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アメリカ合衆国大統領と憲法

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アメリカ合衆国大統領と憲法

1最高司令官と執行権の長ー

富 井 幸 雄

1 はじめに

 軍隊を国家機関として取り込んだ近代憲法の任務は︑その軍隊を国家の独立と安全のために効率的に機能させると

ともに︑人民の敵とならないよう︑立憲民主主義のシステムの中でこれを確実に管理し統制することにあ︵1る︶・その

ため︑軍隊の指揮監督権や管理運営に関する法原則は︑一般に憲法で明記される︒

 アメリカ合衆国憲法︵以下﹁合衆国憲法﹂︶は︑一八世紀の近代憲法の臭いをぷんぷんさせ︑軍の管理や指揮監督

に明文の規定をもうけ︑立憲的統制を罐させている・文民統制という憲法原理に裏打ちされ︵旦それを議会と大

統領の政治部門に分担させ︑軍の組織的存立や宣戦は議会の権限とし・軍の最高指揮監督警を大統領としてい︵か︶・

ただ︑軍は機動性と効率性を要し︑緊急事態に動員される集団であるから︑合議組織の議会が軍事全てを網羅するこ

   アメリカ合衆国大統領と憲法      ︵都法五十−二︶ 一二七

(2)

一二八

とは困難となる︒現実には︑大統領が一方的に︵已昆曽o巨■︶軍を動かしてきたし︑さらに軍事以外の文民行政領域       にもなぎなたを振るってきた経緯がある︒そこでの大統領権は︑大統領が執行権の長︵否庁一㊦︷国×O⇔口亘く6 ︵ひ国〃︶︻0︶︶と最

高司令官︵Oo日日きα2芦O宮瓜︵ひ望0︶︶とする憲法規定によって正当化されうる︵二条一節一項︑二節一項︶︒両者

は互換的に使用されるが︑それぞれの中身は一義的ではなく︑大統領権のむやみな拡大の要因になっている︒        これは誰が戦争を始めるのかの古典的な憲法解釈の問題にかかわる︒同時に︑緊急事態権限を中心とする大統領       権限の中身と範囲の問題でもある︒大統領は憲法上︑O旦否と否国×否としての地位が認められ︑その権限は条約締       ハ  結権︵憲法二条二節二項︶など憲法が明記するものは勿論︑それ以外も︑宣誓︵O暮庁︶条項︵同条一節八項︶や法律

誠実執行配慮義務︵諄汀0胃o︶条項︵同条三節一項︶で正当化されることがある︒大統領側は常にそうしているし︑

これまでのアメリカ憲法の運用で︑大統領に国防の名の下に広範な権限を認めてきた︒その憲法上の根拠はいろいろ      ハ  と案出されて︑権限拡大を招いてきたのである︒他方︑軍事に関する権能を主張されても︑グアンタナモに適性戦       闘員を収容させ︑軍事委員会を大統領命令で設置して裁判を行うことが違憲と判断されている︒かように︑大統領      ︵10︶権限の中身や限界はわかりにくい︒

 憲法典では一応明記されている軍に対する議会と大統領の権限でも︑この両者の関係は明確ではない︒憲法典が権

力分立・権限配分規定だとするならばそれぞれに固有の権限はあるのかといった︑解釈の基本的な問題を多く孕んで

いる︒本稿は︑大統領の国家安全保障に関わる権限はどこまでなのかを睨みながら︑大統領に固有の権限は憲法上ど      のように解されるのか︑限界はどのように画定されるのかを検討しようとするものである︒

 まず︑大統領権限が当初の憲法の意図とは異なって︑その軍権を根拠に拡大していったことをスケッチする︒憲法

制定時︑常備軍は煙たがれるも︑憲法ではこれを認め立憲機構に確固として据えた︒Ω20とされた大統領の権限も

(3)

曖昧であったが︑権限拡大の現象は見られなかった︒やがて︑緊急権の下に憲法の大統領権の様々な根拠規定をかき

集めて︑安全保障の任務遂行における大統領権限を広く認めるようになる︒以来︑大統領の憲法上の権限は何なのか︑

その中身と限界が議論となる︒本稿では︑これを解析していくために二つの側面を考える︒一つは︑大統領権とは何

か︑とりわけひ旦ひ以外のひ国×Oとしてのそれは何か︑そして包括的な規定ながら︑とりわけ緊急事態で大統領権

の根拠とされる○①庄条項やば冨O曽⑦条項はどのような意味なのかを見る︒その上で︑大統領権限拡大の原動力と

されるρZOとは何なのかを考える︒現在ではΩ之ひとしての権限の行使も制定法を無視することができず︑限界も

そこに画される憲法状況を観察できるように思われる︒

皿 軍権を基礎とする大統領権限の拡大

 合衆国憲法は常備軍を前提とした構造になっている︒ただ︑海軍については︑これ﹁を創設し維持すること﹂は議

会の権限としている︵一条八節一三項︶︒陸軍は︑その編制や統制規律の規則制定は議会の権限とされており︵一四

項︶︑制憲時それは当然あるものとされていた︒独立戦争時︑アメリカ植民地側は民兵が主体であったが︑プロフェ

ショナルの陸軍人もおり︑同戦争後も対外的は勿論︑むしろ国内的な安全の保障にプロの陸軍が必要とされていた︒

国防は民兵中心で常備軍は持つべきでないとの共和主義の考え方も有力であり︑軍制をどうするかは生まれたばかり

のアメリカ連邦にとっては喫緊の課題であった︒合衆国憲法では︑民兵︵州軍︶を維持しながらも常備軍を有するこ

とが決断された︒

 憲法制定から間もない一七八九年︑ワシントン大統領は既存のささやかな常備軍︵8ぬ巳曽胃∋ぺ︶を管理する戦争

   アメリカ合衆国大統領と憲法      ︵都法五十−二︶ 一二九

(4)

一三〇

長官に即︑任じられた︒J・アダムズ大統領は︑かけだしのアメリカ艦隊を指導する初代海軍長官になっている︒

これらの長官は閣僚ポストで︑文民の指導者をいただき︑大統領の決定命令や議会の制定法に服した︒指揮系統とし

て最高司令官︵大統領︶の命令を文民の軍長官から陸海軍の制服の司令官が受け取るのであり︑軍人の独立した意思       ︵12︶決定権限を奪っているのである︒一七九二年に民兵法︵呂=﹂︷一①>Oけ︶を制定するが︑民兵を軍の主軸とするものでは      ︵13︶なく︑常備軍を戦時その他緊急事態において補完する組織とした︒

 当時︑ヨーロッパはフランス革命など自国のことで手いっぱいで︑新大陸への魅力どころではなかったから︑脅威

は存在せず︑合衆国は大規模かつ強固な陸軍にする必要を感じなかった︒ただし︑合衆国が国際通商を国力にするこ

とから外国との衝突の懸念があり︑沿岸の防衛が要求されたので︑海軍は意識された︒一七九八年の09ω一き叶︵宣

戦布告のない︶でフランスとの戦争を体験するJ・アダムズ大統領は︑七隻の軍艦の建造を行っている︒経済中心

のジェファーソン大統領は海軍建造には消極的で︑軍なしでルイジアナを買収するなど︑領土獲得を行った︒一八〜

二年の米英戦争では合衆国軍の貧弱さが露呈する︒議会は三五〇〇〇人の常備軍を授権したが︑カナダ攻撃に失敗す

るなど︑弱さが目立った︒一八一四年︑マディソン大統領は軍事能力が欠如しているにもかかわらず︑憲法上の権限

を意識することなく︑戦場で陸軍を個人的に指揮する考えを持った︒しかし︑彼は9乞ひとしての権限を効率よく使

うことなく︑カナダ侵攻ではイギリスと取引交渉することとなる︒もっとも︑その時にはイギリスはもはや北米には

関心を示さなくなっていた︒

 当初︑大統領の軍に対する権限やその範囲は深刻に議論されなかった︒しかし次第に増加する対外戦争や緊急事態︑

さらに現代にあっては国際関係の緊張が︑政治社会の事実として大統領権限を拡大させ︑それが当然のような憲法感

覚を生んだ︒

(5)

 その契機はリンカーンであろう︒南北戦争時︑リンカーンは戦争遂行のため自らに広範な戦争権限があるとし︑こ

れを憲法二条の執行権付与︵箒゜︒ぎぬ︶条項︵一項︶や詩冨0閂㊦条項︑さらにO芝0規定を根拠として正当化した︒

これは︑以後安全保障にかかわる先占的な大統領権限のバイブルとされている︒一八六一年七月四日の﹁特別議会に

与えた教書︵戦争教書︶﹂では︑軍司令官に人身保護令状︵国呂$︒・ひo﹁胃ω︶を停止させる権限を付与し︑法定手続に

よらずして治安上害のある者を逮捕拘禁できることを認めた︒これがば冨○自而条項を自ら犯しているとの非難を受

けて︑リンカーンはこう述べている︒

 一つの法律を犯さないようにするために︑その他の全法律を施行しなくてもよいのか︑またそのために政府自体が崩壊して

もよいのか︵§巴§§ω︑o已86︑8Φ・三︒巨6・8旨ρ§⇔冨︒︒︒§§︒邑⇔°・舞ひ︒︒8冨8°・忌゜・三暮§げ而く﹇°巨而合︶⁝︒

このような場合において︑ただ一つの法律を破れば政府を救えると信ぜられた時に︑もし政府が倒されるままにしたならば︑

それは職務遂行の宣誓を破ることにならないであろうか︒︵人身保護令状の停止の権限は議会にあると憲法に規定されている︶︒

行政首長ではなく議会のこの権限が付与されているという点が主張されている︒しかし憲法自体には何が︑あるいは誰が︑こ

の権限を行使すべきかについては何も記されていない︒またこの条項は明らかに危急の際のためにつくられたものであるから︑

憲法制定者の意図が︑いかなる事件においても︑その危険が拡大して後にやっと議会が招集されるというふうにすることにあ      ママったとは思われない︒⁝私の最も遺憾とするところは︑私に委ねられた政府を守るために戦争権能を行使する義務が強要され

るに至ったことである︒この義務を履行しなければ︑政府を壊滅にゆだねるのみであった︒この場合国家の公僕による妥協は

救済の道でありえなかった︒⁝人民自らのみが︑1その公僕ではなく︑ー自ら達した慎重な決定を安全に﹇民主政治に危険な

く﹈覆し変更することができるのである︒一市民としても私は﹁米国の諸制度が亡ぶことにとうてい同意し難いのであるが︑ま

してや自由な人民が私に委ねたかくも大にして新聖なる信頼を裏切って︑かかる同意をなしうるものではない︒私はたとい何

竃竃鷲総莞㌶島四鷲鷲鐘竃蔑鴇鐘道義上ないと感じ文ゆだねられ

アメリカ合衆国大統領と憲法      ︵都法五十−二︶ 二一二

(6)

=二二

 強力な大統領権限の根拠は憲法制定者たる人民が権限を大統領に委ねたことにある︑ともしている︒

 合衆国憲法は︑そもそも議会を立憲主義の中心として︑大統領に一定の権限を認めるものの︑それが強大になり脅

威とならないよう︑抑制均衡を働かせることを意図していた︒しかし︑大統領がにわかにアメリカの政治制度を支配      め し︑国の政党の指導者となっていったのである︒そうした背景︑あるいは大統領や執行権が﹁最も危険な部門      ︵16︶︵日o︒︒二きぬ20已︒・げ冨R冒︶﹂といわれるまでには︑それなりに理由がないわけではない︒第一に︑執行権は財源と人材

を持っている︒第二に︑執行権は行動と反応をなす︑とりわけ緊急事態での義務を有する︒第三に︑執行権は﹁みせ

かけの集団思考︵①げ昌巨①o︷鵯δ毛﹇宮昆︶﹂で︑次第に孤立していき︑時として秘密裏に単独で行動するようになっ

てくる︒第四に︑執行権自らこうしたことは危険とはみなさず︑そうしたこともない︒こうしたことがあいまって立

法と衝突することになる︒大統領はその際︑﹁大統領がそれをなすとき︑そのことはそれが違法でないこと意味する﹂

︵ニクソン︶とし︑立法を無視することがある︒その正当化のために否国×Oや︑ケースが安全保障や国防にかかわる

緊急事態であることから︑こぞってO︼2否が言及されることになる︒これを肯定する憲法理論は︑立法や議会によっ

て侵されない固有の権限が大統領にあって︑合衆国憲法二条の諸規定から帰結されるとするのである︒

皿 執行権の長としての大統領の権限と地位

1 合衆国憲法二条の規範構造

テロや大規模災害なども戦時に匹敵しうる緊急事態であり︑そうした時に執行権が拡大し︑制定法の枠を超えるよ

(7)

うな権限行使がみられるのは稀有ではない︒九・=以降︑テロとの戦いを標榜するブッシュ政権がこういう状態で       ロ あり︑人権保障よりも法から自由な領域︵一①宅ー古︹60NO口①ψ摩︶を創造するのに腐心したと評されている︒

 合衆国憲法二条は執行権の定義や中身を規定していない一方で︑執行権は大統領に属するとともに︵一節一項︶︑

執行権︵大統領︶がどのように選出されるかを定めている︒これは︑制憲過程での関心が︑執行権を単一の組織にす      ︹18︶るか︑組織の選任の仕方や機関はどうするかにあったことを反映している︒大統領の権限は二節で言及され︵恩赦

権など︶︑執行権あるいは軍権についてはその内容を明示するのは勿論︑それを推定させるような規定も見当たらな

い︒ O国×否はこれを直接明示する規定はなく︑二条一節一項の﹁執行権は大統領に属する﹂とのぎ︒・吟ぎぽq条項から導か       む れる︒92⇔は二条二節で明示されるも︑地位のみを規定している︒大統領の権限は︑執行各部への書面による意見

申述権︑刑の執行停止・恩赦権︵以上二条二節一項︶︑条約締結権︑最高裁判事等上級官吏任命権︵以上二条二節︶︑

大使接受権に加えて︑やや包括的に議会に対して情報提供や施策審議勧告︑非常事態での招集権︑休会権︑そして法

律誠実履行義務︵以上三節一項︶が規定されているに止まる︒ハミルトンやマディソンは︑憲法一条の議会の権限の

ようにいちいち権限を列挙し特定するやり方ではなく︑二条に言及するこれらの権限からの類推を意図して︑二条一      ︵20︶節一項で執行権という一般的権限を大統領に認めたのだとされる︒これは﹁行政権の長の理論︵ひ巨瓜︾全目巳︒︒貫馨o﹃

↓冨o目︶﹂とされ︑制定法が国務長官に裁量を認め︑大統領の関与を明白に排除していても︑大統領は自らの判断を       パ 国務長官の決定に代置させうる憲法上の権限を有すると考えるものである︒ひ国×O及び臼2ひとしての大統領の権       ︵22︶限がかかる列記された事項に限定されるかは議論が分かれるが︑ば宮ひ胃①条項や920の地位から︑とりわけ緊急

事態において広範な権限が読み込まれてきたのである︒

アメリカ合衆国大統領と憲法      ︵都法五十−二︶ 一三三

(8)

一三四

2 執行権の長の意味−大統領権限の拡大

︵1︶否国×0の条項

 ひ国×○と臼20が憲法典に大統領の章で規定されているから︑大統領がこの二つの地位を持つのはいうまでもない︒

問題はその権限の中身と範囲であり︑大統領に有利に広くとらえる立場と︑限定的にとらえる立場に大きく分かれる︒

前者は緊急事態を意識し︑とりわけ外交や防衛での固有権限を主張する︒限定視する立場は︑これらの規定には権限

が明記されておらず︑O目Z否は地位のみの規定であり︑権限は議会の授権︑すくなくとも了解がなければ認められな

いとする︒

 二条一節﹂項の否国×O規定は権力分立の規定であり︑そこには執行権の権能の大統領への付与︵O口亘自6日而口﹇︶が

なされたといえる︒一方︑Ω乞○は二条二節で規定され︑執行権を前提とした上で文民たる大統領が最高位にあると

定めたものと解され︑権力分立の規定ではない︒

 軍権が執行権に包含されることは自明のようだ︒﹁公の軍隊を指揮して使用し︑平穏を維持したり外国の侵略を排

除したりすることは明らかに執行の性質の権限であり︑そうであるからその行使をこの部門に特別に適合した資質に

   ︵23︶要請した﹂︒古代社会では元首は軍人としての英雄でもあったが︑軍事的武勇︵b﹃O司Φo︒o力︶と国家指導者の併有は要求

されなくなってくる︒合衆国憲法制定時にはすでに今日のように︑文民が軍を指導すること︵︒宣冨ロ冨ユ氏ψ・巨ロ︶と

軍事能力は︑たとえ文権と軍権の領域が法の問題としては融合されたままであるにしても︑その本質的連結を失った︒

執行権は戦場での日々の戦闘に従事するものではないし︑大統領は軍事的勇敢さのためにρZOであることはなく︑

(9)

       ︵24︶むしろ軍事的諸決定を文民統制に服させるのが肝心となる︒Ω2否として軍権については︑議会から独立して行使す      ︵25︶る部分は認められるものの︑﹁軍隊に対する文民統制を確証させる保護的な装置以上の何ものでもない﹂︒       ︵26︶ 憲法は執行権の中身を規定せず︑大統領の地位を示すのみである︒この二条一節の規定は︑執行権の中身を語る       サンステインものではなく大統領の地位を述べたに過ぎないと見る︵ロo〒而×8巨く6日oψ︒冨︶者︵Q︒巨ω︷ロロ︶もあれば︑主任監督者       ストロ スとの地位を示す︵ひロ一〇⌒ ︵︶<①﹁o力06﹃ 吟プ①oり一〇力︶とみる者︵o︒冨已︒・°・︶もある︒プラカッシュは︑二条一節の執行権は法律を

執行する意味に尽きるとし︑同条は大統領が自分の判断で大統領のみが法律を執行する権限と︑法律を執行する官吏      ︵27︶を指揮する排他的権限を有しているという意義だとする︒92否の規定に基づいて︑大統領は危機のときに法律の執

行を命じるのであり︑このことは連邦派と州権派の問に争いはなく︑平時にはなおさら大統領は法律執行の任を帯び

   ︵28︶るとする︒

︵2︶単一執行権論

 執行権︵内閣︶の長︵内閣総理大臣︶が行政各部を指揮監督するというような規定︵日本国憲法六五条︑七二条︶

は合衆国憲法にはないので︑大統領が執行権の機関を当然指揮監督できるかは憲法上議論となる︒法の支配の原則か

ら︑連邦の執行機関の作用には個別具体的な議会制定法の根拠が必要である︒その際︑特定の執行機関︵財務長官と

か農業長官など︶に行政権を授権する規定もあれば︑﹁大統領の意思に従って﹂というような条件をつける法もある︒

行政法では権限を執行するのは法の名宛人たる個々の行政機関である︒問題は大統領がそれらの法執行を指揮できる

かである︒立法で特別に大統領にそうした権限を付与しているならばともかく︑そうした規定がなくても憲法で認め       ︵29︶られるであろうか︒

アメリカ合衆国大統領と憲法      ︵都法五十ー二︶ 一三五

(10)

=二六

 もとより︑大統領は様々な機関の法解釈を調整するような地位にある︒法的拘束力のある指揮権は︑授権法に内包

されていると読んだり︑授権が何らかの形で大統領の意思にも言及している混合型の授権法では認められるとしたり       ︵30︶する考え方もある︒単一執行権︵巨冨qo×①自牙①︶︑つまり大統領の下で連邦執行府は統合され︑大統領は執行機      ︵31︶関に付与されているすべての権限を統制するとの考えでは︑大統領の指揮権は執行府の公務員すべての権限に及ぶ︒

単一執行権論は︑すべての執行権限は大統領に付与され︑その結果︑執行機関の公務員は大統領の代わり︵o︒﹇$ユ︶      ︵32︶でのみ行動できるとするのである︒

 罷免権︵器日o<巴宮笥自︶は大統領の権限として憲法に黙示されている︒これは単一執行権論の支柱とも言うべき

根拠とされる︒大統領は執行機関の裁量権の行使に統制権を︑それに大統領の罷免権が前提とされているから有する

  ︵33︶       ︵34︶とする︒しかし︑罷免権が論理的に指揮権を当然内包することにはならないであろう︒

 執行府各部に対する指揮監督権が大統領に認められるか︒合衆国憲法には勿論︑制定法にも明文の規定がない︒上

院の承認によって大統領が任命する最高級郵便局長︵ウ一叶oり﹇ ︵U一四〇力o力 ㊥Ooり﹇昌﹈①胡﹇⑦﹁︶を上院の助言と同意がなければ大統      ︵35︶領は罷免できないとした立法を違憲とした最高裁判例は︑﹁大統領の執行権付与は本質的に法律を執行する権能の授

与である︒しかし︑大統領が援助なく単独で法律を執行できるわけではない︒彼は配下の補助を受けて法律を執行し

なければならない︒⁝︹法律誠実執行配慮義務を負っており︑︺明文を欠くとも︑彼の執行権の一部として法律の執

行において彼の命令の下で彼のために行動する人を選任すると読むのが合理的である︒︹同様に︑罷免に関する制限

的な明文の規定がなくても︺︑行政官吏の選任が法律の執行に不可欠であるように︑彼に対して責めを負うことがで      ホゥム スきない人を罷免するのも彼の権限でなければならない﹂とした︒これに対して︑国o巨6ψ︒判事の反対意見は︑執行権

を広範に読むことに警鐘を鳴らす︒議会のみが執行・行政機関の組織や権限を規定し︑公務員の任期も規定すること

(11)

ができるとして︑﹁大統領の︑法律が誠実に執行されているのを監視する義務は法律を超えることなく︑さもなくば

議会が大統領の権限に委ねるのが適切とみた以上のことを彼に要求する義務ではない﹂としている︒

︵3︶行政法の執行

 憲法典では行政︵①ムロ﹈一昌一ω︷﹁①︷一く①︶と執行︵o×6合宮o︶の関係は明確ではなく︑同じような意味で使用している場

合もあるようだ︒行政法では︑外交や軍事はことさら行政とは認識されておらず︑法的考察の対象から意識的にはず

されるようである︒行政機関︵①oqO口自︶は独立した権限でもって特定の職務を果たす行政単位としたのであり︑行政       ︵36︶の法的議論はこの組織や権限行使︑そして手続にかかわり︑外交や安全︑保障は弾かれている︒

 合衆国憲法二条一節一項のぎ︒・﹇日ぬ条項は︑執行とは国家法を現実化する︵8﹃蔓菖06忠9昌豊oコ①=①乞︶ことだ       ︵37︶として︑大統領が全ての連邦法を執行する排他的権限を与えたと読む者がある︒すなわち︑同条が列挙する大統領

の権能は︑執行権のヒエラルヒー構造を規定したもので︑﹁憲法は連邦法の管理︵毘目巳゜︒9庄o口︶を監督する権限を      ︵38︶大統領に認めたのである︒何の但書もないし︑いかなる例外もない﹂︒

 大統領の権限は同条に列記されたものだけではなく︑そこから類推されるものを含むと二条を解釈できるなら︑そ

こに行政法の機関としての大統領が認められ︑大統領権に行政法を執行する権限が含まれるのか︒二条は行政権

︵p︒△日巨︒︒目﹇8ロ︶に号一口及していないので︑行政法と大統領の関係が問題となる︒行政法の執行は大概︑下級の連邦機

関の官吏によってなされるから︑大統領に彼らの法執行︵裁量権限行使︶を監督し統制できる権限が憲法上認められ

るか︒なるほどアメリカの場合︑執行府は一八八七年の州際通商委員会︵一口﹇Φ﹁o力﹇①﹇而 否O日日6﹃OO ひO昌日日一口力o力﹂O口︶に始ま       ︵39︶る独立行政委員会を擁しており︑これらは執行権の系統から独立している︒ただ︑歴史的には︑制憲者は連邦法の

アメリカ合衆国大統領と憲法      ︵都法五十−二︶ 一三七

(12)

一三八

執行に唯一責任を持ち︑その管理と統制の権限を有する一人の執行者︵きo×60已薯o︶を確立しようとしたのであり︑      ︵40︶複数の執行機関︵豆ξ一6×oo巨くo︶ではなく︑単一の執行機関︵ロロ〜富目⑦×o⇔已90︶を意図したとされる︒

 プラカッシュは︑大統領の権限を明示する憲法規定がこのことを補強するとする︒それは︑ば冨nロ苫条項︵二条

三節︶︑執行権各部の長にその職務に関して大統領に書面で意見を述べるように求める大統領権︵二条二節一項︶︑下

級機関任命権︵同二項︶︑議会の必要適切事項の立法権︵一条八節一八項︶であり︑後二者は間接的に︑前二者は直       ︵41︶接︑﹁行政権の長の理論﹂を進展させるとする︒行政法では制定法の名宛人が裁量権の保持者であり︑そこに書かれ

ていない者はその権限を行使できない︒しかし︑大統領は諄ぎ9目条項によって︑執行の責めを負う者が法律に従

って誠実に行為するのを確保するために︑連邦法の執行を監督しなければならない︒制憲者は︑同条項は大統領自身

が誠実に法律を執行しなければならず︑さもなくば︑少なくとも大統領の受任者に対して責めを負うという意味だと

  ︵42︶

考えた︒制憲会議では大統領の行政における役割が議論されたのであり︑大統領は行政権の長で︑その他の行政官      ︵43︶吏すべては単に大統領の補助機関︵①o◎o◎︷o力⇔①昌﹇ω︶にすぎないとしたのだとする︒

︵4︶大統領の完成権限

 単一執行権論は大統領が執行権の根源であり︑行政法の執行にも目配せする権限を有するとするもので︑権限の拡

大を正当化するというよりも︑むしろ憲法上の大統領の位置づけを明確にする︑いわば理論的な要素を重視した議論

といえる︒一方︑大統領の権限拡大を正当化させる議論として︑大統領の完成権力︵8日宮而まロOo5叶︶論がある︒

それは︑﹁立法の枠組みを完成させる立法の授権がない時でも︑これを執行させるのに必要な付随的な細部を記述す

る大統領権限︹を認めるものである︺︒完成権限は特定の制定法の指令を補完するものであって︑制定法の指令から

(13)

引き出されるものではない︒それは取り消されうる︵ユO甘①ω一ぴ一而︶︒議会は︑たとえば︑特定の手段で制定法を完遂さ

せる大統領の権限を否定することによって︑若しくは制定法が履行されなければならないやり方を特定することによ

って︑この完成権限を制限することができる︒しかし︑そうした積極的な立法の制限や特定化が欠如しているとき︑       ︵44︶裁判所と大統領は立法の枠組みを完成させる何らかの不特定な範囲の権限を合衆国憲法二条で認めてきたのである﹂︒       ヤングスタウン 合衆国憲法二条によって大統領に固有の権限が認められ︑それが完成権限だとするものともいえる︒ぎ巨ぬω8乞5        ヴィンスン事件︵後述︶でのく日︒︒oo最高裁首席判事の反対意見は︑﹁大統領は︑議会がたまたま執行の特定の方法についてあら       ︵45︶かじめ規定しておいたか否かにかかわらず︑国家を守り法律を執行するために迅速な行動をとってきた﹂としている︒

実務では裁判所も含めて︑外交領域︑軍の海外派兵︑刑事及び民事訴追権︑執行機関の規則制定の監督︑そして文言      シエブロンが一義的でない制定法については︑行政機関の解釈に裁判所は敬譲するとの96コ8法理に︑完成権限の考え方が典       ︵46︶型的に取られているとする︒

 もっとも︑かかる意味で完成権限というならば︑憲法は議会に委ねているともいえよう︒すなわち︑一条八節一八

項は同条で議会の権限を列挙した最後に︑﹁政府やその機関若しくは公務員に与えられた一切の権限を行使するため

に︑必要かつ適切な法律を制定する﹂権限も議会に認めている︒これに対しては︑この条項に基づく立法は立憲目的

を遂行するための手段を立法で適切に規定することだと説かれる︒議会の制定した法律を執行することは大統領の背

景的な権限︵冨o犀唱09△Oo司①﹁︶であり︑大統領は法律の執行に付随する権限を当然有する︒問題はそうした付随的

に認められる権限の限界はどこかであり︑権限の根拠というよりもその範囲︵大統領は制定法の枠組みをどの程度の       ︵47︶裁量で完成させなければならないか︶が重要となってくる︒       ︵48︶ 完成権限はかくして大統領の絶対権ではないことに注意したい︒特に︑完成権限は大統領が法に反して︵6§§

アメリカ合衆国大統領と憲法      ︵都法五十−二︶ =二九      ゜

(14)

      一四〇      .

〜鶯§︶行動するのを許さない︒これは憲法上当然で︑﹁裁判所は︑立法の指針の特定領域を詳細ないし包括的な方法

で規定することで︑完成権限を行使するのを議会が黙示的に排除したかを審査しなければならない﹂︒また︑完成権

限は憲法が議会に排他的に権限を与えた文脈には適用されない︒さらに︑大統領の完成権限と法制定権の線引きは個

別の文脈で大統領実務の長期の伝統によって決せられうる︒

3 小括 憲法が執行権の中身を定義していないことから︑憲法に包括的に描かれた大統領に関する規定から執行権の権限を

拡大させるアプローチがある︒それは解釈の問題であるから︑そう解し得ないとの議論も成り立ちうる︒もとより決

着のつく話ではない︒しかし︑議会の明白な意思である制定法の規制は無視しえないことは共有されているようだ︒

議会との関係で広く解釈したとしても無制限に認められるわけではなく︑ここに執行権の中身というよりも憲法上の

限界が別の機能的な視点となって浮かびあがってくる︒

W 憲法における大統領権の臨界

1 ﹂①o訂oコ判事の定式と憲法の権力分立

      ヤングスタウン      ︵49︶大統領権限の限界の判断基準を最高裁はぎ巨oq︒・8乞昌事件︵鉄鋼所押収事件︶で示した︒朝鮮動乱のとき︑トルー

(15)

マン大統領は鉄鋼会社を︑その労使紛争のストによる操業停止を回避するために︑労使紛争に関する立法︵目︹

=①註oぺ︾6︷︶に規定がないにもかかわらず︑差し押さえる大統領命令︵国︸×00二︷一く① ︹一aΦ﹃︶を発した︒最高裁は六対

三で︑この命令を違憲として︑その執行を差し止めた︒厳格な権力分立を適用したとされ︑とりわけ補足意見

ンヤクソン廿︒冨o口判事の定式は大統領の憲法上の権限をどう解するかの指針となっている︒      フランクファ タ  廿○冨oロ判事の権力分立観は補足意見の即き民巨甘︹判事と同じようである︒すなわち︑﹁憲法は自由を保障するた

めに権力をよりよく分散させている一方で︑実践によって分散した権限を機能させる政府に統合することを規定して

いる︒憲法上の機関に相互依存以外の分離を禁じ︑相互性以外の自治を禁じている︒大統領権限は固定されたのでは       ︵50︶なく︑議会の権限と連結したりしなかったりして変動するものである﹂︒そして大統領権限の三つのゾーンを整理す

る︒ ゾーンー⁚大統領が議会の明示若しくは黙示の授権に基づいて行動するとき︑その権限は議会が委任できることす

      べてに加えて︑大統領自身の権利が有するすべてのことを含むから︑最大限となる︒

 ゾーン2⁚議会の承認も否定もない中で大統領が行動するとき︑大統領は自らの独立した権限のみに基づくことが

      できるが︑大統領と議会が競合した権限を有したり︑その配分が不明瞭であったりで︑ぼんやりした         ︵51︶      領域がある︒

 ゾーン3⁚大統領が議会の明示若しくは黙示の意思と矛盾する手段をとるとき︑大統領の権限は大統領の憲法上の

      権限からその権限に関する議会の憲法上の権限を差し引いたもののみに基づくことになるから︑最低

      の極み︵言≦而︒・吟①げげ︶となる︒

 最高裁は︑合衆国憲法二条に基づいて大統領の固有権︵日庁o目忌Uo司鶴︶を主張した政府の議論をことごとく退け

   アメリカ合衆国大統領と憲法      ︵都法五十ー二︶ 一四一

(16)

一四二

︵52︶た︒政府は︑大統領は憲法上の権限の行使として朝鮮へ軍隊を派遣し︑この行為から大統領は部隊に必要な鉄鋼の

供給を確保すべく︑製鋼所を差し押さえることができると主張した︒●o冨oロは︑これは有害である︵bo日惹o已︒︒︶と         ︵53︶      して次のように述べる︒憲法が規定する否芝Oは軍隊についての権限であって︑国家のそれではないし︑産業や住

民に対するものではない︒議会は大統領の軍命令権を奪うことはできないが︑議会のみがこの命令権を大統領に付与

できる︒憲法は軍の召集や維持は議会の権限としており︑憲法や法律は⇔︼ZOとしての大統領の権限に制約を設けて

いるのであって︑こうした規定をどのように駆使しても︑大統領が自らの戦争権限を国内政策の道具として使用でき

ることにはならない︒大統領の軍隊指揮権は︑国家安全保障のため外敵に対して向けられるときは最高の許容度とな

るものの︑国内的に労使紛争のような合法的な経済紛争ではそうした自由度は認められない︒

 ﹂8冨o口の定式は継承されているといえよう︒その精神は大統領権のいたずらな拡大への警告である︒憲法上大統

領の固有の権限でないかぎり議会︵制定法︶が優越するとし︑そのことで法の支配を確保しようとするものである︒      ハムデ ン軍事委員会を設置する大統領権限を否定した二〇〇六年の口①日ユ呂事件では︑議会の授権がないとき︑大統領固有の

権限であろうがあるまいが︑議会自身の戦争権限の適切な行使として︑大統領の戦争権限に対する制限を無視するこ        ︵54︶とはできないとした︒安全保障について議会は大統領に白地小切手を切ったわけではないのであり︑むしろ緊急時       ︵55︶のようなときこそ憲法の趣旨は生かされなければならないとした︒最高裁は︑新しい﹁危⁝機パラダイム︵○ユ︒・ロ       ︵56︶冨目合管ごは通常の法規範が放棄されるのを要求するとの政府の確信を認めなかった︒口①日ユ呂最高裁判決は      ︵57︶●否冨ooの三定式が生かされていることを物語る︒=四日合ロでは︑大統領の権限は残虐な処遇や拷問の禁止は特定の

         マ  ク  イ  ン      

制定法︵ここでは90ひ巴昌﹀日o巳目㊦耳︶と条約︵ジュネーブ議定書共通三条︶に制約されて︑ゾーン3に入り︑制定

法の授権がなければ認められないとしたのである︒

(17)

 もっとも︑ゾーン3の﹁最低の極み︵δ乞Φω吟司ΦOげ︶﹂がどこなのかは明確ではない︒大統領には憲法上の地位に基      ︵58︶つく固有の権限があるのであり︑権力分立の観点からその権限は侵しえないとする根強い主張がある︒ブッシュ政

権も九・一一以降のテロとの戦争でこうした立場に立ち︑さらに議会から広汎な授権があったとして︑大統領権拡大

の解釈を展開させた︒二〇〇五年一二月一六日︑大統領が将来のテロ防止の名目で国家安全保障局︵Z白力﹀︶に無令状

でアメリカ人の通話やEメイルの監視を行わせていたことが︑ニューヨーク・タイムズ紙に暴露された︒アルカイ

ダにはこうした監視は合法であるから︑問題は︑﹁疑わしきアルヵイダの通話がモニターされるべきかどうかではな

く︑この目的のためにアメリカ人の盗聴が法に従ってなされるべきか︑それとも法に反して︑大統領によって発せら       ︵59︶れる秘密命令に従ってなされるべきかである﹂︒法務省は︑九・一一の逼迫した情況でテロ防止は政府の喫緊の責務で

あり課題であることに鑑み︑Zo︒﹀の措置は︑憲法とアメリカ人を擁護する大統領の責務に基づいて憲法に適合する

限りであらゆる手段をとることができることから︑大統領の92ひの地位と︑攻撃からアメリカを防御する唯一の機      ︵60︶関︵︒︒o冨o梶き︶であるという確立した憲法上の固有の権限によって正当化されるとした︒

 議会の立法による制約に反して大統領は合衆国憲法二条の権限を行使できるかが︑問題なのである︒大統領は軍の

行動にはΩZ否に基づき固有権を主張してきたのであり︑憲法上は大統領が敵対行動をとる権限の内容が問題であっ

た︒九.=以後は︑戦争を遂行する︵買oω①⇔葺Φ日︹︶大統領権限の範囲が重大な問題︵日oロ塁昔霧﹇呂ロ︶となって

 ︵61︶いる︒イングランドの国王は万能であるが︑大統領はこれと異なるのである︒

2 最高司令官の意味

アメリカ合衆国大統領と憲法      ︵都法五十ー二︶ 一四三

(18)

一四四

      お  0芝0そのものは地位だけの規定であって︑権限を付与するものではない︒もっとも︑92否は一八世紀当時の国      お 際法では定義されておらず︑いくつかの州や植民地でみられるに止まっていた︒連邦軍に関する限り︑0国×否であ

る大統領に服さない者以外の手からなる命令や決定を認める制定法はないし︑0巳0として大統領は︑平時であれ戦       時であれ︑軍を継続的に監督し︑その責任があることを義務づけられている︒制憲者はΩ宕O規定で二つのこと︑

すなわち︑議会が持つ軍隊指揮権を大統領に付与したという急進的な変更︵この地位は人民のみが変えられる︶と︑      お 当時支配的原理であった文民統制︵軍は厳格に民権︵鼠庄Oo妻2︶に服さなければならない︶を意図したという︒

 制憲会議では︑0髪Oについては︑民兵に対する連邦の過度の権限と執行権による戦闘指揮権が専制につながりか

ねないとの懸念のみであった︒﹁Ω20条項には︑制憲者がそれに確固に限界づけられた権限の意味合いを持たせる

としたのだから議論の余地はなく︑0﹈ZOは議会によって授権された戦争遂行︵自ぬ而塁叶︶のみの権限を有するアメ       お リカ軍の将軍と提督の第一人者であると解するのが合理的である﹂とされた︒制憲者が文民統制を意図したことは

明らかであり︑その主要な関心は軍事クーデタへの懸念︑それとは逆の︑軍権に対する文権の濫用の懸念︑軍事冒険

主義︵置くo口葺ユω日︶︵大統領が自らの軍事能力を試す︶の三つ全てに対応するものであった︒執行権が好きなように

軍を使用することを抑制したのであって︑大統領に軍事の資質や能力を要求していないのであり︑否髪0規定の主眼      は︑国家の戦争の軍事命令と文民統制︵n〜昆oo已旦きユa法①目合oo吟日59昏①o豊o目ば塁叶︶であった︒﹁戦時       にさえ︑ひ﹈ZOたる大統領は法律を誠実に執行する義務に置かれたままなのである﹂︒政治的にも軍事的にも︑﹁軍隊

   い      に対する文民統制を確証させる保護的な装置以上の何ものでもない﹂︒

 判例では︑O曳0の権限とは執行権として︑国内ではなく国外で軍を指揮する︑あるいは﹁特定の戦闘や戦闘行動

に仕向けられた戦術的命令︵件①口亘O①一 60日︹目①口●︶﹂を発する﹁軍事行動の舞台葺⑦曽自o︷日︽民葺oOo日亘o昌﹂での権限

(19)

とされ︑その帰結として議会は自らが創設した軍を指揮できず︑あるいは授権された戦争の日々の︵大統領の︶命令       ︵70︶には干渉できないとさ\れる︒

 バロンは︑否ヲδ規定は統帥権の独立を認めたのではなく︑︑議会の関与は受け得ると指摘する︒しかし︑軍事特に

戦闘行動での指揮権は立法や政治になじまず︑機動性と迅速性を要するのであるから︑議会の関与はなじまないとも

いえる︒﹁行政部︵執行権というべきかー筆者︶が活力的であることはおよそよき政府の本質であり︑その主要な性       ︵71︶格の一つなのである︒それは外部よりの攻撃に対して不可欠なものであ﹂る︒また︑合衆国憲法二条の規定は権力分

立規定であり︑大統領固有の権能を規定したともいえる︒

 注意したいのは︑920といえどもその権限は制定法に基づくということである︒憲法典は法文で全てを規定して

おらず︑言語体系としては完全ではない︒憲法典中の執行されていない規定とか沈黙︑あるいは欠訣の部分は︑議会

や執行権の必要性の観点から制定法︵場合によっては行政規則︶によって確定され︑そうした制定法が憲法を形成し      ︵72︶ているのである︒ 緊急事態においてさえ︑大統領は憲法が授権した権限のみ︑若しくは議会が立法によって授権した       ︵73︶もののみを有する︒

 国家安全保障のための大統領権限は憲法上無制限であるとの立場も︑実務を含めて根強い︒制憲意思︵フェデラリ

スト︶は国家防衛は連邦政府の最大の責務であることから︑﹁社会の防衛と保護のための権能については︑その有効

適切な措置に必要ないっさいの事柄1つまり︑国家的軍隊の建設・統帥・維持に必要ないっさいの事柄ーに関して       ︵74︶      ユーは︑制約があってはならない﹂とされる︒その主唱者であるぎoは︑アルヵイダのメンバーの疑いがある者との交

信を盗聴できるとした大統領命令を合憲と主張する論稿で︑憲法上大統領は0望Oであり外交に関する唯一の機関で      ︵75︶あるから︑かかる盗聴を含む戦争遂行に必要な権限は議会の授権なく認められるとする︒

   アメリカ合衆国大統領と憲法      ︵都法五十−二︶ 一四五

(20)

一四六

 議会がO曳ひの権限を規制できるとしても︑大統領も議会も︑議会は大統領の戦略的︑あるいは戦術的な決定には

介入できないルールは共有している︒部隊が投入され血と金が費やされる前に戦争を開始する決定が︑議会の最大限の   ︵76︶権限である︒国家の安全が脅かされているとき︑国家を防衛するための相当な権限を大統領は持っているとされ︑これ      ︵77︶が執行権︵o×①o葺才⑦芦昏o﹃︷蔓︶の中心部分であるとされる︒      ︵78︶ ρZOにともなう大統領の軍権を議会が制限できるかについては四つの考えがある︒第一は分離理論︵o︒6冨曇8口

↓ロ①︒・一︒︒︶であり︑大統領と議会の権限は重ならないとするものである︒議会の明白な意思がないところではρ20と

しての権限は完全となる一方で︑議会の明白な意思があるときは大統領は同時に享受できないことになる︒第二は逆

に重なり合うとの考えである︵Oo﹇2日ぎ05↓ゴゆ゜︒︷︒・︶︒どちらが優先権を持つかは問題となるが︑議会が明白な意思

表示をしているときは︑Ω20の権能は後退する︒第三は部分的オーバーラップである︒どこが排他的権限かは問題

である︒軍の撤退や前進といった戦術的決定は議会が規制できない92否としての権限であるとの考えが有力である︒

第四は︑大統領は議会の権限以上を有しているが︑議会がより限定された領域で行動するとき︑そのルールは大統領

に優先するとの考えである︒プラカッシュは︑第四の考えが説得的であるとしている︒

 もっとも︑9之ひの核が何であるか︑すなわち大統領の執行権や9Zひとしての権限に議会の授権が不要かあるい

はこれを超えることができるかは︑依然明確ではないようだ︒判例は︑議会の明示の意思があるところでは大統領権

限は局限されるとするのみである︒﹁制定法が政府権限の行使条件を規定しているところでは︑その要求というもの

は政治部門両方がかかわる反映的討議的なプロセスの果実である︒執行権及び立法権の慣習的な行動から導出される

法律への尊敬は︑危機のとき︑安定に何らかの保障を与える︒憲法は時間を越えてテストされ︑時の圧力から導かれ      ︵79︶た基準に依拠することで最も機能するものである﹂︒

(21)

V 大統領権限と制定法

1 執行権と制定法

 執行権は法律の執行を含む︒大統領は議会の意思をないがしろにできないのである︒判例は︑外交や国防では大統

領に広汎な裁量を認めるのが立法意思だとし︑そこには独立した大統領の責任に基づく対応が認められるにしても︑

議会がこれを制限する立法を特に制定せず沈黙してきたことは︑慣行によって権限が創設されるのではないけれども︑      ︵80︶議会がこのことを知悉していながら長期に渡り沈黙してきたとして︑黙示の同意の議会意思が推定されるとする︒

これは︑大統領権限が制定法あるいは議会の議決に根拠づけられることを前提としている︒

 このことは一九七三年の戦争権限法︵<語﹁㊥◎已⇔O﹃o力男而oゆO一已亘05︶の制定でも明らかである︒同法は明文で次のことを

認識しているとする︒﹁急迫な敵対状態が情況によって明らかである場合︑合衆国軍隊をそうした敵対情況に投入す

る大統領権限は9Z否に基づく︒ただしそれは︑︵1︶宣戦︑︵2︶個別の制定法の授権︑︵3︶合衆国︑その領土      や財産︑あるいは軍への攻撃によって惹起された国家緊急事態に基づいてのみ行使される﹂︒憲法一条八節で明示さ

れた議会の権限とその影︵噂⑦昌已O﹈ぴ﹁騨︶から︑外交政策を決定しそのための立法や予算措置を行うのは議会であるか

ら︑議会が戦争を開始し終了させ︑中立︵非中立︶を宣言し︑あるいは戦争にいたる活動を規制し戦争を防ぐように

行動することを決定できる︒また︑戦時では920としての大統領権限は戦争をなす︵口日①民6 吟ゲ⑦ ≦①R︶究極の議会      権限に服するのであって︑議会が自ら授権した戦争の遂行を統制できるのである︒

アメリカ合衆国大統領と憲法      ︵都法五十−二︶ 一四七

(22)

一四八

 ブッシュ大統領のテロとの戦いではこれが示されたといえよう︒大統領は敵性外国人の軍事法廷での刑事裁判や電

子監視などを︑制定法の具体的な授権なく行ってきたけれども︑それらは議会の意思で包括的権限が授権されたと主      ︵83︶張するのである︒それが九・=直後に出された軍事力行使の授権︵≧﹄≦づ︶である︒議会は︑九二一のテロに関

与したと大統領が信じる﹁国家︑組織︑あるいは人間に対して︑合衆国に対する将来の国際テロリズム行為を予防す

るために︑すべての必要かつ適切な実力︵①匡g8°︒︒︒①目きユ①署8冨g﹇o甘目ゆ︶を使用する権限が大統領に授権され

る﹂と議決したのである︒O芝ひあるいはO国×0としての大統領権限は純粋にこの授権の制定法の解釈によるのであ       ︵84︶って︑大統領と議会のどちらが優位かといった先験に基づくものではない︒      ︵肪︶         ハムティ この授権の中身や限界が問題となったのが︑ハムディ事件︵二〇〇四年︶である︒アメリカ市民出①日合がアフガ

ンの戦闘地域で敵性戦闘員︵自o日ぺ8日げ§馨︶として拘禁されたことが違憲と判断された︒この敵性戦闘員がアメ

リカ市民であるため︑彼を大統領は拘禁する権限が認められるか︑さらに︑もしそうならば拘禁された者は敵性戦闘

員と指定されたことの有効性を争うことができるか︑それはいかなる手続で行うかが︑争点となった︒明白な法文規

定がない中︑大統領にかかる権限が≧已≦ヴで認められるかが問題となる︒    オコ ナ  判決︵O︑否o目o﹁判事︶は︑≧まウによる戦時での大統領の広汎な権限は認めている︒≧﹄≦づの文言を憲法理論や

慣行に従って広く解釈し︑安全保障の政府利益を認める形となった︒しかし︑本件は市民の人権問題であり︑適正手

続の保障がこの政府利益を凌駕するのであり︑ハムディが敵性戦闘員として分類されるには告知と聴聞の機会が保障      ︵86︶されていなければならず︑その事実の判断には中立な決定者が必要である︒これを欠くのは適正手続違反であると

した︒﹁戦争状態であることをもって︑国家の市民の権利にかかわることが大統領に白紙委任がなされたのではない

ことは︑長く明らかにされてきたことである︒戦時に合衆国憲法が他国あるいは敵の組織とのやりとりについて執行

(23)

       ︵87︶権に構想した権力が何であろうとも︑個人の自由の問題は三権力部門全ての役割であることを確実に構想した﹂︒      ︵88︶ このハムディ事件は0︼Z否と制定法の関係を問題とした典型である︒広範な文言で大統領権を包括的に規定し︑

合衆国市民を敵性外国人として認定して拘禁する権限をそこに読み込めるかが︑制定法の解釈の問題となっている︒

2 ΩZOと制定法と大統領の固有権限

      ︵89︶ ρZOと制定法の関係は⇔岳吻㌣妻β︵一七九八年︶に絡んで︑マーシャル・コートですでに判断されていた︒最高裁

は︑次の三つの法理に基づいて︑宣戦しなくとも議会は戦争を授権したと判断していた︒第一に︑大統領は議会が制

定した制限に拘束される︵e庄o<°eo曽﹁o日PΦ弓oり゜戸やO︵H◎︒忠︶︶︒第二に︑大統領権を制限したり授権したりする制

定法は︑できうる限り国際法上の義務に符合させるように解釈される︵冨巨H昌く°o︒合oo目氏O冨﹁日芦oq国9︒・ポΦ口白︒°

忠︵戸◎◎O吟︶︶︒第三に︑大統領自身の権限の解釈は敬譲されず︑制定法解釈に何の重きも与えられない︵ば冒9辞      チャ ミング ベッツィω①①日①P口90︒°戸︵H°︒O﹂︶︶︒とりわけ︑否ロ曽日日ぬヒO卑望法理は有効な憲法判断であるとし︑裁判所は執行権の決定に委

譲していないから︑外交軍事について議会の役割を認知した︒憲法は︑﹁国際法に反する犯罪を定義し処罰し﹂︵一条

八節一〇項︶︑﹁陸海軍の編制規律について規則を制定﹂︵一四項︶する議会の権限を認めている︒憲法は︑国家が国

際法から逸脱するかしないかを決定する役割を議会に与えたとされる︒

 議会は︑立法権はもとより︑予算の権限も有しているから︑現実には大統領は議会の意思を無視して行動しえない︒      ︵90︶大統領権限は制定法に基づくと考えられるが︑執行権の空間や領域によっては慣行で広範な裁量が認められている︒

行政法に関する限り︑単一執行権論に立てば︑大統領の行政法の執行についての裁量は議会が制定法で狭くすること

アメリカ合衆国大統領と憲法      ︵都法五十−二︶ 一四九

(24)

       一五〇

    の ができる︒しかし︑軍権や執政といった大統領の憲法上の権限に関する場合︑議会が自由に制限できるかは議論が

生じる︒      セオドアロル ズベルト    スチュワ ドシップ 不文の法理も援用される︒その典型が↓°男080<o詳の︒︒甘竃a︒・置Oであろう︒政府高官たる者は︑人民の執事

︵°︒需笥艮︶として人民のためにできることすべてを積極的になす義務があり︑憲法や法律で禁じられていない限り︑

国家が要請する必要なことをなす権利のみならず義務があるとの考え方である︒彼は︑﹁必要な場合はいつでも︑必

要ないかなる手段をもって︑それらが直接︑憲法あるいは立法の禁止規定で妨げられていない限り︑私は公共の福祉      ハぴ のために行動し︑私は我々すべての人民の共通の安寧のために行動した︒﹂という︒

 大統領の権限としてかかる規範を憲法上見出しうるか︒憲法や法律を超える︑あるいは無視できる︑大統領の憲法

外権力︵㊦×詳①lOO昌o力亘﹇自吟一〇〇①一︶が存在するか︑である︒憲法の議論としてこれを肯定する立場は︑すでにみたように

二条一項の執行権付与規定︵が︒・晋ΦQ︶︑宣誓条項︑最高司令官条項︑法律誠実執行配慮義務条項をあげる︒もっとも︑

これらの規定は具体的な法規範性を見出し難い︒ぎ︒︒︷旨ぬ条項も︑そもそも執行権とは何を指すのか︑最高司令官は      お 権限を規定していないし︑宣誓や法律誠実執行配慮義務も抽象的で︑具体的な法規範とは言い難い︒       デ ムス 最高裁判所︵O①日o︒︒事件︶は︑議会と大統領権の曖昧なところでは︑政治部門の慣行が重要な規範的決定要素と       ︵94︶なるとしている︒このO①日6︒︒事件で︑レーンキスト最高裁長官はあの冒口冨ooの三方程式を用いて次のように説く︒

 大統領が議会からの明示若しくは黙示の授権に基づいて行動するとき︑それは大統領権限の行使だけではなく︑議会によっ

て委任された権限の行使でもある︒﹁こうした場合︑執行権の行為は司法解釈の最大の広汎さと最強の合憲の推定で支えられ︑

反論の挙証責任はこれを攻撃するどのような者にも重く置かれることになろう︒⁝大統領が議会の授権なくして行動するとき︑

大統領はぼんやりした領域に入ることとなり︑そこでは大統領と議会が競合した権限を有するか︑若しくはその配分が不明確

(25)

である︒⁝こうした場合⁝大統領の行為の有効性は︑少なくとも権力分立原理に関する限り︑議会の惰性とか無関心とか忍従

といった︑大統領の行動に対する立法府の見解に光を当てる情況全てを考量に入れることになる︒﹂最後に︑大統領が議会の

意思に反して行動したとき︑大統領権限は最も衰退するのであって︑裁判所は議会がその主題について行動不能とすることに

よってのみ︑そうした行為を維持できる︵冒穿ω8の定式−筆者︶︒

 合衆国憲法は軍権を大統領に付与する一方で︑その行使︑すなわち軍の行動の決定や権限は制定法に基づくとした

のである︒0︼2否の規定の仕方︵地位のみ定め権限には言及しない︶や憲法の制限規範性や法の支配の原理を考えれ

ば︑議会の授権なく大統領が国防に必要と考えるすべてのことを行う広範な権限まで憲法が認めているとは考え難い︒

宣戦︑そして軍の予算や編成その他これらに関係する適切で必要な事項は議会の管轄であり︑ρ2否にかかわる権限      ︵95︶として明白に認められるのは92否として行動する権限である︒

 歴史的に議会は軍事的決定に忍従︵四否ρ已一6ω06560︶の態度をとってきた︒しかし︑憲法は議会に究極の決定権を与

えており︑これを受けて議会の意思の範囲内で9客ひは権限を行使する︒また︑議会は︑予算をつけなかったり否定      ︵96︶的な議決や立法を行ったりすることで︑その権限を行使し︑軍権を統制する任を果たす︒これは憲法に仕組まれたこ

となのである︒﹁戦争に行くかどうかを決定するプロセスに議会が入ることを憲法上のルールとして確定させるのは

懸命でない﹂との考え︵︼δo︶は誤りであり︑議会は大統領よりアカウンタブルでないとか︑議会を関与させない方      ︵97︶が賢明な決定ができるとかの認識は︑=①日△呂最高裁判決︵二〇〇六年︶が否定したといえよう︒

3 民兵の最高司令官としての大統領権限

アメリカ合衆国大統領と憲法      ︵都法五十−二︶ 一五一

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