良性疾患の開胸例の検討
飯富病院 外科 長田忠孝 内科 朝比奈利明 白州診療所 古屋禎男 《要約》飯富病院で経験した、11例の非癌症例の開胸例につき検討した。18から64才 までの、女5例、男6例。特発性気胸4例、限局性膿胸2例、アスペルギロ マ、肺子宮内 膜症、肺結核、心嚢々腫、器質化肺炎の各1例。集検発見例が4例、他は自覚症状があった。 気胸は肺部分切除、膿胸例は剥皮術、心嚢々腫は摘出術、他は肺葉切除術を行った.手術適 応に際し、過去のレ線写真との比較読影が有用だった。確定診断ができず、肺葉切除を行っ た例があった。肺癌との鑑別には面像診断が重要と考えられた. 良性疾患における開胸術は、肺癌の場合のように絶対的なものでない場合が多 く、確定診断が困難なことや、疾患自体が稀なこともあり、必ずしも妥当な手術 適応、手術々式とならない場合が少なくないと思われる。そこで、飯富病院で最 近経験した良性疾患の開胸例を紹介し、手術適応、術式等につき検討を加えた。 《検討症例と結果》 表一1 最近飯富病院で経験した良性疾患の手術例は18歳から64歳までの、女5人、 男6人の11例だった。肺癌に比べ若い人が多いのは疾患の性質を示していると 考えられる。最終診断は特発性気胸が4例と最も多く、限局性の膿胸が2例、ア スペルギローマ、肺気管支子宮内膜症、肺結核、心嚢々腫、器質化肺炎が各々1 例づっだった。 自覚症状がなく集団検診で発見された例が4例もあるのは飯富病院が肺癌の集 団検診に積極的に取り組んでいるためと思われる。 手術適応の理由では、気胸例では再発性のものを手術した。初回はトロッカー による持続吸引などの保存的治療を行い、再発例には原則として手術を勧めてい る。 肺癌の集団検診が普及したため、過去に撮影された間接写真との比較照合が可 能となり変化がゆっくりした良性疾患の変化も観察が容易となった。膿胸の2例 と心嚢々腫例は年々わずかつつ増大する陰影が手術適応の理由となった。 前の年に撮影された検診写真にない新しい陰影が発見された場合、陰影がごく 小さかったり、肺癌と区別できなかったりした場合、やむを得ず開胸精検的な手 術が行われる場合がある。 すなわち、良性疾患を想定してTBLBや経皮肺生検を行った場合も、肺癌を 疑い生検を行った場合も、病理診断に悪性所見がないときや、予期した診断と異 なった答えだったとき、今後の治療方針をどのようにもっていったら良いかと大 いに戸惑うところであるが、このようなとき、最終的に手術適応の理由となるの は画像診断に他ならない。 肺結核例と器質化肺炎例は画像的に肺癌と診断したためTBLBや擦過細胞診 が悪性所見を示さなかったが、肺癌として中葉切除と左下葉切除を行った。もっ表一
ユ 良性疾患の開胸手術例
ピ88.10∼’90.3) 主訴 術前診断 蒐定鯵断 手術遭応理由 手術々式 1.T. H 32 9 喀血 炎症性口瘤 帥アスペルギローマ 繰リ返す喀血 右上葉切除 2,M. S 30 ♀ 喀血 干宮内膜症 帥気管支子宮内膜症 繰リ返す喀血 右上葉切除 3.A. U 84 ♀ 検診 肺癌 帥結核 帥癌の疑い 右巾葉切除 4.M. Y 32 ♀ 検鯵 心■々腫 心嚢々腫 田瘤影の増大 摘出術 5.S, F50♂
検鯵 胸膜瞳瘍 限局性膿胸 腫瘤影の増大 剥皮術 8. F.W31♂
胸痛 特発性気胸 特発性気胸 再発性 肺部分切除 7.T. F58♂
胸痛 特発性気胸 特発性気胸 再発性 肺部分切除 8.Y. M 84 ♂ 胸痛 肺癌 器質化肺炎 肺癌の疑い 左下葉切除 9.M, M18♂
胸痛 特発性気胸 特発性気胸 再発性 肺部分切除 10.F. W32♂
胸痛 特発性気胸 特発性気胸 再発性 肺部分切除 11.M. K 59 Ω 検鯵 限局性限胸 限局性膿胸 ■瘤影の増大 剥皮術 とも、肺結核例は病変が中葉にあったためトータルバイオプシー的な発想で中葉 切除を行った。いずれもレトロスペクティプには良性疾患的な画像に見えるが、 肺癌を疑った以上経過をみる訳にもいかず、この時点ではやむを得ない手術だっ たかと考えている。 繰り返す喀血は患者の生活の質を守るためにも、生命を守るためにも治療が必 要となる。アスペルギローマ、子宮内膜症の両例とも喀血の頻度、量ともに漸増 する傾向にあリ、肺葉切除はやむを得なかったと思うが、若い女性にとっても手 術侵襲は重大で、体重減少も著しく、若々しい肉体が損なわれるのがなんとも、 もったいない感じになるのも良性疾患のため故だろうか。 11例目の限局性膿胸例の剥皮術後、出血のため再手術を要した。重大な合併 症はこの一例のみで、全例が治癒し社会復帰している。良性、悪性を問わず慎重 な手術を行い合併症の回避につとめるべきで、生命にかかわるような事態を発生 させたことを深く反省している。 代表例を呈示する。 ’症例一1T.H 32才♀主訴喀Jta
10数年前肺化膿症の治療をした。数年前 よリ、喘息発作と喀血が発生し、レ線写真上 右下葉に結節影を指摘されたe胸部レ線では 右下肺野に線状影を伴った銭型影があリ (写真一1)、断層でもインデンテーション を持つ腫瘤影を認めた(写真一2)。気管支 動脈造影では(写真一3)、肺動脈との間に 著名なシャントを認め、ここが喀血原因で、 良性疾患であることを示唆しているq炎症性 腫瘤と診断し右下葉切除を行った。病理診断 はアスペルギローマだった。 手術後喀血も止まリ、喘息発作も起こらなく なった。しかし4キロ近く体重が減少し、若い 写真一 1 右S㈹↓こ銭型陰影 32歳の肉体はずいぶんみすぼらしくなってしまった。写真一 2 側面断層像
難
t9真一3 BAGでは著名な BPシャントを認める症例一5 S.F 50才♂主訴集検の精検
症例一11M. K 59才♀主訴集検の精検 両例とも肺癌検診で大きな球形の異常陰影を指摘され来院した。二人ともその 様な陰影があることを承知しており、幾つかの医療機関で精密検査を受けた経験 を持っていたが、病態、病名については不明とのことだった。 胸部レ線写真では(写真一4,5)胸壁の腫瘍との鑑別が問題になると思われ るが、石灰化影より古いものが考えられた。肺癌検診の比較読影の写真でみると、 (写真一6,7)両例とも明らかな増大傾向を持っていることが認められた。こ のことが手術適応の理由となった。 第5例では胸膜中皮腫を疑い経皮生検繰リ返したが、限局性膿胸だった。この 経験より11例では画像的に膿胸と診断できたe 該 多 ㌘ぷ 鱈鯨 左肋骨檎隔膜角のロaM集検のレ線写真には肺や縦隔の 良性病変が見過ごされたり、正確 に診断されずに何年にもわたリ存 在することがある。その大きな理 由の一つに過去に撮影された写真 との比較照合がされていないこと が挙げられる。一見変化のない落 ち着いた陰影も過去にさかのぼっ てみると、この2例や第4例の心 嚢々腫例のように変化を指摘でき ることがある。レ線写真をみる場 合は、出来るだけ複数の写真で判 定するように日頃から心がけて行 きたいと思っている。
症例一3A.U 64才♀
主訴集検の精査 中葉のわずかな陰影が比較読影 の結果、異常と判定された。(写真一8,9)CTでは
(写真一10)気管支の末梢に存在 する陰影で、炎症性の変化でもよい 1 i 写真一 6 増大する首痛影バ 蓑灘蕪蓑
灘
鍵、 写真一7増大する腫瘤彫 と考えられたが、肺癌の疑いで手術を 行った。切除した中葉の肉芽腫性の病 変より好酸薗が証明され、肺結核と診 断し、1クールの化学療法を行い治癒 した。 症例一8の器質化肺炎例でも、気胸 で入院した際下行大動脈のシルエット が消失する変化を発見され、肺癌検診 の比較読影の写真では(写真一11)、 この変化が実は気胸発生の3ヵ月前よ リ存在していたことが判明し、肺癌の 疑いを捨て切れず左下葉切除を行った。 結果は悪性所見はなく、過剰な手術と 思われたが、症例一3,8とも一度肺 癌を疑うと、そのこだわりからは、とうてい逃れることは出来ないことを示して いる。肺機能を出来るかぎり保持し、疾病の根治を期するのが開胸術の目的なの だから、手術前の診断、ことに画像診断を厳密に行うことにより、良性疾患に対 する無用な手術を極力避けるぺきだと思われた。 《結語》 肺癌と比ぺ良性疾患では手術適応が相対的になるため、適確な治療手段としての手術の位置が問題となる。 頻度の高い気胸の手術適応 を例にとってみても、我々 は再発例に原則として手術 を勧めているが、胸膜癒着 術を第一にすべきで、手術 は最後の手段にすぺきだと の意見も十分に成り立っと 思われる。 また、繰り返す喀血例で も、徐々に増大する膿胸や、 良性腫瘍も癌のように手術 をしなければ確実に生命を おびやかすわけではないの で、どの時点で、どのよう な治療をするかは各施設、 各医師によリ様々となるこ とは、ある程度やむを得な いと考えられる。 しかしながら、よリ適正 な手術適応を決定するため には、良性疾患では組織診 断が得られない場合が多い ため、胸部、肺疾患に対す る豊かな知識に加え、十分 な画像診断能力が要求され ることは、我々のわずかな 経験からも言えるようであ る。幸い、肺癌検診の比較 読影のフィルムが診断と治 療法の決定に極めて有用で あリ、我々の場合は乏しい 診断能力を不十分ながらも 補ってくれたと考えている。 今後も努力を重ね、良性 悪性疾患の適確な治療につ とめたいと思っている。