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傾聴技法の学習が患者接遇に与える影響について ─視覚障害教育における反転授業の活用例として─

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Academic year: 2021

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Ⅰ.緒 言  視覚障害のある学習者に対する反転授 業の効果を調べた先行研究では、反転授 業は通常授業と比べて総合的に好印象を 与えること、反転授業では一人一人の障 害特性に応じたペースで学習できるこ と、より主体的・対話的に学習できるこ と等が示唆されているが、実践例の報告 島根県立盲学校 

渡部 良平 Watanabe Ryohei

水口 貴成 Mizuguchi Takanari

長谷部一成 Hasebe Kazunari

は少ない1∼3)  一方で、あん摩マッサージ指圧師・は り師・きゅう師(以下「あはき師」と略 す)学校養成施設では、平成29年の「あ ん摩マツサージ指圧師、はり師及びきゆ う師に係る学校養成施設認定規則」の改 正に伴い、平成30年度入学生から基礎 分野において新たに「コミュニケーショ

原 著

傾聴技法の学習が患者接遇に与える影響について

─視覚障害教育における反転授業の活用例として─

キーワード:傾聴、患者接遇、視覚障害教育、反転授業 要 旨 【目的】反転授業を活用した傾聴技法の学習が、臨床実習における生徒の患者接遇に 与える影響について検討した。併せて、反転授業が生徒に与える印象と生徒の主体性・ 対話性に与える影響について、先行研究の再現性を確認するための追試を行った。 【方法】弱視生徒2名を対象とした。傾聴技法の学習が患者接遇に与える影響につい ては①患者アンケートを、反転授業の有用性については②授業評価アンケートと③授 業分析を用いて検討を行った。 【結果】①患者アンケート:全6項目において傾聴技法の学習前より学習後の平均値 の方がやや高かった。②授業評価アンケート:反転授業の方が通常授業より、やや肯 定的な回答が得られた。③授業分析:授業時間に占めるやりとり時間の割合が、反転 授業でより長かった。 【考察】①患者アンケートから:生徒の患者接遇の改善につながる可能性が示唆され たが、生徒の臨床実習の経験歴を考慮に入れることやアンケート項目の再検討などが 今後の課題である。②授業評価アンケート・③授業分析から:先行研究とほぼ同様の 結果が得られた。反転授業が生徒に好印象を与えること、また生徒の主体的・対話的 な学びを促す授業形態となり得ることが確認された。

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ン」が必修化された。その理由は「あは き師は開業することが可能な資格であ り、患者等への対応に必要なコミュニ ケーション能力を養うことは最低限必要 である」ためであり4)、あはき師には患 者接遇を含めた臨床能力の向上がさらに 求められている5)  島根県立盲学校では、主に臨床実習や 臨床医学総論等の授業の中で患者接遇に ついて学習するが、特に臨床心理学の授 業では傾聴的態度とその重要性について 学ぶ。傾聴的態度は鍼灸臨床における客 観 的 臨 床 能 力 の 評 価(Objective Structured Clinical Examination: OSCE)の医療面接の中でも重要な要素 の一つであり6)、また施術者として患者 の心理的な苦しみに寄り添うための基本 的な姿勢である。医学教育における傾聴 学習の取り組みについての研究は散見さ れるが7)、8)、これまでのところ傾聴学 習が視覚障害のある学習者の患者接遇に 与える影響を調べた研究はない。  そこで今回我々は、反転授業を活用し た臨床心理学の授業を実践し、傾聴技法 の学習が臨床実習における生徒の患者接 遇に与える影響について調べた。併せ て、反転授業が生徒に与える印象と生徒 の主体性・対話性に与える影響について、 先行研究2)の再現性を確認するための 追試を行った。 Ⅱ.方 法 1.参加者  専攻科理療科3年に在籍している弱視 生 徒 2 名( 平 均 年 齢50.50歳,SD= 0.71)を対象とした。参加者は2名と も2年次より臨床実習を行っている。参 加にあたり、研究内容について説明を行 い、書面で同意を得た。 2.評価方法  傾聴技法の学習が患者接遇に与える影 響については、学習の前後に(1)患者 アンケートを実施し、評価に用いた。ま た反転授業の有用性については、傾聴技 法を学習内容とする反転授業群と精神分 析療法等を学習内容とする通常授業群に おいて、(2)授業評価アンケートと(3) 授業分析を実施し、両授業形態を比較す るための指標とした。  (1)患者アンケート:反転授業で実 施した一連の傾聴技法の学習(平成29 年 9 月11日 ∼ 10月 6 日 ) の 前 後 に、 延べ人数で20名ずつの臨床実習患者を 対象にアンケートを行い、学習前後の生 徒の患者接遇について比較した。アン ケート項目は國分9)の作成した「カウ ンセリング評価法」を用いた。具体的に は、1.無防衛(「かまえや、かざりが なくリラックスしていた」∼「かたくる しく、まじめで緊張していた」)、2.共 感性(「あたたかみと共感性があった」 ∼「理づめで、ことばのみを知的に追っ ていた」)、3.受容性(「相手のあるが ままを受け入れ、質問にもいや味がな かった」∼「尋問的、押しつけ的で、自 分に都合の良いように物事を運ぶことが あった」)、4.間(「ゆったりと間をお いて応答した」∼「せっかちでせわしな かった」)、5.理解力(「相手の要点を 的確に把握した」∼「応答がとんちんか んで、話のかみあわないところがあっ た」)、6.熱意(「相手に興味・関心を もち、かつこれを相手にも態度で示した」

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∼「他のことを気にしながら応対してい た」)の6項目から成るアンケートであ り、各項目について10段階で尋ねた。  (2)授業評価アンケート:反転授業 と通常授業の後に、生徒に授業の印象を 5件法で尋ねた。アンケートの対象授業 は傾聴学習を行った4回の反転授業と、 その前後で4回ずつ、計8回行った通常 授業とした。アンケート項目は先行研 究1)で反転授業と通常授業とで印象の 差が出やすい傾向のあった9項目を取り 上げた(表2)。  (3)授業分析:反転授業と通常授業 を録音し、教師─生徒間、または生徒─ 生徒間でことばや行動などを通して相互 に情報を交換した時間を「やりとり時 間」と定義して、全授業時間に占めるや りとり時間の割合を生徒の「主体性・対 話性」の指標として測定した2) 3.傾聴技法の学習内容と反転授業の手 続きについて  生徒は4回の反転授業の中で、第1技 法「受容」、第2技法「繰り返し」、第3技 法「明確化」、第4技法「支持」、第5技法 「質問」の5つの傾聴技法を学習した10)  反転授業では、生徒は教師が予め録音 した講義形式の音声データを教科書とと もに用いて授業前に自己学習を行った。 音声データの媒体は2名ともデイジー形 式であった。媒体は生徒が希望したもの を提供した。また教室授業では、自己学 習の内容を確認した後、カウンセラー役 とクライエント役に分かれ、傾聴技法の ロールプレイを行った。 4.比較方法  アンケートの対象者が少数であるこ と、また反転授業と通常授業の比較では 実施回数に差があることから、推計学的 な統計は行わず、生データと記述統計量 を用いて比較した。 Ⅲ.結 果 1.患者アンケート(表1)  傾聴技法の学習前と学習後の患者アン ケートを比較した結果、全ての項目にお いて学習後の平均値の方がやや高かっ た。また全ての項目で天井効果が認めら れた。 2.授業評価アンケート(表2)  各授業形態で生徒別に最頻値を比較し た結果、反転授業の値が通常授業の値を 表1 患者アンケートの結果(n=20) 学習前 学習後 アンケート項目 平均値 ⓈⒹ 平均値 ⓈⒹ ⓣ値 1.無防衛 9.05 1.36 9.50 1.42 -1.01 2.共感性 9.10 1.25 9.50 1.19 -0.94 3.受容性 9.45 1.05 9.75 0.64 -1.10 4.間 9.20 1.24 9.70 0.43 -1.60 5.理解力 9.10 1.29 9.55 0.68 -1.25 6.熱意 9.05 1.61 9.60 1.14 -1.21

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上回ったのは、「1.生徒が自ら考え、 分析、理解するように促した」(生徒A・ 生徒B)、「2.授業の進む速さは適切で あった」(生徒B)、「4.学生の理解度 を十分に配慮していた」(生徒A)、「6. この授業はよく理解できた」(生徒B) の4項目であった。それ以外の項目では 差を認めなかった。 3.授業分析(図)  授業時間に占めるやりとり時間の割合 を反転授業と通常授業とで比較した結 果、 平 均 や り と り 時 間 は 反 転 授 業 で 47.16 %(SD=6.92)、 通 常 授 業 で 18.62%(SD=5.04)であり、反転授 業の方が長かった。 Ⅳ.考 察 1.傾聴技法の学習が患者接遇に与える 影響について  傾聴学習の前後で患者アンケートを比 較した結果、全ての項目で学習後の平均 値の方が高く、傾聴技法の学習が生徒の 患者接遇の改善につながる可能性が示唆 された。一方で、全てのアンケート項目 で天井効果が認められたことから、今回 採用した項目は本研究における学習効果 の弁別力が低いことがわかった。この理 由として、①生徒は臨床実習2年目であ り、本研究の学習前アンケートの時点 で、ある程度の患者接遇能力をもってい たこと、②アンケートの引用元では純粋 にカウンセリングに関するアンケートで あったのに対して、本研究では施術を含 めた患者接遇に関するアンケートとして 用いたこと、③研究手続きの中でアン ケートの予備調査を行わなかったこと等 が考えられる。 表2 授業評価アンケートの最頻値 生徒A 生徒B アンケートの記述 反転授業 通常授業 反転授業 通常授業 1.生徒が自ら考え、分析、理解するように促した 4 3 5 4 2.授業の進む速さは適切であった 3 3 5 4 3.授業のポイントが強調されていた 4 4 5 5 4.学生の理解度を十分に配慮していた 4 3 4 4 5.授業内容に興味が持てた 3 3 4 4 6.この授業はよく理解できた 3 3 5 4 7.この授業を聞いて、学習欲や研究意欲を刺激された 3 3 4 4 8.授業内容に対する時間数は十分で補習は必要ない 3 3 4 4 9.総合的に判断して、この授業は価値があった 3 3 4 4 「1.そう思わない」∼「5.そう思う」 0 20 40 60 80 100 反転授業 通常授業 図 平均やりとり時間の割合(%)

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2.視覚障害教育における反転授業の活 用について  授業評価アンケートの結果、「1.生 徒が自ら考え、分析、理解するように促 した」、「2.授業の進む速さは適切で あった」、「4.学生の理解度を十分に配 慮していた」、「6.この授業はよく理解 できた」の4項目で、反転授業の最頻値 が通常授業の値を上回った。項目2と項 目4については先行研究の結果と同様で あった2)。項目1と項目6については、 反転授業でロールプレイを中心に教室授 業を展開したことが、生徒が自ら考える 機会の提供と、学習内容の理解促進につ ながったと考えられる。  また授業時間に占めるやりとり時間の 割合を生徒の主体性・対話性の指標とし て授業分析を行った結果、反転授業で平 均やりとり時間が長く、生徒は反転授業 においてより主体的・対話的に学習でき たと考えられる。これも先行研究の結果 と同様であった2)。これは反転授業にお いて生徒が予め音声教材等を使って自己 学習をしているため、より能動的に授業 に参加できたこと、また教師側から見る と、教室授業時に予習内容の確認やロー ルプレイ等、やりとりを必要とする学習 活動を積極的に取り入れることができた ことが理由だと考えられる。 Ⅴ.結語と今後の課題  傾聴技法の学習が視覚障害のある生徒 の患者接遇の改善につながる可能性が示 唆されたが、全てのアンケート項目で天 井効果が認められており、今後評価法の 再検討を行う必要がある。トーマス・ キャロルは中途視覚障害者が経験する喪 失の一つに「意思伝達能力の喪失」を挙 げている11)。本研究で用いた傾聴技法は 言語的コミュニケーションを中心とした ものではあったが、今後は視覚障害者の コミュニケーション特性に応じた傾聴技 法の学習方法を考えていく必要がある。  また反転授業が視覚障害のある生徒の 学習に与える影響については、先行研究 とほぼ同様の結果を得た。反転授業が生 徒に好印象を与えること、また生徒の主 体的・対話的な学びを促す授業形態の一 つとなり得ることが確認された。本研究 における反転授業の試みは視覚障害教育 におけるより良い授業形態について模索 したものであるが、理療教育では生徒数 が少ないため、量的に因果関係を明らか にすることは難しく、単純に全データを 図示する、または記述統計量で現象を確 認する等の内容に留まっている。今後の 理療教育の課題として、記憶偏重から問 題解決型の教育スタイルへの変革と、学 習意欲を向上させるための教育的配慮が 指摘される中で12)、授業形態に関する 研究をさらに発展させていくためには、 授業中の生徒の発話記録を質的に分析す る等の幅広い研究方法の工夫が求められ る。 Ⅵ.文 献 1.渡部良平・大町雅志・林祐弥・阿部梨紗・和田恒彦・宮本俊和、視覚障害教育に おける反転授業の可能性と課題、筑波大学特別支援教育研究、10、23-30、2016 2.渡部良平・戸根常夫・和田恒彦、弱視教育における反転授業の実践─授業評価ア

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ンケートと授業分析から─、弱視教育、日本弱視教育研究会、55(4)、1-4、 2018 3.渡邉雅史・呉藤圭恭・野口理紗・石川豊・嶋薫子・川村実・和田恒彦、視覚障害 学生の理療学習における反転授業の有効性に関する研究、理療教育研究、日本理療 科教員連盟、39(1)、41-47、2017 4.厚生労働省、あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師学校養成施設カリキュ ラム等改善検討会報告書、2016 5.石橋愛子、理療科生徒のコミュニケーション能力向上を目指した指導内容の検討 ─患者接遇を中心に─、視覚障害リハビリテーション、86、25-43、2017 6.丹澤章八、鍼灸臨床における医療面接、医道の日本社、2002 7.稲森里江子、医学教育におけるコミュニケーション・スキル学習に関する研究─ 対人援助技術の活用による実証的アプローチ─、人間福祉学研究、3(1)、59-74、2010 8.佐々木宏起・津田司・伴信太郎・葛西龍樹・越智則晶・松下明・森崇文・小笠原 裕幸、医療面接の開始時における傾聴技能の評価、医学教育、27(3)、167-170、 1996 9.國分康孝、カウンセリング教授法、誠信書房、1983 10.諸富祥彦、人生にいかすカウンセリング─自分を見つめる 人とつながる、有 斐閣、2011 11.トーマス・J・キャロル、失明、松本征二監修、樋口正純訳、日本盲人福祉委 員会、1977 12.河井正隆・渡辺雅彦編、理療教育学序説、吉川恵士監修、ジアース教育新社、 2015

参照

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