子 どもの 日常 的社 会認 知 の発達 ( 4)
一子 ど もの価 格判 断 に見 る遊動 的発 達 ‑
福 田 正 弘 *
TheDe v e l o p me n to fCh i l d r e n ' sS o c i e t a lTh i n k i ngi nEv e r y d a yLi f e ( 4 )
‑Swi ngi ng De ve l opme nti n Chi l dr e n' sPri c eDe c i s i on‑
Mas ahi r oFUKUDA
*1 研究 員的
本研究 は、個 々の小学校 児童 (対象学 年 :第 2学年 〜第 6学年 児童) に焦点 を当て、彼 らが 日常 的 な文脈 の下 で行 う社 会 的 (経 済 的)判 断 の内容 とそ の推 移 を4年 間継続 的 に調 査 し、子 ど もの社会認知 の実態 とその発達過程 を明 らか にす る もので あ る。 本研究 で は、
子 ど もが レモ ネー ド店経営者 と して様 々な環境変化 の下 で行 う レモ ネー ドの販売価格 に関 す る判 断 を取 り上 げた。
子 ど もの社会認識 の発達 を調 査で明 らか に しよ うとす る研究 は数 多 くあ るが、 その ほ と ん どが時系列横 断 的 な研究 で あ る。 す なわ ち、一 時期 に異 な る年齢 の子 ど もの発達状 態 を 調査 し、 そ こか ら発達系列 を導 くとい う方法 の研究 で あ る。 こう した研究 は、厳密 な意 味 で の発達研究 とは言 い難 い。 なぜ な らば、発達研究 とは、個 々の子 ど もの発達経過 を跡 付 け、 それ らを一般 化 して発達 系列 を導 くとい う時系列縦 断 的 な方 法 を採 るべ き もの と考 え られ るか らだ。 そ こで、本研究 で は、長 崎市 内 の あ る小学校 に協 力 を求 め
、1 9 9 7
年度 に第2
学年 と第3
学年 で あ った児童 それぞれ1 0 8
名、1 0 7
名 を対 象 に4
年 間 にわ た って継続調 査 を行 った。これ まで我 々は、本研究の遂行途上、その時点での中間報告 を発表 し (福田
,1 9 9 8 ,1 9 9 9 a
,1 9 9 9 b
,2 0 0 0 )
、 また4
年 間 の継 続 研究 の ま とめ と して、 子 ど もの社 会認 知 の実態 とその 発達段 階 の抽 出 を行 った (福 田,2 0 01 a
,b)
。 本稿 で は、 さ らに、4
年 間 の デ ー タ比 較 に よ り、個 々の子 ど もが示 す反応状況 の推移 を追跡 し、子 ど もの 日常 的社 会認知 の発達経 路 を明 らか に したい 。*長崎大学教育学部社会科教育学教室
46 長 崎大学教育学部紀要 教科教育 No.38(2002)
2 方 法
2.1 調査 内容 と調査 問題
本研究 は、4年 間 の継続調査 で あ るので同 じ内容 の調 査 を4年 間繰 り返 した。調 査 の内 容 は、様 々な条件下 での子 ど もの価格判 断 とその判 断基準 で あ る。
前者 は、 レモネー ドの製造 と販売 を行 うとい う立場 に子 ど もを立 たせ、様 々な販売条件 の中で、 レモネー ドの販売価格 を上 げ るか下 げ るか の判 断 を求 め る もので あ る。 本調 査 で は、次 に掲 げ る6対 の条件 を設定 し、 問1と して、合計12個 の質 問項 目 (表 2‑ 1)を立 てて い る。
(1)(2ト ‑‑子 ど もの特殊利害 (大人 の客 か子 ど もの客 か とい う客 の属性) (3)(4ト‑ ・‑道徳 的基準 (競争相手 の リタイ アによ る客 の困惑)
(5)(6)・‑‑‑・競合商 品 の出現 (補完 的関係 にあ る商 品 と代替 的関係 にあ る商 品) (7)(8ト‑‑‑道徳 的基準 (競 合商 品 の販売 中止 によ る客 の困惑)
(9)(lo巨 ‑ ‑‑登場人物 の意思 (レモ ン価格 の低下 に対 す る農家 の訴 え) (ll)(12)・・・‑‑登場 人物 の意思 (商店街 へ の買 い物 客 の意思)
表
2‑1 間1
の質 問項 目の対照表(1)近 くで サ ッカ ーの大 会 が 開 か れ て、 多
( 2 )
近 くで運 動 会 が 開 か れ、 た くさん の子 くの人 が集 ま って い る○ ど もが参加 して い る○(3)とな りに同 じレモネー ド屋 が で きたo (店を休みだしたので、お客 さんが困 っているo4)となりのレモネー ド屋 さんが、病気 になって、
(5)とな りに‑ ンバ ー ガ ー屋 (飲 み物 は売 つ (6)とな りの‑ ンバ ー ガ ー屋 が飲 み物 も売 て い な い)が で きて、 た くさん の人 が買 っ
て、近 くで食 べ て い る○ り出 したo
(7)近 くに ジュー スの 自動 販売 機 が で きた○ (して、 ジュースを買 いにきた人が困 っている○8)近 くにあったジュースの自動 販 売 機が故 障 (9)レモ ンが安 か つた の で、 た くさん貫 つ (10)レモ ンが安 くな りす ぎて、 レモ ンを作 つ て、 いつ もよ り多 くの レモ ネ ー ドを作 つ て い る農 家 の人 が、 「レモ ンを高 く買 って
た ○ ほ しい」 と訴 えて い る○
(ll)商 店 街 の近 くに店 を 出 した ら、 いつ も (12)近 くの商 店 街 が大 売 り出 しを して、 安 売
後者 は、子 ど もが価格判 断 にお いて用 い る基準 と して、 どの基準 を意識 して い るか を問 うもので あ る。 具体 的 には、子 ど もの判 断基準 を非経 済 的基準、経済 的基準 に分類 し、 次 に示 す① 〜⑦ の7つ の具体 的 な判 断基 準 を挙 げ、 その中か ら価 格判 断で重 視 す る川副こ3つ を選択 す るよ うに子 ど もに求 め た。 内容 の詳細 は前 回 の報告 (福 田,2001b)で紹 介済 み で あ り、 また本稿 で の分析対象 とはな らな いので、 ここで は割愛 す る。
2.2 調査方法
本調査 は、質 問紙 法 に依 った。調査 は、1997年度 か ら2000年度 の4年 間、 いず れ も12月 また は1月 に実施 した。調査実施場所 は長 崎市 内 の小学校 1校 で、対 象児童 は上述 の通 り 1997年度 に第2学年、第 3学年 で あ った児童全員 で あ る。 しか し、本調査 は4年 間 の継続 調 査 で あ るため、 4年 分 の デー タが揃 って い る児童 の デ ー タのみ を最終 的 な分析対 象 と し た。調査対象児童数 は表 2‑ 2の通 りで あ る。
表2一一2 調 査 対 象児童 数 (人 )
97年 度 に.第 2学 年 で あ った児童 98年 度 に第 3学 年 で あ った児童 97‑2nd98‑3rd99‑4th00‑5th97‑3rd98‑4th99‑5th00‑6th 調 査 を受 けた児童数 122 123 118 119 117 123 118 121
なお、以下 の表記 で は、1997年度 に第 2学年 であ った児童 の グル ープを97‑ 2児童 グルー プ、 同 じく第 3学 年 で あ った児童 の グル ープを97‑ 3児童 グル ープ とす る。
2.3 分析 方 法
調 査 デ ー タの分析 は、 次 の よ うに行 った。
1)TF分析
個 々の児童 が問 1の各項 目に対 して示 した反 応 デ ー タを 4年分 並 べ、 そ の推 移 を分析 す る。 具 体 的 に は、 まず個 々 の子 ど もの反 応 を正 反 応Tと非 正 反 応Fと して表 示 す る。 そ し て、 1年 目の反応 か ら順 に配列 し、TTTTか らFFFFまで の16組 の推 移 パ ター ンに分 類 す
る。 例 え ば、 1年 目T、 2年 目F、3年 目F、4年 目Tとい う反応 を示 した児童 の推移 パ ター ンは、TFFTとな る。
2)グループ化
さ らに、 これ らの推移 パ ター ンを次 の3つ の グル ープ に分 けた。 す なわ ち、 最 終年 度 の 正 反 応 に向 けて比較 的安 定 して推 移 す る もの (groupl)、 正 反 応 ・非 正 反 応 が混 合 し安 定 しないもの (group2)、最終年度の非正反応に向けて比較的安定 して推移す るもの (group3) の3つ で あ る。
group1 TTTT、FTTT、FFTT、FFFT
group
2
TTFT、TFTT、TFTF、TFFT、FTTF、FTFT、FTFF、FFTF group3 TTTF、TTFF、TFFF、FFFF個 々の子 ど もの この グル ープ情 報 を97‑ 2児童 グル ープ、97‑ 3児童 グル ープで集計 し、
統合 す る。 これ に基 づ き、設 問 ご との発 達 的特 徴 を析 出す る。
3 結 果
TF分析 及 び グル ープ化 の結 果 は、表 3‑ 1‑ 3‑ 6に示 す通 りで あ る。これ らの表 か ら 以 下 の ことが いえ る。
各設 問 に対 す る反 応 パ ター ンの推移 (groupl, 2, 3の割 合) が、97‑ 2、97‑ 3の 両 児童 グル ープで非 常 に似通 って お り、 各 対 で の反 応差 も両 児童 グル ープで共 通 に見 られ
た 。
12個 の設 問 にお いて、 grouplが多 いのが(3)(6)(7)で、 それ らの項 目で はgrouplが いず れ も90%近 くを 占め、 他 を圧 倒 して い る。 次 にgrouplが50%程 度 を 占め、 残 りをgroup
2
、3
で分 け合 うパ ター ンが(1)(5)(8) (
9) ( l
l)
に見 られ た。 さ らに、3
つ の グル ープが ほぼ均等 に分 け合 うパ ター ンが(2)(4)(12)に見 られ た。 また、 group3が他 を圧 倒 して い るパ ター ンが (10)に見 られた。 また、対 とな る設 問で は、(3)(4)、(9)(10)の間で大 きくパ ター ンが異 な っていた。48 長崎大学教育学部紀要 教科教育 No.38(2002)
表
3‑1 間 1
‑( 1 ) ( 2 )
の反応推移97‑ 2 (n‑108) 97‑ 3 (n‑107) 問1‑(1) 問1‑(2) 問 1‑(1) 問1‑(2) group1 48.1% 30.8% 60.7% 38.3%
group2 34.3% 33.6% 23.4% 36.4%
group3 17.6% 35.5% 15.9% 25.2%
表 3‑ 2 間 1‑(3)(4)の反応推移
97‑ 2 (n‑108) 97‑ 3 (n‑107) 問1‑(3) 問 1‑(4) 問1‑(3) 問 1‑(4) group1 88.9% 44.3% 89.7% 46.2%
group1 8.3% 26.4% 5.6% 32.1% group3 2.8% 29.2% 4.7% 21.7%
表 3‑ 3 間 1‑(5)(6)の反応 推移
97‑ 2 (n‑108) 97‑ 3 (n‑107) 間 1‑(5) 問 1‑(6) 間 1‑(5) 問1‑(6) group1 51.4% 88.9% 50.5% 88.8%
group2 31.8% 7.4% 39.3% 10.3%
group3 16.8% 3.7% 10.3% 0.99i
表 3‑ 4 間 1‑(7)(8)の反応推移
97‑ 2 (n‑108) 97‑ 3 (n‑107) 問1‑(7) 問 1‑(8) 問1‑(7) 問1‑(8) group1 84.1% 54.6% 86.9% 57.9%
group2 10.3% 28.7% 9.3% 30.8%
表
3‑5 間 1‑( 9 )
(10)
の反応推移97‑ 2 (n‑108) 97‑ 3 (n‑107) 問1‑(9) 問1‑(10) 問1‑(9) 問1‑(10) group1 51.9% 6.5% 48.6% 8.4%
group2 34.3% 26.9% 35.5% ll.2%
group3 13.9% 66.7% 15.9% 80.4%
表 3‑6 間 1I(ll)(12)の反応推移
97‑ 2 (n‑108) 97‑ 3 (n‑107) 問1‑(ll) 問1‑(12) 問1‑(ll) 問1‑(12) group1 42.6% 25.0% 53.3% 22.4%
group2 35.2% 34.3% 34.6% 32.7%
group3 22.2% 40.7% 12.1% 44.9%
4 考 察
問 1に対 す る子 ど もの反 応 推移 に見 られ た4つ のパ ター ンを、grouplの 出現頻 度 順 に タイ プ Ⅰか らⅣ の4つ に分 け る。 す なわ ちgrouplが圧倒 的 に多 く安定 的 に正 反応 に達 し て い るパ ター ン‑ タイ プ Ⅰ、grouplが50%程度 のパ ター ン‑ タイ プ Ⅱ、 3グル ープが均 等 に分 け合 うパ ター ン‑ タイプ Ⅲ、 正 反 応 とは逆 の否定 的 な反 応 に至 るgroup3が多 いパ ター ン‑ タイプⅣ の4つ で あ る。 そ こで、 各設 問 の反 応 タイプを、 設 問対 ごとに表 示 す る と、 表4‑ 1の よ うにな る。
この表 か ら、 全 て の設 問対 にお いて付加 条 件 が課 して あ る設 問 の反 応 タイ プが、 そ うで な い 設 問 の反 応 タイプ よ り も、 タイ プⅣ側 に寄 って い る (表 の中で は右側 に位 置 して い る) ことが わか る。 これ は、付加 条 件 が課 され た設 問 に対 す る子 ど もの反 応 が、 期 待 され た正 反 応 に収 束 しに くい ことを示 して い る。こ う した傾 向 は、
対 関係 にあ る設 問 の正 反 応 率 の相 違 と して、 こ れ まで の調 査結 果 で も示 唆 され て いた。 今 回 の 結 果 は、 それ を裏 付 け る もので、 付加 条 件 は子 ど もの判 断 を 「非 経 済 的非 合理 的」 にす るよ う
表4‑ 1設 問対 と反応 タイ プ
Ⅰ Ⅱ Ⅲ ⅠⅤ
(1)iZl (1) 哩 (3)哩 (3) 哩 些 (6) (6) 哩
阜 サ (7) A
(9)哩 (9) 哩 (ll)哩 (ll) 哩
(下 線付 きの問 は付加 条件 あ り) 影響 を与 え て い るので あ る。
しか も、 その影響 は、発 達 の遅 延 だ けで はな く、発達 の過程 に も影 響 を与 えて い る。 つ ま り、 高学年 にな って も正 反応 に収 束 せ ず、正 反 応 と非正 反 応 を繰 り返 す子 ど もの グル ー プを作 り出 して い るので あ る。 そ こで、 今一 度 、 タイプ ごとに設 問 の内容 を検 討 して、設 問 の内容 と子 ど もの発達 過程 の関係 をみ て み よ う。
まず、 子 ど もの反 応 が正 反 応 また は非 正反 応 に収 束 す る発達過 程 を示 す タイプ ⅠとⅣ に つ いて。 タイプ Ⅰに属 す る設 問 は(3)(6)(7)で あ る。 これ らは、 原初 的 な経済 ル ール に よ る判 断 を問 う問 で あ り、 低 学 年 期 よ り高 い正 反 応 率 を示 して い た (福 田,2001b)。 これ らが タイプ Ⅰの反 応推移 を示 す ことは、経 済概念 の発達 の安定性 を示 す ものだ といえ る。 逆 に、
タイプ Ⅰと対極 にあ る タイプⅣ は、 生 活 ル ール に よ る判 断 の根 強 さを示 して い る。 す なわ ち、 (10)の質 問項 目は、 「農家 の訴 え」とい う心情移 入 しやす い判断条件 が混入 した問 で あ り、
子 ど もは経 済 的 に「合理 的」な判 断 よ りも、農 家 の声 に耳 を傾 けた「非合 理 的」な判 断 を して い る。 子 ど もの こ う した傾 向 は学年 進 行 によ り一 層 強固 とな り、安 定 して い る。 生活 ル ー ル に よ る「合理 的判 断」の強靭 さを示 して い る と言 え る。 従 って、 タイ プ Ⅰと タイプⅣ は、
経済 ル ールか生 活 ル ールか の違 い はあれ、 いず れ も合理 的判 断 に収 束 す る発達 タイプで あ る。
この 2つ に対 し、 タイプ ⅢとⅢ は、 不 安 定 なgroup2が比較 的多 く、安 定 して正 反 応 を 示 す者 、安 定 して非正反 応 を示 す者 、 そ して正 反 応 と非 正 反 応 を往復 す る者 が混在 す るパ ター ンで あ る。 特 に タイプⅢ に属 す る設 問(2)(4)(12)は、 この傾 向 が強 い。 これ らの設 問 は、
付 加条 件 と して、 登場 人物 (お客) の属性 (運 動 会 に集 ま って い るのが子 ど も(2))や、 登 場 人物 の立 場 (病 気 で店 を休 ん で い る隣 りの レモ ネ ー ド屋 と困 って い るお客(4))、 登 場 人
50 長 崎大学教育学部紀要 教科教育 No.38(2002)
物 の意思 (安売 り商 品 を買 いに来 たおおぜ いの人(12))に特別 な内容 を含 ん で い る。 これ ら の条件 を考慮 す る とき、子 ど もの判 断が揺 れやす くな り、年毎 に正反応 と非正反応 の間 の 春子余 曲折 を重 ね るよ うにな るので あ る。 しか し、 この粁余 曲折 は、 ど うもあてず っぽ うに よる判断か ら来 る もので はないよ うであ る。 す なわ ち、 これ らの子 ど もの多 くは、対 とな っ て い る設 問 で は、正反応 に収束 す る発達 を示 して い るか らで あ る。 この ことか ら、子 ど も は、 あてず っぽ うの判 断 を して い るよ うに見 え る ものの、利益追 求 を 目指 した経済 的 に合 理 的 な判 断 と、客 の心情 や立場 を汲 んだ生活者 と して合理 的 な判 断 の間 を行 った り来 た り
して い ると考 え られ る。
以上 をま とめて、子 ど もの価格判 断 に関 して、発達経 路 を描 くと次 の よ うにな る。 す な わ ち、子 ど もは価格判 断 において経済 ル ール (経 済概念) と生活 ル ールを適用 す る際、 い ず れか のル ールの適用 が容易 な単純 な問題場面 で はス ムーズなル ール適用 を行 い、安 定的 な発達経路 を辿 る。 しか し、両者 が括抗 す る場合、子 ど もの判 断 は不安定 とな り、発達 的 に 「行 きっ戻 りつ」 の状態 を示 す。特 に、子 ど もが心情移入 す る問題場面 で は、 この傾 向 が顕著 で あ る。 この よ うな行 きつ戻 りつ の発達過程 を示 す発達 を 「遊動 的発達」 と呼ぶ こ
とに したい。
5 おわ りに
日常 的世 界 とは、様 々な要 因が絡 み合 い1つの側面 か らだ けで は単純 に判 断 で きな い複 雑 な判 断が求 め られ る生活 の場 で あ る。 子 ど もは加齢 によ り 「合理 的 な」推論能 力 を発達 させ て い くが、 この よ うに幾 っ もの判 断基準 が混在 す る文脈 の中で、子 ど もの判 断 が どの よ うに発達 して い くのか を明 らか にす るのが、本研究 の テーマで あ った。 裏 を返 せ ば、 そ れ は、 これ まで我 々が持 って いた、子 ど もの社会 的判 断 は生活 的 な ものか ら科学 的 な もの な い しは心情 的主観 的 な ものか ら理論 的客観 的 な ものへ と発達 して い くとす る暗黙 の前提 に対 す る挑戦 で あ った。
本研究 の結論 は シ ンプルで あ る。 子 ど もは、判 断 す る文脈 にお いて適用 す るル ールを選 択 して判 断 して いる。 ル ール選択 が容易 な文脈 で は判 断 の発達 は安定 的 だが、 そ うで ない 文脈 で は不安定 な発達 とな る。 そ して、本研究 で は、 その不安定 な発達 を遊動 的発達 と名 づ けた。
この結論 は、我 々の暗黙 の前提 を崩 す もので あ る と同時 に、 これ まで の社会科授業 の限 界 を説 明す る もので もあ る。 社会科 授業 は子 ど もの科学 的社 会認識 の形成 を 目指 して な さ れ るが、 なか なか子 ど もの認 識 が科学化 しな い、 あ るい は授業 で は科学 的 に説 明 で きて も 他 で はで きない、 とい った不具合 が よ く聞かれ る。 前者 は、授業 に持 ち込 んで い る子 ど も
のル ールが違 うのだ ろ う し、後者 はル ール適 用 の文脈 が違 うか らで あ ろ う。
社会科 が科学 的社 会認識 の形成 を通 して市民 的資質 の育成 に寄与 しよ うとす る ことに疑 いはな い。 しか し、 それを全 うす るため に は、子 ど もの 日常 的社会認知 の発達 を さ らに解 明 して い く必要 が あ ろ う。 なぜ な らば、子 ど もが市民 と して社会判 断 を迫 られ るの は、 日 常 的世界 にお いてで あ るか らだ。
(付記)本稿 は、平成 9‑12年度 日本学術振興 会科学研究費補助金 (基盤研究C(2))、研究課題 「子 ど もの 日常 的社会認知 の発達 に関 す る時系列縦断的研究」 (課題番号 :09680277、研究代表者 :福 田正弘) の研究 成果 の一部 であ る。 また、調査 に際 して は、長崎大学教育学部附属小学校 の協力 を得 た。 ここに厚 くお礼 申
し上 げます。
文 献
福 田正 弘 (1998).子 ど もの 日常 的社会認知 の発達(1ト 子 ど もの価格判 断 とその基準 ‑.長 崎大学教育学部 教科教育学研究報告,31, 1‑12.
福 田正 弘 (1999a).子 ど もの企業行動理解 の発達.全 国社会科教育学会,社会科研究,50,111‑120.
福 田正 弘 (1999b).子 ど もの 日常 的社 会認知 の発達(2ト 1997‑1998年度 調査 の結 果 ‑. 長崎大学教育学部 紀要教科教育学,33,17‑26.
福 田正 弘 (2000).子 ど もの企業行動理解 の発達(2).長 崎大学教育学部紀要教科教育学,34,15‑25. 福 田正弘 (2001a). 平成 9‑12年 度 日本学 術振興会科学研究費補助 金 (基盤研究C(2))研究成果報告書,
研究課題 「子 ど もの 日常 的社会認知 の発達 に関す る時系列縦 断的研究」 (課題番号 :09680277),研究代 表者 :福 田正弘.
福 田正弘 (2001b).子 ど もの 日常 的社会認知 の発達(3ト 子 ど もの価格判断 に関す る4年 間 の調査結果 ‑.良 崎大学教育学部糸己要教科教育学,37,17‑26.