I I I I I I I I [ 1 1
ー1
.•.
‑
﹁
:
IIIIIIIIIIIIII,1‑
︱
︱ 論 説
i
‑
・1
, 1 1
ー ー ー
1 1 1 1 1 j 9 9 .
‑IIIIIIIIIIIII
は じ め に
‑ P S S 日 PSSA
の定義と発展A
の概念とその法的根拠□海洋保護区と
PSSA
曰PSSA
の法的根拠 四 関 連 保 護 措 置 の 法 的 根 拠 二 伝 統 的 な 海 域 別 規 制 とPSSA
↓領海における沿岸国管轄権と
PSSA
,1 ,
口排他的経済水域における沿岸国管轄権と
PSSA
□国際海峡における沿岸国管轄権と
PSSA
三 ト レ ス 海 峡
PSSA
の指定とその問題点H
指定の経緯口 考 察 お わ り に
石
橋
ー 海 域 別 規 制 を 基 盤 と す る 関 連 保 護 措 置 と そ の 限 界
海 洋 環 境 保 護 と
PSSA ︵特別敏感海域︶
三五
可
奈
美
今日︑海洋環境は様々な汚染の危険にさらされている︒その中でも最も深刻な汚染の一っとして注目されるものに
船舶起因の汚染があり︑国際社会でも積極的な対応が求められてきた︒とりわけ国連海洋法条約が︑この点に関して
海洋環境の保護及び保全と題する第︱二部を設け︑環境保護を条約における重要な柱の一っとして据えるとともに︑
船舶起因の汚染についても基本的なアプローチを確立したことは評価されるべきである︒
しかし︑他方で︑国連海洋法条約の採択から二0年以上を経た今日︑その環境保護の枠組みにも限界があることが
もそも人為的に設定された海域で区切られてはおらず︑ 感じられるようになっている︒国連海洋法条約の環境保護の枠組みは︑その多くが︑海域別・船種別に細かく設定さ
(2 )
れ︑非常に複雑な構造を呈していることがその主たる原因となっていると考えられる︒例えば︑国連海洋法条約に基
づき︑環境保護のための規制措置をとる場合に︑沿岸国がいかなる権限をどの範囲で行使しうるのか必ずしも明確で
(3 )
ない場合がある︒また︑国連海洋法条約においては︑領海︑排他的経済水域︑公海︑といった伝統的な海域の区分が︑
環境保護のための規制についても基本的な枠組みとなっているが︑しかし︑そのような枠組みに基づく沿岸国の規制
(4 )
措置では海洋環境保護には十分に対応できないと指摘されることもある︒環境保護の観点から見れば︑海洋環境はそ
(5 )
一体のものであるために︑そのような海域別の規制が必ずし
も有効に機能しない場合もあり得るからである︒こうして︑今日では︑環境上特別な保護が必要な海域を国連海洋法
条約が定める海域区分を越えて︑指定し保護するという考え方が次第に発展するに至っている︒この特別な保護を設
定される海域は総称して︑﹁海洋保護区︵M臼
i n e P r o t e c t e d A r e a s : M P A s )
﹂と呼ばれる︒国連海洋法条約が伝統的な
は じ め に
三六
海洋法の流れを汲み︑沿岸国や旗国の権限を調整しながら︑海域別に規制を試みるのに対して︑この保護区は︑環境
保護を第一とし伝統的な海域の枠組みを越え設定されうるものであるところに︑環境保護の面から見た希望がある︒
以下
PSSA
と略称を用いる︶
三七
( P
臼t i
c u l a
r l y
S e n s
i t i v
e S
ea
Ar
ea
: 特
別敏
感海
域︑
の制
度で
ある
︒
PSSA
は条約において規定された制度ではなく︑IMO
のガイドラ( 6 )
インによって作り出された一種の﹁海洋保護区﹂である︒内水や領海など沿岸国の管轄権の強く及ぶ海域において国
内法令に基づいて設置される海洋保護区︑地域条約に基づき設置される海洋保護区︑国連海洋法条約や
MARPOL
条約が設置を規定する海洋保護区︑などと異なり︑
置については
IMO
が関与することから国際的な海域制度であると考えられるが︑その法的根拠は︑条約によって直
接与えられておらず︑曖昧なままに設置されている感がある︒
法的な根拠の曖昧さにもかかわらず︑実際に︑
置
( A
s s
o c
i a
t e
d
P r o t
e c t i
v e
M e
a s
u r
e s
:
AP
Ms
)
PSSA
は︑設置される範囲が内水や領海に限定されず︑また設PSSA
は一九九0年のグレートバリアリーフに対する指定を最初としてすでに一︱ヵ所もの海域に設定されており︑その意味で︑この制度への国際社会の多大な期待が感じられるで
あろう︒しかし︑他方でこのようにこれまでの伝統的な海域を越えて設置される保護区域で︑
PSSA
や関連保護措の法的根拠が曖昧なまま︑統一的な規制措置に基づく海洋環境保護が志
向されるとすれば︑船舶の航行の自由の新たな制限が事実上求められる可能性がある︒実際︑トレス海峡
PSSA
では︑国際海峡において強制水先案内の制度の導入が提案された︒結局は︑関連保護措置として採択されなかったが︑
そもそも
PSSA
が法的に曖昧な存在であるとすれば︑これまでその海域に応じて存在した制限に追加される︑国際的な海洋保護区を設置することに伴う海洋環境保護を理由とするこのような制限が︑認められるのかどうか︒
本稿では︑とくに
PSSA
の法的根拠やPSSA
において実施される関連保護措置の法的根拠の問題に焦点を当て いわゆる﹁海洋保護区﹂の中で︑本稿が注目するのは︑PSSA
の機能には限界があることを︑トレス海峡
PSSA
の事例を通じて検証したい︒ た様子が窺えるが︑PSSA
の創設の理念は生きず︑なが
ら︑
今後
PSSA
が海洋環境保護のための重要な手法として機能しうるのかどうか︑保護措置の法的根拠の明確化が要求されるに従い︑
現行の海域別規制の枠組みを外れない限り︑
PSSA
は次第に伝統的な海域別規制の枠組みにはめ込まれてきその海洋環境保護
( 1 )
その背景にエリカ号事件(‑九九九年︶やプレステージ号事件︵二
0 0二年︶など近年の大型船舶の油流出事故がある︒
( 2 )
富岡仁﹁船舶の通航権と海洋環境の保護ー国連海洋法条約とその発展ー﹂﹃名経法学﹄︱二号二
0 0二
年︑
一
0ー
一︱
頁︒
( 3 )
沿岸国が︑航行の安全を目的として領海内で行う航路指定や航路帯の設定︵国連海洋法条約二二条︶は︑第一の目的が﹁航行の
安全﹂であり︑二次的に環境保護を目的とする場合に認められるのか︑それとも環境保護を第一の目的とする場合にも認められる
のかについては︑解釈の余地が残されたままである︒長岡憲二﹁海洋環境保護を理由とする無害通航の規制ー沿岸国による海洋環
境保護措置の拡大を中心にー﹂﹁関西大学法学論集﹄第五四巻六号︑一七六頁︒なお︑航行の安全の確保が結果として環境保護に
貢献することはよく知られている︒
J u l i a n R o b e r t s , " P r o t e c t i n S e g n s i t i v e M a r i n e E n v i r o n m e n t s
T : he R o l e a n d A p p l i c a t i o n o f S h i p s ' R o u t e i n g e M a s u r e s , "
20 Th e I n t e r n a t i o n a l J o u r n a l
of a M ri ne an d C o a s t a l L aw
(
20 05 ), p .
13 6.
( 4 )
V e r o n i c a F r a n k ,
"
C o n s e q u e n c e s f o t h e P r e s t i g e S i n k i n g o r f E u r o p e a n
n a d I n t e r n a t i o n a l L aw
,"
20 Th e I n t e r n a t i o n a l J o u r n a l o f M ar in e a nd C o a s t a l L aw ( 20 05 ), p .
28 .
( 5 )
林司宣﹁国連海洋法条約と海洋環境の保護・保全﹂﹃海洋時報﹄一七頁︒
( 6 )
J u l i a n R o b e r t s , M ar in e E n v i r o n m e n t P r o t e c t i o n an d B i o d i v e r s i t y C o n s e r v a t i o n : Th e A p p l i c a t i o n an d F u t u r e D e v e l
o p m e n t o f h e t I MO 's P a r t i c u l a r l y e n S s i t i v e S ea Ar ea Co n c e p t
( S p r i n g e r ,
20 06 ), p .
30 .
L . d e La Fa y e t t e
" , Th e M a r i n e E n v i r o n m e n t P r o t e c t i o n C o m m i t t e e : T he C o n j u n c t i o n o f t h e L aw of t h e Se a a nd In t e r n a t i o n a l E n v i r o n m e n t a l La w ,
"
16
I n t e r n a t i o n a J l o u r n a l o f a M ri ne an d C o a s t a l L aw
(
20 01 ), p .
19 2.
考察することとする︒
三八
関連
経済的または科学的理由で重要でありかつ国際航行活動からの損害に脆弱なため︑
保護を必要とする区域﹂
( 2 0 0
1 G u
i d e l
i n e s
A ,
n n
e x
2 ,
1 .
2 )
と定義される︒
今日
まで
︑
態学的基準︑社会的・文化的及び経済的基準︑科学的及び教育学的基準の三つの基準のうち︑少なくとも一っを満た
すこと
( A n n
e x 2 ,
4)
︑②国際航行活動による損害に脆弱であること
( A n n
e x 2 ,
5)
︑③脆弱性から当該海域を保護する
( 8 )
ための措置が
I M
Oによって採択され得ること
( A n n
e x 2 ,
6)
︑という三つの要件を満たす必要がある︒
( 9 )
︱一
の P S S
Aが
I M
Oによって指定されている︒
P S S
Aの指定には︑①船舶の国際航行活動から生
ずる損害についての海域の脆弱性に適合するよう慎重に選定され
I M
Oによって採択される措置が同海域の包括的な
管理を可能にするということ︑②海域の特別な重要性への認識を国際海図への記載を通じ地球規模で高めること︑
③海域を航行する際︑特別の注意が必要であることを船舶の乗員に知らせること︑などの利点があることが指摘され
ライン
二0 0
一年ガイドライン
二
0 0
一 年 一
(1)~ —)
一月
二九
日︑
び
P S S
Aの認定及び指定のための指針
( G u i
d e l i
n e s
f o r
t h e
D e s i
g n a t
i o n
o f
S p e c
i a l
A r e a
s u n
d e r
MA
RP
OL
7
3/ 78 a n d
(7 )
G u i d
e l i n
e s f
o r t
h e
I d e n
t i f i
c a t i
o n
a n d
D e s i
g n a t
i o n
o f P
a r t i
c u l a
r l y
S e n s
i t i v
e S e
Areas)
1001~a」( N5r‘
徊←古丹的に―ガイド
( 2 0 0
1 G u
i d e l
i n e s
)
として記述︶が採択された︒それによれば︑
P S S
Aの定義と発展
PSSA
の概念とその法的根拠
三九
I M
Oの総会決議として︑﹁
MARPOL
条約に基づく特別海域の指定のための指針及
P S S
Aとは︑﹁認められた生態学的︑社会
I M
Oによる活動を通じた特別な
P S S
Aとして指定されるためには︑①生
関連保護措置について︑
︶
•1,1
︑, ' /
. •1
1
f
措置領海において*又は国連海洋法条約ニ︱一条六項に従ってとられることが提案される措置
*この規定は︑国連海洋法条約に定める領海における沿岸国の権利義務を逸脱するものではない︵*は原文注︶
またさらに具体的に︑関連保護措置として︑船舶の航路指定︑排出規制︑運航の基準︑禁止行為の設定︑などを例
示した上で︑関連保護措置は当該
P S S
Aの必要性に応じて選択されるべきとした
しかし︑関連保護措置に関しては︑後述するようにその法的根拠について不明瞭さが残されていた︒そのため︑二0
0五年︱二月︱
H
に︑その点を含み︑﹁P S S
Aの認定及び指定のための改訂指針
( R e v
i s e d
( i i i )
既存の措置ではないが︑
( A n n
e x 2 ,
8
. 3
)
︒
して︑①利用可能な保護措置の一覧と提案された又は現行の関連保護措置の適否︑②そのような措置が︑提案される
P S S
Aの外側の環境において国際航行活動による重大な悪影響を与える可能性︑③海域の全体の広さ︵その海域の
広さが認められる必要性に対処するため相応であるかどうかを含む︶などの点が挙げられている
ガイドラインは以下のように述べる
現行の文書においてすでに利用可能である措置
一般的に適用される措置として利用可能とされるべきであり︑
れる
と︑
P S S
Aの指定が完了することとなる
( A n n
e x 2 ,
7
. 4.
2 .
1
( a ) )
︒
( An n e x
2 ,
7. 4 .
2 .
1
( b )
)
︒
なお申請の審究の際に︑G u i d
e l i n
e s
f o r
( A n n
e x 2 ,
8
.
2 )
︒
t h e
P S S
Aの指定の手続は︑指定を受けようとする国家の申請によって開始される︒申請は︑
委員会
(M
EP
C)
IMO
の海洋環境保護
において審議され︑原則として指定が承認
( d e s
i g n a
t h t e
e a r
e a "
i n
p r i n
c i p l
e "
)
された後︑委員会等で
関連保護措置と呼ばれる︑当該区域の保護のための措置が検討され︑最終的に関連保護措置が
IMO
によって採択さ
IMO
の権限内にある
IMO
が考慮すべき点と
( 1 0 )
てい
る︒
四〇
ドラインは︑関連保護措置の目的を︑﹁認定された脆弱性を防止し︑軽減し︑除去する﹂ことであると明確にした上
( 1 2 )
( R e v i s e d G u i d e l i n e s ,
1.
4
)︑申請国は︑提案される関連保護措置は国際航行活動から損害が生ずるおそれから当該
6
に定める範囲の措置から選定し︑申請書に記載して提出する(3 .2
)︒それに基づき︑海洋環境保護委員会が関連保
護措置が当該海域の保護に最適であるかどうかを判断する︒したがって︑申請国は認定された脆弱性が︑提案された
関連保護措置によって対処されるということを申請の段階で立証する必要がある︒ 海域を保護するものでなければならないとした
で
確化︑
①
二
0
0五年改訂ガイドラインは︑
IMO
の
PSSA
審査・指定権限を強化した︒IMO
は︑①当該海域が生態学的
基準︑社会的・文化的及び経済的基準︑科学的及び教育学的基準の三つの基準のうち︑少なくとも︱つを満たすこと︑
閲海域の特性が︑国際航行活動による損害に脆弱であるということ︑口認定される脆弱性を防止し軽減し除去するた
めの関連保護措置が存在し又は提案されること︑につき審査しなければならないとする︒さらに二
0
0五年改訂ガイ
IMO
の審査権限の強化
四
( 1 1 )
I d e n t i f i c a t i o n a n d D o f e s i g n a t i o n
P a r t i c u l a r l S e y n s i t i v e S e a A r e a s ) ﹂が
IMO
総会で採択された
ライン
( R e v i s e d G u i d e l i n e s )
として記述︶︒以下︑二
0
五年改訂ガイドラインの主な変更点につき︑見ることとする︒0
︵ 二 0
0五年改訂ガイド
本稿の観点で重要な改訂点は︑①
IMO
の
PSSA
指定に関わる審査権限の強化︑②関連保護措置の法的根拠の明
であ
る︒
(4 .
1)︒申請国はこのような要件を満たす関連保護措置をセクション 二
0
0五年改訂ガイドラインによる発展
現行の
IMo
文書の下ですでに利用可能である措置 関連保護措置の法的根拠の問題関連保護措置の法的根拠については︑四節で詳しく触れるため︑ここでは改訂ガイドラインで法的根拠につきどの
ような記載がなされたか︑についての事実に言及する︒
改訂作業のプロセスでも関連保護措置に関しては法的根拠がなければならないことが確認されていたが︑問題はど
のように︑根拠が与えられるかであった︒国連海洋法条約の一般規定とその他の国際法規則が︑
置を採択するための十分な権限を与えると主張するもの︑
IMO
が関連保護措
IMO
に関連保護措置の採択権限を与えるとする特別の条
項が国連海洋法条約に必要であり︑国連海洋法条約の一般規定からだけではそのような権限が与えられているとは言
えないとするもの︑
IMO
に法的権限を与える特別条約が存在していない限り︑
IMO
には権限がないとするもの︑
( 1 3 )
など意見は分かれた︒このような議論に関して
IMO
は︑二
0 0
一年ガイドラインの方向性をそのまま踏襲し︑関連
保護措置は現行の
IMo
条約及び
IMo
条約に基づき総会︑海洋環境保護委員会
(M
EP
C)
︑海上安全委員会
(M
SC
)
( 1 4 )
によって採択される決議︑の下で採択されうるという見解を示した︒そして︑また関連保護措置は︑
IMO
の諸
条約
・
決議が改正され新たに採択されればその授権により︑また国連海洋法条約のニ一条及びニ︱一条のように
IMO
に権( 1 5 )
限を与える特別の条項に基づいても採択されるという見解を示した︒
以上の点を踏まえ︑二
0
0五年改訂ガイドラインは︑申請は︑それぞれの関連保護措置について法的根拠を示して
行わなければならないとし︑関連保護措置について以下のように改訂した ②
( R e v i s e d G u i d e l i n e s , A n n e x ,
7. 5. 2. ) 3
︒
現行の
IMo
文書にはまだ存在していないが︑
IMo
文書の改正や新しい
IMo
文書の採択を通じて利用可能
になりえるもの︒そのような措置の法的根拠は︑
IMo
文書が改正されまたは採択されて初めて利用可能にな
四
PSSA
に先立つカテゴリーを同じくする概念として︑いわゆる﹁海洋保護区﹂がある︒海洋保護区は非常に広が( 1 6 )
りを有する概念であり︑先に触れたように
PSSA
もその中に包摂されるものと考えられるが︑しかし︑様々な形態の保護された水域を含む﹁海洋保護区﹂の中にあって
PSSA
はどのように位置づけられるのか︑見ておく必要があ( 1 7 )
る︒こうした海洋保護区の設置は歴史的には新しいものではない︒初期のころの海洋保護区は︑主に沿岸国が国内法
令などに基づき︑自国の内水や領海などの一部に設定するものであったため︑その設定自体は国際法によって規律さ
れず︑海洋保護区は主としてその設定に基づく沿岸国の環境保護のための措置が︑例えば領海に設定される場合に外
国船舶の無害通航権を侵害するものであるかどうかなど︑船舶の航行の自由への制限が課される局面において国際法
の問題となりえた︒しかし︑海洋汚染が進み︑海洋環境保護について沿岸国がより広範囲で︑また規制の強い管轄権
( 二 )
現行の措置や上記伺に述べられるような一般的に利用可能である措置が︑申請された海域の特別の必要性に十
分に対処できない場合に︑領海において*又は国連海洋法条約ニ︱一条六項に従ってとられることが提案され
*この規定は︑国連海洋法条約に定める領海における沿岸国の権利義務を逸脱するものではない︵*は原文注︶
この改訂により︑関連保護措置として採択されるためには法的根拠が必要であることが明確に示されたこと︑また
伺のカテゴリーの措置について︑
注目に値する︒
( i i i )
海洋保護区と
PSSA
る措置 る ︒四
IMo
文書が改正・採択されて初めて法的根拠を付与されると明示されたこと︑が
コ ︶
管轄権の及ぶ海域に保護区を設定することができる がなされる可能性が生まれ︑国際的な協力や認知を得る必要から︑海洋保護区の指定自体を国際法で規律しようとい を行使したいと考えるようになると︑( 1 8 )
︵1 9 )
う試みが生まれた︒海洋保護区の規律は︑まずは地域的取組みに基づき地域条約が発展させてきたが︑国際的レベル
でも次第に必要とされ︑ やがて領海を越える海域︑排他的経済水域や公海においても海洋保護区の設定
MARPOL
条約が定める特別海域の制度や国連海洋法条約ニ︱一条六項いが定める特定の水域の制度などが現れた︒とくに特別海域や特定の水域の制度は︑その設定の趣旨において
PSSA
と同じであると( 2 0 )
いっ
てよ
く︑
PSSA
の制度と併せて比較検討する必要がある︒①地域条約に基づく海洋保護区
海洋保護区の発展は︑海洋環境保護を目的とする地域条約において顕著である︒この中でとくに注目すべきは︑
九九五年地中海における特別保護区と生物多様性に関する議定書である︒議定書に基づき︑締約国は︑その主権又は
︵五条一項︶︒また締約国は︑地中海において重要性を有する特
別保護区
(S
PA
MI
:
S p e c
i a l l
P y
r o
t e
c t
e d
A
r e
a s
o
f t
h e
M e
d i
t e
r r
a n
e a
n
I m
p o
r t
a n
c e
)
を基準に従って選定し︑リストに掲げ
︵八条一項︶︑その特別保護区において実施される適用可能な保護措置について遵守する義務を負う︵八条三項︶︒こ
の特別保護区は︑保護区として申請される区域の一部又は全部が公海や国家の主権及び管轄権の限界が明確でない区
域にも及ぶことが想定されているが︑同一の保護措置が領海︑排他的経済水域︑公海といった海域で適用可能である
のかは問題である︒二
0 0
一年にリストに登録された地中海サンクチュアリー
の事例では︑海洋哺乳動物の意図的な捕獲の原則的禁止やホエール・ウォッチングの規制などが︑同サンクチュ
アリーが有した公海部分にも﹁国際法規則の定める範囲で
( d
a n
l e s
s I i
旦
t e s
p r
e v
u e
s p
a r
e s l
r e g
l e s
de
dr o
i t i
n t e r
n a t i
o n a l
)
﹂
︵申請国ニノランス︑イタリア︑
四四
モナ
に︑附属書
V I
1 )
︒
( 2 1 )
という制約がつくものの︑適用されるとしていた︵地中海サンクチュアリー設定に関する協定一四条二項︶︒しかし︑
保護措置はあくまで一ニカ国間の協定によって実施されるもので︑第三国の船舶には適用はなく︑航海部分のサンクチュ
( 2 2 )
アリーの設定は実質的な規制措置を伴うものではないと言える︒このように︑地域条約に基づき設定される海洋保護
区は︑そもそも締約国数が限られることから︑多数国間条約に基づく場合に比較して︑第三国船舶に対する対抗力と
いう点で︑かなりの限界があると言える︒また︑地域的な海洋保護区の設定に基づく海洋環境保護の強化は︑その海
( 2 3 )
洋保護区の外側に位置する周辺の沿岸国や海域に汚染の危険を移転するに過ぎないという批判もある︒地域条約に基
づく規制は︑国連海洋法条約の船舶起因汚染を規律する諸条項に従い︑
( 2 4 )
きものであり︑とすれば︑規制もその範囲に限定されることになる︒
MARPOL
条約( M A R P O L
73 17 8)
の附属書T上
害液体物質による汚染の規制のための規則︶︑附属書>
の基準を溝たす海域を特別海域
( S p e c i a l A r e a s )
とし︑規制の上乗せをする措置をとる
また︑特別海域という名称ではないが︑同趣旨で設定され
MARPOL
条約の特別海域制度の下にあるもの︵船舶からの大気汚染防止のための規則︶
ける海域を指す
( A n n e x l ,
2. 1)
︒特別海域は︑地中海・バルト海・紅海・ペルシャ湾など
② MARPOL
条約の特別海域四五
︵附
属書
I
の特
別海
域︶
︑
t r m
i s s i o n
IMO
と緊密な連携を保ちつつ実施されるべ
C o n t r o l
の硫黄酸化物排出規制海域
( S O x SE CA )
があり︑同海域において附属書>に定める燃料油に含まれる硫黄分濃度規制につき︑硫黄酸化物濃度の上乗
( 2 5 )
せ規制がなされる︒こうして特別海域とは︑
MARPOL
条約の下で︑他の海域よりもより高いレベルでの保護を受A r e a s
(2 00 1 G u i d e l i n e s , A nn ex L
2 ︵船舶からの廃物による汚染の防止のための規則︶
は
ヽ一 定
︵油による汚染の防止のための規則︶︑附属書
I I
︵ばら積みの有
南極海︵附属書
I I
の特別海域︶︑地中海・バルト海・紅海・ペルシャ湾・北海など︵附属書>の特別海域︶において︑( 2 6 )
また硫黄酸化物排出規制海域はバルト海と北海において指定されている︒
PSSA
とMARPOL
条約の特別海域とは︑法的根拠︑指定海域︑指定基準︑汚染源及び関連保護措置などの五点︑すなわち︑①
PSSA
はIMo
文書によって創設された制度であるが︑特別海域は︑条約
( M
A R
P O
L
条約 ︶
において定める制度であるということ︑②指定海域として︑
は︑閉鎖海域・半閉鎖海域において指定されるものであるということ
( A n n
e x l ,
2 .
2 )
︑③指定基準について︑PSS
A
の指定は三つの要件︵生態学的基準︑社会的・文化的及び経済的基準︑科学的及び教育学的基準︶から︱つを満たせばよいが︑特別海域の場合は︑海洋学的条件︑生態的基準︑船舶の航行上の特徴︑のそれぞれで基準を満たさなけ
( 2 7 )
ればならず
( A n n
e x l ,
2 .
3)
︑ ④
PSSA
が様々な汚染源からなるあらゆる船舶起因汚染に対応可能であるのに対して︑( 2 8 )
特別海域の汚染源は各附属書に基づき﹁油﹂﹁化学物質﹂﹁廃物﹂及び﹁廃棄
( S
E C
A
における︶﹂に限定される︑⑤保護措置として︑
PSSA
の場合は︑関連保護措置を当該海域の事情に合わせ︑例えば︑MARPOL
条約の特別海域指定︑船舶の航路指定及び船舶通航制度︑強制水先案内及び船舶交通業務などの中から選択し︑採択することが
( A n n
e x 2 ,
6
.
1)が︑特別海域においては︑保護措置は
MARPOL
条約に定める適応可能な特別排出基準に
限定される
PSSA
はいかなる海域にも設定されうるが︑特別海域( A n n
e x l ,
3
. 5
)︑という点において法的性質の異なる制度であるといえる︒
﹁特
定の
水域
( s p e
c i a l
a r e a
s ) ﹂と﹁氷に覆われた水域﹂︵二三四条︶︑
③国連海洋法条約ニ︱一条六項
□に定める特定の水域
国連海洋法条約は︑排他的経済水域において特別の規制に服する二つの海域︑すなわち︑ニ︱一条六項いに定める
の制度を規定する︒
PSSA
との
関連
では
︑一
︱
できる
四六
る法令を制定することとなる︒
四七
一条六項に従うものであることが要求されること
︱一条六項いに規定される特定の水域と
PSSA
がどう異なるのかが問題となる︒二︱一条六項いに定める特定の水域は︑沿岸国が︑ニ︱一条一項に基づき定める船舶起因汚染を防止︑軽減︑規制
するための国際的な規則や基準が︑特別の事情︑すなわち︑﹁海洋学上及び生態学上の条件並びに当該水域の利用又
は資源の保護及び交通の特殊性に関する認められた技術上の理由﹂︑のために十分ではないと信ずるに足る合理的な
理由が存在する場合に設定されうる︒手続としては︑以下のプロセスを経る︒すなわち︑権限のある国際機関である
IMO
を通じて︑他のすべての関係国と適当な協議を行った後︑当該水域に関し︑権限のある国際機関に通告する︒
通告に際しては︑裏付けとなる科学的証拠・技術的証拠・必要な受入施設に関する情報が提供される︒通告を受けた
︱ニヶ月以内に要件に合致するか否かを決定し︑合致すると決定した場合には︑沿岸国は︑当該水域に
ついて︑権限のある国際機関が特定の水域に適用し得るとしている国際的な規則及び基準又は航行上の方式を実施す
第一
に︑
PSSA
も特定の水域も指定や保護措置の採択については権限のある国際機関であるIMO
が関与するこ
と︑
第二
に︑
PSSA
の関連保護措置については︑ニ︱(2 00 1
G u i d e l i n e s , A n n e x 2 ,
7. 4.
2 .
1
( a )
( i i
i ) / R e v i s e d
G u i d e l i n e , A n n e x ,
7
. 5. 2 .
3
( i i i ) )
など︑両者に共通要素があることから︑
( 2 9 )
このニ︱一条六項口を︑
PSSA
の根拠条文と捉える見解もあるが︑①PSSA
は領海︑排他的経済水域︑公海いずれにおいても設定される可能性があるが︑特定の水域は排他的経済水域内にのみ設定されうること︑②
PSSA
には
函 ︶
規模の制限がない力特定の水域には﹁明確に限定された範囲﹂であるべきとする要件が課されていること︑③
p s s
A
の指定の要件は特定の水域より広範で︑かつその要件の︱つが満たされればよいとして︑かなり緩和されていること︑などから︑両水域はやはり異なる水域と考えられるべきであり︑このニ︱一条六項□が
PSSA
の法的根拠を与国際
機関
は︑
PSSA
の法的根拠これまで概観した様々な形態の海洋保護区の中で︑とくに国際的レベルで
海洋保護区としては︑
MARPOL
条約の定める特別海域︑国連海洋法条約の定める特定の水域が代表的なものであ︑そのどちらもが︑おそらく今日の海洋保護の需要には十分に対応しきれないと思われる︒
MARPOL
条約の特別海域は︑閉鎖海域・半閉鎖海域に設定され︑また保護措置としてとりうるものは条約が規定する排出基準に上乗 るカ
せした排出基準の実施に限定される︒また国連海洋法条約の特定の水域は︑措置については
PSSA
の関連保護措置と同じように選定することが可能であるが︑しかし︑その設定海域が排他的経済水域内でありかつ﹁明確に限定﹂さ
( 3 2 )
れる必要があることから︑伝統的な海域を跨ぐ環境保護の必要性に効果的とは思われない︒このように現行の国連海
洋法条約やその他の海洋環境保護に関わる諸条約が︑海洋保護区の設定という手法を用い海洋環境保護に効果的に対
処できないとすれば︑そのようなギャップを埋めるために
PSSA
の実質的な存在意義はやはり認められるべきであ( 3 3 )
ろう︒そこで︑今度は︑
PSSA
の法的根拠を見ておく必要がある︒( 3 4 )
PSSA
は︑すでに述べたようにIMO
総会の決議︑すなわち非拘束的文書によって創設されたものであり︑条約
において定められた海域ではない︒従って︑もし︑
PSSA
が︑国連海洋法条約やその他海洋環境保護に関する諸条( 3 5 )
約にその法的根拠を見出せないとすれば︑
PSSA
の指定自体は︑何ら法的効果・帰結を有しないということになる︒定める条項︑すなわち︑
一九
二条
︑
︵地域条約で設置されるものを除く︶
の
海洋環境を保護するために
PSSA
を創設する権限を国連海洋法条約に求めれば︑海洋保護に関する一般的義務を一九四条に依拠することができる︒それらは︑すべての国家に︑海洋環境︑とく
(三
えるとみることはできないであろう︒
四八
に希少で脆弱な生態系を保護することを義務づける︒
PSSA
の指定は︑また︑国連海洋法条約のニ︱一条一項に基づく義務の履行の一形態であるともいえる︒すなわちニ︱一条一項は︑国家に︑権限ある国際組織を通じて︑船舶起
因の汚染を防止するためのルールや基準を確立すること︑また︑汚染を生じさせるような事故の危険を最小化するた
め航路指定措置を講ずることなどを義務づけている︒国連海洋法条約ニ︱一条六項は︑
PSSA
概念に法的基礎を与( 3 6 )
えるものであるとする見解もある︒しかしながら︑
PSSA
の指定の要件は︑ニ︱一条六項には含まれないことや︑PSSA
が伝統的な海洋の区分を越えて設定されるという意味においてPSSA
はニ︱一条六項の特定の水域より海( 3 7 )
洋保護区に近いものと捉えるべきである︒したがって︑環境保護との関連でいえば︑
PSSA
はそれ自体法的には﹁空( 3 8 )
の容器
(e
mp
ty
v e
s s
e l
) ﹂でしかなく︑
PSSA
として指定されることは国際的にその海域が国際交通に対して脆弱であり︑特別な保護を必要とする海域であるということを認知させ︑沿岸国の環境保護のための規制を容易にするとい
( 3 9 )
うこと以外にないと考えられる︒
関連保護措置の法的根拠
保する上で重要なのは︑ 前節で見たように
PSSA
自体が法的根拠を有さないとすれば︑PSSA
の設定による海洋環境保護の実効性を担( 4 0 )
PSSA
の指定に基づき実施される関連保護措置の法的根拠である︒これまでのところ︑P
SSA
の関連保護措置としては︑航路指定が最も多く採用されており︑その内訳は分離通航方式︵サバナカマゲイ諸
島︑バルト海︑西ヨーロッパ︶︑深水路航路︵バルト海︑西ヨーロッパ︶︑避航水域︵サバナカマゲイ諸島︑マルペ口
島︑フロリダキース︑パラカス国立保護区︑カナリア諸島︑西ヨーロッパ︑ガラパゴス群島︶︑投錨禁止区域︵フロ
リダキース︶︑その他の航路指定︵ワッデン海︑
四
カナリア諸島︑バルト海︑トレス海峡︶
四九
である︒また︑航路指定以
外の現行の関連保護措置としては︑水先案内制度︵強制・任意/グレートバリアリーフ︑トレス海峡︑バルト海︶︑
排出規制︵サバナカマゲイ諸島︶︑
MARPOL
条約特別海域指定︵ワッデン海︶︑船舶通報制度︵ワッデン海︑西ヨ︒ ヽ
ーロッノカナリア諸島︑バルト海︶︑がある︒このような関連保護措置はいずれにしても船舶の運航に変更をもた
( 4 1 )
らすものであることから︑法的根拠を有さなければならないと考えられる︒
このことについて︑関連保護措置の種別を問題とせず︑
るこ
とに
より
︑
国連海洋法条約の一般規定又はその他の条約に基づき︑関連保護措置を採択する法的権限を与えられているとするも
( 4 2 )
のである︒しかし︑沿岸国管轄権の行使に基づく規制は︑船舶の航行の自由との微妙なバランスの上に成り立ってむ
( 4 3 )
しろ最小限必要な範囲で認められてきたものであって︑特定の海域の脆弱性に基づき個別に採択される措置が︑たと
え権限のある国際機関である
IMO
によって採択されるとしてもそのことによって直ちに法的根拠が与えられるとす
るのは困難ではないか︒むしろ︑
IMO
は︑国連海洋法条約又はその他の条約により規則や基準の採択のような行動
をとる一般的な任務を与えられているのであって︑船舶の運航に影響を与えるような特別措置を︑そのような一般的
( 4 4 )
権限にのみ基づいて採択しうるとは言いきれないと考えるべきである︒したがって︑
IMO
による関連保護措置の採
択に先立ち︑まずは提案される航行規制方法が条約その他の文書において別途個別に法的根拠を与えられているか︑
が重要となるであろう︒そして︑別途個別に法的根拠を与えられている航行規制方法が
IMO
によって採択され関連
でき
ない
場合
︑
の か
︑
いかなる関連保護措置も最終的に
IMO
によって採択され
IMO
の権限を通じて法的根拠を与えることが可能であるとする見解がある︒すなわち︑
保護措置として実施される場合には問題はないが︑そのような措置では
PSSA
の指定海域において環境保護が達成IMO
が︑現行の国際法の諸原則や条約上の義務に基づかない関連保護措置を採択することができる
PSSA
の設定の目的との関連で重要な問題が残る︒五〇
IMO
が ︑五
また︑別途個別に法的根拠を与えられる関連保護措置といっても︑そこにもまだ複雑な問題が存在する︒それは︑
PSSA
が︑伝統的な海域別に沿岸国管轄権を定め航行規制の方法を呈示してきた従来の制度とは相容れない﹁海域﹂であることと深く関連する︒すなわち︑
PSSA
は︑国際航行からの損害への脆弱性を有し︑領海︑排他的経済水域︑公海︑その他の海域にも広がり設定される可能性があるが︑その一体が同一海域として設定されることとの関連で鑑
みれば︑伝統的な海域を跨ぎ航行規制が行われる必要性もまた否定できないはずである︒このような必要性が法的に
正当化され︑海域を越えて航行規制措置が関連保護措置として採択されることはあり得るのかという問題である︒
すでに見たように︑ガイドラインでは︑関連保護措置として採択されうる措置が三つのカテゴリーに分類され︑そ
の中の︵は︑先に実施されているとして掲げた
SOLAS
条約に基づく船舶の航路指定や船舶通報制度︑MARPo
L
条約に基づく特別海域指定︑水先案内︑排出規制などを示唆する︵ただし︑二0
五年改訂ガイドラインにおいて0
水先案内への言及は削除された︶︒これらはすべて︑
IMO
の管轄する諸条約において︑沿岸国が有する規制方法と
して規定されており︑したがって三つのカテゴリーの中では︑その法的根拠につき最も確実な航行規制措置を含む項
目であると考えられる︒しかし︑実際には︑後述するように︑例えば水先案内の制度において︑それが領海・内水に
おいて関連保護措置として実施される場合には問題とされなかったのに対して︑隣接して存在する国際海峡であるト
レス海峡に拡大されて実施されうるかについては問題となり︑結局は関連保護措置として採択されなかった︒このよ
うに︑もし関連保護措置が措置そのものとしての許容性ではなく︑完全にこれまでの伝統的な海域別での許容性が問
われ︑また海域別の規制枠組みの中で選定され実施されるとすれば︑
PSSA
の指定の意味はやはり大きく減じられていくことになりかねないと言える︒そもそも︑
PSSA
の指定がなくても︑そのような伝統的な海域別に認められてきた航行規制の措置はとりうるのであり︑
PSSA
の指定はまた海域の脆弱性について国際的な認知を得るという( 4 5 )
﹁価
値
( i n t
r i n s
i c v a
l u e )
﹂があるとするに留まることになるであろう︒
また︑伺︑圃のカテゴリーの措置は︑︵の措置よりも︑
PSSA
の海洋環境保護機能を高めるという観点からは望ましい場合があり得るが︑他方で伝統的な海洋法の有する沿岸国管轄権と航行の自由とのバランスの更なる修正を要
求する可能性があるということに注意すべきであろう︒とくに︑二
0
五年改訂ガイドラインでは︑このことに懸念0
が生じ︑伺に関してはより厳格に法的根拠を要求する方向で変更された︒すなわち︑現行の
IMo
文書にはまだ存在
して
いな
いが
︑
IMo
文書の改正や新しい
IMo
文書の採択を通じて利用可能になりえるような新しい措置の採択を
認めるものの︑そのような措置は
IMo
文書が改正されまたは採択されて初めて法的根拠を有するとした︒
どのような措置が関連保護措置として
IMO
によって採択されうるか︑その限界について︑ガイドラインでは明確
︵ 細 ︶
には示していない力提案された関連保護措置が航行に与える影響については考慮されなければならないとしてい
る︒この点に関して︑国連海事海洋法課
( U
n i
t e
d N
a t
i o
n s
D i
v i
s i
o n
f o r
Oc
ea
n A
f f a i
r s a
nd
t h e
La
w o
f t
h e S
e a
:
DO
AL
OS
)
( 4 7 )
は︑航行自由の原則に反する関連保護措置は認められないとする見解を示した︒圃の措置は三つのカテゴリーの中で
は最も解釈上の問題を生じさせると思われる規定である︒ただ︑現行の︑または現在は存在しないが
IMO
によって
その権限内で推奨される措置を超え︑むしろ根拠がないところに新たにとられる措置でなければ︑
( 4 8 )
意味がないとする見解もある︒
PSSA
の指定は( 7 )
IM
O As
s e
m b
l y
e s R
o l u t
i o n
A .
927
(2 2)
. P
S S Aの概念が登場したのは︑一九七八年のその当時の
IMCo
︵ 現
I M o )
の締約国
会議でのスウェーデン提案に遡る︒その後︑先行する二つの決議︑
7 2 A . 0
(17)と
A .
885 (21)を経て︑採択された︒
P S S Aの
発展の過程について以下を参照︒
G . P e
e t ,
" P
a r t i
c u l a
r l y
S e n s
i t i v
e S e
a A r
e a s A :
D o
c u
m e
n t
a r
y
H i s t
o r y ,
"
9
T h
e
I n t e
r n a t
i o n a
l J o
u r n a
l o f
M a
r i
n e
a n
d C
o a s t
a l
L a w
(1 99 4) .
五
( 9 )
( 1 0 )
五
J u l i a n R o b e r t s ,
"
C o m p u l s o r y P i l o t a g i n e I n t e r n a t i o n a l S t r a i t s : Th e T o r r e s S t r a i t P SS A P r o p o s a l ,
"
37
Oc ea n D e v e l o p m e n t La w
(2 00 6) , p . 94 .
指定された
P S S
Aは
二 0 七年一月末現在で以下の一︱ヵ所である︒グレートバリアリーフ(‑九九0
0年︱一月︑申請国オ
ーストラリア︶︑サバナカマゲイ諸島(‑九九七年九月︑申請国キューバ︶︑マルペロ島︵二
0 0︱
一年
三月
︑申
請国
コロ
ンビ
ア︶
︑
フロリダキース︵二
0 0二年三月︑申請国アメリカ︶︑ワッデン海(︱
10
二0
年一
0月︑申請国オランダ・デンマーク・ドイツ︶︑
パラカス国立保護区︵二
0 0三年七月︑申請国ペルー︶︑西欧区域(=
10
0四
年一
0月︑申請国ベルギー・フランス・アイルラン
ド・ポルトガル・スペイン・イギリス︶︑カナリア諸島︵二
0 0五年七月︑申請国スペイン︶︑バルト海︵二
0 0五年七月︑申請
国デンマーク・エストニア・フィンランド・ドイツ・ラトビア・リトアニア・ポーランド・スウェーデン︶︑ガラパゴス群島︵ニ
0 五年七月︑申請国エクアドル︶︑トレス海峡︵二0
0 0五年七月︑申請国オーストラリア・パプアニューギニア︶︒
J u l i a n R o b e r t s , M a r t i n T s a m e n y i ,
Ti m W or km an an d L i n d y J o h n s o n ,
"
W e s t e r n E u r o
p e a n P SS A P r o p o s a l :
a
P o l i t i c a l l y S e n s i t i v e S ea A r e a , "
29 M a r i n e P o l i c y
(2 00 5) ,
p .
43 3. この他に﹁沿岸国に当該海域で国際航行活動に関わる特別の危険に対処するため追加的な保
護措置を講ずる機会を与える﹂︑という利点も挙げられているが︑
P S S A自体は法的根拠を有さず︑指定が直接法的な帰結を生
じさせるわけではないことから︑このように言うことは問題であろう︒この問題点についても論文の中で触れられている︒
I b i d .
( 1 1 )
IM O A ss em bl y R e s o l u t i o n A .
982
(2 4) .
(12)PSSAの定義に関しても特性
( a t t r i b u t e )
という文言が入り︑若干の修正がなされた︒二
0 0五年ガイドラインは︑保護される
べきは海域そのものではなく︑海域の有する特別な性質の有する脆弱性であるという観点を強めた︒
I b i d . , A n n e x , 1 .
2.
( 1 3 )
J u l i a n R o b e r t s , s u p r n o a t e
6, p .
2 1 0 .
( 1 4 )
I b i d .
( 1 5 )
I b i d .
(1 6) IU CN
︵国際自然保護協会︶の定義によれば︑﹁その区域を覆う水体と︑それに付随する動植物相及び歴史的文化的な性質を
含む︑潮間帯あるいは潮下帯で︑その一部又はすべての環境が法律によりあるいは他の有効な手段により保護されたもの﹂であり︑
とすれば︑法的に異なる性質の海域でも海洋保護区という概念の中にすべて入ると考えられる︒なお︑海洋保護区については︑田
中則夫『平成一五年度外務省委託調査研究•海洋保護区の国際法的検討』(外務省海洋室、二
00四年)、加々美康彦「国連海洋法条約の実施と海洋保護区の発展ー排他的経済水域に設定される保護区に焦点を当ててー﹂﹃海洋政策研究﹄第一号︵二
0 0五
年 ︶
︑