スパ ッタ リン グ法 に よ る
Pt抵抗薄膜の作成
松 島 久 夫*
Platinum (Pt) Resistance Thin Films Produced
by Sputtering Method
Hisao MATSUSHIMA
Ptisavaluablematerialforthermalsensors,becauseofitsexcellentthermal Stability andlinearity ofresistance・temperature.
TllispaperdescribestlleelectricalpropertiesofPtthin丘lms preparedbyth sputteringmethod.Theexperimentalresultsaresummarizedasfollows.Thethickness ofPtthinfilm sisabout500A‑1000Adependingonthestrengthoftheioniccurrent. Theirresistance・temperaturechracteristicshowsaremarkablehysteresisphenomenon.
TIleircrystallizationdependsonthetemperatllreOfheattreatment.
1.
は じ め に
我々が自動化 ・省エネ化を進める場合装置や システム各部の,温度 ・圧力 ・流量などを知 ることは欠 くことのできない条件である.例えば原子力発電の計装システムには,多数のセ ソサーが内蔵されている.ガス ・石油工業 ・食品工業などのプT Zセス産業では,扱 う品物は 異なるが,セソサーを使 った圧力や温度などの自動計測 システムはそれほど違 ってはいたい.
また,設備の巨大化 ・高性能化に ともない, プT lセス運転の一つのミスが企業はもちろん社 会へ与える影響は大 きい.従って,各種 システムに使用 されるセソサーは十分に信頼性のお けるものが必要である.民生用 としてのセソサーはその使用 目的が千差万別であ り,その使わ れ方 も非常に断片的である.家電製品をはじめ自動串 ・航空機等がその代表的なものである.
さて,以上の様に現在使用 されているセソサ‑には,圧力 ・位置 ・温度 ・電流な ど各種の 用途のものがある.その中で も,温度セソサーは使用数,種類 ともに非常に多 く日本だけで も数億〜十数億の数 となる.その使用分野も広 く上記のように各種の産業をは じめ,先端技 術の分野でも温度七ソサTは重要な役割をはた している.
温度セソサー用材料 としては多数の物質があるが,本論文では耐熱性に優れ化学抵抗力が 大 きく,酸素 と直接に化合しないなど耐環境性にも特長を持つP t を とりあげて検討 した.
さらに,抵抗温度特性が周囲温度に対 し直線性を示すことなどか ら, これを温度セソサー等 の測定素子 として使用す るため小型化 ・軽量化を 日的 とし,スパ ッタ法により
P t薄膜を作 成 した. この素子について抵抗温度特性を測定 し,また
X線回折を利用 して,作成 した素子
* 電気工学科 助教授
原稿受付 昭和6
3年
9月
28日
38
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松 島 久 夫
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内軸b)定電流カスケード モデル
図 2 試料寸法
に対 しておこなった熱処理が結晶構造に どの程度の影響を及ぼすか等について検討 したので 報告する.
2. Pt
薄膜の作成および実験
本実晩に使用 した薄膜は総てスパ ッタ リソグ法により作成 した.スパ ッタとは図 1( a ) の概 念図に示す ように,基板 とターゲット ( 本実験では
Pt)の間に電圧を加えることにより生 じた残留ガスの正イオソが加速され,ターゲット表面に衝突 しそこか ら原子等がはね とはさ れ近 くに置かれた基板上に薄膜を形成す ることをい う..
図
1( a) によれは, i ・ 薄膜作成に利用するのは,加速 されたイオソが固体表面に衝突 した場合 に放出される中性原子や分子である.固体表面近 くには,電界放射 された電子が存在 しこれ が表面に近ず くイ
オソを中和 し中性化す る. しかし,運動量は保存 されされたままで固体に 突入する.固体内部では固体構成原子や分子 とくりかえし衝突をしながらェネルギーを失い 停止する.投入 した粒子は結晶に損傷を与えるのみならず結晶格子を構成する原子相互の衝 突を引き起 こし,やがては固体表面の原子や分子が外部に放出される.以下の現象は,カス ケイ ド理論 としてまとめ られている.
それによれば,非常に高速な粒子がターゲット表面に突入す る状況を図 1( b) のように単純 化 して考える.無限大の大きさを持つ固体を考え,その中に一つの平面を考える.突入した 高速粒子が衝突 した点を平面上に考える.この点で高速粒子は,固体を構成しているターゲ ッ ト原子 と衝突 しこれを正規の格子位置か らはじきとはす. この衝突は完全弾性衝突 と考え る. この原子をノックオン原子 とい うが,これはまた別のターゲット原子に衝突してはじき とはす. このようにつぎつぎとノックオソ原子が生成される. これをノックオン原子のカス ケイ ドとい う.ただ し, ノックオソ原子の密度は希薄で原子同志の衝突は無視できるものと す る.初めてノックオン原子が生成 した点では,時間的に一定の割合で生成されるが,時間 が十分経過 した後はターゲットの固体全体 として一つの定常状態が生 じていると考えられる.
そ して最初に考 えた平面をノックオソ原子が どちら側かに出た場合それをスパ ッタリソグ原 子 とい う.
本実険で薄膜作成に使用 した二極直流スパ ッタ リソグ装置の概略は次ぎのとお りである.
・真空チャソバ ‑
150皿 ¢
×160mH・イオソ化電流
10mA・上部電極 (クーゲッ り
70m¢Pt (リソグ電極) ・イ
オソ化電圧
0‑3000V DC・下部電極 ( 試料台) ( 水冷) ・電極間隔
35,45,55,80m・動作真空度
0.2‑0.05Torr(ビラニー真空計付)
この装置によ りイオソ化電流を
4‑ 8mA,スパ ッタ時間を
15‑60mimiの範囲で変化を行 ない試料を作成 した.作成 した試料の寸法を図
2に示す.
熱処理は管状炉を使用 した.温度を
400‑1000oCの間で調節を し熱処理を行なった.なお, 基板にはセラ ミックを使用 してある.
3. Pt
の伝導機構について
Pt
は遷移金属である.遷移元素では最外殻の電子は S軌道にある. この軌道の電子数は 二つで一つの場合 もある.原子番号の増加に したがって増す電子は,最外殻 より一つ内側の 0殻 の
5d軌道である.
d軌道 とS軌道はエネルギーが接近 しているため S軌道には電子は 一つでその分
d軌道にはいっている.つ ま り遷移金属の場合内殻 の
d軌道が伝導帯に寄与 し ている. しか し,伝導帯の帽は狭 い.それは
d軌道が内殻のため軌道相互間の重な りが小 さ いか らである.また, この軌道は Sや p 軌道に較べて より多 くの準位数を含む.遷移金属 と 通常 の金属を比較 して見ると結合に寄与 しているのは
S,p軌道だけでな く
d軌道 も結合に 寄与 している. このため強い結合を示 しデバ イ温度 も高い.
d軌道は方向性を持ち,重 な り が小 さいので これに より生ず る伝導帯は, 自由電子に近い電子系 よりも格子ひずみに対 して
〉 0
5 10電流 [m A]
図
3イオン電流と膜厚との関係
表
1膜の生成速度 ィォソ化電流 l生成速度
〔A/min〕非常に強 く反応す ると考 えられ るので,格子振 動 と電子 との相互作用の大 きいことが予想 され る.電気良導体である
Ag,Au,Cuな どと比 較す ると遷移金属の抵抗率が大 きいのは以上の 理 由による.
本実験で取 り扱 う試料は,薄膜であるか ら更 ( スパッタリソグ時間
60分) に薄膜特有 の物性についても考慮す る必要があ
る.
作成 した薄膜の物性に影響を与 えるもののなかで重要なのは,サイズ効果 と構造欠陥であ ち.薄膜 の厚 さが電子 の平均 自由行程以下になると,実効的に電子の平均 自由行程が減少 し た ことになる.そのため電子の移動に対 しあ らゆる面で影響がで る. これをサイズ効果 とい
ラ.
薄膜の構造欠陥は,普通,気相か ら固相へ と急敢な凝縮過程にその原因がある.かつ, こ
の変化は,薄膜を構成す る物質 とは無関係の気体分子な どが存在する空間で行なわれ るため
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薄膜中に各種の欠陥が生ず ることになる.例えば,空孔 ・格子間原子 ・積層欠陥 ・各種 の転 移である.更にスパ ッタの特長 としてスパ ッタ粒子が基板突入時に持つエネルギ‑の大 きい ことがある.高エネルギー粒子は膜形成中の表面温度を上げ膜 の構造な どに大 きな影響を及 ぼすので厚 さが非常に重要 となる.薄膜 の厚さが数十オングス トロウムの場合は,基板上の 金属はほ とんど島状構造を している.この場合は断続的な薄膜 といえる.厚 さが増すに従い 島 と島 との間は次第に埋 まってい く.すなわち連続的な薄膜になってい くことが考えられる.
この場合はバル クと同じ様な扱いが可能 となる.本実験で作成 した薄膜 の膜厚をイオソ電流 との関係で示 した ものが図
3である.得 られた膜厚は約
100A‑1000A であ りこの程度であ ると薄膜表面の状態が大 き く特性に影響を及ぼす ことになる. また,表
1には薄膜の生成速 度を示 してある.
50 100 150 温
ま 【℃ ]
図
4 Pt薄膜の低抗一温度特性 図
5抵抗一温度特性
( 時間
15分 :電流4mA)
150 温度
〔℃ 〕
図 6 抵抗丁温度 特性 ( 時間30 分 :電流
4mA)4.
実験結果お よび検討
図
4, 5, 6, 7にイオソ電流
4mAでスパ ッタ時 間を変えて作成 した試料の抵抗‑温度特性を示す.時 間を厚さに換算す ると
0 60分
‑426Aであ り
15分だ と
100 A程度 と考え られるか ら非常に 薄い膜である といえ る. しか も, この試料は熱処理 してないか ら薄さか ら くるサイズ効果 と各種の構造欠陥が非常に多 く含 まれ ていると考え られ る.図
5が最 も薄い試料の特性であ るが温度が
100oCを越 えた ところで ピーク を生 じ以 後,負の抵抗温度係数を持つ. これは,低い温度では あるが熱処理効果が現われて薄膜中の構造欠陥が取 り 除かれつつあると考えてよい.図
5, 6, 7を比較す
る とこの順序で負の抵抗温度係数を持つ部分が少な く
なっているが, これは構造欠陥の減少 と同時に島状梼
表
2温度係数イオン電流
8mmA60分
道の間隙が膜厚の増加により埋め られ去抗値が減少するためである.
この様に考えると図に現われている履歴曲線の面掛 まサイズ効果を含んだ構造欠陥に比例 していると考えてよい.
また,図
5, 6, 7の順序で抵抗値のピークが高温側へ移動しているが, これは院厚が増 した分だけ構造欠陥の減少に遅れが生 じているものと見れる.
図
8は,熱処理の効果を見たものである. この試料は,膜厚が
1000A程度である. この院 厚であるとサイズ効果の影響は前の試料に比較すると小さい.ただ薄膜を物理的に特徴づけ るものはその表面である.薄膜の表面構造は電子伝導に対 しては,一種の構造欠陥 として働 いている.' {ルクの表面 も電子伝導に影響を与えるが,その体積に校べて表面積の割合は薄 膜の場合に較べて小さい.
薄膜の構造欠陥そのものは温度依存性はないがその濃度は温度により大 きく変化す る.坐 成 と消波のエネルギーを
Eとすれが濃度
Nは
N(E),欠陥の単位濃度にもとず く抵抗を r( E) と すれば試料の残留抵抗は
p ‑ ∑ r( E) N( E)
(1)
で表されるが, これ らは熱処理により除去され抵抗値は低 くなる・
' 金属材料の場合その再結晶温度は,絶対温度で融点の約
1/ 3とされてお り, この温度以 下で熱処理を行なえば膜の巨視的形状を変えることな く薄膜中の構造欠陥を稀少させ ること ができる.
600oC
は
,Pt の再結晶温度 よりやや高い と考えられる.
図
8の
600oCにおける特性は,構造欠陥の非常に少ない試料のものである.熱処理が進む ほど抵抗温度係数が大きくなっている様子が曲線の勾配 と
未 2か らわかる.( 最大
2582ppm)図
9は,熱処理温度 と処理時間を変えた場合の特性である.この試料は電極の接触にやや
問題があるため抵抗値の値 より各特性の勾配に注 目す る.熱処理温度が上がるにつれ勾配が
42
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松 島 久 夫
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(時間
60分 : 電流
8mA)50
100 150温度 【℃ 〕 図
8 Pt薄膜の抵抗一 温度特性
4 0
45 50回折角
皮 〔● 〕h
) 未処理 の
Pt薄院
40 45 50
● 回折角度
(● 〕㈱
Pt薄膜
(C‑ 6)を60
0oCで120分 間過熱 したもの
Sd
D 噸
洪忠x50 10
0
15
0温度 [
℃ ]図
9抵抗‑温度特性 ( 時間60 分 :電流
8mA)4
0 455 0 回折角 度 〔 ● 〕
仙 Pt
薄膜
(C‑8)を
800oCで1
20分 間過熱した もの
Sd
U
喝演蛍X40 45
5 0 回折角皮 〔 ● ) O j )
Pt薄膜
(C11 0)を
1000oCで
120
分間過熱 したもの
CZII
O 加熱時間を一定
(120分)にした ときのⅩ線回折図
( a ) 常 温
(b) 1800C 30分加熱 図
11裏 面 写 其
増加 している,つ ま り抵抗取舵係数が大 きくなっていることが判明す る.
図
10は,熱処理時間を
120分 とし加熱温虻を
1000oCまで変化 させた助命の
X線r T u l 折図を示 してある.火処F j i の細脱か らは (111 )所以外のl ・ . 1 折 ヒー タはBL われず微細
結Ih T j を含 ん だ
非晶質 と考 え られ る.
800, 1000oCの
糊付は
(lil)L r I i が支配r r . ){ ・
才.Jr800oCか らは
(200)面 を示す t 1 ‑ ‑ クが n j H脈に現われ良W・ な F . l f f l 州 i が祝われている.
熱処理配収を‑' j kに保 ちn ! J H H J ) をa' 化 させた胡 合のX鋭I r ‑ ! l 折榊に よれば,密集 処Pi l i 時I . u r l
tpt30‑60
分の問でが熱処P l l . 班' J f l 一 化があ り
Il 川' ' 】 を岬 して も回折敏比にi ' 6竹が無い.
図1 1 は,波立つ L ; 予断微酔 こよるP t 細脱の Rl 缶 i 状態を示す
'Ij・l ' tである. この回か らも熱処 理 が進む と新 品化が進み粒子の径が岩下大 き くな っていることがわか る.
5.
あ と が き
本実奴は, ス
/{ッタ法で作成 した
Pt 薄膜試料について温度特性を測定 し, これを通 して 熱処理効果を検討 した. また,X線回折 ・走査形電子顕微鏡を利用 して P t の結晶性 ・表面 状況な どについても評価を行なった.簡単にまとめた結果を次に示す.使用 した試料 の膜厚 は約
100‑ 1000Aで,膜厚が小 さい とサイズ効果 ・構造欠陥な どに よ り抵抗率が大 き くその 分抵抗温度係数が小 さ くな る.構造欠陥な どの影響は衣抗温度特性の履歴面前に よ り表せ る.
低温であっても熱処理効果は大 きく影響 し,処理を時間 ・熱 の両面か ら大 きくすれば結晶性 が向上 し抵抗率は小 さ く温度係数は大 きくなる.熱処理 の時間に対す る依存性は
30‑60分 の 処理時間が適当でこれ以上時間を憎 して も意味がない.
報告を終わ るにあた り精密な実験で御尽力頂 いた,神津 正氏 (NTT勤 又),山 木 番 人氏 ( 大 日本ス ク 1 )‑ソ勤務) また,写真投影で協力 して頂 いた長野高専学生 市村健二君 中山敏紀君 に感謝いた します.
参 考 文 献 (i)
金原無 二スパッタリソグ現象,東京大学出版局
,1985,P60 (2)金原粂 :蒋股の韮木技術,文京大学出版局
,1985,P135 (3)麻蒔立男 :蒋脱作成の進一 礎,口刊工茨
,1980,P125(4)
日本学術振興会 :蒋陵工学‑ソドブック,オーム社
,1983,P451‑460 (5)北沢宏一 :超伝苓材料,応用物理
53 1984,P320(6)