学位論文審査結果の報告書
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(2) 論 文. 内 容. の 要. 旨. 悪性新生物(腫瘍,がん)は、2020 年の我が国における死因順位第 1 位の疾患である。 近年、がんの治療法や患者の Quality of Life(QOL)向上を目的とする対策は急速な発展 を遂げているが、まだ十分とは言い難く、残された課題も多い。がん性疼痛は、これら患 者の QOL を低下させる主な症状であり、治療には強オピオイド製剤が使用される。なか でも、フェンタニル(FEN)含有経皮吸収製剤は臨床でのがん疼痛コントロールに多用さ れる製剤であるが、貼付部位の皮膚環境により吸収量が変化する可能性が知られており 問題視されている。しかし現在、薬物放出性・残存量・皮膚組織内移行性の観点から FEN 経皮吸収製剤(FEN パッチ)適用時に温度や皮膚環境がどの様に影響を及ぼしているか についての詳細な検討報告はなく、本機構を明らかとすることは患者 QOL 改善に有用と 考えられる。一方、がんの予後は、がん種によって大きく異なっており、早期発見の可否 と効果的な薬物療法の有無が予後に大きな影響を及ぼす。前立腺癌(PC)は世界的に発 症頻度の高いがん種であり、現在、我が国の男性がんで罹患数第 1 位となっている。PC の初期薬物療法ではホルモン療法が極めて有用であり、その有効性の維持が患者の予後 を大きく左右する。そこで本論文では、がん患者の疼痛管理の改善及び前立腺癌の予後に 影響を及ぼす因子の同定を目的とし、第 1 章および第 2 章では温度変化(第 1 章)や脂 質分泌量(第 2 章)が FEN パッチの薬物放出性及び皮膚浸透性に与える影響を検討した 結果を、また、第 3 章ではホルモン療法施行 PC 患者における去勢抵抗性前立腺癌(CRPC) への進行に影響を及ぼす因子を後ろ向きコホート研究により解析した結果を示す。 第 1 章では 0.45 µm メンブラン(in vitro 薬物放出系)またはラット皮膚(ex vivo 薬物 皮膚透過系)を適用したフランツ型拡散セルを用い、通常時(37 oC)及び温熱条件下(42 o C)における FEN 経皮吸収製剤の薬物皮膚透過機構について検討を行った。まず FEN パ ッチ基剤からの薬物放出量を測定したところ、両温度間において有意な差は認められず、 実験開始 9 時間後には基剤から完全に薬物が放出した。また、両温度間において、FEN パ ッチ適用後のラット皮膚中薬物量も同程度であった。これら基剤からの薬物放出性や皮 膚中薬物滞留性とは異なり、薬物皮膚透過性は 42 oC で有意に高かった。これら知見は、 42 oC という軽度な温熱では FEN パッチからの薬物放出に影響を与えないが、FEN の皮 膚内への薬物浸潤性及び透過性が高まることを示した。 さらに第2章では、ラードをベースとした皮脂様分泌物(SLS)を調製し、皮膚表面環 境の変化のひとつとして皮脂分泌量がFENパッチの経皮吸収へ及ぼす影響について検討 した。その結果、1日の人間の皮脂分泌量に相当する5 % SLS処理時において、FENパッチ からの薬物放出性が大幅に低下することが明らかとなった。また、ラットから単離した皮 膚をフランツ型透過セルに設置した実験系にて、SLS処理量とFEN皮膚透過性の関係を検 討したところ(ex vivo実験)、5 % SLS処理することで、その薬物皮膚透過性は減少した。 一方、ラット皮膚組織に蓄積されたFEN量はSLS未処理群と比較して高値を示し、SLS処 理により皮膚内での薬物親和性は高まっていることが示唆された。続いて、FENパッチを 実際にラットに貼付し、血中FEN濃度変化について検討したところ、先のex vivo実験の結 果とは異なり、5 % SLS処理により血中FEN濃度の増加が認められた。Ex vivo実験は薬物 がドナー側から血管が存在する真皮を含む皮膚組織を透過し、リザーバー側へ移行する 系であり、薬物と皮膚組織の親和性が高まった際、皮膚内からリザーバー側への放出は抑 制される。一方、in vivo実験系で薬物と皮膚組織の親和性が高まった場合には、皮膚組織 からそのまま血管内へ移行する。したがって、高濃度SLS処理時では製剤からのFEN放出 は減少するものの、皮膚内における薬物親和性が向上することにより、血管部位へのFEN 移行量が高まり、結果として高い吸収性が生じるのではないかと考えられた。以上、FEN の経皮吸収は、SLSによる薬物放出の抑制と皮膚内での薬物拡散性増大のバランスにより 決定されることを示唆した。.
(3) 第 3 章では、PC 患者の予後に関わる危険因子を特定することを目的として、ホルモン 療法施行中の PC 患者において、CRPC への進行に初期診断時の高リスク PC 特性と生活 習慣病に関連する併存疾患の関連性について遡及的に調査した。648 人の PC 患者のう ち、ホルモン療法を受け、選択基準を満たした 230 人がこの研究に登録され、CRPC は 48 人の患者 (20.9 %) で発生した。 Cox 比例ハザードモデルを使用した単変量分析で は、ホルモン療法後に新たに発症した糖尿病(postDM)と PSA 18 ng/mL を含む初期診断 時の 高リスク PC の特徴が、CRPC への早期進行と有意に関連していた。同様の傾向は、 ホルモン療法後の新たに発症した高血圧と CRPC への早期進行との関係においても観察 された。一方、脂質異常症や高尿酸血症は、発症のタイミングに関係なく、CRPC への進 行と関連しなかった。 多変量解析では、postDM および PSA 18 ng/mL が CRPC への 早期進行に寄与する独立した危険因子として抽出された。カプランマイヤー曲線とログ ランク解析では、postDM を発症した患者または PSA 18 ng/mL を含む初回診断時の高 リスク PC 特性が強い PC 患者において、CRPC への進行が有意に早いことを明らかに した。また、DM、HT、PSA、GS、高リスク(NCCN)、遠隔転移、およびステージ IV と CRPC 進行との関連について Cox 比例ハザートモデルに基づく多変量解析を実施した結 果、postDM において CRPC 進行までの時間と独立した関連性が認められた(HR:3.95, 95%CI: 1.50 10.38, p=0.005)。本章の解析結果より、PC の初期診断特性が CRPC 進行に 大きな影響を及ぼすこと、さらに、ホルモン療法開始後に発症した生活習慣病、特に DM が CRPC への早期進行に関連していることが示唆された。 以上、本研究により、温度や皮脂分泌といった皮膚環境が変化した際に、フェンタニル 経皮吸収製剤の薬物放出及び吸収がどのように変化するのかについての詳細な知見を得 ることができた。また、臨床データ解析により、ホルモン療法施行後の前立腺癌患者にお いて生活習慣病、特に DM の発症が去勢抵抗性早期進行の関係することを明らかにした。 この様に、本研究を通じて、がん患者の薬物療法の有効性改善や QOL 向上に大きく寄与 する重要な知見が得られた。.
(4) 論 文. 審 査. 結 果. の. 要 旨. 本博士学位論文は、がん患者の疼痛管理と前立腺がん(PC)の予後改善を目的として、 フェンタニル(FEN)パッチ製剤の薬物放出性及び皮膚浸透性に与える影響を検討し、さ らに、ホルモン療法施行 PC 患者における去勢抵抗性 PC(CRPC)への進行に影響を及ぼ す因子を後ろ向きコホート研究により解析した結果をまとめたものである。 第 1 章では、フランツ型拡散セルを使用し、人工メンブランを用いる in vitro 薬物放出 系とラット皮膚を用いる ex vivo 薬物皮膚透過系によって、通常時(37 oC)及び温熱条件 下(42 oC)における FEN 経皮吸収製剤の薬物皮膚透過機構について検討を行っている。 その結果、FEN パッチ基剤からの薬物放出性と皮膚中薬物滞留性は温度の影響は受けな いが、薬物皮膚透過性は 37 oC より 42 oC の方が有意に高いことを見出だしている。 第2章では、ラードをベースとした皮脂様分泌物(SLS)を調製し、皮脂分泌量がFENパ ッチの経皮吸収へ及ぼす影響を検討している。その結果、1日の人間の皮脂分泌量に相当 する5 % SLS処理によってFENパッチからの薬物放出性が大幅に低下することを見出し、 また、ラットから単離した皮膚をフランツ型透過セルに設置した実験系(ex vivo実験)に おいて、5 % SLS処理することで薬物皮膚透過性が減少することを証明した。一方、ラッ ト皮膚組織に蓄積されたFEN量はSLS未処理群と比較して高値を示したことから、SLS処 理により皮膚内での薬物親和性は高まっていることを示唆している。次に、FENパッチを 実際にラットに貼付して血中FEN濃度変化を検討し、5 % SLS処理により血中FEN濃度が 増加することを認めている。これらのことより、ex vivo実験は薬物がドナー側から血管が 存在する真皮を含む皮膚組織を透過し、リザーバー側へ移行する系であり、薬物と皮膚組 織の親和性が高まった際、皮膚内からリザーバー側への放出は抑制されるのに対し、in vivo実験系で薬物と皮膚組織の親和性が高まった場合には、皮膚組織からそのまま血管内 へ移行するのではないかと考察している。すなわち、高濃度SLS処理により製剤からの FEN放出は減少するものの、皮膚内における薬物親和性が向上することで、血管部位への FEN移行量が高まり、高い吸収性が生じるのではないかと推察している。 第 3 章では、PC 患者の予後に関わる危険因子を特定することを目的として、ホルモン 療法施行中の PC 患者において、初期診断時の高リスク PC 特性と生活習慣病が CRPC へ の進行に影響を及ぼすか否かを遡及的に調査・解析した結果が示されている。ホルモン療 法を受けた 230 人の被験 PC 患者のうち、48 人の患者 (20.9 %) が CRPC に進行してお り、単変量解析の結果、ホルモン療法後に新たに発症した糖尿病(postDM)と PSA 18 ng/mL を含む初期診断時の 高リスク PC の特徴が、CRPC への早期進行と有意に関連す ることを見出だしている。また、多変量解析では、postDM および PSA 18 ng/mL が CRPC への早期進行に寄与する独立した危険因子であることを証明し、カプランマイヤ ー曲線とログランク解析によって、postDM を発症した患者または PSA 18 ng/mL を含 む初回診断時の高リスク PC 特性が強い PC 患者では CRPC への進行が有意に早いこと を明らかにしている。これらのことより、PC の初期診断特性が CRPC 進行に大きな影響 を及ぼすこと、さらに、ホルモン療法開始後に発症した生活習慣病、特に DM が CRPC へ の早期進行に関連することを指摘している。 以上、本研究により、温度や皮脂分泌といった皮膚環境が FEN 経皮吸収製剤の薬物放 出及び吸収に及ぼす影響が明らかとなり、また、PC 患者においてホルモン療法施行後に 発症した生活習慣病、特に DM が CRPC への早期進行を促進する因子であることが強く 示唆されている。このように、本論文は、がん患者の薬物療法の有効性改善や QOL 向上 に大きく寄与する重要な知見が含まれており、博士の学位を授与する価値のあるものと 評価する。.
(5) (課程・論文). 博士学位論文最終試験結果の報告書 2022 年 2 月 8 日. 審. 査. 委. 員. 学位申請者氏名 論. 文. 題. 目. 主 査. 川畑 篤史. 副主査. 川﨑 直人. 副主査. 大鳥 徹. 林 友典 がん患者の疼痛管理と予後に影響を与える因子 の探査に関する研究. 2022 年 2 月 5 日公聴会終了後、最終試験を実施した。研究内容は 博士の学位を授与する価値のあるものであり、発表は極めて明瞭 で分かりやすく、質疑応答も適切であった。以上の理由によっ て、主査・副主査は合格とすることで意見が一致した。.
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増田・前掲注 1)9 頁以下、28