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クマタカとイヌワシ

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(1)

クマタカとイヌワシ

石川県白山自然保護センター

(2)

は   

じ   

め   

白山に生息するワシタカ類の中では、なんといっても県鳥イヌ ワシがよく知られています。しかし他にも何種類か生息しており、

一年中いる鳥の中ではイヌワシに次いで力の強いのがクマタカで す。白山自然保護センターでは、昭和52年度からイヌワシを調べ 初め、その結果を白山の自然誌4「イヌワシの生態」などで紹介 してきました。当時、山でイヌワシを探していた時には、クマタ カはほとんど見ることはできず、白山にはあまり生息していない のではないかと考えられていました。

センターでは、昭和60年度から平成元年度まで、環境庁委託の  

「人間活動との共存を目指した野生鳥獣の保護管理に関する研 究」で、白山地域ではイヌワシとクマタカを取り上げて調査しま した。その中で、特に今までほとんど未知の状態であったクマタ カに重点をおいて調べたところ、各地で次々とクマタカの姿を発 見でき、生態について少しずつ分かってきました。まだまだ十分 とは言えませんが、明らかになったクマタカの生態を、イヌワシ と比較しながらみていくことにしましょう。

表  

裏表紙

クマタカの巣(K) アカマツの大木の枝 に架けられた巣の親 鳥と生まれて約20日 の雛

クマタカ幼鳥(U)

(3)

クマタカとイヌワシ

若鳥と成鳥

く じ

世界と日本での分布

白山地域の分布

営巣地 一年間の生活

行動圏と行動様式

テレメトリー調査とクマタカ幼 鳥の

行動圏

クマタカとイヌワシを見つけよう

識別点 17

場所 18

ワシタカ類の保護 ワシタカ類の現状

保護の必要性

ワシタカ類の体の特徴

3 4 分布と生息環境

生息環境 5

餌 12

行動圏の面積と構造 13

14

行動様式 15

季節 17

探し方 18

19

保護のために おわりに

19 20 21

(4)

クマタカとイヌワシ

ワシタカ類は、餌となる動物を捕るため、よく見える目と、鋭い爪のある脚

(あし)と、鋭い嘴(くちばし)を持っているのが体の 大

きな特徴です。目は 顔の前面にありますが、これは動きのある獲物をとるためには、距離感を

確 につかむ必要があるからです。また、ヒトに比べると視細胞が細かいことや、

特別な組織をもっているなど、ヒトなら見逃してしまうような遠くの小さい動 物を見つける優れた視力を持ってい

ます。

脚は頑丈で握る力が強く、指の裏 面には、こ

状の部分があり、獲物 をしっかりつかむのに役立っていま す。爪は太くて鋭く

特に内趾(親 指

と外趾(人差指

の爪、が強 力

で、

獲物をつかみ締め付けるようにでき ています。

嘴は、上嘴が下嘴より長く、上嘴 の先は下嘴の先を覆うように下方に 曲がっていて、獲物の肉にくいこむ とともに、切り取るはたらきがあり ます。

ワ シ

タカ 類

の中でもクマタカやイ ヌワ

の仲間は 大

きな獲物を捕るた め、とくに強力な脚と嘴を持ってい

ます。

クマタカの頭部(U)

クマタカの脚(U)

ワシタカ類の体の特徴

(5)

イヌワシの成鳥は、白山に生息するワシタカ類の 中

では最も黒っぽく、

全身

黒褐色で後頭部は黄金色を帯びています。若鳥の間は両翼の中央部と 尾

羽に大 きく白い部分があるのが特徴で、遠くからでもよく分かります。一方クマタカ はイヌワシに比べると白っぽく、上面は暗褐色、下面は多数のしま模様がある が全体的に白っぽく、特に若鳥は白い。イヌワシは翼が幅広くて長いのに対し て、クマタカは翼の後縁がふくらんでいて、イヌワシに比べると丸くて短い感 じがします。この体のつくりから、イヌワシは旋回飛行や遠距離の滑空に向い ており、クマタカは林の中の移動などイヌワシに比べると小さな動きもうまく できます。

 体

の大きさは、イヌワシが全長(まっすぐにしたときの、嘴から尾羽の先端 までの長さ)が約80〜90cm、翼開長(翼を広げたときの両翼の端から端までの 長さ)が200

cm

前後、クマタカはイヌワシより少し小さく、

全長

が約70〜80cm、

翼開長が150cm前後です。そしてどちらも、雌の方が雄より大きく、つがいで飛 んでいると、はっきり大小で区別できるくらいです。なお県内で保護されたク マタカと、死

体で

見つかったイヌワシの計測値は表のとおりです。

イヌワシ幼鳥

クマタカ成鳥 若鳥と成鳥

(6)

保護されたクマタカ幼鳥(U)

クマタカとイヌワシの計測値  

イヌワシは、ヨーロッパ、アジア、北アメリカなど北半球に広く分布し、森 林や岩山のある山岳地帯や半乾燥の高原地帯に生息しています。一方、クマタ

カの分布は限られており、ヒマラヤから中国南部、日本などに分布し、山地の よく繁った森林地帯に生息しています。

日本では、イヌワシは北海道から九州まで記録されていますが

、主

に本州に 広く分布し、東北から北陸にかけての山地が分布の中心です。それに比べてク マタカは、全国に広く分布しています。

4 世界と日本での分布

クマタカは生体、イヌ ワシは死後数日以内で 餓死状態であっ た。

種  名 クマタカ     イヌワシ 発見年月日

発見場所 性   別 全   長 翼 開 長 翼   長 尾   長 嘴 峰 長

?  蹠 長 体   重 計 測 日

1989.12.4    1985.1.13 石川郡鶴来町  金沢市奥新保町 雌(幼鳥)   雌(成鳥)

765 mm    

870 mm 165.5cm    

201 cm 520

mm    640 mm 352 mm    350 mm 45.4mm   

42.5mm 113.6mm  

  120

mm 2900 g    

2790 g 1989.12.5   

1985.1.14

(7)

分布と生息環境

白山地域の標高は、白山を最高に、北西方向に行くにしたがって低くなって います。分布図をみると、標高の高いところにイヌワシが、標高の低いところ にクマタカがいますが、全国的にみると南アルプス、や中央アルプス、など、標高 の高いところにもクマタカが普通に生息しており、単に標高の違いで2つの鳥 の分布が決まっているわけではないようです。

白山地域で、2つの 種

の記録された場所の地形や植生などを詳しく調べたと ころ、次のようなことが分かりました。イヌワシは地形の急峻なところ、草原 や低木林が多いところ、そして集落や道路など人為環境の少ないところに生息 しています。急峻な場所の岩場に巣を架けたり、開けた環境で餌を探したり、

人間活動を避ける傾向が強いためと考えられます。それに比べてクマタカは、

高木の林があれば

スギの植林地が多いところや集落のすぐ近くでも生息して います。森林との結び付きの強い

鳥の

ようです。そして、2つの種が出合った ときにクマタカがイヌワシから攻撃されるのが観察されているように、イヌワ シの方がクマタカより優勢です。イヌワシのいるところにはクマタカはすみに

5 生息環境

イヌワシは、県内には金沢市以南の山地に広く分布しており、約20か所に合 計40〜50羽が生息しています。これはアン

ケー

トなどで情報を集めたり、県内 各地の山へ入っての数年間にわたる調査の結果です。数か所に調査

を配置し た同時観察などで、つがいの区別をして明らかになった数です。調査してから、

すでに10年ほどたっていますが、数の大きな変化はないと思われます。クマタ カについては、全県にわたる調査はなく数は不明ですが、イヌワシと同じく金 沢市以南の山地に広く分布していることは分かっています。いずれも能登地域 での生息は知られていません。

6ページの図は、調査が比較的進んでいる白山地域(鶴来町・鳥越村・河内 村・吉野谷村・尾口村・白峰村)での、イヌワシとクマタカの分布をつがいご とに区別して示してあります。調査の十分でないところもあり、一部は推定で 表しました。イヌワシが13か所、クマタカが17か所で明らかとなりました。図 からも明らかなように、この地域では2種は、かなり偏った分布をしているこ とが分かります。

白山地域の分布

(8)

白山地域のクマタカとイヌワシの分布

(9)

くいと考えられます。このような2つの種の力関係と

イヌワシに適したいく つかの環境が、より標高の高いところに偏っていることで、生息場所を分けて いるものと考えられます。

なお、能登地域にはクマタカもイヌワシも今までに記録されていません。森 林はあるものの、ある程度の標高のある山地はなく、人為環境が多くて連続し た生息に適する自然環境がないことが原因でしょう。

イヌワシは、深い谷の中の非常に急峻な場所の、切り立った岩場や大木に巣 を架けます。県内では現在分かっている巣はすべて岩場にあります。雨や雪、

直射日光などを防げるような、上部がひさし状になっていたり、岩壁のく ぼ

み となっている場所の岩棚です。一方クマタカは、大木がある程度以上かたまっ て生えている森林の中の、特に大きな木に巣を架けます。白山地域で分かって いるのは、アカマツ(胸高直径88cm、樹高約18

)とクリ(胸高直径65c m

、樹 高約16

)です。一般的にはアカマツやモミなど針葉樹が多いようです。地形 的には、稜線部でも谷底でもない中腹で、中間部より下方に位置する急峻な場 所に巣が見つかる傾向が強いことが分かっています。

2つの 種

とも、

巣の

大きさは直径1〜1.5 m

で、巣材には周辺に生えている樹 木が使われます。育雛期間中も連続して運び込まれ、特に青葉の付いた枝をよ

イヌワシの生息環境

営巣地

(10)

く運びます。白山地域ではクマタカでヒノキ、ミズナラ、コナラ、ホオノキな ど、イヌワシでスギ、ヒノキ、ブナ、ミズナラなどが記録されています。

日本でも、雪の少ない地方ではイヌワシは大木に巣を架けているところもあ りますが、上記のような条件は、白山のような豪雪地では、冬に巣造りするイ ヌワシにとってはどうしても必要なことです。また特にイヌワシは人間活動を 避ける傾向が強く、そのような場所は

巣造りから雛が生まれるころの大事な時 期は、深い雪に被われて人が入っていけ ないので、イヌワシにとっては助かって います。一方クマタカは。すべて木に巣 を架けていますが、巣造りがイヌワシよ り1〜2か月遅く、雪の心配があまりな い時期なので可能なのでしょう。また大 木のかたまって生えている森林は、人間 活動から身を隠せる場所となっているか らでしょうか、白山地

では 集落

のすぐ 近くにも

巣がに

つかっています

イヌワシの巣

クマタカの巣

(11)

一年間の生活

数はイヌワシが2個、クマタカが1個 が普通です。抱卵は雌が中心に行い、

抱卵期間はイヌワシで42〜45日くら い、クマタカで45〜47日くらいです。

孵化はイヌワシで3〜4月、クマタ カで5月になります。ともに孵化後約 1か月間の、雛がまだ小さいときは雌 が巣に残り雛を抱いたり、運ばれてく る餌を引き裂いて与えたりしていま す。そのころになると、全身白かった 羽にも少しずつ黒くなり始め、以後急 速に変化していきます。雛の食欲もし

イヌワシのつがいのディスプレイ飛行

一年間の生活サイクル

9 イヌワシ

クマタカ  

イヌワシやクマタカの巣造りは冬に始まります。イヌワシでは、巣造りの前 にあたる10〜11月ころから、つがいの2羽で活発に行動するようになり、2羽 が接近して飛んだり、飛びながら急降下と急上昇を繰り返す波状飛行がよく見 られます。雌雄の結び付きを強めたり、隣接するつがいへのなわばり宣言を表 すディスプレイ(誇示)です。クマタカも同様な飛行が12〜1月ころから多く なります。

本格的な巣造りは、イヌワシでは12〜1月、クマタカでは1〜3 月です。巣材の多くは巣の近くの林から運び、吹雪の中でも連続して運んでい るのが見られています。産卵はイヌワシで2月、クマタカで3〜4月で、産卵

(12)

10

孵化後約30日の羽ばた き練習をしているクマ タカの雛

   

(K)

孵化後約60日のクマタ カの雛〈下〉と親鳥         

(K)

巣立ち直前のクマタカ の雛

      

(K)

(13)

だいに増し、雌雄で餌を運ぶようになります。育雛期間は約 2か月

半くらいで、

イヌワシでは5月下旬〜6月、クマタカでは7〜8月 上

旬に 巣立ち

します。な おイヌワシの場合、日本では普通は先に生まれてより力の強い雛しか育たず、

2羽とも巣立った例は稀にしかありません。イヌワシの幼鳥は 一

度 巣を

飛び 立

つと戻ってくることはほとんどありません が、

クマタカでは近くに 止

まってい たり巣に戻ることもあり、巣立ちの判断をしにくいようです。

イヌワシやクマタカが、天候の悪い真冬に巣造りを始めなけれ ば

ならない理 由は、このように巣造りから雛の巣立ちまでに約半年もかかることと、雛が

も餌を必要とする時期が、ちょうど山の中に餌となる動物が 多い

時期になって いるからだったのです。

巣立った幼鳥は、すぐには自分で餌を捕ることはできず、親が運んでくるの を待っています。そこでイヌワシでは1〜2か月、クマタカでは

半年

くらいは、

巣の周辺の狭い範 囲

しか動きません。やがて餌の捕り方を学び、巣造りの始ま るころには独立していかなければならないはずですが、中には次の営巣期にも 周辺に留まる個体がいるようです。

巣にヘビを運んできたクマタカ(K)

11

(14)

山の中でクマタカやイヌワシが餌を捕ったり、それを食べた り

しているとこ ろは、なかなか目撃できるものではありません。そこで餌の種類や数を明らか にするには、一般的には営巣中の巣内に運ばれてくる餌を記録する方法がとら れます。この方法を中心にしてイヌワシとクマタカの餌を調べた結果が表です。

イヌワシの主要な餌はノウサギ、ヤマドリとアオダイショウなどのヘビ類で あることが分かります。全国的には、餌の種類は同様ですが、数としてはノウ サギの比率が半数以上と高くなっています。クマタカの餌は調査が十分ではあ りませんが、ノウサギ、ヤマドリ、アオダイショウなどイヌワシと同じ傾向で あるのが分かります。

12 イヌワシの餌の種類

    

(石川県内7つがい)

クマタカの餌の種類    

(白山地域の1つがい)

(15)

行動圏と行動様式

クマタカもイヌワシも、基本的には留鳥として、つがいで一年中同じところ にすんでいます。そして、ある程度決まった範囲内で行動しています。その範 囲を行動圏といいますが、これを調べるため、観察点をいくつか設けて人を配 置し、複数のつがいの飛行の同時観察を繰り返して記録を集めました。そして、

あるつがいの飛行記録を1枚の地形図に記し、その最外郭を結んで行動圏とし ました。

白山地域の行動圏の面積は、クマタカでは約 11

〜12 k㎡、

イヌワシでは約20〜30 k㎡と

なりました。調査した場所周辺は

ともに別のつがいが連続して生息して いる密度の高いところです。この値は、各地で調べられたイヌワシの全国平均 値である約60

k㎡や

、クマタカでわかっている10〜48k

などに比べると狭い値で す。行動圏の広さは、営巣に適する場所の分布状況、餌となる動物の量やその 捕りやすさ、その地域での混み具合いなどによって違ってくると考えられます。

13 行動圏の面積と構造

(16)

白山地域は他地域より、イヌワシやクマタカの生息に適した環境であるのかも しれません。

次に、隣接してつがいがいる場合

その境界が山の稜線となっている こ

とが 多く、稜線で囲まれた谷が一つがいの行動圏となっているようです。このこと はイヌワシで顕著で、クマタカでも傾向は同じでした。谷が大きければ、その 上流と下流で別のつがいが生息し、谷が小さいときはいくつか合わさって 一

つ の行動圏となっています。

2種を比べると、イヌワシの方が自分のなわばりを防衛する意識が強く、境 界がかなりはっきりしています。クマタカの行動圏は、かなり重なり合ってい るようでした。

森林の中で生活し、止まっていることの多いクマタカは、発見したり飛行を 連続して追跡することは並み大抵のことではありません。動物の行動を調べる 方法の

つに、テレメトリー調査があります。電波を出す発信機を動物に付け、

トランシーバーで受信して、アンテナでその電波のくる方向を知ることで、見 えない動物の居場所を突き止めながら行動を追っていくのです。

民家の窓ガラスに衝突して保護されたクマタカの幼鳥(4ページ参照)に発 信機を付けて放し、その行動を追跡しました。発信機が落下したため、8 日

間 の行動しか記録できませんでしたが、目視ではほとんど

追え

なかった行動が分 かりました。それによると、幼鳥は放した場所から約800

以内の林の中で

、小

規模な移動をするのみで、8日間の記録 を合わせた行動圏の面積は1

.

07 k㎡と

なり ました。他の県での調査でも、同様に巣 の周辺からほとんど動いていないことが 分かっており。クマタカの幼鳥は巣 立

っ てから半年くらいは、ごく狭い行動圏し か持たないようです。

14 テレ

メトリー調査風景 テレメトリー調査とクマタカ幼鳥の行動圏

(17)

クマタカ幼 鳥の

行動圏と親鳥の飛行トレース  

(△放鳥位置、●発信機による確認位置)

行動を追跡することが困難なクマタカやイヌワシですが、調査の積み重ねや、

観察条件に恵まれたつがいがいたおかげで、これらの鳥がどのような行動をし ているかが、少しずつ明らかになりました。

クマタカもイヌワシも快晴や晴の時によく飛び、曇で特に風がない時はほと んど飛びません。しかし雪が降る中でも、風があったり、晴れ間の断続するよ

うな時は、飛んでいます。体の大きな鳥ですから、上昇気流を利用したり、風 を利用しなければ長い距離を飛べないのです。

調査していた時間の約半分は姿を確認できていた、あるクマタカのつがいの 行動の分析から、ほとんどの時間は止まっていることが分かりました。図は、

そのつがいの行動圏と止まり場所の分布を示したものですが、林の中の木のみ ならず鉄塔にも非常によく止まっています。本来は木を止まり場所にしていま すが、たまたま鉄塔もクマタカに都合のよい位置だったものと考えられます。

鉄塔はよく見える場所なので、止まっている時の行動がよく分かります。下 の方をきょろきょろと見ることが多く、飛び立って急降下したりしていること から、餌を探しているようです。また隣に行動圏のあるクマタカや

ラスなど を追い払っていることから見張り場ともしています。その他、羽づくろいや交 尾などが観察されます。飛び立ってからは、林の

をぬうように進み、次々と

15 行動様式

(18)

木を止まりかえながら移動して餌をさがしています。

イヌワシは、白山地域では高茎草原や崩壊地など、木のあまり生えていない ところで餌を捕っているのが観察されています。草原のすぐ上空をゆっくり飛 びながら餌を探し、旋回上昇して次の草原のあるところへ移っていくことを繰 り返しています。木に止まっていることの多いクマタカよりも、飛んでいるこ とが多いようです。

クマタカのつがいの行動圏と止まり場所分布

クマタカ(細線)とイヌワシ(太 線)

の行動様式模式図    

(緑色部分は森林、黄緑色部分は草原)

16 黒丸は木、白丸は鉄塔への止まり

茶色 部分は山地の森林、緑色部分は平地

15日間、約90時間の観察による

(19)

クマタカとイヌワシを見つけよう

 白山

の山の中で空を飛ぶ大きなワシタカ類としては、冬期に稀に見つかるオ ジロワシの他はクマタカとイヌワ

、それにトビくらいで す

。トビは、

麓か

ら 白山の山頂まで、ごく普通に現れます。そこで山に入る前にまず、どこにでも いるトビの飛んでいる姿をよく観察して、その特徴をお

えることです。クマ タカやイヌワ

が遠くを飛んでいる時に、最もよく間違えるのがトビで す

。トビ の特徴は、

羽の形と翼の前縁の白斑で寸

それにクマタカやイヌワシに比べる と、飛び方に安定感がなく、よくふらつくことなどです。トビでない

とが分か れば、あとは3ページで述べたような違いで、2

を区別すればよいでしょう。

次に、いくら 一

年中同じ地域に生息しているといっても、よく見つけられる 季節とそうでない季節があります。季節によって行動が違うことと、背 景

とな る山の色が変わることで、見つけやすかったり、

つけにくかったりするから です。白山ではイヌワ

の場合は11月から1月ころが

活発に飛行する 上

に 落

イヌワシ、クマタカ、トビの識別点

17 季

節 識別点

(20)

葉して雪で白くなった林を背景にするので、最もよく見つかるでしょう。クマ タカは12月から3月にかけての時期です。2種ともこの時期を過ぎると、雌が 巣にこもるようになり、雄の動きも巣を中心とした、それまでより狭い範囲と なり、発見しにくくなります。この時期は天気があまりよくありませんが、そ んなときのたまの好天時が最も見る確率が高いでしょう。

場所としては、クマタカは手取川の鶴来町以南の中流域、イヌワシは支流の上 流域です。特にイヌワシは、ブナオ山観察舎や中宮

展示

館がお勧めです。ブナオ 山観察舎周辺は、つがいの境界にあたる場所となっています。今までに何度も、

同時に別のつがいが出現しています。観察舎から見た周辺の山の、よく出現する 場所と飛行コースを、いくつかの例を示して図にしましたので参考にしてくだ

さい。

クマタカもイヌワシも山の鳥なので、高いところへ上れば近くで見られると 思いがちですが、高いところから見ると、姿が山の斜面にとけ込んでしまい、

見つけるのは非常に困難となります。一番見つけやすい方法は、空をバックに したときです。そこで谷の中で、上空ができるだけ広く見渡せる場所に観察点 を設け、山ぎわを探すことです。生息している場所なら、半日もいればそのう ち空に姿を現すはずです。クマタカもこの方法でよいのですが、行動様式のと ころで述べたように、どこかに止まっていることが多いため、もし鉄塔や目立 つ大木(特に枯木)などがあれば、一通り探してみるの

がよ

いでしょう。

18

ブオナ山観察舎周辺でのイヌワシのよく観察できる場所      

(○は止まり場所、△はノウサギと死んだカモシカを食べていた所)

場  

探し方

(21)

ワシタカ類の保護

イヌワシの保護を目的に、ボランティアでさまざまな活動をしている日本イ ヌワシ研究会という団体があります。会員の多くは、ワシタカ類を見つける素 晴らしい目の持ち主で、休日のほとんどをイヌワシの観察にかけている人が何 人もいます。そこでは毎年の全国各地のイヌワシの繁殖状況を取りまとめてい ますが、最近は繁殖の成功率が低下しているということです。イヌワシにとっ て、すみにくい環境になりつつあることに間違いはないでしょう。

もともとは、山の中で不自由なく生活していたはずですが、皆伐と針葉樹の 一斉植林や車道、ダム、スキー場などの建設で、餌となる動物が減少したり、

静かだった奥地まで一年中、人がたくさん入るようになったことなどが原因と 思われます。林の中で営巣するクマタカと比べると、今日のように簡 単

こ奥地 まで行けるようになると、イヌワシの営巣地は人目にさらされ易い場所なので、

より影響が強いと考えられます。

近年はイヌワシだけでなく、例えば丘陵帯で盛んに行われているゴルフ場を はじめとする開発地で、次々とオオタカなどの営巣地が見つかり、その保護に ついて盛んに論議されています。全国的な自然保護の考えの広まりとともに、

特にワシタカ類について、行政側 が保

護に向けての調査を組むようにもなりま した。イヌワシだけを例にしても、大分県、福井県、秋田県、群馬県、福島県 などで問題になり、調査が行われています。そして森林伐採の中止や、林道の ルートの変更、開発の一時凍結などが実施されています。

自然の中では、生き物どうしが、食べたり食べられたりの関係(食物連鎖)

で、全体が網の目のように交わっています。土壌の上に育つ植物(生産者)が あり、その植物を草食動物(第1次消費者)が食べ、その草食動物を肉食動物  

(第2次消費者)が食べ、それをさらに高次に位置する動物が食べます。そし て。それらの排出した糞や死体は、土壌の中の生き物(分解者)が食べて土の 中の養分としてたくわえられます。それぞれの生き物に役割があり、どれかが いなくなってしまうと必ず困る生き物が出てきます。けっしていなくてよい生 き物はないのです。

19 ワシタカ類の現状

保護の必要性

(22)

このような関係の中で、ワシタカ類の多くは、彼らが生息している場所の自 然の頂点に位置しています。その自然の質や量によって、すめる種類が決まっ てきます。クマタカやイヌワシのような体の大きなワシタカ類は、それに見合 う豊かな自然があってはじめて生きていけます。ブナ林をはじめとする豊かな 森に、多くの鳥や獣が生息しているから、すめるのです。またクマタカやイヌ ワシがいるから、それら生き物が増えすぎることなく、バランスのとれた自然 が保たれているのです。その中で私たち人間は、さまざまな恩恵を受けて暮ら していけるのです。

近年はワシタカ類を観察する人が出てきたり、その保護について関心が持た れるようになってきたおかげで、ようやく少しずつ生息が明らかになってきま した。しかし、ワシタカ類の調査がされているところは、全国的にはまだまだ ごく一部に限られています。きっと存在が知られないまま、すみかを追われた ワシタカ類も多かったはずです。

ワシタカ類を保護していくには、困難で時間のかかることですが、まず前もっ て分布と営巣地の発見など基礎調査を広く行っておく必要があります。

生息が確認できると、餌の動物の生活場所となる森林(広葉樹林や混交林)

をできるだけ残したうえで、営巣地の保護が最も重要となります。巣を架ける に適した大木や岩棚などは、きっと多くありません。一か所でもなくなると、

生息できなくなることもあります。人間活動を避ける傾向が強い鳥ですから、

巣だけでなく、周辺環境もできるだけ広くよい状態を保つ必要があります。

クマタカには、例えば植林には向いていないと思われる急峻なところの林、

特に営巣地となりやすい山の中腹の急斜面の大木のある林は残すべきでしょ う。またイヌワシでは12月〜5月、クマタカでは1月〜6月くらいにかけての 繁殖の重要な時期は

人が近づいたり、工事などで騒がしくならないことが大 切です。

この他に、場合によっては巣を人工的に補修したりする、積極的な対策も必 要でしょう。また写真を撮ったり、近くで見ようとむやみに巣に近づくことの ないようにしなければなりません。ここに紹介された巣の写真は、すべてテン トに隠れるなど、できるだけ影響がないよう気を使って撮影されたものです。

20 保護のために

(23)

お わ  

り  

白山地域には、今のところクマタカもイヌワシも比較的多く生息しています。

自然環境がよいのはもちろんのことですが、急峻な地形と冬期の多雪で、彼ら にとって一番大事な繁殖期に、人を近づけなかったことが、彼らを守ってきた 大きな要因と思われます。ともに以前は、なかなか見ることのできない鳥と思 われていましたが。案外身近なところにいることが分かりました。特にクマタ カは

山麓の各集落近辺には必ずといってよいくらい生息していることが分か りました。ブナオ山観察舎や、山麓の集落あるいはドライブに行った山の中で 上空を探してみてください、きっとどこかを飛んでいるはずです。

クマタカもイヌワシも、全国的には数は少なく、ともに平成5年4月から施 行される「絶滅の恐れのある野生動植物の種の保存法」で国内希少野生動植物 種に指定されているように、絶滅が心配されている鳥です。昔から生き続けて きた。これら貴重なワシタカ類が、これからも私たち人間と共存していけるよ う、見守っていきたいものです。

なお表紙および本文の写真を使用させていただくとともに、貴重な助言をい ただいた、福井県若狭地

で長年鳥類を調査されている久保上宗次郎氏にお札 申し

げます

文・構成 写   

上馬  

康生 久保上  

宗次郎(K

)・

浦田  

淳(U

)・

上馬  

康生

白山の自然誌  

13 クマタカとイヌワシ

発行日 発  

印刷

21

平成5年3月25 日

石川県白山自然保護センター 石川県石川郡吉野谷村木滑

Tel. 07619‑5‑5321

㈱ 橋本

確文堂

(24)

参照

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