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三 枝健 治

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Academic year: 2022

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(1)論. 説. 1. 三. ︵以上本号︶. 枝健 治. ﹁事実﹂の開示及び﹁意見﹂の開示. 三.開示義務の内容. ︵四︶考察. ︵三︶その他の見解. ︵二︶権利論的再分配アプローチ. ︵一︶法と経済学アプローチ. チ﹂対﹁権利論的再分配アプローチ﹂. 2.最近の学説の動向1﹁法と経済学アプロー. 説の展開. 契約交渉における﹁沈黙による詐欺﹂ の限界づけを目指して. アメリカ契約法における開示義務︵一︶. はじめに. ︿目次﹀. 出発 点 と し て の 我 が 国 の 問 題 状 況. 一.判決例及び学説の紹介. 序論. アメ リ カ 契 約 法 に お け る 開 示 義 務. 二.問題点の確認 本論. 一.開示義務の位置−不実表示法理の概略的説明を 兼ねて. 二.開示義務の根拠及び要件 ー.吏的概観ー判例・リスイトメント・従来の学 アメリカ契 約 法 に お け る 開 示 義 務 ︵ 一 ︶. 一.

(2) 二. 1.﹁戦略的﹂な契約関係と﹁信認的﹂な関係の区別. 早法七二巻二号︵一九九七︶. 2.基 本 的 な 前 提 事 実 の 開 示. 2.契約交渉における開示義務の根拠︑要件及び おわりに. 対象. 3.未取得情報の開示. 四.開示義務の効果. は じ め に. 検討対象及び目的. 結論. 一. ﹁沈黙により詐欺は成立するのであろうか﹂︒. これは︑専ら消極的に一定の情報を告知しないことにより︑相手方の不知ないし無知に乗じる︑いわゆる沈黙に ︵1︶. よる詐欺の問題である︒我が国において︑判例及び学説に照らし︑前述の問いに対して︑﹁告知義務がある場合に は︑沈黙により詐欺は成立する﹂と答えることは︑容易であろう︒ それでは︑. ﹁いかなる場合に︑告知義務が生じるのであろうか﹂ ﹁なぜ︑告知義務が生じるのであろうか﹂ そして︑﹁何に関して︑告知義務が生じるのであろうか﹂︒.

(3) ︵2 ︶. これらの問いに対して︑どのように答えることができよう︒現在の我が国の判例及び大多数の学説が用意する答. えは︑後に見るように︑﹁信義則﹂という言葉にとどまる︒すなわち︑判例も学説も﹁信義則上︑告知義務がある. 場合には沈黙により詐欺が成立する場合もありうる﹂と言うが︑その大部分は︑この告知義務が﹁いかなる場合. に﹂﹁なぜ﹂そして﹁何に関して﹂生じるかは﹁信義則﹂ロ﹁個々の具体的な状況に応じて﹂判断されるとし︑こ れ以上の答えは用意しない︒. 確かに︑信義則の内容はケースバイケースで判断されるものであることは十二分に理解されるが︑しかし︑だか. らといって︑一切実質的な基準を明ら︑かにすることなしに繰り返し﹁信義則﹂を唱えるだけで足りるものではな. い︒そこにおいてトートロジー的に持ち出される﹁信義則﹂という総合判断の下の実質的な判断基準の明確化︑す ︵3︶ なわち﹁枠づけ﹂の必要性は既に指摘されるところである︒. そこで︑本稿は︑沈黙による詐欺を検討対象とし︑その前提としての告知義務が発生する根拠︑要件及び内容. ︵対象︶の明確化を図ることを目的とする︒つまり︑上述の﹁﹃いかなる場合に﹄﹃なぜ﹄そして﹃何に関して﹄告 ︵3a︶ 知義務が生じるのか﹂という問いに対する実質的な答えを探し求めることを目的とするのである︒. なお︑その際︑本稿は︑アメリカ法の議論に示唆を受けることとする︒ここで︑なぜアメリカ法なのかという疑 ︵4︶ 問が︑それと民法典とに継受関係がない故により強く生じ得ようが︑消極的には︑第一に︑詐欺が民法典に規定さ. れている制度であるとはいえ︑沈黙による詐欺の問題それ自体は︑その解決が上述の如く﹁信義則﹂に委ねられて. 三. いることから分かる通り︑起草過程及び母法を辿る沿革的研究が求められる条文に内在する問題ではなく︑むし ︵5︶ ろ︑端的に﹁どう考えるか﹂の間題にすぎないこと︑第二に︑この問題に関して︑我が国においては︑特にフラン アメリカ契約法における開示義務︵一︶.

(4) 早法七二巻二号︵一九九七︶ ︵6︶. ︵7︶. 四. ス法に示唆を受けた検討がなされているにすぎず︑機能的比較法の重要性に鑑みれば︑アメリカ法の議論の紹介・. 検討をなすことは比較法的考察の幅を広げるに資すること︑そして︑より積極的には︑︑第三に︑アメリカ法は︑沈. 黙による詐欺に対する救済を当初は否定していたが後にこれを認めるに至り︑その対応の変化に︑本稿の目的ー. ︵9︶. ﹁﹃いかなる場合に﹄﹃なぜ﹄そして﹃何に関して﹄告知義務が生じるのか﹂を明確にすることーの手掛かりが見い ︵8︶ 出しうると考えられること︑第四に︑アイディアの宝庫と目されるアメリカ法は︑・近時︑この分野において興味深. い学説上の論争が生じていて︑その対立から我々が学びうるもの大であり︑法体系の違いを認識したうえで︑これ を活かすことが有益であること︑等がその理由として挙げられよう︒. 二.問題意識. ︵10︶. ところで︑沈黙による詐欺の問題は︑比較法学者ツバイゲルトHケッツにより﹁この非常に興味深い問題は︑未 ︵11︶. だ比較法的には適切に調査されてはいないものである﹂と評価された如く︑その後に国際的に若千の考察がされて. はいるものの︑今日︑なお検討する価値がある︒とりわけ︑現代においては︑一定の情報につき﹁知っている者﹂. 2︶. と﹁知らない者﹂との力の格差が事業者と消費者との間において顕在化しており︑前者が後者の無知に乗じて利益 ︵1 獲得をもくろむことがどこまで許されるのかが︑消費者保護の関心を伴って︑現実に課題となっている︒従って︑. かかる現代的な課題を視野に入れて︑比較法的な考察に示唆を受けながら︑この問題の解釈を明確にすることは︑ 当然に本稿の主要な関心であるし︑まさにそれこそが筆者の最大の関心である︒. しかしながら︑筆者の問題意識は︑間接的には他のものにも向けらている︒第一に︑法解釈の姿勢に関して︑で.

(5) ︵14︶. ︵13︶. ある︒すなわち︑今日︑契約法において︑内田理論が結論として提示した︑契約規範の正当化根拠たる﹁納得の合 ︵15︶. 理性﹂に対して︑それが批判的吟昧の不可能な超論理的論証であり︑裁判に対する批判的コントロールの可能性を. 減殺するものと批判を浴びている状況に照らし︑筆者自身が︑一つの具体的な場面︵本稿では沈黙による詐欺という ︵16︶. 問題︶を通して︑信義則等のいわゆる総合判断の﹁枠づけ﹂をなすこと目判断基準の明確化を図ることの意味を見. 定めたいという問題意識がある︒第二に︑契約観に関して︑である︒すなわち︑本稿と同じ沈黙による詐欺の問題. をフランス法に示唆を受けて検討された後藤教授は︑契約当事者を利益の対立するものと見る個人主義的功利主義. 思想を前提とした従来の契約観では︑もばや︑前述した現代的な課題︑すなわち﹁知っている者﹂と﹁知らない ︵17︶. 者﹂との力の格差の是正に対処できず︑現代の契約モデルとしては︑他人に対する配慮をなす﹁協力関係﹂が想定. されるべきであると主張されるに至ったが︑−筆者としては︑かかるモデルは共感できる面もあるものの︑︐その一般. 化には後述の如く躊躇を覚える点も存し︑やはり︑契約当事者の利益の対立性の限界のみならずその可能性をも見. 定めた上で︑自分なりの視点から契約観をーアメリカ契約法に示唆を受けてー確立したいという問題意識もある︒. 三.構成. ︵18︶. 以上を踏まえて︑本稿は︑契約法︵法律行為法︶を基本に︑不法行為法についての議論は必要に応じで言及する. にとどめながら︑次の構成に従って論じる︒まず︑出発点の確認として︑沈黙による詐欺に関する日本法を検討し. 五. ︵序論︶︑次に︑アメリカ法の現状を紹介・考察することにする︵本論︶︒アメリカ契約法の現状を論じるにあたって ︵19︶ は︑我が国との法体系の違いを踏まえるために開示義務︵我が国で言う告知義務に相当するもの︶の位置を概観した アメリカ契約法における開示義務︵一︶.

(6) 早法七二巻二号︵一九九七︶. 六. うえで︑その根拠及び要件︑内容︑効果の順に考察する︒とりわけ︑開示義務の根拠及び要件に叙述の大判を割. き︑特に﹁法と経済学アプローチ﹂対﹁権利論的再分配アプローチ﹂の論争を軸とした最近の学説の動向に着目し. たい︒そして︑最後に︵結論︶︑アメリカ契約法から日本法への示唆を提示することとする︒. いずれにせよ︑以上の問題意識と構成の下︑本稿は︑沈黙により詐欺が成立すると言うために必要不可欠な告知. ︵H開示︶義務が﹁﹃いかなる場合に﹄﹃なぜ﹄そして﹃何に関して﹄生じるのか﹂という問いに対する実質的な答. えのヒントを︑アメリカ法の議論に探し求めることがその中心的な課題であることをここに改めて明記しておこ ・つ︒. 我が国の判例・通説は︑沈黙も欺岡行為となり得ることを認めるが︑中には︑このような不作為による詐欺を技巧的で望まし. くないものとして消極的な評価を下す見解もある︵本田純一﹁﹃契約締結上の過失﹄理論について﹂現代契約法大系ω︵一九八三︶. ︵1︶. ており︑沈黙により詐欺が成立すると解することが自明の理であるとは限らない点に留意すべきである︒の§隣§ミミ§○臣ω謡貫. 二〇七頁以下参照︶︒また︑比較法的にも︑現時点で︑イギリス等では︑一般的には︑沈黙だけでは詐欺が成立しないと考えられ. 津30↓菱∪守召>ω↓02φげ>毒o閃Ooz弟︾9ミ甲零o︒︵旨岳9﹂OO一︶旧O︒甲↓琶↓鋼↓臣﹃ミ○問9胃釜8ωO一︵刈9Φα﹂OO︒﹃ご>. ︵2︶. この点は ︑ 本 稿 序 論 の 注 ︵ 3 1︶及び︵40︶並びにそれらの本文を参照されたい︒その他にも︑例えば︑河上教授は︑﹁一方で. 本稿序論参照︒. 誘・zφい睾・句9召召8曽︒︵︾︒O■9Φωざ血.﹄①些①儀●一︒︒ ︒薩︶二9弩ざ9囲爵・zgz弟>︒↓ω︒︒ω︒︵ミ浮①9お︒ ︶︒. ︵3︶. 必要があろうと思われる﹂とし︑さらに︑﹁顧客の意思決定にとって重要な情報とは何か︑適切な開示のあり方等一定の基準を明. 消費者保護のための情報提供義務を強調する以上︑情報提供義務を義務づけられる側の立場からの行為基準を積極的に示していく. L四七二号︵一九九一︶三九︑四〇頁及び四三頁注︵17︶参照︶︒なお︑問題意識等のニュアンスを異にするが︑今日︑刑法学に. らかにしていくことが必要であろう﹂とも指摘している︵河上正二﹁契約の成否と同意の範囲についての序論的考察︵4︶﹂NB. おいても不作為犯の成立を基礎づける作為義務の発生を﹁条理﹂という形式的な根拠に求めていた従来の立場から︑その具体的な.

(7) 下︶がある︒それらについて︑簡単には前田雅英・刑法の基礎総論︵一九九〇︶七二頁以下参照︒. 実質的根拠を明示しようとする方向へ展開する見解︵例えば︑堀内捷三・不作為犯論i作為義務の再構成︵一九七八︶二四九頁以. ︵3a︶ 告知義務︵情報提供義務︑説明義務︑開示義務︶は︑横山・後掲注︵6︶=二〇頁以下等が言及するところによると︑︵a︶. 契約の締結に向けられたものと︵b︶契約の履行に向けられたものとの二つが考えられるが︑契約の﹁成立﹂の問題である沈黙に. 民法におけるアメリカ法の研究の意味については︑とりあえず︑松本恒雄﹁民法学におけるアメリカ法研究の位相﹂法時五六. よる詐欺を検討対象とする本稿が扱うのは主に︵a︶のそれである︒. 条文に内在しない問題にまで常にドイツ法やフランス法の議論に比較法の対象を限定する必要はないのではなかろうか︒ドイ. 巻一号︵一九八五︶三二頁以下︒最近では︑曾野和明﹁民事法﹂アメリカ法一九九六−二号八一頁以下︒. ︵4︶. ︵5︶. 円谷峻・契約の成立と責任︵第二版︶︵一九九一︶一〇三頁によれば︑契約交渉挫折型事例でのシュトルの見解はアメリカ契約法. ツ法︵学者︶が︑法系の違いを越えてアイディアの宝庫たるアメリカ法での議論を直接に導入しようと目を向けている︵例えば︑. に影響を受けていると指摘されている︶ことを考えれば︑その柔軟性は見習うべきである︵松本・前掲注︵4︶四一頁も同旨︶︒. ﹁アメリカ固有の法理論がドイツに取り入れられ︑それがドイツ法の新しい解釈論として日本法にも参照価値の高いもののように. おけるアメリカ法﹂ジュリスト六〇〇号︵一九七五︶六五百ハ︶︑結局︑問題となっている社会的分脈及び我が国の既存の法体系と. 紹介される例もある﹂との批判は︑他方で︑アメリカ法の切り張り的法輸入をも戒めていることを考えると︵藤倉皓一郎﹁日本に. の整合性への配慮という︑外国法に示唆を受けるうえでの一般的・普遍的な考察事項の重要性が再認識させられる︒. スにおける情報提供義務に関する議論について﹂早大法研論集四九号︵一九八九︶一六一頁以下︑後藤巻則﹁フランス契約法にお. ︵6︶ フランスの情報提供義務についての論文は多いが︑沈黙による詐欺の限界づけという本稿の観点からは︑柳本佑加子﹁フラン. ける詐欺・錯誤と情報提供義務︵一︶〜︵三︶完﹂民商一〇二巻二号一八○頁以下︑三号三一四頁以下︑四号四四二頁以下︵一九九. 〇︶︑森田宏樹﹁﹃合意の暇疵﹄とその拡張理論︵1︶〜︵3︶完﹂NBL四八二号一一二頁以下︑四八三号五六頁以下︑四八四号五. の展望第四巻︵一九九四︶九九頁以下︑横山美夏﹁契約締結過程における情報提供義務﹂ジュリスト一〇九四号︵一九九六︶一二. 六頁以下︵一九九一︶︑後藤巻則﹁詐欺・錯誤理論は︑どのような活用可能性があるのか﹂椿寿夫編・講座・現代契約と現代債権. 七. 八頁以下等が関連する︒なお︑ドイツ法については︑同様の観点から述べられている大木満﹁ドイツにおける前契約上の説明義務 1その範囲と限界についてー﹂ソシオサイエンス一号︵一九九五︶八一頁以下が興味深い︒. アメリカ契約法における開示義務︵一︶.

(8) 早法七二巻二号︵一九九七︶. 八. ︵7︶ 例えば︑大木雅夫﹁比較法における﹃類似の推定﹄﹂藤倉皓一郎編・英米法論集︵一九八七︶一〇五頁以下及び同論文引用の. アメリカ契約法をより高次の視点から検討し︑そこに現代契約法︿思想﹀の発想のヒントを求めた内田貴教授は︑﹁⁝アメリ. 諸文献参照︒. カ法学の活況には目を見張る思いであった︒とりわけ︑契約法学で闘わされる論争の華々しさは︑羨望の念さえ抱かせた︒そこで. ︵8︶. は︑さまざまな契約法思想を︑歴史や伝統から切り離してアイデアとして突き詰め︑互いに正面から戦い合わせる︑という壮大な. 実験が行われているという印象であった﹂︵︵傍点引用者︶内田貴・契約の再生︵一九九一︶三頁︶と言及しているが︑筆者は︑同. されているζ霞芭評ぼ9霞謎轟Pu①い.oび一蒔蝕8α︑一艮9糞昌8量霧一88⇒霞讐ω﹂︒旨︵我が国では︑馬場圭太﹁説明義務違. 様の感想を本稿のような個別具体的な課題を通して感じた︒なお︑フランスで情報提供義務に関する示唆深い研究として近時注目. 反と適用規範との関係ーフランスにおける情報提供義務・助言義務に関する議論を参考にー﹂早大法研論集七七号︵一九九六︶一. と経済学アプローチ﹂臼のそれについて︑ではある︒この﹁法と経済学アプローチ﹂に示唆を受けた部分について彼女自身が簡単に英. 五五頁以下や横山・前掲注︵6︶が︑この本の部分的紹介をしている︒︶でも︑アメリカ法の議論︵もっとも専ら本稿で言う﹁法. 語で紹介したものとして後掲注︵19︶引用の文献参照︒︶に目が向けられおり︑もはや︑その正確な理解にアメリカ法の議論の検. じ寄く﹂Oど. N蓄o男↓ロ内o↓N﹂蕎蓉u8目舅9蔦夷>↓一蒔罫≦一8︵≦①一R嘗讐碧因a﹂Oo︒刈と同様に︑牢こR凶魯内8巴R帥国&什げ問営ρ. 本稿本論二.2.参照. 討は欠かせないと言えよう︒本稿でも︑必要に応じて彼女の主張に言及することにしたい︒ ︵9︶ ︵10︶. 齢︒ ︒︵お窒︶も﹁開示義務の範囲を比較法的に調査することは︑最もやりがいのあるものである︵旨o馨お≦餌a一鑛︶︒そうするこ. Oミ奪貸きOoミミ鳶§§鳩山亀鎖騒蔦§晦きOs駄肉騨導︾貸§駄︑ミ&oミ黛O◎ミミ息︑>Goミ辱犠ミ織ミの§&︸ミ=夷<. の禽魯塾勺圏8轟召自葺一ご茜日譲謹−謡︵犀揖鵠○昌島5①. 這曽︶●同書は︑一九九〇年八月にカナダのモントリオ:ルで. とにより︑我々は︑契約法の基底にある根本的な考え方︵℃巨88ξ︶の核心に真っ直ぐと導かれるのである︒﹂と述べている︒ 1︶. ︵1. 8ミ篤§織﹄悪憶ミ黛賊§︑肉§曳賊︒り誉§織. 開催された第一三回国際比較法会議︵冒8ヨ無一8巴Oo凝おωω900ヨ冨轟鉱話い◎詣︶の成果をまとめたものである︒なお︑この. ︒ ︒ごコい①閃声且旨︶§謹誌§ミ誉ミミ罫ミ安§ミQミ︑寒ド﹃ 辱ミ幾る○肖o召旨○爵顎い・閃ωぎ罵︒︒ω器︵一︒︒. 問題に関して対照的な態度をとる英仏法間の比較は︑口い罐篤且甘︑ミ8ミミら§ミb蹄. ○×3召︸8召き○﹁ω↓8弱一ω①︵一〇︒︒刈ご即一Φ閃蚕&一同﹄喜\ミ貸職§き肉ミ§黛帖§勲9ミミ鼻一〇↓鵠9z>u一>zωdωの一禺ωω望≦.

(9) §\§蕊篤§坤肉§§魯肉愚o§き9z弟>︒↓い毫↓ou>く>z曾o−穿男畠9罵夷︻ω一〇暴一㎝ど︵U︒頃鋤旨ω俸U︐↓Φ=8a碧一︒︒︒︒ご. ︸・d召>い\寄く目○>舅∪囲>z冒身・肩目○豪ζ男臼ω一︒︒︵一︒︒一ご冒2①ωO冨ω獣pS雨︑ミー8ミミ象§NOミ斜§oミむ黛Gりさ器. 簑博養暮ま①がある︵フランスの概説書レベルでも簡単にイギリス法に触れられており︑関心が窺える︒. S壽. >︾鼠ρ. 8拝ゆ阜一︒︒ζ︒8がある︒また︑英仏独法の羅列的に概観するも. ↓霞国暴霧=留胃署>召9胃一蕎竃き. 後藤・前掲注︵6︶﹁情報提供義務﹂等参照︒より一般的な背景については︑大村敦志﹁消費者と法①1消費者法とは何か﹂. 我が国の民法典には︑契約法という言葉は用いられていないが︑今日︑かかる用語は民法典第三編第二章の契約の規定の他. 内田貴・契約の再生︵一九九一︶︑同﹁現代契約の思想的基盤﹂私法五四号︵一九九二︶五一頁以下︑同﹁現代契約法の新た. アメリカ契約法における開示義務︵一︶. 九. な展開と一般条項︵1︶〜︵4︶﹂NBL五一四号六頁以下︑五一五号一三頁以下︑五﹃六号二二頁以下︑五一七号三二頁以下. ︵14︶. る一つの傾向について﹂早法七一巻一号︵一九九五︶二〇六頁及び同論文注︵42︶等参照︒. 的・抽象的・技術的な議論から︑各論的・具体的・現実的な議論への移行については︑例えば︑小粥太郎﹁最近の契約法学におけ. に︑民法総則の法律行為︑債権総則や債権各論等を含めた︑契約を規律する諸準則の総体として︑頻繁に使用されている︒総則. ︵13︶. 水野忠恒編・現代法の諸相︵一九九五︶一四五︑一四六頁が非常に分かりやすい︒. ︵12︶. 函豊き?8c︒る一㊤山園︵這8︶がある︒. ついて極めて簡潔に言及するものとして︑竃一〇塁醇狽≦田z8℃︸○∪轟召8望白>召穿き目臼. 較に関しては︑古典的な零箆豊9内Φωω一R俸国9跨田づρ⇔愚ミ8冨一ρ含緊さP蕊?鼠︒︒も参照︒その他の幾つかの国の状況に. ︒P9罵%義H蒔9轟召8掌譲団z9夷P男召竃コO男釜轟一旨山$︵お漣︶参照︒さらに︑米独法聞の比 のとして︑マU曾く︒寓夷︒. 畠窪閑8窪︵ω9島8墜B<①旙蛋o冨巳窪琶象暮Φ﹃轟け嘗巴8. ドイツ語による仏法の紹介として︑ωR墨鼻80訂霧ω豊9囚一αPくo署R賃謎一8訂︑︑○げ一蒔簿一88お霧①蒔昌ヨΦづ誘.︑一ヨヰき呂匹ω−. へ肉ミ愚ミ蔦⇔§§黛9ミミ息︑︑卜貸§き穿露○困暴↓雷守d20%弱亀9胃召8器︵菊轟段頃巴ω8Φρ這霧︶などが見られる︒. §織O愚§魯きOoミミ象誉ミき↓○≦夷∪ω︾国舅○田夷Ω<F9旨も愚ミ堕象屋㎝口器−罷o︒や=二αQげω①巴ρSぎ. 黛9ミミら黄き↓○妻弗oω︾国舅○田夷ΩくF9目一一8一ω︒−一ω恥︵>●ω●鵠餌旨8ヨも9鎮9ωこ一〇罐ご寓ー<き勾oω釜β. O鼠9鼠く芦零ω09鴇什δ霧﹄︒8﹂89⇒︒︒ωεが︑種々の国際契約法原則に関心が高まるなかで︑最近では︑<き閃葛. 冨2ΦωO冨ω岳p↓轟鼠血①身一〇けo一︿算びΦω○び一お呂8ρ冨♂﹃ヨ餌け一8含08貸讐︒︒︒窪﹂8ωも︒$G︒㌔び匡巴雲ユΦ簿い. −穿髪臼9馨誤δ誘. 切餌摸﹃Z一90一餌9§鳴︑蕊−8ミミら§ミOミ磁鼠むミむb§︑8鳴﹄暮\§匙蝋§貼︑肉§曳詠誉肉愚o恩き9z↓召8望≦↓8夷>zo8. 』. b冬象ω黛G§題 ミ. 肉 9竃夷.

(10) 早法七二巻二号︵一九九七︶. 一〇. ︵一九九三︶︒同﹁現代日本社会と契約法﹂日本法のトレンド︵一九九五︶二五頁以下︑同﹁現代契約法の新たな展開と契約法学﹂. NBL五一八号︵一九九三︶二八︑一一九頁における井上達夫教授のコメント︑同号三〇︑三一頁における太田勝造教授のコメ. 法時六六巻八号︵一九九四︶二八頁以下︑同﹁契約法の現代化﹂NBL五八四号︵一九九六︶四頁以下︒ ︵15︶. =一二頁︑潮見佳男・債権総論︵一九九四︶二七︑二八頁︑中田康裕・継続的売買契約の解消︵一九九四︶四五五︑四五六頁参. ント︑松本恒雄﹁民法学の歩み・内田貴﹃現代契約法の新たな展開と一般条項︵1︶〜︵5︶﹄﹂法時六五巻一一号︵一九九三︶. 照︒また︑樋口範雄﹁内田貴著・契約の再生﹂法教一二七号︵一九九一︶九〇頁︑石田喜久夫﹁民法学の歩み・内田貴著﹃契約の. 再生﹄﹂法時六四巻六号︵一九九一一︶一〇〇頁以下︑川角由和﹁現代契約法の動向をどう考えるかーマクロ的視点からの素描1﹂. ひとつの批判的評注︵一︶〜︵四︶完﹂島大法学三七巻四号九五頁以下︑三八巻一号八九頁以下︑三号一一七頁以下︑三九巻二号五一七. 法の科学二二号︵一九九四︶二一六頁以下︑同﹁現代民法学における︽関係的契約理論︾の存在意義−内田貴教授の所説に対する. 頁以下︵一九九四−九五︶のほか︑法時六六巻八号︵一九九四︶の﹁特集ー現代契約法理論の研究﹂の下の一連の論稿︵ただし︑. ﹁⁝﹃信義則﹄を持ち出すさい︑それをそのような形で用いてもよいとする論拠を挙げることこともなく︑単に﹃信義則﹄と. そのなかには議論のすれ違いに終わっている論稿のあることを小粥・前掲注︵13︶二一九頁注︵59︶は指摘する︶等参照︒. ︵16︶. れても仕方あるまい﹂︵池田清治﹁契約交渉の破棄とその責任︵一︶1現代における信頼保護の﹄態様としてー﹂北法四二巻一号. 言ってしまえばこと足りるとする風潮は︑いわゆる戦後解釈法学の﹃非合理主義﹄に基づくものと察せられるし︑またそう批判さ. ︵一九五一︶五七頁︶との指摘等参照︒もっとも︑いわゆるドイツの﹁法化﹂現象の議論に関心を寄せて︑一般条項の不確定性を. 下︑同﹁信義則分析の基礎的視角ートイプナーとアレクシーの比較を中心にー﹂鈴木古稀・民事法学の新展開︵一九九三︶一頁以. 肯定的に捉える見解を紹介するものとして︑佐藤岩夫﹁法の現実的適合性と一般条項﹂法学五三巻六号︵一九九〇︶七二一頁以. 可欠なものであろう︵遠藤浩他編・民法注解財産法第一巻民法総則︹山本敬三執筆︺︵一九八九︶三九頁以下︶︒. 下があるが︑信義則の実質的根拠の明確化は︑そこでの裁判官の裁量性を完全に否定する意図のものではなく︑いずれにせよ︑不. 後藤巻則﹁契約の締結・履行と協力義務︵一︶〜︵三︶完﹂民商一〇六巻五号六二三頁以下︑六号七七三頁以下︑一〇七号一号一一. 四頁以下︵一九九二︶︒なお協力義務という言葉それ自体は︑国際商事契約法原則︵UNIDROIT︶㈱q●ω︑ヨーロッパ契約法. ︵17︶. 原則︵PECL︶㈲一レミが︑契約履行を主な規律対象として採用している︒これらの国際契約法の原則の意義について︑簡単に. は︑好美清光﹁ヨーロッパ私法の形成についてlEC法の展開を中心にー﹂日本比較法研究所編・国際社会における法の不変性と.

(11) DROIT︶国際商事契約法原則︵仮訳︶﹂星野古稀・日本民法学の形成と課題下︵一九九六︶一三七頁以下︑ヨーロッパ契約法. 固有性︵一九九五︶三九頁以下参照︒なお︑国際商事契約法原則︵UNIDROIT︶については広瀬久和﹁ユニドロア︵UNI. 六巻︸号︵一九九六︶. 一三二頁以下がある︒. 原則︵PECL︶については高杉直﹁ヨーロッパ契約法原則についてー国際私法・国際取引法の視点からの若千の考察1﹂香法一. 法律行為法が故意に基づく意思形成妨害︵欺岡行為︶にのみ限定して契約解消を認めている︵民法九六条︶ことを﹁踏まえ﹂︑. それにもかかわらず︑これを回避すべく︑さらに︑不法行為法が︑過失による意思形成妨害がなされた場合にまで︑情報提供義務. ︵18︶. 違反を理由に原状回復的損害賠償を認めることは︑それが実質的に契約解消を認めるに等しいことから︑法律行為法との関係で. ︿評価矛盾﹀にならないのか︑が近時議論されている︵ジュリスト一〇七九号︵一九九五︶に始まる﹁取引関係における違法行為. とその法的処理ー制度間競合論の視点から﹂と題する奥田昌道教授主宰の研究会の一連の論稿に再三現れるテーマである︶︒この. ような不法行為法レベルでの情報提供義務︵告知義務︑説明義務︑開示義務︶の議論は︑法律行為法上のそれを﹁踏まえ﹂た︵粍. ︵アメリカ法であれば契約法︶の議論に焦点を絞らざるを得ない︒また︑これらの議論の契機となった合意の理疵の拡張理論︵特. 前提とする︶ものであり︑︿評価矛盾Vという新たな問いかけに正面から取り組む余地のない筆者は︑前提としての法律行為法上. こそ関心があるため︑情報提供義務違反の被侵害利益を自己決定権それ自体と見るか否か︵この点につき︑古くは宗宮新次・不法. に森田・前傾注︵6︶︶に示唆を受けた本稿は︑情報提供義務の効果論より︑本文で述べた問題設定から明らかな通り︑要件論に. 行為法︵一九六八︶三一九頁以下参照︒︶が︑︿評価矛盾﹀の問題との関係で︑不法行為法上は︑損害賠償範囲と絡み一つの争点と. 〇︶二一三百ハ以下︑否定的な見解として松岡久和﹁原状回復法と損害賠償法﹂ジュリスト一〇八五号︵一九九六︶八九頁以下︒な. なり得る︵これに肯定な回答を示唆するものとして滝沢車代﹁先物取引の不当勧誘と不法行為責任﹂ジュリスト九六四号︵一九九. お︑錦織成史﹁取引的不法行為における自己決定権侵害﹂ジュリスト一〇八六号︵一九九六︶九〇頁以下は︑自己決定権侵害とし. 我が国では︑一定の情報を相手方に伝える義務を表すのに︑告知義務︑説明義務︑情報提供義務という用語が一般に用いられ. ながらそれを財産権保護の目的の範囲内に止める︶ことをも考え︑比較的に効果の単純な契約法を叙述の基礎に置くこととした︒. る︒これらの使い分けは必ずしも意識的になされていないが︑従来より比較的ニュートラルに用いられている告知義務は︑通例︑. ︵19︶. 専ら相手方に情報が一切伝わっていない場面を予定するのに対して︑説明義務及び情報提供義務とは︑かかる場面のみならず︑虚. 一一. 偽の情報が伝えられた場合に﹁正確な﹂情報を伝えるべきであったという意味での義務をも含むように見受けられる︒説明義務及. アメリカ契約法における開示義務︵一︶.

(12) 早法七二巻二号︵一九九七︶. ご一. び情報提供義務という用語に︑かかる﹁正確な﹂情報を伝えるべきであったという意味での義務が込められるのは︑それぞれの用. 語が示唆を受けたドイツ法及びフランス法の文脈︑つまり︑欺岡者の故意を要件とする詐欺だけでなく︑いわゆる﹁過失による詐. よると考えられる︒ところで︑これを前提とすると︑アメリカ法で用いられる開示義務とは︑相手方に情報が一切伝わっていない. 欺﹂の救済を︑契約締結上の過失の法理や不法行為法を通じて図る際にかかる義務を新たに観念する必要があった︑という状況に. 場面を予定するものであり︑告知義務と同じである︒そこに︑虚偽の情報が伝えられた場合に﹁正確な﹂情報を伝えるべきであっ. たという意味での義務が込められないのは︑アメリカ法では︑﹁過失による詐欺﹂に対処する過失的不実表示法理がそもそも存在. したため︑かかる義務を新たに観念する必要が実定上はなかったためと言える︒しかし︑かかる違いは︑﹁過失による詐欺﹂では. なく﹁詐欺﹂自体を直接の検討対象とする本稿にとって考慮すべき事柄ではないし︑又︑たとえ本稿が実際には﹁過失による詐. 欺﹂を視野に入れていたとしても︑両者は︑責任追及を不作為性を根拠になすか︑作為性を根拠になすかの違いでしかなく︑同一. §魯9ミ§二§︑き98穿↓馨召安馨⁝9z↓署↓ぴ睾︒ρ§︵富良ω①婁g餅U曽巳Φ一写邑ヨき&ω﹄一︒︒㎝︶︒. の機能を有する限りにおいて︑パラレルに考えられないわけではない︒ωS三霞芭評びお−竃品墨Pbミ雪魚黛畳8ミ鳴§駄. 序論 出発点としての我が国の問題状況. 判決例及び学説の紹介. 通説たる︽1.総合判断説︾︑並びに︑少数説ながらこの総合判断の実質的な基準を明らかにしようとする︽2.. う︒その際︑本稿では︑分析の便宜上︑判決例と学説を別々に論じることはせず︑両者を折り込みながら︑判例・. 本論に入る前に︑我が国の判決例及び学説の状況を︑アメリカ法の議論に示唆を受ける出発点として確認しよ. 一. ミ.

(13) 内容基準説︾︽3.関与基準説︾及び︽4.情報量格差説︾の四つに区分し︑できるだけ時系列に沿って︑以下︑ 紹介・検討することにする︒. なお︑ここで紹介する判決例は︑二つの点で限定が付されたものであることに注意されたい︒一つは︑沈黙によ ︵1︶ る詐欺は︑いわゆるインサイダー取引や経歴詐称︵雇用契約の締結にあたって学生運動歴や逮捕歴を秘匿すること︶も. その一例として含むが︑前者は株式市場の公平性という観点︑後者は労働者の人権の観点を抜きにして考えること. はできないので︑これらは︑ここでの紹介・考察の対象から除外している点︑二つは︑当該事件の解決につき︑沈. 黙による詐欺のアプローチが可能と思われるものでも︑当事者の主張として詐欺︵しかも法律行為法のそれ︶を間題 にしていない判決例は対象から除外している点︑である︒. ︽1.総合判断説︾. ︵2︶ ︵3︶ ︵4︶ 民法制定後︑比較的初期の段階では︑沈黙による詐欺に関しては︑言及しない者やこれを否定する者もいたが︑ ︵5︶ 概ね﹁世間ノ取扱上積極的ナ欺岡行為ト同一視セラルベキ場合﹂には︑沈黙も詐欺となりうると考えられた︒しか ︵6︶. し︑問題は︑﹁積極的ナ欺岡行為ト同一視セラルベキ場合﹂とはどのような場合かということであり︑﹁特別ノ規. 売主が︑当該目的物は金かとの買主からの質問に答えずとも︑又は︑当該目的物を金と買主. 定﹂がある場合に限るとする者もいれば︑より広く﹁法律又ハ取引ノ慣習上相手方二通知セサルヘカラサル事項ヲ ︵7V 通知セサル﹂場合には単なる沈黙も詐欺となると解する者もいた︒前者の考えによると︑例えば︑売買目的物が実 際は銀である場合に︑. 一三. が誤解していることを知りながらこれを告知せずとも︑法令上の﹁特別ノ規定ナキ以上﹂詐欺となることはない アメリカ契約法における開示義務︵一︶.

(14) 早法七二巻二 号 ︵ 一 九 九 七 ︶. 一四. が︑学説の大半は後者の考えをとり︑かかる場合にも︑ ﹁取引ノ慣習上﹂ 告知すべき場合もあり得ると考えていた ようである︒この時期の判決例には以下のものがある︒. まず︑沈黙による詐欺を始めて裁判所が取り扱ったのが﹇1﹈判決である︒ ﹇1﹈大阪控判大正七年一〇月一四日︵新聞一四六七号一二頁︶. 本判決は︑ある土地を遊廓地とする認可がおりたために当該土地の価格が暴騰するはずであるところ︑買主. が︑この認可のおりたことを知らない売主に︑これを告知することなくその売主の無知を利用して当該土地を. 廉価で買った場合につき︑以下のように述べて︑詐欺は成立しないと判示したものである︒すなわち︑﹁売買. 取引に於て当事者は利害相反する地位にあらを以て別段事情なき限りは自己に不利なる事情を対手人に告知す. る義務あるものにあらず各自其智識経験を利用して以て自己の利益を防護すべきは当然﹂であり︑﹁故に買主. が其知ゆ得たる地所価格の暴騰を来す一原因たる遊廓地認許の事実を黙秘して敢えて之を買主に告げざらも軍. に買主をして其陥れる錯誤を覚醒せしめて之を救済することを為さざりしに止まり︑毫も買主の決意に不法の 干渉を施し﹂ていない以上詐欺は成立しない︑としたのである︒ これは︑売買契約の両当事者の対立的な関係を物語るものとして興味深い︒. 次に現れたのが﹇2﹈判決である︒ ﹇2﹈神戸地判昭和二年一月一八日 ︵新報一〇三号一七頁︶.

(15) 事案の詳細は不明であるが︑本判決は︑継続的供給契約において売主が自己の供給能力を黙秘し︑買主をし. て期待通りの量を常時受けうるものと誤信せしめた場合につき︑沈黙も詐欺になる旨判示したものである︒す. なわち︑﹁本件ノ如キ継続的供給二於テ売主ノ履行ガ其供給能力ノ不足二基ヅキ遅延ガ生ジル如キ場合二於テ. ハ売主ハ取引ノ信義二鑑ミ買主二対シ常二自己ノ有スル供給能力ヲ解明スル義務ヲ負ウモノ﹂である故に︑そ. の供給能力の不足についての売主の﹁不作為︵沈黙︶ハ積極的虚偽ノ通告ト等シク詐欺行為ヲ構成ス可キモノ ト﹂解したのである︒. 本判決では︑﹁取引ノ信義二鑑ミ﹂告知義務があるということが︑沈黙による詐欺を認めるの理由として述べら れている︒. そして︑現在多くの教科書・概説書が判例として引用するのが﹇3﹈判決である︒ ﹇3﹈大判昭和一六年一一月一入日︵法学一一巻六七一頁︶. 本判決の事案は簡略化すれば︑以下の通りである︒すなわち︑AX共有の山林全体をAが五〇万円で売却し. ようとしたが︑買主Bから二〇万円位なら交渉を始めてもよい旨の返答を得たので︑Aの子Yは︑Xにこの事. 実を告げ︑さらには当該山林全体の売却を有利にするためと称して︑買主Bに自己の持分を直接売却すること. を希望していたXを説得し︑Xの持分︵二分の一︶を一〇万円でYに売却する予約をさせたところ︑その後に. 実際には山林全体が三七万円で売れたのに︑YはこのことをXに告げず︑上記予約に基づく本契約を締結させ. 一五. た︑というものである︒本判決は︑XY間の予約は﹁本契約締結以前に金二〇万円を超過する代金にて買受く アメリカ契約法における開示義務︵一︶.

(16) 早法七二巻一一号︵一九九七︶. 一六. べき買主の出現せざることを前提とする趣旨﹂のものと認定し︑本契約を締結する際に︑予定よりも高額で売. 却できた旨をYが告知すべきであったと主張するXの主張を認めて︑﹁該事実は信義の原則上Yに於て之をX. に告知する義務あるものと云ふべし﹂と述べて︑原審を破殿し︑沈黙による詐欺を認めた︒. 同判決が沈黙による詐欺を認めた理由は︑やはり﹁信義ノ原則上⁝告知スル義務アル﹂ということである︒. なお︑刑事事件ではあるが︑例えば︑以下の判例があった︒ ﹇参1﹈大判大正七年二月一九日︵刑録一一輯八五頁︶. 生命保険の締結をなす際に既往症を申告しないことは詐欺にあたると判示された事例︒ ﹇参2﹈大判大正七年七月一七日︵刑録二四輯九三九頁︶. 借金をする際に準禁治産者であることを相手方に告知しないことは詐欺にあたると判示された事例︒ ﹇参3﹈大判大正一三年四月七日︵刑集三巻三二四頁︶. 売買目的物たる立木が︑第三者から訴訟を提起され係争中の山林のものであることを相手方に告知しないこ. とは詐欺にあたると判示された事例︵もっとも︑この事例では積極的な欺岡行為も認定されている︶︒ ﹇参4﹈大判昭和四年三月七日︵刑集八巻一〇七頁︶. 売買目的物に抵当権が設定されその旨の登記がなされていることを相手方に告知しないことは詐欺にあたる と判示された事例︒.

(17) 上記の判決例のうち︑沈黙により詐欺が成立することを認めるいずれの判決例も︑その前提となる告知義務の有. 無は︑法令に規定があるかどうかだけを基準に判断したものではなく︑﹁取引の信義﹂や﹁信義の原則﹂をも基準 ︵8︶. に判断したものである︒かかる立場は︑前述の通り︑大部分の学説がとるものであり︑当時のドイツの判例によっ. ても裏打ちされるものであった︒そこで︑沈黙による詐欺に関しては︑﹁通常詐欺トハナラザルモ法律上契約上又 ︵9︶ ハ取引ノ慣習上告知ノ義務アル事項ヲ告グルハ詐欺トナス﹂という原則が通説として確立した︒なお︑﹇3﹈判決. 以後︑これまでに見られる判決例としては︑後述の﹇4﹈判決の他に︑暫くして﹇5﹈﹇6﹈が現れている︒. ﹇5﹈大阪地判昭和六〇年一月二四日︵判時二七〇号二六頁︶. 繊維関係の商社Xは︑Yに対して商品の売掛代金を請求したところ︑Yが︑Xとの他の売買契約に基づく別. の商品代金債権でそれと相殺する旨主張したために︑Xは︑Yの言う売買契約が︑Aの所有占有する商品をま. ずAからYに︑次にYからXへ︑さらにAがこれをXから再び買い戻すという︑実質的には︑Xを介在したY. からAへの金融たる﹁三角取引﹂であるのに︑それをYは告知しなかったとして︑詐欺を理由に当該契約の取. 消を主張した︒なお︑Aはその後倒産したために︑XはAから代金の回収が困難となっていたと思われる︒本. 判決は︑以上の事案につき︑Xが意図していた﹁介入取引﹂も実質は﹁三角取引﹂と同じ金融の機能を果たす. ことを示唆し︑﹁繊維業界においては︑本件のような三角取引が︑暗黙裡にしばしば行われること﹂などを認. 定したうえで︑﹁⁝被告が訴外会社に対する信用不安を抱きながら︑ことさらに本件の取引をなしたものでは. 一七. な﹂く︑﹁さらに⁝︑商社間の取引において︑売主が買主に仕入れルートを開示することは通常あり得ない﹂ アメリカ契約法における開示義務︵一︶.

(18) 早法七一一巻二号︵一九九七︶. 一八. として︑結局は︑﹁原告が健全な与信管理の必要上内部的に本件のような取引を規制していたとしても︑相手. 方たる被告には︑本件取引の実態である三角取引の事実を告知すべき信義則上の義務があるということはでき ない﹂と判示した︒. 筆者は︑本件において詐欺の成立を否定するには︑詐欺の要件の一つである故意がYになかったことを挙げれば. ︵10︶. 足りると考えるが︑本判決では︑﹁信義則﹂上告知義務がないとされる理由の一つに︑業界の取引慣行が挙げら れた︒. ﹇6﹈東京高判平成三年一〇月一七日︵金融商事八九四号二七頁︶. 本判決は︑同種の入院給付金及び手術給付金付特約付保険契約の申込みを合計一〇口も同時になされたこと. につき︑﹁いわゆる超過保険あるいは重複保険を放任すれば︑保険事故の発生により被保険者が実損額以上に. 利益を受ける結果を生じ︑ひいては損害保険契約が不当な利得を目的とする賭博行為に悪用され︑又は保険者. による自発的保険事故の招致を誘発する弊害があるから⁝﹂﹁⁝本件各保険契約の締結に当たっては︑この種. の保険に同時に多数加入することは︑本来この種の保険の趣旨目的に反するものであって︑控訴人は︑その有. 無を確認する被控訴人会社の担当者に対し︑そのような意図又は事実のないことを告げるべき信義則上の義務. これらの判決例と軌を一 にして︑全ての学説が︑沈黙も﹁場合により﹂すなわち法令上のみならず. ︵H︶. があった﹂と判示し︑沈黙による詐欺の成立を認めた︒. 現在では︑.

(19) ﹁信義則上告知義務がある場合に﹂は詐欺が成立すると解しており︑かかる立場は︑もはや︑揺るぎない定説であ. ると言えよう︒しかし︑問題なのは︑﹁﹃いかなる場合に﹄﹃なぜ﹄信義則上告知義務がある﹂と言いうるか︑であ. る︒沈黙による詐欺を認めた上記判決例は︑例えば︑契約の性質︵﹇2﹈判決では継続的供給契約であること︑﹇6﹈. 判決では保険契約であること︶︑取引慣行︵﹇5﹈判決︶︑又は︑具体的な事情︵﹇3﹈判決では告知義務を生じさせる趣旨. の予約があったこと︶を﹁信義則上告知義務がある﹂と判断した具体的内容として︑明示的ないし黙示的に述べて. いる︒ところが︑これに対して︑判決例を統一的に説明して理論づけるはずの学説は︑ここではその役割を放棄す. る︒すなわち︑ほとんど多くの学説は︑﹁信義則上告知義務がある場合に﹂沈黙も詐欺となると述べるだけで︑そ. れ以上は具体的な内容に言及することはないし︑言及しても﹁個々の状況に応じて﹂総合的に判断すべき問題であ. ると述べるにすぎないのである︒このように︑沈黙による詐欺の成否を決する告知義務の有無は︑結局︑﹁信義則﹂ ︵12︶. という名の総合判断に委ねられているのが現状であろう︵従って︑これを総合判断説と呼ぶ︶︒これは︑﹁実際の場 ︵13︶ 合にどの程度まで信義の原則による告知義務を認めるべきかは困難な問題である﹂との認識の下︑コ律に適用で ︵14︶. きるような明確︑具体的な規準の設定は困難であり︑事案毎に︑諸事情を総合的に勘案して︑健全な社会常識︑社. 会通念に則って判断していく他ない﹂と考えられている表れである︒つまり︑ここでの﹁信義則﹂にょる総合判断. は︑個々の場合に相当と思われる場合には告知義務があると述べるトートーロジーにすぎず︑単に﹁常識﹂をシン ボライズしたフリーハンドなものなのである︒. しかし︑﹁実際の場合にどの程度まで信義の原則による告知義務を認めるべきかは困難な問題である﹂からこそ︑. 一九. それをフリーハンドに委ねるのではなくて︑告知義務の有無の判断をなす際に何かしらの﹁枠﹂となるものが必要 アメリカ契約法における開示義務︵一︶.

(20) 早法七二巻二号︵一九九七︶. 二〇. となるのではなかろうか︒学説の中にも︑これに答えんとして﹁意思表示の性質︵たとえば︑土地や株式等の投機的 ︵15︶ 的な取引︶や意思表示がなされた社会的な環境︵たとえば古物商の売買︶﹂という一つの例示的な枠を用意する者も. あり︑これ自体は︑取引の性質に応じた判断をなすべきであるという主張として首肯できるし︑上述した如く︑判. 決例が︑契約の性質や取引慣行に言及するのもこの見解に沿うものである︒ただ︑求められるべき﹁枠﹂はそれだ. けでは十分でない︒例えば︑同じ土地取引でも︑﹇1﹈判決では告知義務が無いと判示され︑﹇3﹈﹇参4﹈判決及. び後述の﹇4﹈判決では告知義務があると判示されるのはなぜなのか︑この点をも説明する︑さらなる実質的な. ﹁枠﹂が求められるのである︒少数ながら︑総合判断の明確化を目指し︑さらにより実質的な判断基準を捜そうと. する見解が出ていたのは至極当然のことであろう︒以下に︑その少数ながらも注目すべき見解を紹介することにし たい ︒. ︽2.内容基準説︾. まず︑比較的初期から見られたものに︑告知されなかった情報の内容が︑契約目的物そのものとの関連性が高け ︵16︶ れば告知義務がある一方︑関連性が間接的かつ一般的なものであれば告知義務はないという見解がある︒この見解. は︑﹇1﹈判決を意識して︑﹁買主が物の重要なる品質につき錯誤ありたることを知りながら尚買主が之を明らかに ︵誓︶. しないときは︑欺岡行為が成立するも︑反之︑商品の価格に不利な状況を與ふるが如き一般的事象を報告しないに. 止まる場合には︑詐欺は成立しない﹂と述べ︑告知しなかった情報の内容が︑告知義務の有無を判断する一つの大. きな要素となるこ之を示唆するものであった︵従ってこれを内容基準説と呼ぶ︶︒しかし︑かかる基準が﹁なぜ﹂そ.

(21) のように定立され得るのかは説明されていない︒. ︽3.関与基準説︾. その後︑注目すべき見解を述べたのが我妻教授である︒我妻教授は︑﹁自分で原因を作ったことについての黙秘. は詐欺となるなるのが原則であろう﹂が︑﹁原因たる事実に関係のない者が相手方の不知を利用しても︑一般に詐 ︵18︶. 欺とならない﹂と主張され︑前者の関与有り︑従って告知義務のある例として﹇参3﹈﹇参4﹈判決を挙げ︑後者. の関与無し︑従って告知義務の無い例として﹇1﹈判決を挙げた︒この見解によれば︑﹁信義則上告知義務がある﹂. かどうかは︑告知しなかった事実の原因に対する沈黙者自身の関与の有無を実質的判断基準として決することにな. る︵従って︑これを関与基準説と言う︶︒かかる見解は︑詐欺が表意者の意思形成に対する不当な干渉がある故に意. 思表示を取消し得るとされることに鑑みれば︑告知しなかった事実の原因に沈黙者自身が関与している場合には︑. その関与をもって﹁不当な干渉﹂があったと見倣しうるので︑沈黙による詐欺の成否の前提たる告知義務の有無を 詐欺制度全体の趣旨の中で説明できるという長所がある︒. なお︑この見解に︑さらに限定要件を付すのが下森教授である︒下森教授は︑告知義務の有無の判断基準につ. き︑黙秘した事実が沈黙者の直接関与して作出したものであるときはこれを認めず︑そうでないときはこれを認め. るという我妻教授の説く関与基準説に従いながらも︑更に前者︑すなわち黙秘した事実が沈黙者の直接関与して作. ︵19︶. 出したものであるときでも︑その事実がなかったら存したであろう価格が︑その事実があったために存するに至っ. ︸=. た価格よりも高い場合にのみ︵表意者に積極損害を生ずるから︶告知義務があると主張される︒従って︑逆に︑黙秘 アメリカ契約法における開示義務︵︻︶.

(22) 早法七二巻二号︵一九九七︶. 二二. した事実がなかったら存したであろう価格がその事実があったために存するに至った価格よりも低い場合︑﹁たと ︵20︶. えば︑私鉄が鉄道敷設計画を秘して︑その敷地土地や沿線開発のための住宅用地などを買収する場合には︑他に特. 別の事情のないかぎりなんら告知義務なく︑詐欺にならない﹂と解すべきであるとしている︒ただ︑下森教授は︑. 既存の判決例からこの付加すべき基準が抽出されると言うほか︑そのような︑積極的損害か消極的損害かで区別す る基準が﹁なぜ﹂是認されるかは特には言及されていない︒. いずれにせよ︑このように限定要件を付加すべきかどうかは別にすると︑詐欺制度全体の趣旨に沿って告知義務. の有無を論じる関与基準説は︑説得的なものではあった︒ただ︑しかしながら︑この見解も︑現代的な課題︑すな. わち︑一定の情報につき﹁知っている者﹂と﹁知らない者﹂との力の格差が特に事業者と消費者との間において顕. 在化している状況の下︑前者が後者の無知に乗じて自己利益の最大化を図ることがどこまで許されるのかという課 ︵21︶ 題を視野に入れたものではなかった︒説得的に見えた関与基準説も︑今日においてはやはり限界がある︒かかる現. 代的な課題の考察は︑次の︽4.情報量格差説︾を待たなければならなかったのである︒. ︽4.情報量格差説︾. 沈黙による詐欺という問題が︑﹁専門家対素人﹂や﹁事業者対消費者﹂といった取引の場面において重要な概念. となり得ることに初めて目を向ける下地を作ったのは︑星野教授であった︒星野教授は︑沈黙による詐欺の成否の. 実質的基準について︑次のように述べた︒すなわち﹁特に︑相手方が錯誤に陥っていることを知っていて︑または. 錯誤に陥る可能性のあることを知っていて︑沈黙していることが欺岡行為にあたるかが問題とされる﹂という認識.

(23) を示したうえで︑その実質的な基準としては︑﹁まず︑取引の種類によってかなり変わってくるが︑同じ種類の取. 引においては︑二つの要素を考慮して決めることになる﹂のであり︑一方では﹁相手方については︑その職業や地. 位から︑どのていど真実を語ることが要求されているのか︑どのていど真実をかくすことが許されているかを考え. なければならない︒:沈黙者に要求されるところの真実開陳義務のていどによって判断されるということになる﹂. し︑他方では﹁錯誤者の職業・地位から彼に要求される注意のていども問題となる︒つまり買う人がその商品につ. いて玄人であるならば︑間違うほうがわるいのだが︑素人であるならば︑あるていどは間違ってもやむを得ない﹂ ︵22︶. のであり︑﹁この両者を相関的に考えたうえで沈黙が欺岡行為になるか否かを判断す﹂べきものである︑と述べた. のである︒この記述は︑今日我々が想定しているような契約当事者の情報力の格差が定型的に現れている現代的な. 取引類型に対処することを必ずしも直接想定したものではないが︑沈黙による詐欺の成否の実質的判断基準とし. て︑沈黙者と錯誤者の双方の義務の相関性︑中でも︑前提となる両者の﹁職業や地位﹂という要素に着目したこと. で︑契約当事者の一方が専門家たる﹁地位﹂にあり︑他方が素人たる﹁地位﹂にいる際には︑沈黙による詐欺が成. ﹇3﹈判決以後︑しばらく沈黙による詐欺を争点とする判決例がなかったに. 立する可能性が高くなる︑ということを示唆したと評価できる︒. なお︑これに対応するかのように︑. もかかわらず︑現代的な意義を持って次の﹇4﹈判決が登場するに至った︒. ﹇4﹈東京地判昭和五三年一〇月一六日︵判時九三七号五一頁︶. 二三. 本判決は︑別荘地として売買された土地につき自然公園法及び文化財保護法による建築制限がある旨を︑ ・アメリカ契約法における開示義務︵一︶. 売.

(24) 早法七二巻二号︵一九九七︶. 二四. 主である宅地建物取引業者が買主に告げなかったという事案であり︑以下のように判示された︒すなわち︑. ﹁被告は︑本件売買契約を締結するにあたり︑本件⁝各土地が前記の諸制限を受けていることを知悉しており︑. 右制限は⁝通常人である買受希望者が買受の意思を決定するにあたって︑重大な影響を及ぼすものということ. ができるから︑このような場合︑原告が右制限を知っていることが明らかでない以上︑宅地建物取引業者であ. る売主の被告としては︑信義則上︑買主たる原告に対して︑右法律による制限のある事実を告知し︑それを知. らしめる義務があるのに︑ことさら︑沈黙して右事実を告知せず︑原告との間で本件売買契約の締結に及び︑. これにより︑本件各土地上には右のような制限がない状態で別荘を建築することができるものとの誤信をとく. こともなく︑原告をして︑︑本件各土地を買受ける旨の意思表示をさせた﹂として︑沈黙による詐欺の成立を認 めた︒. 同判決は︑やはり形式的な法律構成として﹁信義上⁝告知し︑それを知らしめる義務がある﹂ということを︑沈. ︵23︶︵24︶. 黙による詐欺を認める理由としているが︑実質的には︑売主が︑宅地建物取引業法三五条一項及び三項により重要. 事項の説明を義務づけられる宅地建物取引業者たる地位にあることが強調されていることが注目されよう︒. ところで︑この﹇4﹈判決以外には︑専門的知識を有する事業者が消費者の無知に乗じて必要な情報を与えなか. ったことを詐欺とする判決例は︑法律行為法上は︑現実には︑今日に至るまで見られない︒かかる問題が︑詐欺法. 理の故意要件のハードル及び違法性要件の漠然性を回避するため︑錯誤法理の柔軟な対応︑説明義務違反を理由と. した契約締結上の過失の法理による処理︑又は︑不法行為法上の原状回復的損害賠償の付与等により判例上処理さ.

(25) ︵25︶. れ︑又︑そのことを学説が黙認してきたことは︑星野教授により作られた前述の下地を︑詐欺の領域では︑その後 の判例・学説が活かしきれなかった表れと推察できる︒. しかし︑このような状況の中︑最近になって︑より鮮明に︑沈黙による詐欺の積極的活用を主張する者が現れ た︒それが後藤教授である︒. 後藤教授は︑﹁消費者取引契約の領域を中心として︑契約の一方当事者Aが他方当事者Bの知識や情報量の不足. を利用してBに著しく不利な契約を締結する事例が増大﹂していることに対処しようと︑フランス法に示唆を受 ︵26︶ け︑情報提供義務を根拠とする詐欺の適用領域の拡大に我が国でも積極的に取り組むべきであると︑主張した︒こ. こに︑﹁情報提供義務とは︑当事者間に情報量の格差がある取引において︑より多くの情報を有している一方当事. 者が相手方において事情をよく知ったうえで契約締結の意思決定をなしうるように︑契約締結の意思決定を左右す. るような重要な情報を提供する義務であ﹂り︑それは︑従来の告知義務と実質的に同じであるが︑﹁消費者と事業. 者﹂﹁素人と專門家﹂といった︑契約当事者の力の格差が顕在化している現代的な取引の場面を正面に見据えたも. のである︒すなわち︑﹁知識や情報量において劣位する﹂消費者や素人が﹁契約内容や効果を承知したうえで契約 ︵27︶. 締結の意思決定をなすことを保障するためには︑より多くの情報を有している﹂専門家や事業者が情報を与えなけ. ればならない︑とするのである︒かかる消費者取引において︑情報提供義務に基づく沈黙による詐欺の適用の活性 ︵28︶. 化を図ることこそ︑後藤教授の目指すところであろう︒この情報提供義務の実質的根拠は﹁契約当事者間における. 二五. 情報﹃量﹄の格差﹂であるとされる︵﹃﹄は引用者強調︶のであるから︑情報提供義務の有無の基準は情報量の格 差の有無となろう︒︵従って︑これを情報量格差説と言う︶︒. アメリカ契約法における開示義務︵一︶.

(26) 早法七二巻二号︵一九九七︶. 二六. この情報量格差説は︑︽2.内容基準説︾や︽3.関与基準説︾に比べて︑﹁知っている者﹂と﹁知らない者﹂と. ︵30︶. の情報格差を是正するという現代的な課題に答えるものとして高く評価しえる︒実際︑その後︑この説の影響の ︵29︶ 下︑情報提供義務を根拠とする沈黙による詐欺の積極的活用を支持する者も多い︒ただ︑この情報量格差説とて︑. それ自体が論及するように︑契約当事者間に情報﹁量﹂の格差があるからといって︑全ての場合に情報をより多く. 持つ者に情報提供義務が一律に課されることを認めるわけではない︒情報とりわけ専門的知識の量のより多い事業. 者等であっても︑情報を提供しなくてよい場合もありうる︒従って︑そうであれば︑直接には︑情報提供義務の根. 拠及びその有無の基準は情報﹁量﹂の格差に求めるわけにはいかないのではなかろうか︒筆者には︑契約均衡回復. の法技術として承認されてきた情報提供義務が是正する情報格差とは︑情報﹁量﹂の格差を意昧しないように思わ. れる︒同じフランス法の議論を参考にした森田宏樹助教授が︑他方で︑﹁情報提供義務は︑全ての事業者に一般的 ︵31︶. に課される義務ではなく︑一定の状況のもとで認められるから⁝情報提供義務が認められる基準が重要になる﹂と. 述べていること︵傍点引用者︶は︑筆者には︑むしろ︑そのコ定の状況﹂を明らかにする別の基準を探究する必 要性を感じさせる︒. なお︑後藤教授は︑その後︑情報提供義務のより一層の拡張とその相互化を図るため︑契約当事者を対立的関係 ︵32︶. であると見る契約観から︑契約当事者が共通の利益を求めて協力する関係と見る契約観へと転換すべきである旨主. 張するに至っている︒かかる契約観によると︑﹁協力﹂関係の名の下︑質的には︑契約の有利性︵8宕旨§譲︶に ︵33︶. 関する︑いわゆる助言義務︵号ぎマ留8霧巴︶まで事業者に課し得るようになり︑また︑量的には︑提供すべき情. 報﹁量﹂が広げられ契約当事者問における情報﹁量﹂の格差是正がさらに進み︑さらには︑事業者側の義務の拡張.

(27) の﹁担保﹂として消費者にも自己の二ーズを事業者へ伝えるよう求め得ることで片面的介入から両面的介入へと情. 報提供義務の相互化が可能になる︑とその利点が示唆されている︒ただ︑反面︑かかる契約観には︑情報提供義務. ︵4 3︶. の質的拡張につき︑少なくとも契約交渉段階においては助言義務を一般化するのは困難であるとの指摘が考えられ. る点で︑また︑量的拡張につき︑情報をより多く持つ者にとって無限定に情報提供義務が課される恐れがある点 ︵35︶. ︵36︶. で︑さらには︑義務の相互化につき︑事業者に情報提供義務を課すために消費者側から﹁担保﹂を差し出すことを. 常に要するとは限らないのではないかとの疑問が湧く点等で︑議論の余地もあろう︒後藤教授が契約を協力関係と. ︵37︶︵38︶. イメージする眼目の一つに︑事業者対消費者の契約において︑前者を後者の後見人の如く行動させる狙いがあると. 推察されるが︑しかし︑その点も︑今日︑いわゆるセールストークを完全に禁止し得ないことを考えると︑あるい. はそう一概に言えないのではなかろうか︒いずれにせよ︑筆者としては︑一方で︑かかる契約観に共感できる面も. あり︑他方で︑それを後藤教授が予定するほど一般化することには躊躇を覚えるため︑本論の考察を終えた後に︑ 自分なりの視点から契約観を提示したうえで︑この点につき再述することにしたい︒. 二.問題点の確認 以上︑我が国の判決例及び学説の状況を︑時系列に沿って確認した︒. 現在において︑沈黙による詐欺が成立するための前提となる告知義務︵情報提供義務︶の有無は︑通説・判例に. よれば︑フリーハン下である総合判断に委ねられ︑筆者の言うところでは︽1.総合判断説﹀が圧倒的多数の立場. 二七. であることが分かった︒しかし︑既に述べた通り︑ルールそのものを白紙委任状態の総合判断へ委ねることは︑法 アメリカ契約法における開示義務︵一︶.

(28) 早法七二巻二号︵一九九七︶. ︵39︶. 律﹁学﹂の立場からすれば︑決して望ましいことではない︒. 二八. そこで︑少数説ながらこの総合判断の実質的な基準を明らかにしようとする︽2.内容基準説︾︽3.関与基準. 説︾及び︽4.情報量格差説︾が注目されるが︑これらは︑一定の範囲でその明確化に成功したものの︑︽2.内. 容基準説︾と︽3.関与基準説︾は︑契約当事者の社会的・経済的地位の不均衡に伴う情報格差の顕在化という現. 代的な課題に対応したものではない点で︑︽4︒情報量格差説︾は︑必ずしも︑情報﹁量﹂の格差が告知義務︵情. 報提供義務︶の有無を決する直接の基準とはならない点で︑なお検討する余地もあるのではないかと思われた︒. 確かに今日︑消費者契約において︑事業者等が消費者に情報を提供するよう求められる流れにあることは︑契約. 締結上の過失の法理における議論を見れば事実であろう︒しかし︑そこでも︑﹁信義則﹂上の義務︑﹁法定﹂義務と. 言うだけで︑かかる義務が﹁なぜ﹂課せられるのかは︑既に指摘されているように︑必ずしも十分にフォローされ ︵40︶︵41︶. てはいない︒﹁﹃事業者には信義則上⁝義務が認められるから﹄というようにアプリオリに義務を措定した議論も多 ︵42︶. いが︑これだと循環論法に陥るおそれもある﹂のである︒同様なことは︑本稿の検討対象である沈黙による詐欺で. も言える︒情報を収集するには一定のコストがかかることを考えると︑情報の提供を義務づけられる者にすれば︑. ︵43︶. ﹁必要とあれば情報は提供しよう︒しかし︑われわれとしては完全に手のうちをさらして利他主義で行動するわけ ︵44︶. にはいかない︒一体どんな情報をどのくらい提供すればよいのか︑適切な情報は何なのか教えてほしい﹂と思うの. も無理はなかろう︒現時点で︑我が国の学説及び判決例は︑この問いにどれだけ答えることができるであろうか︒. ﹁信義則﹂というだけでは︑﹁告知義務が﹃いかなる場合に﹄﹃なぜ﹄そして﹃何に関して﹄生じるか﹂は未だ十分 に解明されているとは言えない︒.

(29) そこで︑本稿は︑この﹁告知義務が ﹃いかなる場合に﹄﹃なぜ﹄そして﹃何に関して﹄生じるか﹂という問いに. 雇用契約における経歴詐称については︑概して︑雇用契約が︑当事者相互の信頼関係を基盤とする継続的契約関係であるか. 対する実質的な答えを捜し求めるため︑ 次の本論において︑アメリカ契約法の議論の考察を行うことにする︒ ︵1︶. ら︑労働者の方も︑契約締結に際し︑経歴等労働力の評価に関する重要な事項を使用者に告知すべき義務を信義則上負っていると. 解されるが︑こと刑事事件や政治活動歴に関しては︑労働者の人権との関係を念頭に︑それらの告知義務がどこまで及ぶかが問題. ︵判時五二三号一九頁︶︑東京地判昭和六〇年一月三〇日︵判タ五六五号一三八七頁︶等がある︒なお︑労働争訟の課題と展望︵別. となろう︒具体的な判決例としては︑東京地判昭和四二年四月二四日︵判時四入二号三五頁︶︑東京高判昭和四三年六月二一日. 九六条の旧民法からの制定過程については︑田中教雄﹁日本民法九六条の立法過程−不当な勧誘に対処する手がかりとして﹂. 冊判例タイムズ5 ︶ ︵ 一 九 七 九 ︶ 二 〇 三 頁 参 照 ︒. ︵2︶. 一五巻一一丁四号︵一九九二︶︸五頁以下参照︒両論文とも︑本稿の検討対象である沈黙による詐欺には全く言及していないもの. 香法一三巻四号︵一九九四︶七七頁以下︑中舎寛樹﹁民法九六条三項の意義−起草過程からみた取消の効果への疑問ー﹂南山法学. の︑詐欺が取消とされた理由が︑かつては︑表意者の錯誤という意思的モメントではなく︑相手方の行為態様の悪性という観点か. らとられたことを指摘している︒すなわち︑旧民法︵一一コニ条︶では︑取消は︑損害賠償の効果としての原状回復︵補償の名義に. よる取消H鋤蜂お号議冨鍔賦8︶であったのが︑現行民法︵九六条︶では︑意思の暇疵による取消︵H8員証8号8霧窪壁. 梅謙次郎・民法釈義巻之一総則篇︵改訂増補一九版︶︵一九二七︶五三三頁︒そこでは︑積極的な秘匿行為がない限り︑単な. ヨ①導︶へと変質したことが指摘されている︒なお︑原田憲吉・日本民法の史的素描︵一九五四︶四九頁も参照︒. る沈黙は詐欺とならず︑法律上告知義務が定められている場合も当該規定の問題であるため九六条の適用はない︑とされている. ︵3︶. ︵なお︑告知義務違反は︑九六条の適用はなく︑損害賠償の問題であるとされた旧版︵改訂六版︶︵一九一六︶五一六頁︶との関係. 川名兼四郎・日本民法総論︵一九一二︶二一九頁︒. 二九. は不明である︶︒その実質的理由は︑﹁取引ハ戦争ナリ﹂︵旧版五一六頁︶と見る契約観に帰着し得るであろうが︑これは︑契約を 協力関係と見る後藤教授︵後掲注︵32︶︶のものとは正反対である︒ ︵5︶. ︵4︶ 中島玉吉・民法解義巻之一上︵改訂増補一八版︶︵一九二五︶五三三頁︒. アメリカ契約法における開示義務︵一︶.

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