青木博夫 樋浦正
1 . ま え が き
無電解めっき法によれば,従来か らの真空蒸着法に比 べ て,未調整抵抗値 1 0 ks l以上で かつ小さな温度係数 ( 以下 TCR と略記)を有する金属皮膜抵抗体が容易に作製やきる ( I ) ̲
しか しなが ら,定格の 2 . 5 倍電圧を 5 秒間印加後の抵抗値変化率で 表 わ す 短時間過負荷特性 ( 以下 STOL と略記)は, 目標値の ±0 . 2 5 % 以内( 2 ) におさまらないことが判明した.そこで 筆者 らは,パルスエージングを施す ことにより ,STOL の改善を試みた ところ印加電圧 と時 間の組み合わせにより ,STOL をほぼ 0にすることができたので ここに報告する.
2 . 試 料
直径 1 . 7 mm ,長 さ 5 . 5 mm の表面未研磨の 1 / 4 W型のムライ ト磁器円筒を抵抗基体 として 用いた.これに超音波洗浄を行った後,塩化第 1 スズによる感受性化,塩化パラジウムに よ る活性化の前処理を施 した.次にこれを,めっき浴に浸潰するわけであるが,今回はその前 段にめっき浴 と同温度の純水に3 分間投法する工程を挿入 した.その目的は,各基体の表面 温度分布のバラツキを少なくし,全表面にわたってめっき開始の時間をそろえるためである。
本処理は,めっき膜厚の均一化および抵抗体間の抵抗値の. ミラツキの減少に効果があること が予想される. この処理の後に,裏面温度が低下 しな い よ う直ちに Ni ・ P めっき浴 ( 浴量 3 0 0 m l ,浴温 5 0o C) 中基体 1 0 0 本を 5 0 秒間浸漬 し皮膜形成を行った.次に両端にスズめっき 鉄製キャップを圧入 し ,2 5 0o C,2 時間の熱処理を施 した.熱処理後 の抵抗値が 1 2 ‑1 3 ks と のものを以下の実険の試料 として用いた.なお工程ブロック図を図 1 に示す.
3 . 実 験 方 法
パルス電圧印加装置のブロック図 と信号のタ イ ミソグチャー トを図 2 および図 3 に示す.普 ず 1 0 進 2 桁のディジタルスイッチに,パルス時 間の倍数を設定する.つぎにスター トスイッチ を押す ことによりスター ト信号が発生 し, これ をモノステ‑プルマルチバイブレータにより立 ち上 り微分を取 る. これがダウンカウソタのロ ー ド信号 とな り,ディジタルスイッチの値をロ
図1 めっき工程ブロック図
* 電気工学科 講師
** 電気工学科 教授
原稿受付 昭和 61 年 9 月 2 9 日
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‑ ドす る・ この ロ「 ド信号の立 ち上が りを再びモ/ステープルマルチノ 。 くィプ レー烈 こ導 きセ ット信号 とする. このセ■ ッ ト信号によ り RSFF をセ ッ トし,その 〟 1 " 出力によりカウソタ に入力するクロック信号のゲー トを開 く. クT Zック信号は外部の発振器か ら供給 され, この 時点か らカウンタが 0になるまで, ダウンカウン トを続ける. カウンタが Oになると,ボ ロ ー信号が出力されるが, これを用いて ,RSFF の リセ ッ ト信号 としクロック信号のゲー トを 閉 じる. したが って, カウン ト開始か ら終了までの時間巾のパルスを 1 個出力す ることにな り,パルス時間は発振器の信号の周期 とデ ィジタルスイ ッチの値 との積で決定される. この 単一パルスは, フォ トカプラーに より,次段の高圧部 とは絶縁 され増巾部に導かれる.増 巾 された . i . ) レスは,高耐圧 トラソジスタを駆動 し,高圧直流電源か らの電流をス イ ッチ ングし てパルス電圧を負荷に供給す ることになる.
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図2 J ミ ルス電圧印加装置ブロック図 図 3 タイミングチャー ト
ここでパルス印加時間は,1 ,1 0 ,l o o ms ,1 ,5 Sの 5 段階 とし, また印加電圧の倍数は定 格に対 して 3,4 . 5 ,6 の 3 段階 とした. ここで定格電圧 E は,定格電力を P,抵抗値を R と すれば次式 のとお りとなる.
E‑ ノ 戸 豆 ( ただ し p‑0 . 2 5 W)
次に短時間過負荷特性の改l l 定法を述べる.まず直流抵抗をディジタルメータに よ. り測定す る.つぎに上式 で求めた定格電圧の 2 . 5 倍を以下の条件の下で 5 秒間印加す る.
( a) 抵抗体は,あ らゆる物体か ら,下方 2 インチ,上方お よび左右 3 インチ以上離 して水 平に保持す る.
( b ) 抵抗体の発熱によって起 こされ る対流以外の空気の動 きはあってはいけない.その後 3 0 士1 . 5分以内に,再び抵抗値を測定 し,電圧印加前の抵抗値を基準 として,抵抗値変化 率をアミ‑セソ t や 単位 として求める・最後に試験後の抵抗体に, アーク,焼け焦げなど の異状がないか どうか調べる.
' ーなお,以下の図中のプロットは 5 本づつの測定データの平均値を示す.
4 . 結果お よび検討
図 4にパルス印加による抵抗値変化率を示す.図 より変化率はすべて負であ り, しか も, 印加電圧が大 きくなるほ ど,お よび印加時間が長 くなるほどその値は大 きくなることがわか る.電圧印加に より抵抗値が減少す る原田 として,次の 2 つが考 えられる.
( 1 ) ジュール熱に よる結晶化の進行 :無電解 Ni ‑ P め っき膜の組織は,熱処理前の状態で は非晶質であ り,熱処理を施す ことにより結晶化を進行 させ ることがで きる. しか し完 全に結晶化を終了させ るには ,50 0o C の高温熱処理を必要 とす る ( 3 ) . 我 々の熱処理は.
TCR な どの特性上の観点か ら 2 5 0o C で行 ったわけであるが,定格以上 の電圧印加によ るジュール熱 ( V 2 /R ・t ) に より皮膜が熱処理温度以上にな り,抵抗値が減少す るもの と考え られる. この影響は,特に国中で 4 . 5 倍 , 6 倍電圧 印加に お いて抵抗値が急激に 減少 している領域に現われている.なおこの影響は,抵抗膜厚が不均一になるほ ど強 く
0 1 2 3 4 .5 6 1 l ] l I ( (.( ,) 山 9 N V U U U N V B
‑S U 仁
1 6 3 1 0 ‑ 2 1 0 ‑ 1 1 5 TI ME( S) 図4 パルス印加による抵抗値変化率
ResT st ance Low ugh Low
Thi ck Thi n T hi ck FHm Th; ckness 図5 薄膜の等価回路
cont actp oi nt s
図6 無電解めっきの成長
一現われ ると考えられる.図 5 の等価回路に示す ごとく,皮膜が厚い部分は抵抗が低 く, 逆に薄い部分は高 くなる. このため電力消費は,高抵抗部分にかた より比較的低い電圧 で も皮膜温度を局部的に上昇させ抵抗値を減少 させ る.
( 2 ) 電界による組織粒の連結 :無電解めっきの成長は,図 6 に示す ように基体上の触媒点
を核 として,その上に同心半球状に成長 しさらに,析出 した Ni が新たなめ っき中心 と
な り,堆積 してゆ くことが知 られて い る ( 4 ) . このことか らめっき膜の最上部では,完全
に接続 していない個所が存在 し, これが接触抵抗 として抵抗値の一部を占めると考 えら
れ る. これは,めっき膜厚が薄 くなる高低抗体になるほ ど影響が大 きくなる.そこで高
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電界を印加することにより皮膜の徽細組織の接触点が, コヒーラ破壊を起 こして連結す るため,抵抗値が減少す るものと考 えられる. この現象は,図中 1 0 ms 以下 のジュール 熱の影響の現われない窮域における抵抗値減少の原因 と推定 され る.
したがって全体の抵抗値変化率を △R/ R とす ると, これは原 田( 1 ) による変化率 △Rl / R と原因( 2 ) による変化率 △R2 / R の和 と考えられる. △R2 / R は l mS 程度ではば終了 してい ると考えられるので, △R/ R か ら △R2 / R ( l mS) を差 し引 くと, △Rl / R が求め られ る・そ の ようにして補正 した後,変化率が例えは ‑2% になる時間を求めると ,6 倍印加では 0 ・ 9 S 4 . 5 倍印加では 2 . 6 S となる.同一変化率において, ジュール熱は同一 と考えられるが,実 際にジュール熱 の比を求めてみると ( 4 . 5 2 ・2 . 6 ) /( 6 2 ・0 . 9 ) ‑ 1 . 6 と な り電圧が低い程,電力 量は大 きくなっている. これは電圧が低い程,同一抵抗値変化を起すには,電力の逆数比以 上 の長い時間電圧を印加す る必要があることを意味す る.
抵抗皮膜の負荷時の温度上昇は,通電に より発生 した熱量か ら,基体, リー ド線を通 して の熱伝導および表面か ら空気中‑の放散等を差 し引いた結果に関係す ることが予想される・
したがって低い電圧 の場合,発生 した熱に比べて発散す る熱の割合が大 きいため,温度上昇 に高電圧の場合に比べて,電力の逆数比以上の時間を要す るもの と考 えられ る.
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