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学位論文審査の要旨

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Academic year: 2021

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(1)

博 士 ( 農 学 ) 小 出 隆 広

学 位 論 文 題 名

   降水量 の変化が東シベリアタイガ生態系における 炭素収支および地球温暖化ポテンシャルに及ぼす影響

学位論文内容の要旨

ロ シ ア の 森 林 は北 半球 の森 林 の炭 素蓄 積量 の約5割 を占 め る巨 大な 炭素 プー ル であ り、 か つ 炭 素 の 大 き な シ ン ク で あ る と 考 え ら れ てい る。 東シ ベ リア 地方 は連 続永 久 凍土 分布 域 に 属 す る 寒 冷 で乾 燥し た気 候 であ り、 年降 水量 は200−300 mmと半 乾燥 地並 み に少 なく 、 土 壌 水 分 と 可 給 性 窒 素 が 森 林 の 生 育 の 律 速と なっ てい る と言 われ てい る。 将 来の 地球 温 暖 化 に 伴 っ て こ の 地 域 に お い て は 降 水 量 や激 しい 降雨 イ ベン トの 増加 が起 こ ると 言わ れ て い る 。 生 態 系 の 炭 素 収 支 に 大 き な 役 割 を果 たす 土壌 呼 吸量 は土 壌水 分率 の 増加 に伴 っ て 増 加 す る と 言 わ れ 、 地 球 温 暖 化 に 伴 う 降雨 バタ ーン の 変化 がこ の地 域の 炭 素収 支に 大 き な 影 響 を 与 え る 可 能 性 が あ る 。 さ ら に 土壌 水分 率の 増 加はCH4やN20とい っ た温 室効 果 ガ ス の 放 出 も 促 進 さ せ る と 考 え ら れ る た め、 地球 温暖 化 に正 のフ イー ドバ ッ クを もた ら す 可 能 性 が あ る 。 そ こ で 本 研 究 で は 、 東 シベ リア のヤ ク ーツ ク近 郊の グイ マ ツ林 にて 降 水 に 対 す る 林 床 か ら の 温 室 効 果 ガ ス フ ラ ック スの 反応 を 調べ 、そ れら が生 態 系の 炭素 収 支や 地球 温暖 化 ポテ ンシ ャル にど の よう な影 響を 与 える のか を調 べる こ とを 目的とした。

1.調査は束シベリ アのヤクーツク近郊にあるSpasskaya‑Pad実験林(62゜15 N,129゜37 E)内 の180年 生 グ イ マ ツ 林 にて 、2003年5月 〜2005年9月 、2008年8月 、2009年8月 に 行っ た。O 層 表 面 か ら のC02、CH4、N20フ ラッ クス 、 鉱質 土壌 にお けるC02、.CH4、N20生 成速 度、

微 生 物 呼 吸 速 度 を 測 定 した ほか 、 露地 雨、 林内 雨 、樹 幹流 、リ ター フ ォー ル、 窒素 固定 速 度 、 脱 窒 速 度 を 測 定 し、 さら に 木部 生長 速度 、 細根 の枯 死還 元速 度 を文 献値 から 推定 して生態系が関わ る各炭素および窒素フローを 求めた。

2. 2004年7月 に グ イ マ ツ 林 内 の 一 区 画 に こ の 地 域 の 夏 期 の 降 水 量 に 匹 敵 す る 量 の 灌 水

( 計120 mm)を6日 間に 分 けて 行う こと で激 し い降 雨イ ベン トを 模 し、 灌水 前と 灌水中の 各 温 室 効 果 ガ ス フ ラ ッ ク ス 、 微 生 物 呼 吸 速 度 、土 壌中 の各 温 室効 果ガ スの 生成 速 度を 観測 し た 。 灌 水 前 に は 土 壌 は 乾 燥 し て い た 。 灌 水に よっ て灌 水 区で は無 灌水 区に 比 べて 地温 と 土 壌 水 分 率 が 高 ま っ た 。 灌 水 期 間 中 の 土 壌表 面か らのC02、N20フ ラッ クス と 土壌 全層 の 微生 物 呼吸 速度 はそ れ ぞれ 灌水 区において無灌水区よりも高 く(それぞれ1.6倍、8.0倍 、 1.9倍 )、CH4吸収 速度 は 灌水 区に おいて無灌水区よりも低くな り(0.4倍)、激しい降雨イ ベ ン ト が こ れ ら の 放 出 を 促 進 さ せ る 事 が 示 唆 され た。 土壌 水 分率 は土 壌全 層の 微 生物 呼吸 速 度とO層 にお け るCH4生 成速 度に 正の 影響 を 与え 、根 呼吸 速度 に 負の 影響 を与 えていた 。 地 温 はO層 に お け る 微 生 物 呼 吸 速 度 と 根 呼 吸 速 度 に 正 の 影 響 を 与 え てい た。 土 壌の 地球 温 暖 化 ポ テ ン シ ャ ル は 主 に 微 生 物 呼 吸 の 影 響を 受け てい た 。こ れら のこ とか ら 、本 調査 地 で 乾 燥 し た 土 壌 に 激 し い 降 雨 イ ベ ン ト が もた らさ れる と 地温 と土 壌水 分率 が 上昇 し、

土 壌有 機 物の 分解 を促 進 させ ると 考え られ た 。

3. 2003年〜2005年 のそ れぞ れ7月に 土壌 表面 か らの 各温 室効 果 ガス フラ ック スと 微生物 呼吸 速度 を測 定し て 年次 間比 較を 行 った 。ま た地 表か ら20 cm深 の土 壌水 中の 溶存 有機態

(2)

炭 素 くDOC)、N03. 、NH4+.カ チ オ ン 濃 度 を 測 定 し た 。2003、2004、2005年 の 測 定 期 間 中 の 降 水 量 は そ れ ぞ れ50.5、3.7、84.1 mmで あ り 、2003年 と2005年 を そ れ ぞ れ 湿 潤 年 、2004 年 を 乾 燥 年 と 定 義 し た 。C02、N20フ ラ ッ ク ス 、 微 生 物 呼 吸 速 度 の 平 均 値 は い ず れ も 湿 潤 年 にお い て 乾 燥 年よ り も 高 い 値を 示 し た ( それ ぞ れ1.9‑2.5倍、4.2倍 、2.3‑3.9倍 )。こ れらは 地 温 や 土 壌 水 分 率 と 正 の 相 関 を 示 し た 。 ま た 乾 燥 年 にDOC濃 度 の 上 昇 が 見 ら れ 、 こ の 年 に 乾 燥 に よ る 従 属 栄 養 生 物 の 不 活 性 化 と そ れ に 伴 う 両 フ ラ ッ ク ス の 低 下 が 起 き た こ と が 示 唆 さ れ た 。 一 方CH4フ ラ ッ ク ス の 平 均 値 に は 年 次 間 差 が 見 ら れ ず 、 地 温 や 土 壌 水 分 と も 相 関 が 無 か っ た 。 こ れ に よ り 、 乾 燥 年 に はCH4酸 化 が 乾 燥 ス ト レ ス に よ っ て 制 限 さ れ る た め に 、 湿 潤 年 と 比 べ て 土 壌 の 拡 散 係 数 が 高 く な る に も 関 わ ら ず 、CH4酸 化 速 度 が 高 ま ら な か っ た こ と が 示 唆 さ れ た 。 土 壌 溶 液 中 のN03・ 、NH4+.カ チ オ ン 濃 度 に は 年 次 間 差 が 無 く 、 こ れ ら の 供 給 量 が 温 室 効 果 ガ ス フ ラ ッ ク ス の 年 次 間 差 に 与 え る 影 響 は 小 さ か っ た と考 え ら れ る 。

4. 2003年 か ら2005年 に グ イ マ ツ 林 生 態 系 内 の 各 炭 素 お よ び 窒 素 フ 口 ー を 測 定 し 、 降 水 量 の 違 い に よ る 土 壌 有 機 物 分 解 量 の 変 化 と 、 そ れ に と も な う 利 用 可 能 な 窒 素 の 土 壌 中 へ の 放 出 量 の 変 化 が 生 態 系 の 炭 素 収 支 に 与 え る 影 響 を 調 べ た 。 前 項 と 同 様 に2003年 と2005 年 を そ れ ぞ れ 湿 潤 年 、2004年 を 乾 燥 年 と 定 義 し た 。 本 調 査 地 に お け る 土 壌 有 機 物 分 解 量 は 湿 潤 年 で ある2003年 と2005年 に 大 き く (そ れ ぞ れ3.1土0.2、3.0土0.2 MgCha11・1) 、 乾燥 年 で あ る2004年 に 小 さ く な っ た (2.2士0.2MgChaI1一l) 。 こ れ に 対し て グ イ マ ツ の純 一 次 生 産 量 叫PP) には 大 き な 年 次変 動 が見 られず (2003年 、2004年 、2005年 におい てそれ ぞれ1.2土0.7、 1.3土0.7、 ‐1.8士O.7MgChaIld) 、 それ ら の 差 し引き で表さ れる純 生態 系生産 量mEP)は2003 年 、2004年 、2005年 におい てそれ ぞれ |2.0士0.7、−1.0士0.7、‐1.8土0.7MgChaIlゾlと乾燥年 に 大 き く な っ た 。 こ の こ と か ら 、 湿 潤 年 に は 土 壌 有 機 物 分 解 量 が 大 き く な り 、 生 態 系 か ら の 炭 素 放 出 量 が 大 き く な る こ と が 示 さ れ た 。 一 方 土 壌 系 の 窒 素 収 支 は 正 味 の 蓄 積 を 示 し 、 湿 潤 年 と 乾 燥 年 と の 間 で 大 き な 違 い が 見 ら れ な か っ た (2003年 、2004年 、2005年 に そ れ ぞれ3.8士7.6、2.7土15.7、2.6土3.7kgNha11.l)。こ のことから、湿潤年に土壌有機物分解 量 の 増 加 に 伴 っ て 利 用 可 能 な 窒 素 が 土 壌 中 へ 放 出 さ れ る 量 が 増 え て も 、 植 生 吸 収 や 脱 窒 な ど に よ っ て 土 壌 系 外 に 流 出 せ ず に 、 お そ ら く 土 壌 微 生 物 に よ っ て 保 持 さ れ た と 考 え ら れ た 。 よ っ て 降 水 量 の 増 加 に よ る 土 壌 有 機 物 分 解 量 の 増 加 に 伴 う 窒 素 の 放 出 は 、 す ぐ に グ イ マ ツ のNPPに 影 響 を 与 え る わ け で は な い と 考 え ら れ る が 、 将 来 に わ た っ て 土 壌 有 機 物 分 解 に よ る 炭 素 放 出 と と も に 窒 素 の 蓄 積 が 続 く と 土 壌 のCN比 が 低 下 し 、 硝 化 速 度 が 大 き く な る こ と で グ イ マ ツ ヘ の 窒 素 供 給 量 が 増 え てNPPが 増 え る ほ か 、 硝 化 と そ れ に 続 く 脱 窒に伴 いN20の放 出量が 増える 可能性 があ る。

5. 以 上 の こ と か ら 年 降 水 量 の 増 加 は こ の 地 域 の 森 林 生 態 系 の 炭 素 収 支 や 地 球 温 暖 化 ポ テ ン シ ャ ル に 大 き な 影 響 を 与 え る こ と が 示 唆 さ れ た 。 ま た 乾 燥 年 に お い て は 激 し い 降 雨 イ ベ ン ト が 微 生 物 呼 吸 速 度 、CH4フ ラ ッ ク ス 、N20フ ラ ッ ク ス を 上 昇 さ せ た が 、 そ れ ぞ れ の 年 間 積 算 フ ラ ッ ク ス に 与 え る 影 響 は 小 さ い と 考 え ら れ た 。 将 来 の 降 水 量 増 加 が こ の 地 域 の 森 林 生 態 系 に お け る 炭 素 収 支 に 与 え る 影 響 を よ り 正 確 に 予 測 す る た め に は 、 降 水 量 の 増 加 に 伴 う グ イ マ ツ の 枯 死 の 可 能 性 に つ い て 考 慮 す る こ と が 必 要 で あ る 。

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学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

   降水量の 変化が東シベリアタイガ生態系における 炭素収支および地球温暖化ポテンシャルに及ぼす影響

本論 文は8章 から なり 図67、 表41、引 用文 献266を 含む154ぺー ジ の和 文論 文で あり 、 他に参考論 文2編が添えられている。

  ロシアの森林は北半球の姦諦Sの炭素蓄積量の約5割を占める巨大な炭素プ̲′レであり、かっ炭素の大 きなシンクである。東シベリアは連続永久凍土分布域に属し、年降水量200‑300 mmの半乾燥地であり、

土壌水分と可給性窒素が森 林の生育の律速となっている とされている。ところが将来の地球温暖化に 伴ってこの地曦は降水量や 激しい降雨イベントの増加が 起こると言われている。土壌水分率の増加に 伴っ て土 睦呼 吸量が増加し、炭 素収支に大きな影響を与え る可能陸があり、さらにCH4やN20といっ た温室効果ガスの放出も促 進させると考えられるため、 地球温暖化に正のフイードバックをもたらす 可詣陸がある。そこで本研 究では、東シベリアのヤクー ツク近郊のグイマツ林において降水に対する 林床からの温室効果ガスフ ラックスの反応と樹木の生長 速度を調ぺ、それらが生態系の炭素収支や地 球 温 暖 化 ポ テ ン シ ャ ル に ど の よ う な 影 響 を 与 え る の か を 調 べ る こ と を 目 的 と し た 。   調査はヤクーツク近郊にある180年生グイマツ林(62015 N,129037 E)にて、2003年〜2009年にかけて 行った。土壌表面からのC02、CH4、N20フラックス、微 生物呼吸速度を測定したほか 、露地雨、林内 雨、樹幹流、リターフオー ル`窒素固定速度、脱窒速度 を測定し、さらに木部生長速度、細根の枯死 還 元 速 度 を 文 献f直 か ら 推 定 し て 生 態 系 が 関 わ る 各 炭 素 お よ ぴ 窒 素 フ ロ ー を 求 め た 。   2004年7月にグイマツ林内 の一区画にこの地域の夏期 の降水量に匹敵する量の溌水 を行うことで激 しい降雨イベントを模し、 灌水前と灌水中の各温室効果 ガスフラックスおよぴ微生物呼吸速度を観測 した。灌水前には土壌は乾 燥していた。灌水期間中のニ ヒ壌表面からのC02、N20フラックスと微生物 呼吸速度はそれぞ加淋区において無灌水区よりも高く(それぞれ1.6倍、8.0倍、1.釿め、CH4吸収速度 は灌水区において無灌水区よりも低くなり(0.4倍)、激しい降雨イベントがこれらの放出を促進させる 事が示唆された。

  2003年〜2005年のそゎぞ 加,7月に土壌表面からの各温室効果ガスフラックスと微生物呼吸速度を測 定して年次間比較を行った。2003、2004、2005年の測定期間中の降水量はそれぞれ 50.5、3.7、84.11nm

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介 良

之 司

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であ り、2003年と2005年をそれぞ れ湿潤年、2004年を乾燥年 と定義した。C02、N20フラッ クス、微 生物呼吸速度の平均値はいずれも湿潤年において乾燥年よりも高い値を示した(それぞれ1.9‑2.5倍、412 倍、2.3‑3.9倍Xこれらは地温や土壌水分 率と正の相関を示した。一方(飄フラックスの平晦値には年 次間差が見られず、地温や土壌水分とも相関が無かった。

  2003年か ら2005年にグイマツ林生態系 内の各炭素およぴ窒素フローを測定し、降水量の違いによる 土壌有機物 分解量の変化と、それにとも なう利用可能な窒素の士睦中への放出量の変化が生態系の炭 素収支に与える影響を調べた。土壌有機物分角翠量は湿潤年である2003年と2005年に大きく(それぞ加 3.1+0.2、3.(Hめ.2 MgC hal y")、乾燥年である2004年に小さくなった(22*0.2 MgC hal y")これに対し てグイマツ の純一次生産量(NPP)には大 きな年次変動が見ら加ザc2003年、2004年、2005年においてそ れぞれ1.21:0.7、1.3+0.7丶‑1.8+0.7 MgC ha" y")、NPPと土壌有機物分解量の差として得られる純生態系 盤晝量糾ロ )は2003年丶2004年、2005年においてそれ尉‑2.Od:0.7、‑1.0+0.7、‑1.810.7 MgCばデと乾 燥年に大き くぬった。このことから、湿 潤年には士囈有機物分解量が大きくなり、生態系からの炭素 放出量が大 きくなることが示された。一 方、土壌系の窒素収支は正味の蓄積を示し、湿潤年と乾燥年 との間で大きな違いが見られなかった(2003年、2004年、2005年にそれぞれ3.8+7.6、2.7士15.7、2.6+3.7.kg N hal y")こ のことから、湿潤年に土壌有機物彡手解量の増加に伴って利用可能な窒素が土壌中へ放出 される量が 増えても、植生吸収や脱窒な どによって土壌系外に流出せずに、おそらく土壌微生物によ って保持さ れたと考えられた。しかし、 将来にわたる生態系からの炭素放出と窒素蓄積は、土壌のCN 比を低下さ せ硝化速度を大きくすると考 えられる。このことはグイ マツヘの窒素供給量を増やL,NPP を増やす正 の効果と、硝化とそれに続く 脱窒に伴うN20放出量を増や す負の効果を持っており、今後 も監恥ーる必要があると考えられた。

  以上のよ うに本研究は、東シベリア永 久凍土地帯の降水量の増加はこの地域の森林生態系の炭素収 支や地球温 暖化ポテンシャルに大きな影 響を与えることを示したものであり、今後の地球温暖化の予 測とその対 策に貢献するものである。よ って審査員一同は、小出隆広が博士(農鞠の学位を受けるに 十分な資格を有するものと認めた。

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