学 位 論 文 審 査 の 要 旨
論 文 提 出 者 松 下 孝 直
論 文 審 査 委 員
(主 査) 朝日大学歯学部教授 堀田 正人
(副 査) 朝日大学歯学部教授 吉田 隆一
(副 査) 朝日大学歯学部教授 田沼 順一
論 文 題 目 根尖性歯周炎におけるエピジェネティクスな変化を背景とした炎症性 組織の動向
論文審査の要旨
難治性根尖性歯周炎に対して、歯科用顕微鏡や
CT
画像診断を駆使した歯内療法が実施 されているが、歯科臨床では依然として完全に治らない難しい根尖性歯周炎に遭遇する。難治化する原因にはオーラルバイオフィルムの実態や根尖病巣が急速に拡大する宿主側 因子などが考えられる。根尖歯周組織の口腔常在菌感染により、根尖周囲の細胞から種々 のサイトカインや成長因子が放出され、炎症が増悪する。しかし、根管内の無菌化(細菌 除去)後においても治癒しない症例は多く存在し、根尖部に持続している慢性炎症の存在 が考えられる。そこで、本研究では難治性の慢性根尖性歯周炎、100症例に対して病巣の 組織構造の検索、根管細菌、免疫細胞、炎症性サイトカイイン、細胞増殖因子とそのレセ プターの検出を行っている。さらに、これらの難治性慢性根尖性歯周炎の活発な炎症性細 胞の増殖が
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遺伝子産物(抗16
抗体と抗ki-67
抗体の陽性反応)の検出からエピジェ ネティクスな変化、すなわち、DNA のメチル化等の化学修飾による遺伝子発現の制御伝 達によるものなのか、免疫組織学的に検索したものである。まず、難治性の慢性根尖性歯 周炎、100 症例に対してHE
染色による病理組織学的分類を行った結果、40 症例が歯根 肉芽腫、45症例が歯根のう胞、15症例が慢性化膿性根尖性歯周炎で、ほとんどの基本的 構成要素は幼若から成熟した肉芽組織であったとしている。根管内細菌の侵襲は慢性化膿 性根尖性歯周炎に3
例、歯根のう胞に1
例認めただけであったとしている。免疫細胞の検 出ではCD68
のマクロファージの浸潤が最も多く、リンパ球は少なかったとしている。炎 症性サイトカインの検出ではマクロファージを中心に多くの炎症性細胞が認められ、これ らのレセプターは主に線維芽細胞と血管内皮細胞に認められたとしている。細胞増殖因子の
bFGF、PDGF、TGF-βはマクロファージ、線維芽細胞、血管内皮細胞に発現し、こ
れらのレセプターは線維芽細胞と血管内皮細胞に多く認めている。エピジェネティクスな 変化の検出では幼若肉芽組織におけるマクロファージや線維芽細胞で
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陽性を認め、瘢痕化繊維組織では陰性であったとしている。また、歯根のう胞では裏装上皮に
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陽 性を認めている。しかし、細胞増殖を示すki-67
はいずれの症例でも陽性率が低く、陰性 で、炎症反応による増殖、すなわち、増生であったとしている。2
これらのことは、難治性の慢性根尖性歯周炎の病巣は免疫応答を生じ、線維芽細胞と血 管内皮細胞がマクロファージとの間で、サイトカインネットワークを形成し、これにエピ ジェネティクスな変化が加わることで根尖性歯周炎に存在する肉芽組織の形成と増生に繋 がることを示唆しており、慢性炎症の特徴である肉芽組織やマラッセの上皮遺残の増生に 関する発症のメカニズムの一端を解明したものである。したがって、審査委員は以上の本 論文の研究成果を評価し、価値ある所見を提供したものであり、学位授与に値するものと 判定した。