銀蒸着薄膜における電気抵抗の経時変化
藤田志郎・富田信昭・岡部福栄
1 序 論
金属蒸着膜の:不安定性は,蒸着直後の電気抵抗の経時変 化に顕著に現われており,それについての研究は,薄膜自 身の性質が,基板の種類および蒸着膜の製作条件に強く依 存するため,測定が困難で,研究報告もさまざまである。
蒸着膜の電気抵抗の経時変化に関する研究結果は,金原 氏等によって報告されている。1)・2)・3)・4)・5)金原氏は金につ
いて実験を行ない,時刻tに対する抵抗Rの減衰につい ての近似式として,
dR
==C (R−Roa)
dt
という結果を得ている。
但し,ここで,C, nは時間に関して定数であり, R。。
はt→・。におけるRの値である。そこでは,R。。の値と して,蒸着膜と同じ寸法のバルクの値を用いており,その 結果,nは蒸着速度に殆ど関係なくn≒6であるという報 告がなされている。
この場合のR。。は,蒸着後,時間が十分経過して,膜が 安定となった時の抵抗値である。
したがって,これにバルクの値を用いることは,蒸着薄 膜も蒸着後十分時間が経過すれば,バルクと同じ状態にな るものとみなしている。
しかしながら,数100A程度以下の厚さの蒸着薄膜は,
時間が十分経過して安定になっても,本来バルクとは異な った状態であると考えられるので,R。。の値としてバルク の値を採用することは,必ずしも妥当であるとは考えられ ない。
そこで,ここでは試料として銀を用いて,蒸着薄膜の電 気抵抗の経時変化を測定し,RQ・の値のとり方および抵抗 Rの時間的変化についての考察を行なった。そして,これ までの報告とは若干異なった結果を得たので,ここに報告 する。
2 試料および測定方法
蒸着用基板は,非晶質の例として顕微鏡用スライドグラ スを用い,あらかじめその両端に,電極として銀を厚さ約 1500A程度蒸着しておき,電極間に面積が43mza x suaの被 測定用蒸着膜を蒸着した。 (Fig.1)
Lead i subsilate
Ag evaporated Cu electrode electrode
Fig.1 Schematic representation of substrate and electrodes
竜h…n fiIm 7t一 一
ぐ ↑
また加熱用ヒータにはタングステンボートを用い,今回 の試料金属としては,銀(純度99.999%)を使用し,基板 は加熱しないで常温とした。蒸着直前の到達真空度は 1〜2×10−5皿mHgであった。
蒸着薄膜の抵抗測定回路は,Fig.2に示す通りである。
抵抗の経時変化は自動電圧記録計を用いて測定した。
th
Vacuum pumP
Fig.2 Schematic representation of the apparatus すなわち,膜に一定電流を流しておき,その両端の電圧 の変化を自動電圧記録計に記録させることにより,間接的 に抵抗の変化を測定した。実際の操作については,以下に 述べる通りである。
Fig.2において,スイッチSを閉じ, R1を謂整して回 路電流1を一一一一定(30μA)に保っておき,R2を調整するこ とにより記録計の振れを適当な一定値に設定する。次に蒸 着を開始し,膜が導電性を示し始めて記録計の振れが適当 な値まで減少したら,スイッチSを開き,同時に蒸着遮断 用のシャッターを閉じて蒸着を完了する。以後,蒸着膜の 両端の電圧の経時変化は,自動記録計に記録される。
3 結果および考察
前に述べたような実験方法により測定した結果をTable
工に示す。
蒸着膜の抵抗Rと時刻tとの関係を図に示すと,Fig.3 のようになり,数10分経過すれば抵抗Rの変化は殆どみら れなくなり,実際にその後,数時間放置しておいても,同 様にRの変化はみられなかった。
一199一
津山高専紀要(第2巻 第2号)
Table. 1 Sample
1 2 3
film thick−
ness (A)
deposi−
tion
time (s)
ie7 1 1
11.0 125
153
75.0 1o3.e
mean
deposi−
tion rate (A/s)
9. 71
1.66
degree of
ソ セユロエロ
(mmHg)
1.5×lo−s 1.8×10−5 1.48 1 1.7 ×lo−5
R oo (.CZ)
ユ43.3
186.7 107.3
1ot
6
:ts
4
3
①O仁O↑gり脇Oに
2
MO7 A
c2) n2s A t3) i53 A
{2}
{1) L
lr (s)
O 50 100 i50 ZOO
Time (s}
Fig.3 Decay curves of evapolated thin Ag fil皿s
したがって,R。。の値としてはバルクの値ではなく,数時 間経過した時のこの値を用いるべきであると考えられる。
そこで,ここでは,R・。の値として,蒸着後,数時間真 空中に放置しておいた時の抵抗の実測値を用いて,抵抗R と時刻tとの関係について考察した。
まずRとtとの関係を見出すために,横軸にtを,そし て縦軸に(R−R。。)一αをとって,測定値をプロットした ところ,次のようなことがわかった。
すなわち,tの小さい領域では,α・=2,(Fig.4), tの大 きい領域では,α=1,(F玉9.5)として直線的になった。
16
6 窪5
4 5 3匠虚︾
1 2r
}
(3}
このような抵抗の経時変化の現象は,蒸着中に生じた膜 内の多くの格子不整が,時間とともに消滅してゆくためと
考えられている。6)・7)・8)
これまでの報告によると,抵抗Rと時刻tとの間には,
dR
−C(R−Roo)n (1)
dt
なる関係が成り立つと云われている。
但し,ここで,C, nは時間に関して定数であり, R・。
はt→。・におけるRの値である。
しかし,従来の報告では,R・。の値として,蒸着膜と同 じ寸法のバルクの値を用いている.。
例えば,金原氏の文献によれば,試料として金を用い,
R・。の値として,バルクの値を用いた結果,膜可約140A,
蒸着速度0.3〜2.7A/sの範囲では,蒸着速度には関係な く,n≒6となることが報告されている。
しかしながら,それらの文献においては,R。。の値とし て,バルクの値を用いた根拠が明確にされていないように 思われる。しかも,蒸着膜というものは,本来バルクとは 異なっていると考えられる。
実際に,今回の実験にもみられるように,蒸着後,数時 間経過すれば,Rの値は十分安定になり, Rの時間的な変 化は殆どみられなかった。
o
Fig.4
io−2 1
61
鱗
,L
辛、l
s︐F
5 te t5 20
T]me Cs)
(R−Roo)一2 vs.t
)
(])
C2)
o
Fig.5
25 50 75 100
Time {s)
(R−Rc>o)一1 vs.t
それらの結果を式で表わせば,次の通りである。
(i) t:小なるとき,
(R−Roe) 2=at十b ここで,a, bは定数である。
ゆえに,
一Ellt}一=A(R−Roo)3
ここで,Aは定数である。
(2)
(3)
一200一
藤田志郎・富田信昭・岡部福栄 銀蒸着薄膜における電気抵抗の経時変化
(ii)t:大なるとき,
(R−ROO)『ユ=a t十b ここで,a , b は定数である。
ゆえに,
dR
=A (R−Roo)2 dt
ここで,A は定数である。
(4)
〈5)
したがって,蒸着膜の電気抵抗の減衰が,蒸着直後の膜 内の格子不整の消滅に起因するものとし,
(R−RQO)。of(f:格子不整の数) {6)
と仮定するならば6)・7)・8)格子不整の消滅の過程は,時刻t の小さいところでは,3次の化学反応式と同じ形となり,
時刻tの大きいところでは,2次の化学反応式と同じ形に なっている。
すなわち,時刻tのすべての領域において,n次の化学 反応式と対応させうるという,従来の報告とは異なった結 果を得た。
この相違点は,RD・の値として,バルクの値を用いない で,蒸着後,数時間経過した時の膜の抵抗値を用いたため と考えられる。
一方,我々の資料においても,R。。の値に,バルクの値 を用いれば,(1)式が適用でき,時刻tのすべての領域にわ たって,n≒7という結果を得た。これは銀を用いて実験
した他の報告と大体同じ値である。5)
4 結 論
銀の真空蒸着膜の電気抵抗の時間的変化について測定し た結果,次の結論を得た。
蒸着膜を,蒸着後,真空中に室温の状態で放置すると,
抵抗は時間とともに減少してゆき,数10分経過した後に は,抵抗は殆ど変化しなくなり,一定値におちつく。
従来の報告では,時刻t→。。に対する抵抗Rの値,すな
わち,R。。を蒸着膜と同じ寸法のバルクの値と考えて,抵 抗Rと時刻tとの関係を考察していたが,ここでは,数時 間経過した時の抵抗の実測値をR。。と考えるのが妥当であ るとして,Rとtとの関係を考察した。
その結果,tが小さいときは,前述の(3)式のような関係 が成り立ち,tが大きいときは,(5)式のような関係が成り 立つことが明らかになった。換言すれば,電気抵抗の経時
変化の現象を,格子不整の消滅によるものと考え,化学反 応式と対応させるならば,tの小さいところでは,3次の 化学反応式と同じ形になり,tの大きいところでは,2次 の化学反応式と同じ形になるといいうる。
本実験における膜厚測定に関して,多重反射干渉計の使 用について便宜をおはかり下さり,かつ,測定に関して有益 なる御助言をいただいた本校機械工学科,石原恒夫講師に 対し,厚く御礼申し上げます。
最後に,終始御指導いただいた,本校校長坂手邦夫先生 に深く感謝致します。
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文 献
金原口,猿渡雄二1応物32,8,p625(1963)
金原粟,猿渡雄二:真空6,4,p135(1963)
A,Kinbara, Y.Sawatari: Jap.J.appl.Rhys. 4, 3 p161(1965)
潮忠重:群馬高専研究報告第1号 p17(1967)
室,今泉,山口,金沢:昭和43年電気四学会連合大 会予講集 p402(1968)
沢木司=真空蒸着P198(日刊工業新聞社,1965)
水島,原留,玉井:薄膜物性工学,界面物性工学 P51(オーム社,1968)
日本学術振興会編:薄膜物性工学ハンドブック Plr−46(オーム社,1964)
(昭和44年9月10日受理)
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