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マウスの胸腺と脾臓におけるIgE転写の比較

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(1)

平 成17年12月(2005年) 1

研 究報 文

マ ウ ス の 胸 腺 と脾 臓 に お け るIgE転

写 の 比 較

浅 貝 愛 美,木

下 裕 子,瀧

本 優 子,辻

朋 子,

長 谷 麻 子,山

愛 子,宮

田 堅 司

A Comparison

of IgE Gene Transcription

in the Thymus

with That in the Spleen

of the Mouse

Manami Asagai, Yuko Kinoshita, Yuko Takimoto, Tomoko Tsuji,

Asako Nagatani, Aiko Yamamoto and Kenji Miyata

Immunoglobulin heavy chain gene transcription was investigated by reverse transcription PCR both in the thymus and in the spleen of BALB/c mice of age 1 to 5 weeks old. A definitive difference in IgE tran-scriptions was found between in the thymus and in the spleen. IgE transcriptions were demonstrated clearly in the thymus of all mice, while, in the spleen, not detected in 1 to 3 weeks old. Therefore, the cells transcribing antibody genes in the thymus of mouse are neither B lymphocytes in blood vessels, nor invaded B lymphocytes after proliferation and development in the spleen. Those will be specific cells which proliferate and develop in the thymus from stem cells which immigrated at embryonic stage.

(Received September 1, 2005) 1、 は じ め に 胸 腺 は,発 生 期 に原 基 に 流 入 した 幹 細 胞 か ら胸 腺 細 胞 が分 化 増 殖 しTリ ンパ 球 とな り,Tセ ル リセ プ ター(TCR)を 介 し て ポ ジ テ ィ ブ ー ネ ガ テ ィ ブニ 重 選 択 を受 け る器 官 で あ る1,2}。選 択 さ れ たTリ ン パ 球 は,脾 臓,リ ンパ 節 お よ び粘 膜 の リン パ 組 織 へ 移 行 し,Bリ ン パ 球 に作 用 し抗 体 産 生 を 促 す3)。前 報 に お い て,BALB/cマ ウス 胸 腺 に お い て 胎 生 期 か ら抗 体 遺 伝 子 が 転 写 さ れ て い る こ と,抗 体 の ク ラ ス ス ィ ッチ が 起 き て い る こ と,胸 腺 分 離 細 胞 の一 次 培 養 上 清 中 に 抗 体 が 検 出 され る こ とか ら,胸 腺 に は 抗 体 産 生 細 胞 も存 在 す る こ とを示 し,胸 腺 内 でTリ ン パ球 が抗 体 産 生 細 胞 に 作 用 して い る可 能 性 を 示 唆 し た4)。 また,生 後1.5日 齢 の マ ウス の 胸 腺 と脾 臓 に お け る抗 体 遺 伝 子 の 転 写 に 僅 か に 差 異 が 認 め られ る こ と か ら,胸 腺 で 抗 体 遺 伝 子 を転 写 し抗 体 を産 生 し て い る 細胞 は,脾 臓 等 の 二 次 リンパ 組 織 で 分 化 し胸 腺 に 流 入 し て きた 細 胞,あ る い は,胸 腺 内 に分 布 す る血 管 内 の リ ンパ 球 で あ る可 能 性 を 否 定 した 。本 報 で は, 生 後 数 週 齢 間 の 胸 腺 と脾 臓 に お け る抗 体 遺 伝 子 の転 写 を 比 較 した 結 果IgE遺 伝 子 の転 写 に 明 瞭 な差 異 が 認 め られ る こ とを 見 い 出 した 。 Il.方 京都女子大学家政学部食物栄養学科栄養学第二研究室

1.材 料 コ ンベ ン シ ョナ ルBALB/cマ ウス を 用 い た 。 出 生 後3週 間 は 母 親 マ ウ ス と同 居 さ せ,21日 齢 で 雌 雄 別 々の ケ ー ジ に移 した 。固 形 試 料(MF,オ リエ ンタ ル酵 母)お よ び水 道 水 は 自由 に摂 取 させ た 。 頚 椎 脱 臼 さ せ た マ ウス を 開 腹,開 胸 し胸 腺 お よ び脾 臓 を摘 出 した 。 摘 出 した 試 料 は サ ン プ ル チ ュー ブ に 入 れ, 直 ち に 液 体 窒 素 中 で 凍 結 した 後,-800Cで 保 存 した 。

(2)

2 2. RNAの抽出 凍結した組織より,酸性グアニジンチオシアン酸 ーフェノール クロロホルム法によってトータル RNAを抽出した5)。エタノール沈殿法により精製し たトータルRNAは,濃度100ng/μlに調整した。 3. RTPCR トータルRNA300ngを鋳型としてRTPCRを行っ た。逆転写反応はM・MLVリバーストランスクリプ ターゼ (RT-PCRhigh,東洋紡), 6塩基のランダム プライマーを用い, 300C10分間,さらに420C 1時間行った。 990C5分間処理することにより反 応を停止させるとともに鋳型 RNAを分解した。こ の反応産物に,抗体IgM,IgG3, IgAおよびIgEの H鎖を増幅するためのプライマーおよびリコンビナ ントタック DNAポリメレースを加えてPCRを行っ た。 PCRに用いたプライマーを下記に示した。これ らのプライマーは,少なくとも一つのイントロン領 域を間に合むエクソン領域に相補的に結合するよう に設定した。したがって,目的のmRNAに基づく増 幅DNAとトータル RNA中に混入したゲノム DNA

に困り増幅されてくるDNAとの区別が可能である。 プライマーIgM-F TGGCTGAACCTGAATGTGTACA プライマーIgM-B GCACTGGTCACATACTTCTCTT プライマーIgG3-FTTGTCAAAGGCTACTTCCCTGA プライマーIgG3-BTTGTTGACCTTGCATTTGAACT プライマーIgA-F AACCCCGTCCAAGAATTGAA プライマーIgA-B TTTAGGGTTGAAAGCTCGCA プライマーIgE・F AACATGAGCACTGTGAACTT プライマーIgE-B AGCACCGTTTTGATACAGGT これらのプライマーを用いることにより, IgMで は581塩基対の, IgG3では541塩基対の, IgAでは 490塩基対の, IgEでは537塩基対のDNAフラグメ ントが増幅される。 PCRの条件は,反応溶液容量50 μ1,鋳型変性温度960

C

および変性時間30秒,プライ マーアニーリング温度 550Cおよびアニーリング時 間 1分,相補鎖合成反応温度 720Cおよび反応時間 2 分, 35サイクルに設定した。 4.デンシトメトリー PCR終了後,反応溶液 10μ1をアガロースゲルで、 電気泳動した。マーカーDNAλ(庄Iindm) 0.5μgを 同時に電気泳動した。エチジウムブロマイドによる 染 色 像 を LaboratoryImaging and Analysis System CUVP)に取り込み,マーカーDNAの564塩基対の フラグメントのデンシティーに対する IgEのデンシ ティーの比を求めた。 食物学会誌・第60号 1 11.結 果 コンベンショナルな状況下で飼育した,生後1週 齢から 5週齢,雌雄の BALB/cマウスの胸腺および 牌臓のトータルRNAを用いて,抗体H鎖遺伝子の 転写をRTPCR法で‘調べた。 IgEの転写量に関して, 胸腺と牌臓で,また,雌雄によって差異が認められ た。 1.雌マウスの抗体遺伝子の転写 生後7日齢雌マウスでは 胸腺で、は調べた全ての クラスの抗体のH鎖が転写されていた。IgEのmRNA に因る増幅されたDNA断片も明瞭に検出された。一 方,牌臓ではIgMおよびIgG3の転写は検出された けれども, IgAおよびIgEの転写は検出されなかっ た(図 1a,b)o 14日齢, 21日齢でも同様の結果が 得られ, IgEの転写は胸腺では検出されたけれども, 牌臓では検出されなかった。 23日齢, 29日齢では, 牌臓においても IgEの転写が検出される{同体も存在 した。これらの個体では,牌臓でのIgEの転写量は, IgMやIgG3に比較すると僅かであった(図1c,d, e, f)

2.雄マウスの抗体遺伝子の転写 生後7日齢雄マウスでは,胸腺では調べた全ての クラスの抗体が転写されていた。しかし,牌臓では IgEの転写は検出されなかった(図2a,b)0 14日齢, 21日齢でも同様の結果が得られ,胸腺ではIgEの転 写が検出されたけれども 牌臓では検11¥できなかっ た。 35日齢においても,牌臓ではIgEの転写は検出 できなかった(図2c,d)。 3宵胸腺および牌臓における IgE転写量の比較 電気泳動のマーカーとして用いた入-HindIIIDNA の 564塩基対の DNA断片の染色度を基準として, IgEの染色度を求めた。雌雄ともに胸腺における IgE の転写量は加齢に伴い増大する傾向が認められた。 牌臓における IgEの転写量は僅かであった。雌では, 3~4 週齢の間で牌臓での IgE 転写の僅かな増大が 認められた(図3)。

I

V

.

考 察

一次リンパ組織である胸腺は,

T

リンパ球が増殖, 分化しポジティブーネガティブ二重選択を受ける場 であり,適度に自己MHCを 認 識 し 自 己 抗 原 に 反 応しない

T

リンパ球のみが牌臓やリンパ節等の二次 リンパ組織に移動し, B リンパ球を活性化すること により抗体産生に関与する2)。 前報において, BALB/cマウスの胸腺において,胎

(3)

平 成17年 12月 (2005年) 3

-Thymus

Spleen

E A G3 M

m

E A G3 M

m

7d

I

E A G3 M

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l

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I

図1 BALB/c雌マウス胸腺および牌臓における抗体遺伝子の転写

a, b; 7日齢, c, d; 23日齢, e, f; 29日齢。胸腺 (Thymus) では IgEの転写産物が明瞭に認められ, 加齢に伴い増大する傾向を示した。 7日齢の牌臓 (Spleen) では, IgEは検出できなかった。 23日齢, 29日齢では,牌臓においても IgEの転写が検出された。レーン m;λ-DNん恒indIIIの 564b.p.フラグメ

ント, M; IgM, G3; IgG3, A; IgA, E; IgE

Thymus

Spleen

E A G3 M

m

E A G3 M

m

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E A G3 M

m

E A G3 M

m

3Sd

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鵬 糊 機

I

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一 報 : 地

d

図2 BALB/c雄マウス胸腺および牌臓における抗体遺伝子の転写 a, b; 7日齢, c, d; 35日齢。胎生 18日齢。胸腺では IgEの転写産物が明瞭に認められた。牌臓では, IgEの転写産物は 35日齢でも検出できなかった。レーン m;λーDNNHindIIIの 564b.p.フラグメント, M; IgM, G3; IgG3, A; Ig,A E; IgE 生期から抗体遺伝子が転写されていること,胎生期 胸腺細胞の一次培養上清中に抗体が産生されている ことより,胸腺にも抗体産生細胞が存在することを 示した4)。本報では,生後 1週齢から 5週齢聞の胸 腺および牌臓での抗体遺伝子の転写を検討した。 IgM, IgG3および IgAの転写に関しては,胸腺と牌 臓で差異は認め難かったけれども, IgEの転写に関 しては明瞭な差異が認められた。雌雄ともに胸腺で は, IgEは 1週齢から転写が起きていたけれども, 牌臓では 3週齢までは検出できなかった。雌では, 3週齢から 4週齢の間で,牌臓でも IgEの転写が検 出され始めた。雄では, 5週齢まででは,牌臓で IgE の転写は検出できなかった。デンシトメトリーの結 果では,雌雄ともに,胸腺におけるIgEの転写量は 加齢にともない増大する傾向が認められた。牌臓で は転写量は僅かであり 雌では 3~4 週齢の間で僅 かな増大が認められた。 IgE の転写は,雌雄ともに 牌臓よりも胸腺で先に開始されることが明らかと なった。胸腺における IgEの転写が血液中の B リン パ球によるものであるならば血液細胞がより多く 存在する牌臓でも IgEの転写が検出されるはずであ る。また,牌臓で分化した B リンパ球が胸腺へ流入

(4)

食物学会誌・第

6

0

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40

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10

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転写産物のデンシトメトリー

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a

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のフラグメントの デンシティー

(M

564)に対する

I

g

E

のデンシティーの比を求めた。雌雄ともに,胸腺における

I

g

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の転 写は加齢に伴い増大する傾向が認められた。胸腺と牌臓の

I

g

E

転写量の差異は明瞭であった。牌臓で は,雌では 3~4 週齢の聞で僅少量の IgE 転写産物が検出された。雄では 35 日齢まででは検出できな かった。

0;

~胸腺,口~牌臓,_♂胸腺, .;♂牌臓 図3 胸腺と牌臓での

I

g

E

の転写開始時期の差異は顕著 であり, この機構は不明であるけれども,胸腺で分 化した抗体産生細胞が,

T

リンパ球と同様に選択を 受けた後に,牌臓へ移動する可能性も考えられる。 マウスの胸腺は, これまで, T リンパ球分化の器官 として考えられてきたけれども,抗体産生細胞も分 化することを考慮すれば 鳥類に特異的な器官とさ れているファブリキウス嚢の機能をも兼ねていると みなすことも可能であろう。 1週齢から 5週 齢

B

A

L

B

/

c

マウスの抗体遺伝子の 転写を,胸腺と牌臓で比較した。調べた抗体のクラ スのなかで,

I

g

E

の転写量に関しては,胸腺と牌臓 で明瞭な差異が認められた。胸腺では,雌雄ともに,

I

g

E

1

週齢から転写されていた。牌臓では

3

週齢 までは検出できなかった。雌では, 3週齢から 4週 齢の間で,牌臓でも

I

g

E

の転写が検出され始めた。 雄では,

5

週齢まででは,牌臓で

I

g

E

の転写は検出

v

.

したので‘あれば,牌臓で検出されないとは考え難い。 したがって,生後数週齢の胸腺での抗体遺伝子の転 写細胞は,少なくとも

I

g

E

遺伝子を転写している細 胞は,胸腺固有の細胞と考えられる。 胎生期には

IgM

および僅少量の

I

g

G

3

が転写され ており,生後には

I

g

A

I

g

E

も転写され始めること から4),胸腺でも抗体遺伝子の

H

鎖の

V

-

D

-

J

および

L

鎖の

V

-

J

組換え,および抗体のクラススイッチが 起きている6,7)。すなわち,抗体産生細胞の分化も胸 腺内で進行していると考えられる。抗体遺伝子のク ラススイッチには,必ずしも抗原を必要としないこ とが示されているけれどもめ,胸腺内には抗原呈示 細胞として多くの樹状細胞 (DC)が存在することが 知られているのでめ,抗原に依存したクラススイッ チも起きていると考えられる10)。胸腺DCは自己抗 原を呈示することにより, T リンパ球のネガティブ セレクションに関与する以外にも多様な機能を持つ ことが示唆されており11),抗体産生細胞への外来抗 原の呈示もおこなっていると考えられる。

(5)

平成17年12月 (2005年) できなかった。 IgEの転写に関して胸腺と牌臓で明 瞭な差異が認められることから,胸腺で抗体遺伝子 を転写している細胞は,胸腺内の血管内のBリンパ 球ではなく,また,牌臓で分化した B リンパ球が流 入したものでもなく 発生段階で流入した幹細胞か ら胸腺内で分化したリンパ球であると考えられる。 (平成17.9.1.受付)

文 献

1)1. Roitt,

.

J

Brostoff and D. Male:Immunology, 5th ed. (Mosby ,)158 (1998) 2)R.Rugh:The Mouse, Its Reproduction and Develop -ment (Burgess Publishing), 265 (1968) 3) C. E. Butcher and

J

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272, 60-66 (1996)

4

)

池田江季,伊藤員紀子,今井由実,木村望美, - 5 中嶋真理,西川美絵,若林明日香,宮田堅司: 本誌, 59,31-36 (2004) 5)P. Chomczynski and N. Sacchi: Analytical Bio“ chem.

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図 1 BALB/c 雌マウス胸腺および牌臓における抗体遺伝子の転写

参照

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