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Title
謎の細胞メルケル細胞
Author(s)
田﨑, 雅和
Journal
歯科学報, 117(5): 409-409
URL
http://hdl.handle.net/10130/4400
Right
Description
409
歯科学報 Vol.117,No.5(2017)
特 別 講 演
謎の細胞 メルケル細胞
東京歯科大学生理学講座教授
田﨑 雅和
メルケル細胞は1875年ドイツの解剖学者 Friedrich Sigmund Merkel が表皮基底層に神経終末と近接する細
胞を発見したことに始まる。外部からの機械刺激を受容しやすい部位にあることから,この細胞は触覚細胞
(Tastzellen)と考えられた。このことからメルケル触盤は触覚に関連する感覚神経終末と認識されるように
なった。光学顕微鏡によるメルケル細胞の同定は他の表皮細胞と区別しにくい状態であったが,1965年電子顕
微鏡での観察からメルケル細胞-神経終末複合体の特徴が明らかにされた。電気生理学的研究も進み Ainsly
Iggo らは1969年哺乳動物の皮膚に存在するメルケル触盤に機械刺激を行い,感覚神経から遅順応性タイプ I
活動電位を記録し,メルケル細胞が感覚受容細胞であるという仮説を提唱した。しかしその機械刺激をメルケ
ル細胞が受容しているのか,メルケル細胞に近接する感覚神経終末が直接受容しているのかは不明で,謎の多
い細胞であった。
一方その頃,坂田三弥教授率いる東京歯科大学生理学講座は口腔感覚をテーマに顎骨骨膜,歯根膜,口腔粘
膜に分布する感覚神経終末とその機能を検索していた。ネコ歯肉粘膜への機械刺激から得た遅順応性応答と刺
激部位に存在するメルケル細胞-神経終末複合体を明らかにしたが,光学顕微鏡ではメルケル細胞は同定でき
ない点を指摘され,ネコ歯肉粘膜でのメルケル細胞を電子顕微鏡で明らかにする必要があった。後にこれを明
らかにすると同時に,メルケル細胞-神経終末複合体の機能をより効率よく研究するためにハムスター頬粘膜
に存在する触小体を用いた。実験は触小体への機械刺激とその応答,上皮を一部剥離しメルケル細胞と神経終
末との間にチャネル阻害薬あるいは拮抗薬の投与による刺激応答性の変化,また細胞内遊離カルシウム濃度を
指標として単離メルケル細胞への脱分極刺激・低浸透圧刺激・機械刺激を行い,メルケル細胞内へのカルシウ
ム流入から電位依存性カルシウムチャネル,伸展活性化チャネル,transient receptor potential チャネルの存
在を明らかにしてきた。現在までメルケル細胞からの伝達物質の放出に関する報告はなく,仮説に過ぎない
が,この点も明らかになりつつある。今後も一つ一つ謎のメルケル細胞の役割が明らかにされていくことを望
みます。
≪プロフィール≫ 昭和57年11月 東京歯科大学助手(生理学講座)
平成3年4月 東京歯科大学講師(生理学講座)
平成3年10月 エジンバラ大学獣医学部留学
平成7年4月 東京歯科大学助教授(生理学講座)
平成18年4月 東京歯科大学生理学講座主任代行
平成18年7月 東京歯科大学千葉病院勤務(兼任)
平成18年12月 東京歯科大学教授(生理学講座)・講座
主任
現在に至る
<略 歴>
昭和53年3月 東京歯科大学卒業
<所属学会>
昭和53年4月 東京歯科大学大学院歯学研究科(生理学 東京歯科大学学会(理事)
専攻)入学 歯科基礎医学会(理事)
昭和57年10月 東京歯科大学大学院歯学研究科(生理学 日本生理学会(評議員)
専攻)修了
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