理学療法とちぎ Vol. 10 No. 1 27–30 ― 27 ― 症例報告
透析中の理学療法を実施し,自宅退院に至った
糖尿病性腎症患者の一例
廣瀬 友梨
1),森岡 奏子
1),飯島 聖人
1),渡部健太郎
1) Yuri HIROSE1). Kanako MORIOKA1). Masato IIJIMA1). Kentaro WATANABE1)要旨:[はじめに]閉塞性動脈硬化症により足趾切断後に廃用を生じ,日常生活動作(ADL)能力が
低下した糖尿病性腎症患者に対して,透析中と非透析中の理学療法を実施した一例を報告する.[症 例紹介]70 歳代男性,他院にて人工透析導入となった.ADL で疲労が強く要介助だった.歩行で は Borg scale 下肢 14,呼吸 14 であった.[経過]透析中,非透析中の理学療法介入を行った.結果, 下肢筋力では Manual Muscle testing(MMT)3 → 4 と改善,体組成にて筋肉量増加を認めた.歩 行時の Borg scale 下肢 11,呼吸 11 となり自宅退院に至った.[考察]透析中と非透析中の理学療法 介入により,筋力改善,運動耐容能向上し ADL が改善したと考える.[結論]透析中と非透析中の 理学療法は運動耐容能を向上させる. キーワード:人工透析,運動耐容能,日常生活動作 1) とちぎメディカルセンターしもつが:〒329-4498栃木県 栃木市大平町川連420-1 0282-22-2551
Tochigi Medical Center Shimotuga 420-1 Ohiramachi Kawature, Toichigi-shi, Tochigi 329-4498, Japan +81 0282-22-2551 受付日 2020年12月23日 受理日 2020年12月24日 Ⅰ.はじめに 透析患者に対する運動療法のエビデンスとして, 運動耐容能,歩行機能,身体的Quality of life(QOL) の改善効果が示唆されるため行うことを推奨すると 明記されている1).それらを踏まえ,理学療法では 運動療法を用いて心疾患の重症化の予防,再発防止 や筋骨格系の強化・回復・維持を行った. 今回,透析中と非透析中に理学療法介入し筋力改 善,筋肉量増加,運動耐容能向上し自宅退院に至っ た一例を報告する. Ⅱ.症例紹介 70歳 代 男 性 で 身 長164.5 cm, 体 重45 kg,BMI 16.7 kg/m2であった.既往歴は糖尿病,糖尿病性腎 症ステージ5透析導入中,陳旧性心筋梗塞にて末梢 血管形成術施行,右総腸骨動脈狭窄,左右閉塞性動 脈硬化症(ASO)により左大腿動脈–後脛骨動脈バ イパス術施行した. 入院前生活では要介護1サービス利用なし.二世 帯住宅であり,1階に97歳の母が居住していた.妻 と2階で同居しADLは自立,移動はT字杖にて自立 していた. 現病歴は2019年に他病院で糖尿病性腎症により 透析導入された.同年X月Y日に陳旧性心筋梗塞を 発症し,EVT施行した.2020年X月Y日に右ASO により右第2趾基節骨切断し,同年X+1月Y日に左 ASOに対し,左大腿動脈~後脛骨動脈バイパス術 を施行した.同月Y+14日に左第1・2・5趾基節骨
― 28 ― 理学療法とちぎ 切断し2週間の免荷期間中に当院へ入院となった. 転院日を第1病日目とし,第2病日目に免荷期間終 了となった. ヘルシンキ宣言に基づき患者に対し十分な説明 を行い,署名を以って投稿の承諾を得た. Ⅲ.経 過 第2病日目(初期評価)~第12病日目(表1), 意識レベルは清明,Communicationは会話にて可 能であった.日時,場所,生年月日の質問にて見 当識は保たれていた.性格は自我が強く,依存性 が高い印象を受けた.左前腕にシャント造設済み. 切断部の創部状況が良好であることや疼痛の訴え が無かったため全荷重が許可され,血糖コントロー ルも良好であり理学療法介入した.透析のモード は血液濾過透析,1日4時間を週に3回実施し,初 期のDryWeightは45 kg であった.理学療法の介 入頻度では,1週間のうち5日間の非透析中の介入 を行い,そのうち透析日は透析中のプログラム(週 3回)を追加し約3 ヵ月間実施した.それぞれ介入 時間は,20分~ 40分であり透析後は血圧変動や疲 労感,めまいなどの気分不快に留意した.初期評 価にて,透析前に血液検査を実施し透析後に身体 機能や体組成In Body S10(In Body社)を測定した.
結果,筋力低下や貧血,低栄養が著明であった(表 2,3,4).血圧は収縮期120 mmHg台,拡張期60 mmHg台,脈拍70回/分で経過した.運動強度は Karvonen法により算出し運動による最大心拍数を 90回/分に設定し,レジスタンス運動では1RMの 70%~ 75%に設定した.プログラムは,基本動作 練習,筋力強化運動,歩行練習を実施した.結果, 基本動作は自立し,歩行では平行棒や歩行器で約5 mの歩行が可能となった.歩行後の疲労度はBorg scaleにて呼吸14,下肢14であった. 第13病日目~第45病日目(表1),透析中の血圧 の変動もあり体調不良が生じたこと,長期的な入 院であることや現在の身体機能と想像している自 宅生活での差異により意欲低下が生じていた.そ のため①傾聴②他職種との連携③現実的な目標の 再設定④自発性の促しを行った.他職種と連携し 運動後,糖分補給目的に甘味物の提供や運動量増 加や筋力改善の目的にエネルギー量やタンパク質 量を最大限まで増加することを情報提供した.結 果,前向きとなり徐々に離床時間の増加がみられ た.透析中のDryWeightは44.8 kgと減少した.歩 行時の運動強度は,Karvonen法より最大心拍数を 83回/分に変更した.プログラムは,筋力強化運 動,有酸素運動,歩行練習を実施した.歩行では 歩行器にて30 m移動可能となった.疲労度はBorg 表 1 経 過 日 数 第 2–12 病日 第 13–45 病日 第 46–67 病日 (評価日:第 2 病日目) (評価日:第 30 病日目) (評価日:第 56 病日目) 目 標 起居動作・移動能力獲得 歩行能力・距離の拡大 歩行距離の拡大 ・簡易型エルゴメーター ・簡易型エルゴメーター ・簡易型エルゴメーター 透析中 (0W × 5 分) (0W × 15 ~ 20 分) (0W × 30 分) (週 3 回) ・ストレッチ,ROMex ・レジスタンス運動 ・レジスタンス運動 プログラム (重錘 0.5 kg) (重錘 1 kg) ・基本動作練習 ・レジスタンス運動(重錘 0.5 ~ ・レジスタンス運動(重錘 非透析中 ・レジスタンス運動(自重) 1 kg,セラバンド黄) 1.5 kg,セラバンド赤) (週 5 回) ・歩行練習 ・歩行練習(歩行器 30 m) ・歩行練習(歩行器・T字杖) (平行棒,歩行器 5 m) 見守り 自立 疲労度(Borg scale) 呼吸 14,下肢 14 呼吸 11,下肢 13 呼吸 11,下肢 11 ADL(Barthel Index) 40 ⇒ 45 点 65 ⇒ 75 点 80
― 29 ― 透析中の理学療法を実施し,自宅退院に至った糖尿病性腎症患者の一例 scaleにて呼吸11,下肢13であった. 第46病日目~第67病日目(表1),透析中や非 透析中の血圧変動は安定した.最終評価を実施し, 透析後に身体機能や体組成を測定し筋力向上や体 組成に筋肉量増加と水分量増加を認めた(表2, 表3).透析前の血液検査にて貧血改善がみられた (表4). プログラムは,筋力強化運動,歩行練習を実施 した.結果,歩行は自立し疲労度はBorg scaleに て呼吸11,下肢11となった.退院前に家族やケア マネジャーに対し退院支援と福祉用具選定の情報 提供を行った.介護保険は要介護4に変更となり歩 行器,電動ベッド,ポータブルトイレ,ヘルパーを 利用して自宅退院に至った. Ⅳ.考 察 本症例は,足趾切断術後廃用によりADL能力が 低下し自宅退院が困難となった透析患者である. 自宅退院を目標とし,透析中と非透析時間の理学 療法介入により自宅退院に至った. 身体機能面について,筋力改善,筋肉量増加, 運動耐容能向上が認められた.血液検査では,血 液透析の影響も考慮されるが低栄養,貧血改善が 認められた.これは,透析患者への運動療法は, 週に3回~ 5回の介入が望ましいとされており2), 週に5回の非透析中の介入を行い,そのうち透析日 は透析中のプログラム(週3回)を実施し,身体活 動時間を確保することができたためと考える.ま 表 2 身体評価 初期評価 最終評価 (第 2 病日目) (第 56 病日目) MMT 股関節屈曲 3/3 股関節屈曲 4/4 (Manual Muscle 膝関節伸展 3/3 膝関節伸展 5/5 Testing) 足関節背屈 4/4 膝関節伸展 5/5 右 / 左 底屈 4/4 底屈 5/5 下腿周径(CM) 23.8/28.0 24.0/25.5 表 3 体組織・体重 初期評価 中間評価 最終評価 (第 2 病日目) (第 30 病日目) (第56病日目) 体重(kg) 45.0 46.9 ~ 47.7 48.1 DryWeight(kg) 45.0 44.8 44.3 筋肉量 29.3 - 30.3 水分量 23.7 - 23.9 表 4 血液検査 初期評価 中間評価 最終評価 (第 2 病日目) (第 30 病日目) (第 56 病日目) HGB(g/dl) 8.6 11.7 12.4 (Hemoglobin) ALB(g/dl) 2.7 3.1 3.0 (Albumin) eGFR(ml/min) 10.5 7.3 7.0
(estimated glomerular filtration rate)
BUN(mg/dl) 25.0 44.0 63.0
(Bloob Urea Nitrogen)
Cre(mg/dl) 4.7 6.5 6.8
(Creatinine Clearance)
CRP(mg/dl) 2.8 - 0.0
― 30 ― 理学療法とちぎ た,透析患者の運動耐容能の向上には貧血改善が 重要であると報告されていることから3),血液透析 や他職種での栄養介入,運動療法など包括的な医 療提供が,運動機能や貧血,栄養状態,ADLを改 善したと考える. 心理面については,運動耐容能低下によりADL 困難感が強いことや長期的な入院であること,退 院後の自宅生活に不安があることでADL意欲が低 下していた.これに対し,①傾聴②他職種との連 携③現実的な目標の再設定④自発性の促しを行っ た結果,離床時間が延長しADL意欲の向上がみら れた.これは,漠然とした不安感を傾聴し少しず つ解決したことで目標が現実的となり自宅退院に 至ったと考える. Ⅴ.まとめ ASOにより足趾切断後に廃用を生じADLが低下 した糖尿病性腎症患者に透析中と非透析中の理学 療法を介入した.透析患者に対し週3 ~ 5回の理学 療法を実施し運動耐容能向上,筋肉量増加がみら れた.結果,ADL 向上し自宅退院に至った.透析 患者の介入には,身体評価のみならず精神的な部 分への包括的介入が必要であり奏功した.SF-36な ど評価スケールを用いて,健康関連QOLの経過を 追うことが必要だと感じた. 引用文献 1) 日本腎臓リハビリテーション学会:腎臓リハビ リテーションガイドライン.南江堂,東京, 2018, p38–71. 2) 上月正博:CKDにおけるリハビリテーション. 日本内科学会雑誌,2016, 105(7): 1296–1302. 3) 上村史郎:維持透析患者の運動耐容能に関する 研究.奈良医学雑誌,1991, 42: 378–388.