腎検体の標本作製と特殊染色
JA愛知厚生連 豊田厚生病院
臨床検査技術科 田中 浩一
近位尿細管 遠位尿細管 ボウマン嚢 ボウマン嚢上皮 (ボウマン嚢を 裏うちする) 足細胞(基底膜の外側にある) 血管内皮細胞 メザンギウム細胞 基底膜 メザンギウム基質
腎組織のHE染色標本
血管 糸球体
遠位尿細管
糸球体毛細血管・メザンギウム・基底膜3者の関係
足細胞 足細胞 基底膜 基底膜 血管壁 足細胞 血管壁 血管内皮細胞 メザンギウム基質 メザンギウム細胞 赤血球腎組織の特殊染色
➣腎疾患別に特殊染色を選択する必要がある
➣腎生検組織検索で概ね実施される特殊染色
1)ヘマトキシリン・エオジン染色(HE染色)
2)過ヨウ素酸シッフ反応(PAS反応)
3)過ヨウ素酸メセナミン銀染色(PAM染色)
4)マッソン・トリクローム染色
5)弾性線維染色
上記、5種類の特殊染色を基本とする事が望ましいHE染色(Hematoxylin-Eosin染色)
➣腎生検組織の場合、HE染色法だけでは確認あるいは確定でき
ない組織内成分や病的変化も多い。
➣腎生検組織検索において、HE染色は糸球体、尿細管、間質、
血管のいずれに病変の主座があるのかおおよその見当つけに
使用される。
➣尿細管の変化はHE染色で優位な情報を得られるが、糸球体や血
管の変化をHE染色だけで把握する事は困難である。
➣組織切片内の情報を幅広く抽出できる Goden standard な
染色である
ボウマン嚢上皮 メザンギウム基質 メザンギウム細胞 血管内皮細胞 足細胞 基底膜
➣基底膜およびメザンギウム基質は構成成分に糖蛋白を含むた
めPAS陽性を示す。
➣腎組織のうち、糸球体の変化を観察するのに有用である。
➣糸球体、尿細管、血管の各基底膜、メザンギウム基質、近位
尿細管刷子縁、細胞内グリコーゲン顆粒、粘液性物質、高タ
ンパク尿に伴う硝子滴顆粒などがPAS陽性
メザンギウム基質 メザンギウム細胞 糸球体基底膜
尿細管基底膜 尿細管刷子縁
PAM(Periodic acid silver-methenamin)染色
➣PAM染色はHE染色の要素も加味されているため、各細胞の
detail が明瞭に把握できる
➣PAM染色の最大の利点は、細胞と細胞外基質との関係が明瞭
に把握できることにある
➣特に糸球体において、糸球体基底膜の変化やメザンギウム細
胞とメザンギウム基質との相互関係の把握は他の染色よりも
優れている
➣膠原線維もPAM強陽性を示し、重合度の低いごく小さな膠原
線維も確認することが可能で、間質線維化の評価にも有用
糸球体基底膜
Masson trichrome 染色
➣膠原線維を青色に染め分けることにより、間質の線維化を容
易に把握できる
➣膠原線維の重合が進行していない若い線維化では全体に青色
が薄く見えるため、線維化の程度や古さの判定にも役立つ
➣糸球体への免疫複合物沈着が赤色に染まり、糸球体腎炎の診
断に重要な情報源となる
➣Azan染色の代用では、細胞質の繊細な変化が不明瞭となり
綺麗な仕上がりが困難である
メザンギウム基質 糸球体基底膜
弾性線維染色
➣血管、特に動脈性血管を囲む弾性版の変化や、弾性線維の層
状化の判定に適している
➣腎組織の弾性線維染色としてErastica- Masson が適している
➣ Erastica- MassonはErastica van Gieson 染色に比べ退色
に強く、通常のMasson染色による情報との対比もできるの
で、腎組織の検索に有用である
糸球体疾患の分類
臨床症状から
1)腎炎症侯群
2)ネフローゼ症侯群
臨床経過から
1)急性糸球体腎炎
2)慢性糸球体腎炎
原因疾患の有無により
1)原発性糸球体腎炎
2)続発性糸球体腎炎
形態学的特徴から
1)管内増殖性糸球体腎炎
2)メザンギウム増殖性糸球体腎炎
3)半月体形成性糸球体腎炎
4)膜性腎炎
5)膜性増殖性糸球体腎炎
糸球体病変の基本パターン
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得られた糸球体の大部分(50%以上) に病変が見られた場合=びまん性 得られた糸球体の一部(50%未満)に 病変が見られた場合=巣状 びまん性(Diffuse) 巣状(Focal) 病変のある糸球体 病変のない糸球体 全節性(Global) 分節性(Segmental)
糸球体病変の分布に関する定義
病変が1つの糸球体内のほぼ全体(糸球 体面積の50%以上)に広がっている場合 =全節性 病変が1つの糸球体内の一部(糸球体面 積の50%未満)にしか見られない場合 =分節性・
細胞増殖:あり. 基底膜肥厚:なし
増殖している細胞:毛細血管内浸潤細胞、内皮細胞、メザンギウム細胞
・著明な細胞増殖を特徴とする糸球体腎炎。 ・糸球体は腫大し、ときに分葉状を示す。 ・毛細血管腔内には細胞成分が充満し、著明な多核白血球や内皮細胞の増殖をみる。 ・糸球体の大部分(50%以上)が管内増殖をしている場合、管内増殖性腎炎と呼ぶ。 ・メサンギウム領域においても単球の浸潤やメサンギウム細胞の増殖をみる。 ・病変が高度ならば、半月体の形成や壊死性変化を伴う ・代表格が臨床的に言えば急性糸球体腎炎(溶連菌感染後急性糸球体腎炎)である。管内増殖性糸球体腎炎
管内増殖性糸球体腎炎
・細胞増殖:あり. 基底膜肥厚:なし
増殖している細胞:メザンギウム細胞
・糸球体の大部分(50%以上)がメザンギウム増生を示している場合、 メザンギウム増生腎炎と呼ぶ。 ・1つのメザンギウム領域に細胞が3個以上ある場合をメザンギウム増生と定義 する。(正常糸球体では1つの糸球体にメザンギウム細部が3個あることは殆 どない) ・メザンギウム増殖性糸球体腎炎の代表格はIgA腎症
と膜性増殖性糸球体腎炎
で
進行性慢性腎炎の病型をとることが多いメザンギウム増殖性腎炎
メザンギウム増殖性腎炎
臨床的特徴 ・高齢者に多い ・急速進行性糸球体腎炎症侯群を呈する ・傍基底膜抗体陽性例では肺出血を伴うことが多い(Goodpasture症侯群) ・MPO-ANCA関連腎炎でも肺出血が起こることがある。 ・予後不良 光顕所見 ・
細胞増殖:あり. 基底膜肥厚:なし
増殖している細胞:ボウマン嚢上皮 ・半月体形成性(=管外増殖性)腎炎 ・半月体に伴って係蹄壁の壊死(糸球体基底膜が切れることで、必ずフィブ リンの析出を伴う)を伴うことも多い半月体形成性腎炎
臨床的特徴 ・中年に多い ・ネフローゼ症侯群を呈する ・発症は穏やか ・予後は比較的良好(特に日本では予後が良い) 光顕所見 ・
細胞増殖:なし. 基底膜肥厚:あり
・糸球体基底膜が肥厚している(尿細管基底膜と比較して厚ければ有意といえる) ・PAM染色ではSpikeやbubbly appearanceを確認できる Spike:基底膜からクシの歯のように突起物が出ている所見 bubbly appearance:基底膜の斜め切りの部分が泡つぶの様にぬけている所見膜性腎症
SpikeとBubbly appearance
免疫複合体が基底膜の上皮側に沈着すると基底膜物質が伸びてくる(Spike) 基底膜 血管内皮 免疫 複合体臨床的特徴 ・小児や若年成人に多い ・ネフローゼ症侯群+急性腎炎症侯群 ・低補体を呈することが多い ・治療抵抗性、難治性ネフローゼ症侯群 ・予後は不良 光顕所見 ・
細胞増殖:あり. 基底膜肥厚:あり
増殖している細胞:浸潤細胞+メザンギウム細胞 ・係蹄基底膜の肥厚、メサンギウム細胞の増生、メサンギウム基質の増加。 ・特徴は基底膜の二重化
膜性増殖性糸球体腎炎
膜性増殖性糸球体腎炎
①②③メザンギウム細胞が基質を伴って本来の基底膜と内皮細胞との間に割り込んでくる 本来の基底膜はコラーゲンなのでPAM染色で黒く染まる。メザンギウム基質もコラーゲンなの でPAM染色で黒く染まる。メザンギウム細胞の細胞質は黒く染まらない。本来の基底膜と基質 に挟まれたメザンギウム細胞の細胞質の部分が白く抜けて見えるので基底膜が2重に見える。
基底膜二重化の原理
①
②
③
PAM染色
基底膜の二重化
メザンギウム基質 メザンギウム細胞 内皮細胞 基底膜脱パラフィン・水洗 媒染(10%重クロム酸カリウム・10%トリクロロ酢酸等量混合液) ・・・ 15分 流水水洗 ・・・ 3分 核染色(鉄ヘマトキシリン) ・・・ 5分 流水水洗(色だし) ・・・ 5分 0.75%オレンジG染色液 ・・・ 1分 洗浄(1%酢酸水) ・・・ 10秒 ポンソーキシリジン・酸フクシン・アゾフロキシン染色液 ・・・ 20分 洗浄(1%酢酸水) ・・・ 10秒 2.5%リンタングステン酸水溶液 ・・・ 15分 洗浄(1%酢酸水) ・・・ 10秒 アニリンブルー染色液 ・・・ 3分 洗浄(1%酢酸水) ・・・ 10秒 脱水・透徹・封入
マッソン・トリクローム染色の染色手順
③ポンソーキシリジン・酸フクシン・ アゾフロキシン20分浸漬後
媒染時間0分
媒染時間15分
媒染時間30分
媒染時間60分
鉄ヘマトキシリンの有効性
鉄ヘマトキシリン
マイヤーのヘマトキシリン
オレンジG染色とマッソン・トリクローム染色の関係
ポンソーSX ビーブリッヒ スカーレット アゾフロキシン 酸フクシン ポンソーSX ビーブリッヒ スカーレット アゾフロキシン 酸フクシン
染色液の成分と染色
酸フクシンで染色 ポンソーキシリジン・酸フクシン・アゾフロキシンで染色リンタングステン酸の浸漬時間とアニリンブルーの染色性
リンタングステン酸0分
リンタングステン酸15分
リンタングステン酸30分
アニリンブルーとメチルブルーでの染色性の違い
アニリンブルー
メチルブルー
アニリンブルー
脱パラフィン・水洗
蒸留水
1%過ヨウ素酸水溶液 ・・・10分
流水水洗 ・・・5分
蒸留水 ・・・3回
0.5%チオセミカルバシド ・・・5分
流水水洗 ・・・5分
蒸留水 ・・・3回
メセナミン銀液 65℃ ・・・30分~
蒸留水水洗 ・・・3回
0.2%塩化金 ・・・5分
蒸留水水洗 ・・・3回
2%チオ硫酸ナトリウム ・・・2分
流水水洗 ・・・5分
HE染色
脱水・透徹・封入
PAM染色の染色手順
チオセミカルバシドの有用性
メセナミン銀(近位尿細管の細胞質が染まる) 塩化金に浸漬
チオセミカルバシドに浸漬 HE染色
塩化金に浸漬した標本
塩化金に浸漬しなかった標本
ハイポに浸漬した標本
塩化金に浸漬しなかった標本
HEの染色について
切片の厚さに関する検討
参考文献
腎生検病理アトラス 日本腎臓学会・腎病理診断標準化委員会、 日本腎病理協会
腎生検診断Navi 片渕 律子 MEDICL VIEW