無電解合金皮膜抵抗体 の熱処理効果 *
樋 浦 正 青 木 博 夫
1 . ま え が き
無電解 メ ッキに よって得 られ る合金皮膜抵抗体の安定性の向上 をはかる目的で,適当な雰 囲気,温度,時間で熱処理が行われている. 筆者 らは,無電解 メッキに よって得た
Ni‑P,
Ni‑Cr‑P,Ni‑W‑P,Co‑W‑Pの
4種頬の合金皮膜抵抗体に空気中加熱に よる繰 り 返 し熱処理を施 した ものについて,その抵抗温度係数 ( 以下
TC.R
.と略記)及び耐熱性に お よぼす効果を測定 し, また電子顕微鏡により熱処理前後の透過像,回折像を観察 し熱処理 の効果をメ ッキ膜の組織面,構造面か ら検討 した.
2.
試料及び測 定方法
試料は
,SnC1 2
,PdC1 2に よる感受性化,活性化の前処理を施 した
1/皇WP型磁器円筒基体に それぞれ
Ni‑P,Ni‑Cr‑P,Ni‑W‑P,Co‑W‑Pの
4種折のメッキを施 した ものを 用いそれぞれについて
250oC, 2時間の加熱を
1サ イクル とす る熱処理を繰 り返 し,その都 度抵抗値
,T.C.Rを測定 した.一方電子顕微鏡用試料 としては,アセテー トフイルム上に メ ○ ッキ して得た厚さ数百
Aの薄膜を
200oC,30分間を
1サイ クル とす る熱処理を数回行い熱処 理前後の透過像,回折像を比較,検討 した.
次に電子顕微鏡用試料の作製方法の詳細を記す.
(1)
アセテー トフイル ムの片面を金剛砂で荒す. この場合あま り荒 し過 ぎない よう1 にす る ことが必要であ り, ガラス面上をこするだけで も好結果が得 られた.
(2)
アセテー トフイル ムを水洗い し,感受性化,活性化等 の前処理を行 う.
(3)
次に アセテー トフィルムをそれぞれのメッキ液中にてメッキを施す. この時のメ ッキ 時間は
Ni‑Pは
10‑20秒間
,Ni‑W‑Pは
1分間
,Co‑W‑Pは
30‑60分間
,Ni‑Cr‑P
は
1‑ 2分間が適当である.
(4)
次に メッキされたアセテー トフィルムを酢酸 メチル中で溶解 させ, メッキ膜をシー ト メッシ ュです くい上げ,別 の新鮮な酢酸 メチルで
2‑3回程 良 く洗い,完全にアセテー
トフィルムが落ちるようにする.
3.
実 験 結 果
3‑ 1抵抗値変化率および
で.C.R*
昭和
52年
9月 電気関係学会東海支部適合大会において発表
** 電気工学科 助教授
* * *電気工学科 助手
原稿受付 昭和5
2年
9月
30日
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長野工業高等専門学校紀要 ・第
8号
Ni ‑P,Ni ‑Cr ‑P,Ni ‑W IP,Co‑W ‑Pの抵抗値変化率及び T.C.R の測定結果を それぞれ図 1‑図 4に示す。抵抗値変化率はNi ‑P( 図 1)が 1回 目の熱処理で急激な減少を 示 した後はほぼ安定 し, Ni ‑Cr ‑P ( 図 2)においても熱処理の初期において同様な減少を 示すがその減少率は大幅に小さく, しか もその後の熱処理では増加傾向を示 し
,7‑8回で
(% ︺ 静 と 樹 車 唱
増0 2
4 6 8熱処理 回数
図
1熱処理回数 と
T.C.R.お よび抗抵侶 変化率 〔 Ni ‑P〕
︹% ︺ 静 と 鶴 車 だ 習
0 2 4 6 8
熱処理 回数
図 3
熱処理回数 と
T.C.R.お よび抵抗値 変化率 〔 Ni ‑W‑P〕
5.0 2.
0
5‑1
抵抗値変化率T . C . R
(̲m
( (̲√ゝ ̲ ̲ ̲ …
︹U.\日氏︺出.U.ioooJrr
0 2
4
6 8熱処理回数
図
2熱処理回数 と
T.C.R.お よび抵抗値 変化率 〔 Ni ‑Cr ‑P〕
0 2
4 6 8熱処理 回数
図
4熱処理回数 と抵抗値変化率
〔 Co‑W‑P〕
佃花解合金皮幌抵抗体の熱処理効果 5 5
ほぼ安定 してい る. Ni ‑W‑P( 図 3 )お よび Co‑WIP( 図 4 )では最初か ら増加傾向を示 し Ni ‑W‑P では熱処理同数 7‑ 8 回で安定に な るが Co‑W‑P では 一方的に増加す る のみで安定 しない.
T . C. R は Ni ‑P では 1 回 Hの熱処理後に 5 0 0pp m 位 と大 き く,又熱処理 の同数を増や し て も改善 されない.一方 Ni ‑Cr ‑P は殺初か らほ とん ど 0であ り安定 してい る. し か し Nト W‑P では 1回 口の熱処理 後に 12 0pp m 位 であ った のがその後の熱処理で負の方 向に 増大 し熱処理 7‑ 8 阿で ほぼ安定 してい る.その時 の値は ‑1 00ppm 程度であ る.なお CoI W ‑P については
T.C.Rが著 しく大 き くグラフ上に表 わ しえなか った.
3‑ 2 透過像
熱処理前後の透過像を比較 してみて も有意差は見 られず ,又毎阿同一場所 を観察す ること が困難 なため, ここでは試料に よる違 いを述べ る. ( 軍 兵 1) ここで ,Co‑W‑P,Ni ‑W
‑P,Ni ‑Cr ‑P では島状構造が観察 され, その粗 さの程度は Co‑WIP>Ni ‑W‑P>
Ni ‑Cr ‑P の順にな ってい る. しか し Ni ‑P に おいて島状構造は殆 ん どみ られない. これ は メ ッキ速度が Co‑W ‑P,Ni ‑W‑P,Ni ‑Cr ‑P では小 さいが Ni ‑P においては これ
らに比仮 して非常に大 き く島が十分に成長 して連続膜にな ってい るためであ る.
. I. ' t‑ v
lA.' ' . ● ' ' ∴ 1 … ∴r
(a)
Ni ‑P( 5×1 0
3倍)
O))N
1‑Cr ‑P(2×1 0 4 倍) ( C) Ni ‑Cr ‑P( 1 0
5倍)
重
臣喜 子
̲;: 三 ‑ ' ‑ :I : ‑ ‑ ‑ ‑ ( d 7 Ni ‑W‑P( 5
×10
8倍) ( e) Ni ‑W‑P(5×1 0 憎 ) ( f) Co ‑W‑P( 5×1 03 倍 )
写英〔1 〕 透 過 像 ( 熱処理前)
3‑ 3 回折像
熱処理前の Ni ‑W‑P,Co‑WIP,Nl ‑P では ともに不鮮明なが ら リング状 の回折 像が
観察 され ることか ら, これ らが非晶質に近 い多結 晶質であ ることを示 す. 又 ,Ni ‑W ‑P ,
Co‑W‑P では リングの数が 2‑ 3 桐であ るのに対 して Ni ‑P では 1 個 しかない ことか ら,
前者 の方が後者 よりも結 晶粒界密度が小さい,つ ま り結晶化が進んでい ることがわか る.一
方 Ni ‑Cr ‑P では リソグ状 の回折像を生 じる 組織 の中に斑点状の阿折像を示す部分が 見 ら
56
長野工業高等専門学校紀要 ・
節 8号
葛
̲̲̲ a ̲ ̲ ‑ 虚 巨
( a) Ni ‑P 0 ) ) Co‑W‑P ( o ) Ni ‑W‑P
( 巾 Ni ‑Cl ・ ‑P ( e ) Ni ‑Cr ‑P 写f
f‑〔2〕 回 折 像 ( 熱処現 前)
写英〔3 〕 回 折 像 ( 熱処用 後)
れ ることか ら,多結 晶質のr l .に 単結 晶の部分が含 まれ てい ることがわか る.
(写真2)次に,熱処理が進 んだ状態では,Ni ‑ Cr ‑ P,Ni ‑W ‑ Pにおいては リソグの数が増加す
るとともに像が鮮明にな ってい るが,Ni ‑P では殆 ん ど変化が見 られない. この ことか ら前
二者 は熱処理が進むに従 って結晶粒界 の消滅すなわち結晶化が進んでい るが, Ni ‑Pは この
無電解合金皮映抵抗体め熱処理効果
57程度の温度の熱処理では結晶化の速度が ごく遅い もの と思われ る
1).一方熱処理後の
Co‑ W‑Pでは熱処理が進むに従い リソグの直径が変化 し,さらに鮮明になっていることか ら結 晶化が進む と同時にその結晶構造に変化が生 じていることがわか る.
5.
考 察
5‑1抵抗値変化率について
導電性薄膜に対す る空気中熱処理がその抵抗率を変化 させ る要因 として次のことが考え ら れ る.すなわち抵抗率を低下 させ る要因 としては結晶粒界の消滅
2)があ り, 又増加 させ る要 因 としてほ, 皮膜表面の酸化による実効膜厚の減少
3),●凝然効果4 ) に よる皮膜内不連続部の 生成,お よび
Ni系にあって
ほ Ni8Pの析出
(300oC以上)等があげ られ る.以上 の観点か ら 各薄膜の抵抗値変化について考える.
Ni‑Cr‑P
において
1回 日の熱処理に よる抵抗率の減少率が
Ni‑Pよりも小さいのは, これ らの メッキ速度が
Ni‑Pのそれに比べて非常に緩慢で あるので メッキ膜形成時に生ず る結晶粒界密度が小さいため と考え られ る. 一方透過像か ら
Ni‑Cr‑P, Ni‑W‑Pでは 島状構造が確認できるが, この島間のギ ャップが熱処理に よる凝然効果に よりさらに拡大 し, 抵抗率を増大 させる方向に作用す る. また,純
Niよりも
Crを数%含む合金の方が酸化速 度が大 きいこと5 ) が知 られている事か ら
,Ni‑Pよりも
Crあるいは
Wを少量含む
Ni‑Cr‑P
や
Ni‑W‑Pの方が酸化速度が大 きい.以上の抵抗率を増加させる要因 と減少させ る要 因が相殺 し合 って
Ni‑Cr‑Pお よび
Ni‑W‑Pにおいてほ抵抗率の変化が少ない もの と思 われ る.
2回 日以降の熱処理に対 して
Ni‑Pでは酸化が殆んど影響を与えないので安定 し ているが
,Ni‑Cr‑P,Ni‑W‑Pでは熱処理に よって酸化が進み酸化膜が厚 くな ることか ら抵抗膜 の実効厚さが薄 くな り,熱処理が進むに従い抵抗値が増加す るようにな る. しか し 酸化が進むにつれて以後の酸化を抑止す るような紐密な酸化膜が形成 されて6 )酸化速度が緩 慢にな り,そのために熱処理の回数が進むにつれて抵抗率の増加率が減少す るのである.
回折像の観察結果 より
,Ni‑Cr‑P,Ni‑W‑Pでは熱処理に より結晶化が進む ことがわ かるが, これは結晶粒界の消滅に よる抵抗率の減少を もた らし,酸化に よる抵抗率の増加を 緩和 している.その結果
,Ni‑Cr‑Pにおいては抵抗率の増加を数%におさえ
,Ni‑W‑Pにおいて も数回の熱処理に よって抵抗値度化率がおちついている.
Co‑W‑P
においてほ,抵抗値変化率が最初か ら急激に増加 して安定が見 られない. これ は, この皮膜においては,前者の ように以後の酸化を妨げ る紐密な酸化膜が生ぜず,膜 の深 部 まで酸化され るためである.
5‑2 T.C.R
について
T.C.R
は
, Ni‑Cr‑P,Ni‑W‑Pでは他に比べて結晶化が進んでいるのに もかかわ ら
ず良い値を示 しているのは, メッキ速度が緩慢な事や
Ni‑Pに比べて抵抗値が高い事を考え
ると, これ らは膜厚が蒋いため形状効果7 ) が生 じてい るか らと考え られ る. また
Ni‑W‑Pでは負の値を示 してお り
,Ni‑Cr‑Pではほぼ零の正の値であるが メッキ条件に よっては負
の値を示す ものがある事か ら,凝集効果によって
T.C.Rが負の値になっていると考え られ
る.そ して, これ らは熱処理後結晶化が進む ことか ら
T.C.Rが正の方向に大 きくなるはず
であるが酸化に より実効膜厚が薄 くな り形状効果が著 しくなるため
Ni‑Cr‑Pではほ とん
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長野工業高等専門学校紀要 ・第
8号
ど変化せず,又 これ より酸化が敢 しい
Ni‑ W ‑Pでは負の方向に変化 しているが,酸化が 終了す るにつれて安定にな っている.
Co‑W ‑P
において も凝集効果が生 じていると考え られ,凝集効果 と,膜厚が非常に薄い ことか ら最初か ら負の値を示 し, さらに酸化が進む ことに より益 々膜厚が薄 くな り
T.C.Rは負の方向に とめ どな く増大 してゆ く.
Ni‑Pにおいては最初か ら膜厚が大 きい た め バルクに類似 した4
00‑500ppmの
T.C.Rを示 し,熱処理に よっても酸化が殆ん ど生 じないため形状効果による改善 も期待できない.
6.あ と が き
以上の結果か らこの種の抵抗体におけ る熱安定性には酸化及び結晶化が大 きな影響を与え てい ることがわかる.酸化,結晶化が適度に生 じ酸化に より形成 され る酸化膜が以後の酸化 を抑制す る性質のある
Ni‑W ‑PやNi‑Cr‑Pにおいては抵抗値変化率お よびT.C.Rを 数回の熱処理で安定 させることができる. しか し酸化膜の形成が後の酸化を抑制 しえ な い
Co‑W ‑Pでは全 く安定性の改善することがで きない. また酸化が殆ん ど生 じないNi
‑Pはその
T.C.Rを改善す ることができない. しか しこれ らの材料について も熱処理温度お よび 酸素分圧比等を適切に し,結晶化や酸化速度を調節すれば安定性や
T.C.Rを改善すること も可能であろ う.
参 考 文 献
1
),3),6) S.T.Pai andJ.P.Marton:EffectofOxidation on.theResistivityofNi‑P Films∫.Appl.Phys.,Vol.43,No.12,December,1972.
2) S.T.Pai andJ.P.Marton:AnnealingEffectsontheStructureandResistivityofNi‑P Fims∫.Appl.Phys‥
γ
ol.43,No.2,February,1972.4),7)