日本小児循環器学会雑誌 10巻2号 291〜298頁(1994年)
複雑心奇形における経動脈性カテーテル法
(平成5年4月14日受付)
(平成6年4月12日受理)
森 東京女子医科大学心臓血圧研究所循環器小児科
善樹 中西 敏雄 中沢 誠 門間 和夫
key words:大腿静脈閉塞複雑心奇形,経動脈性カテーテル法
要 旨
両側大腿静脈閉塞などの理由で,大腿静脈からカテーテルが挿入困難な複雑心奇形25例(心房,心室,
大血管正常関係の疾患4例,修正大血管転換症3例,Fontan型手術適応疾患18例)に穿刺法による大腿
動脈からの全心臓カテーテル法を試みた.各部位のカテーテル挿入率は心房,心室,大血管正常関係の 疾患,修正大血管転i換症においては右室100%(修正大血管転換症では左室100%),肺動脈100%で,Fontan型手術適応疾患では上大静脈56%,下大静脈39%,右房78%,左房100%,肺静脈94%,肺動脈 100%であった.カテーテル検査時間は通常の大腿動静脈からアプローチする方法と有意な差がなかった が,大腿動脈閉塞が2例に生じ,血栓除去術を必要とした.
この経動脈性カテーテル法は大腿静脈からカテーテル挿入困難な症例において,上肢,頸部の静脈切 開法に比較して簡便で,将来の手術などのために上半身の静脈を温存でき,有用な方法であると考えら
れた.
緒 言
繰り返しの心臓カテーテル造影検査,手術により両 側大腿静脈が閉塞している完全大血管転換症(以下 TGA)における経動脈性心臓カテーテル法については すでに報告1}した.今回はTGA以外の心疾患の本検査 法の方法,結果について報告する.
対 象
対象は1987〜93年の7年間に両側大腿静脈閉塞など の理由で大腿静脈からカテーテルが挿入できず大腿動 脈から心臓カテーテル造影検査を試みた25症例で,1)
心房,心室,大血管正常関係の疾患,2)修正大血管転 換症,3)Fontan型手術適応となる疾患と3群に大別
した.疾患の内訳は,1)心房,心室,大血管正常関係 の疾患は大動脈弁狭窄+動脈管開存+心室中隔欠損1 例,純型肺動脈閉鎖+動脈管開存1例,心室中隔欠損+
僧帽弁閉鎖不全1例,ファロー四徴症+肺動脈閉鎖+
動脈管開存1例で計4例,2)修正大血管転換症は,右
別刷請求先:(〒162)東京都新宿区河田町8−1 東京女子医科大学日本心臓血圧研究所 循環器小児科 森 善樹
胸心で{1,D, D}1例,{S, L, L}2例の計3例,
3)Fontan型手術適応疾患では無脾症候群1例を含 む右室性単心室3例,左室性単心室3例,Van Praagh のC型単心室2)3例,無脾症候群で心内膜床欠損+肺 動脈閉鎖症1例,三尖弁閉鎖症6例,房室不一致の僧 帽弁閉鎖症2例の計18例である.尚,Van Praaphの C型単心室2)(巨大心室中隔欠損)3),左室性単心室の一 部は心室中隔形成術可能な疾患でもあるが,手術選択 の一つとしてFontan型手術があるので, Fontan型手 術適応疾患に含めた.年齢,体重はそれぞれ,1)心房,
心室,大血管正常関係の疾患4ヵ月〜9歳(平均4歳),
3.7〜22.2kg(平均ll.4kg),2)修正大血管転換症4
〜 9歳(平均7歳),18.0〜24.5kg(平均22.2kg),3)
Fontan型手術適応疾患1〜24歳(平均5歳),5.5〜34 kg(平均14.8kg)であった.いずれの疾患も以前に1
〜 4回の心臓カテーテル造影検査,手術が施行されて
いた.
方 法
カテーテルの方法 経皮的大腿動脈穿刺法にて,年 齢相当のSheathを挿入し,全例ヘパリンを100U/kg
レVu ポ
し ︶
uレ 芒
uu 瀧
⊂
A PPA.PDA.Post Brock. B Dextrocardia.(lDD)TGA.VSD.PS. C AsPleniaSRV.CA.CAVV.PA, D TA(lb).Post L.B−T Shunt.
LB−T Shunt.PDA ligation Post LB−T Shunt⊥V−mPA Conduit. Post LB−T Shunt RVO Recons廿uction・PAB
図1 各種疾患のカテーテルの走行
*A.心房,心室,大血管正常関係の疾患,B.修正大血管転換症, C. D. Fontan型手術適応疾患
**RV右室, LV左室, RA右房, LA左房, CA単心房, PA肺動脈(肺動脈閉鎖), SVC上大静 脈,IVC下大静脈, AO大動脈, B・T Shunt Blalock Taussig短絡, PPA純型肺動脈閉鎖, PDA 動脈管開存,TGA大血管転換, VSD心室中隔欠損, PS肺動脈狭窄, mPA主肺動脈, SRV右室性 単心室,CAVV共通房室弁, RVO右室流出路, PAB肺動脈絞拒術
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図2 純型肺動脈閉鎖症.Brock左B・T Shunt術後症例の肺動脈造影(A, B)と右 室造影(C,D).
カテーテルぱ大動脈一左室一左房一ASD経由一右房一右室にさらに肺動脈へ挿入 されている.PA:肺動脈, RV:右室, ASD:心房中隔欠損
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投与.必要に応じて最初のヘパリソ投与後,1時間半
〜 2時間後にヘパリンを50〜100U/kg追加投与した.
カテーテルはBerman側孔の先端2〜3cmをあらかじ め柔らかくし,Balloonを適宜ふくらませ,必要に応じ てguide−wire(Deflecting guide wireを含める)を用 いた.カテーテルの走行は正面,側面の透視をみなが ら大動脈から心室,心室から房室弁を通して心房に,
心房からその心房に接続する静脈に,また心房間交通 を通して他側心房に挿入した.肺動脈へは心室中隔欠
損(以下VSD)があればVSD経由で, Blalock−
Taussig(以下B・T)shunt, Central shunt,動脈管(以 下PDA)があればそれらからの方法もとった. Shunt からBerman側孔のカテーテルが入らないときは,直 側孔の多目的カテーテル,または腎動脈用のカテーテ ルを用い,guide−wireを肺動脈に通して,カテーテル
を肺動脈に挿入した.図1に心房,心室,大血管正常 関係の疾患,修正大血管転換症,Fontan型手術適応疾 患の代表的疾患のカテーテルの走行を示した.心房,
心室,大血管正常関係の疾患での右室,肺動脈へのカ テーテルの走行はVSDがあれば,左室からVSD経由 で,動脈管,B−T Shuntがあればそれ経由で,また心 房間交通があれば,左室から左房,さらに右房一右室 肺動脈の経路をとった(図1).図2に純型肺動脈閉 鎖症のBrockと左B・T Shunt術後症例で,左室から 左房,左房から心房中隔欠損(以下ASD)を通して右 房一右室,さらに肺動脈ヘカテーテルをすすめた例を
示した.
修正大血管転換症のカテーテルの走行は左室が右室 にかわるのみで,心房,心室,大血管正常関係の疾患 と同じである.図3に右胸心,{1,D, D}の修正大血
鴻
﹂ ㌧
︑㌔薪 磯浄糎
緩櫓濠鰹s
j P ・
鉱∨
瀦
図3 {1,D,D}右胸心,修正大血管転換症,心室中隔欠損症,肺動脈狭窄,左室一肺 動脈バイパス術後症例の左室造影(A,B)と肺動脈造影(C, D)
カテーテルは大動脈一右室一VSD経由で左室に挿入されている(A, B).さらに左 室から肺動脈へとばしたconduit内に挿入されている(C, D). RV:右室, LV:左 室,PA:肺動脈, VSD:心室中隔欠損
図4 無脾症候群.右室性単心室の肺動脈造影(A),右肺静脈造影(B),無名静脈造 影(C),下大静脈造影(D)
左BTShunt術後のAsplenia, SRV, CA, CAVV, PA, RAAの症例て,肺動脈 へのカテーテルの挿入は左B・TShuntを通して(A),右肺静脈(B),上大静脈一無 名静脈(C),下大静脈(D)へは,大動脈一右室一共通房室弁一共通心房経由て挿入 されている.
SRV 右室性単心室, CA 単心房, CAVV 共通房室弁, PA 肺動脈閉鎖,又は 肺動脈,RAA 右側大動脈弓, PV 肺静脈, SVC 上大静脈, IVC 下大静脈
管転換症で,VSD,肺動脈狭窄(以下PS)があり,左
室一肺動脈バイパス術後の症例でのVSD経由でカ
テーテルを挿入した例を示した.
図4に無脾症候群で単心房,共通房室弁の右室性単 心室で左BT shunt術後症例を示した.カテーテルは 大動脈から右室へ,さらに共通房室弁を通して心房に,
心房から肺静脈,上,下大静脈に挿入されている,
図5に三尖弁閉鎖症(Ib)で右室流出路再建術後症例 で,左室からVSD経由で右室,さらに肺動脈へとカ
テーテルをすすめた例を示した.右房へは左室からカ
テーテルを後方にむけ僧帽弁を通して左房へ,さらに ASDを通して挿入した(図1).心室から左房,左房か ら肺静脈にBerman側孔がなかなか入らないときは,
Berman直孔のカテーテルを用い,先の柔らかい
Guide・wireを先行させカテーテルを挿入すると,また 肺動脈へは大動脈,あるいは左室でカテーテルの先を 上にむけるようにループをつくり,バルーンを膨らま せて血流にのせるようカテーテルを操作すると比較的 容易に挿入された.検討項目 3群における各部位の挿入率と右室(修
平成6年8月1日 295−(65)
鷹 ぢ・
鎮鏑
忌・警
パ 彩
議 1灘
議宅︑蒸裳
馨鱗難疑
W
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ソ▽
︽式少
鷺ぺ
漏壌べ紗壕
鴻蘂賜噺
静 癖㌘
こ齢 懸響轟燕
讐 ◇
⊥ 糖 酎入字壕 ぷ
掃 鍵 鮎磐
㌔
︾
嘩 藪逐窮
罐−轟竺
.譜
夢ぎ鶏
蕊
︽二影彩
口
轡念
1
愛.纂 ∵ ∴、⊇ 逮
図5 三尖弁閉鎖症(Ib).右室流出路再建術後症例の肺動脈造影(A, B)と右室造影
(C)
カテーテルは大動脈一左室一VSD経由で右室,さらに肺動脈に挿入されている.
PA:肺動脈, RV:右室, VSD:心室中隔欠損
正大血管転換症では左室)と肺動脈挿入経路,またカ テーテル検査時間,合併症を調べた.またカテーテル 検査時間,合併症については1991年の6ヵ月間(但し 心室,大血管正常関係の疾患においては3ヵ月)に施 行した通常の大腿動静脈穿刺法による経動静脈カテー テル例についても調べ,3群間で比較した.尚,検査 時間は最初の血液サンプル時間から最後の血液サンプ ル時間,または最後の造影時間までとした.
結 果
心房,心室,大血管正常関係の疾患,修正大血管転 換症での各部位の挿入率はそれぞれ上大静脈0%,
33%,下大静脈25%,33%,右房75%,100%,左房25%,
100%,肺静脈0%,33%で,心房,心室,大血管正常 関係の疾患では右室,肺動脈ともに100%,修正大血管 転換症においても左室,肺動脈への挿入率は100%で あった(表1).心房,心室,大血管正常関係の疾患4 例における右室への挿入経路はVSD経由が2例,動 脈管一肺動脈経由が1例,左房一右房経由が1例で,
肺動脈へは動脈管,またはB−TShunt経由が2例,
VSD経由が1例,左房一右房一右室経由が1例であっ た.修正大血管転換,症3例の左室,肺動脈へは全例 VSD経由であった.なお心房,心室,大血管正常関係 の疾患,修正大血管転換症7例中,VSDがあったのは 6例で,1例が筋性部欠損で,5例が傍膜性部欠損の 比較的大きなVSDで,右室(修正大血管転換症では左 室),または肺動脈にVSD経由で挿入されていた症例 のVSDはいずれも傍膜性部欠損であった.また修正 大血管転換症で右室から三尖弁を通して左房に挿入す るのは心室,大血管正常の関係の疾患における左室か ら僧帽弁を通して挿入するより容易であった.
Fontan手術適応疾患である18例の各部位でのカ テーテルの挿入率は上大静脈10例(56%),下大静脈7 例(39%),右房14例(78%),左房18例(100%)で,
また肺動脈へは全例100%,肺静脈は三尖弁閉鎖症の1 例を除き17例に挿入されており,挿入率は94%であっ た(表1).肺動脈への挿入経路は単心室群10例では大
表1 各部位のカテーテル挿入率
SVC
IVCRA LA PV PA RV LV
心房,心室,大血
管正常関係の疾患 0 1 3 1 0 4 4
(n=4) (10%) (25%) (75%) (25%) (0%) (100%) (100%)
一一一一一一一一一一一一一A−≡≡病一←一一F一 一一一一一一.一一一 一一一一一一一一一一一一一 一一一 一一一一一一一一 一1−一一 一≡一≡一, 一一一一一一一一一サ← 一,■●一一≡一一一一一 一一s−一一一一一⌒一一一一一⌒ラ← 一一一 一
修正大血管転換 1 1 3 3 1 3 3
(n=3) (33%) (33%) (100%) (100%) (33%) (100%) (100%)
一一一一一一一一一一一一一≡一 一 一一一一一一一一一一一一一一一≡一一 一一一一一一一一一 一一一一≡一≡≡ ≡≡一一一一一一一 ← 一一一 一一一 一一一一一一一一一 一一一一一一一
Fontan型手術
適応疾患 10 7 14 18 17 18
(n=18) (56%) (39%) (78%) (100%) (94%) (100%)
単心室群
(n=10) 9
(90%) 3
(30%) 10(100%) 10
(100%) 10
(100%) 10
(100%)
一側房室弁 1 4 4 8 7 8 3ホ P*
閉鎖群 (n=8) (13%) (50%) (50%) (100%) (88%) (100%) (50%)* (50%)*卓
*一側房室弁閉鎖群のRV*は三尖弁閉鎖6例中の値で, LV**は僧帽弁閉鎖2例中の値
* 単心房の際はカテーテルが心房の右側に入れば右房,左側に入れば左房とみなした
***SVC,上大動脈 IVC:下大動脈 RA:右心房 LA:左心房 PV:肺静脈 PA:肺動脈 RV:右心室 LV 左心室
動脈一心室からが4例,Shunt, PDA経由が6例で,
この6例はいずれも肺動脈閉鎖を伴っており,心室か ら肺動脈へは挿入不可能症例であった.一側房室弁閉 鎖群8例ではShunt, PDA経由6例,大動脈一心室
一VSD経由が2例であった.なおこの一側房室弁閉鎖 のVSDはいずれも傍膜性部欠損で,血行動態的に圧 較差のでるような小さなVSDではなかった.
Fontan型手術適応疾患での肺静脈へのカテーテル の挿入を部位別に検討してみると肺静脈にカテーテル が挿入されていた17例中,右上肺静脈が12例(71%),
右下肺静脈6例(35%),左上肺静脈6例(35%),左 下肺静脈2例(12%)挿入されており,左右肺静脈を 比較すると,右肺静脈14例(82%),左肺静脈6例(35%)
で,右肺静脈の挿入率が高い結果であった.
カテーテル検査時間はFontan型手術適応疾患で 106±39分,心室,大血管正常関係の疾患では58±14分,
修正大血管転換症で120±9分であり,通常の大腿動静 脈穿刺法による経動静脈性カテーテル時間はFontan 型手術適応疾患(n=25)で104±30分,心室,大血管 正常関係の疾患(n=20)で69±24分,修正大血管転換 症(n=5)は118±43分で,経動脈性カテーテル時間と 比較して有意差はなかった.尚この3群間における年 齢,体重,造影回数は同じであった(図6).
合併症としてFontan型手術適応疾患で上室性頻拍 症1例,大腿動脈閉塞が2例みられた.尚,通常の経 動静脈性カテーテル法でおこなった40例では大腿動脈 閉塞はみられなかったが,Fontan型手術適応疾患で 上室性頻拍症が2例にみられていた.これら上室性頻
m拓。
150
100
50
■経蝋働テーテル法
[コ経動簡働テーテル去
n=18 n=25 n=4 n=20 n=3 n=5 Fontan型手術適応疾患 心房、心室、大血管正常関係の疾患 修正大血管転換症
図6 カテーテル検査時間
経動脈性カテーテル法のFontan型手術適応疾患(n=
18),心房,心室,大血管正常関係の疾患(n=4),修 正大血管転換症(nニ3)の年齢,体重,造影回数はそ れぞれ5.4±6.6歳,14.8±8.2kg,5±2回,3.8±4.0 歳,11.4±8.2kg,4±1回,7.3±2.9歳,22.2±3.6 kg,5±1回で,経動静脈性カテーテル法のFontan 型手術適応疾患(n=25),心房,心室,大血管正常関 係の疾患(n=20),修正大血管転換症(n=5)の年齢,
体重,造影回数はそれぞれ8.0±8.4歳,19.1±12.7kg,
6±2回,5.0±4.7歳,18.8±14.3kg,5±1回,6.2±
2.4歳,18.2±4.5kg,6±2回であり,3疾患群問の 経動脈性カテーテル法と経動静脈性カテーテル法とに 年齢,体重,造影回数に有意差はない.
拍症がおこった3例はいずれもカテーテル操作により おこったもので,1例はカテーテルで期外収縮をおこ すことで,2例はATP静注で洞調律にもどった.大腿 動脈閉塞症例の2例は年齢がともに1歳で,体重が8.2
平成6年8月1日
kg,8.Okg,うち1例は経動脈性にバルーン血管拡大術 を施行した症例で,いずれもカテーテル検査直後より ウロキナーゼを投宇したが無効で,血栓除去術を必要
とした.
考 案
両側大腿静脈閉塞などの理由で大腿静脈からカテー テルが挿入不可能な症例での心臓カテーテル造影検査 は従来,上肢,または頸部の静脈切開法によるか,太 い肘静脈,内頸静脈の穿刺法でおこなっていた4}5).し かし両側大腿静脈が閉塞している症例ではしぽしば上 肢の静脈,頸部の静脈も以前の心臓カテーテル造影検 査,手術などに使用されており,カテーテル挿入が困 難であったり,また内頸静脈の穿刺法は気管内挿管下 でおこなう必要の欠点がある.静脈切開法でおこなう 場合の欠点の一つは手間がかかること,また一度静脈 切開で用いた静脈は閉塞する可能性が高く,将来の手 術などに使用不可能になることである.我々は大腿静 脈からカテーテルが挿入困難なTGA症例の経動脈性
カテーテル法を報告し,経動脈性カテーテル法が静脈 を温存でき,また切開法に比較してカテーテル挿入の 点で簡便であり有用であることを述べた1)が,TGA以 外の疾患でも同様であった.Jureidiniらも10例の複合 心奇形に経動脈性カテーテル法をおこないその有用性
を報告6)している.
心房,心室,大血管正常関係の疾患においては心内 修復術前の心室中隔欠損症では肺高血圧の有無,程度,
肺動脈閉鎖を伴うファロー四徴症では肺動脈の大き さ,また純型肺動脈閉鎖症の弁切開術後では右室の大 きさなどの情報が心内修復術施行のために必要であ る.修正大血管転換症ではRastelli手術,または心房 血流交換術ヰRastelli手術の施行のためには右室機 能,左室機能,また肺動脈の大きさなどの情報が必要 であるが,心房間交通,あるいはVSDがあれば,経動 脈性にアプローチしても右室(修正大血管転換症では 左室),肺動脈へのカテーテルの挿入は両者ともに 100%で,満足できる結果であった.また肺動脈挿入経 路としてShuntがない場合,左室一左房一心房間交通 一右房一右室経由(修正大血管転換症では右室が左室)
とVSD経由と二通り考えられるが, VSDのあった両 疾患6例中,4例(67%)がVSD経由で肺動脈に挿入 されており,心房経由よりはるかに容易であることが 示された.このことは自験例のVSDの大きさが比較 的大きく,位置が傍膜性部で大動脈から近いためと考
えられた.
297−(67)
Fontan型手術適応疾患においては,手術適応条件 を満足するかを術前に正確に評価する必要があり,特 に肺動脈圧,肺血管抵抗,肺動脈の大きさの3項目は 適応を決定する上で最も重要なものである7)8).この3 項目を評価するには心臓カテーテル検査にてカテーテ ルを肺動脈,肺静脈,または左房へ挿入することが必 須となる.そこで肺動脈,肺静脈,左房への挿入率を 検討したところ,肺動脈,左房へは100%,肺静脈へは 1例を除く94%に挿入されており,経動脈性にアプ ローチしても充分に評価可能であることが示された,
肺動脈への挿入経路としてShunt, PDA経由が18例 中,12例(67%)と最も多く,Shunt, PDAがあれぼ この経路が一番容易と考えられるが,この疾患群の場 合は心室,あるいはVSD経由でもVSDが小さくなけ ればそれほど困難ではない.肺動脈に限らず,目的と する部位に挿入するこつは以前の造影があればそれを 用い,なければその場で造影をおこないVSD,肺動脈 などの位置を正面,側面像で確認しておくことが一番 肝心である.また肺静脈の中で右肺静脈の挿入率が高 かったが,それは今回検討した症例では左房に通ずる 房室弁が解剖学的に大動脈の左側後方にある疾患が多
く,心室から左房にカテーテルを挿入した際,カテー テルの先が右後方にむかっているために右肺静脈に挿 入されやすい結果となったと考えられる.
合併症として上室性頻拍症が1例,大腿動脈閉塞が 2例みられたが,上室性頻拍症に関しては経動脈性カ テーテル法に限った合併症ではなく,経動静脈性カ テーテル法においてもみられる合併症9)で,本例では 副伝導路の存在に起因するものであった.カテーテル にて期外収縮をおこすか,房室結節を介するre−entry による上室性頻拍症であればATPを静注1°)すること で容易に洞調律にもどすことが可能である.大腿動脈 閉塞は左心カテーテル検査において,7kg未満の乳児 では7%の頻度でおこるとされ11),ヘパリンの全身投 与でその頻度は減るとはいえ,Girodらは0.8%の頻度 でおこる合併症であると報告している12).今回の25例 中2例にみられており,8%の頻度となり,けっして 少ない合併症とはいえない,従って静脈からすべてカ テーテルが可能な症例においては,安易にここに報告 した経動脈性カテーテル法をおこなうことは慎むべき で,常にこの合併症は念頭におくべきであると考えら
れた.
以上に述べたように心房間交通やVSDがあれば経 動脈性にアブP一チしてもほぼ完全なカテーテル検査
は可能であるが,基本的には大腿静脈閉塞をきたさな いことが一一番である.大腿静脈閉塞をきたす可能性の ある行為すなわち大腿静脈からの長期の中心静脈ラ インの留置などは避けるべきで,大腿静脈を温存する よう心がけることが小児循環器内科,外科医に要求さ
れる.
文 献
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Retrograde Transarterial Catheterization in Complex Congenital Heart Disease with Bilateral Femoral Vein Occlusion
Yoshiki Mori, Toshio Nakanishi, Makoto Nakazawa and Kazuo Momma
Department of Pediatric Cardiology, The Heart lnstitute of Japan, Tokyo Women s Medical College
We discribed techniques for complete retrograde femoral artery catheterization in complex congenital heart disease. Twenty five patients;4cases with normal atrio・ventricuro−arterial relation
(group 1),3cases with corrected transposition of the great arteries(group 2),18 cases with single ventricle hemodynamics(group 3)underwent a retrograde catheterization because of bilateral femoral VeinS OCCIUSiOn.
In group l and 2, right ventricle(left ventricle in corrected tansposition of the great artries)and pulmonary artery was entered in all patients. In group 3, A success rate of catheter insertion into superior vena cava was 56%, inferor vena cava 39%, right atrium 78%, left atrium 100%, pulmonary vein 94%, pulmonary artery 100%. The time required for the retrograde catheterization was similar to that for the routine antegrade and retrograde catheterization. Complication was observed in 3 patients:two patients had a loss of femoral artery pulse and underwent surgical thrombectomy;one patient had a supraventriclar tachycardia.
We conclude that the retrograde transarterial approach is usefull in patients with complex heart disease in whom the bilateral femoral veins are obbliterated.