BulletinofFacultyofEducation,NagasakiUniversity:Curriculum andTeachingNo.43(2004) 1‑14
子どもq)日常的社会認知における遊動的発達について
一 子 どもの経済的判断基準の揺れ 一 福 田 正 弘*
(平成16年3月15日受理)
Swi n gi n gDe v e l o p me n to fChi l d r e n' s So c i e t a lTh i n ki n gi nEv e r yd a yLi f e
‑ Swi ngo fCr i t e r i ai nEc o no mi cDe c i s i o n‑
Ma s a hi r oFUKUDA *
(ReceivedMarch15,2004)
1 は じめに
本研究 は,子 どもの 日常的社会認知 に見 られ る遊動的な発達 の メカニズムを解 明す るた めの一助 として,子 どもの様 々な経 済的判断 において用 い られてい る判 断基準 のゆ らぎを 跡付 け るこ とを 目的 とす る。
遊動 的な発達 とは,発達 の機序 が加齢 に従 って リニアに進展 してい くのではな く,正反 応 と非正反応 の間を 「行 きつ戻 りつ」 しなが ら遊動 す る状態 を示 す発達 を指 してい る。
筆者 が, こうした遊動 的発達 の着想 に至 ったのは,子 どもに対 す る継続調査 のデー タを 分析 して発見 した こ とに よる (福 田,2002)0
筆者 は, これ まで子 どもの 日常的場面 での社会的判 断 を 日常的社会認知 として,子 ども が 自 ら販売 す る レモ ネー ドの価格 を様 々な状 況変化 の 中で判 断 す る とい う内容 の調査 を
4年 間継続 して行 って きた。 その結果 ,個 々の子 どもの4年 間の反応 が,正反応 に収束 し てい くとい う質問項 目ばか りでな く,正反応 と非正反応の間を往復 しどち らに も収束 して いかない質問項 目が見受 け られた。
これは意外 な結果 であ った。 なぜ な らば , この調査 では,「経 済的法則 に従 った判 断」
を正反 応 とみな して お り,当然 ,質 問項 目毎 に差 はあ る ものの ,加齢 に よって正反 応 に 子 どもの反応 は収束 してい くと考 え られたか らだ。 これが従来 の発達 についての考 え方 で あ った。
*社会科教育学研究室
2 長崎大学教育学部紀要 教科教育 No.43 (2004)
こうした子 どもの遊動的発達の機序を,より精微な実験的調査 によって明 らかにしよう と新たに縦断的調査 を計画 し,実施 しようというのが本研究である。本稿は,その第1次 調査の結果を報告するもので,経済判断において子 どもが考 えた ことを具体的に描写する
ことを 目的 とする。
2 基本的なアイデアと仮説 2.1 遊動性の二局面 と基本戦略
実は,遊動的発達 を考 える場合,2つの局面で考 えることがで きる。すなわち,適時的 局面,共時的局面である。
適時的局面での遊動性 とは,上述 した ように,同 じ質問で適用 される理 由が年 によって 異なるという意味での遊動性である。
共時的局面の立場 とは,同種類の質問問で適用される理 由が異なるという意味で,遊動 性を捉 える立場である。
本研究では,縦断的調査が未実施なので,後者の共時的局面での遊動性のみに限定 して, 調査 を計画 し,考察を進めることにした。
2.2 仮説
なぜ遊動的発達が見 られるのか,子 どもの経済的判断が揺れるのかについては,次の二 つの仮説を考 えた。
①判断の二層性仮説
子 どもの思考には,合理化される部分 と合理化 されない部分がある。
合理化された部分 と合理化 されない部分が併存 し,合理的な判断 と非合理的な判断 を生み出す。
合理化されない部分が堅固であって,加齢によって単純 に合理化 されない。
それゆえ,加齢によって,単純に判断は合理的な ものに収束せず,合理的判断 と非 合理的判断が遊動する。
この仮説は,子 どもの認識判断において駆動する思考回路が任意的に選択 されているの ではないか とするものである。合理化される部分では論理的つま り合理的な判断がなされ, 合理化 されない部分では非合理的な判断がなされるとするりである。後者q)例 としては, 情動が考 えられる。
ただ,この仮説は検証が困難である。情動 による判断は,好 きとか嫌い という好悪によ る判断であるが,調査で判断理 由を書かせ るという合理的な作業を求めると,判断が反省 され,合理的な価値判断になって しまい,非合理的な判断が粉飾 されて しまうおそれがあ るからだ。
②判断準拠価値の複数鼎立仮説
子 どもの中には,優劣のつかない,ない しは状況によって優劣が変わる複数の価値 が対立 している。
子 どもはその場その場で,1つの価値を取 り出し,それに基づいて判断する。
価値の優劣は加齢による影響を受けない。
それゆえ,加齢によって,判断は特定の ものに収束せず遊動する。
この仮説は,子 どもの判断は,価値に基づいた合理的な ものであることを前提 としてい
福 田 :子 どもの 日常的社会認知における遊動的発達 について
一 子 どもの経済的判断基準の揺れ ‑ 3
る。子 どもは 自覚的であるか否かによらず,複数の価値の中か ら 1つを選択 して,それに 基づいた判断をすると考 えるのである。
本研究では,②の判断準拠価値の複数鼎立仮説 を,複数の設問に対する子 どもの判断理 由の記述を分析 し,その相違 を明 らかにすることで,検証 してみたい。
3 調査方法および調査問題
調査問題の作成の前に,研究協力者 として,長崎市内の小学校 ・中学校の現職教諭を招 き,本研究に対する意見を聴取 した。その結果,
(∋現職教諭が本研究に強い関心を抱いてお り,中学校で も調査が実施可能であること (診様 々な場面において子 どもが合理的な判断を示す ことがあること
(卦その判断は子 どものおかれている状況に影響を受けていると思われること (彰調査で子 どもの判断基準や理由を明 らかにする必要があること
⑤子 どもは判断理 由を調査で記述できるであろうこと
の各点が明 らかになった。 これ らの意見を採 りいれ,基本的にはこれまでの記述式の調査 方法 と,設問対によって調査問題を配列するという方法を踏襲 しつつ,子 どもに判断理由 を記述 させるという課題を付加 した.すなわち,調査内容は,ジ ュース販売における価格 判断を問 う文脈 において,基本的な経済観念の有無 (仕入れ と販売価格),状況による価 格判断 (上げる,下げる,変 えない,の三者択一),そ してそれぞれの判断の理 由,及び 全体を通 しての判断理 由である。調査問題は巻末の図 1の通 りである0
4 結果
調査は2003年2月,長崎市内の 1小学校の3年 (29人),4年 (40人),6年生 (40人) 各 1クラスで実施された。以下,その結果について報告する。
4.1 間 1間 2の判断結果とその理由
子 どもの経済判断の結果の割合を学年 ご とに集計 したものが,衰 1である。今回?調査 はサンプル数が少ないため,クラスの特徴が出やす く,若干疑問を抱かされるデータ (特 に4年生のそれ) も存するが,全体的にこれまでの調査の結果 と似た傾向を示 している。
以下,反応の結果を概説 し,続いて各設問で見せた子 どもの主な判断理 由を示 してい く。
表 1 子 どもの反応結果の割合
3年生 N‑29
問1 問2① 問2(卦 問2③ 問2④ 問2⑤ 問2⑥ 問2⑦ 問2⑧ 選択肢 1 6.9% 27.6% 96.6% 17.2% 51.7% 20.7% 89.7% 27.6% 42.9% 選択肢2 27.6% 58.6% 0.0% 62.1% 34.5% 48.3% 6.9% 58.6% 28.6% 選択肢3 65.5% 13.8% 3.4% 20.7% 13.8% 31.0% 3.4% 13.8% 28.6% 計 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0%
4 長崎大学教育学部紀要 教科教育 No.43 (2004)
4年生 N ‑40
問 1 問2① 問2② 問2③ 問2(卦 問2⑤ 問2⑥ 問2⑦ 問2⑧ 選択肢1 22.5% 27.5% 75.0% 20.0% 32.5% 37.5% 77.5% 30.0% 40.0% 選択肢2 35.0% 50.0% 2.5% 57.5% 42.5% 37.5% 7.5% 52.5% 40.0% 選択肢3 42.5% 22.5% 22.5% 22.5% 25.0% 25.0% 15.0% 17.5% 20.0% 計 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 10().0% 100.0%
6年生 N ‑40
問 1 問2① 問2② 問2③ 問2(彰 問2(9 問2⑥ 問2⑦ 問2(参
選択肢1 2.5% 20.0% 85.0% 7.5% 27.5% 27.5% 70.0% 15.0% 20.5% 選択肢2 2.5% 5‑7.5% 2.5% 77.5% 45.0% 42.5% 12.5% 75.0% 64.1% 選択肢3 95.0% 22.5% 12.5% 15.0% 27.5% 30.0% 17.5% 1().0% 15.4% 計 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 10().0% 100.0% 注 :選択肢の意味は次の通 り
問1 選択肢 1:50円より安 く,選択肢2 :50円,選択肢3 :50円より高 く 問2 選択肢 1:下げる,選択肢2:上げる,選択肢3:変えない
4.1.1 基本的な経済概念や経済関係の理解をみる間 この種の設問には,問1,問2①②が該当する。
・問1
この間は基本的な利益概念の有無を見 るもので,仕入れ価格 よりも小売価格を高 く設定 しない と利益が出ないことを判断で きるかを問 うている。4年生のデータに疑問が残 るが, 6年生に至 ってほぼ利益概念は形成されるといえる。
・問2(D
この間は基本的な経済的関係 (気象条件か ら需要を予測 し,価格判断をする)の理解を 見 るもので,「価格を上げる」が期待 された正反応である。子 どもの60%前後が正反応を 示 し,子 どもは基本的な経済的関係を理解 していると判断できる。
・問2(a
この間 も基本的な経済的関係 (競争相手の出現が供給の増大を招 き,価格競争を引 き起 こす という判断)の理解を見 るものである。「価格を下げる」が期待 された正反応である。
どの学年 も高率の子 どもが正反応を示 し,子 どもは この経済的関係を理解 していると判断 で きる。
4.1.2設問対による反応の違いを見る間
・問2(歪と(杏
これは,需要が増大 しているという同 じ状況下で,お客の属性 (大人か子 どもか)によ る判断の違いを見 る問いである。結果はこれまでの調査 と同様であった。すなわち,客が 一般の大人である③の場合に対 して,客が子 どもである④の場合が明 らかに 「価格を上げ
る
」
という判断が減少 している。・問26)と⑥
同じく需要が増大 している状況で,お客が集まっている理由の違い (単なるお祭 りか,
福 田:子 どもの 日常的社会認知における遊動的発達 について 一 子 どもの経済的判断基準の揺れ ‑
大安売 りか)による判断の違いを見 る問いである。結果は,お祭 りの⑤に比 して,大安売 りの⑥の場合が明 らかに 「価格を下げる」 という反応が増大 している0
・問2⑦ と(参
これは,自動販売機 という競争相手 との関係において需要の増大が予想 される状況下で, お客の置かれている心理的状況,すなわち⑦は 自動販売機のジュースが売 り切れていると いう状況,⑧は 自動販売機が故障 してお客が困っているという2つの状況の違 いによる判 断のちがいを見 る問である.結果は,売 り切れの(訓こ対 して,故障で困っている⑧の方が,
「価格を下げる」 という反応が増大 している。
4.1.3 間 2③〜⑧の判断理由
次に設問対による反応の違 いを見 る問2③〜⑧について,子 どもの判断の主要な理 由を その記述数 とともに表2に示す。以下,各設問対について,具体例を示 しなが ら結果を概 説 してい く。
表2 価格判断の主要な理由 (記述数20以上)
人数
問 理 由 3年 4年 6年 合計
計 下 上 千 計 下 上 不 計 下 上 不
@ 人がた くさんいるので 19 117 120 118 121 118 2 60
@ 客が子供なので 17 9 8 0151
0
5 020 9 8 3 52 客が増 えるので 4 2 1 1 9 1 80
70
5 2 20G) 人がた くさんいるので 17 213 217 313 119 013 6 53
⑥ 安いものを買い に来た客だか ら商店街に対抗 して 1513 34 1
00 0
7 5 1 1 8 89 900
9 900 00
2130(a 人がた くさんいるので 7 1 6
0
7 2 50
6 1 50
20客はこち らで買 うしかない 6 1 5
0
60
60
80
80
20⑧ 客が困っているので人がた くさんいるので 8 77 2 3 3 7 1 6
0
1 6 51 0 0
7 46 1 50 0
3 2120注 :下は 「下げる」,上は 「上げる」,不は 「変 えない」を表す。
・問2(勤と(杏
(丑では 「人がた くさんいるので」が圧倒的に多 く記述 されている。 これは価格を上げる という判断の理由 となっている。具体的には次の ような記述があった0
(3年)た くさんの人が来 るか ら上げた方が もうかると思 うから
それに対 し,④では,ほぼ同 じ内容の 「客が増 えるので」は第2位に後退 し,「客が子 どもなので」 という客の属性に着 目した理 由が多 くなっている。 しか し,この理 由は,必 ず しも価格を下げる理 由としてのみ使用されているわけではない。 この ことを下の例がよ
く示 している。
下げる理由 としての記述例
(4
年)子 どもの持 っているお金 じゃない と買えないか ら6 長崎大学教育学部紀要 教科教育 NoA3 (2004)
上げる理 由としての記述例
(3年)運動です ぐの どがかわ くか ら子 どもがおねだ りして買って もらいそ うだか ら (6年)子 どもは 「何でもいいからおい しい物を飲みたい」 と思 うので,少 し高 くて
もた くさん買って くれそ うだか ら
子 どもが客だ と,所持金が少な く購買力がないので,価格を下げるという判断が多 くな る。 しかし,別の観点か ら見 ると,子 どもは我慢の出来ない消費者で もあ り,運動会 とい う強い需要が見込まれる状況下では価格を上げるという判断 も成 り立つわけである。また, 運動会では保護者同伴であ り,保護者を当てにした購買力は存在 し,価格を上げ られると
いう判断 も成 り立ち うる。
このように,③では 「た くさんの人」で需要が予測 され,価格判断がス トレー トになさ れるのに,④の場合では,状況に関わる様 々な付加条件が考慮され,子 どもの判断が多様 化 している。
・問2⑤ と⑥
⑤では 「人がた くさんいるので」が圧倒的に多 く記述 され,価格を上げる判断の理 由 と して用い られている。その例は次の ようである。
(3年)なぜか というと人がいっぱいいた ら,いっぱいの人が買いに来て くれるか ら 上げるようにしました
しかし,
(6年)お祭 りで多 くの人が来ていると多 くの人がジュースを買 って利益が多 くでる か ら [値段を変えない]
というように,特 に 6年生では,必ず しも価格を上げるだけでな く値上げを梼跨する判 断 も見 られる。
一方,⑥では,「安いものを買いに来た客だか ら」 と 「商店街 に対抗 して」が比較的多 く見 られる。いずれ も,ほ とん どが,価格を下げるとい う判断の理 由 として記述 されてい る。
前者の例は次の ようである。
(3年)せっか くお客 さんが大安売 りで きているのに下げな くてはあま り買 う人が少 な くなるか ら
つま り,客は安売 り目当てに来ているのだか ら,値下げ して安 くしない と買って くれない という判断である。
また,後者は,大安売 りをしている商店街の他の店 に対抗 して,値下げ しない と売れな くなるという判断である。た とえば,
(4年)商店街 も安売 りをしているか ら変えなかった ら他 より高い ということで誰 も 買わない と思 うか ら
というものである。
いずれ も⑥は,大安売 りという付加情報が客のニーズや他店 との競争を推測させる材料 として働 き,祭 りで客が多い⑤での判断 とは異なった判断を招来 している。
・問2(令と⑧
この2つの設問の判断理 由は,これまでの設問の ようにある特定の理 由に集中するので はな く,分散する傾向にある。すなわち,記述数で
2 0
件以上であったのは,表2
にあると福 田:子 どもの 日常的社会認知における遊動的発達について 一 子 どもの経済的判断基準の揺れ ‑
お り4つである。
⑦では,「人がた くさんいるか ら」 と 「客はこち らで買 うしかない」 というものである。
いずれ も,ほ とん どが価格を上げる判断の理由 として記述 されている。
前者は③や⑤ と同じく,ニーズを持 った客が増加する,つま り需要の増加が生 じるとい う予測か ら価格を上げるという判断をした ものである。例は次の ようである。
(3年)た くさん人がいて,の どがかわいて我慢で きないか ら,値段が高 くて も買 う と思います
後者は, 自動販売機が売 り切れた という状況を, 自動販売機 という競争相手が消滅 した という販売条件の変化 として捉 え,価格判断 した ものである。具体的には,次の ような例 がある。
(3年)の どがかわいてて ここしか飲み物がないんだか らここで買 うしかない とか思 うか ら高 くて も買 うと思います
また,⑧では,「客が困っているので」 と 「人がた くさんいるので」 というものである。
前者では,客が困っているという状況で,客に親切にすることや客を助けることが行動 の 目的 とな り,それを実現する手段 として価格を下げるとい う判断がなされている。具体 的には次のような例がある。
(3年)困っているんだから,安 く売 った方が親切な感 じがするか らです (6年)ボランテ ィアみたいな感 じで,困っている人を助ける
後者は,これまでの設問で見 られたの と同様の判断である。主 として価格を上げる判断 の理 由 として用い られている。具体的には次の ようだ。
(4年)の どがかわいていて, 自動販売機が故障 しているか ら, とて もお客 さんがた くさん来て, もうかるか ら
この ように⑦⑧は競争相手の消滅 という同条件なが ら,⑦では単なる需要増 として捉 え られて判断されているのに対 し,⑧ではお客の困っている状況を見て,「親切」や 「ボラ ンティア」 といった別次元の判断理由か らの判断 もなされている。
4.2 間 3の結果
問3は,問2の設問を振 り返 って,一般的に子 どもに価格を上げるとき,下げるときの 理 由を一般的に尋ねている。その結果は,表3の通 りである。
.表 3か ら,価格を上げる理 由も,下げる理 由も同 じものがあげ られてお り,両者が重複 して記述されている。同じ理 由が述べ られるということは,価格を上げるときと下げると きでは,その理 由で挙げ られている条件が逆になるということを意味 している。例えば, ある3年生の次のような記述がその ことを示 している。
8 長崎大学教育学部紀要 教科教育 No.43 (2004)
表3 間 3の結果
記述数
理 由 3年 4年 6年
合計
上 げ る とき 客の数 に よる 19 19 26
6 4
気象条件 による 14 9 10
3 3
競争相手の状況 による 4 3 8
1 5
他 に買 う場所 がない とき 2 2 7
l l
自販機 がない,または故障 している とき 1 4 3
8
行事の時 2 1 2 ・5
子 どもがいる とき 0 3 1
4
客が困 ってい る とき 2 2 0
4
の どが渇 くとき 0 1 3
4
必ず買 って もらえそ うな とき 0 2 1
3
利益が少ない とき 0 0 2 2
その他 3 2 2
7
下 げ る とき 競争相手の状況による 19 19 28
6 6
客の数 による 12 10 6
2 8
気象条件 に よる 4 4 4 12
客 が困 っている とき 3 4 3
1 0
子 どもがいる とき 3 1 3
7
行事の時 1 2 1
4
自販機 が故障 している とき 0 2 0
2
(3年生)上 げ る ときの理 由
人がいっぱいいる とき上げればお金 がいっぱい集 まるか ら,人がいっぱい来 る とき上 げ る
(3年生)下げ る ときの理 由
人が来 ない とき,下げ とけばいっぱいの人 が買 いに来 て くれ るか ら人 が来な い ときに下げ る
子 どもたちの記述 で多 く見 られた ものは,「客の数」「気象条件」「競争相手
」
であ り, 上位3つを占めている。4.3 抽 出児童の反応結果
複数の設 問におけ る子 どもの判断が揺れて遊動的であ る場合,子 どもが用 いている判断 理 由が設 問間で どの ような関係 にあ るのかを明 らかにす るため,特定の条件 を満たす児童
を抽 出 し,その反応 を示す。
抽 出児童の選択条件は次の3つである。
・基本的な経済観念 を持 つ児童
設問1で 「50円よ り高 く」 と答 えた児童
福田 :子 どもの 日常的社会認知における遊動的発達について 一 子 どもの経済的判断基準の揺れ‑
・基本的な経済判断がで きる児童
設問2①で 「上げる」,または(参で 「下げる」 と答 えた児童
・設問間で反応の揺れが見 られる児童
設問2③④,⑤⑥,⑦⑧の2つ以上の対で反応が異なる児童
この結果,抽 出児童は第3学年が11人,第4学年が6人,第6学年 が17人であ・つた。 この 中か ら典型的 と思われる児童の反応 を,各学年2件示す。文中の下線は筆者。
児童A (3年)
① 気温が暑 いので, よ く売れる と思 うので値段を上げます , 上 げ る
@ 隣で冷たいアイスク リームを売 り始めた ら,あま り売れな くなるので下 下 げ る げます
③ 上げて も高い と思われてあま り売れない し,下げて もあま りもうか らな 変 えない いか らです
④ 子 どもはあま りお金 を持 っていない し,疲れているはずだか ら,安 い方 下 げ る が売れる と思います
⑤ 下げて もあまりもうか らない し,上げて もなかなか売れないか らです 変 えない
@ はかの物 も安 いか ら,ジ ュース も安 くしたほ うが売れると思います 下 げ る
⑦ 安 く売るよりも,だいたい自動販売機 と同じ値段のほうがいいと思います 上 げ る
①② で見せていた 「よ く売れ る」か ら値段 を上げ る
,
「あま り売れない」 か ら値段 を下 げ る とい う需要量の変化 に対 して価格を上下 させ るという論理が,以降の問では,値段を 下げる と 「よ く売れる」 とい うように,原田 と結果を逆転 させた論理 に変わっている。児童B (3年)
① 署かつた らジ ュースを飲みた くなるか ら高 くて も買 うか もしれないか ら 上 げ る 上げるにしま した
a) 高いよ り安い方がいいか ら下げるにしま した 下 げ る
③ 多 くの人がいるな らジ ュース もいっぱい売れるか ら,少ない値段で もう 上 げ る けるよ り高い値段で売 った方が もうけるか らです
① 子 どもは高い安 い関係な く買 うか もしれないか ら上げるに.します 上 げ る (9 祭 りだ った ら子 どもがいっぱいいるか もしれないか ら子 どもは高い安 い 上 げ る
関係な く買 うか もしれないか ら上げる
⑥ 大安売 りなのに高かつた ら 「高い」 とか言われるか もしれないか ら下げ 下 げ る るに しま した
⑦ の どがかわいてて ここしか飲み物がないんだか らここで買 うしかない と 上 げ .る か思 うか ら高 くて も買 うと思います
⑧ 故障 していて駄 目だか ら高 くて も買わない とか言 って しまうか もしれな 下 げ る
10 長崎大学教育学部紀要 教科教育 No.43(2004)
①⑦,④⑤に同 じ理 由が用い られ,判断理 由が設問対を越 えて適用 されることが窺える が,⑥の
「
『高い』 とか言われる」,⑧ 「買わない とか言 って しまう」の ように予想される 客の反応で判断 している。つま り,論理による一貫 した判断が顧客対応論 に取 って代わ ら れている。児童C (4年)
① とて も暑 くなるので,その ときは冷たいジ ュースがいいか ら,多 くの客 下 げ る が来てはしいか ら
② アイスクリーム星に多 くの人が釆た らこっちが繁盛 しないか ら 下 げ る
③ た くさんの人が来 るな ら,少 し上げれば もつともうけ られるか ら 上 げ る
④ 運動会だか ら子 どもが大勢いるので,少 し子 どものために安 くする 下 げ る
⑤ 多 くの人がいるか ら上げて,少 しで も繁盛で きるようにする 上 げ る
⑥ 大安売 りなのでそれ よりも安 くしない と売れない 下 げ る (a 自動販売機が売 り切れな らこのジュースしかないか ら,た くさんの人が 上 げ る
来 るか ら上げる
②⑦で一貫 していた論理 (競合相手の存在 による判断)が,⑧では 「かわいそ う」 とい う感情が混入 し阻害 されている。
児童D (4年)
① 暑いので,みんなが冷たいジュースを飲みたがるので,少 々高 くて も 上 げ る
「飲みたい !」 という気持ちで買 うか ら
② 値段を高 くした ら,みんなアイスク リームに集まってい くか ら 下 げ る
③ 大勢の人が集まっていると,売 りやすい 上 げ る
④ 大勢の子 どもがいると,少ない人の集ま りよりも売 りやすいoスーパー 上 げ る な どで も少 し高 く売 っているか ら
⑤ お祭 りの人が多いのをね らって,お くんちで も店を出すoそれ と同 じ理 上 げ る 由で
⑥ 安売 りなんだか ら,みんな安い ところへ行 くoそ した ら売れないので下 下 げ るげ る
⑦ 飲み物が買えない‑飲み物がない,そこで上げても,のどがかわいて‑‑ 上 げ る だか ら,少 し高 くて も買 うか ら
⑧ 「故障 してる」 と思 ってみんなが帰 りそ うにな った時,安 くて冷たい 下 げ る
①⑦の論理 (暑い‑の どがかわ く‑高 くて もジュースを買 う)が⑧ には用い られない。
論理の恋意的な適用がなされている。
福 田 :
児童E (6年)
子 どもの 日常的社会認知における遊動的発達について
一 子 どもの経済的判断基準の揺れ ‑ ll
(D 冷たい物を飲みたい人がいるか ら 上 げ る
② 客は安いほ う優先 して買 うか ら 下 げ る
③ 試合の時に飲みたい人がいると思 うか ら 上 げ る
④ 子 どもはジ ュースな どが好 きだ し運動するから冷たい物を求めるから 上 げ ‑る
(9 た くさん売 るチ ャンスだか ら 上 げ る
⑥ 大安売 りに来ている人はジュースが高い と買って くれないか ら 下 げ る (a とうして も飲みたい という人がいるし,競争相手 (自動販売機)がいな 上 げ る
いか ら
⑧ 自動販売機 より高かつた ら直るのを待つか次の 自動販売機に行 くかする 下 げ る
②⑦の一貫 した論理 (競争相手の存在による判断)の上に,⑧では 「店の印象」 という 新たな根拠を加えて判断 している。
児童F (6年)
① 暑 い とす ご くの どがかわ くので,た くさんの人 が買 いに来 るので, 上 げ る 少 々値段が高 くて もた くさん売れると思 うか ら
② ほ とんどの人は,できるだけ安い方を買 うと思 うか ら,値段を下げた方 下 げ る が売れると思 う
@ プロ野球の試合にはた くさんの人が来 るので,た くさん買って もらえる 上 げ る と思 う
④ 子 どもたちは多分お小遣いで買いに来 ると思 うか ら,安 くしてあげれば 下 げ る た くさん売れると思 う
G) お祭 りな どはた くさんのお店が少 し値段を高 くするか ら,他の店 より安 変えない い方が売れると思 う
⑦ 自動販売機のジュースは結構高いか ら,同 じ値段で売れば,た くさん売 上 げ る れるし,もうかる
⑧ 買おうと思 った人は,の どがかわいていて飲み物を買いに来たか ら,少 上 げ る
⑥の 「不平等になる」という非経済的な根拠 (道徳的価値)が混在 して使用されている。
5 考察
本研究は,個 々の子 どもの中で生 じている遊動的発達 (ここでは共時的局面での遊動性 すなわち設問間の判断の遊動性)の成因を,判断準拠価値の複数鼎立仮説をもって説明で きるかどうかを検証 しようとするものであった。
もともと遊動的発達 とは,子 どもが基本的な経済判断で見せる論理が, 日常的な様 々な 事態の中で一貫せず,行 きつ戻 りつのでた らめな発達傾向を示す というものであった。そ の現象を説明する 1つの仮説 として,子 どもの中に複数の価値前提があ り,それぞれが独
12 長崎大学教育学部紀要 教科教育 No.43(2004)
白の推論体系を持 ってお り,子 どもはそれ らを状況に応 じて使 い分けているとい う判断準 拠価値の複数鼎立仮説 を提示 したわけである。
本稿では,まず,子 どもの判断の遊動性 を,彼 らの判断理 由を具体的に示す ことによっ て,明示化 した。 これは, これまで価格の上げ下げ という判断の結果のみで しか示 しえな かった判断の遊動性 を具体的にスケ ッチするものである。
そ こで,設問間で判断が揺れる児童を抽 出 し,彼 らがそれぞれの設問の判断で使用 して いる判断理 由に着 目し,その変容の様子を描 出 した。その結果,子 どもの判断理 由の適用 には,感情移入論,道徳価値論,顧客対応論,価値累加論 といった複数価値の鼎立状況を 示すパ ターンが見出された。
ところで,本研究では,需要 と供給の関係を前提に して行 う価格判断を基礎的な経済的 判断 と考 えているが, この需給 による価格判断が, 日常的な状況の中で,感情や道徳的価 値 といった非経済的価値や,顧客対応 といった経済的価値 に取 り替 え られた り,新たな経 済的価値の付け加 えによって影響を受けることが明 らかになった。
感情や道徳の非経済的価値は,需給 による経済的判断には無縁であ り,通常経済的合理 的判断か ら排除 されるものである。 しか し,子 どもの経済判断には, これ らの価値 が入 り 込み,本来経済的ではない判断を引 き起 こさせている。 つま り,子 どもの思考の文脈が, 経済的文脈 か ら非経済的文脈 に転換 しているのである。
また,顧客対応 といった経済的価値は, 日常的に見聞 きする小売業での客 と店主の関係 である。 ここでは,需給関係 という抽象化 された前提ではな く,客 一店主の具体的関係を 出発点 とした経済的推論 がなされているのであ って,具体的経済の文脈 におけ る思考 に なっているのである。子 どもの思考が,抽象的原理 に基づ く推論か ら具体的関係 に基づ く 推論へ転換 しているのである。
さ らに,累加 される新 しい経済的価値は,それまでの経済判断の文脈 にはな く,設問に ついて考 える中で取 り入れ られた新 しい視点である。それは,子 どもがそれまでの経験の 中で形成 し, 自身の中にス トックしていた ものを,設問に答 える文脈の中で,賦活化 され 付加 された ものである。
これ らか ら,子 どもには判断準拠価値が複数存在 し,しか もそれぞれが入れ替わ った り, 悪意的に適用 された りする という柔 らかい関係で存 している といえるのでないだろうか。
しか し,それぞれの子 どもが どういった準拠価値 を有 しているのか, どういう状況の と きに どの価値 が出現するのか,そ してその複数の価値 が どの ように統合 されてい くのか, な ど新たな問題 も生 じて きた。
6 おわ りに
本調査の結果は ,これまでの調査 か ら仮説的 に考 え られて きた遊動性の機序 について, 部分的にではあるが,解明の糸 口を与 えて くれた。 しか し,また新たない くつかの問題 も 生 じて きた。 これ らの問題を今後解明 してい く必要がある。ただ,本研究は,縦断的調査 に基づいた考察でないために,個 々の子 どもの適時的な変容については何 も語れない。今 後,縦断的調査を展開 し, これ らの問題 を追求 してい く必要がある。
福 田 :子 どもの 日常的社会認知における遊動的発達 について
一 子 どもの経済的判断基準の揺れ ‑ 13 追記 :本研究は,平成14‑17年度 日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究(C)(2),研 究課題名 「子 どもの 日常的社会認知における遊動的発達の解明」 (研究代表者 :福 田正弘, 研究課題番号 :14580303)の研究成果の一部である。また,本調査にご協力いただいた長 崎市内の小学校の皆さんに感謝 申し上げます。
文 献
福 田正弘(2002).子 どもの 日常的社会認知の発達(4).長 崎大学教育学部 紀要 教科教育学38,2002,
pp.45‑51.
14 長崎大学教育学部紀要 教科教育 NoA3(2004)
アンケー トもんだい
このアンケー トは、筆頭の誌砧 とは施提あ りません。患った講 りのことを呑いてください。
L;i萌】
あ な たは .缶 ジ ュー ス をお 客 さん に売 る仕 事 を して い ます.缶 ジ ュー ス は 、工場
か ら決 ま った 数 だ け 只 つて い ます . 缶 ジ ュー ス を売 るね だ ん は 自由に変 え られ ま
[間鬼gl】
あなたが=i唱 から試 ジュースを負 うときのねだんは、ぷ 50AFEAです.あなた札 いくらで笛] ジュースをお箸 さんに姦 りますか。憩 うbのにOを してください。
50円よりやす く 50円 50円よりたかく
伝) 商 店 街 のお祭 りで.いつ もより人 通 りが多 くなっています。
下げる LLずる 変えない
(りゆ う)
し上うてんJLFい おおやTI Jt叫1 L11EFん か Llと さ
⑤ 商店 街 の大安 光 りで、変死 り 商 品を買いにたくさんの人が来ています。
辛げる LJ・Yる 憂えない (りゆ う)
⑥ 軌 、昌.たくさんのuiが、の どがかわいて蒜み蒜 を長いに晶たのですが.占㌫蒜蒜 品の 4) L}V) ウ e A.
飲み物が死 り切れていてTrえません。
手げる LLでる 養えない
(りゆ う)
1‑んE,ド L闘将 2】
つ■ かん
次のようなとき.あなたは、qlジュ‑スのねだんをいつ t)と比べて どうしますか ?上げる、
B JJL・ lIOI {
下げる、または変えないのどれかにOをしてください。 また、そ う思ったさい。 理由を℡いてくだ
●JI
① 今日は、天克予報でとても聴 くなるようです。
辛げる 11ずる 秦えない
(りゆ う)
② とな りで.3'J'のXがアイスクリームを轟 り岳 しま した。
千げろ ふ する 憂えない
(りゆ う)
② 与̀El'は.プロ野球の畠塔 です。船 を免にたくさんの笑が点ています。
辛げる ふ する 壷えない
(りゆ う)
③ 今 rjは.子 どもの避肋 会 です。おおぜいの子 どもが鶴 まっています。
辛げろ ,上げる 姦えない
(りゆ う)
tIんだい
[間煩3】
▲・ん
あなたは、どのようなときに缶 ジュースのねだんを上げたり、下げた りしますか。
<上げるとき>
く下げるとき>
t>と 4) I,のA・ d じrウI1ん1Lいe
◎ 軌 、昌、たくさんの人が.のどがかわいて飲み物 をTZL、に来たのですが.自私版死恥 S
こしJI こ土 故 障 していて胸 っています。
辛げろ iilでる 壷えない くりゆ う)
図1 調査問題