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学 位 論 文 審 査 の 要旨 主 査

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Academic year: 2021

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(1)

     博士 (水産科学)吉岡武也 学位論文 題名

スルメイカ品質の新評価法と保持技術に関する研究 学位論文内容の要旨

  水産物にとって鮮度は最も重要な品質要素である。魚類筋肉の死後の性状変 化やそれに 及ぼす環境要因が、K値や硬直指数などの多くの鮮度指標を用いて 研究されている。また、海産甲殻類や軟体動物などの鮮度についても研究が行 なわれているが、イカの鮮度は可食限界を知る視点からの研究が多く、活イカ の状態からの研究はほとんど無いのが現状である。さらにイカの品質要素には、

物性、呈味などに加え、他の魚介類ではあまり問題とならない表皮の発色、肉 の透明感などがあり、死後に起こるこれらの性状変化を、多面的に検討した例 はなかった。本研究では、最も消費量の多い水産物であるスルメイカの鮮度を 生かした高付加価値利用をはかることを目的として研究を実施した。本研究は 3章か らなり、第1章では 活イカから の鮮度、品質変化を定量的に評価する新 たな方法を確立し、これらの指標を駆使して活イカの死後変化を多面的に検討 した。この成果に基づいてイカ鮮度と品質劣化の抑制技術の開発を行った。第 2章で はイカ肉質の変化に影響する筋肉タンパク質の変性と安定化の機構につ いて研究し た。第3章では代表的イカ加工品として塩辛をとりあげ、食品学的 研究を行った。

  第1章 では、最初に、高鮮度イカの新たな品質評価方法を開発し、保管中の 鮮度変化について検討した。まず、イカの重要な品質要素である表皮の発色と 身の透明感、肉の物性について測定方法の開発を行った。表皮の発色度合いは デジタル映 像の画像解 析により数 値化できた 。また肉の 透明感は700nmにお ける透過光の光散乱を試料の厚さで補正し濁度として表した。さらに肉の硬さ は、筋繊維 に対し垂直 にステン板 プランジャーを押し込み、歪率60%時の荷 重で 数 値化 で き、 イ カの 品 質変化の 定量的な評 価と考察が 可能となっ た。

    ―1486―

(2)

  次に、活イ カを即殺し、O℃に保管した際に起こる、これらの品質要素の変 化を測定 した結果、 保管12時間以内 に肉の厚さが最大となり、同時に物性値 が最小と なった。次 いで、24時間ま でに、表皮の発色と肉の濁度が最大とな った 。ATPも24時 間後 に は消 失 した 。K値は 保 管開 始 時に はO% で あったも のが 、24時間後に は23%となっ た。従来、 スルメイカ はK値の 上昇が速い と 言われていたが、今回の結果から魚類と変わらないことが確認された。また、

保管24時間以 内の高鮮度 イカにっい てはK値では判別が難しく、AI丶P含量の 方が、鮮度指標として鋭敏であることが判明した。

  これらの指標が変化する時間帯を検討すると、死後硬直を反映していると思 われる肉 の厚さが最 大となる時 間はATPの 消失よりも早く、イカは肉中のATP 濃度が比較的高いうちに硬直することが特徴であった。また、肉の厚さが最大 となった後にも濁度は上昇しており、肉の不透明化の原因は硬直に伴うミオシ ンとアクチンフィラメントの重なり合いによる光散乱に加え、別の原因も推定 された。表皮の発色も外套膜の厚さの変化とは相関しなかった。一方、硬直と 肉の硬さには相関があるように思えた。呈味成分として、遊離アミノ酸量の変 化を測定 したが、O℃、48時間程度の保管では、大きな変化は認められなかっ た。魚類 の重要な呈昧成分であるイノシン酸(IMP)はほとんど蓄積されず、ア デノシン ーリン酸(AMP)が蓄積されることが特徴的でありこ呈味の変化に影響 していることが推測された。

  上記の結果をふまえて、スルメイカ保管時の品質劣化の抑制技術開発のため に、(1)即殺方法、(2)飼育水の曝気処理、(3)締めた後の保管温度、(4) 保管時のイカの形態、(5)保管時のガス環境、(6)海水浸漬による保管など の影響を検討した。その結果、苦悶死よりも即殺死が、0℃よりも5℃保管が、

肉の 透明感と物 性の点で品 質が保たれ 、同時にATP含量も高 かった。活 き締 め時のストレスや保管温度と、保管後の品質との関係はマダイなどで研究が行 われており、今回のスルメイカの実験結果も同傾向であった。保管後の品質に 及ぼす炭酸ガスと酸素ガスの影響にっいて、イカが死ぬ前と後にっいて、それ ぞれ実験 を行った結 果、炭酸ガ ス処理を行 ったイカは保管後の肉の透明感と

(3)

ATP含量 が 低か っ た 。一 方 、酸素ガス 処理を行っ たイカはATP含量が高 い結 果となった 。また、死 んだ後のイ カを冷却海水に浸漬して保管すると、24時 間後においても色素胞は接触などの刺激に対し反応を示した。イカを保管した 際のATPの 消失と濁度 の増加は一 致しており 、活き締め 方法や保管 環境を変 えて も 、ATP含 量 と 肉の 透 明感には相 関があった 。ATPは生 体内では好 気的 環境下で効率的に生産されているが、生きている段階でのガス処理が保管後の 品質に影響 を与えてお り、酸素ガ ス処理はATP濃度の維 持と、その 結果とし ての表皮の発色や外套膜筋の透明感の維持に有効な要素技術のひとっとして重 要であると判断され、新技術への展開が期待される。

  イカを保管した際、肉の透明感や食感は速やかに低下するが、筋肉タンパク 質の主要成分であるミオシンとアクチンは、内因性プロテアーゼによる分解を ほとんど受けなかっ.た。このことは、透明感と食感の低下の主要因は、ミオシ ンやアクチンの断片化ではないことを示している。

  第2章 で は筋 原 繊 維タ ン パク質の熱 変性に対す るATPの影 響について 検討 を行った。 筋細胞内に は数ミリモ ル濃度のATPが含まれ ており、筋 肉運動の エネルギーとして利用されているが、筋原繊維タンパク質との相互作用を通し て、筋原繊維タンパク質の構造に影響している。このことから、イカ筋原繊維 タンパク質 の熱変性に 対するATPとその関連 化合物の効 果を、CaーATPase活 性を指標と して検討し た。その結 果、ATPはMg2゛共存下でミオシンの熱変性 を強 く 抑制 し たが 、ADPの 抑制 効 果は 比 較的 弱 く、AMPとIMPは効果がな か った。すな わち、ATP関連化合物 による変性 抑制には、 ミオシンに 対するこ れら化合物のりン酸基の数に依存した親和カと、ミオシンの構造変化が関与し ていることが明らかとなった。一方、生体内ではミオシンはアクチンと結合し て安定な状 態にあるこ とも知られ ている。ATPの類似化 合物を用い た実験か ら、生体内において、弛緩状態の時、アクチンから解離しているミオシンはATP により安定化され、また収縮あるいは死後硬直中はアクチンが結合し、ミオシ ンは安定化されており、いずれにしてもミオシンは安定な状態にあると判断さ れた。

(4)

  第3章で は、 道南 地域の イカ 塩辛生産量の全国に占める割合は約24%であ り、地域として重要なイカ加工品であることから、食品学的および微生物学的 特性など、総合的な見地から市販品の特性分析を行った。その結果、揮発性塩 基窒素量、水分含量、色調(b゛値)に差が見られ、道南産は見た目の黄色みが薄 く、熟成の浅いものが多いと判断された。また、水分含量の差による食感の違 いも予想された。塩分含量は平均5.8%であり、過去の分析例と比較して低く、

ま た、水分活性値は平均0.93と高い傾向を示していたことより、今後、製造 および流通時の微生物制御が、いっそう重要となると判断された。一方、イカ 塩辛において、食塩の添加とイカ肝臓の添加は、イカ肉ミオシンの分解を速め、

低 分 子 量 化 を 加 速 し 、 物 性 や 呈 昧 性 へ の 影 響 が 予 想 さ れ た 。

(5)

学 位 論 文 審 査 の 要旨 主 査

副 査 副 査 副 査

教授 教授 教授 助教授

関    伸 夫 今野久仁彦 猪 上 徳 雄 埜 澤 尚 範

学 位 論 文 題 名

ス ル メ イ カ 品 質 の 新 評 価 法 と 保 持 技 術に 関 す る 研究

    水 産 物 に と っ て 鮮 度 は 最 も 重 要 な 品 質 要 素 で あ る 。 魚 類 に つ い て は 多 く の 鮮 度 指 標 を 用 い て 研 究 が な さ れ て い る 。 ま た , 海 産 無 脊 椎 動 物 の 鮮 度 研 究 も 行 な わ れ て い る が , イ カ の 鮮 度 は 可 食 限 界 を 知 る 視 点 か ら の 研 究 が 多 く , 活 イ カ の 状 態 か ら の 研 究 は ほ と ん ど 無 い の が 現 状 で あ る 。 さ ら に イ カ の 品 質 要 素 に は 、 表 皮 の 発 色 、 肉 の 透 明 感 、 物 性 、 呈 味 な ど が あ り 、 死 後 に 起 こ る こ れ ら の 性 状 変 化 を 、 多 面 的 に 検 討 し た 例 は な か っ た 。 本 研 究 は3章 か ら な り , 第1章 で は ス ル メ イ カ の 鮮 度 , 品 質 変 化 を 定 量 的 に 評 価 す る 新 た な 方 法 を 確 立 し , 活 イ カ の 死 後 変 化 を 多 面 的 に 検 討 し た 。 イ カ の 重 要 な 品 質 要 素 で あ る 表 皮 の 発 色 と 肉 の 透 明 感 と 物 性 に つ い て 測 定 方 法 を 開 発 し た 。 表 皮 の 発 色 度 合 い は デ ジ タ ル 映 像 の 画 像 解 析 に よ り 数 値 化 で き た 。 ま た 肉 の 透 明 感 は700nmに お け る 透 過 光 の 光 散 乱 を 試 料 の 厚 さ で 補 正 し て 表 し た 。 さ ら に 物 性 ( イ カ 肉 の 食 感 ) は 、 筋 繊 維 に 対 し 垂 直 に 板 状 プ ラ ン ジ ャ ー を 押 し 込 み、 歪 60%時 の 荷 重 で 数 値 化 で き 、 イ カ の 死 後 変 化 の 定 量 的 な 評 価 と 考 察 が 可 能 と な っ た 。

  次 に , 活 イ カ を 即 殺 し 、0℃ 保 管 時 の こ れ ら の 品 質 要 素 の 変 化 を 測 定 し た 結 果 、 保 管12時 間 以 内 に 硬 直 に よ る 肉 の 厚 さ が 最 大 と な り 、 同 時 に 物 性 値 が 最 小 と な った 。 次 い で ,24時 間 後 ま で に 表 皮 の 発 色 と 肉 の 不 透 明 化 が 進 行 し , 濁 度 が 最 大 と な った 。 ATP24時 間 後 に は 消 失 し た 。 イ カ は 肉 中 のATP濃 度 が 比 較 的 高 い う ち に 硬 直 す る こ と が 特 徴 で あ っ た 。 : 鮮 度 指 標K値 は 保 管 開 始 時 に はO%で あ っ た が 、24時 間 後 に は 23% と な り , 刺 し 身 の 鮮 度 限 界 に 達 し た が , こ の よ う な 高 鮮 度 イ カ の 判 別 はK値 で は 難 し く ,ATP含 量 の 方 が 、 指 標 と し て 鋭 敏 で あ る こ と が 判 明 し た 。 呈 味 成 分 と し て 、 遊 離 ア ミ ノ 酸 量 の 変 化 を 測 定 し た が 、0℃ ,48時 間 程 度 の 保 管 で は 、 大 き な 変 化 は 認 め ら れ な か っ た 。 魚 類 の 皇 味 成 分 で あ る イ ノ シ ン 酸(IMP)は ほ と ん ど 蓄 積 さ れ ず 、 ア デ ノ シ ン ー リ ン 酸(AMP)が 蓄 積 さ れ る こ と が 特 徴 的 で あ り 、 呈 味 の 変 化 に 影 響 し て い る こ と が 推 測 さ れ た 。

(6)

  上記の結果をふまえて、スルメイカ保管時の品質劣化抑制のために,即殺方法、

飼育水の曝気処理、締めた後の保管温度、保管時のイカの形態、保管時のガス環境、

海水浸涜による保管などの影響を検討した。その結果、苦悶死よりも即殺死が、0

℃よりも5℃保管が、肉の透明感と物性の点で品質が保たれ、同時にATP含量も高 かった。ATP含量と肉の透明感には相関があった。保管時の炭酸ガスと酸素ガスの 影響を調べたところ,炭酸ガス処理を行ったイカは保管後の肉の透明感とATP含量 が低かった。一方,酸素ガス処理ではATP含量が高い結果となった。また、死んだ 後のイカを冷却海水に浸漬して保管すると、24時間後においても色素胞は接触など の刺激に対し反応を示した。酸素ガス処理はイカ肉のATP濃度の維持と、その結果 としての表皮の発色や肉の透明感の維持に有効な要素技術として重要であり、新規 保管技術としての展開が期待される。

  第2章ではイカ肉質の変化に影響する筋肉夕ンノヾク質の変性と安定化の機構につ いて,Ca‑ATPase活性を指標 として検討 した。その 結果、ATPはミオシンの熱変 性を 強 く抑 制したが、ADPの抑制 効果は比較 的弱く、AMPとIMPは 効果がなか っ た。ATP類似化合物を用いた実験から、生体内において,弛緩状態の時,アクチン から解離しているミオシンはATPにより安定化され、また収縮あるいは死後硬直中 はアクチンが結合し,ミオシンは安定化されており、いずれにしてもミオシンは安 定な状態にあると判断された。一方,イカを保管した際、イカ肉は内因性プロテアー ゼによる分解をほとんど受けなかったことから,透明感と食感の低下に肉夕ンバク 質の分解は関与していなかった。

  第3章では道南地域の重要なイカ加工品のひとつである塩辛の食品学的および微 生物学的特性など,総合的な見地から市販品の特性分析を行った。揮発性塩基窒素、

水分含量、色調(b゛値)に差が見られ、道南産は見た目の黄色みが薄く、熟成の浅い ものが多かった。また、水分含量の差による食感の違いも予想された。塩分含量は 平均5.8%であり、過去の分析例と比較して低く、また、水分活性値は平均0.93と高 い傾向を示していた。水分活性により細菌の発育を調節するには0.90以下に保つ必 要があると言われており、今後、製造や流通時の微生物制御が、いっそう重要とな ると判断された。

  本研究は従来の可食限界を知る視点からの鮮度研究ではなく,活イカの高鮮度評 価方法の新規開発と高鮮度維持技術について新たな知見を得ており、イカの品質向 上と高度利用に寄与するところが非常に大きい。

  したがって、審査員一同は本論文の審査結果に基づき博士(水産科学)の学位を授 与される資格のあるものと判定した。

参照

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