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321明治初期における会社の経営機構

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(1)説. 国. 明治初期における会社の経営機構. 監査役監査の目的と機能に関する一試論. 株式会社監査制度論︵上︶. 目次 一 序 論. 序. 二 監査制度の形成と展開. 一. 問題の提起. 白 株式会社監査制度論︵上︶. 昭和二五年改正︵以上本号︶. 昭和二五年改正まで. 棟. 一二七. 如︑殊に監査する者の人事権が監査される者に握られているところにあるといえそうである︒したがって︑監査役. 論. 1. 321. 株式会社における監査制度の無機能化は従来より指摘されているが︑その根源的原因は︑監査役の独立性の欠. 論.

(2) 早法七三巻一号︵一九九七︶. ︸二八. の候補者選定権を監査役会に付与すべきとする主張は︑平成五年商法改正における最も抜本的な立法論であり︑し ︵1︶. かも監査役の独立性を確保することで︑その監査機能を十分に発揮させることを主眼とするものであるだけに︑真 に的を射ているようにも思われる︒. しかしながら問題の核心は︑まさに監査役の位置づけそのものはどうあるべきか︑ということであり︑この問題. は実は明治四四年改正前後から︑昭和二五年そして同四九年改正を通して議論され続けてきた問題でもある︒本稿. もまた︑これらの議論を踏まえたうえで︑監査役監査の目的と機能という観点から︑その位置づけを理論的に解明. することに努め︑そのうえで期待されている監査役の機能を発揮させるための方策を模索しようとする一試論にす. ぎない︒すなわち︑監査とは何か︑監査役は誰のために監査をするのか︑そして︑重複されている監査の中で監査. 役監査はどのような機能を予定されているのか︑といった問題は︑本稿における筆者の基本的な問題意識である︒. これらの監査役監査の本質についての問題点の理論的解明を少しでも果すことができれば︑監査役監査の強化に関 する具体的立法論を基礎づける試みとして一定の意味をもつことになると思われる︒. 2 監査役監査の機能. 従来︑監査論の分野では︑監査役監査をその枠組みの一部として捉えられ︑そこでの監査とは一般に︑﹁ある者. がなした特定の行為またはその結果について︑行為者から独立の第三者が︑一定の基準に照らし︑その行為の正否 ︵2︶ または適否を合理的な証拠にもとづいて立証し︑その判定結果につき意見を表明すること﹂であると定義されてお ︵3︶ り︑したがって︑監査の本質とは︑﹁独立性をもった監査人による特定の行為の客観的な評価と意見表明にある﹂.

(3) ということになる︒このように︑定義としての監査とは︑監査主体が独立性を有すること︑一定の客観的基準にも. とづいて批判的に調査することおよび意見を表明することである.他方︑商法学者の間においても︑監査役の職務 ︵4︶ の中心は︑監査報告書の作成提出や総会に対する意見の報告にあると捉える傾向がみられるように思われる︒もと. より︑前記の監査要素を監査役に照らしていえば︑監査役の﹁独立性﹂とは︑会社または子会社の取締役または支. 配人その他の使用人との兼任禁止︵商法二七六条︶であり︑コ定の客観的基準にもとづいて批判的に調査するこ. と﹂とは︑法令および会社定款にもとづいて︑取締役の職務を監査し︑とくに取締役が株主総会に提出しようとす. る議案および書類を調査すること︵商法二七四二一七五条︶であり︑﹁意見表明﹂とは︑監査役は監査報告書にもと. づき株主総会に報告することである︑という論理は一応成立するようにも考えられよう︒しかしながら︑監査役監. 査と監査論を構成する最も中心的な内容である財務諸表監査とを前記の監査要素に則して比較すると︑同じく監査. 人の独立性とはいうものの︑監査役の兼任禁止規定は︑財務諸表監査の場合の﹁特別の利害関係のない公認会計士. または監査法人﹂という要件︵証券取引法一九三条の二︑商法特例法四条二項︑公認会計士法二四条垂西条の二︶と. は相当の相違があるうえ︑公認会計士または監査法人は財務諸表監査を実施する際に︑必ず遵守しなければならな. い法的規範性を有する監査基準・準則が厳然に存在するのに対し︑監査役監査の場合には︑法令および会社定款の ︵5︶ ほか︑これに準ずる性質をもつ監査基準は必ずしも存在しないというところにも相違が存在するのである︒とりわ. け︑財務諸表監査の場合は︑監査人は所定のプロセスを経て監査意見を形成するに至り︑意見表明の手段として監. 査報告書︵監査証明書︶の提出をもって監査の完了と見ることができるのに対し︑監査役監査の場合は︑株主総会. 一二九. に対する監査報告は監査役の重要な職務の一つであることには何らの疑問もないが︑しかし︑監査役は法によって 株式会社監査制度論︵上︶.

(4) 早法七三巻一号︵一九九七︶. 一三〇. 付与された様々な調査権や報告請求権のほかに︑取締役会への出席権および取締役会の招集権︵商法二六〇条ノ三︶. や取締役の行為の差止請求権︵商法二七五条ノニ︶等を行使することで︑取締役の不正行為を未然に防止すること. こそ︑監査役の最も中心的な職務であると解することができるのであれば︑監査役監査の本質と監査論にもとづく 前記の監査の定義とは︑性質上相当の差異を生じることにもなるのであろう︒. 西山芳喜教授は︑監査役監査を監査論にもとづく近代的な意味における﹁監査﹂の概念に含ましめること自体に. ついて疑問をもち︑監査役監査と監査論上の﹁監査﹂とを性質上ほぼ同様のものとして捉えているとも思われる監. 査論に対し︑次のように厳しく批判している︒すなわち︑﹁近代的な意味における監査は︑会計監査︵ことに会計記. 録の調査・検討︶を基礎とし︑かつ︑監査人に関する一定の基準︵行為基準︑評価基準︑報告基準︑責任基準等︶が設. 定・整備された良好な監査環境の中でこそその有用性が発揮できるものであることにかんがみると︑一般に監査業. 務に関する知識・経験に乏しく︑または法律上︑いわば無限定的な職務権限や責任が予定される監査役をあえて. ﹁監査人﹂の概念に採り込み︑監査役を含む形で︑財務諸表監査の監査環境を設定・整備しようとすることは︑近 ︵6︶ 代的な監査環境の設定・整備の方向に逆行するするものであって︑無用の混乱を招くものといわざるをえない﹂と. 指摘される︒もっとも︑監査役監査︑とりわけ監査役の業務監査と近代的な意味における﹁監査﹂の定義との異質. 性を明らかにし︑かつ監査役監査は監査結果の報告を主目的とするものではないことを指摘されたうえで︑監査役. の本質は代替的な経営機関性を有するものであるとする教授の独自な解釈論に対し︑本稿は必ずしも全面的に同調 するものではないにしても︑前記の指摘自体はきわめて妥当な見解であると思われる︒. また︑今井宏教授は︑監査役の﹁事前監査と事後監査の両機能の間では︑監査役の任務として法律上どちらが主.

(5) でどちらが従であるという区別はない﹂とされ︑また︑監査役は業務監督機関として﹁事前監査・事後監査の両権. 限の比重は法律的には変らない﹂ものにされながらも︑なお﹁実際の会社に監査役の通常の活動としては︑事前監. 査活動の比重が事後監査と変らないどころか︑むしろ事前監査こそが監査役の主たる活動内容となるべきものでは. ないかと思われる﹂と力説され︑なぜなら︑﹁監査役は独立の業務監査機関であるにしても会社外の存在ではなく︑. 会社内部において自律コントロ!ルの機能を担当するものにすぎない︒会社外部からの批判にされる会社行動の担. ことに株主総会における報告. 当者としての意味では︑監査役もまた良かれ悪かれ取締役とともに﹃経営者﹄の一部にほかならないが︑そのよう な部内者による監査である以上︑多少とも会社の対外的告発意味を伴う監査報告. よりも︑事前の監査と修正の方向を選ぶのが実際であろうし︑機関の性格からもそれが自然であると考えら ︵7︶. れる﹂と指摘される︒このように︑監査役の監査業務の実際および業務監査機関としての監査役の性質に着眼し︑. 事前監査の重要性を強調するという教授の見解は︑きわめて妥当な主張であると思われる︒. さらに︑神田秀樹教授は︑商法とくに常勤監査役の設置を定める趣旨から︑常勤監査役の監査の本質的機能は︑ ︵8︶ 事前監査であり︑その監査の範囲は妥当性監査にも及ぶべきであると主張される︒もっとも︑妥当性監査か︑適法. 性監査かについての議論はともかくとして︑常勤監査役の本質的職務は事前監査であるという理解は︑正当である と思われる︒. 思うに︑少なくとも特例法上の大会社においては︑会計監査については一次的には会計の職業的専門家たる会計. 監査人によって担われることになるので︑監査役監査の中心は業務監査であることは︑いうまでもないことであろ. 一三一. う︒また︑監査役が行う業務監査のうち︑事前監査または事後監査のいずれが優るかは︑法文上とくに明確に定め 株式会社監査制度論︵上︶.

(6) 早法七三巻一号︵一九九七︶. 一三二. るというような事柄ではないが︑しかし︑企業経営の監査・監督メガニズムの中心は︑取締役等の不正行為を未然. に防止し︑会社の業務執行の適正化を担保することであると考えれば︑監査役監査の本質的機能は事前監査にある. と考えるべきではないか︒また︑かりにそうであるとすれば︑株主総会に対する報告は︑むしろ前記のような本質. 的職務に付随してくるものとして考えられるのではないか︒少なくとも︑このように考えてこそ︑株主総会の著し. い形骸化という社会的事実に対応可能な︑あるべき監査役制度を解釈論上も立法論上も解明の基礎的な手がかりを. 与えることになるように思われる︒したがって︑以上の見解に立てば︑監査役監査に対する監査論の理解は︑かえ. 監査役監査の目的. って監査役監査の本質を没却するものであり︑無用であるのみならず︑有害でさえもあるように思われる︒. 3. ところが︑なぜ︑株式会社には監査機構としての監査役は必要とされるのか︑あるいは︑監査役は誰のために監 ︵9︶ 査をするのであろうか︒この問題について︑監査役の監査は︑株主および会社債権者のためのものである︑という. ように︑株主と会社債権者とを並べて説明するのが一般的ではあるが︑しかしなぜか具体的な説明になるのにつれ. て︑説明の比重は徐々に株主のほうに傾斜していくのも一般的に見られる傾向のようである︒監査役は基本として. 会社経営から疎外されてきた株主の利益を保護し︑ただ︑会計監査において債権者保護の役割をも担っているとい. う通説的な立場からすれば︑前記のような説明のしかたは︑むしろ当然のことといえる︒それどころか︑もっぱら 株主の利益保護の観点から監査役監査の必要性を論証する文献は︑決して少なくない︒. 株主と監査役との関係について︑監査役監査の本質については︑学説は一般に︑民法上の組合における組合員の.

(7) 財産検査権︵民法六七三条︶に求められ︑したがって︑合名会社における非業務執行社員の業務監視権︵商法六八. 条︶や合資会社における有限責任社員の監視権︵商法一五三条︶とをほぼ同じ性質のものとして捉えたうえで︑株 ︵10︶. 式会社の場合には︑監査機構たる監査役制度の必要性を所有と経営の分離とに結びつけるところに︑監査役監査の. 本質を求めている︒このように︑以上の見解は︑監査役監査の原点を組合員や他の会社形態における社員の奪うこ. とのできない権利として捉えながらも︑所有と経営の分離という株式会社の特異佳を見極め︑現行法に忠実に監査. 役の本質を論理的に解明しようとするものであり︑そのかぎりではきわめてわかりやすいものである︒ただ︑この. 見解もまた︑現行法および従来の伝統的会社法理論と同様に︑株主像が抽象的かつ理念的に把握され︑しかも︑理. 念型の株式会社を念頭に置かれているところに疑問が存するように思われる︒周知のように︑今日においては︑一. 口に株主といっても︑法人株主もあれば個人株主もあり︑支配株主もいれば一般株主もいる︑というように︑株式. 所有の極度の分散のため︑株主の異質化は著しいものがある︒このことを念頭において︑前記のいわゆる所有と経. 営の分離論をごく理念的に整理していくと︑以下のようなことが考えられるのではないかと思われる︒すなわち︑. 所有と経営が分離されていない場合には︑監査役制度は不要とされる︵ここでは︑ひとまず監査役と株主との関係を. 中心に議論を進めることにするので︑会社債権者の保護には触れないことにする︶ことにもなり︑所有と経営とが極度. に分離され︑いわゆる経営者支配のごとき所有と支配とが分離される段階に至った場合には︑監査役制度はもはや. 機能しうる余地もなくなるであろう︒結局︑監査役が機能しうる局面は︑いわゆる株主は会社を支配するが︑経営. はしないという場合だけに限られることになるのではないか︒しかしながら︑この場合の﹁株主﹂とは︑むしろ支. 二壬二. 配株主と呼ぶべきものであり︑したがって︑この場合の監査役の本質は︑もはや前記の非業務執行組合員または社 株式会社監査制度論︵上︶.

(8) 早法七三巻一号︵一九九七︶. 員の監視権の本質とは相当掛け離れたものになるようにも思われる︒. 一三四. 所有による経営のコントロール. か. 新山雄三教授は︑ドイツ株式会社立法の成立過程における︾亀俄o窪胃簿の登場について詳細な実証的研究を通 して︑>亀ω8算段讐は︑本来﹁資本多数決主義によって第一次的︵直接的︶. ら排除されている︑局外少数派株主の利益代表機関として支配的多数派株主目経営を監査することによって︑セル. フコントロール機能の空洞化を補完するために︑第二次的︵間接的︶ 所有による経営のコントロール を果たす ︵11︶. ことを任務とする機関であり︑そのようなものとして︾亀ω♂算巽讐は︑業務執行から独立した文字通りの監査機. 関であると考えられるべきであった﹂と分析され︑さらに︑﹁︾亀俄o浮質簿を業務執行から独立した純粋な監査機. 関として衣替えすることによって︑一方で業務執行という行為が︑近代的法規制システムの中では︑本来的には所. 有者利益に依拠すべきものであるという要請に応えつつ︑他方で所有者利益ではないが業務執行の有り様に密接な. 利害関係を有する諸々の関係者達をも︑︾亀巴o洋霞簿に参加させるという形で業務執行を監視監督させることが ︵12︶. 可能になり︑株式会社企業に対する現代的法規制における多元的諸利益の配慮という現代的要請に応えうることが 出来ることになる﹂と述べられている︒. また︑森淳二朗教授は︑まず︑伝統的な監査役理論のもとで︑現行監査役制度が完全に機能しうる前提条件︑す. なわち︑﹁第一には︑株式が完全に分散しており︑どの株主も等質といえ︑しかもそれらの株主が積極的な経営参. 加意欲を有しているという条件が存在することである︒第二には︑特定の支配株主が存在する場合︑その支配株主. が自己の経済的利益の極大化ではなく︑つねに会社利益の極大化を追求するという条件がみたされることである﹂. ことを想定され︑現行法は︑まさに前記のような﹁パラダイス状況の株式会社を理念型として現行監査役制度を法.

(9) ︵13︶. 定している﹂のであると指摘されている︒次いで︑教授は︑株式会社において支配株主と一般株主という異質株主. の存在および会社債権者の保護を念頭に置かれ︑株式会社における利害調整の課題に対し︑より一歩踏み込んだ検. 討をされている︒すなわち︑教授は︑従来の株主財産権の法理に︑資本多数決制度および株主有限責任制度の論理 ︵14︶. ︵15︶. を加えられ︑この三つの論理をもってそれぞれの領域の利害調整をはかるべきことを説かれ︑そのうえ︑いわゆる. ﹁三本マスト型会社法﹂の論理にもとづく機関構成を展開されている︒具体的に︑監査役についていえば︑第一に︑. ﹁機関構成の枠組みにおける会社財産管理をめぐる株主間の利害対立を監査する機関﹂の必要性に対し︑現行監査. 役は性質上これに近い︑とされる︒第二に︑﹁株主有限責任制度の法的枠組みにおける会社財産管理をめぐって生. じる株主と債権者間の利害対立を監査する機関﹂の必要性に対し︑現行監査役の会計監査権限や会計監査人の制度. は︑そうした趣旨のものであるとされる︒そして第三に︑﹁資本多数決制度の枠組みにおける会社財産管理をめぐ. って生じる支配株主と一般株主間の対立を監査する機関﹂の必要性に対し︑中立性を確保された﹁資格監査役﹂を. もって対応し︑さらに︑この中立監査役の存在は前記の二つの監査機関の活性化にもつながるであろうと︑説かれ. る︒しかしながら︑以上の趣旨および機能とする﹁資格監査役﹂または﹁中立監査役﹂の構想および実現それ自体. は︑決して容易なことではない︒それゆえ︑同教授のさらなる研究成果の発表が待たれる︒. 監査役の監査と会社債権者の保護との関連づけは︑一般に株式会社における株主の有限責任制度に求められてい. る︒すなわち︑人的会社の場合︑社員は会社債権者に対して無限責任を負うことで︑対外的に社員の人的信用を基. 礎とするのに対し︑物的会社の場合には︑社員は︑間接的かつ有限責任しか負わないことになるので︑会社債権者. コニ五. にとって会社財産は唯一の担保となるのである︒したがって︑資本充実・維持の原則のほか︑会社債権者を保護す 株式会社監査制度論︵上︶.

(10) 早法七三巻一号︵一九九七︶. 一三六. るための様々な制度が用意されている︒そのうち︑会社の会計または計算の適正化を担保し会社財産に関する正し. い情報を会社債権者に開示させていくところに︑監査役の監査と会社債権者の保護とが結びつくことになり︑いい. かえれば︑監査役が会計監査を行うことによって︑会社債権者の保護をはかっている︒以上は︑監査役の監査と会 社債権者との関連づけについての一般的理解である︒. しかしながら問題は︑会社債権者の保護を前提にして考える場合においても︑はたして会社財産の維持は会計監. 査のみをもって図ることができるのか︑という点にある︒すなわち︑取締役の競業取引︵商法二六四条︶︑自己取. 引・利益相反取引︵商法二六五条︶および利益供与︵商法二九四条の二︶というような違法行為の監査は︑監査役監 ︵16︶. 査の職務であり︑そこで守られているのはいうまでもなく会社の利益であるが︑ただ︑この場合の会社の利益に. は︑株主の利益のほかに会社債権者の利益も当然に含まれるように思われる︒そして︑﹁大会社の監査報告書に関. する規則﹂は︑まさに大会社をめぐって不特定多数の会社債権者の存在を配慮し︑その第七条をもっていっそう明. 確に定めることで︑株主および債権者の保護を図ろうとしているのである︒この﹁七条監査﹂の内容は︑いずれも. 会計監査に含まれえないことはいうまでもない︒このように︑監査役監査と会社債権者との関係については︑従来. 必ずしも十分に議論されてはいないように思われる︒また︑コーポレートガバナンスという観点をも踏まえて︑監. 査役監査の目的またはその存在意義については︑新たな理論構成を求められているのではないか︒. 4 本稿の研究課題. 本稿は︑まず明治初期商法制定前における会社経営機構の構造︑ 次いで商法における株式会社の監査制度の沿革.

(11) を概観しその変容を明らかにする︒次に︑監査役監査の目的および機能について︑従来の議論を踏まえたうえで︑. それについての通説的理解の問題点と限界を検討し︑新たな理論構成を試みることにする︒そして最後に︑コーポ. 監査制度の形成と展開. 明治初期における会社の経営機構. 二. レートガバナンスの観点から︑監査役監査のあり方について若干の立法論的提案を提示したい︒. 1 ︵1︶ 総説. 日本における資本主義の発達は︑後進的資本主義国とりわけアジア諸国において一般に見受けられるように西洋 ︵17︶. 諸国の発達した生産技術および経済諸制度を移植するという形でなされ︑株式会社制度も︑かかる資本主義的な技. ︵18︶. 術と制度の一つとして移植されたものであった.すでに諸先学の指摘されているとおり︑明治維新以前には共同企. 業たる企業形態こそ存在していたが︑近代的な会社制度とりわけ株式会社制度はまったく存在しなかった︒すなわ. ち︑﹁西洋諸国では︑前期的資本の集積集中の形態として︑会社の方式が確立し︑それがブルジョア革命の後に偉 ︵19︶. 大な機能を発揮したのであった︒その発展の過程は︑わが国においては︑正にさかさまの形で現れたわけである︒. ここには継承されるべき固有の発展は何もない﹂︒したがって︑会社制度を含む商事法制は︑明治政府は﹁いわゆ ︵20︶. ご二七. る殖産興業政策を推進して商工業を発展させるために︑これを阻止する封建的諸制限を打ち破り︑商事法制を天下 りに西欧からもちこもうと計ったのである﹂︒ 株式会社監査制度論︵上︶.

(12) 早法七三巻一号︵一九九七︶. 一三八. このように明治政府は︑殖産興業︑富国強兵の政策を達成するために先進資本主義国における近代的な工場制機. 械工業の導入を可能ならしめる会社制度および銀行制度の創設を必要とし︑かかる試みはすでに徳川幕府の兵庫商. 社の設立を皮切りに明治に入ってから通商会社・為替会社︑国立銀行および私立銀行ならびに一般製造会社制度の. 創設といった様々な形をもって展開された︒以下は︑これらの過程においてきわめて代表的な意義を有する通商会. 通商会社・為替会社. 社・為替会社および国立銀行を中心にして︑会社の経営機構という限定的なテーマに則って検討を試みてみること にする︒. ︵2︶. 明治政府は前記の維新の大業を実現するために︑まず明治元年︵一八六八年︶に商法司が︑さらに明治二年にこ. れにかわって通商司が設けられ︑その通商司のもとで設立されたのは通商会社・為替会社である︒このうち︑通商. 会社は内外の商業を振興させることを目的とし︑為替会社は通商会社の経営に必要な資金を提供すると同時に民間 ︵21︶. の金融を円滑ならしめることを目的とした︒いずれも通商司の指示を仰ぎ︑また同時に政府の特別の保護のもとで. ︵23︶. 活動していたため︑まったく半官半民の会社であったといわれる︒このように︑明治二年より通商会社と為替会社 ︵22︶ は主として︑東京︑大阪︑西京︑横浜︑神戸︑新潟︑大津︑敦賀等の商業上の要地に相次いで設立された︒以下 は︑大坂商社規則を通して大阪通商会社︑為替会社の内部構成を見てみたい︒. まず︑会社の構成員は社中と呼ばれ︑社中はその分限に応じて差加金または身元金を出資し︑これを為替会社に. ︵24︶. 預け入れて月一分の利息を受け取り︑会社になお利益があればその出資金に応じて利益配当を受け取る権利を有 するとされている︒.

(13) 次に︑会社の経営機構としては︑多額の出資者から数名の惣頭取を官命によって任命し︑会社の重要なる意思決. 定事項については惣頭取が連署して決定し責任を負い︑その他の事項についてはそれぞれの当番の惣頭取が単独で. あたるとされていたようである︒惣頭取のほかにそれと同様に発起人から官命によって任命される頭取並が置か. れ︑主として会社内部にかかわる業務を担当せしめた.惣頭取および頭取並は交代して勤務し︑通商会社の場合に. は六人︑為替会社の場合には一〇人ずつ月番を立てて業務を執行した︒非番の者が二人ずつ順次にときどき会社を. 見廻らなければならないとし︑会社の監督機関としての役割を定められていた︒また︑株主総会に類似する社中一. 同の評議会たる機関が存在し︑共同で会社の重要事項について決定するのであるが︑実際にはほとんど活動しなか. ったようである︒なお︑為替会社においては︑会社の使用人として今日の支配人に相当する取締という役職が存在. し︑この取締になった者の多くはいずれも惣頭取の手代であった︒しかも︑実際には社中はこれらの取締に会社の ︵25︶. 経営を一任し︑取締は会社経営について全責任をもって毎日勤務し︑単なる使用人ではなく︑事実上会社の実権を 掌握していたといわれる︒. このように通商会社・為替会社においては︑一種の経営機構ひいては重役制度とも見られるべきものが存在した. のではあるが︑しかしながら︑惣頭取や頭取並は会社が自ら選任するのではなく︑すべて官命によって任命される. こと︑しかも︑かかる会社機関の内部において権限配分が必ずしも明確にされていないこと等により︑きわめて不. 完全なものであったと言わざるをえない︒もっとも︑それは︑当時において会社についての知識の欠如や会社制度. 一三九. の移植を考案する際のモデル法を具体的に明示することさえできなかった等によるところが大きいのではないかと 思われる︒. 株式会社監査制度論︵上︶.

(14) 早法七三巻一号︵一九九七︶. ︵3︶ 国立銀行条例. 一四〇. 前記の為替会社の失敗に鑑み︑明治政府は新たな金融機関の確立をはかり︑貨幣制度を確立する必要に迫られて. いた︒明治三年︑当時の大蔵少輔伊藤博文は芳川顕正︑福地源一郎等二一名の随員とともに米国に赴き金融貨幣制. 度について調査を行い︑その後次のように建議をした︒第一は︑貨幣の制度は金貨本位を採用すべきこと︑第二. は︑金札引換公債証書を発行すべきこと︑そして第三は︑貨幣発行会社を設立すべきことであるが︑そのうち︑後 ︵26︶︵27︶. 者は米国のナショナルバンクの制度に習って紙幣発行の特権を有する銀行を設立すべきとする意見書とともに米国. 紙幣条例︵一八六一二年︑Z>目OZ>■ω︾Z区>O日︶を参考として送達した︒この米国紙幣条例を模範として欧米諸 ︵28︶. 国の貨幣に関する法律規則を参酌し当時の実情に照らして審議立案し︑明治五年一一月一五日に国立銀行条例︵太. 政官布告第三四九号︶およびその施行細則たる同成規を制定公布した︒﹁国立銀行﹂の名称の由来について︑後に渋. 沢栄一は︑以下のように述べられている︒﹁ナショナルと云フハ国トイフコトタバンクト云フノハ金ヲ取扱フ場所. タソレニハ何トカヨイ名ハナイヵ両替屋モ余り下品ノ名ナリサテ何ト云フ名ニシタラヨカラウト大イ困却シテ彼ノ. 学者此ノ先生ト種々相談ノ上行ト云フ字ハ支那杯テハ洋行トカ商行トカ云フテ商店二用フル字タナショナルト云フ. ハ国ト云フ事ナレトモ国ノ一字テハ熟字トナラヌカラ国立トシヨウ又金行ト云フモ妙テナイカラ銀行トシヤウト云 ︵29︶ フノテ終二国立銀行ト云フ名力生レテ来タ﹂のであるという︒. 同条例によれば︑国立銀行は普通銀行業務のほかに党換銀行券発行の特権が与えられていたことや多額の官金の. 0︶. 取扱いが重要な業務として行われていたことなど︑中央銀行の役割をも有していた二重的性格のものであったが︑ ︵3 為替会社と決定的な違いをもっていた︒すなわち︑為替会社と異なり︑株金に利息を附することなく︑配当のみ附.

(15) せられ︑しかも頭取︑取締役の承認を得たことを前提に株式を自由に譲渡することができ︵﹁此株高ハ全タ株主ノ所. 有物ナレハ頭取取締役ノ承認を得銀行ノ元帳二引合セシ上ニテ譲渡ヲナスコト勝手タル可シ﹂同条例五条第三節︶︑かつ. 明文をもって有限責任を法認した︵﹁銀行ノ株主等ハ誰彼ノ差別ナタ其営業二付テノ損益ハ株高二応シテ之を負担ス可シ﹂. 同条第五節︑﹁銀行の株主等ハ縦令其銀行二何様ノ損失アルトモ其株高ヲ損失スル外ハ別二其分散ノ賦当ハ受ケサル可シ﹂. 同条例一入条第二一節︶.ここで最も重要なのは︑後に検討するように︑取締役は︑為替会社・通商会社におけるよ. うに官命によって任命されるのではなく︑株主によって選任されるのであり︑経営機構に関する規定もはるかに整 備されていたということである︒. 以下においては︑国立銀行条例および同成規にもとづきその経営機構についてどのように定められていたのかを みていくことにし よ う ︒. 同条例によれば︑国立銀行の﹁役人﹂とは︑頭取︑取締役︑支配人︑勘定方︑帳面方︑書記方等が定められてい. る︒取締役は︑﹁少クトモ元金三十株以上ヲ所持シタル者﹂︵同条例四条第五節︶のうちから︑株主等のコ同ノ協. 議﹂︵同条例二条第二節︶によって五人以上を選任し︑﹁取締役ヲ選挙スヘキ定式ノ会議ハ毎年正月十一日ヲ定日ト. シ株主等ミナ銀行二集りテ議ス可シ﹂︵同成規定款文例第五条︶としている.また︑取締役のうちから﹁取締役ノ衆. 議ニテ其中ヨリ一人ヲ選ミ之ヲ頭取﹂︵同成規定款文例第六条︶とし︑﹁取締役等ハ又其内ヨリ副頭取一人ヲ選挙ス. ヘキ﹂であるが︑﹁但此副頭取ハ頭取闘席スルカ其他ノ事故二就テ其事務ヲ代理スルマテニシテ平日勤向ハ取締役 ト同様﹂︵同成規定款文例第六条︶である︒. 一四一. ところが︑頭取はいかなる職務権限を有するであろうか︒同成規によれば︑頭取は︑﹁銀行ノ事務全体ヲ注意シ 株式会社監査制度論︵上︶.

(16) 早法七三巻一号︵一九九七︶. 一四ニ. テ総テ其責二任スヘシ﹂とするところからすれば︑実に会社の最高責任者たる社長として捉えられることができ︑. ︵3 1︶. ﹁頭取﹂たる名称自体は︑Z︾目OZ︾いω︾乞国︾O↓における胃窃こ①日に由来するものであると指摘されて. いる︒しかしながら︑頭取は﹁新一二事ヲ定メ又ハ之ヲ更正シ又ハ之ヲ廃止シ及ヒ定例ナキ出納ノ事等﹂について. は︑取締役の協議をもって同意を得なければこれを決することはできなかった︵同成規定款文例第八条︶︒もっと. も︑﹁取締役等﹂は︑頭取を選任するとともに﹁取締役等ノ三分ノニ以上ノ存意二依リテ﹂それを退任させること もできる︵同成規定款文例第六条︶︒. それでは︑﹁取締役等﹂はいかなる存在であり︑またいかなる職務権限を与えられていたのであろうか︒条文中. には取締役会たる語は見当たらないとともに︑取締役個人に関する権限規定もまったく存在せずに︑全文を通して. または岳o&お90おに由来するものであると指摘されて. 多くの場合には﹁取締役等﹂として︑一部の場合には﹁取締役ノ衆議﹂として定められており︑この﹁取締役等﹂. ︵2 3︶. または﹁取締役ノ衆議﹂は︑実はげ8巳99お90お. いる︒したがって︑この﹁取締役等﹂は実質的に一種の会議体として活動することが予定され︑かつ以下において みるように︑会社の業務につき多くの意思決定権や監督権が付与されていたのである︒. 同条例によれば︑﹁取締役等﹂は前述するように株主の株式の譲渡承認権︑頭取および副頭取の選任・解任権を. 有するほかに︑銀行利益金の分配に関する決定権︵﹁国立銀行ノ頭取取締役等ハ毎年両度宛銀行ノ総勘定ヲナシ其純益. ヲ正算シ株高二応シテ公平二之を分割ス可シ﹂同条例一三条第一節︶さえ与えられており︑さらに﹁銀行ノ役人﹂に対. して多くの監督権限を有している︒それは︑すなわち︑. ﹁此頭取取締役等ハ銀行ノ業ヲ始ムルニ当リ支配人会計役書記役其他ノ役員ヲ定メ諸役ノ勤向ヲ取極メ約束ヲ掲.

(17) ケ罰例ヲ設ケ便宜胤既進退等諸般ノ条件ヲ換載シタル申合規則ヲ取設ク可シ﹂︵同条例四条第三節︶︒. ﹁取締役等ハ又銀行ノ事務ヲ取扱フヘキ支配人並二書記勘定方帳面方等ノ役人ヲ選任シ又右ノ諸役人等ノ給料ヲ. 取定メ衆議ノ上ニテ銀行ノ得失ヲ考へ或ハ此役人等二重年ヲ命シ或ハ之ヲ放免スルノ権アルヘシ﹂︵同成規定款文例 第六条︶︒. ﹁取締役等ハ又銀行ノ書記及ヒ役人等ノ職掌ヲ分課シ其身元ノ引受人ヲ約シ罰金ヲ予定スルノ権アルヘシ﹂︵同 条︶︒. ﹁当銀行ノ諸役人等ハ其職務ヲ廉直二勤ムルコトノ証拠トシテ奉職ノ節憧ナル請人両人以上ヨリ身許請状ヲ取締. 役二差出スヘシ若シ此役人等二過失アラハ取締役ハ其請人二迫リテ相当ノ罰金ヲ当人ヨリ取立テ以テ当銀行ノ損耗 ヲ償フヘシ﹂︵同成 規 申 合 規 則 文 例 第 一 〇 条 ︶ ︒. ﹁当銀行日用ノ雑費ハ支配人之ヲ支払毎月毎年遣払明細帳ヲ頭取二差出シ頭取検印ノ上取締役へ廻ス可シ﹂︵同 申合規則文例第一八条︶︒. もっとも︑申合規則文例の﹁検査ノ事﹂においては︑取締役のうちから三ヶ月ごとに一人を選んで﹁検査役﹂と. し︑この検査役について監査権限と同時に報告義務を定めている︵﹁取締役ハ三ヶ月毎二其内ヨリ一人ヲ選挙シテ検査. 役タラシムヘシ此検査役ハ当銀行ノ有高ヲ計算シ勘定ノ差引ヲ改メ諸帳面ノ締高等ノ正直ナルヤ否ヲ検査シ又当銀行商業ノ. 実際憧二立行タヘキヤ否ヲ検査シ其顛末ヲ集会ソ節取締役一同二報告シヘシ﹂︵同申合規則文例第一九条︶.このように頭. 取は銀行全般の業務についての最高責任者たる存在であるにもかかわらず︑なおも﹁取締役等﹂の拘束を受け︑こ. 一四三. の﹁取締役等﹂こそが通常の業務以外の重要事項に関する意思決定とともに頭取および他の使用人に対する監督権 株式会社監査制度論︵上︶.

(18) 早法七三巻一号︵一九九七﹀. 一四四. 限を有する最高の業務執行機関にほかならないであろう︒しかも︑日本の最初の完全な株式会社たる国立銀行条例. における経営機構には︑少なくとも法制度的には会社機関における権限配分や相互牽制の原理を一応内在していた ことを指摘することができよう︒. しかしながら︑前記の法制度にもかかわらず︑実際に設立された国立銀行の経営機構の実態はどうであったろう か︒. ︵34︶ 国立銀行条例にもとづいて最初に設立され開業された第一国立銀行の実態について︑総監役︑その後総頭取に就. 任し︑実質的に実権を掌握していた渋沢栄一は︑﹁条例成規の遵由スヘキアルモ併資ノ株主等ハ概ネ皆旧套ヲ株守. スルノ随見ヲ存シ毫モ条例ノ何物タルヲ知ラス﹂と批判し︑また︑銀行経営の実態について﹁銀行ノ当務ハ素ヨリ. 頭取支配人ノ任ニシテ総監ハ其当否ヲ監スヘシト錐モ実際上二於テ却テ稽延渋滞スルノ患アルヲ以テ栄一常二其考. 案ヲ設テ取締役ノ会議二附シ而後其事ヲ挙行セリ故二明治六年八月開業ヨリ今日二至ル迄凡ソ事議案ヲ設テ取締役. ノ承認ヲ得サルナシ而シテ議ヲ決シ事ヲ処スルハ概ネ皆総監二帰ス其頭取ノ如キハ未タ一日其事を執ラス副頭取ノ. 如キモ亦一月間僅云二両次来テ概要ヲ諮詞スルニ過ギス甚ダシキハ自家ノ事務二拮撮シテ銀行ト輸扁ヲ競フニ至ル. 幸二二三ノ取締役及ヒ以下役員アリテ其責任ヲ埴ハスト云トモ此輩モ亦多くハ両家ノ隷属二出ツルヲ以テ常二型肘ノ. 弊ナキヲ免レス名実ノ相称ハサル如此夫レ此極マレリ是レ栄一ノ不能常二其匡正ヲ要シテ未タ之ヲ遂クルヲ得サル. ナリ﹂というように︑第一国立銀行における経営機構の有名無実の実態を指摘しつつ︑しかもその弊害を︑本来不. 特定多数の株主より構成されるべき株式会社︵併資︶たる銀行を三井一家の私物化にいたしめる三井一家の絶大な. 支配力というところにその原因を求めている︵﹁景状如斯今日ノ実際ヲ論スレハ此銀行ハ全タ三井一家ノ別店二比シク其.

(19) 役員ノ如キモ多タハ其隷属二出ツルヲ以テ縦令株主ノ衆議二出テ其事務ヲ処分スル名アリト錐トモ其約東ヲ厳正シテ之ヲ践 ︵35︶ 行スルノ実ナケレハ百事三井ノ考案二帰セサルヲ免レス﹂︶ようである︒. しかしながら︑当時の国立銀行における経営機構の有名無実︑ひいては取締役制度の無機能化たる実態は必ずし. も第一国立銀行に特有の現象ではなかったようである︒すなわち︑第一国立銀行におけるように︑本来銀行の最高. 経営者たる頭取がまったく銀行の業務を執行しないにもかかわらず︑なおもそれ以下の役員や使用人を駆使して銀. 行を三井一家の私物化にさせようとするところに弊害が存在するのに対し︑他の国立銀行においては︑頭取による. 専横ぶり︑独走体制はかなり一般化されていたようである︒これについて︑大蔵省が編集し当時の銀行経営に対し. て指導的役割を果たした銀行雑誌に掲載されていた論評は以下のように記している︒﹁我国立銀行二至リテハ大二. 然ラサルモノアリ頭取及ヒ他ノ役員ヲ撰ムヤ大約米洲聯邦ノ制二檬ルト錐トモ唯一ノ取締役集会ナルモノ未タ起ラ. ザルナリ故二取締役ノ職アリテ而シテ取締役ノ任ナシ銀行ノ事務中取締役ノ取扱フベキモノナシ其銀行二来ルヤ一. 寓公ノ如シ否ラサレバ支配人ト肩ヲ比ベテ頭取ノ指呼ヲ侯タザルベカラズ割引ヤ貸附ヤ銀行ノ重事タリ然レトモ頭. 取ノ一喝之ヲ決スルを得ヘシ取締役タルモノ啄ヲ容ルヲ得ス或ハ人ヲシテ取締役ノ職ハ銀行二何等ノ功労アルヤノ. 疑念ヲ抱カシムルアルニ至レリ蓋シ国立銀行ノ頭取ハ重ナル株主ニシテ其痛痒利害ハ大約他ノ株主ト同一ナルヘシ. ト錐トモ其専権ヲ有シテ取締役等ノ之ヲ制スル者ナキヲ以テ或ハ他ノ株主ノ利益ヲ殺イテ而シテ独リ銀行行務ノ役. 貝ノミヲ利スルノ所業ヲ為スコト難キニ非ラス幸ヒニシテ斯ル桿鮎ノ実例ヲ未タ我邦二見ザルモノハ銀行株主一般. ノ幸福ニシテ又実二我国ノ幸福ナリ此故二銀行ノ全権ヲ挙テ一二行務ノ役員二委スルハ取締役ノ衆員ヲシテ之ヲ制. 一四五. 限セシムルノ持重ナルニ如ス然ラザレバ頭取ハ取締役ノ一員ナリト錐トモ実二銀行行務ノ役員ニシテ其権勢盛ナル 株式会社監査制度論︵上︶.

(20) 早法七三巻一号︵一九九七︶. 一四六. ハ取締役ノ権勢ヲ益スニ非ラスシテ却テ之ヲ抑制シ随テ株主一般二及ボスモノナリ是蓋シ信ヲ世間二執ルノ結構二. 非ラザルベシ︵中略︶之ヲ要スルニ英ノ銀行ハ其権取締役ノ衆議二在リテ而シテ行務ノ役員ナル支配人ハ其決議ヲ. 執行スルモノナリ米洲連邦ノ制ハ権行務ノ役員ナル頭取二在リテ而取締役の衆議ハ之ヲ制限スルモノナリ我邦二在. リテハ権行務ノ役員ナル頭取二在リテ而シテ之ヲ制限スルモノナシ英人某言ヘルコトアリ日ク取締役ハ銀行ノ精神. ニシテ行務ノ役員ハ手足ナリ又日ク取締役ノ衆貝ハ制限︵コントロール︶ノ権アリテ而シテ行務ノ役員ハ執行︵メ ︵36︶ ネーヂ︶ノ権アリト我力銀行者タルモノ願クハ少シク顧慮スル所アレ﹂︒. 最高経営者の独走体制︑ひいては取締役︵会︶の有名無実についての以上の指摘は︑今日においても傾聴すべき ところが少なくないであろう︒. ロエスレル草案. 2 昭和二五年改正まで ︵1︶. 日本における近代的会計監査の先駆は︑明治初期の国立銀行検査制度にさかのぼることができるが︑商法上の最. も重要な監査制度としての監査役制度は︑商法典制定当初より明治二三年商法典︵旧商法︶および同三二年商法典. ︵新商法︶により法定されている︒また︑監査役制度の歴史的淵源は︑オランダ東印度会社の大株主総会に由来し︑ ︵37﹀ その後英米法においては取締役会へ︑ドイツ法等においては監査役会へ発展してきたとされ︑したがって︑会社の. 運営機関の構造には︑アメリカの各州会社法が採用するような業務執行機関と監督監査機関とを取締役会という一. つの機関で構成する一元制と︑ドイツ株式法が採用する業務執行機関と監督監査機関とを別個独立の機関として構.

(21) 成する二元制として存在するが︑日本法にいたっては︑当初よりそのいずれとも異なる独自の機関構造が法定され たのである︒. すなわち︑明治一七年にドイツ人ヘルマン・ロエスレル︵=RBき勾8ωσ︶が作成し旧商法の原案たる商法草案. では︑株主全員により構成される株主総会と︑株主中より株主総会において選任される業務執行機関としての﹁頭. 取﹂︵取締役︶および同様に選出される監査機関としての﹁取締役﹂︵監査役︶とを︑会社機関として構成していた︒. 頭取及ヒ発起人ノ業務取扱及ヒ殊二会社ノ創起設立上二於. 同草案における﹁取締役﹂すなわち監査役は︑その員数は三名以上五名以下とされ︑任期二年の任意機関とされて いる︵同草案二三〇条︶︒﹁取締役﹂の主な職務は︑コ. 二. 決算帳︑比較表及ヒ利足利益ノ配当案ヲ検査シテ之ヲ株主総会二報告スル事. 三 会. テ法律二背戻シタル所ナキカ否又業務取扱ノ申合規則ノ条件及ヒ会社の決議二適合スルカ否ヲ監視シ且総テ其取扱. 上ノ錯誤ヲ検籔スル事. 社ノ利害上二於テ必要又ハ有益ト認ムルトキハ総会ヲ開ク事﹂︵同草案壬一コ条︶とし︑要するに﹁取締役﹂の主要. な任務は氏の要約によれば︑第一は︑頭取の業務の監督であり︑第二は︑計算の検査であり︑そして第三は︑会社. の利益上決議を要するため総会を招集するという三つである︑とされる︵同草案同条説明︶︒また︑その任務を執行. せしめるために︑﹁取締役員ハ何時ニテモ会社業務ノ景況ヲ審査シ会社ノ商業帳簿及ヒ其他ノ書類ヲ展閲シ会社会. 計ノ実況ヲ検査スルノ権利アル者トス﹂という権限を﹁取締役﹂に付与している︵同草案二一二四条︶︒﹁取締役﹂の. 有するこの﹁権利﹂は︑合名会社における非業務執行社員のそれと同一であり︑なぜならば︑﹁取締役﹂の職務は. 商業取引上直接の関係を有しない社員の代理とは異ならないからであると︑氏が説明される︒さらに︑取締役の責. 一四七. 任について﹁取締役員ハ頭取ノ業務取扱及ヒ其結果二就テ責任ヲ有セス但シ自己ノ担任義務ヲ侵シテ会社又ハ其債 株式会社監査制度論︵上︶.

(22) 早法七三巻一号︵一九九七︶. 主二損害ヲ受シメタルトキハ之ヲ負担セサル可カラス﹂と定める︵同草案二三五条︶︒. 一四八. ただ最も注目すべきは︑同草案二三一条について氏が掲げた説明である︒すなわち︑﹁尤モ取締役ハ頭取二対シ. テ禁制権ヲ有セスシテ只検査ヲ為シ以テ其結果ヲ総会ノ決議二供スル而已若シ然サルトキハ取締役ハ頭取ノ職掌内. 二立入リ頭取タルノ権利ハ全ク取締役ノ為二奪ル・二至ルコトヲ免レサルヘシ﹂として機関権限の分掌︑すなわち. ﹁取締役﹂の職務の性質は純粋に監査であるべきことを強調し︑さらにその職務の執行について﹁業務の監督ハ第. 一二其業務ノ法律又ハ法式二適当スルカ否第ニニ申合規則二符合スルカ否第三二不規則ニシテ間違ヲ生シ株主二損. 害ナカラシムルノ注意例ヘハ頭取其職務上ノ義務二背キ又ハ必要ノ事件ヲ隠匿シ又ハ詐偽ヲ為シ又或ハ頭取自己若. クハ一二社員ノ便益ヲ謀リテ取引ヲ為スコト等是ナリ然ト錐モ純粋ノ射利上二関スル取引ハ総会ノ決議二於テ制限. スルノ外ハ之ヲ頭取ノ専断二任セサル可カラス﹂と指摘する︒このように同氏の手による﹁取締役﹂すなわち監査. 役の職務を︑業務執行者たる﹁頭取﹂の職務行為を直接に牽制しうる﹁禁制権﹂なるものを一切与えないで︑ただ. 検査しその結果を総会に報告することに限定している︒以上は︑ロエスレル草案における監査役制度の基本的内容 である︒. ︵2︶ 明治二三年旧商法. 明治二三年に成立した旧商法は︑その内容が草案における監査役について僅かな修正に止まっている︒また︑こ. のときから︑従来の﹁頭取﹂および﹁取締役﹂たる名称を︑現行法におけるように﹁取締役﹂および﹁監査役﹂と. 取締役ノ業務施行力法律︑命. 変更されたわけである︒旧商法はまず︑監査役はその員数を三人以上とし︑その任期を二年以内と定めるが︑ただ 会社の必要機関であるとした︵一九一条︶︒次に︑監査役の職務については︑﹁第一.

(23) 令︑定款及ヒ総会ノ決議二適合スルヤ否ヤヲ監視シ且総テ其業務施行上ノ過懲及ヒ不整ヲ検出スルコト. 第二 計. 会社ノ為メニ必要又ハ有益ト認ムルトキハ総会を招集スルコト﹂︵一九二条︶と定め︑その権限につい. 算書︑財産目録︑貸借対照表︑事業報告書︑利息又ハ配当金ノ分配案ヲ検査シ此事二関シ株主総会二報告ヲ為スコ ト 第三. ては︑﹁監査役ハ何時ニテモ会社ノ業務ノ実況ヲ尋間シ会社ノ帳簿及ヒ其他ノ書類ヲ展閲シ会社ノ金厘及ヒ其全財. 産ノ現況ヲ検査スル権利アリ﹂︵一九三条︶として︑草案のそれとはほとんど異ならない内容であった︒したがっ ︵38︶. て︑会社機関における監査役の位置づけそのものは︑ロエスレル草案とまったく同様に定めれ︑このため旧商法一. 九二条について当時最も権威のある解説書は︑﹁監査役ノ職権ハ取締役ノ業務及ヒ計算二付テ不整又ハ過意アルモ. ノヲ発見スルニ止マリテ假令之ヲ発見セルモ禁制シ又ハ処分スルノ権アルコトナシ只タ其監査検査ノ結果ヲ総会二. 報告ス可キノミ︵中略︶監査役ハ決シテ監督役二非サルナリ﹂として︑監査と監督との性質上の相違を明らかに意 識し︑しかも監査役は監督者たる立場にあるべきではないことを強調する︒ ︵3︶ 明治三二年新商法. 新商法は︑一方旧商法の既存の内容について僅かな修正に止まっているのに対し︑他方従来の監査役の位置づけ からすれば変更とも考えられる内容を新たに加えたのである︒. すなわち︑一方新商法は︑監査役の任期ついて同一の監査役をして長くその職務に当たらせることは︑実際上そ ︵39︶. の弊害が少ないのみならず︑株主総会は少なくとも年に一回招集されるので︑任期を一年としても差し支えないと. して︑従来の二年を一年と短縮し︑監査役の員数については︑それを法定する一九一条を削除し︑一人以上となっ. 一四九. た︒また︑監査役の職務権限については︑まず旧商法一九二条一号および一九三条に定められた内容を合一し︑ 株式会社監査制度論︵上︶.

(24) 早法七三巻一号︵一九九七︶. 一五〇. ﹁監査役ハ何時ニテモ取締役二対シテ営業ノ報告ヲ求メ又ハ会社ノ業務及ヒ会社財産ノ状況ヲ調査スルコトヲ得﹂. ︵一八一条︶るとして︑その報告請求権および調査権を定め︑次に︑旧商法一九二条二号において計算書︑財産目. 録︑貸借対照表および事業報告書等の書類の検査および総会への報告義務について定めてあるところを﹁監査役ハ ︵40︶. 取締役力株主総会二提出セントスル書類ヲ調査シ株主総会二其ノ意見ヲ報告スルコトヲ要ス﹂︵一八三条︶という. ように包括的に定めた︒また︑監査役の責任について︑監査役が任務解怠による会社および第三者に対する責任を より明確化した︵一八六条︶︒. 他方では︑取締役との関係において見逃すことのできない職務内容が新たに加えられた︒すなわち︑. 第一に︑新商法一七五条は︑会社を代表して業務執行の全権を有する取締役が競業行為によって会社との利害衝. 突を避けるために︑取締役の競業禁止義務および取締役がこの規定に違反した場合︑株主総会決議をもって会社へ. の帰入権の行使可能期間を定めたのであるが︑この場合の会社帰入権の行使を監査役に委ねることにしている︵同 条三項︶Q. 第二に︑取締役と会社間の取引・利益相反取引の承認権を監査役にあらためて付与している︵同法一七六条︶︒. 第三に︑監査役は取締役または支配人との兼任禁止を定めながらも︑取締役中に欠員の場合︑監査役の一時取締 役の職務代行を認める規定を設けている︵同法一八四条一項︶︒. そして第四に︑取締役と会社または少数株主間の訴えについての会社代表の権限をあらためて監査役に付与した 規定を設けた︵同法一八五条一項︶︒. 以上の規定から考え合わせると︑監査役の職務権限として新たに加えたものは単なる量的な追加にとどまらず︑.

(25) むしろ︑これまでの監査役が純粋な監査機関であったのに反して︑ぞの性質に重大な変更をもたらし︑監督者たる. 位置づけを強めたものと見ることもできよう︒しかも︑新商法における監査役のこのような位置づけは︑昭和二五 年改正までは基本的に変更されなかったのである︒. ︵4︶明治四四年改正法. しかしながら︑明治二三年に日本商法上はじめて成立し︑同三二年に確立された監査役制度は︑その後必ずしも. 法の期待通りには機能していなかった︒とりわけ︑日清戦争および日露戦争による企業勃興の反動的経済恐慌は︑ ︵41︶. 一応資本主義の成熟段階に到達した日本経済に大きな打撃をもたらし︑数多くの銀行︑事業会社が倒産に追い込ま ︵42︶. れる事態が生じた︒そのうち︑特に代表的な大日本製糖株式会社の破綻は︑監査役制度の有名無実を暴露し職業的. 監査人による会計監査制度の導入を含めて監査制度の改善を朝野の問題に至らせる契機をもたらした︒ ︵43︶. この頃︑監査役の有名無実や無能無為を熾烈に批判する数多くの論文が発表された.岡野敬次郎博士は︑当時の. 監査役の実態について﹁然ルニ翻テ実際ノ状況ヲ観レハ法律ノ監査役二期待スル所一としシテ行ハレス各種ノ会社. 二監査役トシテ其ノ名ヲ列スル者年若千ノ報酬ヲ得テ空位ヲ擁スルニ過キス取締役ノ歓心ヲ得ルニ非サレハ其ノ位. 地ヲ占ムルサヘ覚束ナク縦令其ノ任二就クニ造テモ一タヒ取締役ノ逆鱗二触ルレハ忽チニシテ失墜セサル者稀ナリ. 於是力監査役ハ常二取締役ノ鼻息ヲ窺ヒ其ノ願使二甘シ迎合二後レサラムヲコレ努ムル者酒々トテ皆然リ其ノ実務 ︵44︶. ヲ観レハ形式的に取締役ノ計算書類二﹃前記ノ通相違無之候也﹄ト盲判ヲ押スヲ以テ能事終レリトシ﹂と︒. また︑監査役が機能しない理由につき上田貞次郎博士は︑﹁概して云えば日本の監査役は取締役程の勢力を有す. ︼五︸. る人物にあらず︵中略︶されば独逸に於て監査役とならん程の人物は日本にては自ら取締役となり︑又は取締役以 株式会社監査制度論︵上︶.

(26) 早法七三巻一号︵一九九七︶. 一五二. 外に立ちて︑取締役を制御すべし︒而して監査役には其の会社に関係薄き人か︑第二流の人物か︑又は老朽事に堪. へざるものをして多少の名声を維持せしむるの手段となすなり﹂と批判し︑その原因は人にあると指摘する︒いう ︵45︶. までもなく︑いかなる制度であれ︑その目的にそって機能化させるには﹁人﹂と﹁制度﹂の両面が問題であり︑必 ︵46︶. ずしも﹁人﹂だけの問題ではないというのが今日の共通の認識であろう.したがって︑俗に監査役は﹁出世への登. 竜門︑引退への花道﹂といわれているように︑もし今日においても監査役の置かれる状況が基本として異ならない のであれば︑制度の位置づけそのものを含めた本質的な議論がなされるべきであろう︒. 明治四四年改正をめぐる具体的改正の論議は︑ほぼ監査役の人選を株主以外から広く認めるためには監査役の株. 主たる資格の制限を削除すべきか︑または︑一九〇〇年イギリス会社法上の監査役制度にならって︑職業的専門家 ︵47︶. ︵48︶. たる公許計算人制度を創設しこれをもって監査役の任に当たらせるべきか︑という二点に絞られた︒そして前者の ︵49︶. 見解は︑岡野敬次郎や松本蒸治等により強く主張され︑当時の多くの法学者の支持を得られたが︑最終的に衆議院 ︵50︶. の反対により実現するには至らなかった︒しかしながら︑法学者の中でも反対論者はないわけではない︒たとえ. ば︑梅謙次郎氏は法律取調委員会の席上で次のようにその反対理由を述べられている︒これを要するに︑沿革的に. おいても日本法上の仕組みにおいても︑監査役は株主の代表者であり︑取締役は会社外から連れてくるが︑それを. 監督する者は株主でなければならないというのである︒もっとも︑監査役として選任された者は﹁常識ヲ以テ親切. 二大体ノ監督ヲシテ居レバ宜イノデアリ﹂︑専門的な事項については︑専門知識のある適当な人を頼めば︑よいの. であるので︑この意味では監査役を会社外から採らなければならない理由は乏しいとして︑仮に取締役と監査役の. 株主たる資格要件を削除しても︑直ちに﹁今日ノ各種ノ会社二於テ続々起ルトコロノ破綻ガ減ズルデアラウナドト.

(27) ハ想ヒモ依ラヌコトデア﹂ると︒. 1︶. ︵5 他方︑後者の公許計算人制度を創設しこれをもって監査役に当たらせるべきという見解に対し︑松本蒸治博士は. まずその沿革について以下のように分析する︒すなわち︑中世時代に発生する株式会社の大株主会から会社業務の. 監督機関として発展してきたのはドイツ法上の監査役︵>亀ω一魯翼琶であるのに対し︑この大株主会が変遷を経. て会社重役と合同し重役会︵ωo器9鼠お9・邑に発展するに至ったが︑イギリス法上の重役会の中に主として業. 務の執行をつかさどる業務執行重役会︵寓磐甜一轟ぎ銭︶と多少監督者の地位を有する業務監督重役会︵09霞呂鑛. ぎ匿︶とが併存し︑重役自身が業務を執行すると同時にこれを監督することになるがゆえに︑株主のために会社会. 計の正否を検査する機関が必要となる︒一九〇〇年イギリス法上の監査役︵氏はこれを検査役という︶はまさにこの. ような﹁会計ノ正否ヲ審査スルノ機関﹂たる地位に止まるのであり︑ドイッ法上の監査役のごとき会社業務一般の. 監督機関とは性質上異なっているのである︒日本商法上の監査役はドイッ法のそれにならって設けられた制度であ. るために︑イギリス法上の制度とは沿革上﹁全然別物﹂といわなければならない︒したがって︑﹁単に我監査役ヲ. 採テ直二英法ノ常任検査役二比較シテ其制度ノ改正ヲ論スルハ︵中略︶恰モ英国ノ牛ヲ以テ我国ノ馬二比較シテ我. 産馬ノ改良ヲ計ラントスルカ如キ暴論﹂といわなければならない︑と批判する.結局︑会計士制度の導入について. 多くの議論がなされたが︑制度化を実現するには至らなかった︒監査制度についての議論の勝敗はともかくとし. て︑当時の日本において監査または監査役の本質について必ずしも十分に理解されていなかったこと︑そして会計 ︵52︶ 監査を担う職業的監査人誕生の機運は未だ熟していなかったことがその要因であろう︒. 一五三. 前記のように︑明治末期に監査制度の改正について初めて本格的な議論がなされたにもかかわらず︑明治四四年 株式会社監査制度論︵上︶.

(28) 早法七三巻一号︵一九九七︶. 一五四. 改正は︑結局監査役の任期を一年から二年へと伸長し︵明治四四年改正法一八O条︶︑取締役との連帯責任を定める. 昭和二二年改正法. ︵同法一八六条︶など︑いわば整理的な改正に止まった︒ ︵5︶. ︵53︶. 昭和二二年改正法は︑全体として﹁株式会社企業の大規模化と企業集中の発展をもっとも重要な契機とする経済. の基本構造の変遷が株式会社の構造にもたらした変革を反映するもの﹂と位置づけることができるが︑その反面︑. 監査役制度について改正を加えたのは︑きわめて限定的であったといえる︒具体的には︑従来より要望のあった︑. 取締役とともに監査役の株主たる資格の制限を削除し︑これを会社定款に委ねることとした︵昭和一三年改正法二. 五四条一項・二八O条︶︒このほか︑一時取締役の職務を代行する監査役の登記︵同法二七六条二項︶︑それに監査役. に対する株主総会の決議による訴えの提起および少数株主の請求による訴えの提起に関するもの︵同法二七九条︶. のみであった︒もっとも︑明治四四年改正をめぐり活発な改正論議が多くなされていたのと対照的に︑昭和二二年 ︵54︶ 改正前の法制審議会の答申においては︑監査役制度の根本的改正を意図されていなかったとも指摘される︒. 結局︑会社制度そのものと同様に欧米諸国から移植され︑明治壬二年旧商法および明治三二年新商法により成立. し︑さらにその後の改正を経て確立された日本商法上の監査役制度は︑無機能のまま第二次大戦の終戦を迎え︑そ. 改正の基本内容. 昭和二五年改正. して昭和二五年の根本的な改正を待つのである︒. 3. ︵1︶.

(29) ︵55﹀. 昭和二五年改正において︑株主の地位の強化︑経営組織の合理化および資本調達の機動性という三つは改正法の. 三本の柱であるといわれ︑そのうち経営組織の合理化は︑監査役と直接に関係してくる︒すなわち︑取締役会制度. を法定し︑従来株主総会の決議事項とされていた権限の多くを取締役会に移すと同時に︑取締役のうち非業務執行. 取締役と代表取締役とに二分化し︑代表取締役の選任・解任権限をも取締役全貝によって構成する取締役会に与え. たのである︒このため︑業務執行者たる代表取締役の職務に対する監督は︑それの選任・解任権限を有する取締役. 会にあると考え︑したがって︑従来監査役の有していた業務監査権限が取締役会に吸収され︑改正法上の監査役の. 権限は会計監査に限定されるようになった︒もっとも︑改正の経過において政府原案はその名称自体を﹁会計監査. 役﹂と改め︑むしろ旧法上の監査役制度を廃止し会計監査のみを任務とする会計監査役という制度を新設したとい. 6︶. うように捉えることもできないわけではないが︑参議院はその名称を従来の監査役の名称に復帰させたので︑改正 ︵5 によって従来の監査役の権限が会計監査に限定・縮小されたと一般に認識されているようである︑というような経 緯もあった︒. 監査役の報告請求権および調査権について︑従来旧法二七四条では︑﹁監査役ハ何時ニテモ取締役二対シテ営業. ノ報告ヲ求メ又ハ会社ノ業務及財産ノ状況ヲ調査スルコトヲ得﹂と定められていたところを︑改正法二七四条一項. では︑﹁監査役ハ何時ニテモ会計ノ帳簿及書類ノ閲覧若ハ謄写ヲ為シ又ハ取締役二対シ会計二関スル報告ヲ求ムル. コトヲ得﹂とされ︑そして同条二項では︑﹁監査役ハ其ノ職務ヲ行ウ為特二必要アルトキハ会社ノ業務及財産ノ状. 況ヲ調査スルコトヲ得﹂とされ︑さらに監査役の調査報告義務を定めた二七五条では︑﹁監査役ハ取締役ガ株主総. 一五五. 会二提出セントスル会計二関スル書類ヲ調査シ株主総会二其ノ意見ヲ報告スルコトヲ要ス﹂というように改正され 株式会社監査制度論︵上︶.

(30) 早法七三巻一号︵一九九七︶. 一五六. たために︑改正法上の監査役の職務権限およびその義務のいずれも会計に関するものに限定されることになったの である︒. また︑前記のように旧法上の監査役の業務監査機能が完全に取締役会に奪われたとともに︑従来の業務監査機能. に相応する株主総会の招集︵旧法⁝二五条二項︶︑取締役会社間の取引の承認︵旧法二六五条︶︑取締役の欠員の場合. の取締役の職務代行︵旧法二七六条︶および取締役と会社・少数株主間の訴えについての会社代表︵旧法二七七条︶. 等の職務権限はすべて削除されるにいたった︒このように当初法案における﹁会計監査役﹂という名称が象徴する. ように︑改正法は︑明治二三年旧商法とりわけ同三二年新商法以来︑監査役が担ってきた業務監査および会計監査. 機能を後者の会計監査に限定し︑監査役の位置づけ︑ひいては会社の機関構造そのものに重大な変更を加えたもの と捉えるべきである︒. ︵2︶ 証券取引法との調整. 第二次大戦後の日本では︑アメリカ占領軍による財閥解体に伴う証券民主化が進められ︑証券市場を整備し国民. 経済の適切な運営および投資者保護のために︑アメリカの一九三三年証券法と一九三四年証券取引所法にならっ. て︑昭和二一二年四月に新しい証券取引法︵法律第二五号︶が制定された︒同法一九三条では︑証券取引委員会は︑. この法律の規定により提出される貸借対照表︑損益計算書その他の財務計算に関する書類が計理士の監査証明を受. けたものでなければならない旨を証券取引委員会規則で定めることができるとして︑計理士による監査制度導入の ︵57︶. 基礎を定めた︒昭和二三年七月に︑公認会計士法︵法律第一〇三号︶が制定され︑同法により計理士法を廃止し︑. 監査証明業務を公認会計士の独占業務とした︒さらに︑昭和二五年三月に改正された証券取引法は︑はじめて公認.

(31) 会計士による監査制度を法定するにいたった.すなわち︑同法はまず一九三条をもって︑この法律の規定により提. 出される貸借対照表︑損益計算書その他の財務計算に関する書類は︑証券取引委員会が一般に公正妥当であると認. められるところに従って証券取引委貝会規則で定める用語︑様式及び作成方法により︑これを作成しなければなら. ないとして︑証取法会計を定めた︒次に︑一九三条の二第一項では︑証券取引所に上場されている株式の発行会社. その他の者で証券取引委員会規則で定めるものが︑この法律の規定により提出する貸借対照表︑損益計算書その他. の財務計算に関する書類には︑その者と特別の利害関係のない公認会計士の監査証明を受けなければならない︑と. 8︶. 定めた︒このように︑現在の企業会計審議会の前身たる経済安定本部企業会計制度対策調査会により昭和二四年に ︵5 公表された﹁一般に公正妥当であると認められるところ﹂の企業会計原則は︑公認会計士による証取監査の基準と. なり︑さらに証取監査を定めた一九三条の二を根拠に︑証取監査は形成しかつ後述するように今日の展開を見るこ とができたのである.. ところが︑証取監査の適用を受ける会社の場合においては︑公認会計士による証取監査と商法上の監査役による. 会計監査とが重複することになり︑その重複をいかに調整するかという問題が生じてきた.すなわち︑昭和二五年. 改正商法によれば︑株式の名義書換停止期間は六〇日を越えることができない︵同法二一西条の二︶とし︑さらに. 取締役は︑定時総会の会日より二週間前に計算書類を監査役に提出しなければならない︵同法二入一条︶ことにな. っているので︑結局会社は一ヶ月半の間に決算書類の作成を完成しなければならないことになる︒会社はこの一ヶ. 月半の間に計算書類を作成するのが精いっぱいで︑この間にさらに公認会計士監査を受ける余裕がないし︑また監. 一五七. 査役の監査は限られた二週間内に公認会計士監査と同時に行うことも困難である︑という実際上の問題が生じ︑両 株式会社監査制度論︵上︶.

(32) 早法七三巻一号︵一九九七︶ ︵59︶. 者の調整が必要となってきた︒. 一五八. もっとも︑公認会計士を監査役に選任することができれば︑商法上の監査役監査と証取法上の公認会計士による. 監査を一本化し︑実務上でも前記の問題を容易に解決できるようになるのではあるが︑しかし︑その場合︑監査役. として選任された公認会計士は︑証券取引法一九三条の二に定める﹁特別の利害関係のない公認会計士﹂との要件. に抵触する恐れがあり︑学説上でも賛否両論に分かれ︑このような主張は結局大方の賛成を得られなかった︒ま. た︑証取監査と商法監査との並行体制をそのままに維持しながら︑単に名義書換停止期間を延長することで改正商. 法を技術的に修正することができれば︑前記の不都合は避けられるのではあるが︑しかしながら︑こうしたことは ︵60︶. 改正商法における株式の自由譲渡性を強化し株主の権利を保護するという趣旨から︑むしろ妥当ではないと一般に 評さていた︒. そこで︑前記の問題を根本的に解決するために︑学説上においては︑外国法との比較をしながら監査の性質およ ︵61︶. びその機能等を含めて以下のような様々な議論がなされた︒ ︵62︶. 議論の焦点は︑究極的には﹁公認会計士か監査役か﹂という問題であり︑言い換えれば︑アメリカ法型かそれと. もイギリス法型かという問題でもある︒すなわち︑一方では︑一九四八年イギリス法にならって︑証取監査の適用. を受ける会社については会社の監査役を公認会計士の中から選任しなければならないとして︑かかる監査役の監査. をもって証取監査の要求を満たそうとする主張がある︒これに対しては︑このように制度化することは改正商法の. 理想とする制度ではあるが︑しかし実際問題として長年にわたって社会的に公認会計士の独立性をかちえたイギリ. スとは対照的に︑日本における公認会計士制度は創設後日が浅いために︑監査役に選任される公認会計士ははたし.

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