博 士 ( 医 学 ) イ ク ロ ザ ン ア ナ ク リ ス テ イ ナ ド ロ テ イ ア
学位論文題名
Bone marrow transplantation and medulla architecture reconstitution in the murine thymus (骨髄移植によるマウス胸腺髄質構築の再建)
学位論 文内容の要旨
【 目的 】胸 腺上 皮細 胞は 、胸 腺内 リン パ球 の分 化と 選 択に おい て重 要な 役割 を果 たす 。胸 腺 上皮 は皮 質と 髄質 で起 源が 異な ると 同時 に、 その 機 能、 役割 にも 差が ある 。皮 質上 皮は 主 とし て、 胸腺 リン バ球 の正 の選 択、 髄質 上皮 は負 の 選択 にか かわ ると され てい るが 、詳 細 に つ い て は 不 明 な 点 が 多 い 。 近 年 、 造 血 系 の 幹 細 胞 が 、 肝 臓 や 心 臓 に 分 化 (transdifferentiation)するとの報告がなされ、胸腺上皮細胞についても、骨髄再建によって、
ド ナ ー 側 造 血 細 胞 か ら 分 化す るこ とを 示唆 する 報告 が提 出さ れた 。胸 腺上 皮 細胞 は、T細 胞 を選 択す る重 要な 役割 を果 たす ことから、これらの起源を明確にすることは重要で ある。
本 研 究 で は 、EGFP‑ト ラ ン ス ジ ェ ニ ッ ク マ ウ ス(EGFP‑Tgm)骨 髄 細 胞 を 、 正 常B6、 ま た は 髄 質 に 構 築 異 常 を 示 すaly/alyマ ウ ス に 移 植 す る こと によ り、GFPを マー カー とし て胸 腺上皮細胞の起源を解析す ることを目的とした。
【 方 法 】B6マ ウ ス 、 ま た はaly/alyマ ウ ス に 致 死 量 放 射 線 を 照 射 し 、EGFP‑Tgmの骨 髄細 胞 を 成 熟T細 胞 を 除 し た 後移 植し 、経 時的 に胸 腺 再建 をフ 口ー サイ トメ トリ ーと 、免 疫組 織 化 学 に よ っ て 解 析 し た 。 こ れ ら の キ メ ラ を そ れ ぞ れ(EGFP‑Tgm‑+B6)、(EGFP―Tgm→ aly/aly)と表わす。
胸 腺 髄 質 上 皮 細 胞 はMTS‑10、 皮 質 上 皮 細 胞 はMTS‑5単 ク 口 ン 抗 体 で 染 色 し た 。 ま た 最 近 終 末 分 化 を と げ た 上 皮 系 細 胞 を 同 定 す る た め 、 抗Foxnl抗 体 を 用 い た 。 一 部の 実験 で は、aly/alyマウ スに 骨 髄細 胞と 同時 に、 骨組 織も 移植 した。皮質、髄質の境界を 明らか にするためH‑E染色も行った。
最後 に、 胸腺 上皮 の微 細構 造を 明ら かに する ため 、 走査 電子 顕微 鏡に より 、キ メラ 胸腺 を観察した。胸腺組織の固 定は常法に従った。
【 結果 と考 察】 先ず 、キ メラ のド ナー 骨髄 由来 細胞 に よる 再建 を、 フ口 ーサ イ卜 メ卜 リー で 解析 した 。(EGFP‑Tgm→B6)、(EGFP‑Tgm→aly/aly)とも に、ほとんど全てのJ亅匈腺 |」ン パ 球 が 、FITC様 のGFP螢 光( 黄) を発 して おり 、 ドナ ーr11来 であ るこ とが 判I蜩 した 。免 疫 組織 化学 によ って も、 胸腺 リン バ球がドナー側ネ刪包によって完全に置換されてい ること が確認された。
次 に 、 胸 腺 組 織 よ り 凍 結 切 片 を 作 り 、 連 続 切 片 を 観 察 し た と こ ろ 、(EGFP‑Tgm‑ B6) キ メ ラ の 髄 質 の 上 皮 細 胞 は、MTS‑IOで 染色 され た。I¥4TS‑5は 上皮 全般 を染 める が、 特に 皮質上皮細胞を強染した。 髄質の上皮細胞は、MTS‑IO(赤)とGFP(蛍)で二重染色され、merge 像 (橙 )が 得ら れた 。従 って 、こ れら 髄質 上皮 細胞 が 、EGFPーTgm骨髄山来であるこ とが強
く示 唆さ れた 。一 方、 皮質 の上 皮 細胞 はGFP陰 性で 、こ れら は 放射 線抵抗陸のホスト上皮 と結論された。
次 に晒GFP‑Tgm‑ aly/aly)キメ ラで 同様 の解析を行った。一部の キメラはstromal細胞の 再建をよくするため、骨組織も同様に移植し たが、骨髄細胞移植のみのキメラと同じ結果が 得ら れた 。aly/alyマウスの胸腺髄質は 構築異常があり、ヒ皮細胞もMTS‑10で弱くしか染ま らな いこ とは すで に報告されている。しかし、EGFP‑Tgm→ aly/aly)キメラの髄質上皮細胞 は 、MTS‑10とGFP強 陽 陸 で あ っ た 。 ま た 、 こ れ ら 髄 質 上 皮 細 胞 はFoxnl陽 陸で あっ た。
この 実験 から 、〔EGFP‑Tgm→ aly/aly]キ メラ の髄 質上 皮細 胞 はEGFP‑Tgm骨髄由来で、移 植後にヒ皮細胞へと分化したことが判明した 。 .
(EGFP‑Tgm→ B6)キ メ ラ 胸 腺 の 微 細構 築を 走査 電顕 で観 察し たが 、 正常B6の もの と変 わらず、キメラの胸腺上皮細胞、特に髄質上 皮細胞が、形態学的にも骨髄細胞から正常な分 化をとげてヒ皮細胞となったことが判明した 。
今回、骨髄中の細胞が、胸腺髄質ヒ皮細胞へと分化することカ畔IJ明した。しかし、皮質上 皮細胞はホスト由来のままであった。恐らく 、この違いは報告されているように、両上皮細 胞の放射線に対する感受陸の差によるものと 考えられた。いずれにしても、髄質上皮細胞へ と分 化す るこ れら 骨髄細胞が造血系の幹細胞か、あるいぼ骨髄中に 少数存在するstromal細 胞の前駆細胞由来かについては、結論を得られなかった。造血系細胞のtransdifferentationに よって、胸腺髄質ヒ皮細胞が形成されるか否 かの結論を最終的に得るためには、精製した造 血幹細胞を移植する実験が必要と思われた。また、.肝細胞で報告されているように、ドナー 造血細胞とホストヒ皮細胞との融合の可能陸に関しても、今後より詳細な検証カ迦煙である。
いずれにしても、骨髄移植によって髄質の ヒ皮細胞のみが、ドナー側に置換されるという 今回 の結 果は 、こ れま で骨 髄キ メ ラで 得ら れたT細 胞分 化と 、 選択 メカニズムを考えると 矛盾 しな い。 胸腺 内で 正の 選択 を 受け るT細胞は、放射線抵抗J陸の皮質上皮細胞上の主要 組 織 適 合 複 合(MHC)分 子 に 拘 束 さ れ る 。 一 方 、 胸 腺 内 に お け る 自己 抗原 反応 性T細 胞の 負の選択には、骨髄由来の樹状細胞、マク口 ファージが重要と考えられてきたが、今回の結 果 は 、 負 の 選 択 に 対 す る 髄 質 ヒ 皮 細 胞 の 関 与 を 示 唆 す る も の で あ る 。 さらに、今回の結果は、免疫不全や自己免 疫患者の治療として骨髄移植を考慮する際、貴 重なデ一夕と考えられた。また、重症筋無力 症の患者では、胸腺内の筋様細胞(myoid ceu) の関与が示唆されている。従って、胸腺内筋 様細胞が、同様に骨髄幹細胞から分化してくる かは、今後の興味深い問題である。
【結 諭】GFP螢 光を発する骨髄細胞を移 植するキメラを用いて、胸腺髄質上皮細胞のみが、
骨髄 細胞 由来 のフ ウノ タイ プを 示 すこ とが 判明 した 。今 後、GFP陽 陸上皮細胞の産生メカ ニズムの解断カ潼要と考えられた。
学位論文 審査の要旨 主査 教授 小野江和則 副 査 教 授 上 出 利 光 副 査 教 授 大 野 重 昭
学位論文題名
Bone marrow transplantation and medulla architecture reconstitution in the murine thymus (骨髄移植によるマウス胸腺髄質構築の再建)
胸 腺上 皮は 皮 質と 髄質 で起 源が 異な ると 同時 に、 その 機能 、役割にも差がある 。近年、
造血系の幹細胞が、肝臓や心筋細胞 に分化する(transdiffre11dation冫との報告がなされ、胸 腺上 皮細 胞に つ いて も、 骨髄 再建 によ って 、ド ナー 側造 血細 胞から分化すること を示唆す る報 告が 提出 さ れた 。胸 腺上 皮細 胞は 、T細 胞を 選択 する 重要 な役 割を 果た すこ とか ら、
これらの起源を明確にすることは重 要である。
本研 究で は、EGFP. トラ ンス ジェ ニッ クマ ウス (EGFP一Tgm) 骨髄 細胞 を、 正常B6、 また は 髄 質 に 構 築 異 常 を 示 す 甜y脚yマ ウ ス に 移 植 す る こ と によ り、GFPを マー カー とし て胸 腺上皮細胞の起源を解析することを 目的とした。
B6マウ ス、 ま たは 甜ル 町マ ウス に致 死量 放射 線を 照射 し 、EGFPITgニmの骨髄 細胞を成 熟T細 胞を 除去 した 後移 植し 、経 時的 に胸 腺 再建 をフ ロー サイ トメ トリ ーと 、免 疫組 織化 学 に よ っ て 解 析 し た 。 こ れ ら の キ メ ラ を そ れ ぞ れ 〔EGFPITgm→B6〕 、 〔EGFP・Tgm→ め 触y〕 と 表 わ す 。 胸 腺 髄 質 上皮 細胞 はMrS‐10、皮 質上 皮細 胞はMrS‐5単 ク口 ン抗 体で 染 色 し た 。 ま た 終 末 分 化 を と げ た 直 後 の 上 皮 系 細 胞 を 同定 する ため 、 抗Fbxn1抗体 を用 いた 。胸 腺上 皮 の微 細構 造を 明ら かに する ため 、走 査電 子顕 微鏡により、キメラ 胸腺を観 察した。
先 ず、 キメ ラ のド ナー 骨髄 由来 細胞 によ る再 建を 、フ 口ー サイトメトリーで解 析した。
〔EGFPITgm→B6〕、 咀GFPITgm→aly/aly〕 とも に、 ほと んど 全ての胸腺リンパ球が、FHC 様 の GFP螢 光 ( 黄 ) を 発 し て お り 、 ド ナ ー 由 来 で あ る こ と が 判 明 し た 。 次 に 、 胸 腺 組 織 よ り 凍 結 切 片を 作り 、連 続 切片 を観 察し たと ころ 、〔EGFPlTgm→B6〕キ メ ラ の 髄 質 上 皮 細 胞 はMrS.lOで 染 色 さ れ 、MTS‐5は 特 に皮 質上 皮細 胞を 強染 した 。髄 質の上皮細胞は、MTSー10(赤)とGFP(黄)で二重染色され、merge像(橙)が得られたが、皮 質 上 皮 細 胞 は 二 重 染 色 さ れ な か っ た 。 従 っ て 、 髄 質 上 皮細 胞はEGFP一Tgm骨髄 由来 であ るが、皮質上皮細胞はホスト由来と 結論された。
次に〔Eく預PITgm→aly/a.ly〕キメラで同様の解析を行った。aly間yマウスの胸腺髄質は構 築異 常が あり 、 上皮 細胞 もMrS‐10で 弱く し か染 まら ない こと はす でに 報告 され てい る。
(EGFP‑Tgm→aly/aly)キ メラの髄 質上皮細 胞は、MTS‑10とGFP強 陽性であ った。ま た これ ら 髄 質上 皮 細胞はFoxn1陽性であっ た。従っ て、これ らMTS‑10陽性、GFP陽性髄 質上皮細 胞は、ホ スト上皮 細胞とEGFP‑Tgm骨髄由来細胞の融合によって形成されたも のではないことが判明した。しかし、無処置aly鬮y胸腺と比ベ、髄質上皮細胞数の有意 な増加は認められなかった。この実験から、〔EGFPITgm→alyMy〕キメラの髄質上皮も、
EGFPlTgm骨 髄 由 来 で 、 移 植 後 に 上 皮 細 胞 へ と 分 化 し た こ と が 判 明 し た 。
〔EGFP−Tgm→B6〕キメラ胸腺の微細構築は、正常B6のものと変わらず、キメラの髄質 上皮細胞が、形態学的にも骨髄細胞から正常な分化をとげて上皮細胞となったことが判明 した。
今回、髄質上皮細胞へと分化するこれら骨髄細胞が造血系の幹細胞か、あるいは骨髄中 に少数存在するs的mむ細胞の前駆細胞由来かについては、結論を得られなかった。造血 系細胞の弧nS(li餓:reImationによって、胸腺髄質上皮細胞が形成されるか否かの結論を最 終 的 に 得 る た め に は 、 精 製 し た 造 血 幹 細 胞 を 移 植 す る 実 験 が必 要 と 思わ れ た 。 いずれにしても、骨髄移植によって胸腺髄質の上皮細胞のみが、ドナー側に置換される という今 回の結果は、これまで骨髄キメラで得られたT細胞分化と、選択メカニズムを 考えると 矛盾しない。ただ、胸腺内における自己抗原反応性T細胞の負の選択には、骨 髄由来の樹状細胞、マクロファージが重要と考えられてきたが、今回の結果は、負の選択 に対する髄質上皮細胞の関与を示唆するものである。さらに、免疫不全や自己免疫患者の 治 療 と し て 骨 髄 移 植 を 考 慮 す る 際 、 貴 重 な デ ー 夕 と な る と 考 え ら れ た 。 口頭発表 後、副査 の大野教 授より、 なぜmTECのみが骨髄細胞で置換されたのか、移 植後のキメラの免疫機能、め胤yマウスに認められる免疫不全症の特徴、ヒ卜の治療に応 用できる か、上出教授よりInlEC欠陥のヒト疾患があるか、骨髄移植後my/aly胸腺の髄 質領域の変化、mTECの貪食機能、主査の小野江教授より骨髄細胞から、どのような臓器 への細胞分化が報告されているかについて質問があったが、申請者は大概妥当に回答した。
この論文は、胸腺髄質上皮細胞の起源を明らかにした点で高く評価され、今後の臨床応 用も期待される。
審査員一同は、これらの成果を高く評価し、大学院課程における研鑽や取得単位なども 併せ、申請者が博士(医学)の学位を受けるのに十分な資格を有するものと判定した。