• 検索結果がありません。

; 論 説 -—————-—_-_—————_——--

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2022

シェア "; 論 説 -—————-—_-_—————_——--"

Copied!
12
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

—_—--——————-———--———---"———---————————-—

; 論 説

-—————-—_-_—————_——--̲̲̲̲̲̲̲̲̲̲ ---—―---—―ー

利益供与要求罪の新設と 利 益 供 与 禁 止 規 定 の 立 法 趣 旨

市 J r   I 

問 題 の 所 在

利 益 供 与 の 禁 止 は 昭 和

56

年の改正によって新設されたものである。その 直接のねらいはいわゆる総会屋の根絶にあった。同改正前のわが国上場会 社の株主総会は,多くの場合に形骸化し,本来の機能を果たしていなかっ

その原因は,主としてセレモニー屋としての総会屋が株主総会を牛耳 た。

り,一般株主にはほとんど発言のチャンスすら与えられないことにあった。

これには,株主総会が総会屋の発言によって混乱するのをおそれる会社側 が,金を渡してその発言を封じると共に,事実上総会屋に議事進行係を依 頼して他の株主の発言を封じたということもあった。

利益供与禁止規定の直接のねらいは株主総会が本来の機能を果たすよう に総会屋を根絶することにある。とはいえ,総会屋という明確な職業があ るわけではないし,たとえあったとしてもこの職業だけを取り出してこれ に対する会社からの利益供与を禁止することは立法技術上困難であった。

そこで商法 294条ノ 2は,広く一般的に,「何人に対しても」,会社が株主 の権利の行使に関して財産上の利益を供与することを禁止している。

同条は利益の受供与者が総会屋以外のものである場合にも適用され

ニ ニ 六

その 結果,

(2)

利 益 供 与 要 求 罪 の 新 設 と 利 益 供 与 禁 止 規 定 の 立 法 趣 旨 ( 市 川 )

ることとなり, その立法趣旨および適用要件をめぐって様々な見解が主張 されることとなった。

会 社 資 産 の 浪 費 防 止 を 里 視 す る 説 と , 株 主 権 行使への影響禁止を重視する説が対立していると思われる。いずれを是と

立法趣旨の理解において,

すべきか。

利益供与要求罪は, 罰 則 の 強 化 と と も に , 平 成 9年の商法改正によって 利益供与禁止規定の一部を成すものとして新たに新設されたものである。

利 益 供 与 要 求 罪 の 新 設 は 利 益 供 与 禁 止 規 定 の 立 法 趣 旨 の 理 解 に 影 響 を 及 ぼ すのか否か。

利 益 供 与 禁 止 規 定 の 立 法 趣 旨 を め ぐ る 学 説 と 判 例

利益供与禁止規定の立法趣旨の理解において, 会 社 資 産 の 浪 費 防 止 を 重 視する説と, 会社資産の浪費防止も含めるが, それにとどまらず, さらに 会 社 資 産 を 利 用 し て の 株 主 権 行 使 へ の 影 響 禁 止 を 重 視 す る 説 が 対 立 し て い

るように思われる。

2  会 社 資 産 の 浪 費 防 止 説

会社資産の浪費防止を重視する説について見てみよう。この説によれば,

「経営者が株主の批判・攻撃をおさえるために会社の金を使うことになる と,単なる浪費ではなく,会社の資金を自己の個人的利益のために使うこ

(1) 

とに外ならない」。「利益を供与してはならないのは会社である。

て , 取 締 役 あ る い は 大 株 主 等 , 会 社 以 外 の 者 が , 自 己 の 計 算 に お い て 利 益 したがっ

ニ ニ 五

を供与することは本条(商 294条ノ 2一筆者注) の禁止するところではな

し)

これも本条の立法目的が,株主の権利行使の公正の確保,財産上の利 会 社 資 産 の 浪 費 の 防 益の供与によるその歪曲の防止にあるわけではなく,

(1)  竹 内 昭 夫 「 株 主 の 権 利 行 使 に 関 す る 利 益 供 与 」 商 事 法 務 研 究 会 編 昧I」益供与の禁止』

(商事法務研究会, 1982 108頁。

18‑2 ‑601 (香法'98) 2 

(3)

(2¥ 

止にあるからである」。「こうした (会社が総会屋に対して利益を供与する

‑‑箪者注)行為を禁止する理論的根拠としては,やはり,株主の権利行 使に関して会社の計算において財産上の利益を供与することが会社財産の

(3) 

浪費である点に求めるべきだと考えられる」。

「第

497

条の利益供与罪は,まず取締役その他の会社関係者が利益を供 与することを処罰し,次いで情を知りながら財産上の利益を受ける行為す なわち総会屋側を処罰することとしており, しかも, この両者は刑法上の 贈収賄罪や第

494

条の場合と異なっていわゆる必要的共犯の関係がありま せんので,財産上の利益を受けた総会屋がその情,すなわち,株主の権利 行使に関して,会社の計算において財産上の利益を供与されるものである ことを知らないため処罰されない場合であっても,財産上の利益を供与し た取締役等の行為が処罰されるものであること,以上のような法的構造か らみますと,第

497

条の規定は,株主の権利行使に関する会社財産の浪費 の防止がその立法目的であり保護法益であって,株主の権利行使の公共性 はその背景をなすものと解する他ないものと言わざるを得ないと考えられ

(4) 

ます」。「卿かも会社財産の減少がなければ民事責任も生ずることはなく,

また可罰的とすることは実質的な根拠を欠くものであります。同条(商

497

条――筆者注)において問題なのは会社財産の減少であって,株主つまり

(5) 

総会屋が利益を受けること自体ではないのである」o

会社にとって必要な取引でありかつ対価が 相当な場合には,その取引が総会屋に相当な利潤を与えるものであっても,

このような立場からすると,

利益供与の禁止には違反しないこととなる。

「対価として得るものが会社にとって必要なものであるなら すなわち,

ば,取引の相手方が誰であっても相当の利潤を含んだ対価を支払わなけれ

(2) 竹内・前掲注(1)114

{3)  大和正史「利益供与の禁止規定について」関西大学法学論集 32 巻 3• 4• 5合併号 (1982 320

(4)  佐々木史朗「株主総会の正常化に向けて」企業法研究7 (1995 40‑41 (5)  佐々木・前掲注(4)44

ニ ニ

(4)

利益供与要求罪の新設と利益供与禁止規定の立法趣旨(市川)

(6) 

ばならないのであるから,この場合には利益供与の禁止に該当しない」。「会 社にとり公正な取引である限り, 経営者は原則として自由に,取引の相手 方を選択し得るはずである。相手方が株主であることを縁由としてなされ

一定の議決権行使を条件とする取引であるとしても,

た取引, さらには,

公正な取引において『会社資産の不当支出』が認められないのであるから,

(7) 

利益供与禁止規定に反しない」。「取引の必要性と価格の相当性の双方を満 公正な取引)

(8) 

手方のいかんを問わず,利益供与禁止規定に抵触しない」。

たすもの (正常な商業ベースにもとづく取引, であれば,相

「総会屋が発行している新聞や業界紙類についても,購入が真に必要で あり,対価も社会的に見て相当なものであるときは財産上の利益の供与に

(9) 

当たらない」。「転換社債または株式の親引けを利用して利益供与を行った 場合,

から,

……会社は他の申込者と同じ額の対価を取得しているのであります 会社資産の減少があったとはいえない。従ってこの場合には, 会 社 の計算において財産上の利益を供与したという要件を満たさないことにな

(10) 

ります」。

株 主 権 行 使 へ の 影 響 禁 止 説

会 社 資 産 を 利 用 し て の 株 主 権 行 使 へ の 影 響 禁 止 を 重 視 す る 説 に つ い て 見

てみよう。 この説によれば, 「両条文(商 294 条ノ 2 および 497 条―—筆者

注) の趣旨は・・・会社の資産を利用して株主の権利の行使に影響を及ぼ

(10 

すことを禁止することにある」。「会社の支配者たるべき株主の権利行使に 影 響 を 与 え る 趣 旨 で 取 締 役 が 会 社 の 負 担 で 行 う 利 益 供 与 を 許 す こ と は 会 社

~

(6)大 和 ・ 前 掲 注(3)327頁。

(7)森本滋「違法な利益供与の範囲」監査役 167 (1982 7‑8頁。

(8)  正井章搾「株主の権利行使に関する利益供与の禁止」『改正社会法の研究』(法律文 化社, 1984 586頁。

(9)佐 々 木 ・ 前 掲 注(4)45‑46頁。 (10)  佐 々 木 ・ 前 掲 注(4)43‑44頁。

I) 河本一郎「株主の権利行使に関する利益供与の禁止(その 1)」法学セミナー1984 2月号119頁。

18‑2 ‑599 (香法'98)

(5)

法の基本理念に反する することによって,

このような立場からすると,

(経営者支配の助長)から,そのような行為を禁止

⑫ 

より広く会社の経営の適正をはかっている」。

会社にとって必要な取引でありかつ対価が 相当な場合にも, その取引が総会屋に利潤を与えるものである場合には,

利益供与の禁止に違反することになる。

すなわち,「法が禁止する財産上の利益の供与は,対価の有無を問わない。

したがって,市価相当の対価を会社が受けていても,その取引が株主の権 利の行使と関係があると認められる場合には, その取引は違法となる。例 えば,総会屋が文房具商を営んでいる場合あるいは料理屋を経営している

その者の店で飲食するこ 場合に, その者から会社が文房具を購入したり,

とも,株主の権利の行使と関係があるとの事実上の推定を受け,文房具の 購入,料理屋の利用行為が違法な財産上の利益供与となる。 この場合, 会 社は相当の反対給付を受けているわけであるが,その代金の中には相当の 利潤が含まれているので,取引の締結そのものが財産上の利益の供与とな

03) 

るのである」o

「相手方に利益を与えるだけで会社に損害が生じない行為(たとえば,

申込が殺到している発行条件が均一の新株や新発の転換社債の割当) も, それが株主の権利の行使に影響を及ぼす趣旨でなされる以上,利益供与の 禁止に抵触する。会社が利益供与行為の実質的な当事者でありさえすれば よく(その行為の効果が他の者に帰属しないことでよい),損害を受けるこ

(14) 

とを要しない」。

いられ,

「総会屋に対する(株主の権利行使に関する)利益供与に会社財産が用 その結果が会社に経済上帰属することになれば,たとえその利益 供与(支払) が会社の負担とならず, 会社に財産上の損害を生じさせない

(12) 稲葉威雄「商法 294 条ノ 2•497 条に当たる場合」北沢正啓編『商法の争点(第二版)』

(有斐閣, 1983 174頁。

(13)  河本一郎「株主の権利行使に関する利益供与の禁止(その2)」法学セミナー1984 3月号110頁。

(14)  稲葉威雄「利益供与禁止規定の在り方と運用」ジュリスト 888 (1987 23頁。

~

(6)

利益供与要求罪の新設と利益供与禁止規定の立法趣旨(市川)

場 合 で も , 換 言 す れ ば 会 社 財 産 が 『 費 消 』 さ れ な く て も , 会 社 財 産 が そ の ために『使用』されさえすれば,本条(商 497 条~筆者注) の 会 社 の 計 算 に お い て と い う 要 件 を 満 た す も の と 理 解 す る こ と が で き る … … 。 このよ

う な 意 味 で , 本 条 を 会 社 財 産 の 不 正 支 出 を 防 止 す る た め の 規 定 と み る 必 要

4 9 4

条 と 同 じ く 株 主 の 権 利 行 使 の 公 正 を 確 保 す る た め の 規 定 と 理

05) 

解するのが妥当である」。

はなく,

4  判 例

判 決 に お い て 利 益 供 与 禁 止 規 定 の 立 法 趣 旨 に 直 接 触 れ る も の は ほ と ん ど 見られない。 た だ ノ リ タ ケ 利 益 供 与 事 件 に お け る 会 社 関 係 者 に 対 す る 判 決 がその立法趣旨について次のように述べる。「改正商法が総会屋に対する利 益 供 与 を 禁 止 し , 総 会 屋 の み な ら ず , 供 与 者 の 側 も 処 罰 す る こ と と し た の は,第一に株主総会が総会屋の暗躍によって形骸化している現状を改善し,

一 般 株 主 が 企 業 の 経 営 に 参 画 す る 機 会 を 確 保 す る た め で あ り , 第 二 に , 総 会 屋 に い わ れ の な い 会 社 資 金 が 流 れ る こ と は , 株 主 , 会 社 債 権 者 を 害 す る

ば か り で な く 企 業 経 営 の 公 正 に 対 す る 国 民 の 信 頼 を ゆ る が せ に す る か ら で ある」(名古屋地判昭

62・1・28

商 事 法 務

1 1 0 3

45

頁)。本判決がどちら の 学 説 の 立 場 に 立 つ か は 明 瞭 で は な い よ う に 思 わ れ る 。 被 告 人 た ち が 現 実 に 会 社 の 資 金

845

万円を総会屋に供与している点からすれば,

説 の 立 場 で あ ろ う と , 結 果 に 違 い は な か っ た 場 合 で あ る 。

どちらの学

利 益 供 与 要 求 罪 の 新 設 に よ る 影 響

改 正 に 至 る 経 過

警察庁の調査によれば, 同 庁 が 総 会 屋 と 目 し て 把 握 し て い る 者 の 数 は 昭 和

58

年 頃 に は 約

1 , 7 0 0

名であったが,平成

8

年 末 で は 約

1 , 0 0 0

名 に ま で 減 そ の う ち , 暴 力 団 構 成 員 お よ び 準 構 成 員 が 約

90

名 で あ り , そ の 他 の 少し,

(15)  芝 原 邦 爾 「 総 会 屋 に 対 す る 利 益 供 与 罪 」 法 学 教 室 164 (1994 85頁。

18‑2 ‑597 (香法'98) 6 

(7)

者 も 何 ら か の 形 で 暴 力 団 と の 関 係 を 有 し て い る と 思 わ れ る と の こ と で あ

利益供与・受供与罪によって,平成

9

1 1

2 6

日までに起訴された事 件は,事件数では

3 0

件,被告人の延べ人数では

2 1 6

名である。これらの者 に対する判決状況をみると,

9 4

名が懲役刑に,

67

名が罰金刑に処せられて おり,懲役刑の刑期は, 3月ないし 9月の範囲内であり,罰金刑は

1 0

万円

(17) 

ないし

3 0

万円の範囲内となっている。

供与された利益の額をみると, 平 成 3年までは数十万円から数百万円で あったが,平成

4

年にはイトーヨーカ堂

( 2 , 7 4 0

万円),平成

5

年 に は 麒 麟 麦酒

( 4 , 6 9 5

万円),平成 8年には高島屋

(1

6,000

万円)と年々高額化 してきた。平成

9

年においては,野村証券が約

3

7 , 0 0 0

万円(自己売買 益の付け替えと現金交付),山一証券が

1

7 0 0

万円(自己売買益の付け替 え),大和証券が

2

3 0 0

万円(自己売買益の付け替え),日興証券が

1 , 4 0 0

万円(自己売買益の付け替え)であり,第一勧銀は約

1 1 7

億円(迂回融資)

(18) 

に上っている。

特 に 平 成

9

年においては,上記各社の他にも,

3

月に味の素,

1 0

月 に 三 菱自動車工業,

1 1

月に東芝,三菱電機,日立製作所および三菱地所に係る

(19) 

商法違反(利益供与)事件の検挙がなされている。

これらの事件によって,昭和

5 6

年商法改正による利益供与・受供与罪の 新設やこれらによる捜査機関による摘発活動は,総会屋の数を減少させる

など一定の効果をあげたが,総会屋を根絶させるまでにはいたらず,

ろ総会屋がわが国の経済社会の中枢部に食い込んでいることが明らかとな むし

った。 そこでわが国の企業活動の健全性を確保し, かつ, その国際的信用

{16)  北 島 孝 久 「 商 法 お よ び 株 式 会 社 の 監 査 等 に 関 す る 商 法 の 特 例 に 関 す る 法 律 の 改 正 の 概 要 等 に つ い て 」 警 察 学 論 集512 (1998 147頁。

{17)  北 島 ・ 前 掲 注{16)147頁。

{18)  松井秀樹・澤口実『利益供与をなくす法』(商事法務研究会, 1998 24頁。 {19)  森内彰「『いわゆる総会屋対策のための関係閣僚会議』に係る経緯と警察の取り組み

について山」警察学論集51 2 (1998 134頁。

ニ ニ

(8)

利 益 供 与 要 求 罪 の 新 設 と 利 益 供 与 禁 止 規 定 の 立 法 趣 旨 ( 市 川 )

を保持するために,総会屋をめぐる事犯に対する罰則を強化することが喫

(20) 

緊の課題となり,平成

9

年の改正に至った。

2  利 益 供 与 要 求 罪 新 設 の 趣 旨

利益供与要求罪新設の趣旨は,総会屋が利益供与を要求する行為それ自 体を独立して処罰することとして,総会屋に対する制裁を強化するととも に,これにより,会社関係者が総会屋から不当な要求を受けた段階におい て,これを捜査当局に届け出て処罰を求めることを可能とし,総会屋の犯

(21) 

罪行為の早期かつ効果的な摘発を図ることにある。

利益供与要求罪における「要求」とは,刑法上の賄賂の要求罪と同様に,

「相手方に対して,趣旨を認識し得る状態において,財産上の利益の供与 を求める意思表示をすること」を意味しており,その趣旨が客観的に明ら かであれば,直接的か間接的か,また,明示的か黙示的かを問わず,この 意思表示の開始が実行の着手であり,相手方が「株主の権利の行使に関し 財産上の利益」を要求されていると客観的に認識し得る状態に至った時点 で既遂に達し,相手方の認識の有無,諾否を問わず,一方的行為により犯

罪は成立する。

3  利益供与要求罪の新設による立法趣旨をめぐる学説への影響

昭和

56

年改正商法の下では,利益供与禁止規定の立法趣旨の理解におい て,会社資産の浪費防止を重視する説と株主権行使への影響禁止を軍視す る説が対立していた。同改正商法においては,現実に会社の計算において 財産上の利益が供与された場合にのみ,しかもまず供与者(会社関係者)

が,利益の供与を受けた者とは関係なしに,処罰された。すなわち経営者 が会社の金でもって総会屋を利用して自己保身を図るのをやめさせること

(20)  久 木 元 伸 ・ 森 本 和 明 「 企 業 犯 罪 と 刑 事 罰 」 ジ ュ リ ス ト 1129 (1998 42頁。 (21)  久 木 元 ・ 森 本 ・ 前 掲 注(20)43頁。

(ll)  久 木 元 ・ 森 本 ・ 前 掲 注(20)43頁。

18‑2 ‑595 (香法'98) ‑ 8 ‑

(9)

を 主 た る 目 的 と し て い る と 解 す る こ と が 可 能 で あ っ た 。 そ れ ゆ え , 利 益 供 与 禁 止 規 定 の 立 法 趣 旨 の 理 解 に お い て , 会 社 資 産 の 浪 費 防 止 ( 会 社 か ら 総 会屋への金の流れ防止)を軍視する見解が成立しえた。

平 成 9年 改 正 商 法 の 利 益 供 与 要 求 罪 に お い て は , 利 益 の 供 与 を 要 求 し た だ け で , 会 社 資 産 の 浪 費 ( 減 少 ) と は 関 係 な し に , ま た 利 益 の 供 与 を 要 求 された者とは関係なしに,まず要求者が処罰されることとなった。また「要 求」があったと言えるためには,「株主の権利の行使に関し財産上の利益」

を 要 求 さ れ て い る と 相 手 方 が 客 観 的 に 認 識 し う る 状 態 に 至 っ た こ と で よ い の で あ っ て , 相 手 方 ( 会 社 関 係 者 ) の 認 識 の 有 無 を 問 わ な い 。 つ ま り , 会 社 関 係 者 が 財 産 上 の 利 益 を 要 求 さ れ て い る こ と を 認 識 し て い な く て も 利 益 供 与 要 求 罪 は 成 立 す る 。 し た が っ て 少 な く と も 威 迫 を 伴 わ な い 利 益 供 与 要 求 罪 に お い て は , 会 社 財 産 が 直 接 具 体 的 な 危 険 に さ ら さ れ て い る と い う こ

とはできないと思われる。

そ う す る と , こ れ は ま さ に 株 主 権 の 行 使 を 武 器 と し て 不 当 な 利 益 の 供 与 を 要 求 す る 行 為 を つ ま り 総 会 屋 の 活 動 そ の も の を 処 罰 す る こ と を 目 的 と す る も の で あ り , 株 主 権 が 本 来 の 正 当 な 目 的 の た め 行 使 さ れ る こ と を 確 保 し よ う と す る も の と 言 っ て よ か ろ う 。 こ れ は , つ ま り , 会 社 側 に お け る 資 産 の 浪 費 ( 減 少 ) を 問 題 と し て い な い の で あ っ て , 総 会 屋 側 の 不 当 な 利 益 を 求 め る 行 為 自 体 を 問 題 と し て い る と い う こ と に な ろ う 。 さ ら に 総 会 屋 が 利 益 の 供 与 を 要 求 し た だ け で な く , 現 実 に 利 益 の 供 与 を 受 け れ ば , 会 社 資 産 の 浪 費 ( 減 少 ) が な く て も , 利 益 受 供 与 罪 と し て 処 罰 さ れ る こ と と な ろ う

(商 497条 2項)。このことを,会社関係者に関していえば,(会社関係者 の 場 合 に は 現 実 に 利 益 を 供 与 し て 初 め て 処 罰 さ れ る こ と に な る の で あ る が ) 会 社 資 産 を 利 用 し て 株 主 権 の 行 使 に 影 響 を 与 え る こ と を 禁 止 す る も の と い え よ う 。 利 益 供 与 要 求 罪 を 含 め た 利 益 供 与 禁 止 規 定 全 体 の 立 法 趣 旨 の 理 解 に お い て は , 会 社 資 産 を 利 用 し て の 株 主 権 行 使 へ の 影 響 禁 止 を 重 視 す

るべきであると思われる。

新 聞 報 道 ( 日 本 経 済 新 聞 平 成

1 0

5

月22日 朝 刊 ) に よ れ ば , 威 迫 を 伴

/¥ 

(10)

利益供与要求罪の新設と利益供与禁止規定の立法趣旨(市川)

う利益供与要求罪が初めて適用され,その容疑者 2名 が 逮 捕 さ れ た 。 両 容 疑者は「産廃の不法投棄の疑惑がある。証拠写真も持っており,株主総会 で質問したい」などと総会での発言をちらつかせたうえで,株主権不行使 の見返りとして「産廃処理の仕事をさせていただきたい」と迫ったという。

両容疑者のこの行為が威迫を伴う利益供与要求罪に当たると,捜査当局に よって判断された。この事件において,当局は両容疑者の求めた仕事が会 社にとって必要なものか否かやその仕事に対して会社の支払うべき対価が 公正かどうかは問題としていない。また,この事件において,会社財産が 直接具体的な危険にさらされていたとは思われない。つまり,会社資産の 浪費(減少)の有無は,そのおそれの有無も含めて,全く問題にされてい ないと思われる。

四 結 び に か え て

1  会社資産を利用しての利益供与の禁止

平 成 9年の商法改正によって利益供与罪に対する罰則が強化されるとと もに,利益供与要求罪が新設された。利益供与要求罪の新設によって利益 供与禁止規定全体の立法趣旨の理解においては,(会社資産を利用しての)

株主権行使への影響禁止説が有力になるものと思われる。とすれば,会社 にとって必要な取引でありかつ対価の相当な取引であっても,その取引が 総会屋に利潤を与えるものであれば,それは利益供与の禁止に違反するこ

ととなろう。また,新株や転換社債の発行に際し親引けによって総会屋に 利益を与えることも,利益供与の禁止に違反することとなろう。

会社にとって必要な取引であり,対価も相当な場合,つまり会社資産の 浪費に当たらない場合であっても,利益供与の禁止に違反することとなる のは,利益を得る相手方が株主としての権利行使に関して利益を得ること を常とする総会屋またはその関係者であるからである。会社関係者として は,取引の必要性や相当性だけでなく,その相手方についても十分に注意 を払う必要がある。会社関係者が総会屋またはその関係者との疑念を生じ

18‑2 ‑593 (香法'98) ‑ 10  ‑

(11)

る者に,いかなる方法によるものであれ,会社資産を利用して利益を与え ることは厳に慎まなければならない。契約締結後相手方が総会屋であると わかった場合にも,会社関係者は,その契約が総会屋に利益をもたらすも のであるならば,違法・無効であるから,その履行を中止すべきである。

利益供与要求罪は会社関係者の薙力な武器である

平 成

9

年改正前の商法

4 9 7

条によれば,まず利益の供与者(会社関係者)

を罰する。その場合,利益の受供与者が処罰されるか否かは関係ない。利 益の受供与者は情を知って利益の供与を受けた場合にのみ処罰される。ま

た,同条の罪は供与者も受供与者も共に 6ヶ月以下の懲役または 30万円以 下の罰金であった。これでは裏社会の住人である総会屋にとっては何の抑 止力にもならないが,家族と共に健全な社会生活を営んでいる会社関係者 にとっては,逮捕され起訴されるということ自体が,社会的にも家庭的に も致命的な打撃となった。それゆえ同条は利益を供与する会社関係者の行 為を主としてねらい打ちするものであると考えられた。むしろ一度利益供 与が行われた場合には,利益供与罪は会社関係者に対する総会屋の武器と すらなったのであり,会社関係者が利益供与罪について捜査当局に自主的 に通報・告発するということはほとんど考えられなかった。しかしこのよ

うな状況は平成 9年の利益供与要求罪の新設と罰則の強化によって大きく 変わった。

利益供与要求罪によって総会屋の利益供与を要求する行為それ自体が,

会社関係者の行為とは関係なしに,独立に処罰されることとなった。会社 関係者にとっては,総会屋から不当な利益の供与を要求された段階で,そ れを捜査当局に届け出て処罰を求めることが可能となった。つまり会社関 係者にとっては総会屋の要求から自己を守る強力な武器を与えられたと言 うことができよう。しかも利益供与要求罪は 3年以下の懲役または 300万 円以下の罰金に,それが威迫を伴う場合には, 5年以下の懲役または 500万 円以下の罰金に処せられるのであり,情状によっては懲役と罰金が併科さ

' . 

/'¥ 

(12)

利益供与要求罪の新設と利益供与禁止規定の立法趣旨(市川)

れることもあるので,裏社会の住人である総会屋にとっても相当な打撃と なろう。

現在わが国の企業は各々の分野を代表するような一流企業においても,

反社会的勢力との癒着について,日本国民のみならず外国からも疑いの目 をもって見られている。企業活動はますますグローバル化し.国の内外を 問わず市場では自由で公正な競争が求められている。公正な競争は公正な 企業経営あってこそ成り立つ。反社会的勢力と癒着した経営者は,その企 業経営に対する世間の信頼を失わせ,その企業は市場競争の不適格者とし ての烙印を押され,市場から追放されることとなろう。企業経営に対する 国民の信頼および国際的な信用を回復することが経営者の喫緊の課題とな

っている。

平 成 9年商法改正によって新設された利益供与要求罪によって利益供与 の要求それ自体が処罰されることとなり,要求の段階で捜査当局に通報・

告発できることとなった。「君子は危うきに近寄らず」であり,経営者は不 当な要求を受けた早期の段階で通報し,捜査当局の協力を得て,反社会的 勢力の要求から自己を守るとともに,自らもこれとの癒着を完全に断ち切

るべきである。

18‑2 ‑591 (香法'98) ‑ 12  ‑

参照

関連したドキュメント

計量法第 173 条では、定期検査の規定(計量法第 19 条)に違反した者は、 「50 万 円以下の罰金に処する」と定められています。また、法第 172

1回49000円(2回まで) ①昭和56年5月31日以前に建築に着手し た賃貸マンション.

(A)3〜5 年間 2,000 万円以上 5,000 万円以下. (B)3〜5 年間 500 万円以上

(1)本表の貿易統計には、少額貨物(20万円以下のもの)、見本品、密輸出入品、寄贈品、旅

(1)本表の貿易統計には、少額貨物(20万円以下のもの)、見本品、密輸出入品、寄贈品、旅

問い ―― 近頃は、大藩も小藩も関係なく、どこも費用が不足しており、ひどく困窮して いる。家臣の給与を借り、少ない者で給与の 10 分の 1、多い者で 10 分の

また︑以上の検討は︑

[r]