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急性腹症に対する細径腹腔鏡検査の有用性の検討

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原  著 〔東女医大誌 第63巻 第11号頁1367∼1376平成5年11月〕

急性腹症に対する細径腹腔鏡検査の有用性の検討

東京女子医科大学 第二外科学教室(主任:浜野恭一教授)        ミヤ   ザキ   キヨ   カタ

       宮 崎  舜 賢.

(受付平成5年7月16日) Utility of Laparoscopy with Small Diameter in Cases of Acute Abdomen

      Kiyokata MIYAZAKI

Department of Surgery II(Director:Prof. Kyoichi HAMANO)      Tokyo Women’s Medical College   Since 1982 the authors have applied laparoscopy with small diameter to 206 patients with acute abdomen in whom neither clinical signs and symptoms nor various imaging techniques allowed a definitive diagnosis or determination of surgical applicat量on.   Astudy was made in terms of identification of lesion site, or indication of emergency surgery in order to prove the usefulness of the present method in diagnosing acute abdomen. The following results were obtained:   0f 206 patients, lesion site was successfully observed with this laparoscopic method in 137 (66.5%),and inflammatory findings of the abdominal cavity and the feature of ascites on laparoscopy were helpful for the diagnosis in 58(28.2%), yielding a successfui diagnosis in 195(94.7%)patients. Emergency surgery was indicated in 201 cases(97.6%).   The above results demonstrate that laparoscopy with small diameter is useful for making a final diagnos三s of acute abdomen, although it stiil needs further improvement in both device and technology.          緒  言  急性腹症の診断および手術適応の判定は,超音 波検査(US)やcomputed tomography(CT)な どの画像診断法の普及に伴い,近年著しく進歩し た.しかしながら,臨床所見や各種補助診断法に よっても診断が困難な:急性腹症は少なからず存在 し,このような症例にあっては,治療方針の決定 に難渋することが多い.この場合,いたずらに経 過観察をして手術時期を失したり,逆に不要な開 腹をしてしまうという危険が常に存在し,臨床医 を悩ますことになる.  筆老らは,このような急性腹症で確定診断や手 術適応の判定が困難な症例に対し,1982年以来オ リンパス社製針状腹腔鏡および筆者らが開発した 細径腹腔鏡による検査を積極的に施行してきた. そこで本稿では,筆老らが独自に工夫した細径腹 腔鏡の手技について述べるとともに,本法による 急性腹症に対する診断能の有用性を立証するた め,急性腹症を癒着性イレウス,腹部外傷,その 他の急性腹症の三群に分類し,各々について診断 率,病巣部位の確認,緊急手術の決定などについ て検討し,若干の知見を得たので報告する.        対象および方法  1.対象  1982年1月から1990年12月までの9年間に,東 京女子医科大学第二外科および救命救急センター に緊急入院した急性腹症症例は2,373例であり,そ の内訳は癒着イレウス475例,腹部外傷274例,そ の他の急性腹症1,624例(そのうち急性虫垂炎 1,041例)である.これらのうち,腹部理学的所見

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および腹部単純X線所見などの画像診断法で確 定診断や手術適応の判定が得られずに細径腹腔鏡 検査を施行した症例は223例である.この223例の 腹腔鏡検査前の診断の適合率は53.1%である.  このうち本稿の目的である癒着性イレウス(78 例),腹部外傷(35例),その他の急性腹症(93例) 計206例を対象として,腹腔鏡所見とその診断成績 につき検討を加えた.各群における具体的な検討 項目は,癒着性イレウスにおいては,①絞拒性イ レウスにおける絞施腸管の診断率,②単純性イレ ウスにおける閉塞部位の診断率(閉塞機転の診断 率).腹部外傷においては,①損傷臓器の診断率, ②消化管穿孔の有無の診断率,③進行性出血の有 無の診断率.その他の急性腹症においては,①病 巣の診断率とした.なお全症例を通じて緊急手術 適応の判定と適中率は内帯共通の検討項目とし た.  下等における対象例の性別,年齢別内訳を表1 に示し,疾患別内訳を表2に示す.  2.腹腔鏡検査の手技  腹腔鏡検査は,試験開腹を除けば急性腹症に対 する唯一の直接診断法であるが,手技が煩雑で侵 襲を伴う点や,一般に使われる腹腔鏡の操作性に 難点があることから,これまで普及しなかった.  筆老らは,従来の腹腔鏡検査の欠点を補うため に,オリンパス社製針状腹腔鏡を用いた安全かつ 簡単な手技を考案するとともに,1987年には外径

2mmの細径腹腔鏡を独自に開発し使用してい

る.  以下に,現在筆者らが考案し実施している腹腔 鏡の手技を概説する.  1)オリンパス社製針状腹腔鏡の手技  (1)器具(図1)  ①針状腹腔鏡:外径3.4mm,直視型,有効長

270mm

 ②トロカール:外径3.6mm,先端円錐型  ③Veress雪気学際  ④ライトガイド:グラスファイバー製  ⑤自動気腹器  ⑥光源,カメラ  ⑦尖刃刀,直のモスキート内子,探り針ほか 表1 対象例の内訳 1982. 1∼1990.12 癒着性 Cレウス 腹部外傷 その他の }性腹症 症例(例) 78 35 93 性(男:女) 47:31 27:8 34:59 平均年齢 @(範囲)  51.2 i12−89)  38.3 i16−79)  41.9 i12−85) 備 考 開腹歴: S例に有り 受傷機転 U的錫傷…31劉 表2 急性腹症・腹腔鏡症例          1982. 1∼1990.12 疾  患 症 例 腹腔鏡でa巣を確認 緊急手術 癒着性イレウス 78 46 25 単純性 61 31* 8 絞拒性 17 15串* 17 腹部外傷 35 22 8 その他の急性腹症 93 69 39 婦人科疾患 31 29 4 急性局所性腸炎 21 20 3 急性虫垂炎 19 14 18 汎発性腹膜炎 14 2 12 癌性腹膜炎 3 3 0 膵炎 3 0 0 急性胆嚢炎 2 1 2 計(%) 206 137(66.5) 72(35.0) *:閉塞部位を確認・推定できた症例,榊:絞掩腸管を観察で きた症例。         図1 器具 1.オリンパス社製針状腹腔鏡とライトガイド 2. トロカール 3,Veress式気腹針

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 (2)術前準備  腹腔鏡が技術的に困難な症例は,第1回目レウ スなどで腸管内に大量の液体や気体が貯留し,腹 腔穿刺が困難な症例,第2に腹壁全体に癒着が推 定される症例,第3に出血性素因を認める症例で ある.原則として,これらの症例は腹腔鏡の適応 から除外する.  腹腔鏡は原則として局所麻酔下に施行するが, 緊急手術に備えて各種データをそろえておく.開 腹歴がある場合は,原疾患と手術内容を把握し癒 着の範囲を推定しておく.輸液路を確保し,腹腔 鏡施行30分前に鎮静剤を投与する.  (3)気腹  Veress式気腹針は鋭利な先端の外針とバネ仕 掛けの鈍な先端の内針からなっており,鋭利な外 針が腹腔内に到達すると内針が飛び出し,腹腔内 臓器損傷を防止できるようになっている.  気二丁挿入部位は,通常は脇の左方3cmの位置 としている.この部位を選ぶ理由は,実質臓器を 誤って刺す危険がない点と,気腹針を抜去後同一 部位より腹腔鏡を刺入し,腹腔内全体を観察する のに好都合なためである.但し,癒着が想定され る際は,適宜挿入部位を別に選択する.  挿入部位の皮膚から筋膜までを局所麻酔した 後,患者の腹壁を緊張させて気三針を垂直に刺入 する.先端が腹腔内に達すると内針が飛び出すの で,ここで気腹針を固定し,まず注射器で吸引し て血管や腸管に刺入されていないことを確認す る.次に5mlの空気を注入し,抵抗なく注入されて 腹腔内に拡がり,この空気が吸引して回収されな いことを確認する.もし吸引して空気が回収され れば,気腹黒の先端は腹腔内にないと考え,刺し 直した方がよい.先端が腹腔内にあることを確認 後,気腹針と自動気腹器を連結し気腹を開始する 気腹圧は20mmHgを越えないようにする.約200 ml注入したところで右季肋部の肝濁音が消失す るので,これを打診により確認する.患者の全身 状態に変化がないか常にチェックしつつ気腹操作 を行い,1,000∼2,500mlの気腹完了後,気三針を 抜去する.  腹腔鏡に伴う合併症のほとんどは,気腹操作中 に発生することが報告されており1),気腹のため の一連の操作を慎重かつ正確に行うことが,腹腔 鏡を施行するうえで大切である.なお,筆者らは 合併症を9例(4,4%)経験し,その内訳は皮下気 腫6例,腸間膜および大網気腫3例であり,いず れも施行初期の症例である.  (4)腹腔鏡挿入  気腹針抜去後,同部位に尖刃刀を皮膚に垂直に 刺入し,約4mmの皮切と筋膜切開を行う.次いで 直のモスキート桿子でトロカール挿入ルートを拡 げる.患者の腹壁を緊張させ,トロカールを作製 したルートに沿って挿入する.トロカールが腹壁 を穿通すると急に抵抗がなくなるので,ここでト ロカール内針を抜去し,素早く腹腔鏡を挿入する.  (5)観察  最初に腹腔鏡挿入に際しての臓器損傷がないこ とを確認する.腹腔内の観察はベッド操作が有用 で,上腹部を観察する時は上体を挙上し,右腹部 を観察する時は右側を高位にすると観察しやす い.腹腔鏡本体が細径のために,膜様癒着は簡単 に二二できる.図2に示す腹腔内臓器はいずれも 観察が可能であり,病巣が容易に観察できること が多いが,癒着などで病巣の観察が困難な場合は,

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 磯 〆  想レ 、 ・   ノ /       図2 腹腔鏡挿入部位 図に示す臓器はすべて腹腔鏡で観察可能である.探り 針で肝・大網・胃腸管・子宮などを移動させると,さ らに観察範囲が拡がる,

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』轡胎齢轡懸騨轡 表3 絞挽性イレウス症例(n=17)        1982. 1−1990.エ2         図3 器具 1.教室で開発した外径21nmの細径腹腔鏡 2.挿入用トロカール 腹膜や局所の炎症所見および混濁,膿性,血性腹 水の有無により手術適応の判定に主眼をおいて観 察する.腹水は必要に応じて採取し,細菌検査等 施行する.観察は通常4∼5分で終了する.  (6)術後処置  観察終了後はトロカールを通して腹腔内より脱 気を行い,トロカールを抜去する.創はサージカ ルテープで寄せておくだけで,ほとんど療痕を残 さない.  2)外径2mmの細径腹腔鏡の手技2)  観察の精度を犠牲にしても腹腔鏡検査の安全性 や簡便性,操作性を向上させるために,筆者らは 開腹針のいらない外径2mmの細径腹腔鏡(図3) を開発した.  挿入用トロカールは外径2.5mm,有効長20cm で,トロカール外電には里腹用コヅクを設け,内 針の先端は刺入時の臓器損傷を避けるために三角 錐の鈍針とした.  手技は,腹腔鏡挿入部位を局所麻酔した後に尖 刃刀で3mmの皮切を行い,直のモスキート二子 で筋膜を破り,トロカール挿入用のルートを作製 する.作製したルートに沿ってトロカールを腹腔 内に刺入する.トロカール先端が腹腔内にあるこ とを確認する操作は,先に述べた気縮織挿入時の 手技と全く同一である.トロカールの気謡講コッ クに自動気欝器を連結し,気織しつつトロカール に細径腹腔鏡を挿入し腹腔内の観察を行う. 腹腔鏡所見 手術所見 No. 性 年齢 絞掩 蝿ハ 絞施 ー管 腹水 主な癒着 腸冒用 1 女 73 × ○ 血性 腹壁一腸間膜 十 2 女 62 × × 混濁 後腹膜一大網 十 3 54 × ○ 血性 後腹膜一盲腸 十 4 13 ○ 血性 腹壁一小腸   5 58 × ○ 血性 後腹膜一卵管 一 6 24 × ○ 血性 後腹膜一腸間膜 一 7 女 43 × ○ 血性 後腹膜一腸間膜 8 男 49 × ○ 血性 腸間膜一腸間膜 十 9 男 48 × ○ 血性 後腹膜一腸間膜 十 10 女 26 × ○ 血性 後腹膜一付属器 一 11 男 29 × ○ 血性 後腹膜一腸間膜 十 12 女 43 × ○ 透明 後腹膜一小腸 一 13 女 75 × × 血性 盲腸一腸間膜 一 14 女 58 × ○ 透明 後腹膜一付属器 一 15 男 75 × ○ 血性 後腹膜一腸間膜 十 16 女 89 × ○ 血性 後腹膜一付属器 十 17 男 60 × ○ 血性 後腹膜一腸間膜 十 ○:腹腔鏡で確認,×:腹腔鏡で未確認.          結  果  1.癒着性イレウス  1)絞拒性イレウスにおける絞拒腸管の診断率  癒着性イレウス78例中絞拒性イレウスは17例で あった.17例中15例に絞拒され変色した腸管が観 察された.絞掘性イレウスを診断するうえでの腹 腔鏡検査のsensitivityは88.2%(15/17), speci丘cityをま100% (61/61), accuracyをま97.4% (76/78)といずれも高率である.  絞掘性イレウス17例の各腹腔鏡所見を表3に示 すが,血性腹水は14例(82.4%)に観察され,し たがって絞掘腸管または血性腹水を腹腔鏡で確認 できた症例は16例(94.1%)と極めて高率である. 残る1例(No.2)は,混濁腹水を認めたものの癒 着が強く,絞拒腸管は確認できなかった.  2)単純性イレウスにおける閉塞部位の診断率 (閉塞機転の診断率)  単純性イレウス61例中閉塞部位を同定できた症 例は31例(50.8%)と約半数にとどまり,その閉 塞機転をみると(表4),腹壁に癒着した小腸や腸 問膜の屈曲捻転が20例(64.5%),小腸ループが一 塊に癒着が5例(16.1%),腹壁からの索状物によ

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表4 単純性イレウス31例の腹腔鏡所見からみた閉塞  機転 閉  塞  機 転 症 例 腹壁に癒着した小腸。腸間膜が屈曲・捻転 20 小腸ループが一塊に癒着 5 腹壁からの索状物による閉塞 4 拡張腸管が後腹膜に牽引される. 2 計 31 る閉塞が4例(12.9%),拡張腸管が後腹膜に牽引 された症例が2例(6.5%)であった.  3)緊急手術適応の判定と適中率  緊急手術適応の判定は絞拒性イレウスと小腸が 強固に癒着し保存的治療では困難な単純性イレウ スとした.  癒着性イレウス78例中25例(32.1%)に緊急手 術を施行した結果,全例によい結果を得た.残る 53例は保存的治療で軽快し,100%の適中率であっ た.  緊急手術施行25例の内訳は,絞拒性イレウスの 17例,そのうち9例は腸管壊死をおこしていた. 単純性イレウスは,強固に癒着し,保存的治療で は軽快しない8例であった.  図4は胃切除術後の単純性イレウス例で,腹壁 に癒着した小腸が複雑に捻転した所見がみられ手 術適応と診断した.  図5は虫垂切除術後の単純性イレウス例で,腹 壁からの索状物がみられやはり手術適応と診断し た.  2.腹部外傷  1)損傷臓器の診断率  腹部外傷35例の主な損傷臓器(表5)は,肝が 9例と最も多く,次いで後腹膜7例,消化管穿孔 5例などである.35例中腹腔鏡検査で損傷臓器を 確認できた症例は,22例(62.9%)と比較的低率 である.その原因としては,腹腔内出血や腸内二 等により視野を阻まれた症例が多かったことと, 実質臓器深部の損傷では観察が物理的に困難なこ とがあげられる.  2)消化管穿孔の有無の診断率  腹部外傷に伴う消化管穿孔の5例は,いずれも       図4 単純性イレウス 腹壁に癒着した小腸が複雑に捻転している.(針状腹腔 鏡で撮影) 図5 腹壁からの索状物による単純性イレウス(針状  腹腔鏡で撮影) 表5 腹部外傷35例の腹腔鏡所見        1982.1∼1990.12 主損傷臓器 症例 損傷部を@確i認 腹腔内 ? を m認 進行性 o血を m認 手術 肝 9 7 0 1 1 後腹膜 7 7 0 0 0 消化管穿孔 5 0 5 0 5 腸管壁 @(非穿孔) 4 3 0 0 0 脾 3 0 0 0 0 大網 3 3 0 0 0 腸間膜 2 1 0 2 2 膵 1 0 0 0 0 子宮 1 1 0 0 0 計 35 22 5 3 8

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肝右葉 肝右葉下面の血腫 凝血塊        図6 交通事故による肝損傷例 肝右葉下面に大きな血腫と周囲に凝血塊を認める.保存的治療で軽快した. 十二指腸 (針状腹腔鏡で撮:影) 腹腔鏡検査で穿孔部の確認はできなかったが,全 例とも腹腔内の腸内容,消化液または混濁した血 性腹水を確認することにより100%診断できた.  3)進行性出血の有無の診断率  腹部外傷35例中,消化管穿孔の5例を除く30例 全例に腹腔内血液貯留を認めたが,このうち腸間 膜損傷の2例と肝損傷の1例計3例に,腹腔鏡で 進行性出血を認め,100%の診断を得た.  4)緊急手術適応の判定と適中率  緊急手術適応の判定は消化管穿孔と腹腔内進行 性出血を認めた症例とした.  腹部外傷35例中,消化管穿孔の5例と進行性出 血を認めた3例計8例(22.9%)に緊急手術を施 行し,残る27例(77.1%)は保存的治療で軽快し, S状結腸漿膜損傷部       図7 墜落による骨盤骨折例 S状結腸漿膜損傷と腹腔内出血を認める.保存的治療で治癒した. 少量の腹腔内血液貯留 (針状腹腔鏡で撮影)

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      図8 急性局所性腸炎 限局した小腸の発赤,浮腫と壁の肥厚を認める.(針状 腹腔鏡で撮影) 表6 婦人科疾患31症例       1982。 1∼1990,12 骨盤腹膜炎 17 卵巣出血 11 子宮内膜症 2 右卵巣嚢腫茎捻転 1 計 31 100%の適中率であった.  図6は交通事故による肝損傷例で,肝四葉下面 に大きな血腫と周囲に凝血塊を認める.進行性出 血を認めず,保存的治療で軽快した.  図7は墜落による骨盤骨折例で,S状結腸漿膜 損傷と腹腔内出血を認める.同じく進行性出血を 認めず,保存的治療で治癒した.  3.その他の急性腹症  1)病巣確認の診断率  その他の急性腹症93例中,腹腔鏡で病巣を確認 できた症例は69例(74.2%)であった.さらに, 病巣確認ができないまでも,腹膜および局所の炎 症所見や腹水の性状から21例(22.6%)に鑑別診 断でき,計90例(96.8%)の診断率を得た.内訳 は以下である.  (1)婦人科疾患  婦人科疾患31例の内訳(表6)は,骨盤腹膜炎 17例,卵巣出血11例,子宮内膜症2例,右卵巣嚢 腫茎捻転1例であった.このうち,骨盤腹膜炎の 1例が右下腹部に膿苔の付着を認めたために虫垂 炎の診断で手術し,卵巣出血の1例が凝血塊のた

めに出血源不明で手術となった他は,29例

(93.5%)に正確な:診断ができた.  (2)急性局所性腸炎  急性局所性腸炎21例中腹腔鏡で20例(95.2%) に限局した小腸の発赤と壁の肥厚を認め(図8), 急性局所性腸炎と診断した.残る1例は病巣を観 察できなかった.  (3)急性虫垂=炎  急性虫垂炎の19例は,臨床所見から婦人科疾患 との鑑別のため腹腔鏡検査を施行した.14例 (73.7%)が腹腔鏡で虫垂を確認し,他の5例は回 盲部の炎症所見から,全例急性虫垂炎と診断する ことができた.  (4)汎発性腹膜炎  汎発性腹膜炎14例中病巣を観察できた症例は十 二指腸潰瘍穿孔と胆嚢穿孔の2例(14.3%)のみ であったが,他の12例においてもいずれも混濁, 膿性,胆汁性腹水の貯留や腹膜への膿苔の付着が みられ,100%診断できた.  (5)癌性腹膜炎  癌性腹膜炎の3例はいずれも急性腹症として入 院した.腹腔鏡所見より2例は卵巣癌の腹膜播種, 1例は大腸癌術後の腹膜再発と診断でき,100%の 診断率であった.  (6)膵炎  膵炎の3例は慢性膵炎と診断されていたが,強 い腹痛で入院し,他疾患との鑑別のため腹腔鏡検 査を施行した。3例とも膵周囲の炎症所見はなく, 腹水も黄色透明であり,他疾患との鑑別ができ, 100%の診断率であった.  (7)急性胆嚢炎 ・急性胆嚢炎の2例は,US等で診断がついてい たが,脳血管障害等を合併しており,重症度の判 定のために腹腔鏡検査を施行した.1例に壊疽性 胆i嚢,他の1例に胆嚢周囲の膿苔を認めた.  2)緊急手術適応の判定と適中率  緊急手術適応の判定は,腹膜炎が観察される症 例と保存的治療では腹膜炎へと悪化する可能性が

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大きい症例とした.  その他の急性腹症93例中39例(42.1%)に緊急 手術を施行した.39例中婦人科疾患の2例と急性 局所性腸炎の3例計5例(12.8%)は緊急手術が 不要であった.残る34例と保存的治療を施行した 54例計88例によい結果が得られ,緊急手術適応の 判定は94.6%の適中率であった.          考  察  腹腔鏡検査は,1902年Kelling3)が膀胱鏡を使用 して犬の腹腔内を観察したことにはじまる.その 後,1910年にはJacobaeus4)がやはり膀胱鏡を用 いて人間にはじめて施行した.その後,腹腔鏡検 査はヨーロッパで普及し,特に肝臓領域において 多くの業績がみられるようになった.わが国にお いても,1929年北山5)によって紹介され,内科,婦 人科領域の診断や治療に用いられるようになっ た.  一方,腹腔内の急性病変の診断を目的として行 われる腹腔鏡検査についての最初の報告は,1956 年Lamyら6)によりemergency peritoneoscopy として最初の報告があった後,1970年代に入って Fahrlanderら7), Llanioら8), Beck9)により腹腔内 急性病変の診断に腹腔鏡検査が有用であったとの 報告がなされている.  わが国においては,1977年に小松10)がはじめて 緊急腹腔鏡検査の臨床報告をし,その後教室の中 川ら11N6)もその臨床的有用性を折に触れ報告し てきたが,急性腹症に対する腹腔鏡検査は,現在 まで一般に普及するに至っていない.その理由は, 本法が侵襲を伴う特殊内視鏡検査であるという技 術的側面と,本法の急性腹症に対する診断法とし ての評価がまだ成されていない,という2点にあ ると考えられる.  まず,急性腹症に対する腹腔鏡検査の技術的問 題点を挙げると,  ①標準型腹腔鏡が8∼10mmと太いため,挿入 に際して数cmの皮膚切開と終了後の縫合が必要 で,』 N襲が大きい.  ②検査に時間がかかる.  ③腹腔内全体を観察するためには操作性が問 題である.  ④緊急で行うため腸管損傷や腹腔内出血など の重篤な合併症を起こす可能性がある. などが考えられる.  教室では,これらの問題点を解決するために外

径3.4mmのオリンパス社製針状腹腔鏡に着目

し,本機種を急性腹症に対する腹腔鏡検査への導 入を検討した.その結果,針状腹腔鏡を用いるこ とにより,以下の点で,従来の腹腔鏡を使用する 場合に比べ,技術的問題点は大幅に改善すること が明らかになった.

 ①挿入に際して皮膚切開は4mmで十分であ

り,抜去後の縫合を特に必要としない.  ②検査に要する時間は平均20分で,観察時間は 数分と極めて短時間である.  ③腹腔鏡が細径のために腹腔内での操作性に 優れ,下腹ガス量も1,000mlで十分観察可能であ り,膜様癒着は腹腔鏡本体で穿破できる.  ④検査に伴う合併症は,手技に習熟することに より避けることが可能で,教室での腹腔鏡検査に よる合併症は,皮下気腫や大網気腫などを数例に 認めただけである.  教室では,針状腹腔鏡のもつ利点を更に生かす ために,外径2mmの細径腹腔鏡を開発し,腹腔鏡 検査の手技を簡略化することに成功した.本機種 の欠点は,オリンパス社製針状腹腔鏡より細径の ため,ファイバーの本数が約3倍少ない.そのた め,オリンパス社製針状腹腔鏡に比べ,観察能と 記録性はやや劣るが,診断能にそれほど差がない. 現在,技術的に細径腹腔鏡の適応ではないと判断 する症例は,拡張腸管や広汎な癒着のために腹腔 穿刺が困難な症例だけである.  急性腹症に対する各種診断法に求められる要点 は,疾患特異性がありかつ緊急手術適応の判定に 決定力のある客観的診断材料の提供である.US, CTなどの各種画像診断法の進歩により,急性腹 症の診断能は向上しているが,緊急手術適応の判 定は画像診断法のみでは不十分である11).  教室では,1982年より急性腹症で,臨床所見か ら緊急手術適応の判定が困難な症例に細径腹腔鏡 を施行し,その臨床的意義につき検討を重ねてき た,これまでに経験した細径腹腔鏡症例の腹腔鏡

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所見から,緊急手術適応の判定はほぼ全例に得ら れており,開腹と同等の所見が得られる点で細径 腹腔鏡検査の意義は大きいと考えている.  癒着性イレウスは,開腹の既往さえあれぽ腹部 所見と腹部単純X線所見から診断は容易である. しかしながら,絞掩腸管の:有無,絞挽のない場合 閉塞の部位と閉塞機転,更には保存的治療が可能 かどうかといったイレウスの質的診断は,各種画 像診断でも得られないのが普通である.教室でこ れまでに経験した癒着性イレウス腹腔鏡症例は, これら質的診断を目的に施行したが,絞拒の有無 は94.1%の高率で診断が可能であった.また単純 性イレウスにおける腸閉塞部位は50.8%の症例に 観察することができ,これらの症例では手術適応 を判定することが可能であった.  腹部外傷の病態は,実質臓器損傷による腹腔内 出血と消化管穿孔による腹膜炎に二分される.実 質臓器損傷部位の判定とこれに伴う腹腔内出血の 診断にはUS, CTが有用であるが,損傷程度の把 握と進行性出血の確認および手術適応の有無の判 定は,腹腔鏡所見を加えることでより正確な診断 が得られた.  一方,消化管穿孔とこれに伴う腹膜炎の診断は, 腹部単純X線で腹腔内遊離ガスを認めない場合, その他の画像診断法でも限界がある17).しかし腹 腔鏡検査では,消化管穿孔部位を直接観察できた 症例はなかったが,腹腔内の消化管内容や腹膜の 炎症所見から,全例に腹膜炎を診断することがで きた.  その他の急性腹症のうち,特に婦人科疾患,急 性虫垂炎,急性局所性腸炎など下腹部に病巣をも つ疾患に対しては,腹腔鏡は極めて高い診断率を 有しており18),自二三でもこれらの疾患の鑑別診 断に有用であった.特に婦人科疾患にあっては, PID,卵巣出血といった質的診断が可能であり,手 術適応のない疾患が多いことから19),無用の開腹 を避けるために腹腔鏡検査が有用と考えられる.  急性局所性腸炎は,ほとんどが腸アニサキス症 およびその類似疾患と考えられ20),発症頻度は少 なくないと思われるが,診断は困難であり,大多 数は短期間に自然治癒することから急性虫垂炎と の鑑別が必要で,腹腔鏡所見が鑑別の決め手にな り得る.  汎発性腹膜炎は,発症後早期,高齢者でボケ症 状を伴う場合,意識障害を伴う場合などで診断が 困難な場合がある.汎発性腹膜炎の腹腔鏡所見と しては,腹膜の発赤や二丁の付着,膿性,胆汁性 腹水や腸内容の腹腔内貯留などがあり,これらの 所見の観察は通常極めて容易である.病巣の観察 は困難な場合が多いが,緊急手術適応の決定には 何ら問題はない.  以上,教室で開発した細径腹腔鏡の手技とその 有用性につき検討した.急性腹症に対する各種診 断法の中で,腹腔鏡検査は最近まで禁忌とされて いたためか21>,わが国ではほとんど普及していな いが,十方例の臨床成績から安全で診断能が高く, 特に緊急手術適応の判定に極めて有用であること が明らかになった.手技の改良は今後も続ける必 要があるが,急性腹症に対する細径腹腔鏡所見は 上部消化管出血に対する緊急内視鏡所見と同等の 診断価値を有すると考えられるため,本法は今後 積極的な臨床応用が期待される.          結  語  臨床症状および各種画像診断で確定診断または 手術適応の判定が得られなかった急性腹症206例 に,細径腹腔鏡検査を施行し,以下の結果が得ら れた.  1.癒着性イレウス78例においては,絞苑性イレ ウス17例中16例(94.1%)に確定診断をくだすこ

とがでぎ,単純性イレウスでは61例中31例

(50.8%)に閉塞部位と閉塞機転を診断できた.緊 急手術適応の判定は100%の適中率であった.  2.腹部外傷35例においては,22例(62.9%)に 主損傷臓器を確認することができた.消化管穿孔

の5例と進行性腹腔内出血を認めた3例計8例

(22.9%)に緊急手術を施行した.残る27例 (77.1%)は保存的治療で軽快し,緊急手術適応の 判定は100%の適中率であった.  3.その他の急性腹症93例においては,病巣を確 認できた症例は69例(74.2%)であり,病巣を確 認できないまでも,腹膜および局所の炎症所見や 腹水の性状から21例(22.6%)に鑑別診断でき,

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計90例(96.8%)の診断率であった.緊急手術適 応の判定は88例(94.6%)の適中率であった.  以上より細径腹腔鏡検査は,急性腹症の最終診 断法として極めて有用であることが実証された.  稿を終えるにあたり,御校閲を賜った浜野恭一教 授,ならびに本研究の遂行にあたり直接ご指導いただ いた鈴木 忠教授,福井医大救急部,中川隆雄助教授 に深甚なる謝意を表します.また本研究の実施にあた り終始御協力いただいた救命救急センターの諸先生 に御礼申し上げます,       文  献  1)芳野 健,島田宣浩,糸島達也ほか:腹腔鏡検査    の偶発症.Gastroenterol Endosc 2211386−1393,    1980  2)中川隆雄今真人,神崎博ほか:急性腹症の    診断用に開発した超細径腹腔鏡とその手技につい    て.救急医学 12:863−864,1988  3)Kelling(}: Ueber Oesophagoskopie, Gastros・    kopie und k61ioskopie. MUnchen Med Wochen・    schrift 49:21−24, 1902  4)Jacobaeus HC:Ueber die Mδglichkeit die    Zystoskopie bei Untersuchung serδser Hδhlun・    gen anzuwenden. M競nchen Med Wochenschrift    57:2090−2092, 1910  5)山形倣一1消化器疾患の内視鏡診断図譜.pp399    −41ち,中山書店,東京(1969)  6)Lamy J, Sarle H:Int6ret da la p6r−    itoneosopie chez les poly traumatis6s. Mar−    seille Chir 8:82−86, 1956  7)Fabrl琶nder H;D{e notfallmaβige Laparos一   kopie. Langenbecks Arch Chir 331:315−320,   1972 8)1』anio R, Sotto A, Jimenez G et al:La   Laparoscopie D’urgence. Sem Hδp Paris 49:   874−877, 1973 9)Beck K:Farbatlas der Laparoskopie(腹腔鏡   カラーアトラス).pp485−4ge,南江堂,東京(198D 10)小松寛治:緊急腹腔鏡検査法.Gastroenterol En−   dosc 19:675, 1977 11)中山隆雄,鈴木 忠,宮崎舜賢ほか:腹部外傷の   腹腔鏡診断一CTとの併用の意義について一,日   外傷研会誌 51151−156,1991 12)中川隆雄:救急医療と腹腔鏡.消内視鏡 3:   565−570, 1991 13)中川隆雄,鈴木 忠,石川雅健ほか:外傷性消化   器破裂に対する腹腔鏡診断の意義.日消外会誌   24:68−72, 1991 14)中川隆雄:緊急腹腔鏡.綜合臨床 38:50!−504,   1989 15)中川隆雄,中島清隆,久米川和子ほか:機械的小   腸イレウスに対する腹腔鏡の意義.臨床外科   39:1599−1604, 1984 16)中川隆雄,倉光秀麿:緊急腹腔鏡.救急医学 8:   1690−1691, 1984 17)葛要 猛,小林国男:腹部外傷。綜合臨床 38:   462−465, 1989 18)Gome翌V:Laparoscopy. CMA Journa1111:   167−16ζ〕, 1974 19)屋比久武,山内昌紀,名城京子ほか:骨盤腹膜炎.   救急医学 5:525−529,1981 20)石倉 肇,水柿 浩,浅石和昭ほか:局所性腸炎   の研究(その4).日臨雌蝶会誌 31:77−91,1966 21)Gome蓋V:Laparoscopy in general surgery.   Am J Surg 131:319−323,手976

参照

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