博士(医学)阿部由紀子 学位論文題名
Changing pattern of deimlnatedproteinS ●
1ndeVe10pinghumanepldermiS
(ヒト表皮発生における脱イミノ化蛋白の発現パターンの変化)
学位論 文内容の要旨
背景:Peptidylarginine deiminase (PAD)は、蛋白のアルギニン残基をシトルリン残基に 変換するカルシウム依存性の酵素であり、多臓器にわたる分布が認められている。PADによ ルアルギニン残基がシトルリン残基ヘ変換されると、蛋白質は正の電荷を失うため、その構造 や機能に大きな変化をもたらす。しかしその働きはまだ明らかになっていないことが多い。
PADは現在のところI‑‑‑Vまで5つのsubtypeが知られているが、そのうちヒト表皮に発現が 認められ ているのはtypeIである。PADによる酵素反応は脱イミノ化と呼ばれ、表皮におい ては角化 における翻訳後修飾の最も重要な反応のーつである。すなわち、角化の最終段階 においてケラチン線維の結合や分解がPADの働きによって行われることにより、正常なケラ チンパターンが形成され、皮膚のバリア機能を担っている出隹察されている。この反応は非可 逆的であるため、その働きは厳密に調節される必要がある。ヒト表皮では、PADにより脱イミノ 化された蛋白は角層に限局しており、PADの主な基質はケラチン1であり、その他にフィラグ リンとケラチン10も基質となることが知られている。
研究の目的:ヒト胎児の発生過程においてPADによる脱イミノ化がいつ、どのように起こり、
その基質が何であるかを明らかにすることにより、表皮の発生過程におけるPADの役割につ いて推察する。
実験 の方 法: 胎 生49日〜163日 の胎児皮膚、成人の皮膚、培養表皮細胞、およぴ培養 表皮細胞シート用いて、脱イミノ化蛋白と、PADの基質となるケラチン1/10、フアラグリンの局 在を免疫 組織学的、およぴ免疫電頭を用いて調べた。PADの酵素反応産物である脱イミノ 化蛋白の 検出には、ケラチシ1のV subdomainに存在するシトルリ ン残基のみを検出する anti‑citrulline peptide antibody (ACP)と、アミノ酸配列に関係なくシトルリン残基を検出 す るanti‑chemically modified citrulline antibody (AMC)の2種類の抗体を用いた。
結果 :胎 生49日 、57日の、二層からなる表皮では、AMCが胎児皮膚であるperidermに 陽性であ ったが、ACPは陰性であった 。胎生88日、96日、108日の 重層化した表皮では、
ACP、AMCと もにperidermとintermediate cell layerに 陽性 であ った 。peridermが退 行 し、 角化 が始 ま る胎生163日に は、ACPとAMCは成人皮膚と同様に、角層のみに限局し
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て 認 め ら れ た 。PADの 基 質 で あ る ケ ラ チ ン1/10は 、胎 生108日 の皮 膚でintermediate cell layerに 局 在 し て い た 。 胎 生163日 に は 、 ケ ラ チ ン1/10は 基 底 層 よ り 表 層 の細 胞 全体 に陽 性 だっ た が、 脱イ ミノ 化蛋 白 は角 層の みに局在していた。フィラ グリンは胎生108日の時点で は 発現 し てお らず 、胎 生163日 には 脱 イミ ノ化 蛋白 と同 じ く、角 層に局在していた。胎生163 日での ケラチン1、フィラグリン、 脱イミノ化蛋白の局在は成人 皮膚での発現パターンと同様で あ っ た 。ACPを 用 い た 免 疫 電 顕 で は 、peridermお よ びintermediate ce11ayerの 細 胞 質 内 の中 間 径フ ィラ メン トネ ッ トワ ーク がimmunog01dで 標識 された 。培地を用いた培養表皮細 胞では 、低カルシウムの培地ではケ ラチン1、脱イミノ化蛋白と も発現が見られず、高カルシウ ム の培 地 では ケラ チン1は 発現 して い たが、脱イミノ化蛋白は発現 していなかった。線維芽細 胞 をfeederlayerと し て 用 い た 培 養 表 皮 シ ー ト で はACPが 角 眉 に あ た る 最 上層 で 陽性 であ った。
考 察 :PADは 表 皮 分 化 の 初 期 の 段 階 で す で に活 性を 持ち 、脱 イ ミノ 化蛋 白が 形 成さ れて いるこ とが明らかになった。ただし 、表皮が二層の時点では、ケラチン1またはフィラグリンはま だ 発現 し てお らず 、そ れ以 外 の蛋 白が 基質 とな っ てい ると 推測さ れた。まだ角化の始まって い な いperidermに 脱イ ミ ノ化 蛋白 が存 在す る 意義 は不 明で ある が 、角 化に 重要 な 蛋白 であ る イン ボ ルク リンやロリクリンもperidermに発現していることが報 告されており、peridermの 退 行と 、 角化 には 何ら かの 共 通点 があ ることが推測される。重層 化が始まルケラチン1が表皮 細 胞 に 発 現 す る 頃 に は ケ ラ チ ン1と 脱 イ ミ ノ 化 蛋 白 の 局 在 は 免 疫 組 織 学 的にintermemate ceulayerで一 致し てお り、 免 疫電 顕で もケ ラチ ン 線維 上に 脱イミ パ匕蛋白の存在が確認され た こと よ り、 この 時期 にお け るPADの 基質 はケ ラチ ン1/10または それに類似した構造をもつ 蛋 白で あ り、 角化 の準 備段 階 であ ると 考え られ る 。胎 生163日 頃に は、 表皮 は 形態 学的にも 成人と 同様の構造を示しているが、 脱イミノ化蛋白、ケラチン1′10、フィラグリンの発現パター ン も 成 人 と 同 じ で あ り 、 こ の 頃 に は ほ ば 成 人 と 同 様 の 角 化 が 行 わ れ て い る と 考 え た 。 結論 :PADに よる 脱 イミ ノ化 は、 ヒ ト胎児皮膚発生の過程で表皮 の各層において整然と彳〒
わ れて お り、 表皮の分化とともに変化 し次第に成人と同様の発現パ ターンとなっていた。成人 皮 膚 で の 角 化 に 対 応 す る 過 程 が 、 退 行 す る 過 程のperidermで 起こ って お り、PADによ る脱 イ ミ ノ 化 が 表 皮 の 分 化 の 過 程 に お け る 重 要 な 役 割 を 担 っ て い る で あ ろ う と 考 え た 。
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学位論文審査の要旨
学位論文題名
Changing pattern of deiminated proteins in developing human epidermis
(ヒト表皮発生における脱イミノ化蛋白の発現パターンの変化)
Peptidylarginine deim血aSe(Rゆ)は、蛋白のアノレギニン残基をシトル リン残基に変換するカノレシ ウ ム 依 存 陸 の 酵 素で ある 。PADに よル アル ギ ニン 残基 がシ ト ルリ ン残 基へ 変換 さ れる と蛋 白質 は正 の 電 荷 を 失 う た め、 その 構造 や 機能 に大 きな 変化 を もた らす 。PADに よる 酵素 反 応は 脱イ ミノ 化と 呼 ば れ 、 非 可 逆 的 な 反 応 で あ る 。 表 皮に お いて 脱イ ミノ 化 は角 化に おけ る翻 訳 後修 飾の 最も 重要 な 反 応 の ー っ で あ る と 考 え ら れ て い る。 す なわ ち、 角化 の 最終 段階 にお いて 、 ケラ チン 線維 の結 合 や 分 解 がPADの 働 き に よ っ て 行 わ れ る こ と に よ り 正 常 な ケ ラ チン パタ ーン が 形成 され 、皮 膚の バ リア 機 能を 担っ てい ると 推 察さ れる 。ヒ ト表 皮 では 、PADの 主な 基質 はケ ラ チン1であり、 その他 に フア ラ グリ ンとケラチン10も基質と なることが知られている。成 人皮膚ではPADにより脱イミ ノ化さ れた蛋 白は角層に限局して認められ る。
本 研 究 で は 、 発 生 各 段 階 の 胎 児 皮 膚 を 用 い て 、 胎 児 皮 膚 に お いてPADによ る 脱イ ミノ 化は 起こ っ て い る の か 、 そ し て い つ 、 ど の 部 分に 、 何を 基質 とし て 起こ って いる のか に つい て検 討し た。
PADの 酵 素 反 応 産 物 で あ る 脱 イ ミ ノ 化 蛋 白 の 検 出 に は 、 ケ ラ チ ン1のVsubdom血 に 存 在 す る シ ト ルリニ ノ残基のみを検出する弧i一cit川mp叩tide獄ibody(ACP)と、アミノ酸酉己歹|Jに関係なくシトル リ ン 残 基 を 検 出 す るantiIche血cむ1ymodmdcitruumeantibodyほMC) の2種 願 の 抗 体 を 用 い た 。 そ の 結 果 、 胎 生49日 、57日 の 、 二 層 か ら な る 表 皮 で は 、AMCがp師demに 陽 陸 、ACPは 陰 性 で あ っ た 。 胎 生88日 、96日 、108日 の 重 層 化 し た 表 皮 で は 、ACP、AMCと も にpendennと intermemteceub′erに 陽 陸 で あ っ た 。pendermが 退 行 し 、 角 化 が 始 ま る 胎 生163日 に はACP とAMCは 成 人 皮 膚 と 同 様 に 、 角 眉 の み に 限 局 し て 認 め ら れ た 。PADの 基 質 で あ る ケ ラ チ ン1/lO は 、pe耐enn退 縮 前 ↓ こ はmerrnediateceulayerに 限 局 し 、p師dem1過縮 後は 成 人と 同様 に基 底細 胞 よ り 上 の 細 胞 層に 発現 して い た。 フア ラグ リン はp師denn退縮 後に 初め て発 現 し、 成人 と同 様角 層 と そ の 直 下 の 細 胞 に 発 現 が 認 め ら れ た 。 免 疫 電 顕 で はneme出ateceulayerの ケ ラ チ ン 線 維 上 に脱イ ミノ化蛋白を認めた。
PADは 表 皮 分 化 の 初 期 の 段 階 で す で に 漕 隆 を 持 ち 、 脱 イ ミ ノ 化蛋 白が 形成 さ れて いる こと が明 ら か に な っ た 。 成 人 でPADの 基 質 で あ る ケ ラ チ ン1/10や フ ィ ラ グ リ ン が 発 現 し て い な いp師dennやmermediateceulayerIこ もPAD滑 隆 う ミ 認 め ら れ る 意 義 は 不 明 で あ る が 、 角 化 に 重
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要な蛋白であるイレボルクリンやロリクリンがperidermに発現していることが報告されており、また 成 人にお いてPAD活性は角 層が形 成される 際にの み活陸が 発現す ることから、peridermの退行 と、角化には何らかの共通点があることが推測される。胎生163日頃には角化が始まり、脱イミリ匕 蛋白、ケラチン1、フアラグリンの発現パターンも成人と同じであることから、脱イミノ化の観点から見 て、この頃にはほば成人と同様の角化が行われていると考えた。
昌IJの水上尚典教授めゝらは、胎児皮膚でintermediate cell layerにPAD活性が見られることの意 義、およびPADの異常により起こる疾患について、また、PADの活性の観ー筋ゝらみた胎児皮膚の 完 成 時 期に つ い ての 質 問 、 副査 の 清 水宏 教 授 から は ACPとAMCの 染色 法 の 違 いと その意義 に 関する 質問、主査の渡辺雅彦教授めゝらはPADが活陸を示すカルシウム濃度に関する質問など があったが、申請者は大概適切な回答をした。
こ の論文 は、ヒト胎児皮膚の発生過程におけるPAD活性を初めて明らかにした研究である点が高 く 評 価 さ れ 、 今 後 、 そ の 働 き に つ い て 明 ら か に し て ゆ く こ と が 期 待 さ れ る 。 審査員一同は、これらの成果を高く評価し、大学院課程における研鑚や取得単位なども併せ申 請 者 が 博 士 ( 医 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 充 分 な 資 格 を 有 す る も の と 判 定 し た 。
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