東北薬科大学
審査学位論文(博士)要旨
氏名(本籍) ナリタ コウイチ
成田 紘一(青森県)
学位の種類 博士(薬学)
学位記番号 薬学 第 125 号
学位授与の日付 平成27年3月17日
学位授与の要件 学位規則第4条2項該当
学位論文題名
ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤FK228,ス ピルコスタチン C, D およびブルクホルダック A, B の全合成
論文審査委員
主査 教 授 遠 藤 泰 之
副査 教 授 吉 村 祐 一
副査 教 授 加 藤 正
ヒストン脱アセチル化酵素 (HDAC) 阻害剤
FK228, スピルコスタチン C, D およびブルクホルダック A, B の全合成
東北薬科大学大学院薬学研究科 医薬合成化学教室 成田 紘一
FK228 (1) は、強力な HDAC 阻害作用を示すことから、米国において新規がん分子 標的治療薬として臨床応用されている。また、化学構造的な観点からも、ジスルフィ ド結合を含む 16 員環環状デプシペプチド構造という特異な構造を有していることか ら、合成標的分子としても大変興味深い化合物である。また、天然からは 1 と類似構 造を持つ、スピルコスタチン類 (2 – 5) およびブルクホルダック類 (6, 7) が相次い で単離・構造決定されている。これら天然物群は新たながん分子標的治療薬のシード として期待される一方で、構造活性相関は十分に解明されておらず、既存の合成法も 効率的な合成法とは言い難いものであった。そこで著者は FK228 (1) を合成標的分子 として選定し、効率的かつ柔軟性に富んだ全合成ルートの確立を目的として本研究を 行った。また、確立された合成法をもとに、いまだ全合成の達成されていないスピル コスタチン C (4) および D (5) の全合成、さらに、立体化学が明確にされていない ブルクホルダック A (6) および B (7) の全合成へと展開した。
[第一章]FK228 の合成計画
FK228 (1) の合成計画を次のように立案した。すなわち,トリペプチドセグメント 9 およびアリルアルコール部位を有するカルボン酸と D-Val からなるセグメント 10 をジスルフィド結合形成により連結し、鎖状ジスルフィド 8 とした後,マクロラクト
[第二章]FK228 の全合成
L-Thr (11) からトリペプチドセグメント 9 を合成し、アルデヒド 12 とスルホン 13 の Julia-Kocienski オレフィン化を用いることでセグメント 10 を合成した。続 いて、ヨウ素を用いた両セグメントのカップリング反応により、鎖状ジスルフィド 8 を得ることに成功した。しかし、鎖状ジスルフィド 8 から環化反応前駆体であるセコ 酸 15 への誘導を種々試みたが、セコ酸 15 を得ることはできなかった。
そこで,コンバージェント合成法を基盤とした新たな合成計画を立案し、新たにセ グメント 16 およびセグメント 17 を合成した。両セグメントを HOAt の存在下、HATU を用いて連結させることで C21 位のエピメリ化を抑制し、カップリング体 18 を単一 の立体異性体として収率良く得ることに成功した。しかしながら、カップリング体 18 から導かれるセコ酸 19 を用いたマクロラクトン環化は不成功に終わった。
O NH BocHN S
S
OPMB NH O Me
Me Me
OMe O
TrS H
N O
O OtBu PMBO Me Me BocHN
NH HN
AcmS OMe
O O
OMe Me Me 9
10 8
+
disulfide bond formation O NH
HN S
S
O HN
O O NH
O O Me
Me
Me Me FK228 (1)
Me macrolactonization
macrolactamization
O HN
tBuO
O
Me Me
&
そこで、カルボン酸の活性化による環化ではなくアルコールの活性化による環化を 検討することとし、(1
R
)-セコ酸 21 の合成を行った。得られたセコ酸 21 を用い、光 延反応条件下、立体反転を伴ったマクロ環化を行ったところ目的とする 16 員環環状 ペプチド構造の構築に成功した。最後に、ジスルフィド結合の形成を行い、FK228 (1) の全合成を達成した。このように著者は、コンバージェント合成法を基盤とした FK228 (1) の新規合成ルートの開発に成功した。[第三章]スピルコスタチン C および D の全合成
いまだ全合成の達成されていないスピルコスタチン C (4) および D (5) の全合成 研究に着手し、アミンセグメントおよびカルボン酸セグメントの二つのセグメントを 連結するコンバージェントな合成法を用いることにした。対応するアミンセグメント (23, 24) およびカルボン酸セグメント (25, 26) を連結した後、セコ酸 (27, 28) へ と誘導し、MNBA によるマクロラクトン環化、ジスルフィド結合形成および脱シリル化 を順次行い、スピルコスタチン C (4) および D (5) の全合成を達成した。
[第四章]ブルクホルダック A および B の全合成
これまでに確立してきた合成方法論を立体化学が明確にされていないブルクホルダ ック A (6) および B (7) の全合成に応用し、全合成を通してその立体構造の決定を 行った。スピルコスタチン類の合成法をもとに、ブルクホルダック A の提唱構造式
C20 位エピマーである 29 を推定し,その合成を行ったところ,得られた 29 の NMR スペクトルは天然物のものと一致した。このことから,ブルクホルダック A の真の構 造は 29 であると結論づけた。さらに,同様の方法論により,ブルクホルダック B (30) の合成も行った。
合成した化合物の HDAC 阻害活性およびヒトがん細胞パネルを用いた増殖抑制活性 について評価したところ、ブルクホルダック A (29) がきわめて高いアイソフォーム 選択性および優れた増殖抑制活性を示すことが明らかとなった。また,マクロ環側鎖 の置換基をわずかに変えるだけで,HDAC 阻害活性を損なうことなく,アイソフォーム 選択性を向上させることが可能であることが判明した。
以上のように,著者は FK228 (1), スピルコスタチン C (4), D (5) およびブルクホ ルダック A (29), B (30) の全合成を達成し,その生物活性評価を行うことで,これら ジスルフィド結合を有する大環状デプシペプチド類の構造活性相関について有用な知 見を得ることができた。このことは,今後,FK228 (1)よりも有効で毒性の低い HDAC 阻 害剤開発の途を開き,新たながん分子標的治療薬の開発に寄与するものと考えられる。
<参考文献>主論文(原著論文)
1. Total Synthesis of the Bicyclic Depsipeptide HDAC Inhibitors Spiruchostatins A and B,
5’’-epi-Spiruchostatin B, FK228 (FR901228) and Preliminary Evaluation of Their Biological Activity.
K. Narita, T. Kikuchi, K. Watanabe, T. Takizawa, T. Oguchi, K. Kudo, K. Matsuhara, H. Abe, T. Yamori, M.
Yoshida, T. Katoh.
Chem. Eur. J., 15, 11174–11186 (2009).
2. Total Synthesis of Bicyclic Depsipeptides Spiruchostatins C and D and Investigation of Their Histone Deacetylase Inhibitory and Antiproliferative Activities.
K. Narita, Y. F., Y. Sano, T. Yamori, A. Ito, M. Yoshida, T. Katoh.
Eur. J. Med. Chem., 60, 295–304 (2013).
3. Total Synthesis of Burkholdacs A and B and 5,6,20-tri-epi-Burkholdac A: HDAC Inhibition and Antiproliferative activity.
Y. Fukui, K. Narita, S. Dan, T. Yamori, A. Ito, M. Yoshida, T. Katoh.