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国際医療福祉大学審査学位論文 ( 博士 ) 大学院医療福祉学研究科博士課程 博士学位論文題目 統合失調症の社会機能に陰性症状が与える影響 2019 年度 保健医療学専攻 作業療法学分野 作業活動分析学領域学籍番号 :17S3015 氏名 : 岡田宏基研究指導教員 : 谷口敬道教授副研究指導教員 :

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国際医療福祉大学審査学位論文(博士)

大学院医療福祉学研究科博士課程

博士学位論文題目

統合失調症の社会機能に陰性症状が与える影響

2019 年度

保健医療学専攻・作業療法学分野・作業活動分析学領域

学籍番号:17S3015 氏名:岡田宏基

研究指導教員:谷口敬道教授

副研究指導教員:平野大輔講師

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2 論文題目 統合失調症の社会機能に陰性症状が与える影響 著者名 岡田宏基 要旨 本研究の目的は陰性症状のサブドメインが社会機能に与える影響を明らかにすることであ った.研究 1 では陰性症状のサブドメインと統合失調症の症状群との関連および社会機能 に与える影響を俯瞰的に捉えるためのパスモデル生成し,研究 2 では日常生活機能や対人 関係機能など個々の社会機能と陰性症状のサブドメインとの関連を検討した.対象は外来 に通院する統合失調症者 100 名.陰性症状の評価にはBrief Negative Symptom Scale,社会 機能の評価には Life Assessment Scale for the Mentally Ill を使用.分析には共分散構造分析お よび重回帰分析を使用した.結果,陰性症状を持つ対象者の社会機能向上に向け,どのよ うな心理社会的治療を行うとしても,思いや意思を含む感情表出を支援・サポートし,向 社会的な動機づけを高めていく必要があること.陰性症状のサブドメインの中でも意欲の 低下,失快楽症,非社会性,感情鈍麻に対する介入を既存の心理社会的治療に組み合わせ て実施する必要があることが示唆された. キーワード 統合失調症 社会機能 陰性症状

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3 英語題目

Effects of negative symptoms on social functioning in a person with schizophrenia

The purpose of this study was to examine the effects that the subdomains of the negative symptoms of schizophrenia may have on a patient’s social functioning. In Study 1, based on the results of a systematic review, we generated a path model in order to explore the relationship between the subdomains of negative symptoms and other schizophrenia symptom groups, as well as their impact on social functioning. In Study 2, we examined the relationship between individual social functional domains, such as activities of daily living and interpersonal functioning, and the subdomains of the negative symptoms. One hundred patients with schizophrenia who attended an outpatient clinic were included in this study. The Negative Symptom Scale was used to quantify the severity of the

patients’ negative symptoms, and the Life Assessment Scale for the Mentally Ill was used to evaluate social functioning. The data was analyzed using the Structural Equation Model and Multiple Regression Analyses. Our results showed that regardless of the modality of psychosocial treatment administered, providing support for the patient’s emotional expression, including their thoughts and intentions, was important in the management of these patients. Based on individual and case characteristics of each subject, our results suggested that it would be beneficial to implement specific interventions to address the negative symptom subdomain of avolition, anhedonia, asociality, and blunted affect in combination with existing psychosocial treatments.

英語キーワード

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4 目次 第 1 章 序論 1.1 統合失調症の症状群が社会機能に与える影響およびその治療--- 1 1.1.1 統合失調症の疫学--- 1 1.1.2 統合失調症の症状群が社会機能に与える影響について--- 2 ~陰性症状を中心として~ 1.1.3 統合失調症の社会機能改善に向けた薬物療法および心理社会的治療--- 5 1.1.4 まとめ--- 6 1.2 統合失調症の社会機能と陰性症状サブドメインとの関連--- 8 ~MEDLINE および医学中央雑誌に基づくシステマティックレビュー~ 1.2.1 用語の定義--- 8 1.2.2 方 法--- 9 1.2.3 結 果--- 10 1.2.4 まとめおよび今後の研究課題の明確化--- 21 第 2章 研究構成--- 25 2.1 目 的--- 25 2.2 構 成--- 25 2.3 新規性および意義--- 27 第 3 章 統合失調症者の社会機能に陰性症状が与える影響--- 28 3.1 研究 1 体験症状因子と感情表出因子が社会機能に与える影響のモデル化---28 3.1.1 背景および目的--- 28 3.1.2 用語の定義--- 28 3.1.3 方 法--- 29 3.1.4 結 果--- 32 3.1.5 考 察--- 39

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5 3.2 研究 2 統合失調症者の社会機能と陰性症状サブドメインとの関連--- 42 3.2.1 背景および目的--- 42 3.2.2 方 法--- 42 3.2.3 結 果--- 43 3.2.4 考 察--- 49 第 4章 総括--- 52 4.1 結 語--- 52 4.2 研究の限界と今後の課題--- 54 謝辞--- 55 参考文献--- 55

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1 第 1 章 序論 1.1 統合失調症の症状群が社会機能に与える影響およびその治療 1.1.1 統合失調症の疫学 統合失調症は少なくとも人口の 0.7%で発症し,2013 年には全世界で 2360 万人が罹患し ている1).発症の典型的な年齢は 18 歳から 25 歳で,通常は男性の方が女性と比べて発症 は早い2).多くの男性が 20 代前半までに発症する傾向があるが,女性は通常 20 代後半ま たは 30 代前半に発症する2).女性は男性と比べ,発症前の機能が良好に保たれており,入 院の回数が少なく,陰性症状がより軽度であり,治療への反応も良いことからより良好な 予後を示す傾向にある3,4) 病因としては,遺伝的要因が最も強く特定の家系に集積して生じることはよく知られて いる.罹患した家族との遺伝的近縁関係の程度が高くなるほど,発症のリスクも高まる. 一卵性双生児の場合,双子のうち 1 人の統合失調症発症のリスクは 48%である5).両方の 親が統合失調症を患っている場合,彼らの子供が統合失調症を発症するというリスクは約 40%である5) 経過としては,前駆期・急性期・慢性期の順に経過し,症状増悪を繰り返す波状経過型, このような症状増悪を繰り返さない単純経過型に分けられる 6).前駆期は本格的な発病に 先立つ時期で発症は突然または潜行性でありえる.ほとんどの対象者は社会的引きこもり, 学校や仕事への興味の喪失,衛生状態の悪化,異常な行動,または怒りの爆発など,ゆっ くりとした段階的な症状の出現を特徴とする前駆期を経験する 7).抑うつ症状や神経症症 状,各種の身体症状や神経衰弱症状など非特異的な徴候が数週間~数か月,時には年余に わたって続く 7).近年,この時期にいくつかの症状の中でも認知機能障害や陰性症状が出 現し機能低下を引き起こすことが明らかとなっている 8).その後,幻覚,妄想,興奮とい った統合失調症特有の陽性症状が目立つ急性期に移行する.この時期は,幻覚や妄想およ び解体症状などが出現し,周囲とのコミュニケーションがうまくとれなくなる. このように出現した急性症状の転帰は様々である.時とともにある程度症状がおさまる

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2 ことは自然経過のなかでも認められている 6).さまざまな症状の重症度は対象者によって 異なり,病気の経過によっても異なるが,発症前後の第三脳室減少を含む脳機能障害の影 響により病前の機能水準まで回復しないことが多く,陽性症状や陰性症状,認知機能障害 がさまざまな組み合わせで残存し社会機能を障害する9) 治療成果は予測不能であるが,一部の人々はうまく治療され,地域生活に再統合される ようである.しかしながら,精神保健分野の多くの専門家の努力にもかかわらず,統合失 調症は,慢性再発性疾患にとどまっており,社会的転帰は日々の臨床的ケアの中でも過去 70 年間にわたって改善されていない10,11) 陽性症状の再発率は 1 年で 28%,3 年で最大 54%であり,怠薬,薬物乱用,家族の高レ ベルな感情表出,および病前の適応不良は予後の悪さと関連している12).その中でも,怠 薬は重大な問題である.Lieberman ら13)の報告では対象者の 74%が 18 ヵ月以内に投薬を中 止した.服薬の非遵守はしばしば症状の再発につながる.非定型抗精神病薬は当初,神経 学的副作用の発生率が低いため,服薬遵守に役立つと考えられていた.しかし,Leucht ら 14)のメタアナリシスでは,非定型抗精神病薬と定型抗精神病薬の怠薬率と再発予防効果は 変わらないことを示した.非定型抗精神病薬の有効性に関する報告の多くは,無作為化比 較試験(Randomized Controlled Trial:RCT)における第一世代抗精神病薬の過剰投与の結 果であるとされている15) 1.1.2 統合失調症の症状群が社会機能に与える影響について~陰性症状を中心として~ 1)陰性症状の疫学 陰性症状は健常一般集団に通常見られる行動の欠如または減少として定義されている 16).一般的に陰性症状が強い対象者は日常生活や他人との交流に対する主体性が欠如して おり,日中の活動のレベルが低い傾向にある16).彼らは何もせず横になったりすることに 多くの時間を費やし,趣味的な活動を含む社会参加に興味がほとんどなく,他者との接触 は限定的であることが報告されている17) 陰性症状は初発であっても 57%でみられ18),1 年後および 3 年間のフォローアップ時の

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有病率はそれぞれ 6.7%,23.7%,27%である19-22).また,発症後の1 年間に評価された陰

性症状の重症度が8 年後の重症度を予測し22),経時的に一般的になる可能性があることを

示唆している.

しかし,陰性症状が統合失調症の主要な症状の一つであることが示されつつある中,陰 性症状の概念は近年まで曖昧なままであった.例えば,Scale for the Assessment of Negative Symptoms:SANS23)の注意の障害,会話内容の障害,返答潜時の延長,途絶,場にそぐわ

ない情動,身だしなみと清潔度など以前は陰性症状の下位項目(以下,サブドメイン)に 含まれていた一部の症状は陰性症状ではないことが指摘されている 4,24,25).また,Positive

and Negative Syndrome Scale:PANSS26)のサブドメインである抽象的思考の困難,常同的思

考についても陰性症状との関係は非常に疑問視されていた27,28).これらの指摘は,近年ま

で陰性症状と認知機能障害,解体症状,およびうつ症状との重なりを考慮できていなかっ たことを示唆する.

この問題を解決するため,米国国立精神衛生研究所(National Institute of Mental Health: NIMH)は陰性症状に関するコンセンサス声明 29)を発表した.この声明では評価するべき 陰性症状のサブドメインを失快楽症(Anhedonia アンヘドニア),非社会性,意欲の低下, 感情鈍麻,会話の貧困の 5 つとしており29),これらサブドメインは二つの因子に分けられ る30-33).一つ目は失快楽症,非社会性,意欲の低下からなる体験症状因子であり,社会参 加を含む社会的な行動に対する動機づけの障害に関連する30,31).もう 1 つは,感情鈍麻と 会話の貧困からなる感情表出因子であり,発話量,会話の流暢性など言語的な感情表出だ けでなく,顔の表情,声のトーンの変化が少ないことおよび会話中に通常見られるジェス チャーの不足が含まれる32,33) 2)陰性症状および統合失調症の症状群と社会機能との関連 処理速度,作業記憶,言語流暢性,および実行機能を含む認知機能障害は統合失調症の 確立された中心的な特徴の一つであり 34),社会機能障害の要因の 20-60%を占める可能性 がある 35).しかし,残りの 40-80%の要因は認知機能障害では説明されない.明らかに,

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4 他の関連因子が統合失調症の社会機能障害に影響を与える. 陰性症状もまた社会機能に関連している.社会的な行動に対するモチベーション,報酬 を予測する能力,適切な感情表出などの機能は,セルフケアを含む日常生活や対人的なコ ミュニケーションを円滑に行うために必要である.最近の研究によると,発症初期の陰性 症状は社会機能を予測し,認知機能や抑うつで調整したとしても独立した社会機能の予測 因子であることが報告されている36).これらの知見は,統合失調症者が地域社会で適応す るために十分な認知機能(能力)を持っていたとしても,陰性症状は社会機能の重症度を 予測する重要な因子であることを示唆している.また,社会認知機能を含む広範な認知機 能の欠損は社会的な失敗体験を経験させ「どうせ失敗する」といった非機能的認知および 否定的な自己評価を生じさせる.これら心理学的な要因は社会参加に対する動機づけや意 思表示を含む感情表出など陰性症状をさらに重症化させる可能性がある37).さらに,陰性 症状は陽性症状より長く持続し,治療がより困難であり19),陽性症状よりも将来の労働機 能のより良い予測因子として役立つ34).事実,前駆期の対象者では陽性症状よりも陰性症 状の重症度が精神病状態への転換を予測することがわかっている35).したがって,近年の 研究では陰性症状が社会機能を障害するより近位の原因として最もよく考えられており, 社会機能を予測する上で陰性症状が特に重要であることが明確に示されている. そのため,今後のさらなる研究の発展に向け,陰性症状が社会機能に与える影響をより 詳細に検討するべきであるが,陰性症状のサブドメインと社会機能との関連について一定 の結論は得られていない.感情鈍麻と会話の貧困は社会機能と関連する中核的なサブドメ インであると指摘されている一方で33),失快楽症や非社会性,意欲の低下も同様に社会機 能と関連する重要なサブドメインであると指摘されている38).近年の NIMH コンセンサス 声明による陰性症状再概念化以降,陰性症状のサブドメインが社会機能に与える影響を系 統的に整理した論文はほとんどないと言える.

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5 1.1.3 統合失調症の社会機能改善に向けた薬物療法および心理社会的治療 1)薬物療法 抗精神病薬は陰性症状を含む統合失調症の根本的な原因を治療するわけではないが,陽 性症状に対しては効果的である39).薬物療法は主にファーストエピソード後の急性期治療 および維持療法において使用される39).急性期薬物療法の目的は敵意・攻撃性を低下させ 対象者を通常の状態(睡眠や食事など)に戻すことである40).そして,急性期の治療に続 いて維持療法が行われる.維持療法は再発防止のために必要であり,維持療法を受けてい る対象者の再発の頻度は,そのような療法を受けていない群と比較して,それぞれ 18~ 32%対 60~80%である41).薬物療法は寛解後少なくとも 12 ヶ月間継続されるべきである 41) 抗精神病薬は錐体外路症状系の副作用を引き起こす定型抗精神病薬と糖尿病,高コレス テロール血症,体重増加のような代謝性副作用のリスクがある非定型抗精神病薬に分けら れる.第一節で述べたように陽性症状の治療において非定型抗精神病薬が定型抗精神病薬 よりも効果的であるという証拠はほとんどない.しかし,長時間作用型持効性注射剤は服 薬の遵守が乏しい対象者を治療するのに役立つ.よって,再発を予防する上で経口抗精神 病薬よりも有用である場合がある42).定型抗精神病薬(ハロペリドール,フルフェナジン) と非定型抗精神病薬(リスペリドン,パリペリドン,アリピプラゾール)の薬剤は長時間 作用型持効性注射剤として現在入手可能である. 2)心理社会的治療 上記に述べたように抗精神病薬は統合失調症の治療には必要であるが,十分ではない. 治療の幅広い目的は,精神病悪化のエピソードの頻度および精神症状を軽減するだけでな く,病気に罹患した対象者の社会機能,生活の質,主観的な回復感を改善することである. したがって,統合失調症の治療は薬物療法にとどまらず,心理社会的治療と組み合わせて 実施することが重要である39).The Schizophrenia Patient Outcomes Research Team:PORT)

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や認知行動療法(Cognitive Behavioural Therapy:CBT),Assertive Community Treatment:ACT など 8 つのエビデンスベースの治療法が推奨されている. 1.1.4 まとめ 1.1 では統合失調症の治療において過去 70 年転帰が改善されていないこと,薬物療法に よって陽性症状を改善することはできるが,統合失調症の病気の根本的な要因を治療でき るわけではないことを述べた.このような現状を踏まえ,統合失調症の治療の目標は症状 の重症度の改善に留まることなく,対象者の社会機能,生活の質,主観的な回復感を改善 することにシフトしつつある.そのため,社会機能や生活の質の改善に向けて心理社会的 治療は重要な役割を果たす.しかし,統合失調症の症状群の中でも社会機能に最も大きな 影響を与える陰性症状は薬物療法を併用した心理社会的治療に抵抗性であり,陰性症状は そもそも心理社会的治療に参加することを阻害する44).また,陰性症状は「〇〇すること が好き」「〇〇をやってみたい」という気持ちや思いを持ちながらも実際に趣味や嗜好を含 めそれら快体験を得ようとする行動を阻害する45).すなわち,陰性症状は自らが希望する 本人らしい主体的な生活を阻む症状であることが考えられる. 以上のように,陰性症状は社会機能に多大な影響を及ぼすことが明らかになっているに も関わらず,陰性症状の概念は近年まで曖昧なままであった.例えば,SANS や PANSS の 注意の障害,抽象的思考の困難など以前は陰性症状と言われていたいくつかのサブドメイ ンは,現在では認知機能障害や解体症状であることが報告されている4,24,25,27,28).そのため, NIMH では因子分析研究で得られた知見を統合し,陰性症状のサブドメインを失快楽症, 非社会性,意欲の低下,感情鈍麻,会話の貧困の 5 つとするコンセンサス声明を発表した. これらサブドメインは失快楽症,非社会性,意欲の低下からなる体験症状因子と感情鈍麻, 会話の貧困からなる感情表出因子の 2 因子に分けられる.また,コンセンサス声明では, 陰性症状の適切な評価方法が確立されていなかった現状を踏まえ,新たな評価尺度の開発 を推進し,より感度が高い Brief Negative Symptom Scale:BNSS31)と Clinical Assessment

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7 された BNSS と CAINS はそれぞれ症状の異なる 5 つのサブドメインを明確に評価する.こ の 2 つの評価尺度の開発により,社会機能に陰性症状が与える影響をより詳細に捉えるこ とが可能となった. しかし,陰性症状評価尺度で得られた総合得点であるグローバルスコアを陰性症状と定 義し,社会機能との関連を検討した研究については多くの報告がなされている一方で,陰 性症状のサブドメインと社会機能との関連を検討した研究について一定の結論は示されて いない33,38).陰性症状は社会機能を障害する中核的な症状であること,サブドメインはそ れぞれ症状が異なることを踏まえると陰性症状のサブドメインが社会機能に与える影響を 調査した先行研究を系統的に整理する必要があると言える.よって,今後の統合失調症研 究の発展に向け,陰性症状のサブドメインが社会機能に与える影響を調査した先行研究の システマティックレビューを行った.その結果を事項に示す.

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8 1.2 統合失調症の社会機能と陰性症状サブドメインとの関連 ~MEDLINE および医学中央雑誌に基づくシステマティックレビュー~ 1.2.1 用語の定義 1)陰性症状 本研究では,陰性症状を NIMI でコンセンサスが得られている 5 つのサブドメインで構 成されているものと定義した29).5 つのサブドメインとは,失快楽症,非社会性,意欲の 低下,感情鈍麻,会話の貧困のことである.さらに,陰性症状のサブドメインの 2 因子の 一つである体験症状因子とは失快楽症,非社会性,意欲の低下で構成される因子とし30,31) 感情表出因子とは感情鈍麻,会話の貧困で構成される因子と定義した32,33) 2)5 のサブドメイン ◯失快楽症 失快楽症とは,快楽を経験する能力ではなく,快楽を予期する能力の低下と定義する. ◯非社会性 非社会性とは,他者との親密な関係を形成することへの関心の低下と定義する. ◯意欲の低下 意欲の低下とは,動機づけの欠損であり,仕事や学校などを含む社会参加およびセルフ ケアなど目標指向行動の開始および持続性の低下として定義する. ◯感情鈍麻 感情鈍麻とは,非言語的な感情表出の減少で,表情および声の抑揚,ならびに身振りの 減少と定義する. ◯会話の貧困 会話の貧困とは,発話量の減少と定義する. 3)体験症状因子および感情表出因子 ◯体験症状因子

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9 体験症状因子とは,失快楽症,非社会性,意欲の低下のサブドメインで構成される因子 と定義する.社会参加,役割活動を含む生活の幅広い領域にわたる動機づけの障害に関連 する. ◯感情表出因子 感情表出因子とは,感情鈍麻,会話の貧困のサブドメインで構成される因子と定義する. 主にコミュニケーション上の言語および非言語的な感情表出の低下に関連する. 1.2.2 方法 1)論文の検索方法 2010 年 1 月 1 日~2017 年 12 月 31 日までに発行された医学文献を MEDLINE および医学 中 央 雑 誌 に て 検 索 し た . 検 索 ワ ー ド に つ い て は MEDLINE で は ”Schizophrenia” AND ”negative symptoms” OR ”avolition” OR ”anhedonia” OR ”asociality” OR ”blunted affect” OR ”alogia” OR ”domain” OR “subdomains” OR ”factor” AND “social function” OR ”social functioning”,医学中央雑誌では,統合失調症 AND 陰性症状 AND 機能を用いた.なお, 最終検索日は 2018 年 9 月 28 日である. 2)論文のスクリーニング方法 論文の採択基準は以下の通りである.包含基準は,①地域で生活している対象者および 統合失調感情障害者を対象としている研究である,②独立変数に標準化された陰性症状を 評価する尺度を使用し,統計学的に分析を行った研究である,③分析された陰性症状のサ ブドメインは合意された 5 つのうちどれかである.(SANS,PANSS を使用していた場合で も,NIMH のコンセンサス声明にて挙げられている評価されるべき 5 つのサブドメインを 分析していれば適格と判断した)④縦断研究(Cohort study),または横断研究(Cross-sectional study)であることとした.また,除外基準は,以下の①~③のいずれかに当てはまるもの とした.①陰性症状を評価する尺度の総合得点であるグローバルスコアのみを統計的に分 析した研究であること②システマティックレビューおよびレビュー論文であること③介入 研究,ケースレポート,ケースシリーズ研究であることとした.上記採択基準に基づき表

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題および抄録を精査し(一次スクリーニング),その後,本文を精読した(二次スクリーニ ング).採択した論文については,研究地域,研究対象者数,調査方法・項目,結果などに ついて整理した.

3)バイアスのリスクとエビデンスの質の評価

採択された論文のバイアスのリスクとエビデンスの質については National Heart, Lung, and Blood Institute の Quality Assessment Tool for Observational Cohort and Cross-Sectional Studies16:SQAT46)を用いて評価した.14 のバイアスリスクチェック項目について 14 項目 中の YES の割合を算出した(YES の割合が高いほど,バイアスリスクが低いことを表す). なお,本研究では,14 項目のバイアスリスク項目について,研究疑問が明確に示されてい るか(1 項目),選択バイアス(5 項目),情報バイアス(5 項目),交絡バイアス(1 項目), 因果関係(2 項目)として整理し,それぞれのカテゴリにおける YES の数を計算した. 1.2.3 結果 1)論文採択の流れ 論文採択の流れを PRISMA 声明に準じて図 1 に示した47)データベース検索の結果,5072 件(MEDLINE から 4983 件,医中誌から 89 件)が得られ,一次スクリーニングの結果, 上記の採択基準を明らかに満たさない論文 4929 件を除外した.残りの論文 143 件について 本文を精査した.結果,126 件の論文が除外された.(陰性症状を評価する尺度のグローバ ルスコアのみを独立変数としている論文 107 件,実験研究 13 件,評価表の開発に関する研 究 6 件)最終的に 17 件(英文論文 17 件,和文論文 0 件)を採択した48-64)

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11 図 1 論文採択までのフローチャート(PRISMA 声明に基づく) MEDLINE より 抽出された 4983 件 医学中央雑誌より 抽出された 89 件 同 定 (Id en tif icat io n ) 選 抜 (Screen in g ) 表題・抄録の精査 5072 件 適 格 性 (E lig ib ili ty ) 採 用 (In cl u d ed ) 本文精読 143 件 採択論文 17 件(英文論文 17 件,和文論文 0 件) 126 件を除外 <理由> ①陰性症状評価尺度のグローバル得点のみを分 析した研究(107 件) ②実験研究(13 件) ③評価表の開発に関する研究(6 件) 4929 件を除外 <理由> 一つあるいは複数の採択基準に合致しなかった 重複した研究は 0 件

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12 2)論文採択の概要 採択された論文のうちコホート研究は 8 本であった48-51,54,55,63,64).概要を表 2 に示す.横 断研究は 9 本であった52,53,56-62).概要を表 3 に示す.これらはアメリカ(n=11)49,52,53,56,61-63) ヨーロッパ(n=5)48,50,51,54,55),香港(1 件)64)で実施された.レビュー内の研究で使用され た陰性症状のサブドメインを評価する方法は, (1)PANSS23) (2)SANS26)

(3)Schedule for the Deficit Syndrome:SDS65)

(4)Apathy Evaluation Scale:AES66)

(5)Chapman Social and Physical Anhedonia Scales:CSPAS67)

(6)BNSS31)の 6 つの評価尺度が使用されていた.

社会機能を評価する方法は,

(1)Global Assessment of Functioning Scale:GAF-F68)

(2)The Quality of Life Scale:QLS69)

(3)Lehman's Quality of Life Interview :L-QoLI70)

(4)Strauss Carpenter Level of Functioning Scale:SCLFS71)

(5)The Role Functioning Scale :RFS72)

(6)Strauss Carpenter Outcome Scales:SCOS73)

(7)The Level of Function scale:LOF74)

(8)Independent Living Skills Survey:ILSS75)

(9)Specific Levels of Functioning :SLOF76)

(11)Global Functioning: Social Scale:GF-S77)

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13 表 1 陰性症状サブドメインと社会機能との関連に関するシステマティックレビューの結果(コホート研究) 第一著者 (地域),発表年 表題 サンプル数 (男性%) 主な症状評価/主な分析方法 社会機能 評価 結果 Faerden (ノルウェー)2010

Apathy in first episode psychosis patients: One year follow up

84(59) 陽性症状及び陰性症状(PANSS), 意欲の低下(AES)/ Student's t 検 定,重回帰分析 GAF-F 高レベルの意欲の低下を持つ群は(AES カットオフ 値>27),ベースライン及びフォローアップ時におい て対照群よりも著しい社会機能の低下がみられて いた.また,発症初期の意欲の低下は 1 年後の社会 機能を予測した. Foussias (アメリカ)2011 Prediction of longitudinal functional outcomes in schizophrenia: The impact of baseline motivational deficits

21(67) 陰性症状(SANS),陽性症状 (SAPS†,意欲の低下(AES), 抑うつ (CDSS†) / 重回帰分析 QLS 意欲の低下は陽性症状や抑うつよりも社会機能と の関連が強かった.意欲の低下の重症度が 6 ヶ月後 の社会機能を予測した.感情鈍麻は意欲の低下以上 に社会機能を予測しなかった. Evensen (ノルウェー,デン マーク)2012

Flat affect and social functioning: A 10year follow-up study of first episode psychosis patients 186(48.2) 陰性症状及び陽性症状(PANSS), 抑うつ(CDSS)/相関分析,ロジ スティック回帰分析 L-QOL SCLFS 感情鈍麻は社会機能と関連する.初発時の感情鈍麻 は 10 年後の社会機能を予測した. Evensen (ノルウェー,デン マーク)2012

Apathy in first episode psychosis patients: A ten year longitudinal follow-up study 178(55) 陰性症状及び陽性症状(PANSS), 意欲の低下(AES),抑うつ (CDSS)/相関分析,ロジスティ ック回帰分析 L-QOL SCLFS 意欲の低下は社会機能と関連する.初発時の意欲の 低下は 10 年後の社会機能と関連する.認知機能や 抑うつで調整しても意欲の低下は独立した社会機 能の予測因子であった. Galderisi (イタリア)2013

Categorical and dimensional approaches to negative symptoms of schizophrenia: focus on long-term stability and functional outcome. 112(30) 陰性症状(SDS,SANS),陽性症 状(SAPS),認知機能(WCST† など)/分散分析,重回帰分析 SCOS 意欲の低下が感情鈍麻よりも社会機能をより良く 予測した.感情鈍麻は家族機能を予測した.

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14 Faerden

(ノルウェー)2013

Apathy, poor verbal memory and male gender predict lower psychosocial functioning one year after the first treatment of psychosis 64(56) 陽性症状及び陰性症状(PANSS), 意欲の低下(AES),抑うつ (CDSS)/相関分析,重回帰分析 GAF-F 初発対象者の意欲の低下は 1 年後の社会機能の予測 因子であった. Fervaha (アメリカ)2015

Motivational deficits in early

schizophrenia: Prevalent, persistent, and key determinants of functional outcome

166(82.5) 陰性症状及び陽性症状(PANSS), 意欲の低下(QLS の motivation 項目),認知機能(WCST など) /重回帰分析 QLS 発症初期の対象者の意欲の低下は社会機能を予測 した.認知機能や抑うつで調整しても意欲の低下は 独立した社会機能の予測因子であった. Chang (香港)2016

Impact of avolition and cognitive impairment on functional outcome in first-episode schizophrenia-spectrum disorder: a prospective one-year follow-up study 114(55.3) 陰性症状及び陽性症状(PANSS) 陰性症状(SANS)認知機能 (WMS†)/相関分析,重回帰分析 DAS 意欲の低下および非社会性と認知機能が独立して 1 年後の社会機能を予測した.意欲の低下及び非社会 性は認知機能よりも 1 年後の社会機能をより良く予 測した.

† SAPS= Scale for the Assessment of Positive Symptoms † CDSS=Calgary Depression Scale for Schizophrenia † WCST=Wisconsin Card Sorting Test

(20)

15 表 2 陰性症状サブドメインと社会機能との関連に関するシステマティックレビューの結果(横断研究) 第一著者 (地域),発表年 表題 サンプル数 (男性%) 主な症状評価/主な分析方法 社会機能 評価 結果 Green (アメリカ)2012

From Perception to Functional Outcome in Schizophrenia

Modeling the Role of Ability and Motivation 191(67.5) 陰性症状(SANS),陽性症状 (BPRS†,認知機能(Location Masking など),社会認知(PONS† など),非機能的認知(DAS†)/ 相関分析,共分散構造分析 RFS 認知機能→社会認知→非機能的認知→体験症状因子→ 社会機能という単一経路パスモデルが示された.認知機 能,社会認知,非機能的認知は失快楽症,非社会性,意 欲の低下からなる体験症状因子を介して社会機能に影 響を与える. Strauss (アメリカ)2013

Deconstructing Negative Symptoms of Schizophrenia: Avolition-Apathy and Diminished Expression Clusters Predict Clinical Presentation and Functional Outcome 199(63.8) 陰性症状(SANS),陽性症状 (BPRS),社会認知(MSCEIT† など)非機能的認知(DAS)/判 別分析,一元配置分散分析 RFS 感情鈍麻と会話の貧困からなる感情表出因子を特徴と する群よりも意欲の低下,非社会性,意欲の低下からな る体験症状因子を特徴とする群の方が社会機能の障害 がより重度であった. Kiwanuka (アメリカ)2014

Psychological predictors of functional outcome in people with schizophrenia.

100(68) 陰性症状(SANS),精神症状 (BPRS),認知機能(MCCB† 非機能的認知(DPB)/ロジステ ィック回帰分析 LOF 失快楽症,感情鈍麻及び会話の貧困は社会機能と関連す る.特に,失快楽症は労働機能より対人関係機能を含む 日常生活機能と関連する. Quinlan (アメリカ)2014

The role of dysfunctional attitudes in models of negative symptoms and functioning in schizophrenia 127(67) 陰性症状(SANS),認知機能, (MCCB),非機能的認知(DAS) /共分散構造分析 ILSS 認知機能や非機能的認知が失快楽症,非社会性,意欲の 低下といった体験症状因子を介して社会機能に影響を 与える.また,能力と体験症状因子が社会機能に影響を 与える二重経路パスモデルが示された.

(21)

16 Robertson

(アメリカ)2014

Social Competence Versus Negative Symptoms as Predictors of Real World Social Functioning in Schizophrenia

561(68) 陰性症状,陽性症状(PANSS), 抑うつ(BDI†)/相関分析,重回 帰分析 SLOF 非社会性は対人関係機能と関連する. Kalin (アメリカ)2015

Social Cognition, Social Competence, Negative Symptoms and Social Outcomes: Inter-relationships in People with Schizophrenia 179(65) 陰性症状及び陽性症状(PANSS), 社会的認知(AIHQ†など)/相関 分析,重回帰分析 SLOF 非社会性は対人関係機能と関連する. Schlosser (アメリカ)2015

Modeling the role of negative symptoms in determining social functioning in individuals at clinical high risk of psychosis. 85(58) 陰性症状(SANS),陽性症状 (SAPS),抑うつ-不安(BPRS), 認知機能(TMT†など)/重回帰分 析,共分散構造分析 GF-S 前駆期において,体験症状因子が感情表出因子よりも社 会機能をより良く予測した.感情表出因子が体験症状因 子を介して社会機能に影響を与える.(感情表出因子→ 体験症状因子→社会機能) Cressman (アメリカ)2015

Anhedonia in the psychosis risk syndrome: associations with social impairment and basal orbitofrontal cortical activity. 62(76) 失快楽症(CSPAS),社会不安 (SAD†)/重回帰分析 SAS-SR 前駆期において失快楽症が社会不安よりも社会機能を より良く予測した. Hartmann (スイス)2015

Apathy in schizophrenia as a deficit in the generation of options for action.

30(77) 陰性症状(BNSS)陽性症状 (PANSS)/Spearman の順位相関 係数

PSP 社会機能は感情症状因子よりも体験表出因子との関連 が強い.

† BPRS=Brief Psychiatric Rating Scale † PONS=The Profile of Nonverbal Sensitivity † DAS=Dissfunctional Attitudes Scale

† MSCEIT=Mayer Salovey Caruso Emotional Intelligence Test † MCCB=MATRICS Consensus Cognitive Battery

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17 † BDI= Beck Depression Inventory

† AIHQ=Ambiguous Intentions and Hostility Questionnaire: Abbreviated version † TMT=Trail Making Test

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18 3)失快楽症,非社会性,意欲の低下(体験症状因子)と社会機能の関連 Cressman ら 61)は前駆期の対象者の社会機能障害は発症後の社会機能障害と同等である と結論付けた上で,失快楽症は社会機能を予測すると報告している.また,失快楽症は労 働機能よりも対人関係を含む日常生活機能の障害と強く関連するようである56) Fervaha ら 63)は発症初期の対象者の 75%に意欲の低下が存在するという報告をしていた 一方で,Evensen ら51)は 30%という報告をしており,存在率については一定の見解が得ら れていない.しかし,発症初期であっても,慢性期であっても一貫して社会機能の予測因 子となるということが報告されていた48,49,51,54,63,64).陽性症状や抑うつなどの変数で調整を したとしても,社会機能に対して有意であり続けていた49,51,63,64) 社会機能の中でも,対人関係機能の障害は非社会性の影響を受けやすいようであった 58,59).5 つのサブドメインを同時に重回帰分析に投入したところ,最も対人関係機能と関連 が強いサブドメインは非社会性であった58,59).体験症状因子に関する論文のうち 2 件の研 究は,認知機能や社会認知機能など統合失調症の中心的な症状がどのように社会機能を障 害するのかその経路を分析したものであった52,57).その結果,いずれの研究も失快楽症, 非社会性,意欲の低下といった体験症状因子が直接的に社会機能に影響を与えるパスモデ ルが示されていた52) 4)感情鈍麻・会話の貧困(感情表出因子)と社会機能の関連 Evensen ら50)は発症前の社会機能の障害は永続的な感情鈍麻と関連するとした上で,感 情鈍麻は 10 年後の社会機能を予測すると報告した.また,感情鈍麻は社会機能の中でも 5 年後の家族機能を予測するという結果が示されていた 54).加えて,Kiwanuka ら 56)の研究 では感情表出因子は社会機能の中でも対人関係機能を含む日常生活機能と相関を認めた. 一方で,有意な相関を認めながらも相関係数が 0.1~0.2 程度という結果も示されていた 52,58) 5)体験症状因子および感情表出因子と社会機能の関連 Green や Robertson ら52,58)の研究では,相関分析において感情表出因子と社会機能との有

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19 意な相関を認めているが,いずれも相関係数 0.1~0.2 程度と非常に弱い相関であり,体験 症状因子に比べ関連が弱いという結果が示されていた.Strauss ら53)は SANS で測定した体 験症状因子を特徴する群と感情表出因子を特徴とする群で社会機能の重症度を比較する研 究を行った.その結果,体験症状因子を特徴とする群の方がより強い社会機能障害を有し ていると報告した.同様に,Schlosser ら60)も感情表出因子と比較して体験症状因子が社会機 能とより強く関連すると報告した.また,体験症状因子および感情表出因子と社会機能の 関連を共分散構造分析(Structural Equation Modeling:SEM)にて検討した結果,感情表出 因子が体験症状因子を介して社会機能に影響を与えるパスモデルが示された60) 6)バイアスのリスクとエビデンスの質の評価

バイアスリスクチェック項目を用いバイアスリスクを評価した結果を表 4 に示す.バイ アスリスクが低いことを表す YES の割合が 60%以上の研究は 15 件であった.バイアスリ スクが高い研究は 2 件あり,Hermann ら61)の研究では YES の割合が 50%,Cressman ら62)

の研究では 57%であった.そのうち,Hermann および Cressman ら61,62)の研究では,交絡

因子の調整についての詳細が不明であった.また,Hermann ら62)の研究は,横断研究とい

うデザインの中ではサンプルサイズが少なく,結果の一般化可能性を制限していた.しか し,結果の中で,効果量を計算しており,バイアスへの配慮を行っていた62)

(25)

20 表 3 各研究のバイアスのリスク評価 バイアスのリスク項目カテゴリ(項目数)の YES の数† 第一著者(発表年) リサーチクエッション 対象者バイアス 情報バイアス 因果関係 交絡バイアス YES の割合(%) Feaden(2010) 1 4 4 2 1 85.7 Foussias(2011) 1 4 4 1 1 78.6 Evensen(2012) 1 5 4 2 1 92.9 Evensen(2012) 1 5 4 2 1 92.9 Green(2012) 1 3 4 0 1 64.3 Strauss(2013) 1 3 4 0 1 64.3 Galderisi(2013) 1 5 4 1 1 85.7 Faerden(2013) 1 4 4 1 1 78.6 Kiwanuka(2014) 1 3 4 0 1 64.3 Quinlan(2014) 1 3 4 0 1 64.3 Robertson(2014) 1 3 4 0 1 64.3 Kalin(2015) 1 3 4 0 1 64.3 Schlosser(2015) 1 3 4 0 1 64.3 Cressman(2015) 1 3 3 0 1 57.1 Hartmann(2015) 1 3 3 0 0 50 Fervaha(2015) 1 5 4 2 1 92.9 Chang(2016) 1 4 4 2 1 85.7

† National Institutes of Health National Heart, Lung and Blood Institute. Quality Assessment Tool for Observational Cohort and Cross-Sectional Studies の 14 項目を 5 つのカテゴリに整理した:リサーチクエッション(研究疑問は明確に示されているか);選択バイアス(例:研究対象者は明確に定義 されているか);情報バイアス(例:曝露要因およびアウトカムが明確に定義され信頼でき,一貫性がとれているか);因果関係(因果関係が 検討できる研究デザインになっているか);交絡バイアス(交絡因子を考慮した研究デザインになっているか)

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21 1.2.4 まとめおよび今後の研究課題の明確化 採択した論文のうち 16 本が失快楽症,非社会性,意欲の低下などの体験症状因子を分析 しており48,49,51-64),9 本が感情鈍麻や会話の貧困との関連を検討していた48,49,52-54,56,58,60,62) その中でも,8 本の論文は体験症状因子と感情表出因子との社会機能への関連の強さを比 較・検討していた49,52-54,56,58,60,62).論文の質については,SQAT で評価した結果,バイアス のリスクが極端に低い研究はなかったことや N=100 以上の大規模な研究が大半を占めて いたことからバイアスのリスクには一定程度の配慮がなされていたものと考える. システマティックレビューの結果から言えることは,失快楽症,非社会性,意欲の低下 およびこれらのサブドメインからなる体験症状因子が社会機能の重要な予測因子となる可 能性が高い49,51-60).また,体験症状因子と感情表出因子と社会機能との関連を同時に比較・ 検討する場合には感情表出因子よりも体験症状因子の方が社会機能との関連が強いことが 示唆される49,52-54,56,57,60,61) 1)失快楽症,非社会性,意欲の低下(体験症状因子)と社会機能との関連 社会的な行動への動機付けに関連する体験症状因子は社会機能の重要な予測因子である ことが一貫して示されていた48,49,51-64).失快楽症は報酬を予測することの障害である79) 報酬を感じることができなければ,自発的な行動が減少し社会機能に大きな影響を与える. 特に,報酬を予測することの障害は対人関係機能と日常生活機能の障害と関連するようで ある72) 非社会性は特に対人関係機能を障害する58,59).非社会性は社会的相互作用への関心を低 下させる.他者と関わることで感じる陽性感情の減少および「他者は批判的,敵対的であ る」80)という否定的な信念が対人関係機能を障害する可能性がある. これらサブドメインの中でも意欲の低下は,社会機能を障害する中心的な症状である可 能性が高い48,49,51,54,63,64).意欲の低下は動機付けの障害とも言われており32),社会的な行動 に対する動機付けが社会機能全般に大きな影響を与える可能性がある. 以上のように,失快楽症,非社会性,意欲の低下からなる体験症状因子は社会機能に重

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22 大な影響を与える.統合失調症の主要な症状同士の関連および,それらがどのように社会 機能に影響を与えるか検討したとしても,最終的に社会機能に影響を与えるのは体験症状 因子であるという結果が示されていた49,50,57,63,64).特に,Green ら52)の研究では,認知機能 →社会認知→非機能的認知→体験症状因子→社会機能という単一経路パスモデルが示され た.おそらく,①認知機能の障害は対象者が計画を効率的に立案し実行する能力を低下さ せ,仕事や学校など日常生活での失敗を経験させる.②社会認知の障害は他人の意図や精 神状態を理解する能力を欠如させ,対人的な失敗を経験させる.これら社会的な失敗体験 は「私はいつも失敗する」といった非機能的認知を生み出す可能性が高い81).これら否定 的な認知パターンが,意欲の低下を始めとする体験症状因子を悪化させ,さらなる社会機 能の障害につながる可能性がある. 2)感情鈍麻,会話の貧困(感情表出因子)と社会機能との関連 感情鈍麻や会話の貧困など感情表出因子と社会機能との関連について分析した研究は, 体験症状因子の研究と比較すると少ない傾向にあった.しかし,発症 10 年後の社会機能を 予測する因子であるという結果が示されており50),感情表出因子についても社会機能との 関連が認められる.特に,家族機能や対人関係機能および日常生活機能との関連が指摘さ れており,社会的なコミュニケーションや他者との相互作用に特に影響を与える可能性が ある54,56) 感情鈍麻および会話の貧困は言語的および非言語的コミュニケーションの欠損である. 意思表示を含む適切な感情表出の障害は話す相手に理解度を示すことが少なくなるため 8) 社会的なコミュケーションを阻害する要因の一つとなることが考えられる. 3)体験症状因子と感情表出因子の比較および本研究の課題の明確化に向けて 体験症状因子は感情表出因子と比較して社会機能をより良く予測するという結果が示さ れた49,52-54,56,58,60,62).したがって,失快楽症,非社会性,意欲の低下からなる体験症状因子 は,陰性症状の評価尺度のグローバルスコアよりも,社会機能のより良い予測値を提供す る可能性がある.

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23 しかし,これらの報告とは対照的に感情表出因子である感情鈍麻が社会機能を予測する という結果も示されていた50).この矛盾を解決するために,Schlosser ら60)の SEM を用い た研究が重要な示唆を与えてくれている.この研究では,体験症状因子は感情表出因子と 社会機能の関係を介在する可能性があり,感情表出因子は体験症状因子を介して間接的に 社会機能に影響を与えることが示された60).おそらく,両因子と社会機能の関連を単純に 比較すると体験症状因子の方が社会機能との関連が強いという結果を示すが,感情表出因 子と体験症状因子の関連を検討した上で社会機能へ与える影響を分析すると,感情表出因 子が体験症状因子を介して社会機能に影響を与える因子となりうる可能性を示唆する.し かし,Schlosser らの研究はあくまでも,体験症状因子,感情表出因子と社会機能との関連 のみを分析した結果であり,認知機能,陽性症状など社会機能に影響を与える症状群とを 同時に検討したパスモデルは示されていない.体験症状因子と感情表出因子は個々に評価 されるべき別個の症状であることが指摘されており 79),統合失調症の包括的理解に向け, 陰性症状を個々に評価した上で,認知機能や陽性症状との関連性を含め各種症状群がどの ように社会機能に影響を与えるのかという全体的なモデルを SEM や多変量解析などの手 法を用いて検討する必要がある. さらなる検討課題として,社会機能の分析方法の問題が挙げられる.本研究の結果,体 験症状因子は感情表出因子よりも社会機能と関連するという報告 48-52,55,57,60-64)が大半を占 めていたが,これら報告は社会機能評価尺度の総合得点であるグローバルスコアで得られ た分析結果であったため,グローバルスコアで分析を行うのではなく,日常生活機能・対 人関係機能などと社会機能を個別に分析した研究では,感情表出因子と強い関連を認める 機能が存在していた.例えば,Galderisi ら54)は意欲の低下が感情鈍麻よりも社会機能をよ り良く予測するという結論を示しながらも,感情鈍麻は家族機能をより良く予測すると報 告していた.また,Robertson や Kalin ら58,59)の報告では,非社会性が最も対人関係機能に 影響力を持つサブドメインであると結論づけていた.生活に必要な社会機能は幅広いため 82),各社会機能によって関連するサブドメインが異なる可能性がある.Robertson や Kalin

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24 らの研究のように各社会機能と陰性症状のサブドメインとの関連を個別に検討していくこ とは社会機能向上に向けたリハビリテーションに有用な示唆を与える可能性がある.特に, 筆者ら統合失調症者のリハビリテーションに携わる者にとっては,刻々と変わる状況に合 わせた対応を求められるため,単に社会機能の全体的な傾向を評価するよりも日常生活機 能や対人関係機能など実際の生活を反映する個々の社会機能の状況をより深く理解する必 要がある.しかし,2 人の先行研究は対人関係機能に的を絞った研究であり,社会機能を 個別に検討した研究は十分に行われているとは言い難い.そのため,各社会機能評価尺度 で得られた総合得点であるグローバルスコアで分析を実施するのではなく,日常生活機能 や労働機能など機能ごとに的を絞った分析を行い,影響力の強いサブドメインを社会機能 ごとに同定する研究を行う必要がある.

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25 第 2 章 研究構成 2.1 目的 第 1 章で述べた通り,陰性症状は社会機能に重大な影響を与えるが,陰性症状をサブド メインとして捉えた上で,社会機能との関連を検討した研究は十分に行われているとは言 い難い.そのため,本研究の目的は,統合失調症の心理社会的治療の発展に向け陰性症状 のサブドメインが社会機能に与える影響を明らかにすることである. 2.2 構成 システマティックレビューで得られた研究課題を踏まえると,本研究の目的を達成する ためには,①陰性症状のサブドメインと社会機能との関連を俯瞰的に明らかにする必要が あること.②対象者を生活者と捉えた場合,筆者らが実際の臨床場面において支援をする のは社会機能の中でも日常生活機能や対人関係機能など実際の生活を反映した個々の機能 であるため,これら機能に陰性症状のサブドメインが与える影響を明らかにする研究を行 う必要があると言える. よって,本研究では陰性症状のサブドメインが社会機能に与える影響を明らかにするた め上記研究課題①,②を研究 1,研究 2 として本論を展開していく.(図 2 参照) 研究 1:陰性症状を体験症状因子,感情表出因子と個々に評価した上で,認知機能や陽性 症状と社会機能の関連性についてパスモデルを生成し,統合失調症の社会機能障害を俯瞰 的に捉える. (研究題目:体験症状因子と感情表出因子が社会機能に与える影響のモデル化) 研究 2:一つの社会機能評価尺度に絞った上で,日常生活機能,対人関係機能など実際の 生活を反映する個々の社会機能が陰性症状のどのサブドメインと関連するのかということ を同定する. (研究題目:統合失調症者の社会機能と陰性症状サブドメインとの関連)

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26 認知機能

統合失調症の社会機能

(研究 1:社会機能×統合失調症の症状群) (研究 2:個々の社会機能×陰性症状サブドメイン) 図 2 本研究(研究 1,2)の概要 対人関係機能 日常生活機能 労働機能 陰性症状のサブドメイン 陽性症状 対人関係機能 労働機能 日常生活機能 陰性症状のサブドメイン

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27 2.3 本研究の新規性および意義 陰性症状が本人の望む主体的な生活を阻害する要因になっていることを考慮し,本研究 の新規性および意義は主に以下の 2 つに分けられる. ① 陰性症状が一元的な症状ではないことを踏まえ,陰性症状のサブドメインを含む統合 失調症の症状群がどのように社会機能を障害するのか因果関係を明らかにした研究は見当 たらない.統合失調症の症状群が社会機能に与える影響を俯瞰的に捉えることは統合失調 症治療における全般的な支援方策の指針を示すことにつながる(研究 1) ② さらに,実際の生活を反映する個々の社会機能と陰性症状のサブドメインとの関連を 明らかにすることは,治療者が各々の陰性症状の特徴や状況に合わせた対応を行う際の一 助につながる(研究 2) 以上のことから本研究は,作業療法支援の質の向上という側面だけでなく,主体的な生 活を阻害する陰性症状を考慮した心理社会的治療の開発および対象者が望む生活の支援に むけた示唆を得ることにつながると考える.

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28 第 3 章 統合失調症者の社会機能に陰性症状が与える影響 3.1 研究 1 体験症状因子と感情表出因子が社会機能に与える影響のモデル化 3.1.1 背景および目的 第 1 章で示したように陰性症状の構造は一元的ではないことが多くの研究にて示されて いる.すなわち失快楽症,非社会性,意欲の低下など社会的な行動に対する動機づけや快 体験を感じる能力に関連する体験症状因子と感情鈍麻や会話の貧困など主にコミュニケー ション上の言語および非言語的な表出の低下を示す感情表出因子の 2 つの因子構造が確認 されている30-33) これら体験症状因子と感情表出因子が社会機能に与える影響を分析すると,感情表出因 子が体験症状因子を介して社会機能に影響を与えるパスモデルが Schlosser ら 60)の先行研 究によって示されている.しかし,Schlosser らの研究はあくまで両因子と社会機能との関 連のみを分析した結果であり,認知機能,陽性症状など社会機能に影響を与えるその他の 症状群とを同時に検討したパスモデルは示されていない.そのため,陰性症状をサブドメ インとして捉えた上で,統合失調症の症状群がどのように社会機能を障害するのかパスモ デルを提示することは,心理社会的治療の発展に有用な示唆を与える.本研究では先行研 究同様,因果関係を明らかにし,仮説モデルを提示することができる SEM を使用した. 研究 1 では陰性症状を感情表出因子,体験症状因子と個々に評価した上で,認知機能や陽 性症状を含めた各因子と社会機能の関連性を俯瞰的に捉えるため仮説モデルを生成し,検 討を行った. 3.1.2 用語の定義 1)社会機能 兼子によると社会機能とは,人が地域生活を営むために必要な多面的な機能の総称とし ており,居住や日常生活に関する機能と家族,友人,職場の同僚などと付き合うための対 人技能,仕事,家事,学業などの役割機能に大別される83).本研究では,これら地域生活 を営むために必要な多面的な機能を社会機能と定義した.

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29 3.1.3 方法 1)研究デザイン 横断面でのデータを用い仮説モデルを生成する関係探索研究 2)研究仮説 Sclosser ら 60)の研究では,感情表出因子⇒体験症状因子⇒社会機能というパスモデルが 示されているが,陰性症状以外の社会機能に影響を与える因子(認知機能,陽性症状)が 感情表出因子⇒体験症状因子というパスとどのように関連し社会機能に影響を与えるのか 明らかにされていない.よって,本研究で焦点となるのは,感情表出因子⇒体験症状因子 から社会機能へ至るパスが認知機能や陽性症状から独立して社会機能に影響を与えるのか, それともその他の因子が上記パスを介して社会機能に影響を与えるのかという 2 つの仮説 モデルが考えられる.また,Sclosser らの研究 60)では対象者を前駆期に絞っていたため, 発症後の統合失調者を対象とした研究は行われていない.そのため,モデル 1 では感情表 出因子が直接的に影響を与えるパスモデルを示し,モデル 2 では感情表出因子が社会機能 に間接的に影響を与えるパスモデルを示すことで先行研究同様の結果が得られるのかを明 らかにする.さらに,モデル 2 では感情表出因子⇒体験症状因子から社会機能へ至るパス が認知機能や陽性症状から独立して社会機能に影響を与えるのかを同時に検討し,モデル 3 では,認知機能,陽性症状が感情表出因子⇒体験症状因子を介して社会機能に影響を与 えるかを検討する.最終的に,モデル 2 とモデル 3 どちらが妥当な仮説モデルであるのか を統計的に検討する. 3)対象 研究開始時に年齢が 20 歳以上,ICD-10 で統合失調症と診断されている外来通院者 259 名を対象とした.精神遅滞を合併する者,薬物依存の既往がある者,神経系疾患(認知症, 脳梗塞など)および整形疾患(頚椎症,脊髄損傷など)を合併する者を除外した. 4)調査の実施 当院は郊外にある精神科単科の病院である.データ収集は面接,観察にて実施した.評

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30 価を実施したのは主治医および筆者を含む担当メディカルスタッフ(作業療法士,訪問看 護師,精神保健福祉士)であった.データの収集は平成 30 年 10 月~令和元年 9 月までの 間実施した.基本情報についてはカルテから情報を収集した. 5)評価項目および尺度 基本属性として調査時点の年齢,性別,発症年齢,罹患期間,入院回数,抗精神病薬の 服薬量(chlorpromazine 換算:CP 換算)を評価した.社会機能の評価には本研究で使用す る評価尺度にはこれら定義を反映する Life Assessment Scale for the Mentally Ill:LASMI84)

陰性症状の評価には BNSS を使用した31).認知機能の評価には The Schizophrenia Cognition

Rating Scale-J:SCoRS-J85),Brief Psychiatric Rating Scale 日本語版:BPRS を使用した86)

◯LASMI 岩崎ら84)が開発した尺度である.観察法にて評価を実施する.LASMI は日常生活機能, 対人関係機能,労働及び課題の遂行(以下,労働機能),持続性・安定性,自己認識(病識) を下位項目とする尺度である.日常生活機能は 12 項目で 0~48 点,対人関係機能は 13 項 目で 0~52 点,労働機能は 10 項目で 0~40 点,持続性・安定性は 2 項目で 0~11 点,自己 認識は 3 項目で 0~12 点で評価される.得点が高い程各社会機能の障害が重度であること を示す. ◯BNSS Kirkpatrick ら24)が開発した 5 つのサブドメインの評価を含む尺度である.半構造化面接 にて評価を実施し,各サブドメインの下位項目ごとにカットオフポイントが設けられてい る.体験症状因子である失快楽症は 0~21 点,非社会性は 0~12 点,意欲の低下は 0~12 点.感情表出因子である感情鈍麻は 0~21 点,会話の貧困は 0~12 点で評価される.点数 が高い程症状が重いことを示す.正常な苦悩の欠如については,先行研究にてどちらの因 子にも含まれていないことから本研究では評価項目から除外した 4).なお,本研究では, 北海道大学大学院医学研究院神経病態学分野精神医学教室橋本直樹博士が翻訳した BNSS を使用し,同博士から使用の許可を得た.

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31 ◯SCoRS-J MATRICS 委員会の推薦に基づいている統合失調症の認知機能評価尺度の日本語版であ り,兼田ら85)が作成した.記憶,学習,注意,ワーキングメモリー,問題解決,処理/運動 速度,社会認知および言語の 8 つの領域を評価する 20 項目と全般評価からなり,各項目は 4 段階で評価され,得点幅は 20~80 点である.得点が高い程認知機能障害が重度であるこ とを示す.本研究では 20 項目の得点を分析対象とした. ◯BPRS 宮田ら86)が翻訳した尺度で陽性症状および陰性症状を含む精神症状を評価する.本研究 では,Green ら52)の研究を参考に陽性症状項目の 7 項目を評価対象とした.得点幅は 0~ 42 点である.得点が高い程陽性症状が重度であることを示す. 6)分析方法 6-1)基本属性および各評価尺度の関連 対象者の基本属性,各測定項目の記述統計量を把握した上で測定項目間の関連を検討す るために Peason 積率相関係数を用い相関係数を算出した.性別と各測定項目間の関連につ いては t 検定で検討した.なお,研究の同意が得られた対象者であっても,基本属性およ び各評価尺度得点に欠損が生じた場合には,分析対象から除外した. 6-2)体験症状因子と感情表出因子が社会機能に与える影響のモデル化 研究仮説で示した仮説モデルを SEM にて検討した.解析したモデルの適合度指標はχ2

値,CFI,NFI,RMSEA,AIC の 5 項目を用い,CFI,NFI が 0.8 以上,RMSEA<0.05 をモデル適合基準として妥当性を検討し,仮説モデルの標準化係数を算出した.統計解析 には 統計ソフト SPSS for windows version 24 を用いた.

7)サンプルサイズの設定

本研究では平井ら87)の指摘を参考に推定方法に最尤法を使用し,サンプルサイズを 100

と設定した.そのため,本研究では分析対象者が 100 名になるよう非確率的サンプリング にて対象者を募集した.

(37)

32 8)倫理的配慮 研究 2,3 は那須高原病院倫理審査委員会および国際医療福祉大学倫理審査委員会の許可 を得て実施した(承認番号 17-Io-192).本人には書面と口頭にて研究の説明を実施し同意 を得た. 3.1.4 結果 1)基本属性および各評価尺度と社会機能との関連 平成 30 年 9 月時点で当院に外来通院していた対象者は 259 名であった.除外基準を適用 後,書面と口頭にて同意が得られた対象者は 104 名であったが,データに欠損があった対 象者が 4 名いたため,最終的な分析対象者は 100 名であった.対象者の基本属性を表 4 に 示し,各評価尺度の得点を表 5 に示した.年齢の平均値は 49.6 歳±13.4,男性 39 名,女性 61 名,発症年齢の平均値は 28.8 歳±9.3,投薬量の平均値は 520.3mg±415.1 であった. 基本属性ならびに各評価尺度との関連を表 6 に示す.社会機能と相関が認められた項目 は,体験症状因子,感情表出因子,BNSS,SCoRS-J,BPRS であった.性別との関連につ いては体験症状因子,感情表出因子,BNSS,LASMI に有意な差が認められた.いずれも, 女性に比べ男性の数値が有意に高かった.

(38)

33 表 4 対象者の基本属性(N=100) 平均値 SDa) 最大値 最小値 年齢(歳) 49.6 13.4 74 21 発症年齢(歳) 28.8 9.3 52 13 罹患期間(年) 20.5 12.8 52 3 入院回数(回) 1.6 2.3 15 0 投薬量b)(mg) 520.3 415.1 2553 0 N % 性別 男性 39 39 女性 61 61 a)SD=Standard Deviation b)投薬量は CP 換算値

(39)

34 表 5 各評価尺度得点(N=100) 平均値 SDa) 最大値 最小値 体験症状因子b) 13.9 8.5 40 1 感情表出因子c) 8.3 7.2 28 0 BNSSd) 22.2 15.2 72 3 SCoRS-Je) 37.8 10.1 77 22 BPRSf) 6.1 4.7 21 0 LASMIg) 56 32 145 0 a)SD=Standard Deviation b)体験症状因子=BNSS の下位項目失快楽症,非社会性,意欲の低下の合計得点 c)感情表出因子=BNSS の下位項目感情鈍麻,会話の貧困の合計得点

d)BNSS= Brief Negative Symptom Scale e) Schizophrenia Cognition Rating Scale 日本語版 f) Brief Psychiatric Rating Scale

参照

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大谷 和子 株式会社日本総合研究所 執行役員 垣内 秀介 東京大学大学院法学政治学研究科 教授 北澤 一樹 英知法律事務所

⑹外国の⼤学その他の外国の学校(その教育研究活動等の総合的な状況について、当該外国の政府又は関