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学位論文審査の要旨 主査

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Academic year: 2021

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(1)

博 士 ( 歯 学 ) 三 浦 真 理

学 位 論 文 題 名

ラットにおける亜鉛過剰摂取による銅吸収阻害機構 学位論文内容の要旨

  【緒言】Cu,Znなどの生体内必須微量元素は,生命の維持,成長・発育・機能発現に至 るすべての過程で重要な役割を担っている.Znは細胞分裂,核酸代謝や味蕾細胞の機能維持に 必要であ り,CuはCuタンパクの構成成分や,Cu,ZnーSOD (SOD1)などのCu酵素の活性中 心 と し て 存 在 し ,Feと と も に 造 血 機 能 や 骨 代 謝 , 結 合 組 織 代 謝 に 重 要 で あ る .   生体内の必須微量元素の腸管からの吸収機構の詳細は,その重要性にもかかわらず明らかに されていない.さらに,腸管での吸収過程で,CuとZnおよびFeが,拮抗した吸収阻害を引 き起こすことが古くから知られているが,その阻害機構についても明らかにされていない,最 近,欧米や日本で,健康食品としてZn強化食品やサプリメントが普及しており,過度のZnの 摂取による潜在的なCu欠乏が懸念される.過剰なZnがCu欠乏を引き起こして,貧血症や高 血圧,神経の異常その他の異常が起こることが知られている.

  ZnがCu吸収を阻害するメカニズムは,小腸で起こると考えられているが,解明には至って いない. 従来,過剰 なZnによっ て小腸細 胞中に誘 導されたメタロチオネイン(MT)がCuを 捕捉した結果,体内へのCu吸収が阻害され,Cu欠乏になると考えられてきたが,詳細は不明 である.そこで本研究では,Zn過剰摂取時におけるラット生体内のZn濃度とCu濃度,およ びCuの吸収に関与するトランスポーターとCuシャペロンの動態を明らかにし,併せてMTの 関与を検討することにより,ZnによるCuの吸収阻害機構の一端を解明することを目的とした.

【材料およぴ方法】  ラットを3群に分け,異なるZn濃度の飼料(5,200,500mg/100g)を 与え,それぞれ対照群,2n200群,2n500群とした,小腸,肝臓,血漿,腎臓を採取し,各カ のZnおよびCu濃度を測定した,小腸中のCuトランスポーターCtrl,2価金属トランスポー ターDCT1,活 性酸素の代 謝酵素SOD1,SOD1にCuを引き 渡すCuシャ ベロンCCSの 動態を,

ウェスタンブロッティング分析にて観察し,さらに小腸中のMT動態を,ゲルろ過にて観察し た.統計的検討には,小腸,肝臓,血漿,腎臓の金属濃度には一元配置の分散分析をした後に Turkeyの多重比較を,ウェスタンブロッティング分析にはクラスカル・ウォリス検定の後に Scheffeの多重比較を用いた.pくO.05を有意とした.

【結果】2n200群では,小腸および肝臓,血漿など生体内のZn濃度の有意な上昇はみられな かったが,肝臓中と血漿中のCu濃度は著しく低下していた(pくO.01).小腸のCtrlは対照群 と比較し て減少傾向 を示し,CCSとSOD1が増加傾向を示した.小腸中にMTの誘導は認めら れなかった.2n500群では,小腸および生体内のZn濃度は有意に上昇し(pくO.01),逆に,小 腸および生体内のCu濃度は著しい低下を示した(pく0.01).小腸のCtrlの減少およびCCS     ―293―

(2)

の増加はさらに進んで有意な差が認められた(pくO. 05).SOD1は2n200群と比較して有意に 減少 して いた (pくO. 05).MTが 小腸 中に 誘導 され ,MTとCuとの結合が認められた.

【考察】本研究により,Zn過剰摂取によってCuの吸収が阻害されることが確認された.さ らに,Znの過剰摂取による生体内のZn濃度の有意社変動が認められない2n200群でも,Cuの 吸収阻害が起こることが明らかになった.このCu吸収阻害は,小腸中のCu濃度が減少し,さ らに生体内である肝臓・血漿のCu濃度も減少したことから,小腸の粘膜細胞にCuが取り込ま れる段階で起こっていることが強く示唆された.また,小腸のMT動態をみると,ゲルろ過後 のZn,Cu濃度どちらの測定結果からも,MTは2n200群では誘導されておらず2n500群では じめて誘導されていた.2n200群ではZnの動態に大きな変化がなく,MTの誘導がみられなか ったにもかかわらずCuの吸収は阻害されており,MTによらない,Zn過剰によるCuの吸収阻 害機構が存在することが明らかになった.

  Cuは,Cuトランスポーター trlこより細胞内に運ぴ込まれると報告されている.DCT1は,

2価のFeを細胞内に運ぶFeトランスポーターであるが,Cuのトランスポーターとしての役割 ももっているといわれている.今回の結果では,小腸のCtrlは2n200群で減少傾向がみられ,

2n500群でさらに減少していた.一方,DCT1には有意な変動が認められなかった.このこと から,CtrlによるCu取り・込みが減少した結果,小腸細胞のCu濃度が減少し,体内への吸収 も減少したと考えられ,2n200群で認められたMTによらないCuの吸収阻害にCtrlの減少が 密接に関与していることが示唆された.

  CuのシャペロンであるCCSは;細胞内のCu欠乏の鋭敏な指標として知られており,Ctrl によって細胞内に運び込まれたCuを,Cu,Zn依存性であるSOD1に運ぶ役目をもつ.CCSは Cuと結合していない状態では分解されにくく,逆にSOD1は分解されやすいといわれている.

CCSは2n200群 ,2n500群 で増 加を 示し,SOD1は2n200群でいったん増加し2n500群で減少 していた. 2n200群ではCu減少のシグナルを受けてCuを捕捉したCCSの量が増えた結果SOD1 量も増加したが,2n500群では,CuはCtrlによる取り込みが減少し,さらに誘導されたMT に結合するため減少し,Cuと結合していないCCSタンパクの量が増加した結果,Cuを供給さ れないSOD1が不安定になり減少したと考えられる.いずれにせよ,Zn過剰摂取で細胞内の Cu欠乏の指標であるCCSが著明に増加したという現象は,小腸細胞内の利用可能なCu濃度 が低下したことを示していると考えられる.

  生体内の臓器あるいは血漿中のCu濃度が減少し,小腸細胞中のCuが減少したということは,

小腸細胞内へのCu取り込みが阻害されていることを示している.仮に小腸粘膜細胞から生体 内への取り込みに重要な役割を担うCuトランスポーターであるATP7Aの活性が低くなった結 果として体内のCu濃度が減少したなら,小腸にCuが蓄積されてCu濃度が増加するはずであ るが,実際は減少していることから,ATP7Aによる小腸細胞からのCu排出は障害されていな いと考えられる.さらに,ZnによるCuの吸収阻害は,Zn過剰摂取による小腸中のZn濃度の 増大がさほどなく,MTの誘導もみられない段階から起こることが明らかとなり,その機構と してCuの取り込みを担うトランスポーターCtrlの減少が関与していることが示唆された.

【結 論】以上より,Zn過剰摂取によるCu吸収阻害機構は,Znの過剰が中等度では,まず Ctrlが減少し,体内へのCu吸収が低下すると同時にCu欠乏の指標である小腸細胞中のCCS

294 ‑

(3)

が増加を示し,Znの過剰が大きくなると,Ctrlの減少とCCSの増加はさらに進み,同時に,

過剰な金属と結合するMTが小腸中に誘導されCuと結合し,その結果体内のCu濃度は著しく 低 下 す る と い う ニ つ の 過 程 で 引 き 起 こ さ れ る こ と が 強 く 示 唆 さ れ た .

295

(4)

学位論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査

教授 教授 教授 教授

八若 鈴木 亘理 齋藤

学 位 論 文 題 名

保孝 邦明 文夫

    

健(保健科学研究院)

ラットにおける亜鉛過剰摂取によ る銅吸収阻害機構

  

審査 は審査担当者全員の出席の下に実施し,学位申請者に 対して提出論文の内容とそれに関 連 する 分野 にっ いて 口頭 試問 の形 式に よっ て行 われ た。

  

以下 に, 提出 論文 の要 旨と 審査 の内 容を 述べ る。

  

学 位申 請者 は, その重要性にもかかわらず未だ明らかにされてい ない生体内の必須微量元素 の 腸 管か らの 吸収 機構 の詳 細と ,古 くか ら知 られ てい る腸 管 での 吸収 過程で

Cu

Zn

が拮抗し た 吸 収 阻 害 を 引 き 起 こ す 阻 害 機 構 に っ い て 明 ら か に す る 目 的 で , 本 研 究 を 行 っ た 。

  

ラ ッ ト を

3

群 に 分 け , 異 な る

Zn

濃 度 の飼 料(

5

200

500mg/100g)

を 与え ,そ れぞ れ対 照 群 ,

2n200

群 ,

2n500

群 と し た 。 小 腸 ,肝 臓, 血漿 ,腎 臓を 採取 し ,各 々の

Zn

お よび

Cu

濃 度 を 測 定 し た。 小腸 中の

Cu

ト ラン スポ ー ター

Ctrl

2

価金 属ト ラン ス ポー ター

DCT1

,活 性酸 素 の 代 謝 酵 素

SOD1

SOD1

Cu

を 引 き 渡 す

Cu

シ ャ ペ ロ ン

CCS

の 動 態 を , ウ ェ ス タ ン ブ ロ ッ テ イ ン グ分 析に て観 察し ,さ らに 小腸 中の メタ ロチ オネ イン

(MT)

動 態を ,ゲルろ過にて観察し た 。

  

以 上の 方法 によ って 得ら れた 結果 は次 のと 韜りである。

2n200

群 では,小腸および肝臓,血 漿 な ど生 体内 の

Zn

濃度 の有 意な 上昇 はみ られ なか った が, 肝 臓中 と血 漿中のCu濃度は著しく 低 下 し て いた (pく

O

 01)

。小 腸の

Ctrl

は 対照 群と 比較 して 減少 傾向 を示 し,

CCS

SOD1

が 増 加 傾 向 を示 した 。小 腸中 に

MT

の誘 導 は認 めら れな かっ た。

2n500

群で は, 小腸 およ ぴ生 体 内 の

Zn

濃 度は 有意 に上 昇し (pく

O

01)

, 逆に,小腸および生体内 の

Cu

濃度は著しい低下を示 し た (

p

くO.

 01)

。小 腸の

Ctrl

の減 少お よぴ

CCS

の増加はさらに進 んで有意な差が認められた

p

0

 05)

SOD1

2n200

群と比較し て有意に減少していた(

p

O

.05)。MTが小腸中に誘導 さ れ ,

MT

とCuとの 結合 が認 めら れた 。

  

こ の研 究に より ,Zn過剰 摂取 によ って

Cu

の 吸収 が阻 害さ れ るこ とが 確認された。さらに,

    

296

(5)

Znの過剰 摂取によ る生体内 のZn濃度の有意な変動が認められず,MTの誘導がみられない 2n200群でも,Cuの吸収阻害が起こることが明らかになった。

  Cuは,CuトランスポーターCtrlにより細胞内に運び込まれると報告されている。またDCT1 は,2価のFeを細胞内に運ぶFeトランスポーターであるが,Cuのトランスポーターとしての 役割ももっているといわれている。今回の結果では,小腸のCtrlは2n200群で減少傾向がみら れ,2n500群でさらに減少していた。一方,DCT1には有意な変動が認められなかったことか ら,CtrlによるCu取り込みが減少した結果,小腸細胞のCu濃度が減少し,体内への吸収も 減少し たと考えられ,2n200群で認められたMTによらないCuの吸収阻害にはCtrlの減少が 密接に関与していることが示唆された。CuのシャペロンであるCCSは,2n200群,2n500群で 増加を示し,SOD1は2n200群でいったん増加し2n500群で減少していた。Zn過剰摂取で細胞 内のCu欠 乏の指標であるCCSが著明に増加したという現象は,小腸細胞内のSOD1にとって 利用可能なCu濃度が低下したことを示していると考えられた。

  以上より,Zn過剰摂取によるCu吸収阻害機構は,Znの過剰が中等度では,まずCtrlが減 少し, 体内へのCu吸収が低下すると同時にCu欠乏の指標である小腸細胞中のCCSが増加を 示し,Znの大きな過剰では,Ctrlの減少とCCSの増加はさらに進み,同時に,過剰な金属と 結合するMTが小腸中に誘導されCuと結合し,その結果体内のCu濃度は著しく低下するとい うニつの過程で引き起こされることが強く示唆された。

口 頭 試 問 で の 主 な 質 問 事 項 を 以 下 に 示 す 。

(1) DCT1のZn輸送能カについて

(2)ラ ッ トに 与 える通常 の食餌中Zn濃度につ いて (3) Zn過 剰 摂 取 ラ ッ ト の 健 康 状 態 に つ い て (4)ゲ ル ろ 過 に よ るMT動 態 の 解 析 法 に つ い て (5) Znト ラン ス ポ ータ ー の存 在 と 機能 に つい て (6) Zn過剰摂取によるCtrl減少のシグナルについて (7) MTの性質と機能について

(8) Znの 体 内 貯 留 量 と 排 出 量 に つ い て (9)脾臓ーのZn蓄積について

(10)今後の展望について

  これらの質問に対し,申請者からそれぞれ適切な回答が得られ,また申請者が関連する分野 について幅広い知識を有していることが明らかになった。さらに本研究の今後の展望について,

必要となる研究についての具体的な提示が申請者から示された。

  以上の ことから ,学位申 請者は博士(歯学)の学位授与に相応しい者と認められた。

297

参照

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