80歳以上高齢者肺癌症例の検討
国立療養所富士病院順天堂大学第一病理学※
泉浩 堤正夫 高橋渉 山田康冶
石川創二 須田耕一
はじめに 近年平均寿命の延長と肺癌症例数の増加に伴 い高齢者肺癌数も増加し、80歳以上の肺癌症例 も増加しっっある。しかし、高齢者では治療に 際し加齢に伴う諸臓器の低婿ドや合併症を充分考 慮して行わなければならず、80歳以上の症例で は外科療法のみでなく、化学療法や放射線療法 も施行できないこともある。今回我々は80歳以 ヒの肺癌症例18例を経験し、その診断と治療法、 予後にっいて検討した。 症 例 昭和57年1月から平成4年11月までの11年間 に当院に入院した原発性肺癌は631例でその内 80歳以上の肺癌症例は18例(2.8%) であった。 性別は男子14例、女子4例.年齢は80歳から87 歳、平均81.8歳で、80歳前半が多くを占めてい た。 発見動機は、血疾4例、咳1漱3例、胸痛3例、 他疾患加療中3例、検診2例、その他3例であ った。 系ll織型と臨床病期をTable lに示す。組織型 は蒲i平上皮癌9例(50%)と最も多く、腺癌5 例(27.8%)小細胞癌4例(22.2%)の順であ った。臨床病期別では1期が55.5%を占め、扁 、1え上皮癌や腺癌は1期症例が最も多くを占めた。 逆に小細胞癌は4例中3例がIV期症例であった。 胸部レントゲン上肺門部肺癌7例、肺野型肺 癌11例であり、腺癌5例が肺野型であるのに対 し扁平上皮癌は肺門型4例、肺野型5例と肺野 型が多かった。小細胞癌は肺門型3例、肺野型 1例であった。 治療は肺切除3例に対し、非切除例は15例で 放射線療法4例、化学療法1例、無治療群10 例であり無治療群の占める割合が多かった。無 治療の理由は治療拒否4例、心不全などの合併 症4例、老衰傾向2例であった。 結 果 平成4年11月の時点における80歳以上の肺癌 の予後は担癌生存2例、癌死11例、他病死5例 であり、平均1年5カ月生存している。 Table.1 臨床病期と組織型 ()女性症例数 組織型 ユ床病期 扁平上皮癌 腺 癌 小細胞癌 計 1 6 4(2) 10(55.5%) 皿 1 1 (5.6%) 皿a 2 2(11」%) 皿b 1(1) 1 (5.6%)v
1 3(1) 4(22.2%) 小 計 9i50%) 5i27.8%) 4i22.2%) 18 (100%) (中間型3例)
1期
II期
皿a期 皿b期 ]v期Table.2臨床病期別予後
10例
1例
2例
1例
4例
平均1年10ヵ月(1例担癌生存) 4ヵ月(小細胞癌例) 1年 (1例担癌生存)2ヵ月
平均 4ヵ月(小細胞癌3例)Table.3治療別予後
肺切除 3例
放射線療法4例
化学療法 1例
無治療 10例
(1期無治療4例平均3年3ヵ月
(2年1ヵ月、6ヵ月、1ヵ月)平均7ヵ月
10ヵ月平均1年9ヵ月
:43日∼9年) 臨床病期別予後をTable 2に示す。1期例は 平均1年10カ月であり、肺切除3例、放射線療 法2例、化学療法1例、無治療群4例が含まれ る。nL期、 IV期の進行肺癌例は症例数が少ない が予後が悪く、また小細胞癌例の予後は平均3 カ月と悪い。 治療別予後をTable 3に示す。肺切除例3例 のT・後は2年1カ月、6カ月、1カ月であった。 放射線療法4例の予後は平均7カ月と短い。こ れは小細胞癌が2例含まれることや放射線の影 響と思われる肺炎にて早期に1例が死亡してい るためである。化学療法1例は臨床病期1期で あったが手術拒否のためcis platin、 vindesine による化学療法を施行したが効果がなく10カ月 で死亡した。無治療例10例の予後は平均1年9 カ月であった。特に1期無治療4例では平均3 年3カ月(43日一9年)生存しており、43日で 死亡した1例は他病死であったので、これを除 く3例の予後の平均は4年8カ月と更に長期生 存となる。 80歳以上肺癌の手術例3例をTable 4に示す。 3例とも1期症例で男性2例は肺葉切除+肺門 リンパ節郭清術を施行し、女性の1例は肺部分 切除でリンパ節にっいてはsampling程度にとど めた.予後は83歳男性例は2年25日にて脳転移 が原因で死亡した。残りの2例は術後管理に難 渋し、気管切開を施行した。87歳女性例は手術 後120病日退院に至ったが退院後76日にて肺炎 を併発して死亡した。82歳男性は誤飲が原因と 思われる肺炎にて術後39日にて死亡した。 87歳女性例を供覧する。 主訴は胸痛、胸部 レントゲン上左下肺野背側に直径約3cmの異常 陰影を認めた。 (Fig,1,2) 経皮針生検にて 腺癌の診断を得た後手術を行った。 (Fig,3) 手術は左S10 部分切除施行。切除標本では径 約3x3x2cmの腫瘍を認めた。 samplingした肺門リンパ節に転移はなくp−TINOMO臨床
病期1期とした。 (Fig,4,5) 術後管理に難 渋したが退院に至った。しかし退院後76日にて 肺炎にて死亡した。 Table.4 高齢者(80才以上)肺癌の手術例 (昭和57年}月∼平成4年11月の約|1年間) 氏名 年性 発見動機 組織型 病 期 原発巣 術 式 術後療法 入院期間 予 後 N,S, 83男 脳梗塞 チ療中 腺 癌 i低分化型) 1 期 kP−TIN。M。) 右Bω一b i肺野型)‘ 右下葉切除 x門0/9 郭清縦隔0/13 OK−432 Q60KE 50日 2年25日 ]転移 ?S Y.Y, 87女 胸痛 腺 癌i中分化型) 1 期 iP−T、N。M。) 左B1°−a i肺野型) 左S,°部分切除 x門0/3郭清 OK−432 U0KE 撃uH施行 226日 x炎 退院後76日 x炎死亡 O,K 82男 血疲 扁平上皮癌i高分化型) 1 期 iP−T、N。M。) 右B2−b i肺野型) 右上葉切除 x門0/7 郭清縦隔0〃 な し 39日 39病日 ? 、肺炎 @死亡 SO才以上肺癌:18例(2,8%) 男子,14例:女子,4例
㌶蘂“1/
Fig,1
Fig,2
Fig,5
Fig,4
考 察 iY.均寿命の延艮とともに高齢者肺疵症例も増 加しており、70歳代の症例では70歳以ドの症例 と同等に手術療法等の治療が行われることが多 くなった。80歳以上の肺癌症例も手術療法等の 報告例が増加していると思われる。しかし80歳 以f:の症例は70歳代よリ更に老化と全身機能低 ドが大きな問題となる。即ち、粘神活動の低下、 心肺機能や腎機能の低F、合併症の併存など、 治療にあたリ充分考慮しなければならない。ま た高齢を理由に治療を拒否される症例も多く、 治療にあたり本人及び家族に兀分説明し理解を 得ることが必要であるが、高齢という人生哲学 を含むので、今後検討される課題と考える。 治療は1期、n期症例では、手術療法を検討 すべきであり根治手術が可能でperformance SLatasが良好で精神障害や合併症がない症例で は積極的手術を行うべきであろう。しかし手術 死亡率の高いことや退院後旨t期での他病死が高 いことを充分考慮しなければならない。術式は 多くの施設では肺葉切除が行われているが肺全 能温存を計るlimited operaLionも考慮すぺき である。縦隔リンパ節郭清については迷走神経 気管支枝を保ち、術後肺合併症を防止するため に臨床病期1期では積極的に行わずsampling程 度にとどめている施設が多いn 放射線療法は放射線肺臓炎など副作川のリス クが高く、また進行癌や小細胞癌ではsurvival の延艮にっながっているとは詩いがたい。高齢 者肺癌非手術例の中の艮期生存例をみると、そ の多くは1期、H期の症例ではあるが、局所に 放射線照射を受けた症例であった佐藤らの報告 もあり非小細胞癌の非手術例では検討すべきで あろう。 化学療法はcisplatinとvittdesineを中心とし た治療により奏功率が50%前後にまで向.ヒさせ ることはできるようになったが、CR率は依然低 くsurvivalを延長させるまでには至っていない のが現状でありQuality of|i「eの面で問題が ある。 当施設の皿1.期、W期、小細胞癌例の予後は悪 く、これらの進行癌の生存期間の改善にはさらまた無治療例において生存期間が長期に及ぶ 症例があることはQuality or lifeの問題も含 め、治療において充分考慮すべきであろう。 結 語 当院における80歳以上高齢者肺癌18例にっい て検討した。治療するにあたり高齢による老化 と衰弱が大きな問題であり、本人及び家族の協 力と理解が必要である。手術療法を第一選択に 考えるべきであるが、精神障害のないこと、合 併症の軽度なことが条件であり、症例によって は1imited operationを考慮しなければならな い。また化学療法や放射線療法はリスクが高く、 副作用によっては生存日数を減少させることが あり、無治療例で生存期間が長い症例もあるこ とを考慮して治療を選択しなければならない。 文 献 1)大畑正昭、他:80歳以上高齢者肺癌の治療 一とくに外科的療法を中心に一.日胸 42: 275−282 1983. 2) 服部良二、竹内義広、木村 誠、他:80歳 以1:の高齢者肺癌に対する外科治療経験.肺癌 25 1037−1041 1985.