
近年の消化器病学の進歩は著しく,機能性消 化管障害(functional gastrointestinal disorders: FGIDs) の 1 つ で あ る 機 能 性 デ ィ ス ペ プ シ ア (functional dyspepsia:FD)の概念,病態や治療 は大きく変化した.ディスペプシアは,日常診 療において非常に多く遭遇する症状であり, ディスペプシア症状の頻度は実に一般住民の 20%に及ぶとされている(表)1).器質的疾患の ないFDは現在,世界的にRome III基準によって 定義されており,食後の膨満感,早期飽満感, 心窩部痛,心窩部灼熱感のうち 1 つ以上の症状 を有する患者で,6カ月以上前から症状があり, 最近 3 カ月間は上記の症状があり,症状の原因 となる器質的疾患が確認されないものとされて いる.また,食後愁訴症候群(postprandial dis-tress syndrome:PDS)と心窩部痛症候群(epi-gastric pain syndrome:EPS)に亜分類され,胸や けや嘔吐は別のカテゴリーに分類されている. これまで慢性胃炎として扱われてきた胃炎の 概念は,FDとHelicobacter pylori(H. pylori)感 染胃炎が新たな保険診療病名となったことでこ の 2 つに集約されつつある(図 1).H. pylori感 染胃炎は症状の有無にかかわらず,H. pyloriの 存在によって診断される病名である.一方,機 能性ディスペプシア(FD)は,H. pyloriの有無 にかかわらず症状の原因となる器質的疾患や代
機能性ディスペプシアの最近の話題
大島 忠之 三輪 洋人 要 旨機能性消化管障害の1つである機能性ディスペプシア(functional dyspepsia:FD)とHelicobacter pylori(H. pylori)感染胃炎が保険診療病名となったことでFD診療は大きく変化した.これまで慢性胃炎として扱われてき た胃炎の概念は,このFDとH. pylori感染胃炎の2つに集約されつつある.FDの病態として胃適応性弛緩障害, 胃排出障害,知覚過敏などの関与が明らかとなり,最近では十二指腸の炎症や小腸内細菌増殖までが病態に関与 している可能性が指摘されている.FDにおけるH. pyloriの関与は大きくないものの,H. pylori陽性者では除菌治 療が保険診療で認められるため,まず除菌治療を先行させることが可能となり,酸分泌抑制薬,消化管運動機能 改善薬,漢方薬,抗不安薬などを患者個々の状態に合わせて使い分ける時代となったといえる.まだまだ不明な 点が多いFD診療ではあるが,概念の再構築などを通して,病態整理を行うとともに,ディスペプシア症状発現 の予防と制御を目指したさらなる診断法と治療法の開発が期待される. 〔日内会誌 104:2428~2435,2015〕 Key words Helicobacter pylori感染胃炎,Helicobacter pylori除菌治療,機能性ディスペプシア,胃酸
分泌,ガイドライン
兵庫医科大学内科学消化管科
The Cutting-edge of Medicine;Recent topics of functional dyspepsia.
謝性疾患がなく,慢性的な上腹部症状によって 診断される病名である. 当初ディスペプシア症状を有するH. pylori感 染胃炎は,FDに含まれていたが,H. pylori感染 による慢性胃炎は,器質的疾患であることか ら,「機能性消化管疾患診療ガイドライン2014― 機能性ディスペプシア(FD)」の中でも,H. pylori 除菌治療後 6~12 カ月以上症状が消失・改善し ている場合には,H. pylori関連ディスペプシア として定義されている2). FD診療ガイドラインが作成されて 1 年が経過 したことで,専門医の間ではFDに対する一定の 認識が深まってきたのではないかと思われる が,まだまだ一般医家におけるこの疾患名の認 知度は高くないようである.本稿ではこのFDの 病態と治療について最近の知見を含めて概説す ることとする. 図1 機能性ディスペプシアとH. pylori感染胃炎 これまでひとまとめに扱われていた慢性胃炎は,これからは大 きく機能性ディスペプシアとH. pylori感染胃炎に分けられる. 組織学的胃炎 形態学的胃炎 症候性胃炎 保険診療病名“慢性胃炎” 症状によって診断される“機能性ディスペプシア” 感染によって診断される “ 感染胃炎” H. pylori H. pylori <これまでの慢性胃炎> <これからの診断> 表 Rome Ⅲ基準でのFDの頻度
Study Sample size (Method of data Subject group
collection) Country Age
Prevalence(%) (%)UD/FD a
UD FD EPS PDS IBS Overlap(FD/IBS) M F
Aro 2009 1001 GP(Postal) Sweden 20-80 20.2 15.7 5.2 12.2 - - 13.5 26.5 Barzkar 2009 18180 GP(Interview) Iran 16-80 8.5 - - - 8.3 - 6.1 10.9 Kaji 2010 2680 Health check-up Japan mean 40 10.0 - - - 14.2 3.4 - -Noh 2010 2388 Health check-up Korea mean 43 - 8.1 - - 10.1 - - -Zagari 2010 1033 GP(Postal) Italy 32-84 15.1 11.0 8.8 6.3 - - 12.5 17.8 Chang 2012 4275 GP(Interview) Taiwan 19<_ 5.3 - - - 4.4 0.3 4.4 6.3 Choung 2012 3517 GP(Postal) USA mean 61 9.8 - - - 19.4 5.2 6.2 12.8 Mak 2012 2011 GP(Telephone) China 15-65 8.0 - 0.9 6.9 - - 6.9 8.9 Matsuzaki 2012 8038 GP(Internet) Japan 20-65 12.8 7.0 2.3 6.2 - - 6.6 7.3 Miwa 2012 15000 GP(Internet) Japan 20-79 6.5 - - - 14.0 3.0 M<F Kim 2014 3399 Health check-up Korea 15-98 - 20.4 9.5 13.9 - - 17.5 24.0 Min 2014 5000 GP(Telephone) Korea 20-69 7.7 - 4.2 5.6 3.5 1.9 5.9 9.5 Perveen 2014 3000 GP(Interview) Bangladesh 15-97 8.3 - 6.0 6.8 12.9 3.5 8.7 8.0 Rasmussen 2014 47090 GP(Internet) Denmark 20<_ 7.7 - - - 10.5 2.9 6.4 8.8 UD:uninvestigated dyspepsia,FD:functional dyspepsia,EPS:epigastric pain syndrome,PDS:postprandial distress syndrome, IBS:irritable bowel syndrome,GP:general population.-:not assessed,a:prevalence in male(M)and female(F)(%), including the calculated data from papers.
1.FDの病態
FDの病態については近年精力的に検討がな され,これまでに明らかとなってきている病態 メカニズムとして,胃適応性弛緩障害,胃排出 障害,胃・十二指腸知覚過敏があり,要因とし ては胃酸3),H. pylori感染,心理社会的因子,感 染,食事,遺伝的素因4)の関与が挙げられている. 1)食後の胃適応性弛緩障害 食物が胃内に流入したときに胃底部は,胃内 圧を上昇させることなく拡張する.これを胃適 応性弛緩反応と呼び,胃内容積を増加させて食 物をいったん胃内に貯留させるための重要な生 理機能である.この胃適応性弛緩反応はFDの約 40%で障害されているとされ,通常量の食事を 食べられずRome III基準でいう早期飽満感など のPDS症状に関与していると考えられている. 胃適応性弛緩反応障害のメカニズムはいまだ明 らかでないが,一酸化窒素(nitric oxide:NO) 合成酵素阻害薬や不安ストレスにより適応性弛 緩が障害され,食後の飽満感がみられることか らNO神経の障害や不安などの精神神経要因が 関与していると考えられている. 2)胃排出障害 胃排出遅延のあるFD患者では,もたれ感が多 い傾向があり,液体食の排出遅延と胃の圧に対 する知覚過敏に相関があると報告されている. また,食後のもたれ感と嘔吐が固形食の胃排出 と関連があるとも報告されている.しかし,胃 排出遅延のある患者では嘔吐や疼痛も多く,も たれ感は胃排出遅延の特異的な症状ではない. さらにFDにおける胃排出遅延の割合は,23%程 度と必ずしも高くなく,胃排出遅延の程度と症 状の強さは相関していない. 一方,一部のFD患者では食物の早期胃排出を 認め,十二指腸の急速な拡張により反射的に胃 排出にブレーキがかかり,結果的に胃排出遅延 となる.この早期胃排出は,少量の食事摂取の みで満腹感が発生し,もたれ感の原因とされて いる. 3)内臓知覚過敏 胃・十二指腸は,内臓神経を介して化学刺激 や伸展刺激を感知する.これらの刺激は後根神 経節を介して脊髄を上行し,自律神経が両側性 の神経支配を受けているため心窩部正中に対称 性に非限局的な痛みとして感受される.一部の FD患者ではこの知覚機構に何らかの異常があ ると考えられており,胃前底部に塩酸を投与す ると 20~40%のFD患者で痛みを訴える.一方, 我々は,FD患者の胃内に酸を投与すると,痛み ではなく胃もたれ,おなかの張りなどの症状が 健常者に比べてより強く出現することを示した (図2)3).また,FD患者では十二指腸内で酸曝露 が増加しており,FD患者で十二指腸内に酸を投 図2 胃酸注入による症状発現 胃内に酸を注入することによって発生する症状強 度の総合スコアを比較するとFD患者に酸を注入 したときに最も症状発現が強い. FD:機能性ディスペプシア,HC:健常者,HCl: 酸注入,Water:水注入.**p<0.01 vs. FD(Water), ‡p<0.05 vs. HC(Water),††p<0.01 vs. HC(HCl) (Oshima T,et al:Aliment Pharmacol Ther 35:175-182,2012) 350 300 250 200 150 100 50 0 FD (Water) (HCl)HC (Water)HC ** †† ‡ 症状強度総スコア (cm×min) FD (HCl)
与すると十二指腸のクリアランスと運動が低下 する.さらに十二指腸内に脂質投与を行うと胃 拡張刺激に対して知覚過敏となる,CCK-A(cho-lecystokinin-A)阻害薬やリパーゼ阻害薬は十二指 腸内脂質投与中の胃拡張刺激によるディスペプ シア症状発現を抑制することから,FDの病態の 1 つとして十二指腸の脂質に対する知覚過敏が あり,高脂肪食でよりディスペプシア症状が出 現することと関係があるかもしれない. 4)H. pylori感染 H. pylori感染は,胃酸分泌能,慢性胃粘膜炎 症,感染後の胃・十二指腸粘膜の変化を介して ディスペプシア症状に影響を与えている可能性 がある.H. pyloriは,ガストリン産生を上昇さ せ,H. pylori感染のあるFD患者では胃酸分泌や ガストリン値が高いとの報告もある. 胃酸分泌能は,除菌後 6~12 カ月で正常化す ることから,症状消失には除菌後 1 年程度要す ると考えられる.さらに,胃粘膜炎症について は,好中球の浸潤は除菌によって急速に改善す るが,リンパ球浸潤の改善には,数カ月から年 単位を必要とし,胃炎の程度とディスペプシア 症状の改善はH. pylori除菌後 1 年程度で評価す る必要がある.実際に,ディスペプシア症状消 失率は,除菌後の胃炎程度が軽度である方が高 い. H. pylori感染と知覚過敏の関係については, 伸展刺激に関していくつかの検討がなされてい るものの,明らかな関連は指摘されていない. 胃適応性弛緩反応に対するH. pylori感染の影響 は明らかでない.一方,胃排出能に対するH. pylori感染の影響については,胃排出が遅延し ているという報告と関与していないとの報告が あり,一定の見解が得られていない.またH. pylori除菌 1 年後に再度胃排出能を検討しても 改善がないことも報告されている.これらのこ とは,FDには種々の病態が含まれており,H. pyloriだけでは病態を説明できないことを示し ている.
2.腸内細菌叢とFD
現在,FDは胃・十二指腸領域に由来すると考 えられるディスペプシア症状によって定義され ているが,最近,小腸内細菌叢が腹部症状発現 に影響を与えていることが指摘されており,FD においてもこの小腸内細菌叢の変化が検討され 始めている.Costaら5)は,ラクツロースを用い た水素呼気テストでFD群の 56.5%に陽性,すな わち小腸細菌過剰増殖症(small intestinal bacte-rial overgrowth:SIBO)があることを明らかと した(図3).SIBOの診断における呼気テストの 精度については依然議論がなされているが,FD の症状発現においてもSIBOが関与している可 能性を示している.これはFDの概念を変える可 能性があり,大変興味深い.3.感染後FD
以前から過敏性腸症候群(irritable bowel syn-drome:IBS)では,急性感染性腸炎後に腹部症 状が残存する患者が多いことから,感染後IBSと 図3 FDにおけるSIBO (ラクツロース水素呼気テスト) FD:機能性ディスペプシア,Control:健常者, SIBO:小腸細菌異常増殖
(Costa MB, et al:Arq Gastroenterol 49:279-283,2012より 作図) 11 10 00 13 0% 20% 40% 60% 80% 100% Control FD SIBO- SIBO+
いう概念が確立されているが,FDでも同様に急 性感染症の後にディスペプシア症状が持続する ことがあることが報告されている.サルモネラ 感染後のディスペプシア症状発生はオッズ比 5.2,ノロウィルス感染一年後に空腹時痛がある 頻度は,オッズ比 5.77 と報告されている6).さ らに感染後FDでは,十二指腸の好酸球やマクロ ファージを含む炎症細胞浸潤の関与が指摘され ている.H. pylori除菌治療後にディスペプシア 症状が残存する場合,H. pyloriの慢性感染後に 残存する胃,十二指腸粘膜の残存炎症細胞浸潤 がその症状発生に関わっている可能性も考えら れるが,現時点ではH. pylori除菌成功後に1年以 上長期に残存するディスペプシア症状には,H. pyloriが関わっていないと解釈されている.こ れには感染後に発生するとされる腹部症状は, 急性感染によるものであり,慢性感染が排除さ れた後に症状が持続するという概念がこれまで にないことの影響もあろう.
4.FD治療
1)H. pylori除菌治療の役割 FDの 治 療 と し て ま ず 行 う べ き こ と は,H. pylori感染の有無を確認し,陽性の場合には,H. pylori感染胃炎が保険診療で除菌治療の対象で あるため,まず除菌治療を行うことである.た だし,除菌治療により症状改善が得られるのは 一部であることを念頭に置いて治療を行う必要 がある. これまでH. pylori除菌治療によるディスペプ 図4 H. pylori除菌治療によるFD症状の改善 (Moayyedi P:Arch Intern Med 171:1936-1937,2011)Blum et al, 1998 McColl et al, 1998 Koelz, 2003
Talley et al (Orchid Study), 1999 Talley et al (USA), 1999 Miwa, 2000
Malfertheiner et al, 2003 Bruley Des Varannes et al, 2001 Froehlich et al, 2001
Koskenpato et al, 2001 Gisbert et al, 2004 Hsu, 2001
Veldhuyzen van Zanten et al, 2003 González Carro, 2004
Martínek, 2005 Ruiz García et al, 2005 Mazzoleni et al, 2006 Mazzoleni et al, 2011 Combined [Random] 0.2 0.5 RR (95% Cl) 1.0 2.0 0.92 (0.81-1.03) 0.85 (0.76-0.93) 0.95 (0.80-1.11) 0.96 (0.87-1.05) 0.94 (0.82-1.07) 0.90 (0.70-1.17) 0.95 (0.86-1.06) 0.83 (0.68-1.00) 0.98 (0.86-1.12) 0.93 (0.79-1.08) 0.76 (0.41-1.53) 0.93 (0.65-1.33) 0.89 (0.70-1.13) 0.69 (0.47-0.99) 0.56 (0.22-1.30) 0.72 (0.57-0.88) 0.91 (0.76-1.06) 0.82 (0.70-0.97) 0.91 (0.87-0.94)
シア症状の改善効果については相反する報告が なされているが,Moayyediらによりメタ解析が なされており,2011年には現在用いられている Rome III基準によって診断されたFDに対するH. pylori除菌治療効果の報告を加え,18 編でのメ タ解析がなされ,必要治療数(number need to treat:NNT)は現在のところ 13 となっている (図 4)7). 2)酸分泌抑制薬 H. pyloriが陰性の場合や除菌でディスペプシ ア症状が改善されない場合には,酸分泌抑制薬 あるいは消化管運動機能改善薬を第一選択とす る. FDに対する酸分泌抑制薬の効果は,これまで に質の高いメタ解析がなされている.H2受容体 拮抗薬(H2RA)は,プラセボに対して22%の上 乗せ効果があり,一方PPI(proton pump inhibi-tor)では,14%の上乗せ効果があるが,半量, 常用量,倍量で効果に差がない. 心窩部痛,食後膨満感や早期飽満感がある場 合に比べて心窩部灼熱感がある場合には,異常 胃食道逆流のある可能性が高く,PPIの効果が高 い.さらにEPSとPDSでは,PPIの効果に差がな いとされている.これらデータから今後薬剤効 果を検討する場合,FDと胃食道逆流症(gastro-esophageal reflux disease:GERD) を 区 別 し, EPSとPDSを分類するだけでなく,それぞれの ディスペプシア症状と治療効果との関係を検討 し,それぞれの病態を明らかにしていく方が良 い可能性もある.すなわち胸やけや呑酸などの GERD症状の併存や心窩部灼熱感の存在が,PPI が有効である指標となる可能性がある. 3)運動機能改善薬 アコチアミドは,アセチルコリンエステラー ゼ阻害作用とM1/M2 ムスカリン受容体阻害作 用を持ち,胃排出障害を改善することでディス ペプシア症状やQOL(quality of life)を改善する と考えられている.ヨーロッパと本邦で第II層, 第III層試験が行われ,PDSにおいて有効性が示 されている(図5)8).これらデータから2013年 図5 アコチアミド臨床試験
EPS:心窩部痛症候群,PDS:食後愁訴症候群,GSOA:global subject outcome assessment,t.i.d.:1日3回,*:p<0.05 vs. プラセボ
(Altan E, et al:Expert Rev Gastroenterol Hepatol 6:533-544,2012より引用改変) 70 60 50 40 30 20 10 0 有効率 (%) Phase Ⅱb
Japan, EPS Japan, PDSPhase Ⅱb Europe EPSPhase Ⅱb (assessed by GSOA) Phase Ⅱb Europe PDS (assessed by GSOA) Phase Ⅲ
Japan, PDS Japan, PDSLong-term プラセボ 100 mg t.i.d アコチアミド
* *
6 月にアコチアミドは,初のFDに対する治療薬 として保険収載された.ただし,この薬剤はPDS に対してのみ効果があり,EPSに対しては有効 性が確認されていないことに注意する必要がある. 4) 酸分泌抑制薬と消化管運動機能改善薬 以外の治療 酸分泌抑制薬や消化管運動機能改善薬による 約 4 週間の治療で効果が得られない場合には, 抗不安薬,抗うつ薬,漢方薬などの使用を考慮 する. FDに対する抗不安薬や抗うつ薬のメタ解析 では,有効性が確認されているが,出版バイア スの可能性も否定できない.またその効果発現 メカニズムについては,うつの存在に依存せ ず,知覚過敏には影響を与えないことから依然 として明らかでない.5-HT1A受容体活性化薬で あるブスピロンは,FDに対する効果が示されて おり,そのメカニズムとして中枢性の作用と末 梢の胃適応性弛緩反応への作用が考えられてい る.我々は,5-HT1A受容体活性化薬で抗不安薬 であるタンドスピロンが,4 週間の治療で症状 消失効果があることを明らかとしている9).漢 方薬である六君子湯は,運動不全症状を有する FD患者の上腹部症状を改善し,健常人では食後 の胃底部拡張能を促進することが示されてい る.ただし,本薬剤のエビデンスは未だ十分で はないため,現在プラセボ対照二重盲検比較試 験が進行中である. 5)食事と生活環境 本邦ではPDSと呼ばれる食後に症状を訴える 群が,欧米に比して多いことが指摘されてお り,食事の調節を自ずと行っていると思われる. 食事刺激によって消化管は種々のホルモンを 分泌する.コレシストキニン,グルカゴン様ペ プチド―1(glucagon-like peptide-1:GLP-1),ペ プチドYYの分泌,グレリン分泌の抑制などがあ る.FD患者で十二指腸に脂質を投与するとディ スペプシア症状発現と血漿中GLP-1 濃度に関連 があることが報告されている.これは高脂肪食 の制限,食事回数の分割などが有効であること と関連があるかもしれない.また,お茶や生姜 は症状抑制に働くとの報告もある.禁煙,禁酒, NSAIDs(non-steroidal anti-inflammatory drugs) 使用の制限は,有効であると思われるが,介入 試験はこれまでに行われていない. FDの独立危険因子として不安やストレスが 挙げられ,これらは,PDSと関連があるといわ れている.これまで食事や生活環境に対する介 入試験はほとんど行われていないため,今後こ れらに対する臨床試験を行うことで介入効果の 有無を明らかにしていく必要がある10).
おわりに
FDが保険病名になったことでFD診療の新し い時代が始まった.この病態や症状発現メカニ ズムの解明がさらに進めば,ディスペプシア症 状に悩まされている多くの患者に,より効果的 な治療法を提供できると考えられる. 著者のCOI(conflicts of interest)開示:三輪洋人;講演 料(アステラス製薬,アストラゼネカ,エーザイ,ゼリ ア新薬工業,第一三共,武田薬品工業),研究費・助成 金(アステラス製薬,小野薬品工業,ツムラ),寄附金 (アステラス製薬,アストラゼネカ,エーザイ,大塚製 薬,第一三共,武田薬品工業)文 献
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