第 4 章 測定器シミュレーション と PFAとPFA
4.2 カロリメータの再構成と PFA
4.2.2 PandoraPFA
第1.2節で述べたように、ILCにおける物理解析ではジェットのエネル
Energy of One Jet [GeV]
0 50 100 150 200 250 300
) [%]
j) / Mean(E
jRMS90(E
3 3.5 4 4.5
ScECAL(2.1x20/4.2x9) 45x05 w/o SSA ScECAL(2.1x20/4.2x9) 45x05 w/ SSA ScECAL(2.1x20/4.2x9) 05x05
図 4.5: SSA使用時と未使用時の比較。SSAを用いると(w/o SSA→ w/
SSA)性能が向上していることが分かる。
WボソンとZボソンを2.3∼2.6σ の統計的有意性で測定できることであ る[7]。これをジェットのエネルギー分解能に置き換えるとσ/Ej < 3.5%
(@91GeV)となり、これがジェットエネルギー分解能の目標値となる。
ジェットを構成する荷電粒子はそのほとんどがハドロンであり、またジェッ ト中の各粒子が持っている運動量は小さいため、各粒子に対するカロリ メータのエネルギー分解能は悪い。そのため従来通りにジェットのエネ ルギーをカロリメータだけで測定した場合、カロリメータのエネルギー 分解能以上の精度では測定する事はできない。この精度を超えるために Particle Flow Algorithm(PFA)が用いられ、ILCではM.Thomsonが開 発したPandoraPFAと呼ばれるPFAが用いられている。この解析手法で は、カロリメータよりも荷電粒子の運動量測定に関して精度の良い飛跡 検出器を用いる事で測定精度を上げる(図 4.8)。ただし、中性粒子は飛 跡検出器で測定できないのでカロリメータで測定したエネルギーを用い
図 4.6: 再構成におけるソフトの改善。PFAで用いるキャリブレーション パラメータをシリコン層とシンチレータ層それぞれに割り当てら れるように改善した。
め、荷電粒子のエネルギーを重複して計算しないようカロリメータ中で 荷電粒子を正確に分ける事が要求される。図4.9はPFAのイメージ図で ある。このように飛跡検出器での飛跡とカロリメータでのシャワーを1 対1対応させることでカロリメータ中の荷電粒子によるシャワーをエネ ルギー計算から取り除く。最終的に荷電粒子を飛跡検出器で、光子を電磁 カロリメータで、中性ハドロンをハドロンカロリメータで、というよう にそれぞれの粒子に適した検出器でエネルギーを測定する。また表4.1は 各検出器で測定するジェットのエネルギーの割合を示している[7]。ジェッ トのエネルギーにおいて荷電粒子(主に荷電ハドロン)が占める割合は
62%、光子は27%、中性ハドロンは10%となっている。従来の手法では
荷電ハドロンについてもハドロンカロリメータで測定していたため、全
体の72%を比較的エネルギー分解能の悪いHCALで測定していた。しか
しPFAを用いて飛跡検出器で荷電粒子のエネルギー測定を行う事により、
HCALで測定するエネルギーを10%にまで減少させることができる。
PFAの主な手順は以下の通りである。
1. 飛跡検出器での飛跡を再構成する。
カロリメータでのジェット中の粒子1つ1つに対応するクラスタを
図 4.7: MC情報とSSAを併用する際の再構成の流れ。Mokkaが記録して いる位置情報を用いる事ができるよう、MC情報を用いる粒子に 対しては選別してSSAを適用しないよう変更している。
検出器 従来の手法 PFAの場合 飛跡検出器 0% 62%
ECAL 27% 27%
HCAL 72% 10%
表 4.1: カロリメータのみの従来の手法とPFAの場合のジェットのエネル ギー測定割合比較。
3. 再構成したクラスタのエネルギーを求める。
4. 荷電粒子の飛跡とクラスタを1対1対応させ、荷電粒子のクラスタ を同定する。
5. 荷電粒子の飛跡から得られるエネルギーがクラスタのエネルギーと 一致しない場合はクラスタの構成を再計算して対応させる。
6. 荷電粒子の飛跡とクラスタのエネルギーが一致したものは、カロリ メータのエネルギー計算から取り除く。
図 4.8: 粒子のエネルギーに対する飛跡検出器、ECAL、HCALの運動量 分解能[11]。100GeV以下のエネルギー領域では飛跡検出器の方 が精度が高い。
7. 飛跡検出器で測定した荷電粒子の運動量とカロリメータで測定した 中性粒子のエネルギーからジェットのエネルギーを再構成する。
図 4.10に示すように、PFAを用いる事によりカロリメータのみの手法 と比べてジェットのエネルギー分解能が飛躍的に向上している。このこと からPFAはILCでの物理解析において非常に有効である事が分かる。
図 4.9: PFAのイメージ図。飛跡検出器とカロリメータの情報を組み合わ せて粒子のエネルギーを再構成する。
図 4.10: カロリメータのみの手法の場合とPFAの場合とのジェットのエ ネルギー分解能[7]。横軸は1つのジェットのエネルギー、縦軸は ジェットのエネルギー分解能である。縦軸中に記してあるrms90
については第5.2節で説明する。太線がPFAを用いた場合、一 点鎖線がカロリメータのみの手法の場合。100GeV以上のエネル ギー領域で約2%向上している事が分かる。