日本小児循環器学会雑誌 7巻2号 253〜260頁(1991年)
〈原 著〉
先天性心疾患における肺高血圧へのプPスタノイドの関与
一 Thromboxane A2とProstaglandin I2の検討
(平成2年11月9日受付)
(平成3年2月12日受理)
東邦大学第1小児科学教室
橋 口 玲 子
key words:thromboxane A,, prostaglandin I2, TXB,/6−keto−PGF、α比,肺高血圧,先天性心疾患
要 旨
thromboxane A2(TXA2)は,強力な血管平滑筋収縮作用と血小板凝集作用を示し,これに対して
prostaglandin I2(PGI2)は血管平滑筋弛緩作用と血小板凝集抑制作用を示す.この二者の・ミラソスは循環器系の恒常性維持に大きな役割を果たしている.肺循環においてはTXA2優位の状態は肺血管の李縮
を招き,肺高血圧を惹起すると考えられる.今回筆者は,先天性心疾患における肺高血圧の成立機序に,血管作動性プロスタノイドがどのように関与しているか検討するために,肺高血圧を伴う先天性心疾患 12例(ダウン症4例を含む)において,TXA2, PGI2の各々の安定代謝産物であるTXB2,6−keto−PGF、
aの血漿中濃度を測定した.その結果,非ダウン症で肺血管抵抗値の高い症例では,6例中5例でTXB2/
6−keto・PGF1α比が高値を示した.一方,肺血管抵抗値の高いダウン症の4例では,同比は全例正常範囲 内であった.この結果は先天性心疾患の非ダウン症の症例では,肺高血圧の機序として血管作動性プロ スタノイドによる肺血管李縮が関与している症例があることを示唆するものと考えられた.
緒 言
アラキドン酸はcyclooxygenaseによって, pros−
taglandin(PG)endoperoxideに変換される.このPG
endoperoxideから,血管壁においてはPGI2 synthetaseによってPGI2が,血小板においては thromboxane(TX)synthetaseによってTXA2が産
生される(図1).肺血管においてもPGI2は拡張作 用D,TXA2は収縮作用2)を示すことが報告されている.TXA2とPGI2はどちらも非常に不安定で, TXA2は約 30秒の半減期で安定なTXB、に変化し, PGI,も約5分 で6−keto−PGF1αに変化する.
近年種々の疾患においてTXA2とPGI2の関与が判 明し,肺高血圧をきたす疾患においては,原発性肺高 血圧3)や新生児遷延性肺高血圧4)の症例で,TXB2が高 値を呈したという報告がある.本稿では,肺高血圧を
別刷請求先:(〒142)東京都大田区大森6 −11−1 東邦大学第1小児科 橋口 玲子
伴う先天性心疾患におけるプロスタノイドの関与を検 討するために,TXB2と6・keto−PGF1αの血漿中濃度を 測定し,肺高血圧の成立機序におけるTXA2とPGI2 の役割について考察した.
対 象
TXB2と6−keto−PGF、αの測定は表1に示した12例 で延べ13回行った.基礎疾患は心室中隔欠損(VSD),
心房中隔欠損(ASD),動脈管開存(PDA)の単独また は合併例11例と,大動脈狭窄・僧帽弁狭窄・大動脈縮 窄兼PDAの1例で,症例2は術後例であった.全例平 均肺動脈圧25mmHg以上の肺高血圧を有する症例で,
4例がダウソ症であった.性別は男3例女9例で,検 査時の年齢は2ヵ月から1歳8ヵ月までの乳幼児6例 と,10歳から20歳までの年長例6例であった.症例1 は1歳6ヵ月と3歳1ヵ月の2回検査を行った.
心臓カテーテル検査(心カテ)の結果(表2)によ り,対象を3群に分けた.肺血管抵抗値が高く酸素負 荷,tolazoline負荷に不応の症例1〜6を第1群とし
刺 激 ↓
PGI2 6一ケトーPGF:e
GSH
LTB, LTC,
LTE,
↓
LTF4
HPETE
(8.9,11,12,15)
HETE
(8,9,lL12,15)
HPETE:ヒドロベルナキシエイコサテトラエソ酸 HETE:ヒF Ptキシエイコサテトラエン酸
HHT:12(S)一ヒドロキt −5,& 10rヘプタデヵトリェン酸 MDA:マロンジアルデヒド
図1 アラキドン酸カスケード
室田誠逸:1アラキドン酸カスケードの調節,室田誠逸編:プPスタグランディソと 病態.現代化学.増刊L東京化学同人.1984.p.6.図1・2より改変
表1 対象
症 例 年 齢 性 基 礎 疾 患
1* 1歳6ヵ月 女 ASD
1京* 3歳1ヵ月 〃 〃
第
2 1歳8ヵ月 女 VSD・ASD(根治術後), PDA
1 3 1歳8ヵ月 男 PDA
群 4 12歳 女
VSD
5 12歳
女
AS, MS、 Co/A, PDA
6 20歳 女 VSD
II
7 2ヵ月
男 VSD
群 8 11ヵ月
男 VSD
第
9 6ヵ月 女 ASD, PDA,ダウン症
nI 10 10歳 女
VSD,ダウン症
群 11 10歳 女
VSD, PDA,ダウン症 12 15歳 女 VSD, PDA,ダウン症 1*:初回検査時,1**:2回目検査時
ASD:atrial septal defect, VSD:ventricular septal defect, PDA:patent ductus arteriosus, AS:aortic stenosis, MS:mitral stenosis, Co/A:coarctation of the aorta
た.症例7,8は肺血管抵抗値の低い,いわゆる高肺 血流量・低肺血管抵抗の症例で,この2例を第II群と した.第III群は症例9〜12の4例で,第1群と同様に 酸素負荷,tolazoline負荷に不応の肺血管抵抗高値の 症例であるが,全例がダウン症を伴っていた.各群の room airでの平均肺血管抵抗値は,第1群20.8単位,
第II群1.8単位,第III群22.0単位であった.
方 法
TXB,,6−keto−PGF、αの測定は9例で心カテ時に主 肺動脈にて採取した静脈血,3例で末梢静脈血を用い て行った.採血手技による影響を減らすため,シース,
カテーテル,プラスティック注射器などはあらかじめ ヘパリン化したものを使用した.またシース挿入の侵 襲による影響を避けるため,挿入後10分程度経過した のちに採血した.採取した血液はEDTA, indometh−
acin処理下に4℃にて血漿分離し, TXB2〔1251〕及び 6・keto・PGFiα〔1251〕RIA kit(New Engmand Nuclear
平成3年7月1日 255−(5)
表2 心臓カテーテル検査
症 例 条 件 PAP mmHg AOP mmHg
L→R% R→L%
Qp/Qs Pp/Ps Rp/Rs RpU・m21* ◆
room alr tolazoline
58/26/42 62/24/47
95/60/80 101/70/87
32
9
00
1.51.1
0.5 0.5
0.3 0.5
9.0 12.8
1ホ* ・
room alr tolazoline
68/32/54 68/26/46
103/62/82 106/62/84
26 26
00
1.41.4
0.6 0.5
0.5 0.4
9.1 7.4
2# .
room alr oxygen tolazoline
78/35/54 76/32/52 85/33/55
80/49/61 82/47/59 90/49/63
49 71 47
20
0 3
1.6 3.4 1.8
0.8 0.8 0.9
0.5 0.2 0.5
11.2 5.5 11.3 第
1群
2## ・
room alr tolazoline
115/67/83 143/69/100
72/45/57 91/54/69
00
4840
0.5 0.6
1.3 1.5
2.6 2.6
37.6 41.1 3 room air
oxygen tolazoline
85/36/57 75/33/52 89/38/60
83/47/62 79/47/61 87/51/69
000 000
1.OLO
1.0
0.8 0.8 0.8
0.8 0.8 0.8
13.1 10.0 14.5
4 .
room alr oxygen tolazoline
135/70/100 125/62/89 113/58/80
112/72/89 120/89/102 106/72/89
41 47 50
16
0 0
1.4 2.1 2.0
1.1 一 一
0.8
− 一
20.5
− 一
5 .room alr 124/74/99 119/67/99 39 57 0.7 0.7
LO
18.56 .room alr tolazoline
95/53/68 72/57/64
90/76/80 85/53/62
42 28
15 12
1.5 1.2
0.8 1.0
0.5 0.8
17.0 17.6
7 .room alr 37/18/28 94/59/75 67 0 3.0 0.2 0.1 1.2
第II群
8 .roorn alr 41/17/28 66/35/45 69 0 3.4 0.5 0.1 2.4
9 ・roorn alr
oxygen tolazoline
64/28/45 71/33/48 64/28/45
82/34/56 80/40/55 76/34/51
23 36 50
41 10 20
0.8 1.4 1.6
0.7 0.8 0.8
0.9 0.6 0.5
9.1 10.1 10.9
第III群
10 .room alroxygen tolazoline
94/63/78 112/71/89 114/60/82
107/61/82 100/62/80 118/74/92
0
15 18
45 38 39
0.6 0.7 0.7
0.9 1.1 0.9
2.0 1.5 1.2
34.7 36.1 31.0
11 .room alr oxygen
88/56/76 98/56/76
110/48/77 113/67/88
23 48
55 48
0.6 1.0
1.0 0.8
1.7 0.8
32.5 19.1
12 Droom alr oxygen
75/48/59 112/56/80
78/52/76 104/69/85
55 30
18
0
1.2 1.4
0.7 一
0.6 一
11.7 一 1*:初回検査時,1 *:2回目検査時,2#:根治術前,2##:根治術後
PAP:pulmonary arterial pressure, AOP:aortic pressure, L→R:left to right shunt ratio, R→L:right to left shunt ratio,
Qp/Qs:pulmonary to systemic flow ratio, Pp/Ps:pulmonary to systemic pressure ratio, Rp/Rs:pulmonary to systemic resistance ratio, Rp:pulmonary resistance
社製)によってTXB2,6−keto−PGF1αを測定した.
RIA法によるTXB、,6−keto−PGF1αの血中濃度の 正常値を,多田ら5)は成人でTXB2228±85pg/ml,
6・keto・PGF1α222±77pg/mlと報告している.野々田 ら6}は小児でTXB266.0±16.3pg/ml,6−keto−PGFiα 77.3±26.lpg/m1と述べている.TXB2/6−keto−PGF1α 比は多田らの報告では1.1±0.5,野々田らの報告では 0.9±0.3であった.血中PGI2は加齢によって低下する
と報告されているが7),TXB2と6−keto・PGFlaの血中 濃度の比率は,年齢を問わず健常者ではほぼ1対1で
あると考えられる.本研究では野々田ら6),多田ら5)の 報告と,Kaaptiら8)の小児期の血中6−keto−PGF1αの年
齢による変化の報告を参照し,TXB2150pg/ml以
上,6−keto−PGF1α25pg/ml以下, TXB,/6−keto・PGFiα 比2.0以上を異常値とした.
心カテはまずroom airで行い,肺血管抵抗の高いも のについては酸素及びtolazoline負荷試験を行った.
酸素負荷はフェイスマスクにて,100%酸素を10分間吸 入させた.tolazoline負荷はtolazoline lmg/kgを肺 動脈内に注入し,10分後に各パラメーターを測定した.
結 果
TXB2(図2)は,第1群では症例1と4が各々700,
430pg/mlと著明な高値を示した.症例2及び症例1 の2回目も高値であった.一方第II群と第III群では高 値を示した症例はなかった.6・keto−PGF1α(図3)は,
第1群では年長例3例と,症例2及び症例1の2回目
が25pg/ml以下の低値を示した.一方第II群と第III群 では6−keto−PGFlaの低い症例はみられなかった.その 結果TXB2/6・keto−PGFiα比(図4)は,第1群では症 例3を除く6例中5例(症例1は2回とも)が2.0以上 の高値を示した.特に症例1,2,4は著明な高値で あった.第II群では症例8が3.0と経度高値であった が,症例9と第3群の4例全例は2.0以下であった.症 例
TXB2が高値を呈した症例1,2は,臨床的に高肺血 流量の症状を呈さず,乳児期早期から肺高血圧が存在
P9/m1 700 600 500 400 300 200 150 100 0
●*
O
●鯵●**
●o O
● ● ● o
O O
第1群 第II群 第III群 図2 血漿TXB2値
●乳幼児例,○年長例,●*症例1初回,●**2回 目,●#症例2
P9/m1
70
60 50 40
050
39﹇9臼10 0
●
●
O O o ●
●*
●
●**敬
o o o
第1群 第II群 第Ill群 図3 血漿6−keto−PGF、α値
●乳幼児例,○年長例,●*症例1初回,●**2回 目,●#症例2
28 24 20 16 12 8
4り0
O
●*
●#●**
o o
● ●●
ooO●
第1群 図4
第II群 第III群 TXB2/6−keto−PGF1α比
●乳幼児例,○年長例,●*症例1初回,●**2回 目,●#症例2
したと考えられる症例であった.これらの症例は肺高 血圧の成立機序を考える上で興味深い点があるので簡 単に臨床経過を述べる.
症例1:母親の妊娠中毒症,切迫仮死のため在胎33 週にて帝王切開で出生.出生時体重1,044gの極小未熟 児で当院周産期センター入院.新生児呼吸窮迫症候群 のため呼吸管理を受けたが経過は順調で,Bron・
chopulmonary Dysplasia tま認めず生後2ヵ月で退院 した.生後4日目に心エコー検査にてASDと診断さ れたが,心不全症状はなかった.8ヵ月頃四肢末端の 紅潮に気づかれ,血液検査にて赤血球742万/cmm,ヘ モグロビン20.2g/dl,ヘマトクリット59.6%と多血症 を認めた.血小板数は57.3万/cmmと正常であった.
1歳6ヵ月時に精査のため入院.チアノーゼはなく,
動脈血酸素飽和度も98%と低下はなかった.骨髄穿刺 では軽度の過形成のみで,血中エリスロポエチンも38 mIU/ml(正常値28〜88)と増加はなく,多血症の原因 は不明であった.
心カテでは肺血管抵抗は9.0単位と高く,tolazoline 負荷後も低下しなかった.この時の血中6−keto・PGF1α 値は42pg/mlと正常範囲内であったが, TXB2は700 pg/mlと非常に高く, TXB2/6−keto−PGF、α比は16.7
と高値であった.この時から多血症によるhypervis・
cosityを予防する目的でaspirin 2〜3mg/kg/日の少 量投与を開始し,手術はせず経過をみていた.3歳1 ヵ月時の2回目の心カテでは,肺血管抵抗は9.1単位と 1歳時と同程度であったが,tolazoline負荷後7.4単位 とやや低下した.またTXB2値は190pg/mlと1歳時
平成3年7月1日 257−(7)
曝酬 Sl縛
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図5 症例2の肺血管病理組織像
左図:肺小動脈は著明な中膜の肥厚を認めるが,内膜病変は認めない.右図:左上葉 の肺静脈を示す.3本とも著明な内膜の線維性肥厚と中膜肥厚を認める.
より低下していたが,6・keto−PGF1α値も20pg/mlと 低値で,TXB2/6−keto−PGFIα比は8.2と依然として高 値であった.
症例2:在胎41週,2,990gにて出生.1ヵ月健診で 心雑音を指摘され,2ヵ月頃にはチアノーゼに気づか れている.生後3ヵ月で当院初診.II音の元進と収縮 期駆出性雑音を聴取し,心電図では右室肥大所見を認 めた.ASD兼部分肺静脈還流異常の疑いで経過を見て
いたが,1歳時の心カテでVSD兼ASDと診断され
た.肺体血流量比は1.6で両方向性短絡,肺血管抵抗 11.2単位と高値であったが,酸素負荷にて右左短絡は 消失し,肺血管抵抗も5.5単位に低下したため,1歳1 ヵ月で根治術を施行した.手術所見では直径1cmの膜 模部VSDと1.5cmのASD(2次孔)を認めた.手術直後の経過は順調であったが,術後6ヵ月目の 心カテでは肺血管抵抗は37.6単位と肺血管閉塞病変の 進行を認めた.左室の動脈血酸素飽和度は86%と低下 しており,また肺動脈造影で,術前の心カテでは認め なかったPDAを介する右左短絡を認めた.この時の 肺動脈血中のTXB2値は190pg/ml,6−keto−PGF1α値 は20pg/mlで, TXB2/6−keto−PGF1α比は9.5と高値で あった.本症例は4歳1ヵ月で突然死した.図5に肺 血管の病理組織学的所見を示す.肺小動脈は著明な中 膜肥厚がみられるが,内膜病変はほとんど認めなかっ
た.他の部位でも叢状病変,拡張病変はみられず,
Heath−Edwards分類では1〜III度であった.一方左上 葉の肺静脈に著明な中膜肥厚とともに,ほとんど内腔 を閉塞する内膜の線維性肥厚を認め,左上肺静脈の中 枢側での強い狭窄または閉塞が疑われた.術前の左右 肺動脈圧に差はなく,肺動脈造影及び術中所見でも肺 静脈の異常には気づかれておらず,この狭窄または閉 塞が先天的なもので術後進行したのか,あるいは血栓 などにより術後初めて生じたものかは不明であった.
考 察
肺はPG生合成活性の高い臓器であり9),主に産生 されるのはPGI2である.しかも他のPGと異なり,
PGI2は肺で不活性化されず1°),肺循環を低圧系として 維持するのに重要な役割を果たしていると考えられ る.Hamasakiら11)は低酸素によって肺におけるPGI2 の生合成が賦活されたことから,PGI2は低酸素性血管 李縮の調節作用を持っているのではないかと報告して いる.またPGI2が血管平滑筋のDNA合成を阻害した という報告から12),Rabinovitchはi3)PGI,の肺循環調 節作用には,肺血管の中膜肥厚を抑制し,肺高血圧を 防ぐ長期的な作用もあるのではないかと述べている.
一 方,Ekiciら14)は先天性心疾患患者で, PG・like mate−
rialsを測定し,肺高血圧を伴う症例でラットの胃平滑 筋に対するPG−1ike activitiesが肺動脈血より肺静脈
血で高値を呈したことから,肺高血圧を伴う先天性心 疾患では肺でのPG産生の充進があると述べている.
彼らはこのPGをPGF2aかTXA2であろうと推定し
ているが明らかではない.
今回検討した症例の中で,第1群即ち,非ダウン症
で肺血管抵抗値の高い症例では,6例中5例で
TXB2/6・keto−PGFla比が2.0以上の高値を示し,これ らの症例ではTXA2とPGI2のバランスは血管李縮を 惹起しやすい状態にあることが判明した.TXA2と PGI2については絶対値だけでなく,比率が重要である と考えられている3).葛谷ら15}は虚血性心疾患患者に っいて,血中TXB2値の上昇と6・keto・PGF、α値の低下 がみられたと報告しているが,TXB、が正常範囲の場 合も6−keto−PGFユαが非常に低い値を呈し, TXB2/6−
keto−PGF1α比は高値を呈したと述べている.
1)6−keto−PGFiα低値例について
症例2,4,5及び6では6・keto・PGF1αの減少によ り,TXB2/6−keto・PGFIα比が増加していた.年齢をみ ると症例4,5は12歳,症例6は20歳で,年長例では 乳幼児例よりも6・keto−PGFiaが低値を示す傾向がみ られた.これについては動脈硬化の研究において,加 齢により血中6・keto−PGF1αが低下すること7),病変部 位の血管壁ではPGI2産生能が低下していること16)が 報告されている.肺血管に対する負荷の機序は,症例 4と6では肺血流量の増大,症例5では主に肺静脈圧 上昇と異なっているが,長期にわたる負荷の元では肺 血管壁においても,PGI2の生合成が低下しているので はないかと考えられる.
2)TXB,高値例について
症例1,2,4は6・keto・PGF1αが低値で,かつTXB2 が高値であったために,TXB2/6・keto−PGF、α比は非 常に高い値を示した.臨床経過を提示した症例1,2 について肺高血圧の機序を考えてみると,症例1では ASDによる肺血流量の増加,多血症による循環血液量 の増加,TXA2による肺血管李縮が挙げられる.本症例 は肺血流量増大の臨床症状を呈していないが,ASDで は一般的にも肺循環系は大循環系と異なり低抵抗・容 量型であるため,乳幼児期に肺高血圧をきたすことは まれである17).多血症についてもASDと同様の理由 で,これのみでは肺血管抵抗は上昇しないと考えられ る.そのためこの症例では,TXA2による血管李縮が早 期からの肺高血圧の成立に重要な役割を果たしたと考 えざるを得ない.本症例ではcyclooxygenase合成阻 害剤であるaspirinの投与後TXB2値は低下し,6一
keto−PGF1α値もやや低下したものの, TXB2/6−keto−
PGF、α比は, aspirin投与前の約2分の1となった.こ の時点でtolazoline負荷に対する肺血管の反応性が 改善していたことも,TXA2による血管李縮の重要性 を示すものと思われる.TXA2増加の原因は明らかで はないが,多血症によって血小板の活性化が起こった 可能性が考えられる.
症例2はVSD兼ASD症例であるが,乳児期早期よ
りチアノーゼ,右室肥大など高肺血管抵抗の所見を呈 した点や,1歳で根治術を施行したにも関わらず,術 後急速に肺血管閉塞が進行した点など,通常の左右短 絡性疾患とは異なる経過を示した.術前に酸素負荷に 反応した点や,病理所見で内膜病変がほとんどなく,肺小動脈中膜の肥厚が顕著であったことは,この症例 においては肺血管李縮が肺高血圧の機序として重要で あったことを示すものと考えられる.術後の心カテで 左室の酸素飽和度は86%と低下していた.術前の左房 の値は97%と正常で,この術後の低酸素血症は肺血管 閉塞と,左上肺静脈の狭窄または閉塞のために,術後 に換気一血流分布の不均衡が生じたためであろうと考 えられる.低酸素は肺血管李縮を引き起こすが,一方 肺におけるPGI2生合成を賦活すると報告されてい る11).しかし症例2においては6−keto・PGFIα値は低下 していた.TXB2は高値でTXB2/6−keto−PGFia比は 著明に上昇していた.左上葉肺静脈の著明に障害され た血管壁において,血小板が活性化されTXA2産生元 進の引き金となったことが推察される.本症例では血 管李縮に,低酸素とプロスタノイドの異常の両者が関 与していたものと考えられる.
近年,先天性心疾患の診断及び心臓手術法の進歩と,
手術適応の限界の研究によって,高度の肺高血圧を伴 う症例でも根治が可能となってきた.しかし中には早 期から肺血管抵抗が高値を呈する症例や,術後肺血管 閉塞性病変の進行を認める症例が存在する.このよう な症例では肺高血圧の機序として,TXA2とPGI2の異 常による肺血管李縮についても検討する必要があると 思われた.
3)第II群と第III群について
第II群の症例8でもTXB2/6−keto−PGF1α比が3.0 とやや高値であったが,TXB2,6・keto−PGF1α値は 各々正常範囲内であった.今後症例数をふやしてさら に検討する必要があるが,高肺血流量・低肺血管抵抗 の若年例では,プロスタノイドによる血管李縮の関与 は少ないものと思われた.
平成3年7月1日
肺血管抵抗値の高いダウン症の症例から成る第III群 でも,4例全例で血中TXB2,6−keto−PGF、α値と TXB2/6−keto−PGF,α比は正常範囲内であり,ダウソ 症においては,プPtスタノイドによる肺血管李縮は肺 高血圧の主要な機序ではないものと考えられた.左右 短絡性心疾患を持つダウン症例では,肺高血圧の進行 が非ダウン症よりも早いといわれている18}.Yamaki ら19}は肺血管の組織計測により,ダウン症では肺小動 脈の閉塞性内膜病変は非ダウソ症よりも高度であった が中膜はより薄いことを報告し,ダウン症では先天的 な中膜平滑筋細胞のunderdevelopmentがあるため に,肺動脈圧が上昇してもそれに対応する中膜の肥厚 が起こらず,早期に内膜病変が進展するのではないか と述べている.藤山ら20)はpulmonary wedge angio−
graphyによる検討から,心疾患を持つダウン症では肺 高血圧の有無に関わらず,肺動脈の分枝や毛細血管像 が少なく,肺動脈の蛇行も少なかったと報告している.
これらの報告はダウン症では肺高血圧の成立機序とし て,先天的,後天的な肺血管床の量的な減少が重要で あることを示唆するものと思われる.
結 語
肺高血圧を伴う先天性心疾患12例において,血管収 縮性プロスタノイドTXA2と血管拡張性プロスタノ イドPGI2の,各々の安定代謝産物であるTXB2及び 6−keto−PGFiαの血中濃度を測定した,
非ダウン症で肺血管抵抗の高い症例のうち,年長例 に6−keto−PGFiαの低値例がみられた.また早期から肺 血管抵抗の上昇を認めた症例の中に,TXB,の著明な 高値を示したものがあった.その結果,6例中5例で TXB2/6−keto−PGF、α比が高値を示し,これらの症例 では血管作動性プロスタノイドによる肺血管李縮が,
肺高血圧の機序として重要な役割を担っているものと 考えられた.
一方ダウン症の症例では,4例全例で血中TXB2,
6−keto−PGF1αは正常範囲を示し,非ダウン症の症例と 肺高血圧の成立機序が異なることが示唆された.
稿を終るに際し,症例2の病理組織所見について御教授 頂いた公立刈田総合病院循環器科八巻重雄博士,ならびに 御校閲くださいました東邦大学第1小児科学教室教授松尾 準雄先生,同講師佐地 勉先生に深謝いたします.なお本稿 の要旨は第24回日本小児循環器学会にて発表した.
文 献
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The Involvement of Vasoactive Prostanoids in Pulmonary Hypertension with Congenital Heart Disease−The Investigation of Thromboxane A2 and Prostaglandin I2一
Reiko Hashiguchi
The First Department of Pediatrics, Toho University School of Medicine
Thromboxane A2(TXA2)released from activated platelets is a potent vasoconstrictive prostanoid and induces platelets aggregation. Prostaglandin(PGI2)generated from endothelium of vessels induces vasodilatation and shows an inhibitory effect on platelets aggregation. There are some reports that the balance between TXA2 and PGI2 is important in adjusting the pulmonary circulation and plasma TXB2/6−keto・PGF1。 ratios, stable metabolites of TXA2 and PGI2 respectively, are increased in the patients with primary pulmonary hypertension and with persistent pulmonary hypertension of the newborn.
In this study, plasma TXB2 and 6−keto−PGF2、 were measured by radioimmunoassay and TXB2/6−
keto・PGF2、 ratios were figured in twelve patients with congenital heart disease(CHD). All patients showed pulmonary hypertention(PH)with mean pulmonary arterial pressures over 25 mmHg detected by cardiac catheterizations, They were devided into three groups. The patients in Group I(n=6)had elevated pulmonary vascular resistance(PVR)and the patients in Group II(n=2)had increased pulmonary blood flow with normal PVR. Group III,(n=4)consisted of the patients with Down syndrome with increased PVR.
TXB2 was increased in 30f 6 cases in Group I. Two of them, both l year・old−girl,had been with PH since early infancy. On the other hand,6・keto−PGFIα was decreased in 5 of Group 1 patients. Three of them were older patients. TXB2/6−keto・PGF1、 ratios, therefore, were elevated in 50f 6 cases in Group I.
On the contrary, both of plasma TXB2 and 6・keto・PGFI、 were found to be within normal limits in all patients in Group II and III. TXB2/6・keto・PGF1αratio was slightly elevated in only one case of Group II.
It was concluded that the imbalance of vasoactive prostanoids exsisted in certain patients with increased PVR resulted from CHD except with Down syndrome. Pulmonary vasoconstriction due to vasoactive prostanoids may be involved in the pathogenesis of PH with CHD.