博 士 ( 水 産 科 学 ) 三 宅 博 哉
学 位 論 文 題 名
音響学的手法を用いたスケトウダラ北部日本海系群の 資源動態評価と産卵場形成に関する研究
学位論文内容の要旨
【目的】 ス ケトウ ダラTheragra chalcogrammロは重要な水産資源であ り,TAC制度が1996年に制定され,スケトウダラもその対象魚種 となった,量的な管理を実施することから,漁業から独立した資源 推 定 法 で あ る 音 響 資 源 調 査 の 重 要 性 が 増 大 し た . 我が国周辺のスケトウダラは4系群に分けられており,本研究の 対象とする北部日本海系群は,北海道日本海海域において,主に沖 合底びき網漁業と刺し網・はえ繩漁業で漁獲される,刺し網・はえ 縄漁業は11〜翌年3月,産卵のために沿岸に来遊する親魚を漁獲 す る. 本 海 域 で の 漁獲 量 は ,1991年 の12万tか ら2005年には2 万5千tまで 減少し ており ,資源 状態 とRPS(再 生産成 功率)は 過去最低水準にある.
近年,環境変動の水産資源に対する影響が注目され,北部日本海 系群においても,冬期間の表面水温と加入量の間に負の関係が報告 されている.しかし,スケトウダラが環境変化にどのように応答す るのか,卵期を除き生態的な知見は少ない.
日本海の環境変動を見ると,表層を北へ流れる対馬暖流は1988 年以降,勢カの強い年が多くなっている.また,北海道沿岸域では 100年以 上のデ ー夕系 列から ,温 暖化が 明らか にされ ている.
一方,スケトウダラの分布水温を見ると,索餌期のスケトウダラ は12℃でも漁獲されるが,産卵回遊期には水温0.5℃という低水 温層に分布する.卵のふ化適水温は2〜7℃であり,10℃以上にな るとふ化率は低下する,
資源低下の著しい本系群を適切に管理するためには,資源量を正 確に評価し,環境変動が資源に与える影響を早急に明らかにする必 要がある,従って,本研究ではVPA推定値と音響資源調査で得ら れた現存量を比較検証し,また,音響資源調査で得られたスケトウ ダラ分布情報と水温情報を分析して,再生産過程の最初の段階であ る産卵場形成に係わる水温の影響を解明することを目的とした.
【材料と方法】
音響資源調査は,1996〜2007年の9〜10月の間に,北海道日本 鴛隻警ざ馨験調査船北洋丸(237t),2001年以降は北洋丸と金星丸 ユ(151t)を用いて行った,音響データの収録にはSimrad EK500 や レごはEK60を 用いた .使 用した周波数は38kHz,パルス長Ims とした.調査開始前には可゛能な限り標準球(直径60mm銅球)較正 を実施した. ′
ー堅璽晝れた音響データの信頼性を検討するために,計量魚探機の 較正記録を分析し,北洋丸と金星丸の船間較正を行な言I妻芝,′
EchoVie 孝利用して3つのノイズ除去処理を実施し,そ,の効棄,を 謦璽した.そして,本研究で明らかになった補正を適用して算畄し た産卵親魚現存量とVPAによる資源量推定値を比蓑じた.丶I冖L亠亅v ー妻を #や湾隻桧山沖の2定点の鉛直水温と音響資源調査で得 三翌をうケトウダラ分布深度を比較,分析した.得られた関係を桜 撃三るために,1935年以降の沿岸漁業漁獲量と北海道日笨鑑沿葦 奎温から求めた標準化水温を相関分析した.さらに,マ爾淫よ百 誉豊を,1整1年以降の新規加入量およびRPSについても同様に相 ー最後に,現状の産卵場の形成場所を確認するために,2006,2007 年22月 に日本 海沿 岸域に おいて ,試験 調査 船3船によ る卵分 布 調 査 を 行 っ た . 卵 はNORPACま た は80Rネ ッ ト を 用 い そ 藻 蓋 150mからの鉛直曳きにより採集した.また,岩内湾沿岸域の手ニ タ は泊 影響調 査報 告書( 北海道 ,2006;2007)を 利用己 ミ./
【結果および考察】
1,計量魚探機を用いた音響資源調査の評価
北洋丸の計量魚探機の較正値は,経年的に低下傾向を示してお り,1998年の較正値25.34dBは前後の年と比較して,異常に低い ことが明らかになった.また,金星丸の計量魚探機の計測値は北洋 丸の0.66〜1.10倍の範囲にあったが,近年は0.95倍以上の高い一 致率を示した.ノイズ除去では,3つの処理を適用するとマニュア ル 処 理 時 の 0.8〜 1.2倍 と 良 好 な 結 果 が 得 ら れ た . 音 響 資 源 調査 で 推 定 さ れ た現 存 量は ,1999年の254千tか ら 2007年は88千tまで減少していた.調査期間を通じて減少傾向に あり,VPAとの比較では相関係数r=0.886と有意な相関係数が得 られた(1996,1997,2002年を除く).絶対値の比較では,VPA の0.9 ‑ 1.5倍の範囲にあり,平均で1.3倍,差の変動係数は80% 程度あった.この原因について,本研究ではVPAが年齢査定の誤 差により資源の変動幅を過小推定している可能性を指摘したが,2 つの全く異なる推定手法により,高い相関関係のある推定値が得ら れたことは,それぞれの手法の信頼性が高しゝことを示している.そ れぞれの手法の長所短所を補うことで,信頼性の高い資源評価が可 能になると考えられた.
2.産卵回遊期のスケトウダラ分布と水温
1996〜2006年までのスケトウダラの分布深度の中心は岩内湾 で 水深385〜485m,桧山海域では375〜445mの範囲にあった.ま た,一部の魚群が日周鉛直移動している様子も観察された.分布の 中心の水温は0.53〜0.98℃であり,0.8℃を上回ったのは2005年 だけであった.さらに,スケトウダラ分布深度は100m層水温と高 い相関関係r2=0.656が見られた(2005年を除く).このような低 水温層を回遊する理由として,産卵前のエネルギー損失を少なくす るためと推察された.
3.産卵群漁獲量と沿岸水温
後志支 庁の漁獲量と1〜3月,10¥‑12月の標準化水温は有意な 負の相関関係が見られた.桧山支庁では逆に1月,12月の水温と 有意な正の相関関係が認められた,高水温でより北方にある後志支 庁の漁獲量が減少する原因について,高水温期にはスケトウダラ分 布深度が深くなることで,海底深度が比較的に浅い積丹半島以北の 産卵場に来遊する産卵群が減少し,それらが桧山海域へ来遊したた めと推察された・
加入量 もしくはRPSと水温の関係では,冬期間12〜3月の水温 と有意な負の相関関係が認められたが,再生産関係は低水温・高 RPS期 と高水 温・低RPS期のニつの期間に分けられると考えられ た.
4.北部日本海系群の産卵場の変化
調査し た2ケ年の1網当たりの最大分布密度は,石狩湾,岩内 湾および桧山海域でそれぞれ738個/II12,19,550個/1112,5,700個 /II12であったが,雄冬岬以北海域では2ケ年とも卵は採集されなか った.また,石狩湾で採集された卵は発育段階の進んだ卵の比率が 高く,他の海域から輸送された卵が多いと考えられた.このことか ら,近年の積丹半島以北海域では産卵場が形成されていないものと 判断された.また,2007年2月は,桧山海域から岩内湾にかけて の表層水温が9℃以上となっており,卵のふ化率が低下している可 能性が考えられた.
5.産卵場形成と卵期生残に与える水温の影響
以上から,現在,産卵回遊期(10月)の高水温によって石狩湾 以北の産卵場が衰退し,低いRPSのレジームに入っており,その 中 でのRPSの高低は,産卵期(2月)の岩内湾から桧山沿岸域の 水温と卵仔魚の輸送で説明できる.表層水温が高温(7〜8℃以上)
になるとふ化率低が下し,卵仔魚が北部沿岸域に輸送されない場合 も生残率は低下する,生残が成功するためには高いふ化率を確保し つつ,卵仔魚が石狩湾以北に広がる成育場に輸送されなければなら ないと,結論された,
学 位論文 審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 教授 准教授
飯 田 浩 二 高 橋 豊 美 桜 井 泰 憲 向 井 徹
学 位 論 文 題 名
音響学 的手法を 用いた スケトウ ダラ北部日本海系群の 資源動 態評価 と産卵場 形成に関する研究
近年 , ス ケト ウ ダ ラ北 部 日 本海 系 群 の資 源 低 下が 著 し い が,TAC制 度 下に おいて的 確な資 源 管 理を 実 施 する た め には , 資 源量 を 正 確に 評価 し,環 境変動が 資源に 与える影 響を早 急に 明 ら か に す る必 要 が あ る。 本 研 究は 同 海 域に お い て12年 間に わ た って 実 施 し た音 響 資 源調 査 で 得ら れ た 現存 量 の 変動 を 統 計的 手 法 であ るVPA推 定 値 と比 較 解 析す る とともに ,音響 調 査で 得られた スケト ウダラ分 布情報と 水温情 報を分析 して, 再生産過 程の初 期段階で ある産卵 場形 成におけ る水温 の影響を 解明した もので ある。
音 響 資 源 調 査 は ,1996‑‑‑2007年 の9‑10月 に , 北 海 道 日 本 海 海 域 で 稚 内 水 産 試 験 場 試 験 調 査 船 北 洋丸(237t)を 用い て , また ,2001年 以降 は 同 船お よ び 函 館水 産 試 験場 試 験 調査 船金 星丸(151t)の2船を 用いて行 った。
音響 資 源 調査 で は ,標 準 球 較正 と 船 間較 正 の実 施,およ ぴ信号処 理の自 動化を行 なうこ と によ り,信頼 性の高 いデータ を効率良 く得る ことがで き,算 出した産卵親魚現存量とVPAによる 資源 量推定値 を比較 した。
また , 岩 内湾 と 桧山 沖の2定点の 鉛直水温 と音響 資源調査 で得られ たスケ トウダラ の分布 深 度 を 比較 す る とと も に ,1935年 以 降 の沿 岸 漁 業漁獲 量と北海 道日本 海沿岸水 温から求 めた標 準 化 水温 を 相 関分 析 し た。 さ ら に,VPAに よ り 求め た1981年 以 降の 新 規 加入量 および 再生産 成功 率(RPS)に ついて も同様に 相関分 析した。
また , 産 卵場 の 形 成場 所 を 確認 す る ため ,2006年 お よび2007年 の2月 に 日本海沿 岸域に お い て , 試 験 調 査 船3船 に よ る ス ケ ト ウ ダ ラ 卵 の 分 布 調 査 を 行 い 産 卵 場 の 推 定 を 行 っ た 。 本研 究におい て審査 員が特に 評価し た点は以 下の通り である 。
1. 12年 間 継 続し て 実 施 した 音 響資源調 査にお いて,誤 差要因で ある計 量魚探利 得の経 年変
化 を 標 準 球 較 正 と 船間 較正 によ って 的確 に補 正す る と共 に, 航走 雑音 を自 動除 去す る方 法 を考 案 した 。音 響推 定値 とVPA推 定 値と の間 にrニ0.886の 有意 な相 関を 見出し,両 手法 の 欠点 を 相互 補完 する こと によ り, 信頼 性の 高い 資源評価が可能であることがわかっ た。
2. 1996〜2006年ま での スケ トウ ダラ の分 布深 度 は岩 内湾 で水 深385〜485m, 桧山 海域 では 375〜445mの 範囲 にあ り, 一部 の魚 群 は日 周鉛 直移動していることがわかった。スケトウダ ラ の 分 布 中 心 水 温 は0.53〜0.98℃ の 範 囲 に あ り , 分 布 深 度 と100m層 水 温 に は 高 い 相 関 r‑2=0.656が 認め られた。スケトウダラが 低水温層を回遊する理由にっいては,少なぃ餌環 境 にお け るエ ネル ギー 代謝 戦略 であ ると 考え られ た。
3. 後 志 支 庁 の 漁 獲 量 と1〜3月 ,10 ‑12月 の 標 準 化 水 温 に は 有 意 な 負 の相 関関 係が 見ら れ た 。 桧 山 支 庁 で は 逆 に1月 ,12月 の 水 温 と 有 意 な 正 の 相 関 関 係 が 認 めら れた 。高 水温 下 で , より 北方 にあ る後 志支 庁の 漁獲 量が 減少 する 原因 につ い て, 高水 温期 にはスケトウダ ラ 分 布 深 度 が 深 く な る た め , 海 底 深 度 が比 較 的浅 い積 丹半 島以 北へ の産 卵場 に来 遊す る 産 卵 群が 減少 し, それ らが 桧山 海域 ヘ来 遊し たた めと 推察 さ れた 。加 入量 と水温,または RPSと 水 温 の 関 係 で は , 冬 期 間12〜3月 の水 温 と有 意な 負の 相関 関係 が認 めら れた が, 再 生 産 関係 は低 水温 ・高RPS期と 高 水温 ・低RPS期の ニっ の期 間 に分 けら れる と考えられた。
4. 2006年 と2007年の2月に 実施 した スケ トウ ダラ 卵分 布調 査に おい て ,卵 の最 大分 布密 度 は,石狩湾 ,岩内湾および桧山海域でそれぞれ738個/m2,19,550個/IIl2,5,700個/fll2であ った が, 雄冬 岬以 北の 海 域で は2ケ年 とも 卵は 採集 されなかった。 また,石狩湾で採集され た 卵 は 発 育 段 階 の 進 ん だ 卵 の 比 率 が 高 く , 他の 海域 から 輸送 され た 卵が 多い と考 えら れ た。 この こと から ,近 年 の積 丹半 島以 北の 海域 では 産卵 場が 形成 され てい なぃ ものと判断 され た。 また ,2007年2月は ,桧 山海 域か ら岩 内湾 に かけ ての 表層 水温 が9℃以 上となって おり,卵の ふ化率が低下している可能性が考えられた。
5. 以上 から ,現 在, 産卵 回遊 期(10月 )の 日本 海 の高水温化によって石狩湾以 北の産卵場が 衰退 し, 低いRPSの レジ ーム にあ り,RPSの 高低 は, 産卵期(2月)の岩内湾か ら桧山沿岸域 の 水 温 と 卵 仔 魚 の輸 送で 説明 され る。 表層 水温 が高 温(7〜8℃ 以上 )に なる とふ 化率 低が 下 し , ま た , 卵 仔 魚 が 北 部 沿 岸 域 に 輸 送 さ れな ぃ場 合も 生残 率が 低下 する 。生 残が 成功 す る た め に は 高 い ふ 化 率 を 確 保 し つ つ , 卵 仔魚 が石 狩湾 以北 に広 がる 成育 場に 輸送 され なけ れば なら なぃ と ,結 論さ れた 。
こ れら の成 果は ,近 年資 源低 下の著しいスケトウダラ日本海系群の変動機 構を解明したもの であり,本研究が今後,日本海スケトウダラ資 源研究の進展に大きく貢献するものと認め,審査 員 一 同 は 申 請 者 が 博 士 ( 水 産 科 学 ) の 学 位 を 授 与 さ れ る 資 格 の あ る も の と 判 定 し た 。