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第 3 章 統合失調症者の社会機能に陰性症状が与える影響

3.1 研究 1 体験症状因子と感情表出因子が社会機能に与える影響のモデル化

3.1.3 方 法

1)研究デザイン

横断面でのデータを用い仮説モデルを生成する関係探索研究 2)研究仮説

Sclosser ら 60)の研究では,感情表出因子⇒体験症状因子⇒社会機能というパスモデルが

示されているが,陰性症状以外の社会機能に影響を与える因子(認知機能,陽性症状)が 感情表出因子⇒体験症状因子というパスとどのように関連し社会機能に影響を与えるのか 明らかにされていない.よって,本研究で焦点となるのは,感情表出因子⇒体験症状因子 から社会機能へ至るパスが認知機能や陽性症状から独立して社会機能に影響を与えるのか,

それともその他の因子が上記パスを介して社会機能に影響を与えるのかという2つの仮説 モデルが考えられる.また,Sclosser らの研究 60)では対象者を前駆期に絞っていたため,

発症後の統合失調者を対象とした研究は行われていない.そのため,モデル1では感情表 出因子が直接的に影響を与えるパスモデルを示し,モデル2では感情表出因子が社会機能 に間接的に影響を与えるパスモデルを示すことで先行研究同様の結果が得られるのかを明 らかにする.さらに,モデル2では感情表出因子⇒体験症状因子から社会機能へ至るパス が認知機能や陽性症状から独立して社会機能に影響を与えるのかを同時に検討し,モデル 3 では,認知機能,陽性症状が感情表出因子⇒体験症状因子を介して社会機能に影響を与 えるかを検討する.最終的に,モデル2とモデル3どちらが妥当な仮説モデルであるのか を統計的に検討する.

3)対象

研究開始時に年齢が 20 歳以上,ICD-10で統合失調症と診断されている外来通院者 259 名を対象とした.精神遅滞を合併する者,薬物依存の既往がある者,神経系疾患(認知症,

脳梗塞など)および整形疾患(頚椎症,脊髄損傷など)を合併する者を除外した.

4)調査の実施

当院は郊外にある精神科単科の病院である.データ収集は面接,観察にて実施した.評

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価を実施したのは主治医および筆者を含む担当メディカルスタッフ(作業療法士,訪問看 護師,精神保健福祉士)であった.データの収集は平成30年10月~令和元年9月までの 間実施した.基本情報についてはカルテから情報を収集した.

5)評価項目および尺度

基本属性として調査時点の年齢,性別,発症年齢,罹患期間,入院回数,抗精神病薬の 服薬量(chlorpromazine換算:CP換算)を評価した.社会機能の評価には本研究で使用す る評価尺度にはこれら定義を反映するLife Assessment Scale for the Mentally Ill:LASMI84), 陰性症状の評価にはBNSSを使用した31).認知機能の評価にはThe Schizophrenia Cognition Rating Scale-J:SCoRS-J85),Brief Psychiatric Rating Scale日本語版:BPRSを使用した86)

◯LASMI

岩崎ら84)が開発した尺度である.観察法にて評価を実施する.LASMIは日常生活機能,

対人関係機能,労働及び課題の遂行(以下,労働機能),持続性・安定性,自己認識(病識)

を下位項目とする尺度である.日常生活機能は12項目で0~48点,対人関係機能は13項 目で0~52点,労働機能は10項目で0~40点,持続性・安定性は2項目で0~11点,自己 認識は3項目で0~12点で評価される.得点が高い程各社会機能の障害が重度であること を示す.

◯BNSS

Kirkpatrickら24)が開発した5つのサブドメインの評価を含む尺度である.半構造化面接

にて評価を実施し,各サブドメインの下位項目ごとにカットオフポイントが設けられてい る.体験症状因子である失快楽症は0~21点,非社会性は0~12点,意欲の低下は0~12 点.感情表出因子である感情鈍麻は0~21点,会話の貧困は0~12点で評価される.点数 が高い程症状が重いことを示す.正常な苦悩の欠如については,先行研究にてどちらの因 子にも含まれていないことから本研究では評価項目から除外した 4).なお,本研究では,

北海道大学大学院医学研究院神経病態学分野精神医学教室橋本直樹博士が翻訳した BNSS を使用し,同博士から使用の許可を得た.

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◯SCoRS-J

MATRICS 委員会の推薦に基づいている統合失調症の認知機能評価尺度の日本語版であ

り,兼田ら85)が作成した.記憶,学習,注意,ワーキングメモリー,問題解決,処理/運動 速度,社会認知および言語の8つの領域を評価する20項目と全般評価からなり,各項目は 4段階で評価され,得点幅は20~80点である.得点が高い程認知機能障害が重度であるこ とを示す.本研究では20項目の得点を分析対象とした.

◯BPRS

宮田ら86)が翻訳した尺度で陽性症状および陰性症状を含む精神症状を評価する.本研究 では,Greenら 52)の研究を参考に陽性症状項目の7項目を評価対象とした.得点幅は 0~

42点である.得点が高い程陽性症状が重度であることを示す.

6)分析方法

6-1)基本属性および各評価尺度の関連

対象者の基本属性,各測定項目の記述統計量を把握した上で測定項目間の関連を検討す

るためにPeason積率相関係数を用い相関係数を算出した.性別と各測定項目間の関連につ

いてはt 検定で検討した.なお,研究の同意が得られた対象者であっても,基本属性およ び各評価尺度得点に欠損が生じた場合には,分析対象から除外した.

6-2)体験症状因子と感情表出因子が社会機能に与える影響のモデル化

研究仮説で示した仮説モデルをSEMにて検討した.解析したモデルの適合度指標はχ2 値,CFI,NFI,RMSEA,AICの5 項目を用い,CFI,NFIが0.8以上,RMSEA<0.05 をモデル適合基準として妥当性を検討し,仮説モデルの標準化係数を算出した.統計解析 には 統計ソフトSPSS for windows version 24を用いた.

7)サンプルサイズの設定

本研究では平井ら87)の指摘を参考に推定方法に最尤法を使用し,サンプルサイズを100 と設定した.そのため,本研究では分析対象者が100名になるよう非確率的サンプリング にて対象者を募集した.

32 8)倫理的配慮

研究2,3は那須高原病院倫理審査委員会および国際医療福祉大学倫理審査委員会の許可 を得て実施した(承認番号 17-Io-192).本人には書面と口頭にて研究の説明を実施し同意 を得た.

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