九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
リンチジッシュウニオケル「カンゴガッコウトジッ センノバ」ノレンケイニカンスルケンキュウ : コ ミュニケーショントタイトウセイノケントウ
原田, 広枝
九州大学大学院教育経営学研究室 : 博士課程後期在学 : 看護管理, 看護教育学, 基礎看護学
https://doi.org/10.15017/786
出版情報:教育経営学研究紀要. 6, pp.39-46, 2003-01-31. Study Hall of Educational Administration, Graduate School of Kyushu University
バージョン:
権利関係:
臨地実習における「看護学校と実践の場」の連携に関する研究
一コミュニケーションと対等性の検討一
原田 広枝
1.研究課題
H.「学校と実践の場」のコミュニケーションと組織文化 1 看護教員と実習指導者の役割や関係性
2 医療の場のコミュニケーションと文化 m.調査方法
rv.結果及び分析 V.考察
1 臨地実習と「学校と実践の場」の互恵性 2 看護教員と実習指導者の役割分担と対等意識 3 看護教員と実習指導者のコミュニケーション VI.結語
1.研究課題
臨地実習における学生の成長成熟や教員及び実習 指導者の指導能力の向上は,学校と実践の場の連携 に大きく影響される。臨地実習指導におけるパート ナーは看護学校と看護臨床(多くは病院)である。治 療や患者サービスに価値をおき効率性や成果を求め る病院と,学生へのサービスを第一に個別性やプロ セスを重視する学校の組織文化や組織構造には差異 がみられる。両組織の文化の差異を学校組織変革に 向けて積極的に捉え組織化を進展するDことで連携 の強化が期待される。この連携の基盤の構成要素と
して位置づけられるのが両組織のコミュニケーショ ンである。教員や実習指導者はそれぞれの特性に応
じて相補的に臨地実習指導の役割を担っており,現 実には両者の対等な関係におけるコミュニケーショ ンが連携の要因である。
中留は,協働の学校文化を形成するプロセスは,
①現実の文化を読み込むこと,②学校のコアとなっ ている使命(ビジョン)や生徒規範など,それらの理 論仮説を明らかにすること,③協働文化の形成を支 援しているこれまでの価値・信条を一層強化し,逆 に同僚性をネガティブにしている従前からのしきた り(folkways)や規範を変えること2)と述べている。
学校と実践の場の協働文化を形成するにも現実の組 織文化を読み解くことがまず重要である。学校と実 践の場の組織文化(連携の組織文化)はカリキュラム や実習指導者,教員・学生・患者等,複雑な文化の タペストリー(複合・重層)を示しており,両者の現
ばならない。
先に,看護教員と実習調整者を対象にした質問紙 調査によって,実習調整明文化,学校文化,実習指 導者文化の因子分析を行った。これによって3年課 程看護専門学校の学校文化や実習指導者文化につい て客観的な知見の一部を明らかにすることができた
3)Bしかし,調査対象は看護教員(実習調整者を含む)
であり,学校と実践の場という観点からみると学校 側に偏った見方であった。そこで実践の場(ソト)か ら実習指導者文化や実習指導者の役割行動について 捉えるために看護教員養成講習会及び実習指導者講 習会受講生の中から,病院に在籍する看護師87名を 対象として質問紙調査を行った。
ここでは実習指導者の文化や役割の理解を看護教 員と受講生の認知を比較し深める。その上で臨地実 習を効果的に営むための学校と実践の場の連携に関 するあり方や方法をコミュニケーションと両組織の 対等性や互恵性の視点から考察する。
∬.「学校と実践の場の」コミュニケーションと 組織文化
1.看護教員と実習指導者の役割や関係性
臨地実習において学校(ウチ)と実践の場(ソト)と の連携を図るには,看護教員や実習指導者・学生・
患者等とのコミュニケーションとコミュニケーショ ンを可能とする学校と実践の場の組織文化が重要で ある。看護教員や実習指導者は,後輩育成という共 通の価値の基に協働して臨地実習指導を営むパート
原 田 広 枝
表1 実習教育におけるパートナーとしての学校教員と実習指導者 長 所
教
員
看
護
師
・看護教育に関する知識が豊富
・看護教育や研究に取り組み力を発揮する
・教師として学生の支えになることができる
・学生に対する情報は多い
・教員として学生の学習者モデルになれる
・医学や看護の知識を有する
・患者や他の医療者とのコミュニケーション はとりやすい
・看護の価値や意味を実感することは多い
・資格に基づいた看護行為がとれる
・実践家として学生の看護モデルになれる
短 所
・教員としてのエリート意識があり独善に陥りやすい
・他の医療職や看護職とのコミュニケーションがと り にくい
・患者や実践の場の状況を多様に捉えることが不足
・所属上病棟の看護行為に関する制限を受ける
・教育や学生に関する知識は教員に比すと少ない
・学生の指導に専念できない
・看護師個人として学生指導の評価を受けることは 少ない
・学校の授業と関連づけて学生に看護現象を理解さ せることは難しい
グッドラッド(John,1.Goodlad)は学校と大学のパ ートナーシップ4>について,「そのねらいは協働の 同意に基づいて対等な(equa1)関係にある片方の組 織体(party)が自己の利益を求めている他の平等な 関係にある組織体が持っている互いに補足しあう長 所を引き出すのを求めようとするプロセスと,それ に関わるシステムを創りだすことにある )。」と述べ ている。グッドラッド(John,1.Goodlad)は「両組織 の対等性」と「利益の互恵性」「相補的関係の形成とそ のシステムの構築」をパートナーシップの目的に関 する鍵概念としている。
学校と実践の場の指導組織は(連携の指導組織)は 学校の看護教員と実践の場の指導者によって構成さ れる。彼らは対等で協働の関係であろうか。連携組 織のメンバーである看護教員と実習指導者の特徴を 整理し(表1参照)両者の役割を概観する。
看護学校の教員は看護教育や学生に関する知識は 実習指導者に比し一般的に豊富で,学生に継続した 成長・成熟の支援や看護教育・研究に取り組み力を 発揮する。しかし,患者や実践の場の情報に関して は実習指導者より少なく,医療チームや看護チーム とのコミュニケーションの機会も実習指導者ほど多 くはない。また,実践の場での看護行為は病棟職員 ではないので制限を受け,学生の看護実践に関して は医療チームの協力・承認を必要とする。湯浅は実 習教育における看護教員の役割について「学生の学 習過程に責任を持つ」6)ことだとしている。学生は 自己の体験を学校で学んだ知識・理論と統合し学習 する。この統合に導くために教員は事前に学習を組 織し,実践を観察・教示し,学生との語り合いやカ ンファレンスを通して行った看護をふり返り(リフ レクション),看護の意味づけや価値づけ等学生の 学びをコーチする7)。
一方,実習指導者は自らの実践を通じて看護の価
値や意味を深く実感しており,看護実践者や看護職 者として学生のよき看護モデルである。学生の学習 効果を高めるために看護教員に協力し,学習環境の 整備や情報提供を役割とすることができる。しかし,
理論的に学生に看護を語ることは一般的には看護教 員より得意ではない。湯浅は病院の指導者の役割を
「患者の看護に責任を持ち,看護実践及び看護職者 としてのモデルであり,また教員への協力者」8)と して位置づけている。看護教員と実習指導者は各々 の長所や強みを生かすことで互いの短所をカバーで きると考える。中西は「病院指導者はいってみれば 看護の現実の巧みな案内者であり,教師は学習者が そうして得てきた現実の体験を知識として構造化す る上で主にその役割を発揮する」9)と両者の特質を 述べている。この特質は学生と看護教員や実習指導 者との共同探求的なスタンスでより質の高い看護を
目指すときに生かされる。
では看護教員と実習指導者の関係性を学校と実践 の場の文化(連携の組織文化)からみるとどうであろ
うか。この文化(臨床教育の組織文化)に影響するも のとしてわが国の医療風土がある。近年,病院経営 の刷新と共に病院文化も開放されてきたが,まだま だ病院長を頂点とするピラミッド構造は病院に根を 下ろしている。医師によるパターナリズムlo)や独善 は医療チームの自律性を阻み,封建的,閉鎖的,伝 統的,固定的な医療風土の形成に影響してきた。こ の医療風土は病院の中で多数を占める看護職員に双 方向的に影響を与え続けた11)。看護教員はこの病院 の看護職員の中からエリートとして選抜され,教員 としての研修機会を与えられて学校に移動した者が 多い。従って,病院スタッフ(実習指導者含む)に知 識や技術面で優越感を持つ者もないわけではない。
一方,現実の臨地実習において看護教員は,実習施 設を病院組織に依存・依頼する学校組織員の1員で
あり,ここでは看護教員と病院のスタッフ(実習指 導者含む)の力関係は逆転する。さらに,医療の現 場から離れることで看護実践能力が低下すること や,最新の治療処置の知識が不足することも臨地実 習における看護教員の自己効力感を低下させてい る。この力による対人関係やコミュニケーションの あり方,自信のなさは両者の協働関係を阻害し,両 組織の対等性を損なうと危惧される。
2.医療の場のコミュニケーションと文化
宗像は,「甘え」と「察し」からなる日本文化の一般 的な対人関係特性は,患者と医療従事者とのコミュ ニケーションにも反映すると述べている12)。
土居は日本人の特殊な対人関係の様式を「甘え」の 文化として「甘えの構造」で紹介している 3)。宗像は,
土居のこの日本文化論を基に日本の医療現場では,
患者は医療従事者に甘え,おまかせする姿勢と従事 者との「察しあう」コミュニケーションが顕著にみら れると述べている。このうち,慣習的に採用されて
きた主導的なコミュニケーションは「察しあい」だと いう。「察する」とは言語的コミュニケーションや理 解に頼ることなく,相手の欲していることや感じて いることがわかることである。この,「察しあう」コ
ミュニケーションは,看護教員や実習指導者も自己 のコミュニケーションとしていると考えられる。そ れは医療の中で看護教員や実習指導者が学習してき たコミュニケーション方法であり,多忙や倫理上の ことから双方に言語化が困難で「察し」を求められる 状況がみられるからである。また,言語化による緊 張や葛藤はコミュニケーション(疑似コミュニケー ション)を阻害するという危惧を持つからでもある。
臨地実習において学生や教員・実習指導者は双方の 仕事や学習の状況,時間,疲労度,心理的様態等に ついて非言語的コミュニケーションを通じて察しあ う。この「察しあい」は教員や実習指導者を相互の差 異に遭遇させる機会を減少する。その結果,互いの 差異に気づかず互いを「理解しあう」コミュニケーシ ョンを結果的に阻害すると考えられる。また,差異 を差異として認め,差異を生かすプロセスに発展し えないことが予測される。
皿.調査方法
実習指導者の文化や役割を明らかにするには看護 教員への調査だけでなく,実践の場からの客観的な データが必要である。そこで,F県実習指導者養成 講習会受講生及びF県看護教員養成講習会受講生の うち病院所属の看護職を対象に質問紙による調査を
行った。対象者は受講後実習指導者とし活躍が期待 されている。調査は「実習指導者の役割認知」と「実 習指導者の指導態度」で,調査の内容は①受講生の 属性②学校と臨床の協働関係③実習指導者の役割 認知④実習指導者の指導態度である。質問用紙は 看護教員と実習調整者を対象に,先に作成したもの
を修正して使用した。調査票は無記名とし,記述式 1問を除き選択方式(一部複数回答)とした。④の調 査尺度は『非常に当てはまる』から『全く当てはま らない』の5段階を設定した。調査票は,講習会終 了前1週間に受講生を通じて配布し,回答後一括し て郵送してもらった。F県実習指導者養成講習会受 講生のうち,本調査の趣旨を説明し協力が得られた 55名には2001年10,月25日から10,月30日に調査を行っ た。F県看護教員養成講習会受講者のうち,同様な 説明で協力が得られた病院勤務者32名には12月11日 から17日に調査を行った。回収された調査表は87通 で有効回答数は87通であった。回答の集計と分析に はSPSS統計パッケージを使用した。④実習実習指導 者の指導態度については因子分析し因子を抽出し た。受講生は実習指導者や教員の養成講習終了前で あり,バイアスがかかっていないか懸念される。
W.結果及び分析
1.受講生の属性
回答者は男性が8名でその他は女性であった。年齢 は平均35.76歳±5.77,最低は26歳,最高は50歳であ った。専門歴や一般歴は看護師の一般的な学歴と同 様の傾向を示している 4)。所属機関の設置主体は
総合病院(国・公)35.6%,総合病院(私立)公立11.5%,
精神病院18.4%,その他の病院28.7%,老人病院1.1%,
老人保健施設1.1%,保健所2.3%,そのほかL1%であっ た。勤務先の病院や施設が臨地実習を受け入れてい
る学校の種別は①看護系大学8名(9.2%),②看護系 短期大学6名(6.9%),③看護専門学校3年課程38名
(43.7%),看護専門学校2年課程38名(43。7%),助産 師課程3名(3.4%),准看球茎課程29名(33.3%),高等 学校衛生看護科16名(18.4%),高等学校専攻科8名
(9.2%)等様々であった。回答者は多様な保健医療の 場に所属し,そこでは様々な教育背景を持つ看護i学 校の臨地実習を受けている。従って,受講生の評価 する実習指導者の文化や役割認識は特定の設置主体 や実習指導者の行動・認識(見方考え方)を示すもの ではないと考える。受講生は実習指導者や教員の養 成講習中であり,実習指導者の役割や認識・行動に 関して理解や関心は高いと思われる。
原 田 広 枝
2.受講生からみた学校と臨床の協働関係
回答者のうち,系列(附属)の看護学校があるのは 28名(32.2%),ないのは58名(66.7%),無記入1名で あった。系列(附属)の看護学校のある方がない方に 比し,看護学校との協働関係は「かなりよい」「まあま あよい」と認識する比率が高く,系列(附属)の看護学 校の有無と実践の場の協働関係の認識には有意差
がみられた(κ2=8.063,p<.05)。これは,系列機関 や附属関係にあることで公式にも非公式にもコミュ ニケーションが図りやすく,信頼関係や両者の合意 形成及び参加意欲を引き出すことが容易であるから と考えられる。この結果は,実習調整者に学校と実 践の場の協働関係に対する認識を問うた調査結果と 同様で,系列機関や附属関係にあるときの両者の協 働関係の認識は共通した。
3.受講生の捉えた実習指導者文化の因子
受講生の捉えた勤務先の実習指導者の指導態度を
因子分析の結果「積極的関心」「指導意欲」「協働」「ス トレス因子」「専門性」の5因子が得られた(主成分分 析,バリマックス回転)。この5因子によって全分散
の71.21%が説明されている(表2参照)。
「積極的関心」は実習指導及び実習教育経営に関する 職務を個人及び集団が関心を持って接近し積極的に 活動を進める状態をいい,学生や実習目標,自己の 成長に関する実習調整者の構え,意識や態度によっ て構成された概念である。「指導意欲」は実習指導及 び実習教育経営に関する職務を個人及び集団が熱意 を持って協力して効果的に活動を進める状態をいい,
実習指導者の実習指導及び実習教育経営に関する構 え,意識や態度によって構成された概念である。「協働」
は看護教員と実習指導者間の相談や合意形成への志 向性が定着している状況を示し,両者のコミュニケ ーション,指導への取り組み,相互関係によって構 成された概念である。
表2 実習指導者文化の測定項目
項 目 第1因子
マ極的関心
第2因子 w導意欲
第3因子
ヲ働
第4因子
Xトレス傾向
第5因子 齧蜷ォ 14.学生に関心を持ち近づこうと努力している. .8150 .2030 」880 一.1870 .0553 12.実習目標をよく理解して指導している. .7880 ,2040 .1800 一.2530 .0702 13.後輩を育てることは当然の役割だと考えているように見える. .7820 .0543 .1760 一.1610 .0656 15.看護観を学生と語り合いたいと考えているように見える. .7050
3830
.3340 一.0314 一.0725 11.学生指導を通して成長したいと考えているように見える. .6850 .3800 .0283 一.0510 .1990 6.指導を通し看護の専門性を高めたいと考えているように見える, .6840 .2150 .2580 ,0447 一.0212 16.実習の指導体制を強化するように努力している. .2360 ,7650 .2590 .0138 一.090319.学生の状況を踏まえた指導の工夫をしている. .4840 .6810 ,1890 一」860 .1150 17.実習指導者間の指導意識が統一されている.
3340
.6380 .4060 一.0469 .0030 20.学生と患者との関係づくりを促進するように支援している. .3840 .5770 .0697 一.0590 .4690 18.学生がリラックスして実習できるように配慮:している. .5030 .5170 一.0107 一.2480 」490 2.学生の問題行動に関して教員と指導方法を相談することが多い. 「0008 .2050 .8510 一.0479 二11001.教員との友好関係が図られている. .3310 .0122 .7430 .0737 .1030
3.熱心に学生の技術指導を行っている. .2430 .2650 .6710 .0067 」970
7.実習指導内容や方法を教員や指導者間で話し合うことが多い.
3950
」940 .6420 一」930 .2420 4.看護業務で精一杯であると感じているように見える. 「1260 「1250 「1300 .8460 一.0688 10.指導内容や指導方法に迷っているように見える. 一.1990 .0167 .0308 .8130 .0373 9.看護業務におわれ実習指導が十分にできていない. 一.0658 一.5500 一.1480 .6930 一,1390 8。学生の受持患者の安全安楽に配慮しているように見える. .0382 .1340 .1100 .0120 .8670 5.医療や看護の知識が不足しているようにみえる. 一.0719 .2120 「0834 .5160 一.5860因子負荷 8,167 2,071 1,563
t238
1,204寄与率 40,836 10,356 7,814 6,189 6,018
累積寄与率 40,836 51,193 59,006 65,195 71,213
看護教員による実習指導者の指導態度を因子分析 した結果抽出された因子は,「指導意欲」「責任感」「ス トレス傾向」の3因子であったi『)。受講生による認知 は先の5因子であり「積極的関心」「協働性」「専門性」
の3因子が受講生の認知では新たに抽出された(表3 参照)。この3因子は実習指導者の心理や職業的な成
長,学校と実践の場の連携を示しており,ソトから
(看護教員)の観察では捉えにくく,ウチから(受講 生)の客観的な観察により抽出できた因子である。
受講生は実習指導者を看護の専門者としてだけでな く,学生の指導者・共同者,教員の協働者として看 護教員よりポジティブに捉えていた。
表3 教員と受講生の測定で抽出された実習指導者文化の比較 受講生の測定 教員の測定 第1因子
第2因子 第3因子 第4因子 第5因子
積極的関心 指導意欲 協働
ストレス傾向 専門性
指導意欲 責任感 ストレス傾向
表4 実習指導者文化に関する看護教員と受講生の評価の比較
調 査 項 目 度 1 2 3 4 5
d別
% 度 % % % %1.教員との友好関係が図られている. 罵言教 12 1.2 74 7.6 326 36.6 467 48.1 91 9.4
再講者 0 0.0 18 22.2 44 54.3 16 19.8 3 3.7
2.学生の問題行動に関して教員と指導方法を相談することが多い. 看言教 5 0.5 42 4.3 245 25.3 500 5,.7 175 18.1
言言者 2 25 19 23.5 30 37.0 26
321
4 49 3.熱心に学生の技術指導を行っている. 言教 10 tO 80 8.3 375 38.7 400 413 103106
悪言者 1
13
9113
30375
37 463 3 384.看護業務で精一杯であると感じているように見える. 一 口一モ 24 2.5 190 19.6 356 36.8 280 29.0 117 121
言置 一
@口 2 25 9
1t3
36 45.0 23 288 10125
5,医療や看護の知識が不足しているようにみえる. 言 78 8.0 385 39.7 336 34.6 147 15.1 24 2.5
言言 1 1.2 29
35B
42 51.9 8 9.9 112
6.指導を通し看護の専門性を高めたいと考えているように見える. 看言教口 18
t9
187 19.4 385 39.9 314 32.5 61 6.3受講者 1 1.2 17 21.0 37 45.7 24 29.6 2 25 7.実習指導内容や方法を教員や指導者間で話し合うことが多い. _ 」ヨ 膣コ
@ロ 9 0.9 86 8.9 344 35.6 427 44.2 101
104
至言者 3 3.7 21 25.9 35 43.2 18 22.2 4 49 8.学生の受持患者の安全安楽に配慮しているように見える. 一.ワ ロ@ロ 2 0.2 52 5.4 211
2t8
485 50.1 219226
言言者 0 0.0 1t2
15 18.5 49 605 16198
9.看護業務におわれ実習指導が十分にできていない. 器 53 5.5 227235
395 40.8 2胴 21.8 82 85魯言 3 3.7 13 16.0 29 35.8 25 309 11
136
10.指導内容や指導方法に迷っているように見える. 一一セ 25 2.6 223 23.1 476 49.3 212 21.9 30 31 凹目者 1 1.2 11 13.8 31 38.8 33 413 4 50
11.学生指導を通して成長したいと考えているように見える. 言 19 2.0 149 15.4 390 40.2 339 350 72 74 再言者 3 3.8 12 15.0 33 41.2 26 32.5 6 75
12.実習目標をよく理解して指導している. 一一
セ教一
15 1.5 155 16.0 400 4t2 357 368 42 43 再言者 4 4.9 19 23.5 37 45.7 19 235 2 2513.後輩を育てることは当然の役割だと考えているように見える. 言 27 2.8 164
169
372 38.4 329 340 77 79 焼野者 1 1.2 17 210 35 43.2 22271
6 7414.学生に関心を持ち近づこうと努力している. 言 19 2.0 120 12.3 336 34.6 423 436 72 74
善舌 1 1.3 19 23.8 33 41.3 21 26.3 6 7.5
15.看護観を学生と語り合いたいと考えているように見える. …言 ・ 54 5.6 306 31.5 410 42.2 175 重13.0 25 2.6 再言者 5 6.2 31 38.3 35 43.2 7 8.6 3 3.7
16.実習の指導体制を強化するように努力している。 言 24 2.5 186 19.2 417 43.1 308 3望.8 33 3.4
受講者 2 2.5 19 23.5 37 45.7 19 23.5 4 4.9
17.実習指導者間の指導意識が統一されている. 芽言 島 48 5.0 245 253 445 45.9 206 2{.3 25 2.5
回者 6 7.6 24 304 34 43.0 1書 1:∋.9 4 5.1
18.学生がリラックスして実習できるように配慮している. 喜口 34 3.5 187 19.3 424 43.8 290 29.9 34 3.5
淫雨 2 2.5 15
185
35 43.2 21 25.9 8 99 19.学生の状況を踏まえた指導の工夫をしている. 言 27 2.8 189 19.5 462 47.7 275 2a4 15 1.5厘」妻 4 4.9 21 25.9 40 49.4 14 17.3 2 2.5
20.学生と愚者との関係づくりを促進するように支援している. 孟 18
t9
96 9.9 406 41.9 389 40.1 60 6.2爬者 0 0.0 11 13.6 28 34.6 36 44.4 6 74
1:非常に当てはまる 2:かなり当てはまる 3:まあまあ当てはまる 4:あまり当てはまらない 5:当てはまらない
原 田 広 枝
4.受講生と看護教員の認知した実習指導者文化と 認知のズレ
実習指導者文化に関する質問項目の尺度は5件法 にて行った。この結果を表4に示す。
このうち「非常に当てはまる」と「かなり当てはまる」
と評価した受講生と看護i教員の割合を比較した。
1)教師と受講生の実習指導者認知で,受講生が教 員より2倍以上評価が高く,教員の評価とズレのあ る項目は以下のとおりである。
①実習指導者と教員(指導者)との友好関係が 図られている,②実習指導者と教員は相談する ことが多い,③指導内容や方法を教員や指導者 間で話し合っている。
2)ポジティブな実習指導者文化を示す質問16項目 に関して20%以上の者が肯定的認識を示したのは 受講生で13項目,看護教員は10項目であった。
3)ネガティブな実習指導者文化を示す質問4項目(調 査項目4,5,9,10)に関して20%以上の者が肯定的認 識を示したのは受講生で1項目(調査項目5),教員 は4項目全てであった。
5.連携や協働に関する意見・要望
学校と実践の場の連携や協働に関して自由記述で 意見や要望を求めたところ88人中47人(53.4%)で回 答がみられ,任意書き込み記入方式としては高い記 述が得られた。記述内容を意味内容にそって分類し,
要望の多い順に示す。
①看護教員との指導方法に関する対話や学生の個 人情報の提供23件,②看護教員による実践の場で の学生指導13件,③実習指導の分担と責任の明確化
5件,④実習指導組織のシステム化4件,⑤実習指 導計画の明確化・提示4件,⑥実習指導者へのアド バイス3件,⑦学生と病棟との仲介2件。
受講生の連携・協働に関する要望は,看護教員と 実習指導者とのコミュニケーション機会の増加やコ
ミュニケーション内容・方法に関するものが大半で あった。受講生は過去の実習指導の経験から学校と 実践の場の課題を実感し,その解決には両者のコミ ュニケーションが重要だと認識していた。記述内容 には「話しかけやすい教員であってほしい,プライ
ドが高いと話しづらい」や「声をかけるひまがないの で学校の方から働きかけてほしい」等がみられ,看 護i教員の姿勢や積極的な関与を求めていた。
V.考察
1.臨地実習と「学校と実践の場」の互恵性
受講生の示した実習指導者文化は「積極的関心」
「指導意欲」「協働」「ストレス因子」「専門性」の5因子 であった。これらの因子は看護教員が示した「指導 意欲」「責任感」「ストレス傾向」の3因子より複雑でポ ジティブな実習指導者の文化を示していた。受講生 は看護教員よりも実習指導者のおかれた状況や実践 の場の内実に関して理解している。それは実習指導 者の心理を示す「積極的関心」や「協働」「ストレス傾 向」因子が抽出できたことからも見いだすことがで きる。複雑でポジティブな因子の抽出は後輩育成と いう役割に関する実習指導者や受講生の価値づけの 高さと捉えることができる。P.F.ドラッカーは医療 や学校など非営利機関の製品は「変革された人間」で ある。また,自己開発の手段は教えることが最も有 効な手段であると述べている16>。「変革された人間」
とは,臨地実習を行うことで成長成熟する学生であ り教員や実習指導者である。後輩を育成するために 教えることは,実習指導者にとっても自己開発とな
り自己成長につながる。この,実習指導者の自己開 発が連携による実践の場の利益である。臨地実習指 導を通した学生や教員及び実習指導者の成長は学校 と実践の場の利益であり,連携による互恵性を示す と考える。
2,看護教員と実習指導者の役割分担と対等意識 質問紙調査における受講生の自由記述では,〈看 護教員による実践の場での学生指導〉やく実習指導 の分担と責任の明確化〉,〈実習指導計画の明確化
・提示〉,〈実習指導者へのアドバイス〉等それぞ れの長所の発揮を求める要望が出された。このうち,
看護教員に対する具体的な要望には「実習初日には 学生の緊張緩和を図ってほしい」や「学生の思いを伝
えてほしい,病院側の意見も伝えてもらいたい」等 がみられた。これらは看護教員の長所である『教師
として学生の支えになること』や『学生の情報が豊 富なこと』などを求めており,看護教員と実習指導 者は補足的関係にあることを表している。
連携を構築するには,関わる組織間の対等性が基 盤として求められる。学校と実践の場の主な構成員 は看護教員と実習指導者である。看護教員と実習指 導者は「対等」な関係で協働のパートナーと認識し,
互いに尊重して臨地実習指導にあたることが必要で ある。しかし,看護教員は実習指導者の指導態度を 受講生より低く捉える傾向を示した。看護教員にと って学生の学習指導は本来の役割であり,指導技術 に関する知識も実習指導者よりは深い。一方,実習 指導者は臨床教育の専門家というよりは看護実践の 専門家である。いうまでもなく臨地実習指導では学 生に対して実践家としての役割モデルが求められて いる。看護の現実や価値を学生に示す実習指導者の
役割も,学生のその体験を授業と関連づけ学生の「わ かる」を引き出す学校教員の役割も,どちらも学生 の成長にとっては欠かせないものである。看護教員 と実習指導者は,対等な関係で協働して学生の実習 指導を行う必要がある。実践の場には看護の実践者 が価値づける多くの価値がある。その中の一つが後 輩育成であり,指導者としての自己の成長である17)。
実習指導者は実践の場の中で,この後輩育成という 価値を重視し実習指導にあたっている。受講生は,
この後輩育成を重視する実習指導者の指導態度をウ チにおけるまなざしで評価している。看護教員はソ
トから実習指導者の指導態度を捉えるのではなくウ チのまなざしで捉え,実習指導者の指導態度を高く 評価すべきである。
3.看護教員と実習指導者のコミュニケーション 看護教員は臨地実習における指導実態を十分に把 握できているか懸念される。というのは,看護教員 が示す実習指導者文化は受講生に比し表面的な傾向 にとどまっている。また,質問紙調査における受講 生の自由記述では「現場におまかせ状態ではなくど ういう指導をしてほしいかいってほしい」や「学生の レディネスについて情報を提供してほしい」など〈看 護教員との指導方法に関する対話や学生の個人情報 の提供〉の要望が最も高い。さらに,「看護教員へ の遠慮」や指導に関する「自信のなさ」「指導への不 安,困惑」の一方「看護教員の指導に関する熱意不足 等の批判・疑念」がみられる。
学校教員と実習の指導者の関係は複雑な権力関係 にある。例えば,看護学校は看護師の供給源として 実践の場に優位な存在を示す一方,実習指導におい ては依頼と受諾の関係であることが多い。臨地実習 において看護i教員は教育的な指導に優位に立つ一 方,最先端の治療や処置の指導は実習指導者に依存 する傾向になる。このような権力関係の中で看護教 員と実習指導者には対立や葛藤が生じ,接近を回避 しようとする者も見られる。この対立や回避は,結 局,臨地実習における学生指導に影響を及ぼす。学 生は学校と実践の場におけるコミュニケーション不 足の中で適切な指導を受けられず,不安と知識不足 のまま実習を強いられることになる。長期間適切な
指導を受けられなかった学生は,看護師という職業 や機能に否定的感情を知覚したりアイデンティティ
を獲得できない危惧を持つ。このように学習した学 生は,卒業後実践の場において協働文化の形成や後 輩育成にネガティブな反応を示す恐れがある。
看護教員はもっと実践の場に赴き,実習指導の実 態を把握し実習指導者との関わりを増強する必要が ある。教員と実習指導者との対立や葛藤は語り合い や討論を抜きにして解消しえないし,克服できない。
この場合,葛藤の中に留まり教員や指導者間で話し 合うことが重要である。ここでは「察しあう」ではな
く「理解しあう」コミュニケーションがひらかれる必 要がある。「理解し合う」まで語り合うことによっ て「察しあい」が生じてくると思われる。この語り 合いを通じて葛藤が軽減した場合には,両者により 緊密な関係が生まれ,臨地実習指導に関する連携が 進展する機会となる。
VI.結語
本稿では,看護学校と実践の場の連携に関して両 組織の対等性や互恵性,コミュニケーションの重要 性について実践の場の視点から調査結果を基に考察 した。連携を強化するには連携による利益,特に実 践の場の利益を目に見えるものにすることや実習指 導者の長所を生かして実習指導に参加を促していく
ことが重要である。看護教員と実習指導者は連携の ためのコミュニケーションを営む中で,臨地実習に おける教育の奥深さや問題の持つ意味の豊かさ,患 者や学生など人の成長や成熟に関わる仕事の難しさ と豊かさを実感する。また,「学校と実践の場」が 連携して実習指導を行うことで学生や患者が変容す
るという経験を持つことは,実習指導に関わる人々 に指導やコミュニケーションの価値を実感させる機 会となる。では,どのような価値の認識や指導成果 の経験が「学校と実践の場」における連携の改善に 結びつくのであろうか。看護教員や実習指導者の臨 地実習に関する価値認識と指導行動との関連の解明 が今後の課題である。
1)中留武昭・大野裕巳「学校と大学のパートナーシップ形成論」日本教育経営学会誌『大学・高等教育 の経営戦略』玉川大学出版会部,2000,pp.49−77。
2)中井武昭「学校における協働文化の形成とその戦略」『教育経営学研究紀要』九州大学大学院人間環 境学研究院(教育学部門)教育経営学研究室,第5号,2001,pp.1−13。
3)原田広枝「看護専門学校における実習調整者制度の成果に関する研究一学校と実践の場の連携を促進
原 田 広 枝
する実習調整者の役割の分析から」日本教育制度学会紀要編集委員会編『教育制度学研究』,第9号,
2002,pp.130−144。
4)Kenneth A. Sirotnik, John I.Goodlad中留武昭監訳「学校と大学のパートナーシップー理論と実践」
玉川大学出版部,1994,p.30。
5)上記4,P.57。
6)教員と臨地実習指導者の役割と分担については湯浅美千代「教員と臨地実習指導者と連携一病院実習 に焦点を当てて」Quality Nursing,7巻,3号,2001, PP.31−35の他に小松美穂子「臨床とともに作り上げ る臨床実習教育」『インターナショナルナーシングレビュウー』23巻,5号や安酸史子「経験型実習教 育の提案」『看護教育』38巻,11号,1997を参考にした。
7)臨地実習の指導方法についてはコルブ(Kolb)やシュタインネーカー(Steinnaker)の経験学習理論を 応用した指導方法が看護教育でも活用されている。小山真理子監訳「プリセプター・臨床指導者のた めの臨床看護教育の方法と評価」南江堂,2000。ここではコスタ(Costa)等の認知的指導方法を基に開 発した臨地実習の指導方法を記した。原田広枝「看護臨地実習の指導モデルに関する実証的研究」
『九州教育学会紀要』2000,pp.85−92。
8)上記6,湯浅前掲書,p.33。
9)中西睦子「臨床教育論」ゆみる出版,1987,p.298。
10)箕輪によると,いわゆるおまかせ医療は次第に過去のものになりっっあり,医療上のパターナリズム の中で行われる診療は3から4割で,一方,十分な情報交換がなされているのがやはり3〜4割と推定し ている。箕輪良行・佐藤純一「医療現場のコミュニケーション」医学書院,1999,pp.9−11。
11)看護学校の文化に関しては拙稿原田広枝・永江誠司「看護専門学校教員の教師ストレスに関する実 態調査」『福岡教育大学教育実践研究』,1999,7,pp.59−64。や同じく拙稿「看護専門学校の組織文化 と教師の力量形成との関連一事例検討会のコミュニケーション分析から一」『九州大学教育経営学研 究紀要』第5号,2001,pp.77−90。
12)宗像恒次「医療の場のコミュニケーションと文化」『看護Mook』17号,1986, pp.32−37。
13)土居健郎「甘えの構造」弘文社,1971。
14)小山真理子他「看護教師の資質の発展に関する研究,その1.教師教育」『日本看護学教育学会会誌』,
10巻,2号,2000,pp.63−199に詳しい。
15)上記3,P.136。
16)P.F. Drucker,上田惇生・田代正美訳,非営利組織の経営,ダイヤモンド社,2000, PP.175−179。
17)上記3,P.138。