論文博士用(乙)
(論文博士)(様式 8)
渡 部 悟 氏から学位申請のため提出された論文の審査要旨
題 目
主論文:
Expression of Th1/Th2 cell-related chemokine receptors on CD4+ lymphocytes under physiological conditions
(生理学的条件下におけるCD4陽性リンパ球上のTh1/Th2細胞関連ケモ カイン受容体の発現)
International Journal of Laboratory Hematology. 42: 68-76, 2020 Satoru Watanabe, Yoshiyuki Yamada, Hirokazu Murakami
副論文:
群馬大学大学院保健学研究科博士後期課程単位修得退学者に対する論文審査基準の特例に関する 申し合わせにより、副論文はなし
論文の要旨及び判定理由
主論文
免疫系の制御に中心的役割を果たすT細胞にはCD4陽性(CD4+)のヘルパーT(Th)細胞と、
CD8+の細胞障害性T細胞があり、その中でTh細胞には主に細胞性免疫を担当するTh1細胞 と体液性免疫を担当するTh2細胞が存在する。このTh1/Th2バランスの崩れは様々な免疫疾患 の病態と関連することから、Th1/Th2細胞の状態を検出・解析することが免疫疾患の病態理解に 重要となる。Th1/Th2細胞はそれぞれが特徴的に産生するサイトカインがあることから、採取した 血球細胞にサイトカインを発現誘導後、蛍光抗体で染色すれば、フローサイトメトリーを用いて CD4+T細胞分画中で分類することが可能である。しかし、細胞内のサイトカインの染色・検出は煩 雑な操作が必要となることから、Th1/Th2細胞の表面に特異的に発現するケモカイン受容体やプ ロスタグランジンD2受容体(CRTH2)が、より簡便に検出できる代用マーカーとして使用される。
一方、CD4+T細胞分画には制御性T細胞(Treg)やIL-17サイトカインを産生するヘルパーT細 胞(Th17細胞)が存在するが、これらの細胞もTh1/Th2細胞の代用マーカーが発現し、Th1/Th2 の解析結果に影響するおそれがある。そこで本研究では、臨床におけるTh1/Th2バランスの解 析・評価に資する成果を得ることを目的に、報告されているTh1/Th2検出用の代用マーカーにつ いて、その妥当性を健常者サンプルで検討した。
健常者から採取したCD4+末梢リンパ球について、サイトカインなどの細胞内マーカーや代用マ ーカーとなるケモカイン受容体などの細胞表面抗原を蛍光標識抗体で染色し、フローサイトメータ ーで解析した結果、Th1細胞の代用マーカーであるCXCR3やCCR5が陽性のCD4+リンパ球の割 合は、IFN-γ+Th1細胞の割合と有意な相関を示した。CD4+リンパ球画分中ではTreg, Th17細胞 もCXCR3, CCRを発現していたが、Th1細胞はこれらの細胞に比べて5.4〜7倍高い割合で存在 することなどから、特にCCR5がTh1代用マーカーとして有効である可能性が示唆された。Th2細胞 については、CRTH2、CCR4, CCR7, CCR3, CCR8などの表面抗原について検討を行った結果、
論文博士用(乙)
CRTH2+CD4+リンパ球の割合が、実際のIL-4+/IL-13+Th2細胞の割合と最も強い正の相関を示し た。CCR3+及びCCR8+CD4+リンパ球の割合もTh2と正の相関がみられた。一方、CCR4+及びCCR 7+CD4+リンパ球の割合はTh2と相関は認められなかった。さらに、細胞内サイトカインや細胞マー カーの染色によりTh2,Treg, Th17を区別したうえで代用マーカー(CRTH2、CCR4, CCR7, CCR 3, CCR8)の発現を検討した結果、CRTH2はTh2マーカーとして有効である可能性が示唆された。
一方、CCR3及びCCR8はTh2細胞の状態を反映するものの、これらを発現するTh2細胞の割合は 低いことが分かった。CCR4及びCCR7については、これらを発現するTreg, Th17細胞の割合が高 いため、これら分子をマーカーに用いる場合は結果の評価に注意が必要であることが示唆された。
以上のように本研究は、免疫疾患と深く関わるヘルパーT細胞のTh1/Th2バランスの解明と応 用に寄与する成果であると認められ、博士(保健学)の学位に値するものと判定した。
(令和 2 年 3 月 10 日)
審査委員
主査 群馬大学教授(保健学研究科)
生体情報検査科学講座 大 西 浩 史 印
副査 群馬大学教授(保健学研究科)
生体情報検査科学講座 輿 石 一 郎 印 副査 群馬大学教授(保健学研究科)
生体情報検査科学講座 中 村 和 裕 印