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Academic year: 2021

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博 士 ( 獣 医 学 ) 堀 江 正 人

学 位 論 文 題 名

Molecular analysis of the thymus leukemia antigen gene promoter

(マウスの胸腺白血病抗原遺伝子のプ口モーター      領域の分子生物学的解析)

学位論文内容の要旨

  マ ウ ス の 胸 腺 白 血 病(TL)抗 原は , 移 植 抗 原で あ るH−2抗 原 や , リ ンパ 球 分 化 抗 原で あ る Qa抗 原 等の よ う に マ ウス ク ラ スI分子 の 一 員 であり ,第17染 色体 上の主 要組織 適合遺 伝子座 に 位 置 し て いる 。TL抗 原の 分 子 量 は 約45キ 口 ダルト ンで あり,12キ口ダ ルト ンのロ2− ミクロ グ 口 ブ リ ン と非 共 有 結 合 で結 ば れ て い る 。TL抗 原 はH―2抗 原 と異 な り, 移植抗 原とし ての機 能 は な く ,H−2抗 原 ほ ど多 様 で も な ぃ。TL抗 原 の機 能 は 現 在 のと こ ろ 不 明 であ る が ,Tリン パ 球 上に発 現され ている こと や,H―2抗原と 構造 上類似 してい ること ナょ どから,細胞間の相互作 用 に関与 してい ること が予 想され る。

  TL抗 原 の 発 現 調 節 機 構 に は 次 の3っ の 特 徴 が あ る 。1) TL抗 原 は あ る 種(C58,BALB/c 等 ) の マ ウ ス の 胸 腺 細 胞 に発 現 さ れ て いる 。2) TLハ プ ロ タイ プbの マ ウス はTL抗 原を 発 現 し な い 。3)TLハ プロ タ イ プbのマ ウ ス に 由 来 する あ る 種 の 自血 病 細 胞 はTL抗 原 を 発 現す る 。 最 初 の2点は い く っ かの 細胞分 化抗 原に共 通した 特徴で あり, 第3点は癌 化に 伴う遺 伝子発 現調 節 の 異 常 によ る も の と推 察され ている 。この 異常発 現の 機序を 解明す るため には ,TL抗原 遺伝 子 の発現 がT細胞の 成熟過 程にお いて どのよ うに調 節され てい るかを 明らか にする ことが 必須 で あ り,こ の研究 の課題 とな ってい る。

  T18d遺 伝 子 はBALB/cマ ウ ス のTL抗 原 を コ ー ド す る 遺 伝 子 の 一 員 で あ り ,BALB/cマ ウ ス の 胸 腺細 胞 お よ びT細 胞 由 来 の 自血 病 細 胞に発 現さ れてい る。TL抗 原遺 伝子の 発現調 節に は そ の プ ロモ ー タ ー 領域 が重要 な役割 を担っ ている との 報告に 基づき ,T18d遺 伝子の プロモ ー 夕 ― 領 域 の詳 細 な 解 析を 行った 。まず ,T18d遺 伝子の 転写開 始部 位をプ ライマ ―伸長 法によ り 決 定 し た 。T18d遺伝 子 には複 数の転 写開 始部位 が存在 し,最 上流 の転写 開始部 位は翻 訳開始 部 位 の158塩 基 上 流 に 位置し てお り,そ のグア ニン残 基を ポジシ ョン十1と した。 次に,T18d遺伝

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子のプ口モータ一流域(ポジション―457から十146まで)を制限酵素を用い部分的に削除し,そ れ らのDNA領域をクロラ ムフェニコールアセチル卜ラ ンスフェラーゼ(CAT)遺伝 子に接続 す るこ とに よ り作 製し たプ ラスミドDNAをTL抗原陽 性および陰性細胞に導入した 。DNAの 導 入により形質転換され た細胞のCAT活性を測定する ことにより,削除されたDNA領域のT 18 遺伝子の転写に対する影響を推定した。この方法によりT18 遺伝子の転写調節に関わると推 測されるDNA領域が数多く同定された 。それらの中にはシスに転写を抑制するものと促進す る 機能 を持 っ もの があ った 。ポジション‑105と‑33の間に位置するDNA領域はTL抗原陽性 細胞と陰性細胞で異なる作用を示し,TL抗原の表現形の決定に重要な働きをすることが示唆さ れ た。 また , これ らの 転写 調節DNA領域に結合するDNA結合蛋白質がゲル移動度 シフト法 に より 同定 さ れた 。3っのDNA結 合 蛋白 質( ファ ク ターm,I,V)が組織特異的 転写調節 DNA領域に 特異的に結合することが明らかとなり,また,そのうちトランスに働く2っ(ファ ク タ‑IVおよびV)はTL抗 原陽性細胞に特異的に発現さ れていることから,TL抗原 遺伝子の 組織特異的転写に重要な役割を演じているものと推察された。

  上記のCAT遺伝子を用いたT18d遺伝 子プ口モーターの転写活性の 測定により,2っの隣接 するDNA領域(ポジシ、ヨン―4から十29,および十29から十54)がT18 遺伝子のプ口モーター を形成す ることが明らかとなった。そ のうちポジション一4と十29間に位置するDNA領域は イ ンタ ーフ ェ 口ン レス ポン スDNAシ ーク エ ンス(IRS)を含んでおり,このDNA領 域に結合 する蛋白 質(ファクターVI)が,ゲル 移動度シフト法により同定された。DNaseIフッ卜プリ ン ト法 によ り ,フ ァク タ‑ VIがIRSに結合すること が示された。IRSはHー2抗原 やQa抗原 等の主要組織適合遺伝子複合体クラスI遺伝子のプロモ一夕一領域中にも保存されており,H― 2抗原遺伝子ではエンハンサーとしてインターフェ口ンによるH―2抗原遺伝子の転写促進に重 要な役割 を果たしている。T18d遺伝子転写におけるIRSの機能を調べるため,その5′領域と 3′ 領 域のDNA配列 に人 工的 に変異を導入し,その転 写およびファク夕‑uとの結 合に及ば す影響を 調べた。その結果,T18d遺伝 子のIRSはファクターVIとの親和性およびT18d遺伝子 のプ口モ 一夕一活性に必須であること が明らかとなった。特に3′ 領域のDNA配列が重要で あることが示唆された。ゲル移動度シフト法において電気泳動時間を延長することにより,ファ クターVIが4っの構成要素より成ることが明らかとなった。そのうちのファクタ‑ VIbは30℃で ATPあ るい はdATPを 加 える こと によ りIRSか ら特 異 的に解離した。また,この反 応は4℃ では起こ らないことから,酸素反応の 関与が示唆された。このよ うにTATAボックスを欠く TL抗原遺伝子ではIRSが プロモ一夕ーとして重要であ ることが明らかとなった。H一2抗原

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遺伝子のIRSがエンハン サーとして作用するのに対 し,TL抗原遺伝子のIRSはプ口モー夕―

として働いており,こ のような機能的相違は,両IRSの塩基配列の違い,IRSの 周囲のDNA 配列の違い,転写開始 部位に対するIRSの相対的位 置の違い等によるものと推測 される。

  上述の組織特異的転 写調節DNA領域の機能の解析をinvivoおよびin vitroのフットプリン ト法により行った。ま ず,DNaseIフットプリン卜法 によルファクターmおよびIの結合する DNA配列 が決 定さ れた 。次に ,このDNA配列がTL抗原陽性 の細胞中で実際に核内蛋白質 と 結合しているかどうかを調べるため,プライマー利用遺伝子増幅法を用いたin vivoフットプリ ント法を行った。その 結果,このDNA配列はTL抗原 陽性細胞でのみ蛋白質と結合 している ことが判明し,細胞内におけるTL抗原遺伝子の組織特異的転写調節に極めて重要であることが 示唆された。

  TL抗原遺伝子のプロ モーター中に数多くの転写促進あるいは抑制に働くDNA配列が近接し て存在していることは ,正常細胞においてはTL抗原 遺伝子の総合的な転写調節が,特異的 DNA結合蛋白質の特定部 位への結合によってなされ ていることを暗示している。 それらの DNA結合蛋白質の合成は細胞分化の過程において調節されており,白血病細胞ではその合成に 異常を来していることが予想される。  .

学位論文審査の要旨 主 査    教 授    小 沼    操 副査    教授    清水悠紀臣 副 査    教 授    佐 藤 文 昭 副査    助教授   林    正信

  マウス の胸腺自血病(TL)抗原は,マ ウスタラスI分子の一員であり,第17染色体上の主要 組織適合遺伝子座に位置している。本抗原の機能は現在のところ不明であるが,Tリンパ球上に 発現されていることや,Hー2抗原と構造上類似していることなどから,細胞間の相互作用に関 与してい ることが示唆されている。TL抗原はBALB/cマウスの胸腺細胞に発現されているが TLハプロ タイプbのマウスでは発現さ れていない。しかしTLハプ口タイプbのマウスに由来 するある種の自血病細胞では発現されている。これは癌化に伴う遺伝子発現調節の異常によるも

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のと推察されている。

  申請者はTL抗原遺伝子の発現がT細胞の成熟過程においてどのように調節されているかを検 討 し , 本 論 文に ま とめ た。 本論 文は 英 文80頁か らな り ,参 考論 文2編を 付し てい る 。   T18d遺 伝 子 はBALB/cマ ウ ス のTL抗原 をコ ー ドす る遺 伝子 の一 員 であ り,BALB7cマ ウスの胸腺細胞お よびT細胞由来の白血病細胞に発現されている。そこで申請者は,まず,T 18 遺伝子のプ口モー夕―領域の詳細な解析を行った。その結果T18d遺伝子には複数の転写開 始部位が存在し,最上流の転写開始部位は翻訳開始部位の158塩基上流に位置しており,そのグ アニン残基をポジション十1とした。T18d遺伝子のプロモーター領域(ポジション―457から十 146まで)を制限 酵素を用い部分的に削除し,それらのDNA領域をク口ラムフェニコールアセ チル ト ラン スフ ェラ ー ゼ(CAT)遺 伝 子に 接続 する こ とに より 作製 した プラスミ ドDNAを TL抗 原 陽 性 お よ び 陰 性 細 胞 に 導 入 し, そのCAT活性 を 測定 し, 削除 され たDNA領 域 の T18d遺伝子の転写に対する影響を推定した。この方法によりT18d遺伝子の転写調節に関わると 推測されるDNA領 域が数多く同定され,それらの中にはシスに転写を抑制するものと促進す る機 能 を持 っも のが あ った。また,これらの転写調 節DNA領域に結合するDNA結 合蛋白質 がゲ ル 移動 度シ フト 法 によ り同 定さ れた 。3っのDNA結合 蛋白 質 (フ ァク夕一m,I,V) が組織特異的転写 調節DNA領域に特異的に結合することが明らかとなり,また,そのうちト ランスに働く2つ (ファク夕‑IVおよびV)はTL抗原陽性細胞に特異的に発現されいることか ら ,TL抗 原 遺 伝 子 の 組 織 特 異 的 転 写に 重要 な 役割 を演 じて いる も のと 推察 され た 。   次に,CAT遺伝 子を用いたT18d遺伝子プ口モ ーターの転写活性の測定により,2っの隣接 するDNA領域(ポ ジション‑4から十29,および 十29から十54)がT18d遺伝子のプ口モーター を形成することが 明らかにした。そのうちポ ジション‑4と十29間に位置す るDNA領域はイ ンタ ― フェ 口ン レス ポ ンスDNAシ ー クエ ンス(IRS)を含んでおり,このDNA領域 に結合す る蛋白質(ファク タ―vI冫が,ゲル移動度シフト法により同定された。DNaseIフットプリン ト法により,ファ ク夕‑ VIがIRSに結合するこ とが示された。T18d遺伝子転写におけるIRS の機能を調べるた め,その5′領域と3′領域 のDNA配列に人工的に変異を 導入し,その転 写およびファクターVIとの結合に及ぼす影響を調べた。その結果,T18d遺伝子のIRSはファク ターVIとの親和性およびT18d遺伝子のプロモーター活性に必須であることが明らかとなった。

特に3′領域のDNA配列が重要であることが示唆された。

  最後に,組織特 異的転写調節DNA領域の機能の解析をinvivoおよびin vitroのフットプリ ント 法 によ り行 った 。 まず,DNaseIフットプリント 法によルファクターmおよびIの結合

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す るDNA配 列 が 決 定 さ れ た 。 次 に , こ のDNA配 列 がTL抗 原 陽 性 の 細 胞 中 で 実 際 に 核 内 蛋 白 質と 結合し ている かどう かを 調べる ため, プライ マ―利 用遺 伝子増 幅法を 用いたin vivoフッ ト プ リ ン ト 法 を 行 っ た 。 そ の 結 果 , こ のDNA配 列 はTL抗 原 陽 性 細 胞 での み 蛋 白 質 と結 合 し て い る こ と が 判明 し , 細胞内 におけ るTL抗 原遺伝 子の組 織特 異的転 写調節 に極め て重要 であ る こ とが 示唆さ れた。

  以 上 の 成績 の よ う に申 請者は ,TL抗 原遺伝 子のプ 口モ 一夕ー 中に数 多くの 転写 促進あ るいは 抑 制 に 働 くDNA配 列 が 接近 し て 存 在 して い る こ と を 明ら か に し た 。こ の 事 実 は ,正 常 細 胞 に お い て はTL抗 原 遺 伝 子 の 総 合 的 な 転 写 調 節 が , 特 異 的DNA結 合 蛋 白 質の 特 定 部 位 への 結 合 に よ っ て な さ れて い る こ と を暗 示 し て い る。 そ れ ら のDNA結 合 蛋 白質 の 合 成 は 細胞 分 化 の 過 程 にお いて調 節され ており ,自 血病細 胞では その結 合に異 常を 来して いることが予想される。こ の 研 究 は ,TL抗 原 遺 伝子 の発現 調節 の機序 に関し て重要 な知 見を提 供する もので ある。 よっ て 審 査員 一同は 堀江正 人氏が 博士 (獣医学)の学位を受けるのに十分な資格を有するものと認めた。

参照

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