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(1)

. 

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;論説;:

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媒介者としての弁護士

木 下 麻 奈 子

もくじ

調査の目的モ デ ル

質 問 紙 の 内 容調査対象・方法 分 析 結 果

(1)  申立人の法意識

(2)  仲 裁 結 果 の 成 否 に よ る 差 異 (i) 訴訟志向の強さ

(ii)  当 事 者 の 葛 藤

(3)  弁 護 士 と 当 事 者 の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 考 察

調 査 の 目 的

本研究の目的は,紛争処理における当事者間の合意形成のメカニズムを,

心理学の観点から明らかにすることである。特に焦点を当てるのは,当事 者が仲裁案の是非を判断する過程に,弁護士がどのように関与しているか

という点である。

近年,紛争処理の分野では合意に関する研究成果は著しい[棚瀬,

1 9 9 6 ]

。 それらの研究では,合意は一義的に紛争当事者間の問題であるとし,当事

(1) 

者の交渉を媒介する弁護士の役割に焦点を当てることは少ない。

一六 六

とりわけ 心理学の研究においては,認知心理学の影響の下に,紛争処理に関する問

‑ 17  ‑ 20‑1・2‑166(香法2000)

(2)

六五

題 を 当 事 者 個 人 の 認 知 に 還 元 す る 研 究 が 大 勢 を 占 め て い る 。 た と え ば , 実 際 に 紛 争 を 経 験 し た 人 が 紛 争 処 理 過 程 を ど の よ う に 評 価 し た か に つ い て 研 究 し た も の に お い て も , 当 事 者 個 人 の 心 理 過 程 の み に 注 目 し て お り , 相 手 方 や 弁 護 士 等 の 他 者 と の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 作 用 は 重 視 さ れ て い な い

[ L i n d   &  T y l e r ,   1 9 8 8 ] 。

そこで本稿では,紛争処理過程に関与している当事者および弁護士のコ ミュニケーションに着目する。この点に着眼する理由は,第

1

に,紛争処 理 過 程 に お け る 人 び と の 心 理 や 行 動 は , 一 人 の 個 人 に 還 元 で き る も の で は なく,人と人との相互作用中に意味を持つものだと考えられるからである。

そして第

2

に,紛争処理過程での人びとの言動は,紛争処理の制度内に限 られて機能しているものではなく,制度外での意味づけと繋がりを持つも の だ と 考 え ら れ る か ら で あ る 。 こ れ ら の 観 点 か ら , 弁 護 士 と 当 事 者 の 事 件 に 対 す る ヨ ミ の 違 い が 何 に 起 因 し , 結 果 に ど の よ う に 影 響 す る か を , 申 立 人 お よ び そ の 依 頼 を 受 け た 弁 護 士 双 方 に イ ン タ ヴ ュ ー し て , 両 者 の 事 件 に 対する認知のメカニズムを分析する。

仲 裁 の 過 程 を シ ス テ ム 的 に 分 析 に す る に は , 弁 護 士 と 当 事 者 の 一 方 で あ る申立人だけではなく,被申立人,被申立人の弁護士,仲裁人等も含めて,

当 該 仲 裁 に 関 わ っ た 全 て の 人 が そ の 事 件 を ど の よ う に 理 解 し , 評 価 し て い る か を , 時 間 経 過 に 伴 う 変 化 も 対 象 に 含 め て 調 べ る 必 要 が あ る 。 し か し 残 念ながら,本研究では,時間および資金的コストの制約が大きかったこと か ら , 申 立 人 と そ の 弁 護 士 に 対 象 を 限 定 し た 。 仲 裁 過 程 に 関 わ る 全 て の 人 に 対 す る イ ン ヴ ュ ー も 行 い 総 合 的 に 仲 裁 事 件 の 全 貌 を 分 析 す る こ と は 今 後 の課題である。

2

モ デ ル

仲裁センターを利用する際の弁護士と申立人の意思決定過程をモデルと して示した(第

1

図参照)。この意思決定モデルでは,弁護士と申立人であ る 依 頼 者 の 相 互作用が結果にどのような影 響を 与 えるか と いうこ と に焦点

20-l•2-165 (香法2000) ‑ 18  ‑

(3)

を当てている。

このモデルを簡単に説明する。まず申立人の意思決定を時系列的に見る と,紛争が表面化し,過去の経験,知人等からの情報,自己の価値観等を 踏まえて,当事者同士で交渉を行う。そこで問題が収拾しない場合,法律 相談等を通して仲裁センターを利用するに至る。仲裁センターに事件を持 ち込むか否かの決定には,仲裁センターに関する知識やそれに対する期待 が影響している。仲裁センターヘ申し立てた後,申立人は弁護士のアドバ イスを受けながら,数回の期日中に仲裁案の内容や相手側の対応の仕方を 見て,和解案を受け入れるかどうかを決める。

他方,弁護士の側からすると,仲裁センターを利用する経緯は次の通り である。まず直接に,あるいは法律相談を通して依頼者から相談を受ける。

弁護士は過去の経験,専門知識,事件のヨミ等を考慮して,その事件を受 任するか否か,かつ仲裁センターを利用するか否かを決める。弁護士は過 去に仲裁センターを利用した経験を踏まえて,和解案を相手側と調整しな がら,和解案を受け入れるか受け入れないかについて依頼者にアドバイス

をしていく。

本研究で調査を行った岡山仲裁センターにおいては,当事者に弁護士が 全く付かなかったケースが半数を越えている。具体的な数字を挙げると,

平 成

9

年の

3

月から

1 0

月末の間に申し立てのあった事件

7 6

件のうち,申 立 人 だ け に 弁 護 士 が 付 い た 事 件 は

1 9

件,被申立人だけに付いたケースは

8

件 で あ り , 両 者 に 付 い た の が 6件,と当事者の少なくとも一方に弁護士が 関 与 し た ケ ー ス は 合 計

3 3

件に過ぎない[岡山仲裁センター,

1 9 9 8 ]

。つま

り残りの 43件には全く弁護士が関わっていないのである。しかし本研究で は依頼者と弁護士の相互作用を分析の対象とするため,あえて弁護士が付

いた事件を選択した。 六

‑ 19 ‑ 20-1•2-164 (香法2000)

(4)

1-2~163

( = m :

$   2 00 0)  

弁護士

過去の経験 専門知識 事件のヨミ 価値観

~ 仲裁センター利用の有無

受任 依頼者への

アドバイス

咄げL

3ヰ揺廿︵升↓

F)

│ 

2 0

 

紛争の 表面化

9 , 9 9 9 9 9 9

,

当事者同士

「 戸

過去の経験

の交渉

知人等からの情報 正しさの志向

弁護士に

相談する

弁護士に対する期待 弁護士に関する情報

仲 裁 セ ン タ ー

-,~1 へ申立てる

‑ c

仲裁センターに関する知識 仲 裁

の期日

仲裁センターに対する期待

解決の内容

和解案受 入の是非

相手側の対応

申立人

(依頼者)

~

~

W 1図:仲裁センター利用過程における弁護士と依頼者の関係

(5)

質 問 紙 の 内 容

このモデルに対応するように,当事者とその弁護士それぞれに対する質 問紙を作成した。

まず申立人である当事者に対する質問は,①仲裁センターに持ち込んだ 事件および仲裁センターに関する質問(問

1, 

2, 

3, 

4, 

5, 

6, 

7'

8, 

9, 

1 7 ) ,

②依頼した弁護士に関する質問(問

1 0 ,

1 1 ,

1 2 ) ,

③相手方や仲裁人に関する質問(問

1 3 ,

1 4 ,

1 5 ,

1 6 )

3

つに分類できる。詳しくは本稿末の付録

1

を参照して欲しい(以下,

この質問紙を「当事者用」と略す。)。

次に弁護士に対する質問は主に,①事件に関する質問(問

2, 

5,

6  , 

7, 

8,

9,

1 2 ,

1 8 ) ,

②依頼者に関する質問(問

1, 

3  , 

4, 

1 0 ,

1 1 ,

1 3 ,

1 4 ,

1 5 ) ,

③相手方や仲裁人に関する 質問(問

1 6 ,

1 7 ) ,

④その他(問

1 9 )

から構成されている(本稿末の付 録

2

を参照のこと。以下,この質問紙を「弁護士用」と略す。)。

4  調 査 対 象 ・ 方 法

1 9 9 7

1 2

月より

1998

1

月にかけて,岡山仲裁センターの利用者およ び利用者の弁護士を対象にインタヴュー調査を行った。本稿で取り上げる ケースは,遺留分減殺事件(以下「ケース

1

」と略称する),通行地役権請 求事件(同,ケース

2),

交通事故に基づく損害賠償請求事件(同,ケース

(2) 

3), 

賃貸借契約解除事件(同,ケース

4)

4

つである。これらの事件の うち,ケース

1 , 2,  4

については近隣関係,家族関係が関係している事 件である。

ただし事件の選択はインタヴューを受けてもらえるかどうかを優先した ので,無作為なものではない。この

4

つのケースの分析結果をどれほど一

‑ 2 1   ‑ 20‑1

2‑162

(香法

2 0 0 0 )

r. 

(6)

般 化 で き る か と い う こ と に は さ ら な る 検 討 が 必 要 で あ る 。 ま た , こ れ ら の イ ン タ ヴ ュ ー は 仲 裁 セ ン タ ー 利 用 後 に 行 っ た も の な の で , 弁 護 士 , 当 事 者 と も に 事 件 を 回 顧 的 に 語 っ て い る 。 そ の た め 自 己 正 当 化 し た り , 自 分 自 身 が 納 得 す る た め に , 事 件 の 原 因 の 帰 属 に バ イ ア ス が 掛 か っ て い る 可 能 性 は 否めない[蘭・外山,

1 9 9 1 ]

。事件の進行と平行してインタヴューを行い,

このようなバイアスを回避することも今後の課題である。

な お 調 査 者 は

1 9 9 7

年 度 の 香 川 大 学 法 学 部 法 社 会 学 演 習 受 講 者

8

名 で あ る。

分 析 結 果

こ れ ら の イ ン タ ヴ ュ ー の 結 果 を , 申 立 人 の 法 意 識 , 仲 裁 結 果 の 成 否 に よ る 差 異 , 弁 護 士 と 当 事 者 の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 3点から検討した。

(1)  申 立 人 の 法 意 識

イ ン タ ヴ ュ ー を 行 う 前 は , 申 立 人 は 他 人 の 目 を 気 に す る な ど 紛 争 に つ い て 消 極 的 , 抑 圧 的 な 態 度 を 持 っ た め , 事 件 に つ い て イ ン タ ヴ ュ ー す る こ と は そ も そ も 困 難 な の で は な い か と 考 え て い た 。 し か し 実 際 に イ ン タ ヴ ュ ー を 行 っ た と こ ろ , 申 立 人 の 紛 争 に 対 す る 態 度 は , 当 初 の 予 想 と 異 な っ て い た。

ま ず 各 申 立 人 に 仲 裁 セ ン タ ー を 選 択 し た 理 由 を 尋 ね た 。 こ ち ら の 提 示 し た種々の理由に順位を付けてもらったところ,「第三者に紛争のことを知ら れるか否か」(当事者用問 6)と い う 選 択 肢 に つ い て は 全 て の ケ ー ス の 人 が 低 い 順 位 を 付 け , 他 人 に 知 ら れ る こ と は 気 に し な い と 答 え た 。 さ ら に そ の 六 ような順位づけをした理由を尋ねたところ,「皆が知っているので」(ケー ス

2, 

ケース

3)'

あるいは「後ろめたくないので人に知られることは意識

しない」(ケース 4) ということであった。

さ ら に イ ン タ ヴ ュ ー 前 は , 申 立 人 の プ ラ イ ヴ ァ シ ー の 観 点 か ら 必 要 に 応

20‑1・2‑161(香法2000) ‑ 22  ‑

(7)

じて個室でインタヴューする予定であった。しかし, 4ケース中 3件 に つ いては喫茶店やレストランで,残り

1

件は自宅において長時間インタヴュ ー を 行 う こ と が で き た 。 こ の よ う な イ ン タ ヴ ュ ー に 対 す る 申 立 人 の 対 応 の 仕方は,各自にとって事件が隠すべき対象でないことを意味していよう。

以 上 の よ う に , 申 立 人 は 自 分 に と っ て 重 要 な 出 来 事 で あ る 仲 裁 セ ン タ ー 利 用 事 件 を 人 に 話 す こ と に 躊 躇 い は み ら れ な か っ た 。 申 立 人 が 自 分 の 問 題 を他人に話すという行動には,そうすることによって自分に共感してもら ぃ , 自 分 の 主 張 の 正当性を強化したいという心理 的 な働き が 見られ る 。そ こ には 自 分 に と って正しいことを主 張す るこ とに 躊躇 する 姿は ない 。日本 人 の 紛 争 意 識 は 一 般 に 法 意 識 が 低 い , あ る い は 争 い ご と を 好 ま な い と 言 わ れているが[川島,

1 9 6 7 ] ,

これら

4

ケー スの 分析 にお いて は, 一旦 争いご

とを公にした以降は必ずしも当てはまらないことが示唆されている。

で は こ の よ う な 主 張 を 持 っ た 申 立 人 は ど の よ う な 過 程 を 経 て , 仲 裁 案 を 受 け 入 れ た り あ る い は 受 け 入 れ な か っ た り す る の で あ ろ う か 。 こ の 疑 問 に 答えるために,仲裁が成立したケースと不成立のケースを比較した。

(2)  仲 裁 結 果 の 成 否 に よ る 差 異

仲 裁 が 成 立 し た ケ ー ス と 不 成 立 で あ っ た ケ ー ス を 比 較 し , 申 立 人 お よ び 弁 護 士 の 回 答 の 傾 向 を 調 べ た 。 そ の 結 果 か ら , ① 不 成 立 で あ っ た ケ ー ス で は 訴 訟 志 向 が 強 い こ と , ② 不 成 立 の ケ ー ス の 方 が 当 事 者 の 感 情 の 葛 藤 が 強 いこと,の 2点が読み取ることができた。

(i)  訴訟志向の強さ

本稿で扱う 4つの事件のうち,仲裁が不成立であった事件はケース 1と ケース 2である。

[ケース

1] 

ま ず 仲 裁 セ ン タ ー を 選 択 し た 理 由 に つ い て 尋 ね た と こ ろ

(当事者用問

5), 

ケース

1

においては「自分の主張が認められると思った。

白黒をはっきりさせたい。」ということであった。次に事件を解決しようと 六〇

‑ 23 ‑ 20‑1・2‑160(香法2000)

(8)

五九

する際に重視したことを尋ねたところ(当事者用問

6),

1

に「自分の主 張が認められるか」,第2に「法律的に正しい判断が欲しい」とし,第 3に

「時間が掛るかどうか」ということを挙げた。「相手との話し合いを持ちた い 」 と い う 項 目 は そ の 他 を 含 め た

7

項 目 中 , 最 下 位 で あ っ た 。 こ の よ う に ケース

1

に お い て は 仲 裁 セ ン タ ー を 利 用 し な が ら も 訴 訟 志 向 が 強 い と 言 え る。

[ケース 2

ケース 2においては,仲裁センターを選択した理由として

「時間やお金のかからないところと聞いたので」と回答している。しかし,

こ の ケ ー ス は 当 初 訴 訟 を し た い と い う こ と で , 弁 護 士 の と こ ろ に 持 ち 込 ま れた事件であった。

これに対し,仲裁が成立したケース 3とケース 4では,上記の 2ケース と 異 な る 様 相 を 見 せ , 申 立 人 は 訴 訟 を 行 う こ と に つ い て 積 極 的 な 発 言 は し ていない。

[ケース

3 J 

ケース

3

の 当 事 者 は , 裁 判 で 係 争 中 で あ っ た 自 分 の 別 の 事 件と比較した上で,①裁判は平日に呼び出され会社を休まなければならず,

これ以上休みをとりたくない,②どちらが悪いかが明白であった,③早く 解決したかった, と の 理 由 で 仲 裁 セ ン タ ー を 選 択 し た と 回 答 し た 。 こ の ケ

ースでは,ケース

1

やケース

2

に見られる訴訟志向は見受けられない。

[ケース 4

ケース 4においては,①裁判と比べて円満,迅速,コスト が 安 い 解 決 , ② 時 間 と お 金 が 掛 か る か 否 か と い う 点 か ら , 仲 裁 セ ン タ ー を 選 択 し て い る 。 こ の ケ ー ス で も 裁 判 所 と 対 照 的 な 選 択 肢 と し て 仲 裁 セ ン タ

ーを利用している。

仲 裁 が 成 立 し た ケ ー ス と 不 成 立 で あ っ た ケ ー ス を 比 較 す る と , 不 成 立 ケ ー ス の 申 立 人 は 訴 訟 に 対 す る 関 心 を 潜 在 的 に 強 く 持 っ て い た 事 件 で あ っ た と 言 え る 。 潜 在 的 に 訴 訟 志 向 の 強 い ケ ー ス で あ る か 否 か を 見 極 め る こ と は 容 易 で は な く , そ う い っ た ケ ー ス が 持 ち 込 ま れ た と き ど の よ う に 対 処 す る か が , 仲 裁 セ ン タ ー の 在 り 方 を 考 慮 し て い く 上 で の 課 題 で あ ろ う 。 そ の 問 題 を 考 え る 手 掛 り の 一 つ は , 紛 争 処 理 に お け る 当 事 者 の 心 理 的 葛 藤 に 着 目

20‑1・2‑159(香法 2000) ‑ 24  ‑

(9)

し,それがどのような構造を持つかを分析することである。

(ii)  当 事 者 の 葛 藤

中立人に相手方に対する評価(当事者用問

1 4 ) ,

相手方の言い分(当事者 用 問

1 5 ) ,

相 手 側 と の 今 後 の 関 係 (当事者用問

1 6 )

を尋ね,相手側との感 情的な関係が仲裁結果に影響を与えているか否かを調べた。

[ケース

1 J 

このケースでは,相手を「信頼できない。言い分が分かっ てもらえず,譲歩も感じられなかった。」と評しており,これらの回答は相 手 と の 話 し 合 い の た め に 共 通 の 基 盤 が で き て い な い こ と を 示 し て い る 。 さ

らに,相手側の言い分については「理解できたが納得できない」とし,相 手 と の 交 渉 が も つ れ て い る こ と を 暗 示 し て い る 。 さ ら に 事 件 に 関 す る 説 明 において, 30年あまりに渡る相手との関係や,複雑にこじれた感情的な問 題を詳細に回答している。

[ケース

2 J 

このケースでも,相手を「信頼できない。公平さがない。

言 い 分 は 聞 い て く れ な い 。 期 待 に 答 え て く れ な い 。 全 体 と し て 相 手 方 は 嘘 吐 き だ 」 と 述 べ , 事 実 関 係 や 法 的 関 係 だ け で な く , 感 情 的 に も こ じ れ て い

たことが示されている。さらに相手の言い分についても「理解できない。

答弁書に書いてあること全てが理解できない。」と回答した。相手との将来 的な関係についても「よくならない。結果如何にかかわらずしこりが残る。

たとえ和解で終わっても,関係はあまりよくならない。」と回答し,相手方 と感情面でもこじれていることが繰り返し示されている。

[ケース

3]

ケース

3

に お い て は , 相 手 の 態 度 を 「 信 頼 で き な い 。 公 平 で な い 。 言 い 分 を 聞 い て く れ な か っ た 。 期 待 に 答 え て く れ な か っ た 」 と 回 答 し て い る 。 さ ら に 相 手 の 言 い 分 は 「 理 解 で き な か っ た 。 相 手 は 『 規 定 外 なので』と繰り返すだけだった。」としている。ただケース 3は交通事故の 損 害 賠 償 請 求 事 件 で あ り , 実 質 的 な 交 渉 相 手 は 保 険 会 社 で あ っ た た め , 保 険 会 社 と の 今 後 の 関 係 に つ い て は 「 関 係 な い 」 と 答 え て い る 。 ま た 交 通 事 故を起こした相手の人自体については感情的になっていない。そのため,

五八

‑ 25 ‑ 20‑1・2‑158(香法2000)

(10)

ここではケース

1 , 2

と同じく交渉相手である保険会社を「信頼していな い」と答えているが,それらのケースに比べて感情的なこじれも少ない。

[ケース

4]

このケースは他の

3

つのケースとは著しく異なる反応を相 手 に 対 し て 示 し て い る 。 相 手 を 「 言 い 分 も よ く 聞 い て く れ る 普 通 の 人 」 で あると評し,その言い分についても「全面的に理解できた」としている。

さらに今後の相手との関係についても「お互いに納得のいく結果だったの で,今まで通りの関係」であろうと回答している。ケース

4

の回答には,

感情的なこじれは見られず,この事件が仲裁センターに持ち込まれるよう な「紛争」となったかが不思議に思えるほどスムーズに終結している。こ れらの申立人の態度に差異が生じた理由は,ケース

4

の 両 当 事 者 は 近 隣 関 係 で あ っ た が ,実 質的 な争 点が 不動 産の 評価 額と いう 金銭 的な もの であ っ

たため,感情的なもつれがほとんど見られない事件であったためであろう。

以上,

4

ケ ー ス の イ ン タ ヴ ュ ー か ら , 中 立 人 の 紛 争 に 関 す る 心 理 的 な 対 象は

2

つの側面で構成されていると言えよう。その

2

側 面 と は , 当 事 者 の 感 情 的 な 部 分 と,コスト・ベネフィット計 算 等の合 理 的な部 分 である 。 こ の 2側面の関係を,紛争過程沿って考えた場合, 2つ の 段 階 か ら 構 成 さ れ て い る と 考 え ら れ る ( 第

2

図)。

1

段 階 は , 感 情 的 な 問 題 と 合 理 的 な 問 題 が 混 交 し た 状 態 か ら , 両 者 を 切り離す過程である。たとえばケース

1

では,遺産相続の遺留分をめぐっ て , も つ れ た 人 間 関 係 を め ぐ る 事 件 の 感 情 的 な 側 面 と , 法 律 的 に 正 し い 判 断 が 短 期 間 で 欲 し い と い っ た 合 理 的 な 側 面 が 回 答 の 中 に 混 在 し て い る 。 ヶ ース

1

で は , 当 事 者 の 事 件 に 対 す る 心 理 的 な 葛 藤 は 弁 護 士 へ の 評 価 に も 現 れており,「信頼できるが,公正証書遺言に対する態度には難点がある」と

いう形で吐露されている。

五七

20  1・2 157 (香法2000) ‑ 26 ‑

(11)

│ 

27

20ー1•2ー156

/ 

  " '

\ 

\ 

'  

感情解 合理解

I/ 

1

段階

~

合理解

A ‑

︱ 

合理解

第 2 段階

︵ 嘲 許

20 00 )

2

図:紛争過程における人の認知上の葛藤

冴臣 l

(12)

五五

一 方 で 当 事 者 の 感 情 と 合 理 的 な 解 決 の 分 離 が 行 き す ぎ た 場 合 , 当 事 者 の 日 常 感 覚 か ら 離 れ た 解 決 と の 非 難 が さ れ る こ と も あ る 。 た と え ば 感 情 解 と 合 理 解 を 分 離 す る 過 程 で , 感 情 解 は 無 視 し て 合 理 解 の 部 分 だ け に 注 目 し た 場合,「情がない」言った評価として現れる。そこで第

2

段 階 で は , 一 旦 分 離 し 別 な も の と さ れ た 感 情 的 な 側 面 と 合 理 的 な 側 面 を 再 び 近 づ け る 努 力 が される。つまり裁判外紛争処理の眼目として,「日常感覚に添った解決」と 表 現 さ れ る 解 決 を 模 索 す る 段 階 で あ る 。 第

2

段 階 の 解 決 が う ま く い っ た 例

としてはケース

4

が挙げられる。ケース

4

の 申 立 人 は 「 円 満 , 迅 速 に 解 決 する」場として仲裁センターを選択しており(当事者用問

5)'

仲 裁 案 に 対 しても「円満に買い取りになり満足している」(当事者用問 8)と述べ,感 情解的にも合理解的にも当事者にとって満足した解決であったと言える。

た だ し , 第

2

段 階 は 第

1

段 階 を 経 て の み , 成 立 す る も の で あ る と 考 え ら れる。つまり感情解と合理解の混交状態から両者を分離するにあたって,

両 者 を い き な り 適 度 に 離 す こ と は 困 難 で あ る 。 ま ず 両 者 を 完 全 に 分 離 し た 上 で そ れ ぞ れ の 解 の 対 象 が 異 な る も の だ と 認 識 す る 必 要 が あ る 。 そ れ を 踏 ま え た 上 で 両 者 の 適 度 な 再 接 近 が 可 能 に な る 。 日 常 感 覚 に 即 し た 解 決 を 考 える場合,このモデルの第

2

段階の部分のみが注目されてきた傾向が強い。

しかし第 2段 階 の み を 過 度 に 強 調 す る こ と は , 感 情 的 な こ じ れ を 持 っ て い る 当 事 者 を , 判 断 が 非 合 理 的 な 人 と し て 相 手 し な い 危 険 性 を 芋 む 。 紛 争 当 事 者 で 感 情 的 に こ じ れ て い な い 人 は 少 な く , ま た そ う い っ た 人 を 識 別 し て 排 除 す る こ と は 不 可 能 で あ る 。 も し そ れ ら の 人 が 第

2

段 階 に 主 軸 を お い た 制 度 を 利 用 し た と き , 自 分 の 事 件 の 仲 裁 案 に 不 満 を 持 つ だ け で な く , 仲 裁 制度自体にも不満を持つ可能性がある。たとえばインタヴューの中でも,

最 も 感 情 的 に も つ れ て い た 申 立 人 は 仲 裁 セ ン タ ー を

1 0 0

点 満 点 中

20

点 の 評価しか与えていない。

こ れ ら の 感 情 解 と 合 理 解 が 混 交 し た 状 態 の 当 事 者 が 仲 裁 の 射 程 に 入 っ て き た と き , ど の よ う に そ の 事 件 に 対 処 す れ ば よ い の で あ ろ う か 。 そ の と き 大 き な 役 割 を 果 た し て い る と 考 え ら れ る の が , 当 事 者 と 弁 護 士 の コ ミ ュ ニ

20‑1・2 155 (香法2000) ‑ 28  ‑

(13)

ケーションの方法にあると考えられる。

(3)  弁護士と当事者のコミュニケーション

最後に弁護士と当事者のコミュニケーションが,両者の事件に対する評 価や,結果の予洞に与える影響を分析した。まず弁護士と申立人である当 事者がどのような情報を交換しているかを尋ねた上で,互いや事件をどの ように評価しているかをインタヴューした。

4

つのどのケースにおいても 仲裁センター利用開始後も,申立人は弁護士と相談している。

[ケース

1 J 

ケース

1

で,申立人が弁護士から仲裁センター利用中に受 けたアドバイスは(当事者用問

1 0 ) ,

①「公正証書遺言は覆せない。」,②「土 地の価格が無料で分かる」というものであった。申立人はこのアドバイス

を「理解できた」と回答しながらも,「公正証書遺言があるため弁護士自身 が諦めている」とも述べている。さらに弁護士に対しては「弁護士とは長 年の知り合いであり,信頼できるが,公正証書遺言に対する態度には難点 がある」と,弁護士の法情報を受け入れていない態度を示した(当事者用 問 12)

ケース

1

の弁護士は,申立人である自分の依頼者に対して「公正証書遺 言があるので勝ち目はほとんどない。それでもいいのなら」と引き受けて

いる(弁護士用問 9)。事件に対しては「仲裁案では 30万円との評価であ ったが,相手方と互いに譲歩して 50万円で終わらせた方がよいとアドバイ スした」としている(弁護士用問 12)。さらに,自分の依頼者のことを「知 ってはいるがあまり親しくはない」と答えており,申立人の認識と差があ る(弁護士用問 1)。以上のようにケース 1においては,事件に対する法的 評価や実効可能な対処方法について,弁護士と申立人間に認識がズレてい

る。

[ケース

2]

ケース

2

において,申立人自身が受けたアドバイスは「(申 立人がよくしゃべるので)相手側に近寄るなと言われた」と述べている。

さらにこのアドバイスに対しては「理解できた。プロが言ったので信頼で 五四

‑ 29 ‑ 20‑1・2‑154(香法2000)

(14)

きる。」 とし, 「弁護士とは以前からの知り合いだったので, 最 初 か ら 信 頼 している」 と 回 答 し て い る 。 事 件 の 対 処 方 法 に つ い て も 「プロが言ったの で信頼できる」 としている。

ケース

2

の弁護士は, 申立人に対しては「裁判は黒白をつけるだけだが,

事 案 に よ っ て は 話 し 合 い と 譲 り 合 い に よ っ て 腹 八 分 の 解 決 を し て も よ い の ではないか」と説明している。事件に対しては「全面勝訴は困難だと思う」

と述べており, 申立人との認識の微妙なズレがここでも見られる。

(3) 

としている。

との関係については「依頼を受けるまでなかった。」

申立人

[ケース

3]

ケース 3で 申 立 人 が 弁 護 士 か ら 受 け た ア ド バ イ ス は 「 金 額 がこれくらい貰えるという内容のもの」 であり, そ の ア ド バ イ ス を そ の ま

ま受け入れている。 さらに 「弁護士とは親しい関係であり,非常に信頼で きた。公平であった。期待に答えてくれた」

関係が述べられている。

と回答し, 弁 護 士 と の 緊 密 な

ケース 3の弁護士は,

裁人になっているから,

当 事 者 に 対 し て は 「 仲 裁 セ ン タ ー で は 弁 護 士 が 仲 調 停 で 解 決 す る の と 大 差 は な い で あ ろ う 。 早 期 解 決を図るのに最適である」 と ア ド バ イ ス し て い る 。 事 件 に 対 し て は 「 早 期 解決ということに対しては十分答えることができた。

した額より 3割以上多く賠償が得られると考えたが,

ま た 保 険 会 社 が 提 示 それ以上にどれぐら いまで賠償金が貰えるかということは不明であった。」と述べている。依頼 者との関係については,

ことを述べている。

親しい知人の家族であるとし, 親 密 な 関 係 に あ る

[ケース

4 J 

ケース

4

において, 当 事 者 が 受 け た ア ド バ イ ス は 「 相 手 と のやり取りは全て報告すること。家屋の写真をとっておくこと。」というも

のであり, 「理解でき,

弁 護 士 に 対 し て は 「 円 満 で 迅 速 な 解 決 と い う こ ち ら の 言 い 分 を 聞 い

このアドバイスに対して よいと思った」 と述べて

一五

三 いる。

てくれ, よくやってくれている。全面的に信頼した。押し付けはなかった。

ただし請求書の見積を早く出して欲しかった」 と回答している。

ケース

4

の弁護士は,

20‑1・2‑153(香法2000)

申立人に対しては「仲裁センターは迅速解決,

30 

(15)

ス ト が 安 い , 仲 裁 人 が 弁 護 士 な の で 柔 軟 に 解 決 す る こ と が で き る 」 と 説 明 し て い る 。 事 件 に 対 し て は 「 ど こ に 事 件 を 持 ち 込 ん で も 何 等 か の 形 で 申 立 人 側 が 勝 ち 筋 の 事 件 だ と い う ヨ ミ が あ っ た 。 円 満 に 解 決 す る こ と を 望 ん で いたので仲裁センターを利用した。」と回答している。さらに申立人との関 係については,「以前からはなかった」と述べている。このケースにおける 弁護士と申立人のコミュニケーション状態は良好であったと言えよう。

以 上 を ま と め る と , ① 仲 裁 が 不 成 立 で あ っ た 事 件 で は , 成 立 し た 事 件 に 比 べ て , 感 情 解 と 合 理 解 の 分 離 が う ま く い っ て お ら ず , ② 不 成 立 の 事 件 に おいては,弁護士と申立人が回答する事件の評価に多少のズレが見られ,

当 事 者 の 認 知 上 の 葛 藤 を 低 減 さ せ る の に , 弁 護 士 は 大 き な 役 割 を 果 た し て い る と い え よ う 。 す な わ ち 第 2図 に お い て , 弁 護 士 と 当 事 者 の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン が 良 好 で な く , 第

1

段 階 に お け る 当 事 者 の 感 情 解 と 合 理 解 の 分 離 作 業 が う ま く い か な い 場 合 , 仲 裁 が 不 成 立 に な る 可 能 性 が 高 い と の 仮 説 が 立 て ら れ る 。 こ の よ う に 紛 争 処 理 を 当 事 者 の 視 点 か ら 捉 え る な ら ば , 紛 争 解 決 と は 当 事 者 が 心 理 的 に ど の よ う に 問 題 を 消 化 す る か と い う こ と だ と 言

えよう。

6 考 察

イ ン タ ヴ ュ ー の 分 析 結 果 に よ る と , 第

1

に,すくなくともインタヴュー の 回 答 者 は , 各 自 が 決 断 す る 際 に は 自 分 に と っ て 好 ま し い と 考 え ら れ た 手 段 を 選 択 し よ う と し て い る 。 彼 ら は 人 目 を 気 に し た り , 社 会 規 範 か ら 抑 圧 を 受 け て 自 分 の 意 思 を 曲 げ た り と 言 っ た 態 度 を 示 し て い な い 。 そ の 意 味 で 当事者は自律しており,弁護士からの情報を判断しようとしている。

2

に,仲裁の成否により申立人である当事者の態度に差異が見られた。 五 仲 裁 が 成 立 し た 場 合 は 感 情 的 な こ じ れ が 小 さ く , 弁 護 士 と の コ ミ ュ ニ ケ ー

ションが良好で,両者の事実認識および判断の麒顧は小さかった。他方,

仲 裁 が 不 成 立 の 場 合 は 訴 訟 志 向 が 強 く , 感 情 的 な こ じ れ も 強 い 傾 向 に あ っ

‑ 31  ‑ 20‑1・2‑152(香法2000)

(16)

た。さらに当事者と弁護士の間には,事実認識および結果の予想に関して 食い違いが見られた。

このように仲裁の結果は,申立人と弁護士間のコミュニケーションの良 し悪しが大きく影響していると言えよう。別の言い方をすれば,仲裁にお ける紛争処理過程は弁護士と申立人のコミュニケーションの過程として捉 えることができる。では,弁護士と当事者間のコミュニケーションの良し 悪 し を 決 め て い る も の は 何 で あ ろ う か 。 そ の

1

つ は , 紛 争 処 理 に 関 す る 両 者 の 認 知 枠 組 み が ど れ だ け 共 通 し た 基 盤 を 持 っ て い る か に よ る と 思 わ れ

る。

もし相手の認知枠組みにそぐわない形で情報が伝えられたなら,弁護士 が 申 立 人 に 法 的 に 正 確 な 情 報 を 与 え て い た と し て も , 申 立 人 は 態 度 を 硬 化 させてしまう場合もある。たとえばケース 1の中では,申立人の感情的な こじれが強い場合に,弁護士が合理的な判断を重視したコミュニケーショ ンを行ったために,申立人は「弁護士の公正証書に対する態度に難点があ る」と弁護士のコミュニケーションを不適切なものと評価している。

インタヴューの分析結果に基づくと,弁護士の事件に関する認知枠組み の特徴は,第

1

に過去の事例という枠組みに基づく,抽象的一般論だとい う点である。弁護士は過去の事例に基づいて当該事件を認識し,それによ っ て 事 件 を 評 価 し た 結 果 を 当 事 者 に 伝 え て い る の で あ る 。 第

2

に,それは 論 理 的 か つ 合 理 的 な 判 断 で あ り , 個 々 の 申 立 人 の 感 情 部 分 に 対 す る 配 慮 は 多くの場合,対象に含まれていない。これらの認知枠組みに基づいた結果,

弁 護 士 は 仲 裁 の 手 続 き に 対 し て 合 理 的 あ る い は 理 念 的 に 配 慮 し , そ の 中 に 感情的な部分を持ち込まない傾向にある。

一 方 , 申 立 人 の 事 件 に 関 す る 認 知 枠 組 み の 特 徴 は , 第 1に申立人にとっ 五 て多くの場合,自分の事件は過去に経験したことがない特殊事例であると いう こ と で あ る。そのため申立 人は 自己 に可 能な 方法 で情 報を 集め ,その 時 点 で 自 分 に 最 善 と 思 わ れ る 判 断 を 行 お う と す る 。 申 立 人 に と っ て は 自 分 のケースを過去の事例の延長線上に位閻づけて一般化することは困難であ

20~1 ・ 2~151 (香法2000) 32 

(17)

る。第 2に , 申 立 人 は 事 件 に 関 す る 種 々 の こ と を 判 断 す る に あ た っ て , 感 情 解 と 合 理 解 と の 狭 間 で 揺 れ て い る 場 合 が 多 く , ケ ー ス に よ っ て は 合 理 解 よ り も 感 情 面 が 重 視 さ れ る 。 申 立 人 に と っ て 感 情 面 に 関 わ る 解 決 は 仲 裁 の 過 程 に 限 定 さ れ る も の で は な く , 仲 裁 の 過 程 外 で の 相 手 方 や 弁 護 士 と の コ

ミュニケーションも含めて裾野の広い範囲を含んでいる。すなわち申立人 に と っ て 紛 争 処 理 の 手 続 き と は , 当 該 紛 争 処 理 の 制 度 外 で の 弁 護 士 と の や

り取りも含めた事件に関わる全般を対象にしたものだと考えられる。

さらに弁護士と申立人の認知枠組みは,弁護士,申立人,一人一人によ って異なってくるので,たとえ同じ内容の情報を弁護士が与えていても,

申立人によってその反応は異なってくる。

このように弁護士と依頼者である申立人の認知枠組みの構造に差異があ る場合,どのようなコミュニケーションの方法があるのであろうか。

1

つ の方法として,合理解のみに焦点を当てたコミュニケーションがある。こ の 方 法 で は 弁 護 士 は 自 分 の 依 頼 者 に , 客 観 的 な 事 実 や 合 理 的 な 判 断 を 伝 え る 。 弁 護 士 は 依 頼 者 の 感 情 解 に 拘 る 部 分 に 敢 え て 関 知 し な い 形 で コ ミ ュ ニ ケーションを行うため,合理解を強く求める依頼者にとって最適であり,

事 件 の 終 結 も ス ム ー ズ で あ ろ う 。 た だ し こ の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 方 法 で は , 潜 在 的 に せ よ 訴 訟 志 向 の 強 い 事 件 や , 感 情 解 と 合 理 解 が 融 合 し た 状 態

(第

2

図 の 第

1

段 階 ) の 事 件 は , 当 事 者 が 妥 協 し な い 扱 い に く い 事 件 と み なされる。

これに代わる方法として,合理解と感情解両方を射程に含めたコミュニ ケーションがある。この方法では弁護士が依頼者に法情報を伝える際に,

依 頼 者 の 感 情 解 と 合 理 解 を 整 理 し , 分 離 す る 作 業 を 行 う の で あ る 。 そ こ で 重 要 な の は , 弁 護 士 と 依 頼 者 が 事 件 認 識 に お い て で き る だ け 共 通 枠 組 み を もつことである。ただし共通枠組みを持つということは,相手をただ単に 受 容 す る こ と で も な く , 相 手 に 同 情 し た り , そ の 気 持 ち を そ の ま ま 受 け 取 るということではない[角田,

1 9 9 8 ]

。両者が同じ判断枠組みを可能な限り 共有し意思疎通できるようした上で,弁護士が合理的客観的な情報を与え,

五〇

‑ 33  ‑ 20‑1・2‑150(香法2000)

(18)

依頼者の自律的な判断を引き出すコミュニケーションである。

し か し こ の 方 法 は 弁 護 士 の 負 担 が 重 く な る 上 に , 肝 心 の 感 情 解 と 合 理 解 の 分 離 が 成 功 し な い 場 合 も あ る 。 た と え ば , 弁 護 士 が 依 頼 者 の 感 情 解 に 配 慮 す る つ も り で , 中 立 人 に 「 仲 裁 は 譲 り 合 い の 場 で あ り , 白 黒 を つ け る の のではなく,腹八分で。」と言ったとしても,感情解を強く求める中立人は,

自 己 の 感 情 へ の 実 質 的 な 配 慮 と 受 け 取 ら ず , 定 型 化 さ れ た 説 得 を 受 け た と しか理解しないであろう。

そ こ で 制 度 的 な コ ス ト が 掛 か り , か つ 迅 速 な 処 理 も 犠 牲 に し な け れ ば な ら な い が , 感 情 解 に 関 わ る コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を 別 の 専 門 家 が 分 担 す る 方 法 も 考 え ら れ る 。 た と え ば 専 門 の カ ウ ン セ ラ ー が 申 立 人 に カ ウ ン セ リ ン グ を し た り , あ る い は 申 立 人 に 作 文 を 書 か せ る な ど の 方 法 で 自 己 客 観 視 を 引 き 出 す 方 法 も 有 効 で あ ろ う 。 感 情 解 と 合 理 解 が 融 合 し て い る 場 合 は そ れ を 一 旦 切 り 離 し た 上 で , 中 立 人 に と っ て 適 切 な 解 を 模 索 す る こ と が , 申 立 人 が 納 得 す る た め の 方 法 の 一 つ で あ ろ う 。 そ の 意 味 で 岡 山 弁 護 士 会 が 試 み て いるカウンセリング研修は意義が高い。

紛 争 処 理 過 程 を 心 理 的 側 面 か ら 捉 え た 場 合 , 申 立 人 と 弁 護 士 が 情 報 交 換 を 行 っ て 共 通 し た 認 知 枠 組 み を 形 成 す る こ と が 重 要 だ と 言 え よ う 。 弁 護 士 は , 申 立 人 が 合 理 解 と 感 情 解 が 混 交 し た 状 態 で 模 索 し て い る 際 に , 法 情 報 を媒介しながら両解を分離する役割を担っている。

裁 判 外 の 紛 争 処 理 に お い て , 当 事 者 の 納 得 す る か 否 か と い う 心 理 的 な 側 面 を 強 調 す る な ら ば , そ の 解 決 が 正 し い か 否 か と い う 判 断 は , あ く ま で 当 事 者 の 主 観 的 な も の を 基 準 に 判 断 せ ざ る を 得 な い 。 つ ま り 弁 護 士 の 専 門 家 としての判断は,「正しい解決」という結果として現れるのではなく,「そ の 判 断 を い か に 当 事 者 に 伝 え た か 」 と い う 形 で し か , 当 事 者 の 主 観 世 界 に 四 は反映できないと言えよう。

20-1 ・ 2~149 (香法2000) 34 

(19)

付 記

本 調 査 に あ た っ て は 岡 山 大 学 法 学 部 の 山 田 文 助 教 授 , 鷹 取 司 弁 護 士 を は じ め と す る 岡 山 弁 護 士 会 の 方 々 , 岡 山 仲 裁 セ ン タ ー の 利 用 者 か ら 多 く の 助 力 を得た。ここに謝意を表明しておきたい。

. .  

i::E 

(1)  弁 護 士 と 当 事 者 の 関 係 を 取 り 上 げ た も の と し て は , サ ラ ッ ト の 研 究 や 樫 村 の 研 究 が ある。[サラット, 1996;樫村, 1996]

(2)  実 際 に イ ン タ ヴ ュ ー し た の は5ケースである。ただし, 5つ目のケースは(1)インタ ヴューの当事者が被中立人であること, (2)被申立人が株式会社であること,の 2点 か ら,本稿の分析から除外した。そのケースについては別稿に譲りたい。

(3)  インタヴュー後の弁護士の説明によると,「過去に逢ったことがあるようだが,多数 の中の一人としてしか認識していなかったため,このように回答した」とのことであっ

引 用 文 献

千 壽 ・ 外 山 み ど り 編 (1991) 『帰属過程の心理学』ナカニシャ出版 角田 (1998) 『共感体験とカウンセリング』福村出版

樫 村 志 郎 (1996) 「 法 律 相 談 に お け る 協 調 と 対 抗 」 棚 瀬 孝 雄 編 『 紛 争 処 理 と 合 意 』 ミ ネ ルヴァ書房, 209‑234頁。

川 島 武 宜 (1967)『日本人の法意識』岩波書店

Lind, L.A. & Tyler, T. R. (1988)  The social  psychology  of  procedural  justice.  New York : Pren um Press. 

岡 山 仲 裁 セ ン タ ー (1998) 『岡山仲裁センターの実績報告(平成 10323 サラット,オースティン(渡辺千原訳) (1996) 「和解における合意と権力」棚瀬孝雄編

『紛争処理と合意』ミネルヴァ書房, 195‑208 棚 瀬 孝 雄 (1996) 『紛争処理と合意』ミネルヴァ書房

四八

‑ 35  20‑12‑148(香法2000)

(20)

付 録 1 : 当 事 者 用 質 問 紙

あ な た が 仲 裁 セ ン タ ー に 持 ち 込 ま れ た 事 件 は ど の よ う な も の か を お 教 え 下 さ い 。

今 ま で に も 何 か 法 律 が 絡 む よ う な 事 件 を 経 験 さ れ た こ と は あ り ま す か 。

はいいいえ

付 問 2‑ 1  ど の よ う な 内 容 の 事 件 で し た か

(  ︶ 

付 問2‑ 2  過 去 に 経 験 さ れ た 事 件 に お い て は , ど の よ う な 方 法 で 解 決 し ま し た か 。

3  岡山の仲裁センターのことを何で知りましたか。

仲 裁 セ ン タ ー に つ い て 「 ど の よ う な 方 法 で 問 題 を 解 決 す る と こ ろ 」 だ と お 聞 き に な りましたか。

紛 争 を 解 決 す る 方 法 と し て 仲 裁 セ ン タ ー を 選 ば れ た 理 由 を お 教 え 下 さ い 。

付 問 5‑ 1 裁判所とはどういうところだと思いましたか。(あるいは使用した経験か らお答えください。)

付 問5‑ 2  裁 判 所 を 仲 裁 セ ン タ ー と 比 較 し た と き , ど の よ う な 違 い が あ る と お 考 え ですか。

付 問5‑ 3 裁判所については,どなたからお聞きになりましたか。

こ の 事 件 を 解 決 す る に あ た っ て , ど の よ う な 事 を 重 視 さ れ ま し た か 。 以 下 の 項 目 に 順位をつけてください。

①  時 間 が か か る か 否 か

②  お 金 が か か る か 否 か

③  第 三 者 ( 知 人 , 近 所 の 人 な ど ) に 紛 争 の こ と を 知 ら れ る か 否 か

④  自 分 の 主 張 が 認 め ら れ る か 否 か

⑤  相 手 と の 話 し 合 い を 持 ち た い

⑥  法 律 的 に 正 し い 判 断 が ほ し い

⑦  その他(具体的に:

20‑1・2‑147(香法2000) 36 ‑

(21)

付問6‑ 1 なぜそのような順位にしたのですか。

付問6‑2 仲裁センターはそれぞれに対してどの位期待に応えてくれましたか。(そ れ ぞ れ 100点満点中何点ぐらいですか。)

仲裁センターを利用された感想はいかがでしたか。

8  今回の仲裁は成立しましたか。

はい →付問a 仲裁案を受け入れようと思った動機は何ですか。

→付問b 解決内容はいかがでしたか。

2  いいえ

付問8‑1 仲裁案を最初に聞いたときどう思いましたか。

付問8‑2 その後,仲裁案に対して見方が変わりましたか。

(変化した場合)その理由は何ですか。

仲裁センターによる解決の期間についてどう思いますか。

遅 い少し遅い期待通り少し早い 5  早 い

10  その期間中,事件について弁護士と相談しましたか。

はい

↓ 

付問10‑1 弁護士からどのようなアドバイスをもらいましたか。

付問 10‑2 弁護士のアドバイスは理解できましたか。

付問 10‑3 弁護士のアドバイスをどう思いましたか。

いいえ

四六

付 問 10‑4  そ の ア ド バ イ ス を 聞 い て か ら , 仲 裁 案 に 対 す る 考 え 方 が 変 わ り ま し た

‑ 37 ‑ 20‑1・2‑146(香法2000)

(22)

11  仲 裁 セ ン タ ー 利 用 中 に 事 件 の こ と に つ い て 弁 護 士 以 外 の 人 に 相 談 し ま し た か 。家 族親 戚友 人仕 事 仲 間そ の 他

付 問 11‑I  その人に相談した理由は何ですか。

12  依 頼 し た 弁 護 士 の 方 に 対 し て ど の よ う な 印 象 を 抱 か れ ま し た か 。 13  仲 裁 人 に 対 し て ど の よ う な 印 象 を 抱 か れ ま し た か 。* 

14  相 手 側 に 対 し て ど の よ う な 印 象 を 抱 か れ ま し た か 。

15  相手側の言い分はいかがでしたか(理解できましたか)。

理 解 で き た → ど う い う 点 が 理 解 で き ま し た か (

理 解 で き な か っ た → ど う い う 点 が 理 解 で き ま せ ん で し た か

16  相 手 側 と の 関 係 は ど う な る と 思 い ま し た か 。 ( 感 情 面 を 含 む 人 間 関 係 に つ い て )よくなるだ い た い よ く な るあ ま り よ く な ら な いよ く な ら な い

17  仲 裁 に か か っ た 費 用 は あ な た の 期 待 に あ っ た 金 額 で し た か 。

はいいいえ →  ど れ く ら い が 妥 当 で す か

四五

*  イ ン タ ヴ ュ ー す る に あ た っ て , 仲 裁 人 が(a)信頼できるか, (b)公 平 さ は ど う で あ っ た (c)言 い 分 を 聞 い て く れ た か ( ど の 点 が 理 解 で き た か , あ る い は で き な か っ た か ) , (d)期 待 に 答 え て く れ た か , と い う 4点を確認して質問した。

20  1 ・ 2~145 (香法2000) ‑ 38 

(23)

付 録 2 : 弁 護 士 用 質 問 紙依頼者の方とは以前からお付き合いがありましたか。

はいいいえ

依頼を受けてから事件の終了までどれぐらいの時間がかかりましたか。

依 頼 を 受 け て か ら 仲 裁 セ ン タ ー 利 用 ま で 週 間 仲 裁 セ ン タ ー を 利 用 し て か ら 終 結 ま で 週 間

その間,どれぐらいの頻度で依頼者の方と面会されましたか。

依頼を受けてから仲裁センター利用まで: 仲 裁 セ ン タ ー を 利 用 し て か ら 終 結 ま で :  週

依頼者の方は,貴方の所へどういう経緯でいらっしゃいましたか。

依頼者があなたのところに持ち込まれた事件の概要をお教え下さい。

依頼者の方の事件を引き受けられた理由をお教え下さい。

今までにも,仲裁センターを利用されたことがありますか。

この仲裁センターは,どのようなことを理念としている制度とお考えですか。

あ な た の 依 頼 者 が 仲 裁 セ ン タ ー を 利 用 さ れ る 際 に , こ の 制 度 に つ い て ど の よ う な 説 明をされましたか。

10  この事件で依頼者が仲裁センターを利用するにいたった背景をお教え下さい。

11  依頼者はどのような解決を望まれているようでしたか。

12  も し 差 し 支 え が な け れ ば , そ れ に 対 し て ど の よ う に 思 わ れ た か , ま た ど の よ う な ア ドバイスをされたかお教え下さい。

‑ 39 ‑ 20‑1・2‑144(香法2000)

(24)

13  仲裁センターを利用してからの当事者の態度に何か変化がみられましたか。

はい いしヽえ

↓ 

どのような変化がみられたかお教え下さい。

仲裁センター利用開始時:

仲裁センター利用終了時:

14  (1) 

(2) 

依頼者は仲裁センターの解決案に対して,

ましたか。

その後,

はじめどのような態度をとられてい

どのような変化が見られましたか。

15  依頼者が仲裁センターの解決案を受け入れた理由,

の解決案を受け入れなかった理由についてどう思われましたか。

あるいは依頼者が仲裁センター

16  今回の仲裁に対してどう思われましたか。

付 問 16‑1 仲裁人に対して,どのような印象をもたれましたか。

17  相手方に対してどのような印象をもたれましたか。(あるいは,

どう思われました

18  今までの経験と比較した場合, 今回の結果をどのようにお考えですか。

19  弁護士になられてからの期間をお教え下さい。

一四 三

20‑1・2‑143(香法2000) ‑ 40 ‑

参照

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