はじめに
サルコイドーシスは,肺,眼,皮膚等さまざ まな臓器に非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を伴う原 因不明の多臓器疾患である.若年者から高齢者 まで発症し,症状としては発熱,体重減少,全 身倦怠感等の全身症状から,咳,霧視・羞明・ 飛蚊・視力低下,皮疹等臓器特異的な症状まで, 臨床症状が多彩である.サルコイドーシスと診 断されたなかでは,腎病変は少なく,腎機能障 害の原因としては,カルシウム(Ca)代謝異常 に伴う腎障害,肉芽腫性間質性腎炎,糸球体腎 炎等があるが,高Ca血症による腎機能障害の頻 度が多い. 今回,高Ca血症を認めなかったが,腎機能障 害を呈し,腎生検を契機にサルコイドーシスと 診断した症例を経験したため,報告する.症例
患者:74 歳,女性.主訴:発熱,全身倦怠 感.現病歴:X年 4 月頃より全身倦怠感が出現高Ca血症を認めないにもかかわらず,
急速に進行する腎機能障害を呈した
サルコイドーシスの1例
大西 啓右1) 西島 陽子1) 下野 愛子1) 西岡 里香1) 藤田 拓朗1) 尾崎 太郎1) 守時 政宏1) 祖父江 理1) 串田 吉生2) 南野 哲男1) 要 旨 74歳,女性.発熱,全身倦怠感,腎機能障害のため,紹介された.腎生検にて肉芽腫性間質性腎炎と診断.眼 病変や血液検査,画像検査の結果からサルコイドーシスと診断し,サルコイドーシスによる腎機能障害と考えら れた.ステロイドを開始し,腎機能は改善傾向である.サルコイドーシスにおいて,正常Ca値でも肉芽腫性間質 性腎炎による腎機能障害を呈する例もあり,可能な限り腎生検を施行し,診断を確定する必要がある. 〔日内会誌 107:1551~1557,2018〕 ポイント ・サルコイドーシスにおける腎機能障害の原因としては,高Ca血症が多い. ・正常Ca値でも肉芽腫性間質性腎炎による腎機能障害を呈する例もある. ・ 腎機能障害を伴うサルコイドーシス症例では,検尿異常が軽微であっても,腎生検にて原 因検索を行う必要がある. Key words サルコイドーシス,肉芽腫性間質性腎炎,腎機能障害 〔第116回四国地方会(2017/05/21)推薦〕〔受稿2018/01/11,採用2018/03/20〕 1)香川大学循環器・腎臓・脳卒中内科,2)同 附属病院病理診断科Case Report;A case of kidney impairment without hypercalcemia in the patients with sarcoidosis.
Keisuke Onishi1), Yoko Nishijima1), Aiko Shimono1), Rika Nishioka1), Takuro Fujita1), Taro Ozaki1), Masahiro Moritoki1), Tadashi Sofue1), Yoshio
Kushida2) and Tetsuo Minamino1):1)Department of Cardiorenal and Cerebrovascular Medicine, Faculty of Medicine, Kagawa University, Japan
し,8 月には微熱,食欲不振,体重減少があり, 1 カ月仕事を休んだ.9 月末,A診療所にて腎機 能障害(X年 1 月 Cr 0.67 mg/dl → X年 9 月 Cr 3.0 mg/dl → X年 10 月 Cr 4.5 mg/dl)を指摘さ れた.急速に腎機能障害を認めたため,X年 10 月末に精査加療目的で当院を紹介受診.既往 歴:高尿酸血症.家族歴:特記すべき事項なし. 身体所見:身長 160 cm,体重 67.6 kg(半年で 12 kg減少).体温 36.2℃.脈拍 72 回/分,整. 血圧 115/74 mmHg.SpO2 98%(room air).眼 瞼,眼球結膜に異常なし.全身リンパ節腫脹な し.心音や呼吸音に異常なし.腹部は膨満,軟, 圧痛なし.四肢に浮腫や紫斑なし.両足底にし びれあり(右>左),下腿筋力低下なし.関節痛 なし.飛蚊症あり.振戦を認める.内服薬:尿 酸低下薬(詳細不明),クロナゼパム0.5 mg/日. 血 液 検 査 所 見: 血 算: 赤 血 球 368 万/μl,Hb 11.8 g/dl,白血球 4,980/μl,血小板 28.6 万/μl, 生化学:TP 8.3 g/dl,Alb 4.6 g/dl,BUN 53.3 mg/ dl,Cr 3.87 mg/dl,UA 9.6 mg/dl,TG 159 mg/ dl,HDL-C 86 mg/dl,LDL-C 96 mg/dl,総ビリ ルビン 0.48 mg/dl,AST 19 IU/l,ALT 18 IU/l, LD 124 IU/l,ALP 192 IU/l,γ-GTP 20 IU/l,Na 136 mEq/l,K 3.6 mEq/l,Cl 103 mEq/l,Ca 9.6 mg/dl,CRP 0.46 mg/dl,HbA1c 4.9%, 免 疫学的検査:IgA 428 mg/dl,IgG 2,032 mg/dl, IgM 122 mg/dl,C3 114 mg/dl,C4 35 mg/dl, CH50 59.8,抗核抗体40倍未満,抗SS-A抗体3.0 未満,抗SS-B抗体 3.0 未満,MPO-ANCA 3.0 未満 U/ml,PR3-ANCA 3.5 未満U/ml,抗糸球体基底 膜 抗 体 3.5 未 満U/ml,IL-2R 3555 U/ml,ACE 27.0 IU/l,リゾチーム40.7 μg/ml,T-SPOT陰性, MAC抗体陰性.尿検査所見:尿定性:pH 5.0, 比重 1.010,糖+/-,蛋白 1+,潜血+/-,ビ リルビン-,WBC 3+,尿沈渣:赤血球1~4/1 視野,尿生化学:尿蛋白0.27 g/日,NAG 9.1 U/ l,β2MG 1445 μg/dl,FECa 2.4% 急速進行性に腎機能障害を認めたが,高 Ca血症は認めず,検尿異常は軽微であった. 胸部X線写真:肺野に異常影なし,心拡大な し.心電図:1度AV blockあり.心エコー検査: 壁運動異常なし,収縮能異常なし.CT(computed tomography):気管右側,左肺門部にリンパ節 と思われる軟部影の軽度腫脹を認める.ガリウ ムシンチ:気管右側,左肺門部に集積あり,同部 位にCTで腫大したリンパ節と思われる軟部影を 認める.両腎にびまん性の集積亢進あり(図 1).
臨床経過
当院受診時,数カ月単位で増悪する腎機能障 害を認めたが,尿検査では蛋白尿,血尿の程度 は軽度であり,沈査でも円柱等は認めなかっ た.検尿異常は軽微であり,急速進行性糸球体 腎炎よりも間質性腎炎等の可能性を考慮し,入 院第 3 病日に腎生検を施行した.光学顕微鏡所 見(図 2)では,糸球体のメサンギウムや基底 膜に変化は認めず,半月体形成等の病変も認め なかった.間質ではリンパ球浸潤が40%の範囲 にみられ,多核巨細胞を伴う類上皮細胞肉芽腫 が散見された.尿細管の萎縮と線維化は約40% に認められた.蛍光抗体法では,免疫グロブリ ンや補体の沈着は認めなかった.電子顕微鏡で も,高電子密度の沈着物は認めなかった.以上 より,肉芽腫性間質性腎炎と診断した. 腎機能障害の原因は肉芽腫性間質性腎 炎と腎生検にて診断した. 腎生検の結果から,肉芽腫を形成する疾患を 鑑別するため,追加検査を行った.再度問診す ると飛蚊症の症状があり,眼科にてテント上周 辺虹彩前癒着,網膜静脈周囲炎を指摘された. また,ガリウムシンチグラフィでは縦隔リンパ 節と両腎に集積を認め,血液検査ではリゾチー ムとIL-2R(interleukin-2 receptor)上昇を認め た.これらを総合的に判断し,サルコイドーシ スと診断した. 一口メモ 一口メモ図 1 CT,ガリウムシンチ A,B:SPECT-CT 検査(水平断,冠状断) C,D:ガリウムシンチ検査 A C B D 図 2 腎生検所見 A:HE 染色 弱拡大 B:HE 染色 強拡大 A B
眼病変・ガリウムシンチ・血液検査か ら,サルコイドーシスと診断した. 入院第16病日よりprednisolone(PSL)30 mg を開始し,飛蚊症等の症状や腎機能は改善傾向 を認めた.第 27 病日にPSL 25 mgに減量し,退 院した(図 3).以後,外来でもステロイドを減量 しているが,腎機能障害の再燃は認めていない.
考察
サルコイドーシスは肺,眼,皮膚等の臓器に 病変を認めることが多いが,サルコイドーシス に伴う腎病変は,国内の報告では3.7%1),海外 では 0.5~2.7%2~4)と頻度は比較的低い(表). サルコイドーシスに伴う腎機能障害の原因とし ては,Ca代謝異常に伴う腎障害,肉芽腫性間質 性腎炎,糸球体腎炎等が知られており,頻度と しては高Ca血症が最も多く,肉芽腫性間質性腎 炎は頻度が低いとされている5,6).本症例では入 院時高Ca血症を伴わない腎機能障害を認めて いた.高Ca血症を伴う腎機能障害の場合,Ca濃 度の補正を行うことで腎機能障害の改善を認め る症例も多いため,腎生検を必要としないこと もあるが,本症例では,明らかな高Ca血症を 伴っていなかったため,尿細管間質性腎炎の可 能性を考慮して腎生検を施行した.腎生検の結 果,本症例では糸球体病変を認めず,他の腎障 害を起こす明らかな原因を伴っていなかったた 一口メモ 図 3 入院後経過 Cr:クレアチニン,PSL:プレドニゾロン 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 PSL 30 mg 25 mg 20 mg 15 mg 血清 Cr(mg/dl) 20 mg 17.5 mg X年11月 12月 X+1年1月 2月 3月 4月 表 サルコイドーシス症例における 罹患臓器の割合 罹患臓器 (2007)森田1) Baughman(2001)2) (2017)Mañá4) 肺 86.1 95.0 ― 眼 54.8 11.8 7.7 皮膚 35.4 15.9 20.8 心臓 23.0 2.3 0.8 リンパ節 15.2 15.2 17.8 神経 7.2 4.6 8.8 肝臓 5.6 11.5 17.7 筋肉 4.2 0.4 0.9 腎臓 3.7 0.7 2.7 耳下腺 3.1 3.9 1.9 消化管 1.6 ― ― 骨 0.7 0.4 3.3め,肉芽腫性間質性腎炎が腎障害の原因と考えた. 一方,サルコイドーシスの剖検症例をまとめ た報告では,7~23%の例で腎臓に肉芽腫を認 めている7).このことから,サルコイドーシス 患者では腎機能障害を伴わない潜在的な腎肉芽 腫性病変が存在し,臨床的に腎病変を診断でき ていない可能性があると考えられる.サルコイ ドーシスの臓器合併症としては,肺病変が最も 多いものの,肺門リンパ節腫脹だけでは症状に 乏しい.国内の報告では,両側肺門リンパ節腫 脹に次いで,眼病変の有病率が 26.5%~50.2% と高値を示している1).海外の報告では,眼病 変は 12%2)と報告されているように,我が国に おいては眼病変の有病率が高いため,サルコイ ドーシスの診断においては有用な所見と考えら れる.今回は,発熱,全身倦怠感,腎機能障害 で入院となったが,本症例でも先行する眼症状 をより早期に拾い上げることができれば,より 早期のサルコイドーシス診断が可能であったと 考えられる. 我が国では,眼症状がサルコイドーシス の自覚症状となる頻度が最も高い. 肉芽腫性間質性腎炎の治療としては,副腎皮 質ステロイド薬が用いられることが多いが,投 与量や投与期間について標準化された基準はな い.初期量としては,PSL 0.5~1 mg/kgの経口 副腎皮質ステロイド薬で開始とする報告が多 く,4 週間は開始量を維持すべきであるとされ ている.治療開始 4 週間後までの治療反応性が その後の腎機能改善を予測するが,肉芽腫性間 質性腎炎は治療反応性が良好であることが示さ れている3). 一方,治療開始 4 週間後までの反応が不良な 患者は,腎予後が悪く,再発の可能性がより高 い傾向にある.また,治療前の腎生検で間質の 線維化が軽度である場合は,ステロイド治療に よる腎機能改善は良好であるが,高度の線維化 を認める症例では腎機能改善が認められていない3). サルコイドーシスによる肉芽腫性間質性 腎炎の場合,早期の診断・治療が重要で ある. 本 症 例 に お い て は, 初 期 治 療 と し て,PSL 0.5 mg/kgの経口副腎皮質ステロイド薬にて治 療を開始し,4 週間後には腎機能の改善を認め た.しかし,治療開始前の腎生検では間質の線 維化が約40%で認められており,本症発症前ま では腎機能は改善していない.肉芽腫性間質性 腎炎による腎障害については,副腎皮質ステロ イド薬で腎機能改善が見込まれるため8),早期 に診断することで,尿細管間質の線維化が進行 する前に治療でき,腎機能の改善が期待できる と考えられる.サルコイドーシスを早期に診断 するためには,本症例のように全身症状を伴う 腎機能障害の症例に対しては,サルコイドーシ スを念頭に置いて,眼症状を中心にその症状を 細かく問診・身体診察することで腎外病変から 早期診断し得る.また,検尿異常が軽微な腎機 能障害に対しては,肉芽腫性間質性腎炎を念頭 に置いて,早期に腎生検を考慮することが重要 であると考える.
最終診断
急性腎障害を呈した サルコイドーシスによる肉芽腫性間質性腎炎おわりに
高Ca血症を認めないにもかかわらず,腎機能 障害を呈したサルコイドーシスの症例を経験し た.肉芽腫性間質性腎炎による腎機能障害につ いては,間質の線維化が腎予後と関連してお り,可能であれば腎生検を行い,診断を確定さ せることが必要である. 一口メモ 一口メモ 一口メモ 著者のCOI(conflicts of interest)開示:本論文発表内容 に関連して特に申告なし文 献
1) 森本泰介,他:2004 年サルコイドーシス疫学調査.日サ会誌 27 ; 103―108, 2007.
2) Baughman RP, et al : Clinical characteristics of patients in a case control study of sarcoidosis. Am J Respir Crit Care Med 164 : 1885―1889, 2001.
3) Mahévas M, et al : Renal sarcoidosis : clinical, laboratory, and histologic presentation and outcome in 47 patients. Medicine(Baltimore)88 : 98―106, 2009.
4) Mañá J, et al : Multidisciplinary approach and long-term follow-up in a series of 640 consecutive patients with sarcoidosis : cohort study of a 40-year clinical experience at a tertiary referral center in Barcelona. Medicine 96 : e7595, 2017.
5) Berliner AR, et al: Sarcoidosis : the nephrologist’s perspective. Am J Kid Dis 48 : 856―870, 2006. 6) 風間順一郎,他:腎機能障害を併発したサルコイドーシスの二例.日サ会誌 21 : 69―73, 2001.
7) Longcope WT, Freiman DG : A study of sarcoidosis ; Based on a combined investigation of 160 cases including 30 autopsies from The Johns Hopkins Hospital and Massachusetts General Hospital. Medicine(Baltimore)31 : 1―132, 1952.
8) 安東 優,他:腎機能障害を呈したサルコイドーシス症例の検討.日サ会誌 32 ; 101―105, 2012.
検尿異常から腎移植まで,全ての腎疾患に対 応した臨床・研究・後期研修を行っています. 【病棟】 病床数 11 【医局員数】 12名<スタッフ(助教以上)5名,医員4名, 研修病院勤務 3 名> 【対象疾患】 慢性腎炎・ネフローゼ症候群,慢性腎臓病 (chronic kidney disease:CKD), 急 性 腎 障 害 (acute kidney injury:AKI),高血圧精査,多発 性囊胞腎,末期腎不全(血液透析,腹膜透析, 腎移植),アクセス血管外科,アフェレシス,腎 移植後レシピエントの内科的管理,移植腎生検 による病理診断,オンコネフロロジー 【腎生検】 年間約 50 件の経皮的腎生検と約 20 件の移植 腎生検による病理診断 【腎不全外科】 年間約 50 件の腎代替療法導入実績年間 70 件 の内シャント(AVF)造設術を含む約 130 件の 腎不全外科治療 その他,人工血管挿入術,PDカテーテル挿入 術,長期留置型カテーテル挿入術 等
内シャント血管内治療(vascular access inter-vention therapy:VAIVT):シャント閉塞に対す る緊急症例を含め,年間約400件(関連病院含む) 腹膜透析導入:年間 5~10 件 【外来診療】 月曜日を除く毎日腎臓内科外来を行っていま す.腎移植外来・腹膜透析外来,腹膜透析と血 液透析のハイブリッド外来も行っています. 【研修内容と到達目標】 当院は日本腎臓学会認定研修施設・日本透析 医学会認定施設・日本アフェレシス学会認定施 設であり,内科専門医・各専門医取得を目標と した後期研修を行っています. 入院患者は単独で担当し,シャント手術・ VAIVT等の手技は補助から開始し,独立して完 遂できるレベルを目標としています. ホームページ http://kagawa-ninai.jp/ 文責: 香川大学医学部循環器・腎臓・ 脳卒中内科 講師 祖父江 理 症例掲載施設紹介