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外傷性肺血腫の1例と本邦報告例の検討

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Academic year: 2021

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臨床報告

外傷性肺血腫の1例と本邦報告例の検討

飯山赤十字病院 外科 ヒライズミ タイジ タニグチ マコト シロタニ ノリヤス

平泉泰自・谷口 誠・城谷典保

東京女子医科大学 第2外科学教室(主任:織畑秀夫教授) スズキ タダシ オりハタ ヒデオ 講師 鈴木 忠・教授 織畑 秀夫 (受付 昭和61年2月7日) はじめに 近年,増大する交通事故により数多くの胸部外 傷が発生するにもかかわらず,外傷性肺内血腫の 報告例は少なく,比較的まれなものとされている. 最近われわれは,交通事故による胸部打撲によ り,左肺上葉と下葉に重複して発生した肺内血腫 の1症例を経験したので,本邦報告30例とあわせ て文献的考察を加え報告する. 症 例 患者:F.M.21歳,男性. 主訴:胸痛,呼吸困難. 家族歴・既往歴:特記すべきことなし. 現病歴:昭和60年7月21日オートバイにて走行 中尊倒し左側胸部を強打した.受傷直後より著明 な胸痛,呼吸困難がみられ,直ちに救急車にて来 院した. 入院時現症:意識混濁,顔面蒼白,冷汗,四肢 冷感,口唇,爪床にチアノーゼを認め,血圧85/60 mmHg,脈拍100/分とショック状態にあった.眼 険結膜は貧血様で,心音は清であるが,呼吸音は 左肺野にてやや微弱で左側胸部痛と呼吸困難を訴 えた. 入院時検査成績:血液一般検査にて,RBC 331 万/mm3, Hb 10.8g/dl, Ht 31%と貧血がみられ, 血液化学にてGOT 519mU/ml, GPT 310mU/ml,

LDH 1,860mU/ml, CPK 163mU/m1と上昇がみ られたが,その他の値は正常範囲内であった. 胸部X線所見(写真1)では,左上葉の境界明 瞭な紡錘形の限局性陰影と,左下葉の辺縁不鮮明 な均一の円形陰影がみられ,左第2∼6肋骨骨折 および外傷性血気胸を合併していた. 』入院後経過:直ちに胸腔ドレナージが施行され たが,受傷後5日目の胸部X線所見(写真2)で は,左上葉にやや縮小したものの依然として楕円 写真1 胸部X線所見(入院時)

Taiji HIRAIZUMI, Makoto TANIGUCHI a皿d Noriyasu SHIROTANI〔Department of Surgery Iiyama Red Cross Hospital〕Tadashi SUZUKI and Hide①ORIHATA〔Department of Surgery(Director:Prof. Hideo ORIHATA)Tokyo Wo出en’s Medical College〕:Acase of intrapulmonary hematomas due to chest injury and a review of the Japanese literatures

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鐸,

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写真2 胸部X線所見(受傷後5日目) ll L 「噸纏翻

撃罐

写真3 手術所見(左上葉の肺内血腫)

耀

形を呈した淡い限局性陰影と,ほとんど変化のみ られない左下葉の円形陰影を認めた.トロッカー ドレナージよりの出血量は300∼450ml/dayだが 軽減傾向になく,受傷後8日目に開胸手術を施行 した. 手術所見:左上葉に(写真3)のごとく12×8cm の楕円形の肺内血腫が存在し,胸膜破裂を伴い肺 胞内出血所見がみられ,これが血気胸の原因であ ることが確認された.この左上葉の血腫に対して は,左肺上葉部分切除術が施行された.さらに左 下葉には(写真4)に示すように,10×8cmの肺 内血腫が存在し,胸膜損傷はなく血腫よりの出血 はみられず,写真5のように血腫除去術を施行し

膨張

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写真4 手術所見(左下葉の肺内血腫) J, 写真5 手術所見(血腫除去術施行) 写真6 胸部X線所見(受傷後31日目) た. 手術後経過:胸痛,呼吸困難, 血気胸などは四

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日目の胸部X線所見(写真6)を示すが,二物血 腫は完全に消失し肺胞の充分な拡張を認める. 考 察 外傷性直領血腫は胸部外傷が多発していると考 えられているわりにはその報告例は少なく,1940

年にSchmitt1)が第1例を報告して以来,

Despierres2)によれば50例以内であるとされてい る.本邦においても表13)∼23)に示したごとく自験 例を含め31例の報告をみるのみである,しかし Milne24)は105例の胸部外傷のなかで4例に肺内 血腫を認めたと報告しており,報告例が少ないの は本症に対する認識の不足が原因であるとも考え られる. が25),本症報告例でも31例中16例(51.6%)が30歳 以下の男性に発生している.その理由として,こ の年齢層は外傷にさらされる頻度が高く,胸部の 弾力性が大きいためと考えられるている. 本症の発生機転としては,十分な弾力性をもつ 胸郭へ外力が加えられた場合,その圧力は直接胸 腔内臓器に伝達され,その結果肺胞,小血管,毛 細管の破裂が生じ肺組織の裂創を起こす.この間 隙に血液がたまり,周囲の肺組織の弾性により円 形陰影を呈する.損傷された肺組織の表面の凝血 は器質化し血腫壁を形成し,長い間吸収されな: い26)とされている. 臨床症状として,血たん,胸痛,呼吸困難,発 表1 外傷性肺内血腫の本邦報告例 No. 報告者 年齢 性 受傷原因 血疾 部 位 個数 発見時期 消失期間 治 療 合 併 損 傷 1 島3) 39 男 材木搬出中 十 右下 1 10日 9ヵ月 血胸・鎖骨肋骨々折 2 近 藤4) 56 男 転落 十 1 2カ月 手 術 3 小 林5) 28 男 材木搬出中 十 左上 1 6日 4 横 山6) 19 男 胸部外傷 右上 1 1ヵ月 手 術 5 奈良坂η 49 男 交通事故 十 右上中下 5 17日 2ヵ月 手 術 右血気胸・右鎖骨々折 6 東 谷8) 20 男 〃 右中 1 1年 1年 手 術 7 泰 江9) 21 男 〃 左上 1 3ヵ月 5ヵ月 8 菊 地10) 25 男 工作機械 左上 1 8ヵ月 9 湯 浅11, 50 男 交通事故 右上 1 手 術 10 西 村12) 34 男 工作機械 一 左上中 1 1カ月 8ヵ月 11 西 村 34 男 落下物 一 左中 1 7日 4ヵ月 12 柏 木13) 21 男 剣道 十 左下 1 5日 13 前 中ユ4} 28 男 交通事故 十 右上中 2 4ヵ月 右肋骨々折 14 生 駒15) 48 男 機械工事 十 右上 1 7日 4ヵ月 左鎖骨々折・右肋骨々折 15 古 泉ゆ 31 男 交通事故 十 左下右上 3 7日 5ヵ月 ドレナージ 右血気胸・右肋骨々折 16 古 泉 27 男 〃 十 左下右下 3 7日 左右肋骨桑折 17 古 泉 74 男 〃 右中 1 10日 3ヵ月 右肋骨々折 18 古 泉 25 男 〃 十 左下 2 4週 3ヵ月 ドレナージ 左血胸・左目早々折 19 古 泉 52 男 〃 右中 1 7日 2ヵ月 ドレナージ 右血気胸・左肋骨々折 20 古 泉 18 女 〃 十 左中 2 11日 ドレナージ 左血胸・肋骨々折 21 横 谷17) 57 男 〃 右下 1 13日 3ヵ月 ドレナージ 血気胸・肋骨々折 22 肥 後孟8) 38 男 スキー 十 右上下 2 28日 4ヵ月 ドレナージ 血胸・肋骨々折 23 佐々木19} 19 男 交通事故 左中 1 1カ月 1ヵ月 左肋骨々折 24 河 内20) 25 男 〃 7ヵ月 肋骨々折 25 荒 井21) 34 男 スキー 十 左下 1 5日 手 術 26 渡 辺22) 19 男 交通事故 十 右上下 数 18日 6ヵ月 右肋骨々折 27 渡 辺 27 女 〃 右上 2 14日 3ヵ月 左肋骨々折 28 渡 辺 16 男 バレーボール 一 左下 1 1ヵ月 4ヵ月 右気胸・右鎖骨々折 29 土 山23> 29 男 工作機械 十 左中下 1 9日 2ヵ月 ドレナージ 血気胸・右鎖骨肋骨々折 30 土 山 16 女 交通事故 十 右月下 2 13日 1ヵ月 ドレナージ 右血胸・右鎖骨々折 31 著 者 21 男 〃 左上下 2 5日 1ヵ月 手術 右目気胸・右肋骨々折

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熱などがみられるが,三内血腫として特異的なも のとはいえず,合併損傷に影響されるものと考え られる.症状のなかで血たんは比較的高頻度でみ られ,本邦報告例31例中16例(51.6%)に認めら れている.しかし外傷性肺内血腫のほとんどが肺 挫傷を伴うものと思われ,血たんが本症に特異的 な症状であるとはいえない. 本症のX二線所見としては,受傷初期にはびま ん性のぼんやりした陰影を呈するが,数時間から 数日の間に次第にその陰影は濃く増強し,やがて 鮮明な円形ないし楕円形の結節性陰影となる.ま た,血腫へ肺胞気が漏れると鏡面像を呈すること があるが,その頻度は本邦報告例で7例(22.9%) と低い. 発生部位としては,より弾力性に富む胸郭下部 すなわち右下葉に多い15)17)とする報告もあるが, 外力の作用した方向によるところが大きく,本邦 報告例をみても肺のどの部位にも発生している. またcontracoup effect25)のため,外力の及んだ方 向とは逆の位置に形成されることもある22)24).さ らに,血腫は臓側胸膜直下に発生しやすく,胸膜 破裂を伴えば気胸や血腫を合併することとな: る18).血腫の多くは単発性で,多発性の発生は本邦 報告例でも個数の明らかな30例中11例(36.7%) と少ない. 診断学的には,臨床症状や理学的所見に特有な ものがなく,外傷の既往とX線的特徴にたよるこ とが多いが,症例によっては外傷との因果関係が 不明なこともあり,腫瘍性疾患との鑑別上穿刺針 生検が有効であったとする報告22)もある. 血腫は徐々に吸収され1∼3ヵ月で消失するも のが多いが,なかには2∼4日後に消失するもの や,また1年以上も大きさを減じることなく存在 したのち消失した症例もある26).本邦報告例言24 例(77.4%)では,経過観察またはドレナージに より2∼9ヵ月で血腫の消失をみており,手術を 施行した症例は自験・例を含め7例(22.6%)と少 ない.保存的療法を継続する場合は,出血による 貧血,血腫による感染と肺機能低下,他の肺疾患 との鑑別などが重要な問題となる.本症例のよう に胸膜破裂を伴う血気胸を合併し,胸腔ドレナー ジを施行しても出血量の軽減傾向がみられない場 合は,積極的な手術療法がとられるべきであると 考える. 円形陰影を伴う他の肺疾患との鑑別診断上外傷 性肺内血腫は重要であるが,最近の多発する胸部 外傷,救急医療施設の普及,外傷診断学の進歩か ら考えれば,本症の報告は意外と少なく,本疾患 に対する再認識が望まれる. ま と め 1)最:近経験した外傷性肺内血腫の1例を呈示 した. 2)外傷性肺出血腫の本邦報告30例とあわせて 検討し,若干の文献的考察を加えた. 3)外傷性都内血腫は,保存的療法により消失す ることが多いが,胸腔ドレナージにて出血量の軽 減傾向がみられない場合は,積極的な手術療法を 考慮するべきである. 稿を終えるにあたり,御校閲を賜った織畑秀夫教 授,貴重な御指導,御助言を戴きました飯山市十字病 院院長中藤晴i義先生に深甚の感謝を表します. 本稿の要旨は,第66回信州外科集談会にて著者の平 泉が口頭で発表を行なった. 文 献

1)Schmitt, H.G.:Rundschatten auf der Lunge. R6ntgenpraxis 12332(1940)

2)Despierres, G.=Les hematoes intrapulmonier− res. J Med Lyon 54801(1973)

3)島隆充・他:円形陰影を呈する平内血腫.臨床 放射線 9713(1964) 4)近藤正人・他:肺腫瘍と誤られた限局性肺内血腫 の1例.日外会誌 67251(1966) 5)小林公治:肺内血腫.日本医事新報2273 75 (1967) 6)横山育三・他:外傷性三内血腫の1治験例.日胸 外会誌 16(9)980(1968) 7)奈良坂重樹・他:最近経験した外傷性肺内血腫症 例について.日揮外会誌 17(5)674(1969) 8)東谷喬伸・他:受傷後1年7ヵ月を経過した肺内 血腫の1例.日胸疾会誌 10409(1972) 9)泰江弘文:8)への追加.日晒疾会誌10 409 (1972) 10)菊地陥夫・他:外傷性肺内血腫の1例.日胸疾会 誌 10(11) 628 (1972) 11)湯浅恭一・他:胸膜中皮腫を疑い開胸した外傷性 肺内血腫の1例.福島医誌 2350(1973)

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の2例.日本医報会誌 33(1)78(1973) 13)柏木征三郎・他:閉鎖性胸部外傷による肺内血腫 の1例.臨床放射線 221233∼1237(1977) !4)前中由巳:胸部外傷.外科治療32(5) 495∼510 (1975) 15)生駒夏彦・他:外傷後肺内血腫と思われる1例. 臨床外科 31(6)805∼808(1976) 16)古泉桂四郎・他:非穿通性胸部外傷後に発生した 肺内血腫.外科 40(6)592∼597(1978) 17)横谷邦彦・他:閉鎖性胸部外傷後肺内血腫の1例. 胸部外科 31(4)305∼308(1978) 18)肥後正徳・他:鈍性胸部外傷後肺内血腫の1例. 日胸 10865∼870(1981) 19)佐々木召力・他:閉鎖性胸部外傷後の限局性肺内血 腫.日胸 37(7)550∼554(1978) 20)河内禿・他:外傷性肺内血腫の1例.日胸外会 21)荒井他嘉司・他:肺腫瘍の疑いで試験開胸を行 なった肺内血腫の1例.医療34(8)746∼747 (1980) 22)渡辺 敏・他:外傷性肺内血腫の3症例と本邦報 告例について.日胸疾会誌19(6)375∼381 (1981) 23)土山雅人・他;外傷性肺内血腫の2例.救急医学 9(12) 1811∼1815 (1985)

24)Milne, E., et aL:Circumscribed intrapul− monary haematoma. Br J Radio134587(1961) 25)Errion, A.R., et al.=Pulmonary hematQma due to non penetrating chest trauma. Am Rev Respir Dis 88384(1963)

26)Welkind, A.:Intrapulmonary hematoma due

to non−penetrating inlury, J Med Soc N J 47 501 (1950)

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