重過失免責の認定と分析
天 野 康 弘
■アブストラクト
重過失は,規範的抽象的概念であることから,いかなる事実や要素を考慮 すべきか一義的には明らかではない。そこで,平成以後の近時の裁判例の認 定を類型的に分析し,重過失を導く事実・要素・視点について検討を加える のが本稿の主たる目的である。裁判例の多くが重過失の意義についていかに 解しているかも分析する。
多くの裁判例は,重過失の意義について,著しい注意義務違反と解して,
特別狭く解釈していない。そして,重過失の認定に際しては,行為それ自体 の危険性が極めて高いこと,それが周知なこと,通常人であれば危険性を容 易に予見できることといった各要素が基本となり,その他の要素を検討する という構造が基本的であるといえる。
注意欠如の程度は甚だしいが,当該行為について何らかの事情や原因があ り,重過失を否定する結論を採る場合,裁判例では,重過失の意義について 制限的に狭く解釈する傾向があるように思える。
■キーワード
重過失,保険者免責,著しい注意義務違反
*平成24年12月21日の日本保険学会関東部会報告による。
/平成25年7月4日原稿受領。
第1 はじめに
1 本論 の目的
生命保険ないし共済の災害特約・傷害特約については,約款上の保険者免 責の一つとして,重過失免責が規定されている。保険法でも任意規定として 定められている(保険法17条1項,35条,80条1号)。
免責事由としての重過失の意義や趣旨については見解が統一をみていない が,実務では重過失免責の可否についていずれにしろ判断を下し,支払可否 を決める必要がある。その際には,重過失の有無についての認定を各社・各 団体でせざるを得ない。
そこで,以下では,平成に入ってからの保険共済契約の裁判例における重 過失の認定を通して,重過失を導いた事実・要素・視点について類型別に分 析・検討を試みた。ここでは,生命保険共済の災害特約・傷害特約で検討し た。
以下の○数字は 別表 重過失免責が争われた裁判例一覧 の番号である。
別表においては,紙面の都合上,詳細は割愛しているので,必要な場合は,
裁判例文献そのものを参考されたい。
2 重過失の意義
まず,重過失の意義について,先行する重要判例を2つ検討しておく。
民法の失火責任法に関する最判昭32年7月9日民集8巻7号1203頁は,重 過失の意義について 通常人に要求される程度の相当な注意をしないでも,
わずかな注意さえすれば,たやすく違法有害な結果を予見することができた 場合であるのに,漫然これを見すごしたような,ほとんど故意に近い著しい 注意欠如の状態を指す と判示した。
この判例については,一般人に要求される注意義務を著しく欠くことで故 意と軽過失のほぼ中間くらいの線が妥当だとかとか ,故意と軽過失の中間 に位置づける見解が有力で失火による責任を故意に近い過失に限定する必要
1) 幾代通=徳本伸一・不法行為法184頁(1993年・有斐閣)。
はないとか ,単に著しい注意義務違反ないし故意と過失の中間という形で 把握して故意への近接を避けて中間という発想に従うべきとか ,の指摘が されている。
次に,養老生命共済契約の災害給付特約及び災害死亡割増特約の免責事由 である重過失について最判昭57年7月15日民集36巻6号1188頁は, 重大な 過失 とは,損害保険給付についての免責事由を定める商法641条及び829条 にいう 重大な過失 と同趣旨のものと解すべきところ,被共済者は,事故 当夜酒を5,6合飲酒してかなり酩酊のうえ普通乗用車の運転を開始し(事 故発生時血液1 中0.9㎎のアルコールを保有),アルコールの影響のもとに 道路状況を無視し,かつ,制限速度40㎞の屈曲した路上を前方注視義務を怠 ったまま時速70㎞以上の高速度で運転をして,駐車車両に衝突したのであっ て,被共済者は,極めて悪質重大な法令違反及び無謀操縦の行為によって自 ら事故を招致したものというべきであるから,本件共済契約における免責事 由である 重大な過失 に該当する,と判示した。
この判例の第一審は,重大な過失は故意に近似する注意欠如の状態である 必要は必ずしもないものであると判示しており,最高裁は,これを支持して おり,ほとんど故意に近いものに限定するという解釈を否定したものと解す ることができる,との指摘がされている 。
では,平成に入ってからの裁判例をみてみる。
別表裁判例 (以下○数字は別表の裁判例番号である。)では, 商法641 条所定の重大なる過失と同趣旨のものと解すべきであって,注意義務違反の
2) 吉村良一・不法行為法287頁(2010年・有斐閣)。
3) 澤井裕・失火責任の法理と判例49頁(1989年・有斐閣)。
4) 近藤光男 免責事由としての被共済者の重大な過失 商法(保険・海商)百 選第2版125頁,江頭憲治郎・法学協会雑誌101巻6号976頁。なお,伊藤瑩 子・最高裁判例解説民事篇昭和57年度636頁は,判例は,従来から 重大な過 失 を ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態 を指すものと解すること で一致しており,判例上重大な過失の意義は確立されている,などとされてい るが,判例上このように確立されているかは疑問とされる(前掲近藤125頁)。
程度が顕著であるもの,すなわち,わずかの注意さえ払えば違法,有害な結 果を予見することができたのに,右注意を怠ったために右結果を予見できな かった場合をいう とされる( の上告審につき )。この では, 我が国 の法律等に規定された重過失の意義を前記のように解することについては判 例上ほぼ確定しているところ (傷害特約及び災害特約における免責事由 の)重過失の意義を特別狭く解釈すべき理由はない とした。
これは,過失は注意義務違反であり,重過失は著しい注意義務違反と解す るものである。一般人を基準とすれば甚だしい不注意であれば足りると解す るもので,保険共済の免責事由の重過失の意義を特に厳しく解釈するもので はない考えである 。
ほとんど故意に近い 故意に近似する とは,重過失を比喩的に表現し たものとか,単に著しい不注意のことを意味しているに過ぎないとか,説明 される 。裁判例としては他に,①③⑤ があり,②④⑧⑩ も同 様と思われる。重過失の意義において,前者の一群は 故意 とか 故意に 近似 するとかの文言がない単なる著しい注意義務違反であり,後者の一群 はその文言自体はあるがその文言に特段意味を見出していると評価すること は難しい認定をしているものである。なお,⑥⑦⑨
については重過失の意義自体は明示されていないが,その多く は,判旨の判断枠組みや説示からすると,重過失は単なる著しい過失違反と 捉えていると考えられる。
裁判例 は, 単に注意義務の程度が顕著であるに止まらず,通常人に要 求される程度の相当な注意をしないでも,わずかの注意さえすれば,たやす く違法有害な結果を予見することができた場合であるのに,漫然これを見過 ごしたような,ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態を指す とされる
(なお もこの類型に近いであろう)。これは,著しい注意義務違反だけでな
5) 山下友信・保険法368頁(2005年・有斐閣)。
6) 中西正明 生命保険契約の災害関係特約における重過失 保険学雑誌538号 5頁。
く,故意に近似する注意欠如の状態あるいは故意に準じる注意欠如の状態と 厳格に解釈する立場である。
もう1つ厳格に解釈した裁判例として があり, 注意義務違反の程度が 顕著なもの,つまり,わずかな注意を払えば違法・有害結果を予見すること ができ,その結果を回避できたのに,その注意を怠ったために結果を招致し た場合で,事故に至る経緯や事故に至る行為の目的といった具体的事情にお いて,当該保険事故により保険金を支払わせることが信義則上不当とされる 場合をいう と判示した。
他に, どの程度注意欠如の状態にあったかのみによって決すべきではな く,事故発生に至るまでの一連の行為やそれらの行為の目的を含めて,故意 によって事故を招致したと同視し得る程度に社会的な非難が可能か否かなど を総合的に斟酌して決するのが相当である とした裁判例もある( )。これ も厳格に解釈したものである。
平成の裁判例の多くは,裁判例 の見解であると考えられ,保険・共済実 務においても基本的には,裁判例 の見解に基づいて判断されていると思料 する 。
7) 平成の裁判例ではないが,実務で留意されている裁判例として, 附合契約 における一般人の理解という点を考慮してなされるべき であるから 重大な 過失とは,保険者に免責を与えることが当然であると一般人が認め得るような 被保険者の過失と解すべき と判示したものがある(秋田地判昭和31年5月22 日下民集7巻1345頁)。なお,甘利公人=福田弥生・ポイントレクチャー保険 法130頁(2011年・有斐閣)は, 具体的にいかなる行為が免責とされるのが妥 当であるかという観点から,重過失の意義は各保険種目及びその免責条項の趣 旨や目的ごとに異なるのであり,それぞれの保険契約においていかなる行為が 重過失免責となるかを決定すればよいのであって,重過失を統一的に解釈する のは困難であり,またその必要もない という見解である。
8) 川木一正 傷害保険訴訟の実務 塩崎勤=山下丈=山野嘉朗編・専門訴訟講 座③保険関係訴訟434頁(2009年・民事法研究会),日本生命保険生命保険研究 会・生命保険の法務と実務258頁(2011年・きんざい),前掲注5)山下464頁。
タイトルのみになってしまうため、アキを作成しています
3 重過失免責の趣旨
保険共済契約の重過失免責の趣旨としては,学説上,保険料を負担する一 般人の常識を踏まえて除外するという商品政策的判断に求めるもの ,信義 則又は公序良俗に反することに求めるもの ,などがあるところ,平成に入 ってからの裁判例をみてみると,重過失の趣旨を明らかにした裁判例がいく つかあり,裁判例①・⑤は, 著しい不注意による傷害について保険保護の 対象としそれによる保険料を保険契約者全般が負担させられることへの疑問 という一般人の常識をふまえて保険保護の対象から除外するという商品政策 的判断に基づく規定 (以下 A説 と表記する場合がある。)と解し,裁判 例 ・ は, そもそも保険制度が本来偶然の事故発生に対し,その損害の 填補を行うものであることにかんがみ,被保険者が故意又は重大な過失によ って自ら保険事故を招致するような場合,これについての保険金請求を認め ることは当事者に要求される信義誠実の原則,公序良俗に反するから (以 下 B説 とする場合がある。)と解している。
第2 判例・裁判例の認定と分析
1 一酸化炭素中毒(①,②,③,④)
①④では,行為の危険性が社会的に周知の事実あるいは公知の事実かと いう要素が上げられ,練炭や排気ガスでの一酸化炭素中毒の危険性は周知の 事実で通常人であれば備えられている知識と評価しているが,これは重過失 を導く基本的要素となる(②でも危険性についてあげている)。
①②では,行為の危険性について警告・説示・指導があったかが要素とな り,さらに①では,代替手段があったか,あったとしてもそれが容易か,加 えて,行為の異常性・無謀性,自ら危険性を増発あるいは誘発させる行動を とったか(眠っていたためテント入口をしめきったままとなり換気できなく
9) 前掲注5)山下464頁。
10) 大森忠夫・保険法148頁(1957年・有斐閣),石田満・商法Ⅳ(保険法)194 頁。(1997年・青林書院)。
なった),②では,危険からの回避行動をとったか否かが要素となり,これ らが著しい注意義務違反を導く要素となった。
③と④の結論の違いは,③が行為の当初から密閉した危険な状態を認識し ていた(しえた)のに対して,④は,被保険者の知らない間に密閉した危険 な状態を作出されたので死の結果を予見できないとされたことによる。
2 路上横臥にて轢死(⑤,⑥,⑦,⑧)
⑤では,転倒という請求者の主張については,被保険者の骨折状況から排 斥したが,他にも,加害車両の底部擦過痕からも横臥していたことを導ける ことも多いと考えられる。従前より路上横臥については,裁判実務は重過失 の肯定に積極的であると解されており,本件も路上横臥それ自体で著しい注 意欠如の状態として重過失を肯定している。また,⑤では,交通量の要素に ついては,深夜であっても皆無となるわけではない車道と認定しているが,
その具体的交通量は判断に影響していない。
⑥の被保険者は,様々な疾病を有していたが,とりわけ重度の肝硬変であ ることが証拠上認定されている。そのうえで,横断して転倒するなどして横 臥に至って轢過されているようであるところ,横断行為そのものの危険性や 医師から禁酒を指導されていることにもかかわらず多量の飲酒をし,転倒し やすい状況を自ら作出していることが指摘され,その点が要素となっている。
なお,酒に酔って路上横臥した事案の裁判例は少なくないが,⑥のように,
被保険者に既往歴があり,アルコールの影響を受けやすい身体状態の下,医 師から禁酒の指導を受けていたケースは,⑥の事案以外に見当たらないとの 指摘がある 。
⑦では,加害者及び目撃者が不明の事案であるが,横臥していた事実を,
事故現場の状況や司法解剖による全身の損傷状況から認定した。⑤と同様に,
深夜の具体的交通量については判断に影響を及ぼす要素とはなっていない。
⑧では,路上横臥行為について,通常予測できない自殺行為に等しい極め
11) 大澤昌丈 重過失免責の成否,災害保険金請求権の時効 生文事例研レポ 218号11頁(2007年)。
て危険な行為と評価されており,路上横臥行為そのものが死亡事故につなが る危険な行為であるとの裁判所の認識が示されている。
3 路上横臥にて轢死等における加害者の過失(⑤,⑨,⑩, , , ) 請求者からの加害者側の過失を考慮すべきとの主張について言及したもの としては,⑤⑨⑩ の裁判例がある。
いずれの裁判例でも,加害者の重過失は,基本的に考慮する要素とならな い 。これは,保険者免責としての重過失の判断は被保険者の行為そのもの 危険性が判断基準となるのであって,公平な損害の分担という不法行為論に おける加害者の過失の検討とは全く場面が異なるからにほかならない。重過 失免責の趣旨をどのように考えるかによっても異なることはない(趣旨をA 説とした⑤,B説とした 参照)。
4 路上横臥以外の歩行者について( , , , , )
は,重過失の意義を厳格に解した上で重過失を肯定している。自動車専 用道路など法律上も歩行者の存在が予定されていない道路(道路法48条の2,
高速自動車国道法17条1項等)については,車両は,歩行者の存在を予期し ておらず,高速で走行しているので,歩行者は立入ること自体,死を招く極 めて危険な行為といえ,それ自体,重過失を肯定する要素となる。その他の 道路については,横断禁止等の標識の有無がその視認性,交通量等も影響す るものと思われる。他に, でも指摘された様に,地元の人間やよく利用す る人間など当該道路の状況を熟知しているか否かなども補充要素となる余地 がある。
12) 裁判例 は,第三者の過失の存在は,行為者の過失の構成要素である予見可 能性の有無や判断や,行為者の過失と結果発生の因果関係の判断において問題 となり,その結果として行為者の過失及び因果関係が認められない場合がある に過ぎないとし,加害者の一時停止違反等の過失は,被保険者の予見可能性を 欠くものとまではいえないとしているところ,雑賀裕子 自動車事故での重過 失免責 生文事例研レポ189号17頁(2004年)は,第三者に重過失が認められ るか否かではなく,第三者の行為の異常性の大小によって決せられるものと考 える,と指摘されている。
なお,この種事案では,動機については,全く不明であることも多く,
でも同様で動機については,想像することすらできない,とされている。
鉄道の線路敷地内への立ち入りも同様のことがいえる(新幹線特例法3条 2項,鉄道営業法37条等)。深夜においても,回送列車や貨物列車などが通 ることは通常あり,昼夜問わず基本的に死亡に直結する極めて危険な行為で ある。裁判例 も同様に重過失を導いている。
では,重過失による事故招致について,故意により事故を惹起した場合 と同じ社会的非難が可能な否か等を総合的に斟酌すべきとして,重過失を否 定した。判旨については,様々な意見があると思われる。ところで,事故を 起こした運転者には,負傷者を救護し,道路における危険を防止する等必要 な措置を講じる義務がある(道路交通法72条以下,1年以下の懲役または 100万円以下の罰金等の定めあり。)。本件では,照明がなく真っ暗でカーブ を曲がりきった見通しの悪い地点であるから,多重災害の危険があり,被保 険者としては,二次災害を防ごうという気持ちが強かったのかもしれない。
そうであるなら,重過失の意義を,単に著しい注意義務違反とした場合でも,
本件では,著しい予見回避義務違反は認められるが,なお,著しい結果回避 義務違反までは認められないとする余地もなくはない(過失の中核を結果回 避義務違反に求める場合などである)。もっとも,道路交通法は不可能・無 謀を強いるものでないし,本件のような危険な高速道路上では,危険を避け るため発炎筒を路側帯から適当な場所に投げ込む方法も考えられること,約 2.7ⅿも走行車線にはみ出す行為は無謀性が強いことを重視して,重過失を 肯定してもいいようには思える。また,高速道路のトンネル内や出入口付近 等で照明があり見通しが良い場合は,認定が異なる可能性もある。本件では,
重過失の意義を厳格に解釈していることが影響している。
5 逆走事案( )
で,裁判所は,高速道の逆走行為を,一方通行である高速自動車道にお いて車両を逆走させることが危険極まりないものであることは自明で,車両 の進行方向が正しいことを確認することは,自動車運転者として最も基本的
かつ初歩的な注意義務(別表判旨の概要記載e)というべきと評価し,非常 に賛成できる。逆走事案については原則として重過失を肯定すべきと考える。
もっとも,補充要素として本件では,規制標識の有無,その視認性をあげ,
逆走するにはハンドル操作が不自然になる点も考慮されている(同aから d)。また,同gで指摘されている眠気・疲労の点は,自動車運転をする者 は眠気・疲労により注意力の低下を防ぐ義務があろうし,高速道路であれば なおさらであろう。その他,逆走事案では,当該パーキングエリアや出入口 の構造も補充要素になる余地がある。
6 飲酒した運転者の車両に同乗( , )
この類型の場合,従前より,同乗者と運転者との関係が上司・部下等の指 揮命令の関係にあったかどうか,あるいは,同乗者が運転者の運転に積極的 に関与・加担していたか否か等の要素が,同乗者の重過失を導く要素であっ たかと思われる 。
ところで,近時, がいうように飲酒運転の社会的非難が一層高まり,刑 法が一部改正され,平成13年12月25日に危険運転致死傷罪が施行された。
さらに,酒酔い運転及び酒気帯び運転の基準及び行政処分・罰則は年々強 化され,罰則については,平成19年9月19日の道路交通法改正施行により,
酒酔い運転者は,5年以下の懲役又は100万円以下の罰金で,酒気帯び運転 者は,3年以下の懲役又は50万円の罰金となり,この改正で同乗者について も新規に罰則が定められ,運転者が酒酔いの場合同乗者は,3年以下の懲役 又は50万円以下の罰金,運転者が酒気帯びの場合同乗者は,2年以下の懲役 又は30万円以下の罰金が科せられることになった。
今後は社会一般として飲酒した運転者に同乗することを回避する義務が強 く求められ,同乗者と運転者との関係が指揮命令等あった場合に限定するの でなく,運転者が酒気帯び・酒酔いであることを認識している場合は,原則 として同乗者について重過失を肯定すべき要素となる方向ではなかろうか。
13) 菅谷武司 免許取消中の飲酒運転事故と同乗者の重過失の有無 文研事例研 レポ36号20頁(1988年)。
従って, のような認定は今後はなされない方向になろう。
なお,長野地判平成24年7月5日は,17歳の少女2人が飲酒運転の軽乗用 車にひき逃げされた事件で,運転者に車で送らせた同乗者の当時19歳少年に 対し,道路交通法(酒気帯び運転の同乗)の罪で懲役1年10月,執行猶予4 年を言い渡している。
7 高速度運転・飲酒運転・無謀運転( , , , , ) いずれも当該事案において重過失を認定したものである。
は,重過失の意義を厳格に解釈したうえで肯定している。飲酒運転につ いては,特に,近時は,自己及び第三者の身体安全を脅かす危険性が極めて 高い行為として罰則が著しく強化されているのは上述の通りであるので,飲 酒運転による事故は,それ自体著しい注意義務違反を構成し重過失を肯定し やすい。
高速度運転については,速度が2倍になるとエネルギーは4倍になる関係
(2乗の関係)にあるとともに,車両によってはその制御も難しくなる場合 もあることから,無謀な高速度運転については重過失を肯定する方向の要素 とはなる。
は,飲酒等の事情はないものの,疲労状況下での40㎞の速度超過による 事故について重過失を認定している。又, では,視認性がよく見通しのよ い道路という点が,重過失を導きやすい要素となっている。
居眠り運転は居眠り中は正常な運転をしていない訳であるから,車両をコ ントロールする運転者が不在の状態と同様に陥っており,これも自己及び第 三者の身体安全を脅かす極めて危険な行為である。高速運転者だけでなく運 転者一般に,運転する際には自己の体調を良好に保ち正常な状況下で運転す る義務がある。
飲酒,速度超過,居眠り,疲労等の各程度が低くても,複数重なれば,重 過失を肯定する要素になろう。
捜査車両の追跡があるようなケースでは, の通り,そもそも運転態度に 問題があり,しかも停止するのは容易であるのであるから,追跡されている
ことを重過失を否定する要素にはならない。
8 喧嘩闘争・防衛行為( , , )
のような喧嘩闘争の場合に,重過失が認められるかは,喧嘩相手の反撃 について予見できるかという点が重要であると解せられ, の裁判所も,被 保険者とXの体力差等から,棒で殴りかかっても刃物という武器で反撃され る可能性は,わずかな注意を払えば十分予見できたことを詳細に認定してい る。なお,棒と刃物のどちらかが危険かは,形状等に左右され一概に判断す ることはできない。 で問題となった棒は,直径こそ太くないが,被保険者 は 家に遺言を言い渡してきたから,お前を殺してやる。 などと言いなが ら殴りかかっており,体力差を考慮に入れれば,窮地に追い込まれた者から 重大な反撃があることは十分予想し得たといえる。請求者は,上告したが,
上告は棄却された( )。
は,被保険者の行為が防衛行為と認定されたもので, とは事案が異な る。
9 高所からの転落( , , , , , , , )
の事案では,被保険者は写真を撮ろうとしていたようであるが,運転手 からはロープの外側へは行けないと言われ,崖の縁の方へ進もうとした被保 険者は運転手から2度ベルトを摑んで止められていることが認定されている。
そのことからすれば,重過失を認めてもよいのではないかと思われる。裁判 所は,重過失の意義を悪意による転落と同視できるほどの悪質性が必要と厳 格に解しており,それが影響している。
では,そもそも一般的に危険性の高い行為として,海岸に接している岸 壁のような場所を夜間に走行することを要素としてあげ,被保険者の固有の 事情として,現場を熟知していたこと,無灯火であったこと,という要素を 指摘している。
のような事案では,危険な行為について過去に何度か成功したから,著 しい注意義務違反はなかったと請求者は主張することもあろうが,本件のよ うに,行為それ自体が死を招く危険性が極めて高い行為である場合は,たま
たま運に恵まれただけということで,重過失の認定には影響しない。
と は,いずれの事案も目撃者はおらず,転落態様は不明である。ベラ ンダ・階段からの高所転落は,転落態様・原因が分からないことが多い。そ こで,通常人が通常の注意を払えば容易に転落しない構造を備えていたこと,
転落箇所の構造・状況から転落をするのであれば身体の安定性を損なう態 勢・行動をとらざるをえないことといった要素が重要となる。保険者共済者 としては,被保険者の体格や転落箇所の構造・状況を詳細に比較したり,被 保険者と同程度の体格の人間を被験者として実況見分したりし,立証するこ とが可能である。
と では,一審の が,本件階段は通常人が通常の注意を払えば容易に 転落しない構造を備えていたことが認められるので,何らかのふざけた行動 あるいはそれに類する行動をとったことにより事故が発生したとしか考えに くいと評価し,控訴審の では,ふざけた行動の具体的中身については,明 らかにするのは困難であるところ,明らかにすることができなくても差し支 えないとされたケースで, と の検討事項に加えて,高所転落事案につい ての1つの指針になる。なお,控訴審 について,請求者の上告は棄却され た( )。
10 特殊な例( , , )
一審 と控訴審 では,結論が逆になっている。重過失の認定は,裁判官 の事実に対する評価の問題であるから,自由心証の結果全く異なる評価が与 えられる例である 。控訴審 では,偶発性の欠如としている点も指摘して おきたい。控訴審 に対する請求者の上告は不受理決定となった( )。
14) 例えば,濱口善紀 酔ってトラックに絡む行為と重過失免責 生文事例研レ ポ179号9頁(2003年)は,第一審は,加害車両のトラックが一旦停車したこ とをもって被保険者の交通法規違反の因果関係が中断したと考えているようで あるが,逆に,トラックが一旦停止した際,被保険者は降車するどころかフロ ントワイパーを摑んで運転席側に回り込んだのであるから被保険者の違法状態 はトラックが一旦停車しても継続しており,より強度な違法状態が作出されつ つあったと評価すべきと,第一審を批判する。
第3 おわりに
もとより,重過失は,規範的・抽象的概念であり,重過失を基礎付ける各 事実について裁判官が自由心証に従って評価するものであるから,裁判例を 通じてなんらかのメルクマールをつけるのは難しいのかもしれない 。もっ とも,死亡や傷害という重大結果を招く危険性が高い行為については,それ 自体著しい注意義務違反が認めらやすい。一酸化炭素中毒,路上横臥,逆走,
道路・線路立入,飲酒運転などの事例では,行為それ自体の危険性が極めて 高いことが周知のものといえ,通常人であれば危険性を容易に予見できる行 為であることが基本となり,その他補充要素を検討しているという構造では なかろうか。各類型においては,それぞれ要素があり,重過失の認定を導く ヒントとなっており,また,各類型の要素を横断して検討することで,当該 事案に必要な要素の検討がよりしやすくなるのではないかと思われる。
最後に,重過失の意義を厳格に解釈すれば,重過失は認められにくい。裁 判所が,重過失の意義を厳格に解釈するケースは,注意欠如の程度は著しい ものの,当該審理に現れた一切の事情を斟酌すると,危険な行為をするにつ いて何らかの事情や原因があって重過失を否定したい場合に,用いられるこ とが多いといえないだろうか(後続車両の危険防止措置をしようとした と 写真をとろうとした を各参照)。
(筆者は弁護士)
15) 重過失の裁判例の検討としては,高島義行 自動車事故と重過失免責 判例 タイムズ1269号69頁も参考にされたい。
肯定 仙台地判平成13年4月26日 生保判例集13巻442頁
大阪地判平成21年5月15日 生文事例研レポ246号11頁
判旨の概要事案の概要適用裁判所・判決日区別
別表重過失免責の適用が争われた裁判例 ⑥
付近の信号機が設置された横断歩道を利用すれば足りたはずであると ころ,昼夜間を問わず交通量の多い国道1号線を横断しようとしたこ とは,極めて危険な行為。被保険者は,アルコールの影響を受けやす い身体の状態で,医師から禁酒の指導を受けていたにもかかわらず, 多量の飲酒をし,路上において転倒しかねない状況でありながら,横 断して,酩酊したため倒れ込むなどして,路上に横臥するに至ったの であり,本件事故は,被保険者の重大な過失によって発生した。
酩酊した被保険者が,早朝,国 道1号線を横断しようとしたと ころ倒れ横臥したところを自動 車に轢かれ死亡した事案肯定東京地判平成18年7月26日 生文事例研レポ第218号9 頁
路 上 横 臥 に て 轢 死
⑤
被保険者は,本件事故当時,相当酔っており,上半身を車道に出した 格好で寝ていた。深夜とはいえ車両通行が皆無ではない車道に頭部を 含めた上半身を出して寝てしまう行動は,著しい注意欠如の状態で あった。
飲酒して,深夜,片側1車線の 道路で横たわり,車両に轢かれ 死亡した事案肯定大阪地判平成21年9月29日 LLI/DB判例秘書 ID:06451082
④
シャッターを開けた状態で寝ていたが,妻が閉めたことに気付かず, 本件ガレージが密閉状態になっているという認識を欠いたまま,エン ジンを再始動させたもので,わずかの注意さえ払えばたやすくシャッ ターが閉まっていることに気付くことができ,エンジンを再始動する ことによる死の結果を予見できたとまでは言い難い。
自宅ガレージ内に駐車した自動 車の中で寝て一酸化炭素中毒で 死亡した事案否定大阪地判平成15年3月19日 生保判例集15巻165頁
③
出入り口を閉めた車庫内といった換気の悪い場所で,自動車のエンジ ンをかけたままにすれば,上部に排気孔があったとしても,短時間の うちに排気ガスが充満し,一酸化炭素中毒に陥るおそれがあること は,容易に認識しうる。被保険者が,出入り口を完全に閉めた本件車 庫内において,自動車のエンジンをかけたままの状態にしたことは, 自己の生命身体安全に配慮すべき注意を著しく欠く状態で,重過失と 評価される。
飲酒のうえ,車庫内で自動車の エンジンをかけたまま眠ってし まい,その結果,排気ガスを吸 引して一酸化炭素中毒で死亡し た事案肯定東京地判平成14年9月4日 生保判例集14巻579頁
一 酸 化 炭 素 中 毒
番号 ① ②
被共済者は,妻から豆炭の危険性を注意され,被共済者も豆炭の量と 換気に十分気をつけると言い,一酸化炭素中毒に陥る危険性が高い客 観的状況を認識していたか,少なくとも容易に認識である状態にあっ たのに,車内にとどまったことは重過失に該当。
密閉空間で練炭を燃焼させた場合,不完全燃焼により極めて有害な一 酸化炭素が発生し,吸引すると死に至る危険性が高いことは,周知の 事実。テントや七輪にも危険性を警告し禁止する旨が明記。密閉され たテント内で練炭を燃焼させる行為自体著しい注意義務違反。旅館へ の宿泊など他の手段があるのに,厳冬期にテント内で一晩を過ごそう とする行為も著しく合理性を欠く無謀な行為で,暖のため飲酒する行 為も練炭を燃焼させたまま眠る危険を誘発することも考慮。 冬,宮城県内の山間部で行商 中,車両内で暖房のため豆炭を 焚き一酸化炭素中毒で死亡した 事案
冬,長野県の宿泊可能だった旅 館の駐車場で,テント内の七輪 で練炭を燃焼させ一酸化炭素中 毒により死亡した事案 肯定