別紙1
論 文 審 査 の 要 旨
報告番号 甲第2693号 氏 名
大森 美由紀
論文審査担当者
主査 歯科理工学 宮﨑 隆 副査 インプラント歯科学 尾関 雅彦 副査 口腔解剖学 中村 雅典
(論文審査の要旨)
学位申請論文「A biomechanical investigation of mandibular molar implants: reproducibility and validity of a finite element analysis model 」について、上記の主査1名、副査2名が個別に審査を行っ た。
三次元有限要素解析(FEA)は、生体内で実測不可能な顎骨内の応力分布を解明する有効な手段である が、生体組織のFEAは多くの条件設定があり、挙動や構造も複雑なため、結果の妥当性に疑問が残る。そ こで、本研究ではFEAモデルの再現性と妥当性を検証することを目的に、擬似下顎骨にインプラントを埋 入した実験モデルを複数個作製し、そのCTデータからFEAモデルを作製し、実際のインプラントとの被 圧変位量を比較検討した。その結果、変位の絶対値の妥当性は低く、相当応力値の再現性が劣っていた ものの、FEAモデルは実験モデルの変位を反映しており、再現性と妥当性が高いことが判明した。従 ってFEAモデルは、荷重時のインプラントの挙動傾向を検討するにあたり、有効な手段であることが 示唆された。再現できる範囲には限界があるが、特性を理解し限界を知った上では、実際に生じる現象を 推測することが可能であることが示唆された。
本論文の審査において、副査の尾関委員および中村委員から多くの質問があり、その一部とそれらに対す る回答を以下に示す。
尾関委員の質問とそれらに対する回答:
1. 実験モデルの臨床的意義や妥当性について説明せよ。
実際の骨は、骨質、形態、物性値など個体差があり、条件を一定に保つのが困難であり、すべての個体に あてはまる結果を得るのは難しい。そのため、今回は、個体差を排除可能な擬似下顎骨を用いた。
Lekhholm&Zarbの分類でタイプⅡに分類され、インプラント治療を行う上で、臨床的に妥当な骨質・骨形
態・骨構造を有している想定で作製されたモデルを用いた。実際の骨と比べて弾性係数などの差はあるが、
FEAモデルと実験モデルの比較により、FEAはインプラントの挙動傾向を検討するのに有効な手段である という知見が得られた。
2. 本研究で設定した荷重条件の根拠は何か。
大臼歯のインプラント上部構造に加わる最大咬合荷重が 200 Nであるという報告を参考に、咀嚼時を想定 し、過剰な咬合力とならない 100 Nの荷重を負荷した。
3. 実験モデルとFEAモデルの被圧変位量に差が認められた理由は何か。
FEAモデルの被圧変位量は、実験モデルの 1/3~1/4 程度であった。FEAモデルでは擬似下顎骨下面を完
全拘束としているが、実験モデルではこの完全拘束条件を再現できてなかった可能性が考えられる。擬似下 顎骨下面を台座に完全に接着するなどの措置が必要であると考えられる。また、FEA モデルに代入した物 性値が、実際の擬似下顎骨状態と異なっていた可能性も理由として挙げられる。海綿骨部は内部が発泡状に なっており、実際はさらにヤング率が小さい可能性も考えられる。以上の点に留意すれば、FEA モデルと 実験モデルの被圧変位量を同等にすることは可能であると考えられる。
中村委員の質問とそれらに対する回答:
1. 接触モデルと非接触モデルの違いは何か。
接触モデルは、インプラント体と骨を完全に接触(摩擦係数 0)としたものである。実験モデルのインプ ラント体と骨の接触状態を再現したものであり、臨床的には即時荷重を想定したモデルである。接着モデル は、インプラント体と骨を完全に接着(固着)としたもので、臨床的には遅延荷重を想定したモデルである。
2. ヒトあるいは動物の骨を用いた研究ではどのような結果を生じるか。
今回は,上部構造に 3 つの荷重点を設け、100 N の荷重を加えた。結果として、頬側・舌側荷重時は,イ ンプラント体を回転傾斜させる力が発生し、中央荷重の変位と比較し、大きな変位を示した。これは、ヒト および動物の骨を用いた研究結果とも一致する。実験モデルに用いた擬似下顎骨の弾性係数が実際の骨と異 なるため、ヒトおよび動物の骨を用いた結果と変位の絶対値は異なるが、荷重部位の違いによる変位の様相 は同様の傾向を示しており、今回作製したモデルの臨床的妥当性を支持しているものと考えられる。
両副査は、上記を含めた質問に対する回答が、いずれも満足のいくものであることを確認した。
主査 宮﨑委員の質問とそれらに対する回答:
1. 本研究の意義は何か。
生体組織の三次元有限要素解析は、多くの条件設定仮定を含んでいること、内部構造や挙動が複雑である ことから、解析条件やモデル形状により結果が大きく異なる。そのため、結果の信頼性と妥当性を保証する のが難しいという問題点が挙げられる。 そこで、三次元有限要素解析モデルと実際にインプラントを埋入 した実験モデルの被圧変位量を比較することで、三次元有限要素解析モデルの再現性と妥当性の検討を行っ た。結果として、三次元有限要素解析モデルは、実験モデルの変位の傾向を反映しており、得られた結果の 再現性や妥当性が高いことが明らかとなった。しかし、変位の絶対値の妥当性は低く、相当応力値の再現性 については劣ることが明らかとなった。三次元有限要素解析モデルで再現できる範囲には限りがある。結果 は数学的に羅列された数値データであることを十分に理解した上で,その特性と限界を理解した上であれ ば,実際に生じる現象を推測することは可能であるということが示唆された。
主査の宮崎委員は、両副査の質問に対する回答の妥当性を確認するとともに、本論文の主張をさらに確認 するために上記の質問をしたところ、明確かつ適切な回答が得られた。
以上の審査結果から、本論文を博士(歯学)の学位授与に値するものと判断した。