緒 言 頚 動 脈 ス テ ン ト 留 置 術(Carotid artery stenting; CAS)における最大の予後悪化因子は, 術中の虚血性合併症である。その原因としては, 頚動脈プラークからの末梢塞栓が重要である が,大動脈弓プラーク由来の塞栓症も大きな要 因となることが,近年明らかにされてきた1–4)。 我々は今回,大動脈弓プラークを合併した左 内頚動脈狭窄症例に対し,シモンズ型ガイディ ングカテーテルの誘導を工夫した経右上腕動脈 アプローチで大動脈弓プラーク部分へのカテー テル通過を回避し,安全に CAS を施行し得た ので,その誘導の要点を報告する。 症 例 患者 :73 歳 男性 主訴 :右半身麻痺,失語 既往歴:慢性閉塞性肺疾患,脂質異常症 現病歴:軽症の脳梗塞を発症し,左内頚動脈 起始部の高度狭窄と他院で診断され,当院に紹 介となった。 検 査 所 見: 胸 部 単 純 X 線 に て 高 度 な 気 腫 性変化を認め,スパイログラフィーでは重度 の混合性換気障害であった。頭部 MRI にて 左大脳半球に散在する脳梗塞が存在し,CT angiography にて左頚部内頚動脈に NASCET 法で 75%の狭窄(Fig. 1A)を認めた。また大 動 脈 弓 左 総 頚 動 脈(common carotid artery; CCA)分岐部から遠位には,高度のプラーク (Fig. 1B, C, D)が見られた。 手術手技および経過:重症呼吸器疾患のた め,CAS を施行することとした。大動脈弓に 高度のプラークが存在し,大 動脈経由は塞栓 症合併の危険が高いと判断し,経右上腕動脈ア プローチとした。経右上腕動脈アプローチで CAS を施行する場合には,シモンズ型ガイディ ングカテーテルが選択されることが多いが,通
風 間 宙 文,金 丸 和 也,橋 本 幸 治,
吉 岡 秀 幸,川 瀧 智 之,木 内 博 之
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山梨大学大学院医学工学総合研究部脳神経外科 要 旨:大動脈弓遠位部のプラーク合併症例に対し,同部へのカテーテル通過を回避するように工 夫した経右上腕動脈アプローチにより,安全に左頚動脈ステント留置(CAS)を行った。 症例は,症候性左内頚動脈狭窄症の 73 歳の男性。経右上腕動脈アプローチにて,右鎖骨下動脈 と右総頚動脈のカーブを利用してシモンズ型ガイディングカテーテルの形状を作成し,大動脈プ ラーク部を避けてガイディングカテーテルを左総頚動脈へ留置した。大動脈原性脳塞栓症を合併す ることなく CAS を完遂しえたので,その有用性について文献的考察を加えて報告する。 キーワード 大動脈プラーク,経上腕アプローチ,頚動脈ステント留置術 1) 〒 409-3898 山梨県中央市下河東 1110 番地 受付:2018 年 4 月 3 日 受理:2018 年 5 月 5 日常,シモンズ形状は,まずガイディングカテー テルを大動脈弓後半部に誘導したのちガイディ ングカテーテルの先端を大動脈弓部に当てるよ うにして,やや進めることにより作成される (Fig. 2)。しかしながら,本例では,この方法 はカテーテル操作によりプラークを遊離し,末 梢塞栓を生じる危険が高いと判断した。そこで, 今 回 は 右 鎖 骨 下 動 脈(subclavian artery; SA) と右 CCA を利用し,大動脈プラーク部を通過 せずにシモンズ形状を形成することにした。 ガイディングシースであるシモンズ型 6Fr ア クセルガイド(メディキット,東京),コアキ シアルカテーテルとして 4F シモンズ型 120 cm (メディキット,東京)を用いた。0.035 inch ラジフォーカスガイドワイヤー(テルモ,東京) およびカテーテルの安定性を向上する目的で 0.035 inch ラジフォーカスガイドワイヤーハー フスティッフタイプ(テルモ,東京)も適宜使 用した。誘導手順(Fig. 3)は,4Fr シモンズ 型カテーテルのカーブを大動脈弁で反転させて 作成し,形状を保ったまま腕頭動脈に引き戻し た。カテーテルを右外頚動脈へ誘導し,ガイド ワイヤーをハーフスティッフに入れ替えて安定 性を向上させた後,ガイディングシースを追従 させ,右 SA と右 CCA の角でシモンズ形状を 作成した。ガイドワイヤーとコアキシアルカ テーテルをアクセルガイドのカーブ手前まで引 き戻し,形状を維持したままガイディングシー スを上行大動脈まで進めた。大動脈弓でロー ドマップを行い,左 CCA に挿入した。Filter protection 下に CAS を施行した(Fig. 4)。術 翌日の MRI にて,右小脳半球と左大脳半球に 点状梗塞を認めるも,無症候で経過し,後遺症 なく退院となった。 考 察 CAS を施行するにあたり,大動脈弓部高度 粥状硬化病変の危険性を理解しておくことは重 要である。CAS 施行後に,当該血管領域以外 に MRI 拡散強調像の高信号が出現することは まれではなく,大動脈弓のプラークが塞栓源と なる事が指摘されている1–3)。また,Szikra らは, 石灰化を伴わない大動脈弓不安定プラークは Fig. 1. A: 3D-CT angiogram showing a severe stenosis of the left internal carotid artery.
B: The angle between SA and right CCA was relatively acute angle. C, D: CT angiogram showing severe aortic plaques.
Fig. 2. A s c h e m a t i c d i a g r a m f o r m a k i n g Simmons shape of the guiding catheter. A catheter is navigated to the distal part of the aortic arch. This procedure has a potential risk of embolic complication from the aortic plaque.
Fig. 3. Technical tips for the navigation of a Simmons guiding sheath to the non-bovine left common carotid artery (CCA).
(A) 4F Simmons catheter was advanced into the right CCA. (B) The guide wire (GW) was advanced into the right external carotid artery, and the 4F catheter was also advanced there. Then, half-stiff GW was used to improve its stability. (C) The 6F guiding sheath was advanced to the right CCA until the Simmons shape was made by using the angle of the right subclavian artery and CCA. (D) The 4F catheter and half-stiff GW were pulled back to the angle of the Simmons shape of the guiding sheath. Then, the guiding sheath was advanced to the ascending aorta with keeping the Simmons shape. (E) Roadmap was generated in the aortic arch. (F) The guiding sheath was advanced to the left CCA.
CAS 症例の 6 割に認められ,それを有する症 例では,術後の梗塞を生じるオッズ比が 5.6 倍 だったと報告しており,アプローチ方法の選択 やカテーテルの操作には注意が必要と指摘して いる2)。我々の CAS 施行例においても,症候 性脳虚血性合併症の約半数は,CAS 施行血管 領域外に生じており,大動脈原性塞栓症が主因 と考えられた。また一方,大動脈のプラークは, 血管内治療時に体幹臓器や四肢へのコレステリ ン塞栓症を生じる危険性も指摘されており,こ の点においても注意が必要である4)。本例では, 大動脈弓プラークの存在が術前に確認されてお り,大 動脈経由の CAS は塞栓症合併の危険 性が高いと考えられ,これを回避するアプロー チが必要と考えられた。 大動脈弓部でのカテーテル操作を避ける方法 として,頚動脈直接穿刺もしくは経右上腕動 脈や経右橈骨動脈アプローチが報告されてい る5–9)。頚動脈直接穿刺の場合には,大動脈弓 部を確実に回避できる利点を有するものの,侵 襲性が高く,全身麻酔を要し,血腫形成による 気道圧迫ないし閉塞のリスクや動脈解離の発生 が報告されている3)。また,大嶋らは穿刺と止 血を確実に施行するためには,侵襲的であるも のの皮膚切開と動脈の剥離が有用と報告して いる5)。一方,経右上腕動脈アプローチや経右 橈骨動脈アプローチでは,右 CCA や腕頭動脈 と共通幹を形成するタイプの左 CCA へのアプ ローチは多くの場合大動脈弓を経由せずに可 能である。大動脈から直接分岐するタイプの 左 CCA へのアプローチの場合,一般的にシモ ンズ型ガイディングカテーテルを用い,大動脈 弓の遠位部を利用して,シモンズ形状を作成 する10)。上行大動脈で作成する方法もあるが, 上行大動脈にスペースの余裕があることが必要 で,大動脈弁や動脈壁にストレスがかかるデメ リットが報告されている10, 11)。我々の方法では, 右 SA と右 CCA の形状を利用し先にガイディ Fig. 4. (A) Left common carotid artery (CCA) angiogram showing a severe left
internal carotid artery stenosis.
(B) Final CCA angiogram after carotid artery stenting by the transbrachial approach.
の走行によってはシモンズ形状を維持したまま 大動脈弓へ押し進めることが困難な場合が存在 することである。本例では,SA と CCA の角度 が比較的急峻であったものの,シモンズ形状の 作成と誘導は大きな抵抗もなく可能であったた め,誘導困難症例はそれほど多くはないものと 予想されるが,今後の症例の蓄積による検討が 必要である。 結 語 経右上腕動脈アプローチからシモンズ型ガイ ディングカテーテルの誘導法を工夫した本法 は,大動脈弓遠位部のプラーク存在症例に対す る左側の CAS を,安全に施行可能であり,こ のような場合の有力な選択肢となり得る。 引用文献
1) Hammer FD, Lacroix V, Duprez T, Grandin C, Verhelst R, et al.: Cerebral microembolization af-ter protected carotid araf-tery stenting in surgical high-risk patients: Results of a 2-year prospective study. J Vasc Surg, 42: 847–853, 2005.
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11) 坂本繁幸,光原崇文,梶原洋介,岐浦禎展,上田 猛,ほか:ASAHI FUBUKI Dilator 6FrとEN-VOY Simmons 6Frを用いたcoaxial systemによる 経上腕動脈アプローチでの左頚動脈ステント留 置術.JNET,9: 115–122, 2015.
Brachial Approach to Avoid Passing a Severe Aortic Plaque for Left Carotid Artery Stenting
Hirofumi KAZAMA, Kazuya KANEMARU, Koji HASHIMOTO, Hideyuki YOSHIOKA, Tomoyuki KAWATAKI and Hiroyuki KINOUCHI
Department of Neurosurgery, Interdisciplinary Graduate School of Medicine, University of Yamanashi, Yamanashi
Abstract: We report an alternative procedure that enables us to navigate a guiding catheter to the left common carotid artery (CCA) without passing it to a plaque located at the distal portion of the aortic arch.
A 73-year-old male underwent carotid artery stenting (CAS) for symptomatic left internal carotid artery stenosis. To avoid embolization from the aortic plaque, we selected a transbrachial approach. Simmons curve of the guiding catheter was shaped by using the angle of the right subclavian artery and right CCA, and the catheter was navigated into the left CCA without passing the distal aorta. CAS was completed without any complications.