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非破壊劣化診断技術の開発

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博 士 論 文

非破壊劣化診断技術の開発

− ポリエチレンの需要構造の変革を目指して –

Development of non-destructive deterioration diagnosis technique

Aiming to change the demand structure of polyethylene

金沢大学大学院自然科学研究科 物質科学専攻

学 籍 番 号: 1023132301 氏 名: 五十嵐 敏郎

主任指導教官名: 新田 晃平

提 出 年 月: 2019 年 1 月

(2)
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目 次

1 章 はじめに p. 1

1 .研究の背景 2 .研究の目的

2 章 非破壊劣化診断技術の開発 p. 6

1 . 「劣化を総合的に科学する」プロジェクト 2 .従来技術による劣化評価

3 .劣化過程の基礎研究

4 .表面摩擦係数による劣化過程の実用研究

3 章 多層発泡技術( FSC )の研究 p.29 1 . 多層成形の基礎研究

2 . 化学発泡剤を用いた PE の常圧発泡成形 3 . 幅広い成形 Window を持つ発泡剤系の検討 4 . 多機能多層成形体( FSC )の研究

5 . 中程度の倍率の発泡技術

(4)

4 章 ポリエチレンの需要構造の変革を目指して p.49

1 . 何を目指すのか 2 . 回転成形の普及活動

3 . アディティブ・マニュファクチャリング

4 . プラスチックの PR 活動

5 章 おわりに(今後の展開) p.61

謝辞 p.67

List of Tables p.72

List of Figures p.73

参考文献 p.76

(5)

第 1 章 はじめに

博士後期課程での研究には2つの目的がある.一つは真理の探究を行い,研究領域を深 めることである.もう一つは,研究を通して社会に影響を及ぼし,研究領域の幅を広げる ことである.

長い社会生活を経たあと大学に戻り,博士後期課程で研究を再開する者は,社会生活で 得た経験を通して解決すべき社会の問題について,これから学問界や社会に羽ばたこうと する若い学徒に比べると少しは幅広くかつ深い意識を有している.

私自身も,社会人時代に経験し思考したことや,会社生活を終えた後でかかわったいく つかのボランティア活動*を通して得た,日本のプラスチックワールドが今後長期的に解 決すべき問題点をいくつか持ったうえで金沢大学の博士後期課程に入学し.長きにわたっ て研究を続け,プラスチックワールドに発信し続けてきた.

(*かかわったボランティア活動)

・NPO 法人もったいない学会理事

・縮小社会研究会理事

1-1 研究の背景

20 世紀の文明を支え,プラスチックの原料としても重要な地位を占めてきた石油は,世 間で言われているよりも早く深刻な状況に陥ると予想される.量的には,Fig.1 で示される ように 1980 年以降新規に発見された油田の資源量がその年の消費量を下回るようになった ことが指摘される.また,質的にも Fig. 2 や Table 1 で示されるように 21 世紀になってから 発見されたブラジル沖油田の EPR(Energy Profit Ratio)が 8 程度で文明を維持するのに必要 な 10 を下回ることが象徴するように,年々低下し続けている.

Fig. 1 新規に発見される油田

出展:米国議会下院エネルギーと通商委員会のヒヤリング資料 Understanding the Peak Oil Theory,Serial No.109-41(Dec.7,2005),16

(6)

Table 1 様々なエネルギー源の EPR

出展:Tullett Prebon Group Ltd., “Perfect Storm” (2003.1) に加筆 Fig. 2 様々なエネルギー源の EPR(Energy Profit Ratio)

出展:K.Cobb,”The energy cliff”,Energy Bulletine,2008 に加筆

石油化学と称されるように,プラスチック用原料も石油に依存している.プラスチック用 原料に使用される石油は,全体の 10%以下(ヨーロッパでは 4%程度)であるが,石油文明 の終焉期が始まると少なからず影響を受けると予想される.

在来型石油資源に替わるプラスチック用原料としては,中国で計画されている CTO

(Coal to Olefin:石炭→メタノール合成→オレフィン合成),米国のシェールガスや中東の 廃ガスを利用した GTO(Gas to Olefin),ブラジルで始まったバイオマス資源の利用(バイ オエタノールからのエチレン)が示される.汎用樹脂の中で,ポリエチレンは唯一石油に 替わる様々な原料から製造可能である[1,2].

しかし,ポリエチレンは剛性が低く耐熱性が低いという理由で,構造材への使用が制限 されるため,Fig.3 に示すようにフィルム・シート用途が全体の 65%と圧倒的に多く,建 材用途が非常に少ないことで示されるようにバランスを欠いた需要構造になっている.さ らに,フィルム・シート用途の約半分,全体の 1/3 がワンウェイとされており,大きな社 会問題になってきているプラスチックごみ問題の点でも,中長期的にはワンウェイ用途を 減らして建材などの管理可能な長期用途を増やす必要がある.短期用途が主流のフィル ム・シート用途への偏在は,他の主要樹脂との比較でもポリエチレンが突出しており,こ

のことは Fig.4 からも明らかである.

エネルギー源(化石燃料) EPR エネルギー源(持続型) EPR

石炭 80 水力発電 98

石油・ガス 1930 年代発見 93 風力発電 17 石油・ガス 1970 年代発見 30 地熱発電 7 石油・ガス 2000 年代発見 8 原子力発電 5 シェールオイル・ガス 2~3 太陽光発電 3~4

タールサンド 2~3 バイオ燃料 1

(7)

Fig. 3 ポリエチレンの需要構造

出展:2017 年 経産省生産動態統計「プラスチック製品」を基に作成

Fig. 4 主要樹脂の用途別生産

出展:プラスチック工業連盟,目で見るプラスチック統計,

樹脂別/用途別消費量(2010 年)[22]

そこで,需要構造の変革が差し迫っているなど問題が大きいポリエチレンを研究対象と して選択し,非破壊劣化診断技術や多層発泡技術の研究を行うとともに,解決すべき諸問 題点について指摘し解決に向けて発信を行った.

(8)

1-2 研究の目的

Fig.5 にポリエチレンの資源循環図を示す.化石資源を精留してエチレンモノマーを得,

重合してポリエチレン樹脂を製造する.これに様々な添加剤や顔料を加えて均質化してコ ンパウンドにし,射出成形や押出成形などで成形してプラスチックとする.さらに,二次 加工や組み立て加工などで製品になり,市場に出ていく.

Fig. 5 ポリエチレンの資源循環(現状)

市場に出た製品は,物性的な理由や社会的な理由で製品の終末を迎える.終末を迎えた 製品は,部品ごとに分離され,樹脂別に分別されて,リサイクルペレット・フレークとし て集められる.リサイクルペレット・フレークの一部はパレットなどに成形され再生製品 として利用されるが,様々な着色品が混在しており,また HDPE や LDPE,LLDPE など 様々な種類のポリエチレンが混在して物性が低下するためパレット以外の用途開発が進ま ない問題があり,マテリアルリサイクルが進まず大半が焼却されているのが現実である.

これまで,新しい製品開発を目的とする動脈側の研究・開発は,多くの研究資源を投入 して活発に行われているが,終末を迎えた製品を適切に処理する静脈側の研究・開発には これまであまり経営資源が投入されてこなかった.

本研究の第一の目的は,静脈側の研究・開発を活性化することにある.一つは,使用中 の製品の劣化状態を測定して診断し,残された寿命を予測する方法を開発することにあ る.ちょうど定期健康診断で人間の体の変化(劣化)を判定するように、プラスチック材

(9)

料の非破壊劣化診断を可能にしてプラスチック製品料を出来るだけ長持ちさせる道が拓け る.もう一つは,分離分別して集めたリサイクルペレット・フレークの劣化状態を判定し 分級し,これまでひとまとめにして最低ランクで評価されていたリサイクルペレット・フ レークの付加価値を可能な限り高め,価格の取れる再生製品開発を促すことにある.前者 は製品が設置されている現場(フィールド)での計測が必要になり,後者は樹脂分別後に 設置し,ラインで計測する必要がある.

本研究の第二の目的は,分離・分別したポリエチレンのリサイクルペレット・フレーク を使用した価格の取れる付加価値の高い製品を開発することにある.この目的のために多 層発泡技術(FSC:Foam Sandwich Construction)の開発を目指して研究を行った.

さらに,ポリエチレンの需要構造を変革するためのか鍵となる回転成形やアディティブ マニュファクチャリングについてプラスチックワールドに向けて発信してきた内容につい ても述べる.最後に,マテリアルライフ学会が 2019 年に設立する「マイクロプラスチッ ク研究会」の委員長としての課題や抱負についても触れる.

(10)

第 2 章 非破壊劣化診断技術の開発

本研究では,紫外線劣化したポリエチレンを対象に,非破壊劣化診断技術を開発するこ とを目的とするが,将来はポリプロピレン,ポリスチレン,ポリ塩化ビニルなど他の汎用 樹脂だけでなくナイロン,PET,PMMA など対象樹脂を広げる予定であり,劣化因子も紫 外線劣化だけでなく熱劣化や,クリープ劣化,疲労劣化や衝撃劣化などの力学劣化,生物 劣化などに拡張することを視野に入れている.

そこで最初に出来る限り広範囲のプレーヤーが参加するプラットフォーム上で研究・開 発を行うために,「劣化を総合的に科学する」プロジェクトと名付けた体制つくりからス タートした.

2-1 劣化を総合的に科学する」プロジェクト [3,4]

1)プロジェクト名

「高分子材料の劣化を総合的に科学する」

2)プロジェクトの期間

開発期間は 2016 年度を準備期間とし、2017 年度から 2022 年度までの 6 年間を予定してい る.

3)プロジェクトの目標

目標Ⅰ: 高分子材料の劣化メカニズムの解明 目標Ⅱ:非破壊劣化診断法の開発

目標Ⅲ:フィールドで使用可能なプロトタイプの非破壊劣化診断装置の完成と実証実験 高分子材料の劣化の劣化メカニズムの解明は,

劣化開始のメカニズム解明

劣化進行のメカニズム解明

劣化終点(材料破壊)のメカニズム解明

に分けられる.これまでに示された劣化メカニズムの概念を Fig. 6 に示す.

国内で行うプロジェクトの目標はⅠ~Ⅲまでであるが,プロトタイプの非破壊劣化診断 装置を実用化するためには,海外の研究機関・学会との連携による目標Ⅳが必須である.

目標Ⅳ:フィールドでの実証実験の蓄積と人工知能・ロボット化技術による非破壊劣化 診断装置の完成

4)非破壊劣化診断法・装置の開発背景(社会面)

高分子材料は,三大材料(金属、無機、樹脂の一つとして、多岐にわたって採用され

(11)

ている.

特性が使用環境によって多様な経時変化を示す

耐久性評価や寿命予測は,信頼性のある製品設計や高性能材料の設計に重要なファク ターだが,データ蓄積は少ない.

長期間使用される分野(土木・建築)で高分子材料の使用実績が少ない.

5)非破壊劣化診断法・装置の開発背景(研究面)

樹脂高分子の内部構造まで立ち入って劣化過程を詳細かつ定量的に研究した例は少な い.

汎用樹脂ポリオレフィンの延性破壊から脆性破壊に変化し材料破壊に至る研究は少な い.

従来の劣化診断法はフィールドでの非破壊試験には適さない.

・ 成形体を構成する高分子材料から作成した試験片での試験

・ 成形体の一部から切り出した試験片での試験

6)非破壊劣化診断法・装置の開発背景(需要面)

劣化過程でのポリオレフィンの内部構造の変化の解明は耐久性評価や寿命予測に結び つき,劣化しにくい構造を持つポリオレフィンの開発や成形法の開発が期待され,新 しい添加剤系や二次加工法の開発に結実することが期待される.

延性破壊領域から脆性破壊領域に変化する点(劣化進行の開始点)を判定する方法の 開発が求められる.

現場(フィールド)に於いて劣化の指標となる物理量を測定し,劣化の程度を判定す る方法と装置の開発が必要である.

Fig. 6 劣化メカニズムの概念 (ductile fracture stage と brittle fracture stage)

7)劣化研究の進め方

目標Ⅰ~目標Ⅲまでは,研究・開発コンソーシアムを作り,それぞれの機関が持つ幅広

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Table 2 Rotoflex Project

出展:Project Reference Code FP7-217727

い知の結集を目指す.紆余曲折を経て最終的には Fig.7 に示す組織となり,国内の 5 大学

(金沢大学,滋賀県立大学,北陸先端大学院大学,大阪市立大学,名古屋大学)3 公立研 究所(京都市産業技術研究所,滋賀県東北部工業技術センター,石川県工業試験場)プラ スチック工業連盟に加えのリサイクル関連メーカーを中心にいくつかの民間企業の参加を 予定している.EU で活発に行われている,官民に学を加えたコンソーシアム型の研究開 発体制を参考にした.将来,本研究とも関係する可能性が高い,多層成形が可能な全自動 回転成形機の開発を目標に行われた Rotoflex Project を参考例として Table 2 に示す.

Fig. 7 コンソーシアム型研究開発体制

Participant Name Short Name Country Role Smithers Rapra Technology

Limited

Rapra United Kingdom Coordinator

University of Minho Minho Portugal University Queens University Belfast QUB United Kingdom University

ASSOCOMAPLAST Assoc Italy Industry organization

ARM-CE ARM Germany Industry organization

Vlaams Kunststof Centrum VKC Belgium Industry organization British Plastics Federation BPF United Kingdom Industry organization Maus Mould Services Maus Germany Private enterprise Tecni-Form Ltd. Tecni United Kingdom Private enterprise Sorcerer Machinery Sorc United Kingdom Private enterprise 493K Ltd 493K United Kingdom Private enterprise

(13)

2-2 従来技術による劣化評価 [3,4]

これまで高分子材料の劣化評価として,黄変度の変化,グロス値の変化と実態顕微鏡観 察が行われてきた.一連の研究のスタートとして従来技術による劣化評価を行った.

2-2-1 実験

1)原料

将来,回転成形の日本での普及活動を目論んで,回転成形用グレードである LDPE

(Prime Polymer Co. Ltd.)を使用した.密度 0.92g/cm3およびメルトインデックス(MI)

4g/10 min.である.ペレット作成時の熱安定性を担保する目的で,dibutylhydroxytoluene が 0.2wt%含まれている.

2)紫外線劣化試験用サンプルの作成

サンプル作成時に受ける熱履歴と冷却時に形成される結晶構造を同じにするために,

Fig.8 で示される回転成形の成形過程を参考に,厚さ 0.5mm の紫外線劣化試験用サンプル

を作成した.

試験用プレス成形機を用い,原料粉末を 150℃で 3 分間予熱

150℃で 2 分間脱気後、10Mpa で 1 分間加圧

200℃まで 8 分間かけて加熱

180℃まで 8 分間かけて徐冷

その後室温中で急冷

Fig. 8 回転成形の成形過程 [23] p.141

3)紫外線劣化サンプルの作成

促進試験機の中で波長分布が太陽光に近似しているキセノンフェードを光源に用い,

(14)

120 時間ごと 1200 時間までの光照射サンプルを作成した.

試験装置: SUGA キセノンウェザーメーター SX2-75 放射照度: 60W/m2

波長範囲: 300~400nm

ブラックパネル温度: 89℃,雨なし

グラスフィルター: #320 (最短波長:320nm)

4)黄色度(YI:Yellow Index)の測定

スガ試験機製 SC-T(P) 分光測色計を用い,各照射時間後のサンプルの Yellow Index を測 定した.

光学条件:反射

拡散照明・8 度受(d/8) 試料の正反射成分を含まないで測定 波長域:380~780nm 間隔 5nm

光源:ハロゲンランプ 12V 50W

5)グロス値の測定

日本電色工業製 VG-2000 で各照射時間後のサンプルのグロス値を測定した.

測定角度:60 度 測定孔径(mm):14×45

光源:ハロゲンランプ

5V 9W

6)表面の顕微鏡観察

KEYENCE 製実態顕微鏡 Digital Microscope VHX-1000 を用い,倍率 100 倍で光照射面を 観察した.

2-2-2 結果と考察

黄色度(YI)の結果を Fig.9 に示す.照射約 500 時間までは YI 値が低下するが, その後上 昇に転じる.一般に,8 個程度共役二重結合が連なると黄色に発色し始め, YI 値が上昇す るとされることから,照射後 500 時間以降で分子鎖の切断が起こったことを示唆してい る。

(15)

Fig. 9 黄変度(YI)の結果 [3] Fig. 10 グロス値の結果 [3]

グロス値の結果を Fig.10 に示す.照射約 500 時間までとそれ以降とでは傾向が異なるこ とが分かる.グロス値は表面凹凸の変化を反映していると考えられ,約 500 時間からはク ラックの発生が示唆される.

顕微鏡観察の結果を Fig.11 に示す.照射 840 時間後のサンプルで,部分的なクラックの 発生がみられる(赤〇で囲ったところ).照射 960 時間後のサンプルではクラックが成長 する様子がみられ,1080 時間後には全面にクラックが成長している.

Fig. 11 劣化 LDPE の顕微鏡観察結果 [7]

2-2-3 結論

YI 値とグロス値の測定結果から,照射約 500 時間前後を境にして劣化の様子が変化する ことが分かり,Fig.6 で示される延性破壊領域(ductile fracture stage)から脆性破壊領域

(brittle fracture stage)に変化することが推測される.しかし,延性破壊領域でどのような 構造変化が起こり,脆性破壊領域へと導くのかについてはこれらの測定では何も情報が得 られない.表面の顕微鏡観察からは,脆性破壊領域でクラックが発生して劣化が進行し,

照射 1080 時間後には全面クラックが発生してわずかな印加応力で材料破壊に至り細片化

することが示される.YI 値を正確にするためには,メタメリズムのために常に一定の光源 で測定可能なカラーボックス内で測定する必要があり,機種差が大きいという問題と合わ せて,製品の劣化の程度を設置されているフィールドで測定することが困難である.

(16)

2-3 劣化過程の基礎研究 [5-10]

劣化の初期の段階(延性破壊領域)でどのような構造変化が起こり,脆性破壊領域へと 導くのか,脆性破壊領域でどのような構造変化が起こり,全面クラックの発生に至るのか を知るために,劣化過程の基礎研究を行った.

2-3-1 実験

1)原料

将来,回転成形の日本での普及活動を目論んで,回転成形用グレードである LDPE

(Prime Polymer Co. Ltd.)を使用した.密度 0.92g/cm3およびメルトインデックス(MI)

4g/10 min.である.ペレット作成時の熱安定性を担保する目的で,dibutylhydroxytoluene が 0.2wt%含まれている.

2)紫外線劣化試験用サンプルの作成

サンプル作成時に受ける熱履歴と冷却時に形成される結晶構造を同じにするために,

Fig.8 で示される回転成形の成形過程を参考に,厚さ 0.5mm の紫外線劣化試験用サンプル

を作成した.

試験用プレス成形機を用い,原料粉末を 150℃で 3 分間予熱

150℃で 2 分間脱気後、10Mpa で 1 分間加圧

200℃まで 8 分間かけて加熱

180℃まで 8 分間かけて徐冷

その後室温中で急冷

3)紫外線劣化サンプルの作成

促進試験機の中で波長分布が太陽光に近似している キセノンフェードを光源に用い,120 時間ごと 1200 時間 までの光照射サンプルを作成した.

試験装置: SUGA キセノンウェザーメーター SX2-75 放射照度: 60W/m2

波長範囲: 300~400nm

ブラックパネル温度: 89℃,雨なし

グラスフィルター: #320 (最短波長:320nm) Fig. 12 ラマン分光装置の外観 [10]

(17)

4)ラマン分光法

波長 638nm を励起光とする DPSS レーザー(LASOS)を光源

としたラマン分光装置を使用.SpectraPro2300i および PIXIS100

(Princeton Instruments)をそれぞれ分光器および検出器として 用い,各ラマンスペクトルは、2 秒の露光時間で 20 回積算した.

実験に用いたラマン分光装置の外観を Fig.12 に示す.

5) FT/IR による赤外吸収スペクトルの測定

日本分光株式会社 FT/IR6600 を用い, 1 回反射 ATR 法(ダイヤモンド結晶, 分解能 4cm-1、積算回数 32 回 )で測定した.また, 1715cm-1 と 1460cm-1における吸光度比をカル ボニルインデックスとして劣化評価に用いた.

6)高温 GPC による分子量分布の測定

Malvern Instruments 製 HT-GPC 350A HT-GPC を用いた.溶離液はオルトジクロロベン ゼンを用い,流速 0.3 ml/min、温度 140 ℃で測定した.カラムは Styragel HT6E,4,3

(waters 社製)を 3 連で用いた.検出器はトリプル検出器(示差屈折計、光 散乱検出器、粘度検出器)を用いた.

2-3-2 結果と考察

1)ラマン分光法

各暴露時間後の LDPE のラマンスペクトルを Fig.13 に,波長の帰属を Table 3 に示す.

1300 cm-1近傍のピークは曝露時間により変化がなく規格化ピークとした.

Table 3 ラマンスペクトル波長の帰属 [5]

Fig. 13 LDPE のラマンスペクトル [5]

(18)

C-C 伸縮モードでのピーク強度,ピーク位置の変化をそれぞれ Fig.14 と Fig.15 に示す.

結晶の C-C 伸縮モードに帰属する 1063 cm-1及び 1130 cm-1 のピークの相対強度は直線的

に増加し,トランス鎖の増加を示唆した.1080 cm-1 に示す非晶分子鎖ピークの相対強度

は 500 時間後に減少し,非晶鎖の減少を示唆した.1080 cm-1 に示す非晶分子鎖ピークは

高波数側にシフトし,1063 cm-1 と 1130 cm-1 に示す結晶性分子鎖ピークは低波数側にシ フトする.このことはポリマー鎖に伸張応力が加わることを示唆している.

CH2曲げモードでのピーク強度,ピーク位置の変化をそれぞれ Fig.16 と Fig.17 に示す.

非晶相にあるトランス鎖に帰属する 1440 cm-1の相対強度は暴露時間と伴に増加するが,同 じ非晶相にある非晶分子鎖に帰属する 1460 cm -1 の相対強度は減少する.これらの対称 的な変化は,非晶相におけるトランス鎖の形成と解釈される.1418cm-1の低周波数へのシ フトは暴露時間と共に増加し,結晶格子の収縮が起こっていることを示唆している.

これらの微視的な構造変化は,非晶鎖からトランス鎖への変換が紫外線暴露の初期段階 で起こり,続いて約 500 時間で結晶度が上昇することを示している.また,結晶度の増加 は,材料の至る所で局所的な体積収縮を引き起こし,これが微小亀裂の発生を誘発し,材 料破壊(Fig.11 の照射 1080 時間後に示される全面クラックの発生)に至ると考えられる.

Fig. 14 C-C 伸縮モードでの Fig. 15 C-C 伸縮モードでの

ピーク強度変化 [5] ピーク位置変化 [5]

(19)

Fig. 16 CH2曲げモードでの Fig.17 CH2 曲げモードでの

ピーク強度の変化 [10] ピーク位置変化 [10]

それらの結果は,LDPE などの Semi-Crystalline Polymer の劣化が Fig.18 に示すように構 造変化を伴って階層的に進行することを示唆している.

Fig. 18 Semi-Crystalline Polymer の階層的劣化 [10]

2)FT/IR による赤外吸収スペクトルの測定

試料の酸化度を評価するため ATR 法で測定した赤外吸収スペクトルの結果を Fig 19, カルボニル基に帰属する 1715 cm-1 のバンドに着目して算出したカルボニルインデックス の結果を Fig.20 に示す.

劣化の進行に伴い,カルボニルインデックスが直線的に増加することから,サンプル表 面では 0 次反応でカルボニル基が生成することが分かり,500 時間以降に測定される劣化 の加速現象が説明できない.

(20)

Fig. 19 赤外吸収スペクトル(ATR 法)[6] Fig. 20 カルボニルインデックスの結果 [6]

3)高温 GPC による分子量分布の測定

紫外線劣化した LDPE の分子量分布の変化を高温 GPC で測定した.結果を Fig.21 に 示す.劣化の初期(~480 時間)では,分子量分布は広がるが MW の低下は起こってい ない.一方,劣化の後期(600 時間以降)では MW が低下していることが分かり,Fig.9 で示される照射約 500 時間に起こる黄色度(YI)の上昇が,分子鎖の切断の結果生じた共役 二重結合による発色であることが示された.

Fig. 21 分子量分布の結果(高温 GPC)[6]

2-3-3 結論

ラマン分光法,FT/IR による赤外吸収スペクトル測定,高温 GPC による分子量分布測 定で,劣化過程での構造変化の基礎研究を行い,以下の結論を得た.

PE などの半結晶性ポリマーの劣化は,ミクロサイズからマクロサイズへと進行する と考えられる.

(21)

劣化の判定方法として、顕微鏡を用いたマイクロクラックの発生確認や,黄変度とグ ロス値を測定する方法がある.

しかし,マイクロクラックの発生確認は球晶よりも大きなサイズまで進行しなければ 劣化を判断することはできない.また,屋外での黄色度と光沢度の測定はメタメリズ ムの問題があり,長期間同一条件での測定が不可能である.

劣化の初期状態を調べるためには,ラメラ構造以下の変化を調べる必要がある.

非晶分子鎖ピーク,結晶分子鎖ピーク及び非晶相結晶化ピークについて,紫外線暴露 の進行に伴うピーク強度及びピーク位置の変化をラマン分光法で調べることで LDPE の劣化を初期段階で判断することができる.

ラマン分光法が紫外線照射して劣化した LDPE の分子レベルでの劣化を調べるのに適 していることを見出し,初期段階での劣化を調べることが可能であることが分かっ た.

FT/IR による赤外吸収スペクトルの測定で,劣化の進行に伴いカルボニルインデック

スが直線的に増加することから,サンプル表面では 0 次反応でカルボニル基が生成す る.

高温 GPC による分子量分布の測定で,劣化の後期(brittle fracture stage)で

MW が低下することから分子鎖切断に起因する共役二重結合が発生して,発色による 黄色度(YI)の上昇を引き起こす.

2-3-4 LDPE の紫外線劣化機構

従来技術による劣化評価と劣化過程の基礎研究から LDPE の紫外線劣化機構を 考察する.

Fig. 22 に示すように,劣化の初期段階(~480 時間)では,非晶領域でトランス鎖長が

長くなり,これに引張力が作用することで非晶領域中にある非晶鎖(ゴーシュ鎖)の運動 性が拘束される.劣化の後期段階(600 時間~)では,結晶の急激な増加と非晶鎖の減少 および拘束化が進展によりミクロクラックが発生し,これが系全体に伝播することで材料 破壊に至ると推論される.

Fig. 22 LDPE の紫外線劣化機構(イメージ図)[6]

(22)

2-4 表面摩擦係数による劣化過程の実用研究 [11,12]

分光学的な手法を用いた基礎研究は,劣化のメカニズムを解明するのには有力な手段で あることが分かった.一方で,非破壊劣化診断を行う製品は,様々なプラスチックから構 成されており,様々な種類の顔料や添加物を含んでいる.また,異なる種類の樹脂をブレ ンドして形成される場合もある.分光学的な方法で非破壊劣化診断を行うためには,あら かじめスペクトルデータを用意する必要があり,実用的な測定法としては限界がある.

そこで,実用的な非破壊劣化診断技術として,皮膚科学で開発された皮膚表面の微小な 変化を検知するための手法が応用できないかと考えた.中でも,Friction の変化を測定する 手法は,据え置き式や移動式、二次元の直線運動や回転運動などの装置が開発され、微小 な変化を検知するために様々な Probe の開発と相まって PE の紫外線劣化に伴う微小な表 面摩擦係数の測定に有効ではないかと期待され,実用的な非破壊劣化診断技術としての研 究を行った.

また,表面の劣化とバルクの劣化の関連を調べるために,動的粘弾性測定も行った.

2-4-1 実験

1)原料

将来,回転成形の日本での普及活動を目論んで,回転成形用グレードである LDPE

(Prime Polymer Co. Ltd.)を使用した.密度 0.92g/cm3およびメルトインデックス(MI)

4g/10 min.である.ペレット作成時の熱安定性を担保する目的で,dibutylhydroxytoluene が 0.2wt%含まれている.

2)紫外線劣化試験用サンプルの作成

サンプル作成時に受ける熱履歴と冷却時に形成される結晶構造を同じにするために,

Fig.8 で示される回転成形の成形過程を参考に,厚さ 0.5mm の紫外線劣化試験用サンプル

を作成した.

試験用プレス成形機を用い,原料粉末を 150℃で 3 分間予熱

150℃で 2 分間脱気後、10Mpa で 1 分間加圧

200℃まで 8 分間かけて加熱

180℃まで 8 分間かけて徐冷

その後室温中で急冷

(23)

3)紫外線劣化サンプルの作成

促進試験機の中で波長分布が太陽光に近似しているキセノンフェードを光源に用い,

120 時間ごと 1200 時間までの光照射サンプルを作成した.

試験装置: SUGA キセノンウェザーメーター SX2-75 放射照度: 60W/m2

波長範囲: 300~400nm

ブラックパネル温度: 89℃,雨なし

グラスフィルター: #320 (最短波長: 320nm)

4)摩擦係数の測定

摩擦係数の測定には,静・動摩擦試験機(株式会社トリニティーラボ製

TL-201Ts)を 用いた.この試験機は,力センサーに直結したプローブと移動ステージから構成されてい る.力センサーがプローブに直結しており,プローブに生じる力をロスすることなく検出 することが可能となっている.測定機構は,移動ステージ上にサンプルを固定し,サンプ ル上にプローブを接触させ,ステージを一方向に一定速度で動かすことでプローブとサン プル間に生じる摩擦力を測定する.装置の構成を Fig. 23 に,測定原理を Fig. 24 に示す.

測定では、Fig. 25 に示す先端形状が直径 8mm の半球状プローブを用い,サンプルにプ ローブを接触させる垂直荷重を 2.9N とした.ステージの移動速度は 0.1 mm/s とし,摺動

距離 20mm で 5mm~15mm 間を測定範囲とした.サンプリング速度は 10msec である.

Fig. 23 摩擦係数測定装置 Fig. 24 摩擦試験装置の測定原理

(独)京都市産業技術研究所 撮影 (独)京都市産業技術研究所 作成

力センサーで得られた摩擦力から,

アモントン-クーロンの摩擦法則 (Amontons-Coulomb Friction Laws)

(式 1)に則って摩擦係数 xi を算出し,

上述した測定範囲での平均値 と 平均偏差

を測定値とした

(式2と式3).測定は同一劣化条件 のサンプルに対して 3 回行った.

Fig. 25 実験に供したプローブ

(株)トリニティラボ 提供

(24)

F = xiN (式 1)

ここで F : 摩擦力 xi : 摩擦係数 N : 垂直抗力

(式 2)

(式 3)

ここで

:摩擦係数の平均値

∆ :摩擦係数の平均偏差

n :5mm~15mm間のデータ数

5)表面粗さの測定

紫外線劣化したサンプルの表面凹凸の変化を白色干渉顕微鏡で測定した. 測定は超分解 能非接触三次元表面形状計測システム(株式会社ニコン製 BW-S506)で,倍率 10 倍の二 光速束干渉対物レンズを用い,観察範囲 1mm×1mm、上下方向の走査範囲±20μm(20nm ステップ)の条件で測定した. 画像から得られた直線状の高さプロファイル

f(x)

から

(式4)に従い,算術平均粗さ

R

aを算出した.

(式 4)

ここで

R

a

:算術平均粗さ f(x):高さプロファイル

f

0

:高さプロファイルの平均値

L : 測定する 2 点間距離で実験では 1 ㎜

(25)

6)動的粘弾性測定

Rheology Co., Ltd.の Model DVE-V4 を使用し,劣化サンプルの動的粘弾性を測定した.

測定周波数は 10Hz で,-120℃から 135℃まで昇温速度毎分 2℃で温度分散を測定した.測 定に用いたサンプル形状は 5 mm×30 mm である.

2-4-2 結果と考察

1)摩擦係数の測定結果

劣化時間の異なる LDPE の摩擦測定結果を Fig.26 に示す. 劣化の進行に伴う摩擦係数の

平均値 ̅と平均偏差(MD)の結果を Fig.27 に示す. 図中のエラーバーは 3 回行った測定の最

大値と最小値である. 摩擦係数の平均値 ̅ が高いほど滑りにくい表面であり,平均偏差 (MD)が高いほど摩擦係数の変動が大きくざらついた表面であると考えられる.

Fig.27 から,劣化の進行による摩擦係数の平均値 ̅ は三段階で進むことが示される. 初

期の induction period を経て照射 360 時間まで増加する過程が ductile fracture stage であり,

その後一旦平衡状態を経て照射 600 時間以後再度増加する過程が劣化の brittle fracture stage である. 照射 1080 時間以後に摩擦係数が低下するのが final degradation stage で,サンプル に明確な亀裂が生じた結果,表面がかなり劣化して脆い状態になっており,摩擦の挙動が 異なることを示唆している.

Fig27 には摩擦係数の平均偏差 ∆ も示す(右座標). 平均偏差も摩擦係数と同様に三段

階で進むことが示される. 照射 360 時間まで増加後に減少するのが ductile fracture stage,そ の後一旦平衡状態を経て照射 600 時間以後再度増加するのが brittle fracture stage であり,

final degradation stage で平均偏差が減少することは摩擦係数の平均値 ̅ の変化と同様であ る.

Point 2 Point 1

Fig. 26 LDPE の摩擦測定結果 [12] Fig. 27 摩擦係数の平均値と平均偏差(MD) [12]

(26)

2)表面粗さの測定結果

白色干渉顕微鏡で測定した算術平均粗さ Raの測定結果を Fig.28 に示す.劣化時間の変 化に対する算術平均粗さRaの結果をFig.29に示す.

Fig. 28 算術平均粗さ Ra [12] Fig. 29 劣化時間に対する算術平均粗さ Raの変化 [12]

Fig.29 から、劣化の進行に伴う算術平均粗さの増加は二段階で進むことが示される.照

射 360 時間まで増加するのが ductile fracture stage であり,その後一旦平衡状態を経て照射

600 時間以後再度増加するのが brittle fracture stage である.ただ,brittle fracture stage から final degradation stage に変化する時点は表面粗さ測定では明確に示されなかった.

劣化の進行に伴う摩擦係数の平均値

と算術平均粗さRaは良く似た傾向にある.そこ で,縦軸に摩擦係数の平均値 を,横軸に算術平均粗さRaを取り,両者の相関関係を Fig.30 に示す.図中の数字は照射時間を示す.240 hr から 960 hr は一つの直線で示され良 い相関関係にあることを示す.中間の 360 hr,480 hr,600 hr は重なり合い,この時点で ductile fracture stage から brittle fracture stage に移行することが示される.0 hr と 120 hr が直 線関係から外れるのは,使用した半球状プローブの先端形状が直径 8mm で、微小な表面 粗さを検出するには大きすぎるためと思われる.より小さい直径を持つプローブを使用す れば,初期の induction period が小さくなることが予想される.1080 h と 1200 h が直線から 大きく外れるのは,サンプルに明確な亀裂が生じ脆性破壊が急激に進行する final

degradation stage に移行したことを示している.

(27)

Fig. 30 摩擦係数の平均値と算術平均粗さ Raの相関関係 [12]

摩擦係数の平均値と白色干渉顕微鏡で測定した算術平均粗さが良い相関を示すことか ら,摩擦係数の変化は劣化によるサンプル表面の凹凸を反映していることが示される.

3)動的粘弾性測定

紫外線劣化した LDPE の動的粘弾性の結果を Fig. 31 に示す.照射時間 720 h 以上の劣化 サンプルは脆く,動的粘弾性測定は出来なかった.-20℃付近での緩和ピーク(β緩和)

は非晶質鎖に帰属される.Fig. 32 に示すように,β緩和のピーク位置は照射時間 480h 後 に明らかに高温側にシフトし,ガラス転移温度 Tg の上昇を示している.ガラス転移温度 の上昇は,非晶質鎖の硬化として説明され,ラマン分光で測定された結晶度の急激な増加 と非晶鎖の減少および拘束化の進展によるミクロクラックの発生を示唆している.動的粘 弾性測定はバルクでの機械的特性を示しており,試料全体に劣化が進行する brittle fracture stage の劣化を反映している.表面での劣化は,試料全体に劣化が進行するより前に起こる ため,摩擦測定による劣化診断では劣化が始まる初期の微妙な変化を検出することができ る点で大きな可能性を秘めている.

(28)

Fig. 31 紫外線劣化した LDPE の Fig. 32 紫外線劣化した LDPE のβ緩和 [12]

動的粘弾性結果 [12]

2-4-3 結論

静・動摩擦試験機による表面摩擦係数の測定,白色干渉顕微鏡による表面粗さの測定,

動的粘弾性測定から以下の結論が得られた.

LDPE の劣化は,Fig. 33 で示すように,進行が遅く黄変度の増加やグロス値

の低下も緩やかで衝撃試験では延性破壊を示す ductile fracture stage,進行 が速くなり黄変度の急激な増加やグロス値の急激な低下が見られ衝撃試験 では脆性破壊を示す brittle fracture stage,脆性破壊が急激に進行し材料が 細片まで破断する final degradation stage の三段階で進む.

摩擦係数の平均値を測定することで,劣化の全過程をフォローでき,

ductile fracture stage から brittle fracture stage へ移行する点(Point 1)と brittle fracture stage から final degradation stage に移行する点(Point 2)を決定する ことが可能である.

摩擦係数の平均値の結果と白色干渉顕微鏡で測定した算術平均粗さが良い 相関を示すことから,摩擦係数の平均値の変化は劣化によるサンプル表面 の凹凸の変化を反映していることが分かった.

摩擦係数の平均値で示される初期の induction period は使用した半球状プロ ーブの先端形状が大きいことが原因と思われ,今後のプローブ形状の最適 化が必要である.

バルクの状態での劣化を示す動的粘弾性測定では,試料全体に劣化が進行

する brittle fracture stage の劣化は示されるが,劣化が試料表面の微妙な凹

凸変化である ductile fracture stage の劣化測定には有効でなく,摩擦測定に

(29)

よる劣化診断の方が大きな可能性を秘めている.

Point 1 と Point 2

は Fig.27 と対応

Fig. 33 LDPE の劣化の三段階進行 [12]

2-4-4 今後の展開

静・動摩擦試験機(株式会社トリニティーラボ製

TL-201Ts)を用いた摩擦係数の測定 で次の展開が期待される.

材料表面の摩擦係数の平均値を経時的に定点測定することで, ductile fracture stage から brittle fracture stage へ移行する点(Point 1)を決定でき, さらに brittle fracture stage から final degradation stage に移行しわずかな外力で材料が破壊する点(Point 2)も決定でき る. ちょうど定期健康診断で人体の変化(劣化)を判定するように, プラスチック製 品の非破壊劣化診断が可能になり,プラスチック材料を出来るだけ長持ちさせる道が 拓ける.

brittle fracture stage から final degradation stage へ移行する点(Point 2)が決定可能で あり,海洋に流出したプラスチックごみ(レジ袋等)が海洋中で 5 ㎜以下のマイクロ プラスチックとなる劣化機構の研究や,マイクロプラスチックまで劣化しないプラス チック材料の開発の可能性が広がる.

2-4-5 マイクロプラスチックの生成機構解明への活用の可能性 [10,13,14]

マイクロプラスチックについて,論文を発表し総説を書いている.また,劣化問題を取 り上げるマテリアルライフ学会が 2019 年に設立する「マイクロプラスチック研究会」で 委員長を務める予定である. Fig. 34 に示す海洋プラスチックごみ,マイクロプラスチッ クの実態と解決策を使ってマイクロプラスチック問題について簡単に述べる.赤で囲った

(30)

ところが摩擦係数測定の応用展開が期待される部分である.

Fig. 34 海洋プラスチックごみ,マイクロプラスチックの実態と解決策 [14]

Fig. 34 の左上に海洋に流出するプラスチックごみの実態を示す.2016 年のダボス会議

で,このまま無策を続ければ 2050 年にはプラスチックごみの重量が魚の重量を上回ると 警告が発せられ,プラスチックごみが世界的に大きな社会問題・政治問題になってきた.

左下に海洋プラスチックごみが 5 ㎜以下のマイクロプラスチックまで細片化されるメカ ニズムを示す.「マイクロプラスチック研究会」が中心課題として取り組む予定である.

右上にマイクロプラスチックが生態系に与える影響について示す.研究が緒に着いたば かりであり,まだまだ不明な点が多いがこれから解明されていくものと思われる.

右下にマイクロプラスチックの生成防止策を示す. 下記に示す 6 つの生成防止策が考 えられるが,特に ⑤ と ⑥ をこれからの研究課題として取り組む予定である.

全ての人がプラスチックの廃棄を適切に行う

これが原点である.しかし現実は困難と言われており,廃棄される樹脂製品ごとに 様々な方策が提案され模索されている.

生分解性ポリマーへ代替する

環境省などはこの防止策を中心に進める計画であり,2019 年からパブリックコメン トも始まる予定である.しかし,生分解性ポリマーの分解過程で生じるオリゴマー等 の中間生成物の安全性が担保されていないなどの問題が残されている.

使い捨てプラスチックの製造・販売を禁止する

ペットボトルの規制とポリエチレンが使われるレジ袋の規制が各国で進んでいる.

日本も大阪市で開催される G20 を契機に,レジ袋の有料化による規制が実施される予

(31)

定である.

リサイクルしやすいプラスチック製品の開発

プラスチックのリサイクルを困難にしている要因として下記の諸点が挙げられる.

顧客や市場の要求に合わせて高機能化を図った結果であり,Simple is best.という原 則から逸脱している.

プラスチックに使用する樹脂の種類が非常に増え,2000 種とも言われる.

添加剤の種類も増え,樹脂と添加剤の組み合わせで,コンパウンドの種類は天文学 的な数まで達した.

プラスチックを何層も積層させた製品が開発され上市された.

樹脂/添加剤に繊維状や粒状のフィラーを配合した製品が開発され上市された.

意味のデザインなどを駆使して単一素材で複数素材を組み合わせた製品と同様な機 能を持ったプラスチック製品を開発しリサイクルを容易にすることが必要である.

非破壊劣化診断による劣化管理と寿命予測で非管理の短期使用から管理された長期 使用にプラスチックの需要構造を変える.

プラスチック製品の劣化の程度をフィールドで非破壊法により正しく評価する方法 がないことが建材やパイプ用途などの長期用途が増えない理由の一つである.また,

ポリエチレンは剛性や耐熱性が低いことも建材やパイプ用途が広がらない理由因であ る.しかし,回転成形製の大型タンク等では PE 層/PE 発泡層/PE 層からなる三層構造 体(Foam Sandwich Construction)にすることで,重量を増やさずに肉厚な成形体が成 形可能であり,剛性や耐熱性を改善することが可能である.さらに,三層構造体の中 間発泡層には分離分別して得たポリエチレンのリサイクルペレット・フレークが使用 できる可能性が高く,リサイクルペレット・フレークの有用な新規用途が開ける.

小さな破片まで劣化しない樹脂・添加剤系を開発する.(海洋での回収チャンスを増 やす)

海洋に廃棄されたプラスチックが,5 ㎜以下のマイクロプラスチックまで劣化する のは物理劣化(クリープ,疲労,衝撃など)を中心に,化学劣化や生物劣化が加わっ て起こると予想される.

マイクロプラスチックまで劣化する機構が分かれば,対策案も生まれる.例えば,

衝撃劣化が主因だとすれば,衝撃力を緩和する構造を樹脂や添加剤に入れておけばマ イクロプラスチック化が防げ,海洋での回収チャンスが増やせる.

材料表面の摩擦係数の平均値を測定することで,Fig. 33 に示す brittle fracture stage から final degradation stage へ移行する点(Point 2)が決定可能であり、海洋に流出したプ ラスチックごみ(レジ袋等)が海洋中で 5 ㎜以下のマイクロプラスチックになる劣化 機構の研究に役立つと期待される.

このように,本章で述べた非破壊劣化診断技術の開発は,マイクロプラスチック問題の 解決にも役立てることができる.

(32)

非破壊劣化診断技術の開発により,Fig. 5 に示すポリエチレンの資源循環図(現状)は 従来行われていた動脈側の研究・開発に静脈側の研究・開発を加えて Fig.35 に示すように 進化した.

Fig. 35 ポリエチレンの資源循環図(非破壊劣化診断技術の開発)

ここまでの研究結果をまとめる.

1) ポリエチレンの資源循環の静脈側の主要なテーマである非破壊劣化診断技術の開発 で,基礎研究に適した分光学的な手法と表面摩擦係数の測定という実用的な評価法 を開発した.

2) ラマン等の分光学的な手法は,劣化のメカニズム解明などの基礎研究に役立つと ともに,分別後のラインに組み込むことで,リサイクルペレット・フレークの分級 を可能にする.

3) 表面摩擦係数の測定は,定期的な定点測定で正確な寿命予測を行い,取り換え時期 を明確にすることを可能にする.

4) しかし,劣化の進んだリサイクルポリエチレンには付加価値の高い用途がなく,

燃焼によるエネルギー回収されてマテリアルリサイクルの比率アップには寄与して いない.

5) 劣化の進んだリサイクルポリエチレンの付加価値の高い用途を開発する目的で多層 発泡技術(FSC:Foam Sandwich Construction)の研究を行った.

(33)

第 3 章 多層発泡技術( FSC : Foam Sandwich Construction )の研究

ポリエチレンは曲げ剛性と耐熱性がPPなど他のプラスチックに比べて低いことが構造 材としての使用を妨げている.この弱点を改善するために下記の方策が考えられる.

超高分子量化

高結晶化,高結晶配向

繊維強化コンポジット

FSC(Foam Sandwich Construction)

巨視的な立体構造制御

① ~ ③ はポリエチレンの持つ柔軟な特性を失ってしまう.⑤ は魅力的な方策で,昆 虫の持つ構造に学ぶエントモミメティックサイエンスの発展に期待されるが,現状では未 完の技術である.これらの方策の中で ④ の FSC は軽量化と高剛性化を同時に満たすこと に加え,断熱性や防音性の改良,衝撃強度の改良など付加価値も期待される点で魅力があ り,ヨーロッパでは電気自動車の外装材への提案が行われ,ヨットの躯体への採用が始ま るなど実現に一番近いと考えられる.また,Table 2 に示した Rotoflex Project では官民学が 協働し,全自動で FSC が成形できる成形機を開発中との情報も得られた.

このような背景から,ポリエチレンを用いた構造材の開発には,発泡層を中間層とする FSC が本命と考え,研究開発を行った.

3-1 多層成形の基礎研究 [15-18]

成形時間が長いという回転成形の特徴を利用し,紛体の付着過程の観察を行うととも に,紛体の流動性や付着性の差を利用して,他の成形法では得ることが困難な厚み方向に 構造が異なる成形体を得て,その力学挙動を明らかにした.

3-1-1 実験

1)紛体材料

Fig. 36 に実験に使用した紛体材料とそのキャラクタリゼーション示す,MMA 含量 18%

の EMMA とあらかじめ顔料を配合し緑色に着色した LLDPE を用いた.

2)一軸回転成形機

紛体の付着過程の観察を行うために,エバポレーターとオイルバスを組み合わせ,

Fig.37 に示す一軸回転成形機を作成した.

3)紛体の付着過程の観察

紛体 20g を直径 9 cm の円筒状ガラス瓶に投入後,一軸回転成形機にセットした.

15rpm で回転させながら,毎分 3℃ で室温から 200℃ まで昇温過程での紛体原料の転動

(34)

性,付着性や溶融から最終成形体を得るまでを観察した.

4)厚み方向に構造が異なる成形体

EMMA 10g と LLDPE 10g を,直径9cm の円筒状ガラス瓶に投入して試験した.

EMMA と LLDPE の付着性の差を利用して,下記の Method Ⅰ~Method Ⅲ で厚み方向に 構造が異なる成形体を得た.

【Method Ⅰ】

初めに EMMA のみを成形型に入れ成形を行う.すべての EMMA を付着させた後,

LLDPE を投入し,更に成形を行う.室温より成形を開始し,毎分 3℃で昇温した.ま

た,EMMA のみが付着する 90℃ですべての粉体が付着するまで 10 分間等温に保った.

【Method Ⅱ】

成形前に EMMA と LLDPE を十分混合したものを成形方に投入し,成形を行う.両 材料の付着温度以上の 200℃で成形を開始した.

【Method Ⅲ】

成形前に EMMA と LLDPE を十分混合したものを成形型に投入し成形を行う.室 温より成形を開始し,毎分 3℃で昇温した.また,EMMA のみが付着する 90℃ですべて の粉体が付着するまで 10 分間等温に保った.

5)成形体の物性評価

得られた成形体の円筒部分より,円周方向に幅 3mm の短冊を切り出し,動的粘弾性 測定を行った.測定周波数は 10Hz、温度範囲は-150~140℃である.また,ゲージ長 10mm 幅4mm のダンベル形状に打ち抜き,引張り速度 200mm/分で一軸引張試験を行っ た.

Fig. 36 紛体材料とキャラクタリゼーション [16]

Fig. 37 一軸回転成形機 [16]

(35)

3-1-2 結果と考察

1)紛体の付着過程の観察

Table 4 に示すように,粉体の付着開始温度は DSC で測定した融点とほぼ一致している

ことがわかった.このことは,粉体中の結晶の融解が粉体の付着性に大きく関与している ことを示唆している.また,この知見は,DSC で粉体の融点を測定することで付着温度を 推定できることを意味しており,実際の成形現場において極めて重要な知見となる.

Table 4 紛体の付着結果 [16]

2)厚み方向に構造が異なる成形体の顕微鏡写真

成形体の断面を切り出し、光学顕微鏡で観察した.【Method Ⅰ】の結果を Fig. 38 に示 す.【Method Ⅰ】では明確な境界線を持つ二層構造が得られた.【Method Ⅱ 】では,Fig.

39 に示すように LLDPE が海相となるような海島構造を有する 1 層構造体が観察された.

また,【Method Ⅲ 】では Fig. 40 に示すように,成形体の外側(型側)には EMMA 層

(白色部),成形体の内側(空気側)には LLDPE 層を有し,中間層は LLDPE が海相とな る海島構造を持つ三層構造体が形成されることがわかった.

Fig. 38 【Method Ⅰ】の 光学顕微鏡観察結果 [16]

(36)

Fig. 39 【Method Ⅱ】の 光学顕微鏡観察結果 [16]

Fig. 40 【Method Ⅲ】の 光学顕微鏡観察結果 [16]

3)動的粘弾性測定

これらの構造を持つ試料の動的粘弾性測定の結果を Fig. 41 に示す.

Fig. 41 動的粘弾性の結果 [16]

-130℃近傍に見られる LLDPE の γ 緩和および-25℃近傍に見られる EMMA のβ緩 和のピーク位置が,各種層構造を有するブレンド系において単体とほぼ同じ位置に見られ ることから,いずれのブレンド系でも LLDPE と EMMA は分子混合していないことがわ かる.

このような非相溶系のブレンド試料の弾性率は,各単体要素の幾何学的な和で表される とする高柳モデルでよく記述できることが知られている.ここでも,これらのブレンド系 の試料の粘弾性スペクトルを記述するモデルとして,高柳モデルに基づいた力学モデルを

(37)

構築した.構築したモデルを Fig. 42 に示す。黒と白の長方形はそれぞれ EMMA と

LLDPE 相を示し,その大きさは,実測データから見積もった比率に基づき決定した.

Fig. 42 高柳モデルに

基づいた力学モデル [16]

【MethodⅠ】で得られた二層構造体のモデルおよび予測値と実験結果の比較を Fig. 43

に,【MethodⅡ】で得られた一層構造体のモデルおよび予測値と実験結果の比較を Fig. 44 に,【Method Ⅲ】で得られた三層構造体のモデルおよび予測値と実験結果の比較を Fig. 45 に示す.

Fig. 43【MethodⅠ】の二層構造体 モデルおよび予測値と 実験結果 [16]

(38)

Fig. 44【MethodⅡ】の二層構造体 モデルおよび予測値と 実験結果 [16]

Fig. 45【Method Ⅲ】の二層構造体 モデルおよび予測値と

実験結果 [16]

いずれの層構造体でも,50℃までは高柳モデルの予測値と実験結果はほぼ一致した.

50℃ 以上で予測値と実験結果が乖離するのは,EMMA の溶融が予測よりも進むためと思 われる.

一軸引張試験の結果を Fig. 46 に示す.

Fig. 46 一軸引張試験結果 [16]

LLDPE と EMMA は典型的なプラスチックおよびゴムの応力‐ひずみ曲線を示してい

る.両者を混合し成形した試料では,層構造により,応力ひずみ曲線は大きく異なること がわかる.一層構造体と二層構造体では,ネックが発生しネック伝播領域が観察された.

これらの 2 つの構造体の応力レベルは LLDPE のものとほぼ同じであった.これらの結果

は,LLDPE 相がこれらのサンプルの引張特性に支配的に寄与していることを示唆してい

(39)

る.一方,三層構造体は,ネック挙動を示さなかった.また,その応力レベルは,一層構 造体や二層構造体よりもはるかに低かった.これらの結果は,同一組成のブレンド体でも 回転成形の条件を変えることにより応力 - 歪み挙動を制御できることを示唆している.

さらに,試料のヤング率の理論的な考察を行うために,作成した単層構造体,二層構造 体および三層構造体の弾性率を高柳モデルを基に計算し実測値と比較した.結果を Fig. 47 に示す.

Fig. 47 各試料のヤング率

-理論値と実測値の比較 [16]

LLDPE相およびEMMA相のヤング率は, LLDPEとEMMAのヤング率と同等であると

仮定し,それぞれ 290MPa および 21MPa とした.計算値と実測値は,おおむね誤差範囲で 一致し,層構造を制御することで同一組成でも弾性率が大きく変化する構造体をつくるこ とが出来,かつ,その設計指針を得ることが出来た.

3-1-3 結論

透明なガラス製の型を備えた一軸回転成形機で粉体の付着開始温度は DSC で測定した 融点とほぼ一致していることを見出した.また,紛体の付着性の差を利用することで,厚 み方向で層構造の異なる成形体を作成することが可能で,作成した層構造の異なる成形体 の力学特性は,層構造に基づいた高柳モデルを構築することで予測できる.

3-2 化学発泡剤を用いた PE の常圧発泡成形 [19]

回転成形による発泡は,次の 2 点で押出成形や射出成形による発泡と異なる.原料を構 成する樹脂と発泡剤を様々に組み合わせて発泡挙動を研究するためには,可能な限り回転 成形の特徴を踏まえた簡易な発泡試験法が必要である.

常圧発泡であり,発泡剤の分解ガスが原料溶融体に溶解しない.

加熱時間と冷却時間が押出成形や射出成形より長い.

Fig.8 に金型内部(Cavity)の温度を示す.A が原料の金型への付着開始点,B が付着終

了点,C が金型内の最高到達温度 PIAT(Peak Internal Air Temperature)で,この温度で成形条

(40)

件の管理や品質管理が行われる.D が結晶化開始点である.

温度が精密に制御可能な試験用プレス成形機を利用し,常圧で緩やかな昇温という回転 成形に基づいた簡易な発泡試験法を開発し,この試験法を用いて PE 系樹脂と化学発泡剤 の組合せで発泡試験を行った.

3-2-1 簡易な発泡試験法の開発

Fig.8 を参考に,回転成形の成形過程を想定した発泡試験法を作成した.

1)発泡試験用のサンプル作成

試験用プレス成形機を用い, 原料粉末を 140℃で 2 分間脱気プレス後, 30℃で急冷して 1 mm 厚の試験用サンプルを作成した. この条件では, 発泡剤は未分解で, Fig.8 の B 点に 相当する.

2)発泡試験法の開発

試験用プレス成形機のヒートブロック間隔を 12 mm に設定する。3 mm の当板上に 1 mm

の SUS 板を乗せ、その上に 1) で作成したサンプルを置く.150℃で5分間予備加熱後に設

定温度まで昇温する.この設定温度が Fig.8 の C 点で PIAT に相当する.PIAT=190℃まで は 7 分,200℃までは 8 分,210℃までは 9 分,220℃までは 10 分,230℃までは 11 分,

238℃までは 12 分それぞれ昇温に要した.

回転成形を模した簡易な発泡試験法を Fig. 48 に示す.

Fig. 48 回転成形を模した簡易な発泡試験法 [19]

(41)

3-2-2 発泡試験

確立した発泡試験法を用い,Table 5 に示す PE 系粉末樹脂と Table 6 に示す化学発泡剤を 組み合わせてミキサーで混合し原料用コンパウンドを作成した.発泡剤の種類によって分 解ガス量が異なるので,コンパウンド1g 当たり1ml の分解ガス量になるように発泡剤の 配合量を調整した.

Table 5 PE 系粉末樹脂 [19] Table 6 実験に供した粉末発泡剤 [19]

ADCA:Azodicarbonamide

OBSH:4,4’-oxybisbenzene sulfonyl hydrazide

*:尿素系の分解促進剤を添加

ADCA と OBSH は発熱型の有機系発泡剤で,NaHCO3は吸熱型の無機系発泡剤である.

発泡剤の分解メカニズムを Fig. 49 に示す.Sample No.2~4 は、尿素系の分解促進剤を添 加し,分解開始温度を下げた ADCA 系発泡剤である.

Fig. 49 発泡剤の分解 メカニズム [19]

3-2-3 結果と考察

サンプル B(LDPE)の結果を Table 7 に纏め,発泡体の断面写真を Fig. 50 に示す.

ADCA 系発泡剤(1~4)の比較では,分解温度 145℃の Sample No 3 が理論発泡倍率 に近い.

(42)

ADCA 系、OBSH NAHCO3の各発泡剤の比較では,OBSH が低温発泡可能であ り,PIAT が 200℃でも理論発泡倍率に近い発泡体が得られる.

OBSH は ADCA 系に比べて,細かいセルの発泡体になる.押出発泡等では,副次的

に発生する水蒸気が原因で ADCA よりも気泡が荒くなるとの指摘もあるが,常圧で 加熱速度が緩慢な場合には逆の結果を示す.

NAHCO3は,理論倍率よりかなり低くなる.発生ガスが CO2 で,常圧でも樹脂に

溶解しやすいためか,ガス発生速度が緩慢なためか今後解析が必要である.

発泡剤の種類による影響に比べて樹脂の種類による影響は小さい.

Table 7 サンプル B(LDPE)の発泡試験結果 [19]

Ideal expansion ratio:1.92

Fig. 50 発泡体の断面写真 [19]

3-2-4 結論

回転成形の特徴を生かした簡易な発泡試験法を確立した.試験した化学発泡剤の中で

は,OBSH が低温発泡が可能で,細かいセルの発泡体が得られる.発泡剤の影響に比べて

樹脂の種類の影響は小さく,HDPE,LDPE,EMMA のいずれもほぼ同等の発泡挙動を示 す.このことは,リサイクルペレット・フレークを発泡層に利用するに際し,非常に重要 である.リサイクルプラスチックを分離・分別し,ポリエチレンだけを集めることは可能 であるが,ポリエチレンを HDPE,LDPE,LLDPE とさらに分別するのには過大なコスト

(43)

とエネルギーが必要で,実際上不可能であり,分離分別しリサイクルポリエチレンには,

これらが混在している.

3-3 幅広い成形 Window を持つ発泡剤系の検討 [20]

各層に別個の機能を付与できる回転成形を用い非発泡層/発泡層/非発泡層からなる三 層構造体(FSC)の創成を目標に検討を行っている.ここでは,高倍率発泡試験で成形 Window の広さを検討した結果と尿素系分解促進剤を添加して低温発泡が可能か検討し た.非発泡層/発泡層/非発泡層の成形では発泡層が加熱され難いために低温発泡が必要 であり,複雑な形状の成形体を再現よく成形するには成形 Window が広いことが必要であ る.

3-3-1 実験

高倍率発泡試験では,Table 5 に示す樹脂 B(LDPE)と Table6 に示す粉末発泡剤 3 と 5 を用いた.コンパウンド1g 当たり 1ml,2ml,3ml および 4ml の分解ガス量になるように 発泡剤の添加量を変えて試験した.低温発泡試験では,溶融温度の低い樹脂 D(EMMA:

MMA18%)を用い,粉末発泡剤として OBSH に尿素系分解促進剤(三協化成㈱セルトン NP)を発泡剤に対して 10%、20%および 50%添加し試験した.発泡試験用プレスシート 作成条件と発泡試験は 3-2 に準じて行った.

3-3-2 結果と考察

高倍率発泡試験の結果を Fig. 51 に,発泡体の断面写真を Fig. 52 に示す.低温発泡試験 の結果を Fig. 53 に示す.

Fig. 51 高倍率発泡試験の結果 [20]

(44)

Fig. 52 発泡体の断面顕微鏡 写真(高倍率発泡)[20]

Fig. 53 低温発泡試験 [20]

OBSH は安定した倍率の発泡体が得られる温度域が広く,成形 Window が広い.

OBSH は5倍発泡でも高温まで発泡セルが細かく均一である.

OBSH は尿素系分解促進剤で低温分解が可能だが,-160℃までの低温発泡には

50%の添加が必要である.

尿素系分解促進剤を添加すると発泡セルが荒くなる.OBSH の分解発生ガスが N2

と H2O であるのに対し,尿素は 150~160℃で分解し NH3 を発生する.これが発泡セルを

粗大化させていると考えられる.

3-3-3 結論

OBSH は 5 倍発泡でも高温まで発泡セルが細かく安定であり,成形 Window が広い.

OBSH に尿素系分解促進剤を添加すると 160℃での低温発泡が可能である.ただし,

発泡セルは粗大化する.

参照

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